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憲昭からの発信

憲昭からの発信 − 論文・対談

国民の声にこたえる党の『緊急経済提言』──不況を深刻化させる自民・公明政権の『対策』

 これは都内での講演をもとに『月刊学習』2001年6月号に掲載したものです。

一、日本経済の現状をどうみるか――昨年末から急速に悪化した経済情勢経済失政を裏づける調査・統計の数々

◆経済失政を裏づける調査・統計の数々
 日本経済の現状を一言でいいますと、すべての指標で昨年末から急速に悪くなっているというのが特徴です。
 4月の月例経済報告は、景気判断を引き下げました。これで、3カ月連続の引き下げとなります。平沼経済産業大臣も「(景気の)先行きは非常に厳しく、今後とも注意が必要」と、景気が悪化する見通しを表明せざるをえない状況です。
 また、内閣府の「景気ウオッチャー調査」も景気悪化を示しています。この調査は、できるだけ国民の経済実感を尊重して景気判断をしていこうというもので、グラフの50のラインより下がったら景気が悪いという判断になります。これも、昨年末から現状も先行きも、すべての指標がマイナスとなっており、最悪を更新しています。
 4月に発表された日本銀行の短観(企業短期経済観測調査)では、大企業、中堅企業、中小企業それぞれの業況判断を出しています。製造業の大企業は、昨年12月調査では「最近」はプラス10でしたが、今回はマイナス5に落ち込み、「先行き」もプラス7からマイナス8です。中堅企業は、「最近」がマイナス15、「先行き」マイナス21、中小企業は「最近」がマイナス27、「先行き」マイナス32です。企業規模別にみると、中小企業の方が非常に厳しい。しかも、どんどん悪くなっていることがはっきり現れています。日銀も「急速に悪化している」と評価していますが、たいへんな事態に陥っているというのが率直な実感です。

◆はじめての「デフレ宣言」
 このような状況下で、最近「デフレ」という言葉がひろがっています。政府は、現状を「ゆるやかなデフレ状態」と認定しました。消費者物価が2年以上つづけて下がれば「デフレ」と定義する、というのが政府の新しい見解です。定義の是非については議論のあるところですが、政府が現状を「デフレ」と認めたのははじめてのことです。
 日銀理事や山一経済研究所理事長を務めた経済学者の吉野俊彦氏は、『知恵をしぼれ! デフレを生きる発想』という著書のなかで、日本のデフレは、過去3回あったといっています。1回目は「西南の役」(1877年)から3年あとの1880年です。当時、大蔵卿(大蔵大臣)だった松方正義の名をとって「松方デフレ」といわれました。2回目が、1920年から昭和恐慌にかけての「デフレ」です。これが、日銀総裁、井上準之助の名からとった「井上デフレ」です。3回目が、戦後、日本がまだアメリカの占領下にあったとき、ドッジGHQ経済顧問による金融財政の厳しい引き締め政策によってもたらされた「ドッジ・デフレ」とよばれるものです。
 吉野氏の分析によれば、デフレの前には必ず大規模なインフレがおこっています。「松方デフレ」の場合は、「西南の役」で戦費調達のため不換紙幣を乱発してインフレになり、その後の引き締め政策のもとでデフレが起こった。「井上デフレ」の前にも、第一次世界大戦中・戦後の“バブル経済”がありました。今回、われわれが体験しているデフレも、バブル経済の崩壊後に現れたものといえます。いずれにしても、歴史上まれな事態であることはまちがいありません。
 重大な点は、消費者物価が下がるだけではなくて、所得、消費、生産がそれぞれマイナスとなり経済全体が縮小していくデフレ・スパイラルという悪循環に落ち込んでいくことです。現状は、非常に深刻な状態にあるといえます。

