奮戦記
【15.01.10】「期待インフレ率が高ければ、人々は買い物を増やす」というデタラメ
アベノミクスの考え方の中心に「期待インフレ率」というのがあります。――デフレから脱却するためには、将来インフレが起きると人々が考えることが大切だという発想です。日銀が一定のインフレ率(2%の物価上昇率)を目標として示し、それが「実現すると人々に期待させる」。そうすると、物価が上昇する前に人々がものを買おうとするので、消費や設備投資が拡大するというのです。
肝心なのは、これから物価が上がると想定したら皆が急いで買い物をするのか、という点です。確かに、今年4月の消費税増税の直前には一時的な駆け込み需要が起こりました。ところが、その後は「反動減」で長期にわたる需要の減退が発生しました。物価が上がったので買えなくなったのです。
将来、物価が上がると想定すれば、生活を守るためにしっかり節約する。これが、じっさいに多くの人々がとる行動ではないでしょうか。
日銀が昨日発表した「生活意識に関するアンケート調査」(第60回、1月8日発表)のなかに、「物価が上がったことをどう思いますか」という問いがあります。「好ましいこと」と答えた人は2.9%にすぎません。「どちらかと言えば、困ったことだ」と答えた人は、83.8%にのぼっています。
この調査では、「1年後に物価がどうなると予想しているか」という問いがあります。「かなり上がる」は15.4%、「少し上がる」65.4%、あわせて80.8%にのぼっています。
このように「期待インフレ率」(この言葉は私は好きではありません)は、たいへん高いものがあるのですが、「今後1年間、支出をどうしますか」という問いに、「増やす」という答えはわずか4.8%で、「減らす」は実に52.3%に達しています。
「期待インフレ率が高ければ、人々は買い物を増やす」などというアベノミクスの珍論は、日銀自身が実施した調査によって、完全に打ち砕かれてしまったのです。
アベノミクスはただちに撤回し、雇用の安定と社会保障の充実など、生活をしっかり守る政策に抜本的に転換することこそ、求められているのです。