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その他 (規制緩和, 「成長戦略」, 国家戦略特区)

2013年11月14日 第185回 臨時国会 内閣委員会≪参考人質疑≫ 【755】 - 質問

国家戦略特区法案「人権無法地帯つくる」参考人が懸念

 2013年11月14日、内閣委員会は、地域を指定して大企業の規制緩和と優遇税制を進める国家戦略特区法案の参考人質疑を行いました。
 参考人として、八田達夫・大阪大学招聘教授、山口二郎・北海道大学大学院法学研究科教授、原英史・株式会社政策工房代表取締役社長、八代尚宏・国際基督教大学客員教授・昭和女子大学特命教授の4氏が出席しました。
 13日の質問に引き続いて、佐々木憲昭議員が質問に立ちました。

 国家戦略特区の具体策を検討したワーキンググループ(WG)座長の八田氏は「画期的な改革だ」とこの法案を自画自賛。山口氏は「雇用や医療など国民生活に密接にかかわる分野で、地域限定で規制緩和し、競争原理にさらすのならば、基本的人権を保障しない無法地帯、番外地をつくる結果になる」と懸念を表明しました。

 佐々木憲昭議員は、国家戦略特区WGの議事録、資料の一部が八田氏の判断で「非公表」とされていることを指摘。八田氏は「原則、公開というのは賛成だ」と述べざるをえませんでした。

 法案が安倍総理直結で作成され、「国民の声が反映する仕組みがない」と指摘した佐々木議員に対し、山口氏は「(特区は)金もうけという一つの原理で既存の仕組みを変えようというもの。特定の価値観に立った主張が適切かどうか、広く国民的な議論を仰ぐべきだ」と述べました。

議事録

○柴山委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、国家戦略特別区域法案を議題といたします。
 本日は、本案審査のため、参考人として、大阪大学招聘教授八田達夫君、北海道大学大学院法学研究科教授山口二郎君、株式会社政策工房代表取締役社長原英史君、国際基督教大学客員教授・昭和女子大学特命教授八代尚宏君、以上四名の方々から御意見を承ることにいたしております。
 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。本案について、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 八田参考人、山口参考人、原参考人、八代参考人の順にお一人15分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、参考人各位に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
 それでは、八田参考人にお願いいたします。
○八田参考人 おはようございます。
 本日は、私に、特区に関する考えを述べさせていただく機会を与えてくださいまして、まことにありがとうございます。
 題としては、「国家戦略特区で何が出来るのか」という題でハンドアウトを書きました。
 まず第一に、国家戦略特区というのは、総合特区という、ここのところ数年、非常に各地方が力を入れてきたものとどこが違うんだろうかということをよく伺いますので、まず、その比較をしようと思います。
 総合特区というのは、手挙げ方式です。各自治体が、こういう規制改革、こういう財政補助をしてほしい、そして、それをやれば地域が活性化するだろう、そういう形で、地域活性化のために手挙げ方式で幾つもの候補が挙がった中から、これはよさそうだというので選ぶ、これが総合特区であります。
 それに対して、戦略特区は、手挙げ方式ではなくて、国が主体になって、成長戦略の観点からこういう規制改革が必要だ、そして、それが国全体を伸ばすんだという考えから地域を指定する、そういう考えの特区であります。
 したがって、ここでどういう規制改革をするかというようなことは、かなり大玉の、日本全体にとって必要な改革をやろう、そういうことが目的であります。
 私自身は、この両方ともがそれぞれの役割があると思います。一方は地方活性化のため、もう一つは国全体の観点から見た規制改革ということであります。
 そして、この国家戦略特区の方は、当初構想されたときから規制改革が中心であるということがうたわれ、安倍総理御自身も、規制改革の一丁目一番地にするんだというようなことを何度かおっしゃっております。
 したがって、ここでは、本当に小さな規制改革というのも実は地方活性化のために非常に必要なんですが、まずは大きなところをやりましょうということです。