◆株の下落をどうみるか
 株価が今年に入って急落しました。この事態をどうみるのか、という問題があります。
 4月以降は若干上がりましたが、全体としての基調は下落傾向です。アメリカのナスダック(アメリカのハイテク株を中心とした店頭株式市場)の総合指数も昨年春からたいへんな落ち込み方で、半分以下に下がっています。日本では、そのあおりもありますが、国内のデフレ状態が株価に大きく反映しています。
 株価が下がったといっても、株をもたない庶民にとってはそれほど実感がないのですが、経済全体にとってはさまざまな影響をもたらします。
 では、だれが株を持っているのでしょうか。株をもっているのは金融機関がいちばん多く約30%強、つづいて事業法人と個人が、それぞれ20〜30%程度です。最近、外国人が持ち株をふやし、10%を超えるようになっています。2月から3月にかけて株が大幅に下落しましたが、今回の株の下落はこの株所有者のうちだれが売ったためにおきたのでしょうか。
 そこで、3つの株式市場(東京・名古屋・大阪)の「投資主体別売買代金差額」(月間)という統計をみましょう。2月には、個人や事業法人は買い越しになっているのに、売り越しになっているのは金融機関と投資信託だけでした。金融機関は、じつに6619億円の売り越しになっています。2月第四週の投資主体別売買代金差額をみますと、長銀・都銀・地銀の売り越しが2564億円と、群を抜いて大きいことがわかります(表)。ですから、2月の株の下落はだれが引き起こしたかといえば、銀行ということになります。
 銀行が、なぜこんなに株を売ったのでしょうか。持ち合い株(銀行が持っている系列会社の株)の解消という問題もありますが、いちばんの理由は3月末の決算期をひかえて銀行が保有している株を売って利益を出したこと(益出し)などが指摘されています。
 もともと株の値段は、原理的には利子との相関関係で決まるといわれてきました。利子が下がれば株価が上がるというような関係ですが、最近はそれだけでは説明ができません。売った買ったで利ざやを稼ぐ投機的な目的で株を売買することが非常に増えているからです。場合によっては株価を操作して、利ざやを稼ぐということもおこなわれます。そういうことが、現在の株価の大きな変動を引き起こす要因となっているわけです。
 しかし、根本的に株価の水準を決めるのは何でしょうか。それは、やはりその企業の将来の利益がどうなのか、それを決める実体経済がどうなのか、その実体経済の一番の基本である個人消費はどうなのか。――これらが、全体の株価水準を決定する基礎にあります。つまり、株価は基本的には実体経済の反映です。よく“株価は実体経済を映す鏡”といわれるのは、そういう意味です。

◆企業の「リストラ増益」にもかげり
 国内総生産(GDP)の構成をみると、56%が個人消費、公共投資が7%、設備投資が15%です。政府は、「景気対策」といえば公共投資や設備投資をさかんにテコ入れしますが、GDPに占める比率からいえばこの二つは合わせても2割強程度で非常に小さいのです。しかし、ほぼ6割を占める個人消費を全体として引き上げることができれば、経済を大きく押し上げる力になります。
 その肝心かなめの個人消費が、93年以来8年連続で減りつづけていることが大きな問題です。とくに、自民党政府が消費税の5%への引き上げや医療費引き上げなどで9兆円もの負担増を国民に押しつけた1997年以降、急速に冷えてきました。
 昨年来の動きをみると、企業収益と設備投資だけは比較的堅調に推移をしていました。大企業はこの1〜2年、大規模なリストラで人件費を抑えたり、下請け中小企業に犠牲を強いることで一時的に利益を上げ設備投資も増やしてきました。まさに「リストラ増益」です。しかし、それが全体として消費を冷え込ませて企業の売上不振をまねき、ふたたび利益を引き下げる方向にはたらきはじめているのです。
 4月の月例経済報告では、「個人消費の動向を左右する家計収入の動きをみると、定期収入が2カ月連続で減少となるなど弱い動きがみられ、2月は現金給与総額、実質賃金とも前年割れとなった」とあります。これは個人消費の落ち込みが、「景気回復」の足をふたたび引っ張るようになったことをしめしています。
 そのため、回復してきたといわれた企業の利益も設備投資も、ふたたび落ち込むという深刻な状況になっているのです。各種の調査でも、2001年度(計画)の民間設備投資の落ち込みがはっきりしてきました。とくに中小企業の設備投資の落ち込みは深刻で、前年度比で2割から3割も減っています。

