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奮戦記

【15.02.12】トマ・ピケティ(パリ経済学校教授)の『21世紀の資本』を読み終えて

 遅まきながら、トマ・ピケティ(パリ経済学校教授)の『21世紀の資本』を読み終えました。本文だけで600ページ以上の大部の著作であるだけでなく、特有の用語と翻訳文の特徴も加わって読むのに骨が折れました。以下、私の感想です。

 ●資本主義は格差を広げる
 結論はたいへんシンプルです。「資本収益率」(r)が「経済成長率」(g)を長期にわたって上回る(r>g)なら資本主義は必然的に格差を広げる。――これがピケティが長期にわたる統計分析から導き出した結論です。要するに、資本主義に任せておけば必然的に格差が拡大するというのです。
 この本のブームに火をつけているのは、多くの人々が、格差拡大と貧困化に苦しみ、原因究明と対策を求めているからでしょう。


 ピケティは「近代経済学」の立場に立っていますから、たとえば「資本」という言葉は「財産」や「富」と同じ意味で使っています。土地、工場、機械、株、債券、特許などがそれです。したがって「資本収益率」は、「利潤、配当、利子、賃料など(資本からの収入)」を「その資本の総価値」で割ったものとされています。
 私たちが通常使っている資本とは「運動のなかで剰余価値を生み出す価値」のことですが、ピケティの場合はそうではありません。搾取という考え方も、もちろんありません。(ピケティは、時々マルクスを批判していますが、無理解や誤解からのが多いようです)。

 しかし大事なことは、マルクス主義の経済理論との違いを、あれこれとあげつらうことではなく、彼の分析成果から学び、社会を変革するための政策的な共通項を見いだすことではないでしょうか。

 ●長期統計の分析によって格差拡大を証明
 この本の最大の特徴・長所は、18世紀から今日に至るじつに200年以上もの長期間にわたる富と所得に関する各国の統計を丹念に調べて集計したこと、そして「資本主義は放置しておくと格差がおのずと拡大する」という事実を明らかにしたことです。格差が大きくなっている理由は、「超世襲社会」(不労所得生活者社会)にあると述べています。

 これまで、一時的に「格差」が縮小したことがありますが、それは大戦による混乱とそれにともなう経済的、政治的ショックが資本に破壊的影響をもたらしたためであり、第二次大戦後に累進課税を取り入れたことによるものだとしています。
 それ以降、とりわけ1970年代、80年代から今日にかけて、累進課税が後退したことなどと相まって格差が急速に拡大したと述べています。

 その結果、2010〜2011年のデータによると、フランスでは「最も裕福な10%が全富の62%を占有しているのに対し、最も貧しい50%はわずか4%しか所有していない」。「米国ではトップ十分位が米国の富の72%を所有し、最下層50%はわずか2%しか所有していない」と指摘しています。
 アメリカの場合、ここ数十年で「スーパー経営者」が現れたことが格差拡大の大きな原因になっており、「大企業の重役たちがすさまじく高額の報酬を受け取るようになったせいが大きい」との指摘は注目に値します。

 2010年代になると世界的な格差が急速に拡大し、世界で最も裕福な0.1%の人々が世界の富の総額の約20%を所有し、裕福な1%の人々が50%の富を所有していると指摘してます。さらに「世界の金融資産の大部分がすでにさまざまなタックス・ヘイブンに隠されていて、世界的な富の地理的分布の分析に限界をもたらしている」とも述べています。
 また、現在の税制の問題点として多国籍企業の税逃れについても触れていて、「多国籍企業はあらゆる利潤を法人税がきわめて低い国にある子会社にわざわざ割り当てることで、とんでもなくわずかな税金しか払わないですませる」と批判しています。これらの指摘に同感できます。

 そのうえでピケティは、「経済成長」が続けばいずれ格差は縮小するという考え方を、「楽観的な欠陥理論」として退け、そのうえで「果てしない格差スパイラルを避け」るための具体的な政策を提起しています。

 ●世界的な累進資本課税の提案
 政策提起の柱となっているのは、「公正で透明性のある国際税制」です。それは、世襲資本主義に対する「世界的な累進課税」の実現だと言います。
 その場合、「累進所得税よりはむしろ累進資本課税」=「資本に対する年次累進税」が望ましく、税率は数パーセント程度でよいとしています。

 ピケティは、この世界的な累進課税を「民主主義が21世紀のグローバル化金融資本主義に対するコントロールを取り戻すため」の新しい道具として位置づけています。そして「資本への新たな民主的コントロール形態を開発することだ。この点を強く主張するべきだと私は思う」と書いています。
 その目的は、「資本主義を規制する」ことであり、第1に「富の格差の果てしない拡大を止め」ることであり、第2に金融危機を再び発生させないため「金融と銀行のシステムに対して有効な規制をかけること」であると説明しています。的を射た指摘ではないでしょうか。

 資本主義の枠内での経済民主主義の立場に立ったこれらの具体的な提案は、私たちにとって大いに共感できるものです。

 ●経済民主主義の立場からの発言
 ピケティが来日した際の発言にも、注目すべき点が大いにありました。
 たとえば、「消費税増税は若者や低所得者にも負担になる。富の蓄積をしていない世帯の負担は軽くする必要があり経済成長にとってマイナスだ」と、消費税増税に否定的な考えを明らかにしています(「東京」2月1日付)。

 また、大企業や大金持ちが潤えば、中小企業や低所得者にも滴り落ちるとする「トリクルダウン」について「過去を見回してもそうならなかったし、未来でもうまくいく保証はない」とのべて否定しました(「朝日」2月1日付)。
 「所得や富の少ない層が固定化するのは、経済にとって大きなマイナスだ。…発言力や政治的影響力に差が出ることは、民主主義にとって深刻な事態だ」と述べています(「日経」2月1日付)

 日本におけるこれらの発言を見ても、ピケティは常に経済民主主義の立場から問題提起をしており、その内容は私たちの立場と共鳴する部分が大変に多いと思いました。日本における公正・平等な社会を実現するたたかいは、私たち自身に課せられた中心課題でもあります。
 

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