 ここで、一言、規制改革というものが、いろいろと色をつけて見られることがありますので、どういうものかということについての私の考えを述べさせていただきますが、基本的には、日本は自由な国です。営業の自由も職業選択の自由も住居選択の自由も、そういうものは全部認められている。とにかく自由がこの国の一番の基本であります。
 ただし、その自由は、もちろん制約を受ける、公共の福祉に反しない限りという制約を受ける。明確な公共の福祉に反するものがあった場合には、その自由を制限する規制が必要です。それは目的が明確でなければならない。
 そして、その公共の福祉に反するというのは、恐らく、経済学で言う外部性だとか、それから独占による弊害だとか、情報の非対称性、お薬についてどれだけの効果があるかわからない、副作用があるかわからないというときに、任せておいたら全く市場が成立しませんから、そういうものは国が関与して、きちんと認定してあげる。それから、公共財のようなものを提供する。
 そういうかなり限定された公共の福祉の目的のために国が関与するということは認められているが、それがない限りは徹底的に自由であるということが憲法の趣旨でもあるし、それから経済学の考え方でも、そうすることによって資源が効率的に配分されるというのがある。
 ところが、現実には、既得権を持った人が参入を制限する、そういう規制が満ちあふれているわけですね。それが農業しかり、労働しかり、医療しかりです。だから、その既得権によってもっともらしい理由をつけて参入制限して、本当に有能な人が入ってこれない、それは困るじゃないかというのがこの規制改革の大きな動きであります。
 したがって、規制改革全般がよくないとかいいとかいう議論というのは意味がないことで、その規制の元来の目的に照らして、今の規制が実は既得権を守るためにできているのか、それとも、本当に公共の福祉のために役に立つのか、そこを精査する必要があると思います。
 私どもは、それを精査した上で、元来の自由を取り戻すべきことは取り戻すというのが、この成長戦略の本旨だと思いまして、戦略特区でやってまいりました。
 さて、この国家戦略特区法の構造ですが、これは非常に簡単で、二つの部分に分かれております。
 一つは、意思決定組織の設計です。これはよく言われておりますように、この組織の特色は、特区諮問会議というものがトップにあって、そして特区ごとに統合推進本部、今度法律では特区会議と呼ばれることになりましたが、これは両方ともの名前が使われていますけれども、特区ごとの会議、この二本立てでいくというのが基本構想であります。
 それから、もう一つの法律の部分は、規制改革の短冊です。これは、もとの法律について手をつけるんじゃなくて、この特区では何とか法の何条について適用除外にし、こういうことにする、そういうふうに短冊がずらりと並べられている、この二つであります。
 そうすると、区域の選定はどこに行ったんだとおっしゃるかもしれないけれども、区域の選定は、この法律ができた後、特区諮問会議がされるということになります。しかし、その諮問会議ができた段階で、既にどのような規制改革、法律の改革ができているかということも、全部手元にこの法律があって、それを組み合わせてその特区ごとに改革が行える、そういう仕組みになっています。
 これが、もし最初に区域を選んで、それからどういう規制改革ができるかということを交渉したのなら、ある意味で、区域はもうとりこになってしまっているわけですが、その後、役所が嫌だよと言ったらそれでおしまいになってしまいますから、とにかく一番ハードルの高い規制改革のところは最初にとってしまった、そういうわけであります。
 それで、この特区諮問会議についての構造ですが、これは特区担当大臣が入られるということは当然なんですが、特区諮問会議自体は、総理大臣がお入りになって、そして民間有識者も入り、そして最終的には総理大臣がお決めになる。だから、私どもとしては経済財政諮問会議のような姿を考えております。
 それから統合推進本部というのは、自治体の長とそれから特区担当大臣とそれから事業者、これは総理が選ばれた事業者という者が入るということになっております。
 さて、特区法の特色を述べてみたいんですが。
 まずは、今までの総合特区なんかと比べて、国が積極的関与をするということが非常に強く出ています。その第一の特色は、この諮問会議が法律で位置づけられているということです。実は、規制改革会議は法律で位置づけられているわけではないんですね。今の会議でいえば、経済財政諮問会議が法律で位置づけられていますから、それと同レベルであるということです。