◆生活悪化と将来不安の広がり
 企業の倒産も最悪水準です。負債総額は、2000年度で約26兆円で前年度の約2倍強という戦後最悪を記録する状況になっています(帝国データバンク調査)。なかでも、不況型倒産、つまり販売不振による倒産は1万4千件を超え、これも戦後最悪です。やはり中小企業が深刻で、2000年度の企業倒産のうち99%を占めています。全従業者の67%が中小企業で働いているわけですから、中小企業の倒産は失業に直結しますし、地域経済に大きな影響を与えます。
 失業者も急増しています。完全失業率は4・7%が直近の数字で戦後最悪水準です。しかも実態はもっと深刻で、正確な失業率はその倍以上になると指摘されています。橘木俊詔・京都大学教授は、政府のとっている失業者数も労働力人口も不正確な数字であり、潜在失業者をふくめれば、いまの失業率の2倍の10%になると分析しています(「日経」4月4日付)。
 このように、日本経済の現状は、消費の大幅な低下、そしてそれにもとづく企業の収益の低下、設備投資の低下、そして生産の低下という悪循環に陥っており、デフレ状態に入りつつあり、このままではデフレ・スパイラルに入り込む可能性が大きくなっているといえるでしょう。国民のなかに不安が広がるのは当然です。

二、個人消費をあたためる――日本共産党の「緊急経済提言」

 3月に発表された日本共産党の緊急経済提言「大銀行・ゼネコン応援から、国民の暮らし応援へ――日本経済の危機打開へ 三つの転換を提唱する」は、発表直後から大きな反響がよせられています(別項参照)。
 この「緊急経済提言」の特徴は、緊急に、冷えきった家計消費をどう支援しあたためるか、ここに最大の焦点をあてた提案をしていることです。緊急提言ですから、日本経済の構造を変えるという大きな打ち出し方ではなく、当面ただちに手を打つべき3つの分野での緊急政策を提唱しているのです。

◆消費税減税は消費拡大に抜群の効果
 第一の「消費税を緊急に3%に引き下げる」という提起は、たいへん大きなインパクトをあたえており、日本共産党や各種団体がすすめている消費税引き下げの署名活動への反響も広がっています。
 注目したいのは、消費税減税という要求が私たちの特別な主張ではなく、内外の大きな世論になっていることです。たとえば、経済人や専門家からも消費税減税の指摘が相次いでいます。
 バンク・オブ・アメリカのチーフ・エコノミスト、M・レビー氏は、「減税による景気刺激策で長期の経済成長をもたらすようにすべきだ。具体的には消費税率の引き下げだろう」と主張しています。またAGランストン副会長のD・ジョーンズ氏も、「あえて言えば消費税減税に踏み切るべきだ」と述べています(「日経」3月13日付)。また、コロンビア大学教授のパトリック氏も「消費回復のため、消費税率の引き下げを検討してもおかしくない」(同、3月15日付夕刊)と言っています。
 アメリカやヨーロッパでは、個人消費を政策のうえで非常に重視しており、景気が落ち込むと、消費をいかに刺激するかという発想が出てきます。そういう点で言えば、日本で自民・公明政権が、景気対策といえばすぐに金融支援や公共事業のバラまきしか出てこないのは、欧米の常識からいうとたいへん特異な存在なのです。
 国会で論戦をやりますと、宮沢財務大臣(当時)などは“消費税を2%下げたからといって、それほど大きな刺激があるわけでもないし、財政的にはたいへんですから”などと逃げるわけです。しかし、消費税率を2%下げると5兆円の減税となりますが、影響はそれにとどまりません。その5兆円は仕入れにはね返り、生産にもはね返っていきます。波及効果としては非常に大きいものがあり、5兆円だけで終わりということにはけっしてならないのです。
 また消費税減税は、冷え込んでいる消費マインド(意欲)をかき立てる効果があります。日銀が毎年2回おこなっている「生活意識に関するアンケート調査」をみても、「どの項目が実現すれば支出をふやすと思いますか」との問いに、「消費税率引き下げ」がこのところ常に1位〜2位をしめています。昨年12月に発表された調査では、「消費税率引き下げ」が42・6%にのぼっています。トップは、「雇用や収入の不安の解消」で45・9%です。これは、国民の率直な気持ちだと思いますし、消費税減税が消費マインドの拡大につながることはまちがいありません。
 いまは、貯蓄に回す部分の比重が増えていますが、消費税減税によって消費に回る部分が拡大されます。消費性向が1ポイントあがると4兆円の消費拡大が加わり、2ポイントだと8兆円の消費拡大が加わるということになります。このように、消費税減税は経済拡大にたいする刺激という点では、たいへん大きなものがあるのです。

