2007年06月15日 第166回 通常国会 財務金融・法務委員会連合審査 【409】 - 質問
電子記録債権「債務者の側の権利が盛り込まれていない」と批判
2007年6月15日、午前中、財務金融委員会と法務委員会の連合審査が行われ、電子記録債権法案について佐々木憲昭議員も質問しました。
提案された法案は、金銭債権の流動性を高めるために、「電子記録債権」という新しい債権を創設するものです。
保管・流通コストがかからず、譲渡しやすい債権という面では中小零細企業の資金調達にも役立つ面があります。しかし、この法案では、手形・売掛債権のみならず、通常の融資などすべての金銭債権が対象となるため、金融機関の融資などの債権まで、電子記録債権として譲渡が促進されるおそれがあります。
例えば、Aという銀行がBという中小企業に融資をしていたとすると、A銀行が電子債権化してCという会社に売ったとすると、B中小企業はC会社に返済をしていくことになります。
佐々木議員は、B中小企業がA銀行と取引したいと言ったとしてもできなくなるのではないかと質問。寺田・法務省民事局長は「そういうことがありうると予期される」と答弁しました。
これまで、金融庁は、リレーションシップバンキングを提唱してきました。金融機関が、借り手企業の経営者の資質や事業の将来の展望について判断し、長期にわたり融資を実行するビジネスモデルであると言ってきました。
しかし、譲渡が促進される電子債権化は、このリレーションシップバンキングの精神が希薄になり、否定されるのではないかと、佐々木議員は山本金融担当大臣に質問しました。
山本大臣は「なるほど、そういう見方もあるのかもしれない」と答えました。そして、「現在、監督指針によって、現債務者の保護に十分配慮すること、説明責任を果たすことを書いている。電子債権の場合でも引き続き重要であると考える」「御心配がないように監督していきたい」と答えました。
融資を受けている中小零細企業・個人事業者は、弱い立場であり、不利な立場に立たされます。佐々木議員は、この法案は、債務者の側の権利が盛り込まれていないと批判しました。
この日、財務金融委員長と与党は、連合審査の後開かれた財務金融委員会で、電子記録債権法案の強行採決を行いました。その後、開かれた本会議では与党・民主党の多数で可決成立しました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
法案について伺います。
今回提案されている電子記録債権というのは、これまでの指名債権や手形債権とは異なる、新たな債権類型だと言われております。その対象となる範囲をまずお聞きしたいんですが、どのような対象を電子債権に含めることができるのか、これをお答えいただきたい。法務大臣。
○長勢法務大臣 電子記録債権は、その発生の原因となった債権とは別個独立の金銭債権ですので、原因とされた債権が何であるかを問わず、当事者の請求に基づき発生記録をすることによって、発生することができるということになります。
○佐々木(憲)委員 すべての電子債権ということですが、そうなりますと、例えば、金銭債権がすべて含まれるということですが、銀行の融資あるいはサラ金、商工ローンの融資、これも対象になるということですね。
○寺田政府参考人(法務省民事局長) これは、厳密に申しますと、既存の債権とは切り離された形で新たに記録をすることによって債権が発生する、こういうことでございますので、およそ原因がなくても、極端に申し上げれば、債権としては発生するわけでございます。
ただ、委員の御指摘は、多分、原因となるところがどういうところにあるにせよということでございましょうから、そういう意味では、おっしゃいましたローン債権等が原因となって電子債権が発生するということはあり得るわけでございます。
○佐々木(憲)委員 この電子記録債権の目的ですけれども、ある銀行の主任調査役の方がある雑誌に書いています。こう言っているんですね。流動性の極めて高い電子債権という新たな法制度が創設され、その対象にローン債権も含まれることによって、ローン債権譲渡に対する心理的抵抗感が払拭され、ローンの売買が普通のこととして社会的に容認され、促進される、こう言っているわけです。
大臣も大体こんな考えですね。