 それからもう一つは、最終的な、ここに御提出している法案では、諮問会議とか統合推進本部の常任メンバーに関係大臣が含まれない。臨時では諮問会議にお入りになるかもしれませんけれども、規制官庁の大臣がお入りにならない。それから統合推進本部では、十分各官庁の御意見は伺うけれども、意思決定には加わらない、そういう仕組みになりました。
 ということは、実に総理主導ということが貫徹した組織になっています。このことはマスコミで余り注目されていませんが、今後、特区でさまざまな規制改革の必要性が認識されると、それが推進本部で取り上げられ、そして諮問会議に上げられて、諮問会議で新たな規制改革が行われていくことになりました。これはかつてない、規制改革の強力な推進機関になると思います。
 これは、規制改革の一番難しいところはいつも、既得権を持った集団ですから、そこを破るには、最終的には首相の御決断ということが必要なので、それができるようになったのは大きいと思います。
 二ページ目に参りまして、戦略特区で行われる規制改革項目の主なものです。
 この項目では、全体的にどんなものができたかというサマリーは三ページ目に書いてありまして、星取り表まで書いてありまして、本当にバッテンだったというのは地方議会のところだけで、あとはかなりマルで、私どもはとれるものはとったという、自分で言うのも変ですけれども、かなり画期的な改革だったと思っています。
 特に岩盤規制という、労働、医療、農業で、今まで何年も何も動かなかったところに対して、あるいは検討するだけで終わっていたところに対して、実際の改革が行われるようになった。
 例えば5年以内の有期雇用の特例というのを、これは特区で、高度の専門人材に関しては、5年を過ぎた後でも契約を繰り返すようにしてもらいたい、そういうことを労働者もそれから雇う方も望むならば、そういう契約ができるようにしてほしいということをずっと主張したところ、これが全国でもって展開することになり、今度の通常国会でそれが決まるということになりました。
 雇用に関しても、私どもは、例えば差別があって、差別のために解雇するなんてことはあり得ないし、それから有期雇用の延長をしないなんてことはあり得ないし、それからいわゆる解雇権の濫用があってはならない、そういうことはよくよく周知していますし、それから、ある種の契約を押しつけるというようなことが交渉力のない人に対してあってはならないということも熟知しています。
 しかし、ここで取り上げたのは、例えば弁護士とか会計士とか修士、博士、そういう人たち、そういう自分の職業の選択肢をちゃんと認識できる人たち、そういう人に関しては、元来の自由な契約形態に戻そうじゃないかということであります。これに関しては、それであるにもかかわらず、全くそれとは別な対象にしているというようなことが言われましたが、そういうことはありません。
 それから、農業に関して一言申し上げますと、従来は、銀行や信用金庫は農業にお金を貸すことができなかった。これは、担保として土地をとってもしようがないからです、農地法で使えませんから。しかし、中小企業は信用保証制度というのがあって、無担保でも借りて、返せなかったら保険が出るという仕組みがあります。これも、農業だけが適用除外だった。今度から農業生産法人も使えるようになりました。これは、長年規制改革で言ってきたことが、ついに実現することになりました。
 さて、これまで、最近の新聞でも、何か改革が小粒だったというような批判があるんですが、それは、とにかくこれまでの10年間の規制改革と比較していただきたい。全く無知に基づく主張だと思います。
 それから最後に、今後の諮問会議の役割としては、区域の選定ということがあると思います。それから、それに続いて大きな規制改革を今後も続けていく、それが今後の仕事になるだろうと思います。
 どうもありがとうございました。(拍手)
○柴山委員長 ありがとうございました。
 次に、山口参考人にお願いいたします。
○山口参考人 おはようございます。北海道大学の山口です。
 私は、どちらかというと、この規制緩和路線に対して疑問を呈する側から、幾つか問題点をお話ししたいと思います。
 第一の問題は、この特区法の根本にあります、いわゆる第三の矢、成長戦略に関する疑問であります。
 既にいろいろな人が指摘しておりますが、この成長戦略、成長路線というものは、2000年代に展開されました小泉政権下のいわゆる新自由主義的な構造改革の再現ということになると思います。その時代、確かに景気は戦後最長の拡大を続けましたが、同時に、労働者の賃金は下がり続ける、企業収益は上がるが賃金は下がるという現象が起こったわけであります。