◆将来不安を解消する
 二つ目の柱は、「社会保障の連続改悪を凍結し、将来不安をなくす」ということです。
 昨年から今年にかけて、年金の賃金スライド停止と支給年齢引き延ばしで1兆2000億円、1月からの老人医療費1割定率負担で3000億円、10月からの介護保険料の満額徴収で4000億円、労働者の雇用保険料負担引き上げで3000億円、失業給付期間の短縮で6000億円、あわせると約3兆円もの給付削減・負担増です。
 これも、消費マインドを冷やすという点で非常に大きな問題です。実際に負担が増えて生活を圧迫しているだけでなく、将来の負担増で「老後の不安」が大きくなっています。そうなれば当然、収入があってもできるだけ貯蓄にまわしますから、消費が落ち込むことになります。
 ですから、年金、医療、介護保険などについて、当面ただちに「連続改悪」を凍結するとともに、将来しっかりと拡充していく展望を国民に明確に示すことが重要です。

◆大企業のリストラをおさえる
 三つ目は、「リストラをおさえ中小企業を支援する政治で、雇用危機を打開する」ということです。とくにサービス残業の解消が重要です。
 塩川鉄也衆院議員の調査で判明したのですが、政府が「産業再生」法にもとづいて、1999年8月から2000年12月までの1年余で2万4千人にものぼる大企業のリストラ計画を応援してきました(表)。企業のリストラを政府があおってきた、その犯罪性は明らかです。
 財界系のシンクタンク・社会経済生産性本部は、強制的なただ働きであるサービス残業をゼロにすると92万人の雇用が増え、手当てが支払われている残業をゼロにすると168万人の雇用が増えると試算しています。
 今回の「緊急経済提言」で注目したいのは、「サービス残業なしの経営計画を立てる大運動」を提唱していることです。これは、企業の経営者にたいしてもたいへん説得力ある提案です。また、これからの日本経済を全体として発展の軌道にのせていくうえでも重要な提起です。企業の経営者をそういう意識に立たせることができるかどうか、この点を視野にいれてどう個々の企業を規制していくか。このことが、提案に込められていると思います。

◆「逆立ち財政」をただしてこそ財政再建に踏み出すことができる
 このように、日本共産党の「緊急経済提言」は、経済全体を、消費拡大をテコとする自律的回復軌道に乗せていく契機となる3つのカギを提案していますが、財政政策のうえでもたいへん重要な提起をしています。
 それは、ひとことでいえば、国と地方あわせて「ゼネコン型公共事業に50兆円、社会保障には20兆円」という「逆立ち財政」をただすということです。
 総務省のまとめによれば、98年度実績でも、公共事業47兆円、社会保障21兆円という逆立ちの構図がつづいています。「逆立ち財政」は、アメリカの強い要求でもりこまれた10年間で630兆円を投資するという「公共投資基本計画」にもとづいてつくられた財政構造です。この公共投資拡大路線に自民党はもちろん、日本共産党以外の当時の政党も手を貸してきた経過があります。
 公共事業だけでなく、軍事費、銀行支援などのむだな歳出・浪費をカットし、そのうえで、景気回復の状況をみきわめながら歳入のあり方を切り換えていく、具体的には大企業・高額所得者優遇の不公平税制を民主的に改革すること、社会保障の拡充のために国庫負担を増やすこと、大企業や高額所得者の負担を適正化することなどを提言しています。
 「逆立ち財政」をただすという日本共産党の主張は、誰にでも受け入れられるものです。こうしてこそ、「景気回復と財政再建を両立させる」ことができます。これまでの自民党政治の路線を大きく切り換えることで、国民に現在と将来の安心を保障しながら財政再建への道にふみだすことができるのです。この点を大いに訴えていくことが、重要になっていると思います。

