憲昭からの発信
憲昭からの発信 − 論文・対談
年金担保融資の被害の広がりと救済について
『消費者法ニュース』2004年7月号
年金を担保に取った悪質な貸金業者による被害が、大阪を中心に西日本で目立っており、最近では東京でも増えているようです。被害者は全国で10万人とも言われています。
もともと、公的年金を担保にとって融資することは、独立行政法人の福祉医療機構など特定の公的機関にしか認められていません。貸金業者など、それ以外の者が年金を担保にとって融資をおこなうことは、明らかな違法行為です。
被害にあった高齢者は、「年金融資」「中高年ローン」などの広告を見て融資を受けようと貸金業者を訪れています。そのとき、年金証書、年金振込口座の通帳やキャッシュカードなどの提出を求められ、隔月に振り込まれる年金を取り上げられることが多いのです。場合によっては、返済が終わった後も年金証書を返さず、借り手が死ぬまで年金を取り続けるなど悪質な事例があとをたちません。
貸金業者が担保の対象して取り上げているのは、主として国民年金や厚生年金ですが、このほかにも、被爆者健康手帳証書、障害年金、遺族年金、児童扶養手当、児童手当、生活保護、労災・遺族年金などがあります。要するに、公的に支給されるもので担保として確保できるものは何でもとる、というやり方をしているのです。
これらの公的支給金は、生存のためのぎりぎりの資金です。それを担保として取りあげて、高利の金利で貸し付け、高齢者や障害者などの生活・収入基盤を奪うなど、絶対にあってはならないことです。
なぜ、こんな事態が続くのでしょうか。第22回全国クレ・サラ・ヤミ金・商工ローン被害者交流集会は、「違法年金担保の罰則を求める決議」を採択、「このような違法な行為は刑罰をもって取り締まりをしない限り排除できるものではない」としています。
現在は、貸金業の規制等に関する法律、金融庁「事務ガイドライン」で、印鑑、預貯金通帳・証書、キャッシュカード、運転免許証、健康保険証、年金受給証等、債務者の社会生活上必要な証明書等を徴求することが禁止されています。しかしそこには、罰則規定がありません。少なくとも、きちんとした罰則規定を盛り込むべきです。
国会での質疑記録をみると、政府の答弁は「年金は、貸金業者の口座ではなく、あくまで本人の口座に振り込まれており、事後的にその年金を貸金業者がかすめとるという方法であるため、厳密には『年金受給権を担保に供している』とは言いがたい」というのです。これは、具体的な被害内容を見ない答弁にすぎません。
国会では、「違法な年金担保融資に対しては、年金受給権の実質的な保護を図るための厳正な方策を検討すること」(2002年12月5日、参議院厚生労働委員会)と「附帯決議」が採択されています。そうである以上、具体的な対策を打ち出すべきです。
今年3月、大阪地裁は、年金担保融資は違法として業者に賠償責任を初認定の判決を下しました。業者側の賠償責任を認めた判決は初めてであり画期的なものです。訴訟を起こした男性の代理人弁護士は「高齢者の弱い立場を直視した画期的な判決で、被害者救済に弾みがつく」と評価しています。
法的な整備は、国会の仕事です。私も今後、機会があればぜひ質問で取り上げたいと思っております。