2009年03月25日 第171回 通常国会 財務金融委員会 【503】 - 質問
父子家庭にも児童扶養手当を 財務大臣が前向き答弁
2009年3月25日、財務金融委員会が開かれ、午前中には一般質疑、午後には「IMF増資法案」についての質疑がおこなわれました。
佐々木憲昭議員は、一般質疑の中で、「児童扶養手当を父子家庭にも支給するよう法改正も含めた検討をすべきだ」と求めました。
児童扶養手当は、年収365万円未満の母子家庭に、所得に応じて最大月約4万2000円が支給されています。
しかし、父子家庭には支給されていません。
佐々木議員が2008年6月に政府に出した「質問主意書」にたいして、その理由を「母子家庭の方が就業状況等がより厳しい」からと答えています。
佐々木議員は、厚労省の「全国母子世帯等調査結果報告」(06年度)でも、年収300万円未満の父子家庭の世帯が37.2%にも達していることを紹介しました。
そのうえで「経済危機のもとで、母子家庭とともに父子家庭の暮らしも深刻になっている」と指摘し、厚労省の主張に根拠がないことを明らかにしました。
また3月13日、衆院内閣委員会で小渕優子少子化担当大臣が「児童扶養手当の父子家庭への一律適用除外について、見直す必要があるのではないか」と述べていることを紹介し、与謝野馨財務大臣の見解をただしました。
与謝野大臣は、父子家庭の取り扱いについて、「真正面から議論し、取り扱うべき問題になってきた」と述べ、「小渕大臣を激励したい」と答弁しました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
与謝野大臣は折に触れて、宮本太郎さんの「福祉政治」という本をこの委員会でも御紹介され、ぜひ読むようにということも言われまして、私も読ませていただいたんですが、日本において、生活保障を支えるものとして、福祉レジームと雇用レジームと二つの柱がある、そういう角度から分析をされております。
この中で、こういうふうに書かれているんです。
21世紀に入ってからの数年間、小泉首相のイニシアティブの下で日本は改革ブームに沸いていた。市場原理を打ち出す改革によって、長い間社会に絡み付いていた利権が払拭され、日本に活力が蘇ることを期待した人は多かった。ところが、小泉、安倍両政権による改革を経て、人々はしだいに格差の拡大や生活不安に気がつき始めた。もはや改革を叫ぶだけで人々の期待を集めることは難しくなった。だからといって、かつての利益誘導政治の復活も決して人々の望むところではない。
こうして日本の政治は、長期的なビジョンを欠いたまま、当面の支持拡大が見込まれることに次々に手を出す、その場しのぎの政治となりつつある。
こういうふうに書かれていまして、なかなか的確な指摘だなと思いますが、与謝野大臣、どのように受けとめておられますか。
○与謝野財務・金融担当大臣 宮本太郎先生の本は、我々が見落としていた点を見事に指摘されておられて、大変立派な著作だと私は思っております。
その中で、我々が気がつかなかった点だけ申し上げますと、やはり日本の社会の中には、家族が提供していた社会保障というか、そういうものがあった。それから、終身雇用という制度を通じて、やはり会社、社会が一定の社会保障制度というもの、安心感というものを提供していた。そういうものが次々に壊れてきた。
こういう御指摘をされて、私らは少なからぬ衝撃を受けたというのが、その本のまず第一の印象でございます。
○佐々木(憲)委員 まさにそういうことだと私も思うんですね。問題は、そういう場合に、政府として、政治として、一体何をすべきなのかということだと思います。
この本が指摘しているように、小泉改革というものは、そういう日本の生活保障を支えてきたレジームそれ自体を壊す方向に行ったのではないかと。小泉内閣以来を振り返りますと、例えば社会保障について、自然増を毎年2200億カットする、その枠組みをつくり、それを推進して、そしてかなりぎりぎりのところまで来て、今にっちもさっちもいかないというような事態になっております。
生活保護制度では、老齢加算ですとか母子加算、こういうものを廃止するとか、あるいは児童扶養手当のカット、こういう形で、国としての福祉を支える仕組みを後退させてきた。例えば、母子家庭に対する児童扶養手当の場合は、もともとは国が100%出していたわけですけれども、今では3分の1。そういうふうに、貧困と格差を拡大する要因を政府みずからが加速させてきたんじゃないか、こういうことがあると私は思うんです。
きょうは時間が余りありませんので、一つの問題に絞って議論をしたいんですが、一人親世帯、お父さんかお母さんどちらかが欠けている世帯、お父さんと子供の世帯あるいはお母さんと子供の世帯、これは、今こういう経済情勢のもとで大変深刻な生活の実態になっております。最近は、請負とか派遣などが真っ先に切られるということで、こういう世帯が大変な生活難に陥っているわけです。