三、大企業・大銀行支援ばかり――政府の「経済対策」

 日本共産党の「緊急経済提言」と対照的なのが、政府・与党が4月6日に発表した「緊急経済対策」です。小泉総理は所信表明演説で、『緊急経済対策』を速やかに実行に移します」「処方箋は既に示されています」とのべました。しかし、このなかには、個人消費をあたためるなど、国民の暮らしを応援する政策などはまったくなく、大銀行・大企業にしか目が向いていません。

◆みずからの経済失政を事実上認める
 政府の「緊急経済対策」で注目したいのは、最初の「基本的考え方」のところで、「生産・企業収益が回復し、民間設備投資も持ち直しを示すようになった」と述べたうえで次のように指摘している点です。「本来ならば家計部門の回復をもたらし、自律的景気回復に向けた好循環の端緒になるはずであった。しかし、企業部門の復調にもかかわらず、所得・雇用政策の改善は遅れ、個人消費の回復は見られていない」。こうのべて、自民・公明政権がやってきた政策がすっかりはずれてしまったということを、みずから認めています。これは注目すべき点です。
 しかし、ほんとうに個人消費の回復が遅れていることを重大視しているのでしょうか。
 そうではありません。なぜなら、この対策のなかに家計消費を支援する中身が盛り込まれているかといえば、まったくないからです。政府の「緊急経済対策」のなかにあるのは、不良債権の早期処理や銀行保有株買い上げのための「株式買取機構」の創設など、大銀行とゼネコン・大企業支援ばかりです。日本共産党の提言で明らかにしているような家計支援の対策は、完全に抜け落ちています。これが根本的な違いです。

◆不良債権の早期処理とは
 政府の「緊急経済対策」の第一の柱は、「不良債権の早期処理」です。小泉総理は、「構造改革なくして景気回復なし」とのべ、「構造改革」の中心は「不良債権の処理だ」「ゼロ成長に陥ってもやる」というような乱暴なことを言っています。
 その中身は何でしょうか。銀行の帳簿上から、焦げつきそうな融資を帳消しにするというわけです。これが「オフバランス」といわれる処理です。つまり、銀行のバランスシート(賃借対照表)から、回収が難しくなった融資(不良債権)をなくしてしまう(直接償却)というのです。では、具体的にどうするのか。
 ひとつは、大企業・ゼネコンへの融資を棒引きにする(債権放棄)という方法です。それは、大規模なリストラを条件におこないます。ゼネコンにとっては、不採算部門を切り捨てることによって借金の棒引きをしてもらうことになります。そうなると、そこで働いていた労働者や下請け企業が切り捨てられて、倒産が増え失業者が増えるということになります。
 ふたつ目は、中小企業への融資を打ち切る方法です。深刻な赤字経営におちいっている中小企業への融資を、「不良債権」だとしていきなり融資をうちきる、会社をつぶして担保不動産などの売却で強引に融資の回収をする、あるいは、債権取り立て機構である整理回収機構におくりこんでしまう、というようなことをやるわけです。これも、倒産が増え失業者が増えるという結果を招くことになります。
 政府の「対策」では「債務者が中小企業の場合であっても……不良債権のオフバランス化に取り組むことを要請する」と、中小企業の場合でも容赦はしないという姿勢を明らかにしています。
 こうなると、不良債権の処理というのは、銀行の帳簿上から不良債権を消すけれども、結局は、大量の失業と倒産を生み出すことになる。これが、銀行の不良債権処理の実態なのです。では、どのくらいの失業者がでるのでしょうか。
 日本共産党の大門実紀史参議院議員が、この点について財務大臣にききました。「緊急経済対策」でどのくらい失業者が増えると見込んでいるのか。これにたいする答弁は「試算をいたしておりません」というものでした。では、「緊急経済対策」にある「雇用の創出(セーフティネット)」で何万人の雇用が創出されるのか。これにたいしても「計数的な整理はしてございません」という答弁でした。まったく無責任きわまりないものです。
 しかし、財界系シンクタンクのニッセイ基礎研究所は、不良債権の直接償却によって失業者は130万人増えるというショッキングな試算結果を公表し、これによって経済成長率はマイナス成長に陥ると警告しています。その後も、さまざまな研究機関が同様の試算をしています。

