2014年04月09日 第186回 通常国会 内閣委員会 【782】 - 質問
「健康・医療戦略」法案、“司令塔”に業界関係者
2014年4月9日、佐々木憲昭議員は、2日に引き続き、内閣委員会で「健康・医療戦略」関連法案に関し、「戦略」司令塔(日本版NIH)に製薬業界など利害関係者が入っている問題を取り上げました。
安倍政権の「健康・医療戦略」は、先端医療分野に予算配分などを集中し、省庁の縦割りを排除した連携をすすめるもの。その推進体制の要である「健康医療戦略室」に日本製薬工業協会や日本医療機器産業連合会のメンバーが加わっています。
佐々木議員は「利益を求める業界関係者を直接、国家戦略の作成にあたらせるもので、公平・公正な政策を推進できるのか疑問が出てくる」と指摘。幅広い基礎研究を支える予算配分に十分な配慮がなされているか研究者から疑問が提起され、現に科研費が減らされていることをあげ、政府の見解をただしました。
菅義偉官房長官は「基礎研究は重要。十分に配慮していただいている」と答えました。
佐々木議員は「特定分野に偏重する政策は基礎研究体制を弱め、結果としてすそ野の広い将来の研究開発に障害をもたらす」と主張。製薬業界がさらなる法人税減税や研究開発減税を要求し、一方で自民党に多額の政治献金をしている問題を指摘。「製薬業界と自民党の癒着を示すものだ」と批判しました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
私は、前回の質疑で、現場の研究者の声を直接反映する仕掛けは法案の中にあるのかとお聞きしました。そのような仕掛けが法案の中にあるということは確認できませんでした。情報開示については、戦略本部等の議事録、配付資料が非公開とされる可能性が大きく、かなめとなる創薬支援ネットワーク協議会の場合は、原則非公開となっていることも明らかになりました。
きょうは、製薬業界との関係についてただしたいと思います。
先日の質疑の中で、創薬支援ネットワーク協議会の中に日本製薬工業協会、製薬協の会長が入っていることを確認しました。製薬協の手代木功氏は、塩野義製薬の社長であります。
この方は、内閣官房の中の健康・医療戦略室健康・医療戦略参与を務めていると思いますけれども、いかがでしょうか。
○中垣政府参考人(内閣官房内閣審議官) ただいま御指摘のございました日本製薬工業協会の会長は、創薬支援ネットワーク協議会の構成員を委嘱されまして、また、健康・医療戦略参与にも任命されております。
○佐々木(憲)委員 配付資料を見ていただきたいんですけれども、上半分は、健康・医療戦略の推進体制の全体像が示されております。下半分は、司令塔機能等、日本医療研究開発機構の業務が示されております。
上の部分の健康・医療戦略推進会議にぶら下がっているのは、今指摘をしました創薬支援ネットワーク協議会のほかに、左側から、次世代ヘルスケア産業協議会、医療国際展開タスクフォース、次世代医療ICTタスクフォース、健康・医療戦略ファンドタスクフォースがあり、その下に事務局機能として内閣官房健康・医療戦略室がありますね。
そこで、これらの組織に業界関係者が入っているのはどこか、また、今後入る可能性があるのはどこか、お示しいただきたいと思います。
○中垣政府参考人 御指摘の図の中でございますと、先ほど申し上げました健康・医療戦略参与、それから次世代ヘルスケア産業協議会、それから創薬支援ネットワーク協議会、この部分には業界の代表の方という形で入っていらっしゃると思います。
○佐々木(憲)委員 今、三つの組織について指摘されましたが、ほかの部分については、入る可能性は否定はできないと思いますが、いかがでしょうか。
○中垣政府参考人 まず、右側に書いてございます医療分野の研究開発に関する専門調査会の部分につきましては、これは医療分野の研究開発に関して学識経験を有する者として委員を委嘱しまして、あくまで学術的、技術的な観点から助言いただくものであるため、そういった業界を代表する立場の者を委員に委嘱するということは考えておりません。
また、医療国際展開タスクフォース、これにつきましては、関係省庁とそれから団体、それが一つ、MEJと言っております社団の方が入っておるものでございます。
それから、次世代医療ICTタスクフォースにつきましては、学者の方とかそういった学識経験者だけでございまして、そういった業界の方というのは考えておりません。
それから、右側の医療戦略ファンドタスクフォースにつきましては、これから具体的に立ち上げる形になりますけれども、今のところは考えておりません。
○佐々木(憲)委員 それでは、健康・医療戦略を推進する司令塔のかなめの部分に密接な利害関係を有する業界代表が入る、これは大きな特徴だと私は思います。
民主党政権のもとでも似たような組織がつくられまして、2010年6月18日に閣議決定されました新成長戦略の中に七つの戦略分野がありまして、その一つとして「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」が位置づけられておりました。