○寺田政府参考人 先ほど申しましたように、法律構成上は原因債権とは切り離された形になっているわけでございますけれども、いずれにいたしましても、どういう原因で債権をつくるかということは、これは当事者にゆだねられているわけでございます。
他方、では、他の面でのいろいろな規制がおよそあり得ないかというと、それはいろいろな行政上の規制でなさっていただくわけで、債権の構成としては特に制約は設けない。ただし、たびたび御議論になっていますように、この電子債権記録機関というのは多様なものがございますので、その機関によってはどういうものを受け付ける、どういうものを受け付けないということはあり得るわけでございます。
○佐々木(憲)委員 対象として、金銭債権であれば何でも含まれる、原因は問わないということであります。そして、債権の流動化が促進されるということになりますと、さまざまな問題が発生するのではないか。私はこれは慎重に扱わなければならないというふうに思っております。
例えば、人的抗弁の切断というふうになっておりますが、一体これはどういう意味でしょうか。これまでの債務者の権利がどう制約されるのか、お答えいただきたい。
○寺田政府参考人 これは手形の法律関係で既にある概念でございまして、ちょっとA、Bという形で御説明させていただきますと、Aが債権をBに譲渡するという場合に、そのBというのはAの立場をそっくり受け継ぐのかそうでないのかということが問題になるわけでございます。仮に、そっくり受け継ぐということになりますと、Aは債権関係上のいろいろな制約というものを受けているのに、Bはそれをそっくり受けるのかどうか。受けるということになりますと、債権を受け取ったのに、意外に、例えば契約が解除になっていたとか、同時に、抗弁権があったというようなことで、債権を十分に満足できないことがある。そこで、人的抗弁を切断して、前の人がいろいろ言っても、新しい債権者はそういう制約を受けないことができる、こういう流通上の便宜を図っている概念でございます。
○佐々木(憲)委員 これは、債務者の側から見た場合と債権者側から見た場合と全然違うわけです。例えばAという銀行がありました。その銀行が、Bという中小企業に例えば1000万円融資をしていた。銀行Aがその債権を電子債権化して、Cという会社に売った。債務者であるBは、その借金を、Aという銀行ではなく、Cという会社に払わなければならない。債務を払わなければならない。このBという中小企業の債務は、銀行から別な会社に移ってしまうわけですね。
電子債権に変わりますと、このようなことが容易に行われる。つまり、債権の流動化であります。以前の関係というのは、これは切断される。債務者は、ローン返済の相手がAからCに移る、銀行からCという別な会社に移りますので、相手が銀行ではなくなるわけですよ。
そうしますと、債務者は、いや、自分は銀行と取引しているんだ、銀行から借りたんだ、返す場合も銀行に返したい、こういうのは当然出ますよね。銀行と取引したいんだ、こういうことは可能になるんでしょうか。
○寺田政府参考人 先ほど来申し上げておりますが、この債権の発生には、最初に記録ということが必要になって、それで今言ったような法律関係が生じるわけでございます。
その記録をする際には、記録の請求がございまして、その記録の請求は債権者と債務者の双方でなさねばならないわけでございますから、債務者の方としては、この制度に乗っかった以上は、そういうことがあり得るということを予期される、そういうチャンスがあるわけでございますので、債務者にとって特にそういうことが御負担にはならないだろうというように考えているわけでございます。
ただし、一般の消費者の方がそういうことを御理解いただけるかどうか疑問でございますので、債務者が個人の場合にはこの人的抗弁の切断はないという制度の仕組みをとっているわけでございます。20条の第2項の第3号でございます。
○佐々木(憲)委員 消費者の場合はそういうことになっているのは聞いているんですね。しかし、中小企業の場合、会社の場合はそれを適用されないわけであります。
先ほどの答弁で、債務者は予期されると言いましたが、例えば、電子化された債権を銀行が別な会社に売りました、売ってよろしいですかということを中小企業に確認をとるんですか。