◆不良債権はなぜ減らないのか
 これまで不良債権は、どのように処理されてきたのでしょうか。92年以降でいえば約68兆円もの不良債権の処理がおこなわれてきました。にもかかわらず、2000年秋の段階で、約32兆円の不良債権をかかえているのです。新たな不良債権が次々と生まれてきているからです。深刻な不況がつづくなかで、赤字経営への転落によって正常だった債権が不良債権化しているのです。ですから、不良債権問題を解決しようと思えば、実体経済の立て直しこそ必要なのです。
 第一勧銀総合研究所理事だった山家悠紀夫・神戸大学大学院教授も、つぎのように言っています。
 「銀行の不良債権が景気悪化の原因といわれているが、それは大きな誤解だ。景気が悪いから不良債権が増えているのであって、その逆ではない。現にいま発生している不良債権の大半は、バブル時代のひどい融資が原因というよりも、景気後退によって売り上げが減り、正常だった債権が不良債権化しているものだ」「政府与党が不良債権の処理促進策を打ち出したのは理解に苦しむ」。
 また、大手銀行が抱えている「破たん懸念先」などの不良債権は約13兆円ありますが、銀行の融資総額のほぼ3%にあたります。山家氏は、この割合をあてはめて計算すると、「中小企業を中心に7万5000社が倒産の危機に直面する。連鎖倒産も出る。新たな失業者が130万人も出て、失業率は7%近くに跳ね上がる」・「不良債権は一律に処理すべきではなく、個々の状況によって判断すべきだ。病気にかかったからといって殺してしまえという政策は荒っぽすぎる」と厳しく批判し、景気回復には「消費税の減税も選択肢だ」といっています(「朝日」4月19日付)。まさに正論です。

◆切り捨てられ、倒産に追い込まれる中小企業
 これまで、不良債権処理は実際にどのようにおこなわれたのでしょうか。
 池田幹幸参議院議員の計算によれば、98年3月に7兆円を超える公的資金が大銀行に注入されて以降の2年半に、融資先を倒産などに追い込んで返済不能になった貸出金を処理したり、共同債権買取機構に売却した不良債権(不動産担保付)、整理回収機構に売却した不良債権のなかで、中小企業向けが8割もしめています(表)。つまり、融資の打ち切りや回収の強化で、中小企業は切り捨てられ、倒産に追い込まれてきたのです。
 しかし、不良債権をこういう形で切り捨ててしまうことがほんとうに必要なのか、ということが根本的に問われています。中小企業は赤字でも、なんとか必死でやっているわけです。それを不良債権と決めつけて切り捨てれば、中小企業にとっては死ねということと同じです。政府の「緊急経済対策」は、景気対策ではなく「不況促進策」といわなければなりません。