父子世帯の場合をきょうは特に取り上げたいんですけれども、一般の世帯と比べると、収入は6割程度であります。母子世帯はもっと低いわけです。こういうところに児童扶養手当というのが支給されていますけれども、今は母子世帯だけなんですね。父子世帯は一律に除外されております。
きょう厚生労働省に来てもらっていますが、確認したいのは、父子世帯の数というのは現在どうなっているか。平成12年の調査と17年の国勢調査、それぞれの世帯数を示していただきたい。いかがでしょうか。
○北村政府参考人(厚生労働省大臣官房審議官) お答えを申し上げます。
父子世帯の数でございますけれども、平成17年の国勢調査によりますと、父と子のみで構成する世帯の数は、平成17年10月1日現在におきまして約9万2千世帯でございます。なお、平成12年の調査では8万7373世帯ということで、約8万7千世帯というふうになっております。
○佐々木(憲)委員 この数字は、独立して父親と子供のみで構成している世帯であります。しかし、おじいちゃん、おばあちゃんのところに一緒に住んでいながら父子世帯である、こういう数字はこの中には入っていますか。
○北村政府参考人(厚生労働省大臣官房審議官) お答えを申し上げます。
この国勢調査の数字でございますけれども、委員御指摘のとおり、父と子のみで構成する世帯の数でございます。
○佐々木(憲)委員 したがって、父子世帯という場合の数が、今、9万何世帯というふうに言われましたが、実態はもっと多いわけです。
私は、昨年6月に、一人親世帯への支援に関する質問主意書というのを出しました。児童扶養手当が母子世帯だけに支給されて、父子世帯に対しては一律に排除されているというのはおかしいということで指摘をしたわけです。
今、父子世帯というのは大変な、もちろん母子世帯の方が困難かもしれません、しかし、父子世帯も大変な困難を背負っておりまして、私のところに寄せられたメールがあります。こういうふうに訴えているわけです。
私は、小学校3年生、それから小学校2年生の子供2人を抱える父子家庭です。私の母親と同居していますが、母親の年金プラス私の収入だけではとても生活していけません。娘が入院すると、私の母親が娘に付き添うため、息子が風邪を引いたりすると、私が仕事を休んで面倒を見ている状態です。こういうふうに訴えているわけですね。
それから、次のような例もあります。
例えば、以前勤めていた会社、月に40時間から60時間の残業があった。保育園の迎えに支障がないようにということで、父子世帯になって退職した。その後の転職先も、私は子供がいるので残業はできませんと言いますと、それじゃ仕事を任せられないということで、3カ月でやめざるを得なかった。職探しを続けたけれども、残業なしでというふうに言えば、もう鼻でせせら笑われて面接も受けられない、こういう事態になる。現在、この人は派遣社員で働いているけれども、月収は正社員時代よりも5万から7万減って、20万円を下回った。子供の病気で休めば、派遣社員ですから、休んだらもうその分給料はない。こういう形で非常に深刻な事態になっているということなんですね。
与謝野大臣にここで感想を聞きたいんですが、こういう父子世帯の実態ということについてどのように思われますか。
○与謝野財務・金融担当大臣 以前は、女性と男性というのは多分役割が違っていると私は思っていたんですけれども、例えば子供が生まれたときに父親が休暇をとれるとか、新しい制度がどんどん導入されるにつれて、今先生が言っておられたような父と子の家庭というものをどう取り扱うことが正しいのか、例えば子供の養育という観点からどういう考え方をすれば正しいのかということは、やはり真正面からちゃんと議論して取り扱わなきゃいけない問題になってきたんじゃないかなと。
これは、私どもの役所の担当というよりは厚生労働省の仕事なんですが、まずは厚生労働省できちんとこの問題を議論していただきたい、考えていただきたいと思っております。
○佐々木(憲)委員 数字を確認しますと、父子世帯で年収200万に達しない世帯は16・1%、それから、300万に達しない世帯は37・2%なんですね。この統計は厚労省の調査だと思いますけれども、何世帯を調べてこういう統計になったんでしょうか。
○北村政府参考人(厚生労働省大臣官房審議官) お答えを申し上げます。
委員御指摘の数字でございます。これは全国母子世帯等調査結果報告に基づくものでございますが、この集計客体総数でございます、母子世帯は1517世帯、父子世帯は199世帯ということでございます。
○佐々木(憲)委員 これは199世帯の調査なんですよ。サンプルとしては非常に小さいんですね。
もう一つお聞きしますけれども、児童扶養手当が一部でも支給される対象というのは、母子世帯の場合、年収幾ら以下の場合でしょうか。
○北村政府参考人(厚生労働省大臣官房審議官) お答えを申し上げます。
児童扶養手当につきましては、子供の数によりまして所得制限が変わってくるわけでございますけれども、扶養親族の数が一人の場合でいいますと、本人全部支給の場合、収入額でいいますと130万円、所得額でいいますと57万円、一部支給の場合は、収入額365万円、所得額でいいますと230万円などとなっております。