○寺田政府参考人 確認をとるかと申しますと、これは実際はどういうやり方をされるかさまざまでございましょうけれども、現在の債権譲渡でも、当然債務者にはそういう債権譲渡があり得るということは知らされるわけでございます。この制度の場合は、むしろ債権のこういう電子的な形での譲渡があり得るということを、記録をする際に債務者の方が知らなければ制度に乗っからないわけでございますので、そういう意味では、当然了解というのが何らかの形では必要になるということになるわけでございます。
○佐々木(憲)委員 では、その場合、電子債権化されては困ると借りた側が言う、それは認められますか。
○寺田政府参考人 債務者側が請求をされないということに最終的にはなるわけでございますので、当然そういう意味での拒否をできる立場におありになるわけでございます。
○佐々木(憲)委員 次にお聞きしたいのは、政府はリレーションシップバンキングというのを盛んに提唱しておられます。金融庁の解説資料によりますと、このリレバンというのは、長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデルである、こういうふうに説明しておるわけですね。
地域経済においては、銀行と中小企業の関係というのは長期にわたっております。債権の流動化が促進するということになれば、この関係というのは簡単に切られてしまうという危険性があるわけです。銀行は債権回収をそれでしやすくなるでしょうけれども、融資を受けている中小企業の側からしますと、これは別な会社から過酷な取り立てだけ受けるということになってしまう危険性があると思うんです。
先ほど、消費者保護の観点から、債務者が消費者であった場合は人的抗弁は切断されない、しかし中小業者の場合はそれは切断されるということになっているわけですから、基本的には電子債権化、結構ですよ。
しかし、よく考えてみたら、全く予期しない不利益を受ける、つまり、銀行と取引をしていたのが、別な会社に売られてしまって、取り立てだけが来る。本来、銀行というのは、中小企業の状況をよく判断し、その経営者の能力を評価し、その会社の将来性ということを判断して融資を続けていく、あるいは、今は経営は厳しいけれども、将来可能性があるということで、当面は債務の支払いの繰り延べをしながら経営を支援していく、これが本来のあり方であり、またリレバンの理念だと思うんです。
どうもこの電子債権化ということになりますと、それが希薄になり、否定される傾向になっていくのではないかというふうに思いますが、大臣、この点はどのように対応されるんでしょうか。
○山本金融担当大臣 おっしゃるとおり、リレーションシップバンキングの理念は、事業会社と各金融機関とが、その密接かつ長期にわたる関係の中で、融資についての債権債務関係については、理解ある発生、消滅の仕方をしていただくというのが基本理念でございます。その意味におきましては、一見、電子記録債権によっていわば流通の安全というような形での法整備がやられていることについては逆行するような姿になっているのではないかという先生の御指摘は、なるほどそういう見方もあるのかもしれないと思いました。
しかしながら、逆に言えば、この電子記録債権制度というのは、事業者の資金調達環境を整備するために創設するわけでございまして、電子記録債権を利用したからといいまして、契約の当事者が変わるわけでもございません。
例えば、仮に金融機関が不良化した電子記録債権を流動化する場合には、監督指針できちんと示されておりまして、債務者等を圧迫し、またはその私生活もしくは業務の平穏を害するような者に対して貸付債権を譲渡していないか等、原債務者の保護に十分配慮するということが一つ。これまでの取引関係や顧客の知識、経験及び財産の状況を踏まえ、顧客の理解と納得を得ることを目的とした説明を行うことというように監督指針で書いてございます。
このように、金融機関が業務を行っていく上で、借り手である中小企業の資質や事業の将来性に配慮するという精神は、新たに制度化が図られる電子記録債権を利用する場合におきましても、引き続き重要であるというように考えております。
現在でも、手形における決済システムも同様でございますし、場合によれば、リレーションシップバンキングの自由契約の中で、電子債権の発生関係について、電子記録債権にしないというような取り決めも自由でございますので、その意味におきまして、御心配はないように監督してまいる所存でございます。