◆銀行株の買い取り〜損が出れば税金で穴埋め、もうかれば銀行のフトコロに
 政府の対策のもう一つの柱は、銀行が所有している株を買い取る仕組みをつくることです。
 「緊急経済対策」では、「銀行の保有する株式を、例えば自己資本の範囲内とし、それを超えて保有する株式は、一定期間内に処分するものとする」「株式の買取りは法律に基づき銀行等からの拠出により設立される銀行保有株式買取機構(仮称)が行う。その際、預金保険機構の活用を含め、株式買い取りに要する資金に対する政府保証等公的な支援を検討する」となっています。
 先ほど、2月から3月の株価の下落は、銀行がもっている株を売り出した結果だといいました。こんど出された政府の「対策」は、銀行が持っている株を買い上げることで株価を維持するPKO(プライス・キーピング・オペレーション)政策そのものです。銀行の保有株を買い取る価格は、13兆円と試算されています。そのために預金保険機構を使うというのです。ほんらい預金者を守るためという目的でつくられた預金保険機構という仕組みを、なぜこんなことに使わなければならないのか、という根本問題があります。
 銀行保有株の買い取りの資金を手当てする際に、政府保証をつけるともいっています。
 これは株が下がって損が出たら、その損を政府が穴埋めしますということにほかなりません。逆に、もうかったらどうするのか。そのことについては何も書いてありませんから、もうかっても返さなくていい、銀行のふところにいれるということです。
 銀行株の買い取りは、そういう銀行丸抱え方式なのです。銀行の株を買い取る仕組みをつくっている国などありません。当の銀行も財界も、やってもらわなくていいといっています。西川善文・三井住友銀行頭取は、「自助努力、自己責任でやっていくべきものだ」(「朝日」4月13日付)といっていますし、今井敬・経団連会長も、「損が出た場合に税金によって穴埋めするような案には賛成しない」(「東京」4月10日付)と述べています。山本恵朗・全銀協会長は、「機構のサイズや機構そのものが必要かという議論がまだ煮詰まっていないので公的資金の是非を議論する段階ではない」(「東京」4月27日付)とのべています。当事者から要望もされていないのに、こういう形で税金をどんどん使うということ自体、まったく異常です。
 政府はこれまで、70兆円の枠組みをつくって、銀行に公的資金をどんどん投入してきました。その額は、今年3月末現在で27兆6000億円にのぼり、国民負担が確定したのが8兆4000億円余、4人家族で26万円も負担したことになります。銀行支援に、国民の税金が湯水のように注ぎ込まれてきましたが、そのうえにさらに株の穴埋めまでさせられるというのは本当に腹が立ちます。

四、野党の経済政策の特徴点と日本共産党躍進の意義

 それでは、野党の対応はどうでしょうか。

◆消費税減税を主張しているのは日本共産党だけ
 一つは、焦点になっている消費税減税をめぐる野党の態度です。
 野党のなかでは、いまの段階で消費税減税を主張する党は、日本共産党以外にありません。それは、日本共産党以外の野党のこれまでの経緯にも深くかかわる問題だからです。消費税を5%に引き上げたのは橋本内閣でした。当時、社民党と「さきがけ」は政権与党でした。これらの党は、そのことについてひとことの反省も総括もしていません。
 また、民主党と自由党のなかには、消費税増税の根強い流れがあります。たとえば、民主党の鳩山代表は、「7%最低ぐらいの税率を当然いつかは必要になってきます。そういう議論を避けてきてはいけない、いつかはやらなければいけないことであれば、いまからそういうプランというものを示す責任というのは、とくに政府にあると思うし、政府は言わないで、野党の私どもが常にこういうことを言わなければならないのはあべこべ」「すぐに10%とかいう将来の話は不可能だと思いますから、今申し上げたように7%というようなところを一回設けるような形になるんではないか……5年ぐらいのスパンの間の議論じゃないかと思う」(2000年5月14日、フジ系「報道2001」)と発言しています。
 昨年7月、政府の税制調査会が中期答申をだしました。消費税増税、外形標準課税の導入、課税最低限の引き下げという大増税路線が盛り込まれたもので、わが党は“増税の三重苦”と厳しく批判しました。この中期答申にたいする他の野党の態度はどうだったでしょうか。民主党は、「今後の税制の抜本的改革に向けた議論のたたき台として有益な提起」、社民党は、「党の主張の大枠から逸脱するものではなくおおむね妥当な方向性が示された」と評価しました(「読売」2000年7月15日付)。
 このように、日本共産党と他の野党の間には税制問題をめぐる態度に大きなひらきがあり、現在、消費税減税をきっぱりと主張している政党は日本共産党だけです。