その年、2010年11月8日に新成長戦略実現会議が開かれまして、内閣官房長官を議長とする医療イノベーション会議を設置することが決められました。
さらに、2011年1月7日、内閣官房のもとに医療イノベーション推進室が設置された。ここにも、医薬品業界、医療機器業界の代表が入っていたと思いますけれども、これは間違いありませんか。
○中垣政府参考人 ただいま御指摘いただきました医療イノベーション会議と申しますのは、国家戦略担当大臣を議長に、関係府省の大臣、内閣官房副長官で構成されておりましたけれども、医薬品や医療機器の業界団体の代表者がオブザーバーとして会議に参加していたと承知しております。
また、内閣官房に設置されました医療イノベーション推進室におきましても、業界団体の推薦を受けた者を職員に任用していた、このように承知いたしております。
○佐々木(憲)委員 当時から、日本製薬工業協会、日本医療機器産業連合会など、業界関係者が入っていたわけです。
安倍内閣は、昨年、2013年2月22日に、民主党政権下でつくられた医療イノベーション会議、医療イノベーション推進室、これを廃止して、健康・医療戦略室を設置したわけですね。新しくつくられた健康・医療戦略室のトップは菅官房長官でございます。
確認しますけれども、この健康・医療戦略室の中に、企画官あるいは参事官補佐として日本製薬工業協会、日本医療機器産業連合会のメンバーが入っていると思いますけれども、これは間違いありませんか。
○中垣政府参考人 内閣官房健康・医療戦略室に常駐する職員につきましては、日本製薬工業協会、日本医療機器産業連合会から推薦を受けた者を非常勤の国家公務員に任用しておるところでございます。
○佐々木(憲)委員 このように確認していきますと、初めから重要な部分に製薬業界、医療機器業界の関係者が入っている、戦略の作成にかかわっているということがわかるわけであります。
この体制のもとで進められようとしている健康・医療戦略のポイントは、一つは、先端医療の分野に資源配分を集中するということ、二つは、省庁の縦割りを排除して横断的な連携を進めるということ、三つ目は、基礎研究から実用化まで切れ目のない取り組みを行うということにあります。
簡単に言いますと、業界側が実用化の観点から基礎研究を選定し、そこから実用化に至るまで資金を集中する、こういうやり方だと思うんです。
官房長官にお聞きしますけれども、こういう戦略自体、業界側から出されたと見てよろしいんじゃないでしょうか。
○菅官房長官 そうした御指摘は全く当たらないと思います。
あくまで私たちは、世界の中で最も最高水準の医療体制をつくり上げること、そして同時に、健康・医療産業を戦略的に海外に輸出をしていく、そして人類の夢であります健康で長生きをすることのできる社会をつくっていきたい、そういう趣旨の中であります。
○佐々木(憲)委員 当たらないと言われましたけれども、例えば、製薬協の手代木会長は、2011年の「製薬協ガイド」というのがありまして、その中でこう述べているわけです。
「各省庁の枠を超えてのライフサイエンス関連予算の一本化、ならびにイノベーション施策の司令塔機能の強化を強く訴えてまいります。」そのため、関係省庁への政策提言活動を行います、こうしているわけですね。
つまり、業界側からこういう戦略を大いに提起していきたいと。そして、この業界の関係者を直接、国家戦略である健康・医療戦略の作成に当たらせる、そうなりますと、公平公正な政策が推進できるのかというような疑問が出てくるわけです。
例えば、今年度、科学技術振興費の4%相当分を内閣府が各省庁、関係省庁から計上させて、ボトムアップ部分に提供されている科研費の比重が相対的に低下するという結果を招いております。
先日の参考人質疑で、参考人の大隅氏はこう言っているんです。基礎研究に十分な配慮がなされているか、我が国の生命科学研究のパイの大きさ全体が全然足りない、我が国が健康・医療の研究開発を推進していくという上で、本当に予算がこれで十分なのかという問題提起をされました。
官房長官、この声にどのようにお応えになりますか。
○菅国務大臣 基礎研究というのは極めて重要である、そのことは、まさに自由に研究することによって、一般の国民が予期せぬような発見等もあり得るわけですから、そこは十分配慮させていただいております。
○佐々木(憲)委員 いただいておりますと言いますけれども、実際にその全体の基礎研究に係る予算が特定の分野に集中しますと、ほかの分野が手薄になりまして、基礎研究そのものが枯渇していく危険性があると専門家が指摘しているわけであります。全体のボトムアップ部分を予算をさらに拡充していくというのはまだわかりますけれども、現実には、選定が重点化されていくわけです、選定されて。そこのところを変えない限りは、この声に十分応えたことになりませんので、指摘をしておきたいと思います。
最新版の「製薬協ガイド2012―2013」を見ますと、こう書いております。