○佐々木(憲)委員 電子記録債権化しますよと融資先の中小企業に銀行が言う、それを拒否するのは自由だとおっしゃいましたが、現実には、これは力関係が全然違いますので、融資する銀行が非常に強いわけです。したがって、電子債権化するのに反対なら今後融資は再検討しなきゃいかぬとか、あるいは、そんなことを言うなら高い金利を払えとか、そういう危険性があるので、債務者の側のそういう権利という問題を十分に考えなきゃならぬ、その点では、これはマイナスだと私は思っているんです。
さて、次に、少し話題をかえますけれども、障害者の問題をお聞きしたいと思うんです。
政府は、総理を本部長として障害者施策推進本部を設置しております。山本大臣も長勢大臣もそのメンバーでございます。2003年から2012年まで、障害者基本計画というのがつくられておりますが、それに沿って重点施策として5カ年計画が実施されております。今年度でそれが終了しますので、来年度、新たな5カ年計画というのが策定をされます。
そこで、金融庁として、障害者の方々の金融におけるバリアフリー、この点についてお聞きしたいんですが、まず、銀行の障害者対応について数字を確認したい。今、障害者対応ATMがあります。銀行の業態別で、障害者対応になっているATMの台数、全体に占める比率、これはどうなっているでしょうか。
○佐藤政府参考人(金融庁監督局長) 視覚障害者対応ATMの設置状況でございますが、本年5月に実施いたしました平成19年4月末時点の状況でございます。
都銀につきましては、ATMの台数が約2万2900台、うち視覚障害者対応ATMの設置台数は約9790台、ATM全体に対する視覚障害者対応ATMの設置比率は約43%となっております。
また、地銀につきましては、ATMの台数が約3万9500台、視覚障害者対応ATMの設置台数が約7920台、比率は約20%となっております。
また、第二地銀につきましては、ATMの台数が約1万3500台、視覚障害者対応ATMの台数が約1580台、比率は約12%となっております。
○佐々木(憲)委員 金融庁がこの調査を始めた当初は、2004年5月でございました。当時は、都銀、地銀、第二地銀しか調査がありませんので、都銀、地銀、第二地銀それぞれについて、障害者対応ATMの増加台数、それから設置比率、当時の比率と比較してどうか、これを聞きたいと思います。
○佐藤政府参考人 当初調査をいたしました2004年5月時点と比較いたしますと、都銀につきましては、設置台数で約6330台の増加、設置比率で約28%ポイントの増加、15%から43%に上昇しております。
地銀につきましては、設置台数で約4830台の増加、設置比率で約12%ポイントの増加、これは8%から20%への上昇でございます。
第二地銀につきましては、設置台数で約1140台の増加、設置比率で約8%ポイントの増加、これは4%から12%への上昇でございます。
○佐々木(憲)委員 もう時間がありませんので終わりますけれども、ATMの設置台数というのは、障害者対応というのはなかなか、当初は低かったんですけれども、私も国会で取り上げましたし、また金融庁も指導を強めて、全体として前進をしてきていると思います。
ただ、使いにくいという当事者のいろいろなお話もありますし、また銀行のバリアフリーということから考えますとさまざまな問題が残っておりますので、その点については引き続き議論をしていくつもりであります。
最後に、ちょっと一言だけ。法務省として、法務大臣、今後障害者に対してどのような姿勢で行政を進めていくか、基本的な考え方だけ簡単に答弁をお願いしたいと思います。
○伊藤委員長 質疑時間が来ておりますので、簡潔に御答弁をお願いします。
○長勢法務大臣 法務省の人権擁護機関において、昭和56年度から、「障害のある人の完全参加と平等を実現しよう」を人権週間の強調事項として掲げ、この人権週間を中心に年間を通じて各種の講演会、座談会あるいは啓発活動を実施しておりますし、また、仮に障害のある人からの人権相談があった場合には、人権侵犯事件としての調査を開始するなどの適切な措置を講じておりますので、今後ともその方向で進めてまいりたいと思っております。
○佐々木(憲)委員 以上で終わります。