 その分配の仕組み、あるいは雇用に関するいろいろなルールをそのままにしておいて、また今回、企業収益が改善しているとしても、一時金、大企業のボーナスはふえるかもしれませんが、普通の人々の生活に富が還元されるということは期待できないと思います。
 今回、安倍政権のもとで成長戦略がさまざまに議論されておりますが、この議論の仕方そのものについても私は大きな疑問を持っております。規制緩和はすなわち善なのかという疑問であります。
 特定の人の名前を挙げて恐縮ですが、産業競争力会議の委員をしていた三木谷さんという方、薬のネット販売の解禁について、100%解禁じゃないといって、委員を辞すると気炎を上げておられます。
 私は、楽天イーグルスの優勝には非常に拍手をしていまして、ああいう形のチャレンジ、競争というのは大いに結構だと思います。しかしながら、三木谷さんの言い分というのは、あたかも、楽天イーグルスはピッチャー中心のチームだから、楽天が勝てるように、ストライク三つでアウトじゃなくて、ストライク二つでアウトになるようにルールを変えろと言っているようなものであります。
 審議会の委員というのは、自分の企業、自分の利益をただふやすための道具なのか。これは、極めて根本的な問題です。医療、労働等の審議会においては、あらかじめ立場が異なることを前提として、それぞれの立場の代表者を入れ、それに中立、公益を代表する人が入り、全体として国のために何が必要か、公益とは何かという議論をする仕組みになっておりますが、今回の競争力会議等は、もう露骨に自分たちの利益を追求するということが展開をされております。これは、はっきり言って、公の解体あるいは国家の私物化とでも言うべき現象であります。
 戦後教育が私的な権利ばかり主張する人間を育てていって、公を尊重する気持ちが低下しているという批判が特に保守的な立場の議員の方々からよく聞かれますが、それに照らして言うならば、ああいう審議会であられもなく自分の利益を追求する人々こそ、戦後教育のもたらした所産だ。これに対して保守的な先生方はなぜ批判をしないのか。深谷隆司先生がネットでこの点については的確な批判をしておられましたが、そのような見識のある声をぜひ聞きたいと私は思っております。
 二つ目の問題として、今回の特区法案そのものについて特にきょうのほかのお三方とは違う観点から、すなわち、法律的な観点から少し疑問を申し上げたいと思います。
 憲法第95条では、一つの地方公共団体のみに適用する法律に関しては、その地方公共団体の住民投票による合意がなければ法律は制定できないと規定してあります。この95条の立法の趣旨は、国の法律によって特定の地方公共団体の自治を剥奪する、あるいは特定の地方公共団体の住民に対して法のもとの平等を侵害するということを防ぐという点にあります。
 今回の特区法案は適用する地方公共団体がまだ具体化されておりませんから、この特区法案そのものについて95条に基づく住民投票が必要だと主張するのは、やや無理があるだろうとは思います。しかしながら、その特区法ができた後、具体的に地域指定をして、雇用とか医療とか建築等々といった分野についてほかの地域とは違う基準を当てはめるということになりますと、いわば行政の意思決定によって特定地方公共団体の住民が本来持つべき権利を侵害するという危険があるわけであります。
 したがって、特区の地域指定あるいはその特区の中身でどのような規制緩和を行うのかということについて、地方からの意見を述べる機会を保障する、あるいは地方の側の同意を得るという手続を課すといった点でもう少し議論を深めていただきたいと思うわけであります。現状では、上からの主導で特区を指定する、そして特定地方公共団体について、ある人にとってはそれはビジネスチャンスの拡大かもしれないけれども、違う立場の人にとっては権利の侵害であるような事態が生じ得るわけであります。
 一国多制度という理念、これは、私自身もかつて論文の中で日本にも必要なアイデアではないかということは主張しました。
 ヨーロッパでは、スウェーデン等で一国多制度が進んでおりますし、イギリスではスコットランドの地方分権など、一つの国の中にいろいろなスタンダードがあるという改革は既にかなり進んでおります。この場合は、やはり下からの参加、提案に基づいて一国多制度が展開されているわけでありまして、そうすると、やはり自治体の創意工夫で多様な政策を展開していくという話になります。
 今回の特区は、いわば上からのリーダーシップの発揮というか、あるいは押しつけというか、住民あるいは地方不在の改革が進んでいくという懸念があります。したがって、特区の運用の中で住民や地方議会の発言権をどのように組み込むか。知事あるいは市町村長が会議に入るだけではやはり不十分でありまして、特区の具体的な中身、効果、予想される危険性等について地方の声をしっかりと取り入れるという工夫をしていただきたいと思うわけであります。