○佐々木(憲)委員 今御紹介いただきましたように、一部支給、一部でも支給される場合は、年収が365万円以下の場合には支給対象になるわけです。今、父子世帯の年収が300万円以下、37・2%あるわけですよ。本来なら、こういう方々は支給対象になって当たり前だと私は思うわけです。
365万円以下の父子世帯は何世帯あるのか、そういう調査はどうかということで厚労省に聞いたら、やっていないと言うんですね。ですから、これはまことに実態把握がずさんというのか、正確に把握されていない。
ですから、私は、ここで非常に問題だと思うのは、母親なら受けられるけれども父親だから受けられないという、条件は全く同じ、あるいは基準に達しているにもかかわらず、男だという理由だけで排除される、これは余りにもおかしいのではないか。余りにもおかしいものですから、私は質問主意書で質問したんですけれども、法律の建前が母子世帯となっているから男は入らないんだ、こういう話なんですね。それなら法律の方を変えなければならぬと私は思うわけです。
例えば、つい最近、国会の衆議院の内閣委員会での3月13日の議論がありまして、ここで小渕少子化担当大臣が次のように答えているわけです。
これまで、父子家庭の平均年収が母子家庭の二倍となっていることを理由に、一律に父子家庭を排除しているということでありますけれども、父子家庭の中には、今お話がありましたように、低収入の中でぎりぎりの生活をさせられている方もおられますし、また、女性に比べると家事や育児になれない中で大変な思いで子供を育てている方々も大変おられるのではないかというふうに思います。
最近では、父親の子育てを支援するNGO法人が、低所得の父子家庭を支援するための基金を設置するなどという動きも出てきておるわけであります。こうした動向を踏まえつつ、児童扶養手当の父子家庭への一律適用除外について、私自身、見直す必要があるのではないかと考えておりますので、厚生労働大臣にもそのように訴えてまいりたいと考えております。
このように、民主党の泉議員にお答えになっているわけです。
私は、この答弁は前向きのいい答弁だと思うんです。当然、これは検討する。厚労省としては、この小渕大臣の答弁に対応して、一体どういうことをされる、どういう検討をされるんでしょうか。
○北村政府参考人(厚生労働省大臣官房審議官) お答えを申し上げます。
先ほどお話のありました母子家庭の母でございますが、そもそも、働いた経験も少ない、あるいは、結婚とか出産とかによりまして働くことを中断されていたといったようなこと、さらには、事業主の母子家庭に対する理解が実際には不足しているといったようなさまざまな事情にございまして、母子家庭の就職あるいは再就職に困難を伴うことが非常に多い、あるいは就業しても不安定な雇用条件にあることが多いということから、児童扶養手当は、このような母子家庭という特に社会的に厳しい状況に置かれている世帯に着目して支給されているものでございます。
他方、父子家庭について母子家庭と同様に児童扶養手当を支給することにつきましては、この制度を創設したときの経緯、父子家庭の就業をめぐる状況、収入の実態、あるいは一般のほかの低所得世帯との均衡、そういったものを十分に考慮しながら、慎重に検討すべき課題であるというふうに考えているところでございます。
○佐々木(憲)委員 何というか、慎重に検討するというのは何もしないということと非常に近いのでありまして、本来、内閣を構成している大臣、小渕大臣が、これは私は問題だと思うので再検討すべきだ、こう考えているわけですから。厚労大臣にもこのことを訴えたいと言っているわけですね。当然、厚労省は、前向きに検討いたしますと言うのが当たり前なんですよ。大臣ではないので答えにくいという面も確かにあるかもしれない。
しかし、先ほど私が御紹介したような実態を考えると、男だから一切必要ないなんという話はもう通用しない。母子世帯自体も深刻だからもっと改善しなきゃならぬし、国がカットするようなことも、絶対これはもとに戻すべきだと私は思いますし、同時に、父子世帯に一切やらないというのは間違っていると私は思うんです。
そういう意味で、当然これは、男女差別といいますか性による差別、そういうものにもつながってくるような問題でありますし、実態を全く反映していない、あるいは理屈が通らないというふうに思うんです。
最後に、与謝野大臣、こういう問題を一つ一つ解決することが、まさに福祉政治という方向に向かう一つになるんじゃないかと私は思うんですけれども、大臣のお考えはいかがでしょうか。
○与謝野財務・金融担当大臣 小渕大臣をちゃんと激励いたしたいと思っております。
○佐々木(憲)委員 激励して、督促し、内閣としてそういう方向に進むように、与謝野大臣は財政の担当大臣ですから、ばんとお金を出しますということでぜひやっていただきたい、最後にそのことを申し上げまして、終わります。