「製薬協としては、各省庁の枠を超えてのライフサイエンス関連予算の一本化、イノベーション施策の司令塔機能の強化、ならびに法人税の低減・研究開発に関する優遇税制の充実など、イノベーションの推進に重要な施策の実現をこれまで以上に強く訴えてまいります。」こう述べております、業界の立場から。
ここで、法人税を下げなさいとか、あるいは研究開発減税を充実しろとまで言っているわけですね。私は、これはまことに厚かましいんじゃないかと思っているんですけれども、製薬大企業は、これまで研究開発減税の恩恵を一番受けてきたわけですね。
財務省に確認したいんですけれども、業種別法人税の税負担率、繰越欠損金控除前の所得に対する割合ですけれども、この中で、医薬品の場合は何%になっているか、数字がわかりましたら、それもあわせて示していただきたいと思います。
○星野政府参考人(財務省大臣官房審議官) お答え申し上げます。
ただいま先生が御指摘になられました業種別の法人税の税負担率としての医薬品の数字でございますけれども、先般、3月末の政府税制調査会に提出いたしました数字でございますが、平成24年度の業種別法人税の税負担率の資料の中で、医薬品業に対します税負担といたしましては、租税特別措置による特別税額控除の影響の割合としては5%、それから、医薬品業全体の税負担率としては19・9%という数字になっております。
○佐々木(憲)委員 結局、法人税率は25・5ですね、国税の場合。これが19・9、相当低くなっているわけです。研究開発減税の恩恵というのは膨大なものでありまして、これは、今の御答弁は国税分であります。
各社の有価証券報告書を見ますと、例えば、医療用医薬品国内売り上げトップの武田薬品の場合は、研究開発費が3243億円、売上高に占める割合が20・8%、非常に高い。そのため、国税、地方税を含む法人税の実効税率は、本来38%ですけれども、試験研究費などの税額控除によって25・8ポイントも税率が軽減されております。第二位のアステラス製薬は、研究開発費が1820億円、売上高に占める割合は18・1%ですけれども、国税、地方税を含む法人税の実効税率は37・7%ですが、2・5ポイント、税率が軽減されております。第三位の第13共は、研究開発費が1830億円、売上高に占める割合は18・3%、実効税率は37・8%ですけれども、この減税効果適用後は26%しか法人税を負担していない等々、挙げればもっと挙げられますけれども、時間がありません。ほかの企業も同様であります。
国民には消費税、今大変な負担になっているわけですね。製薬業界にさらに減税せよというのは、これはちょっと不公平ではないかと私は思いますが、官房長官、どのようにお考えでしょうか。
○菅国務大臣 製薬業界ということだけでなくて、まさに国際社会の中で日本のそうした法人が同等に競争できるような環境を整備していくことは、ここは政府の大きな責任の一つだというふうに考えています。
○佐々木(憲)委員 法人税の減税を次から次へと要望して、減税しても減税しても、内部留保が膨れるだけで、実際には賃金にも回らないし、本当に効果があるのかというふうに思うんです。
例えば、武田薬品の場合、内部留保が幾らあると思いますか。2兆4295億円ですよ。莫大なものですね。大塚ホールディングスの内部留保は1兆3407億円、アステラス製薬は1兆1171億円です。こんなに積み上がって、減税すればするほど積み上がっていっている、これを活用しないといけないのではないか。
それだけではなくて、私がここで指摘したいのは、これだけの膨大な内部留保を抱えて減税を受けている、そういう企業が自民党に献金をふやしているわけですよ。製薬協に加盟している企業は72社あります。自民党の政治資金団体である国民政治協会が受け取った製薬協の会員会社からの政治献金は、2011年は5074万円であります。2012年は6800万円。増加しているんですね。政権に復帰した2013年の数字はまだ出ていないですけれども、さらに増加しているかもしれません。
これは、製薬業界と自民党の癒着じゃないかと言われても仕方がないと思いますよ。官房長官、どう思いますか。
○菅国務大臣 そこは当たらないと思いますし、自民党では、適切に法律に基づいて対応しているというふうに思っています。
○佐々木(憲)委員 製薬業界を初め関連業界が自民党に、自民党だけではありませんけれども、たくさんの政治献金を提供する。それを受け取って、そして、その関係業界の関係者をこういう戦略の非常に重要なかなめになる組織のところに次々と据えつけているわけですね。それで、その戦略を受けて全体の国家戦略を組み立てる、これは大きな癒着関係にあるというふうに私は言わざるを得ないですね。
その結果、国民の側からいいますと、やはり研究の特定分野への偏重、そしてそのほかの分野の研究費の枯渇状況、こういうものを促してしまう。結果として、国家戦略として考えていた研究開発全体が、進むどころか、大きな後退を招いてしまうのではないか、私はそういう危機感を持っております。
したがって、今回のこういうやり方については、非常にいろいろ問題があるというふうに思っておりまして、賛成できないという立場でございます。
以上述べまして、終わらせていただきます。
関連ファイル
- 【配布資料】(pdf)