 さて、三つ目の論点として、特に、今回の特区法案の中で争点になりました、雇用をめぐる規制について、少し問題点を述べたいと思います。
 雇用市場の柔軟化、労働市場の柔軟化ということがずっと十数年来主張されてまいりました。その中で、ヨーロッパにおける成功例がしばしば参照されます。例えば、デンマークという国が一つのモデルであります。
 デンマークは、いわゆる社会民主主義の政権がいろいろな改革をする中で、労働市場の柔軟化、これはフレキシビリティーとソーシャルセキュリティーの二つの言葉を合わせて、フレクシキュリティーなどと言われるモデルをつくりました。
 私は、10年ほど前にデンマーク元首相のラスムッセンさんを日本にお招きしてお話を伺いました。その中で、ラスムッセンさんは、デンマークは世界で一番労働者を解雇しやすい国です、社会民主主義系の元首相がそういうことを胸を張っておっしゃるわけですね。ただし、同時に、デンマークは世界で最も国民が失業を恐れない国でありますとおっしゃいました。つまり、柔軟な労働市場の背後には、いわば解雇された、職を失った人が安心して次の仕事を探せるように、その間の生活を支える安定した基盤が存在しているということをラスムッセンさんは強調されたわけです。すなわち、失業給付、住宅、教育雇用訓練、医療、子供の教育等々、人間の生活を支えるさまざまな社会サービスが安定していて、常に必要に応じて供給されるという仕組みがあるからこそ、労働市場の柔軟化は可能になるわけです。
 今回の特区の話を聞きまして、私は、これはデンマークモデルのいいところ取りではないか、特に雇う側にとってのいいところ取りではないかという疑問を持つわけであります。
 雇用に関するルールを地域限定で緩和しますということなんですけれども、では、いわば流動化でもって仕事の安定性を失う、働く側に対するケアはどうなのかと。雇用保険とかさまざまな社会政策というのは、これはやはり国全体をカバーするいわゆるセーフティーネットでありまして、地域限定でここだけ雇用保険の給付金額を上げますとかいう話は、やはり無理ですよね。ですから、いわばルールを変えて労働市場を柔軟化していく、しかしながら、そのために発生する拡大したリスクについては、その特定の地方自治体の住民が背負えというのは、やはり非常に均衡を失した話ではないかと考えるわけであります。
 そういう意味で、仮に、雇用を柔軟化する、いわばデンマークやオランダ等のモデルを日本でも追求していくということであれば、これは、地域限定でできるところからやっていくということではなくて、やはり国全体の社会のモデルというものを考えて、柔軟化に伴うリスクの拡大に対してそれをどのようにカバーするかという国全体のセーフティーネットの議論を同時にしていかなければならないだろうと思います。
 その点で、雇用や医療等、国民の生活に密接にかかわる分野に関して、地域限定で規制を緩和して競争原理にさらす、あるいは利益追求をもっと拡大していくということになりますと、特区というものは、いわば基本的人権を保障しない、法律の保護外の無法地帯あるいは番外地をつくるという結果になるのではないかということを私は大変懸念しているわけであります。
 全体として、もちろん経済の活性化は大いに結構でありますし、私もデンマークモデルについては日本にとっても非常に参考になるものだと。観念的に規制緩和は悪だという議論はするつもりはありません。
 しかしながら、一方で、競争を促進してリスクを拡大するのであれば、やはりそれに対応するセーフティーネットについてもバランスをとって議論をしていただきたいということを再度申し上げて、私の意見を終わりといたします。
 ありがとうございました。(拍手)
○柴山委員長 ありがとうございました。
 次に、原参考人にお願いいたします。
○原参考人 おはようございます。政策コンサルティングの会社を運営しております原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 国家戦略特区ワーキンググループの委員、また大阪府、大阪市の特別顧問なども務めております。そうした視点も含めて、国家戦略特区法案について意見を申し述べさせていただきます。
 今回の国家戦略特区、もともと、産業競争力会議において、成長戦略に向けての議論を行う中で、民間議員から提案がなされました。私は、産業競争力会議の民間議員のサポート役も務めておりまして、この提案には当初からかかわっておりました。