◆不良債権処理について
 もう一つ、不良債権処理についてはどうでしょうか。他の野党は、政府と同様「不良債権の早期処理」という立場にたっています。
 民主党の政策をみると、「不良債権の抜本処理」の項で「われわれが提案した金融再生法は、厳格な資産査定と引き当て、すなわち不良債権の抜本処理という最も重要な原則を、政府・与党によって骨抜きにされた」となっています。つまり、不良債権処理は民主党が最初に主張した、政府の対策は手ぬるいという論調です。
 そのうえで、「構造改革と不良債権の抜本処理を断行する過程では、現在4%台後半で高止まりを続ける失業率が一時的にせよ、上昇するおそれがある」といっています。つまり、不良債権の抜本的処理は当たり前だが、その過程で失業率が上昇するから、セーフティネットの早急な整備が必要だという政策です。この点でも、政府の主張と基本的に同じです。
 自由党はどうでしょうか。政府の「緊急経済対策」についてのQ&Aで、「不良債権の的確な処理が盛り込まれていますが、どのように評価しますか?」との問いに、「不良債権を抜本的に処理し、長期低迷する経済を立て直すことは当然のことです。しかし、与党の緊急経済対策に盛り込まれている不良債権処理策は、具体的な中身が欠けており、全く評価の対象になりえません」とあります。基本的には不良債権処理をするのは当然だ、もっと具体的に中身のあるやり方をせよといっているわけです。
 社民党は、政府の「緊急経済対策」についての談話で、「金融機関の『不良債権の抜本的オフバランス化』の必要性に関する認識は、基本的に同じくできる」「ただし、……痛みや混乱をどう緩和していくか」「雇用不安などに如何に対処するか」「このセーフティネットの整備が、前提条件」だと主張しています。この点では、政府の方針と違いがありません。
 このように消費税や不良債権処理への態度をみると、政府の主張と民主党、自由党、社民党のそれぞれの主張は、基本的に共通しています。
 その根底には「構造改革」は当たり前だという発想があると思います。「構造改革」とは、「規制緩和」をやれということであり、「市場開放」を推進せよということです。つまり競争力――企業の競争力の意味ですが――のないところや効率の悪いところは、市場から撤退してもらわなければならないという主張です。
 これは、倒産や失業が生まれても仕方がないというところにつながっていく立場だと思います。ここからは、日本の農業や中小企業をまもり発展させるという政策的立場は生まれません。

◆日本共産党が大きくなってこそ
 私たちは、選挙で、それぞれ野党が自由に政策をぶつけ、自民党政治を追いつめるという立場でたたかうことをよびかけています。
 いま野党間では、無駄な公共事業費を削減するという政策では、ほぼ一致する点がありますが、そのほかの問題ではなかなか一致するものがありません。政策のちがう点は野党間でも大いにさわやかに議論していくことが大事です。そうしてこそ、自民党政治にかわる新しい政治の内容が明らかになり、政治革新への可能性が切りひらかれるのです。
 日本共産党は、自民・公明政権の悪政にかわる新しい政治の基本方向を「日本改革」の政策にまとめて提案しています。国民の暮らしを守り、不況から早く抜け出してほしいという国民の切実で圧倒的な声にこたえて、経済の危機を打開するために核心をつく積極的提案ができるのも、そういう立場があるからです。
 参院選では、国民の圧倒的多数の利益を代表している日本共産党が伸びることが、経済政策の転換の点でも、自民党政治をおいつめる野党全体の力を強めるうえでも、一番のカギになります。
 3つの分野での転換をもとめた日本共産党の「緊急経済提言」をひろく国民に訴え、対話と共同を大いにすすめ、参院選での前進をめざしたいと思います。

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