 八田参考人のお話と若干重なる部分があるかと思いますが、当初の提案の考え方に触れつつ、今回の法案に関する留意点を指摘したいと思います。
 まず、国家戦略特区という制度を創設する目的についてであります。
 目的は、規制改革の実験場として、特区で突破口を開くということであります。
 我が国には、さまざまな分野で、自由なビジネス活動を阻害する、合理性が必ずしもない規制が根強く存在しています。こうした規制を取り払うことこそ経済成長を最も効果的に実現する方策である、先ほどの山口参考人の御意見とは若干異なるかもしれませんが、こう考えております。
 いわゆる岩盤規制と呼ばれるような領域など、これまでも改革の必要性が指摘されながら、なかなか手をつけられずに来ました。
 そこで、全国一斉で前進を目指してもなかなか達成できないようなハードルの高い規制改革について突破口を開くということが、今回の国家戦略特区の根幹であります。
 これに関して、留意しておくべき点を二つ挙げたいと思います。
 第一に、特区は規制改革の場である、すなわち、ビジネス活動の自由度を高めるための場であります。この観点で、自由度が最大限に生かされるような運用が肝要であります。
 今回の法案では、例えば、特別区域計画を定めて認定を受けるといった仕組みが法定されています。こうした仕組みの必要性そのものはもちろん否定いたしませんが、問題は、こうした制度は、役所に運用を任せておくと硬直的な運用になりがちであるということだと思います。すなわち、事前に詳細に計画を確定して役所の認定を受け、民間事業者は役所のコントロールのもとでのみ活動が認められるといった運用になってしまうことがしばしばあります。これでは、国家戦略特区の価値は大きく損なわれます。
 政府は、自由なビジネス活動の環境を整えることに徹し、ビジネスへの介入は最低限にとどめるよう、十分な留意が必要と考えます。
 第二に、主眼はあくまで規制改革ということであります。ここでいう規制改革には、最大の規制である税制の改革も含まれます。規制改革の実現、これを徹底して追求することが重要と考えます。
 仮に、政策メニューとして規制改革と支援措置という両方が目の前に示されている場合、官庁は往々にして支援措置の方に力を入れがちになることがあります。なぜならば、規制と支援、これはどちらも役所にとっては権力の源泉というようなものであります。権力の源泉を減少させようという規制改革より支援措置に傾くというのは、いわば当然のこととも言えるわけであります。
 一方、現場の事業者なども、本当は規制改革が必要とわかっていながらも、短期的には、あえてハードルの高い規制改革に挑むより、補助金をもらうといったことの方を志向しがちなことがあります。
 このように、政策の供給主体、受け手双方において、規制改革より支援措置につい流れがちであるという傾向がある中で、今回の特区制度で本来の目的を達成するためには、あくまで規制改革が主眼ということを明確にして運用していくことが重要と考えます。
 次に、こうした目的を実現するための制度の枠組みについてお話しいたします。
 産業競争力会議における当初の民間議員の提案では、特区担当大臣、国、地方、民間の一体となった統合本部、それから特区諮問会議という三つの仕組みを提案いたしました。
 私の配付した資料の最後のページに、提案のイメージ図を添付しております。
 この枠組みでございますが、これまでの長年にわたる規制改革の取り組み、構造改革特区、総合特区といったものにおける成功と失敗を踏まえて、どうしたら規制改革を実効的に実現できるのかという視点で、これまで規制改革にかかわってきた方々のお知恵もかりながら、我々の考えるいわば理想形の枠組みをつくって提示したつもりであります。
 具体的には、まず第一に、特区担当大臣の創設です。
 かつて、構造改革特区、これは初期には、例えば農業へのリース方式での企業参入など、大変大きな成果が上げられました。この時期には特区担当、ほぼ専任の大臣が置かれていて、その果たされた役割は極めて大きかったと考えております。
 第二に、特区ごとに、国、地方、民間、この三者が一体となった統合推進本部、これは法律上の用語では特別区域会議ということになっておりますが、これを設けることであります。これは、特区内におけるいわばミニ独立政府と考えております。
 従来の規制改革や特区の運用では、現場レベルの規制改革ニーズが抑え込まれてしまって、なかなか表に浮かび上がってこないということもありました。これを防ぐため、この提案では、特区担当大臣、首長、民間代表で構成する統合本部を設け、現場の規制改革ニーズを特区担当大臣がダイレクトに吸い上げる、さらに、制度の運用、推進を行っていくという仕組みをつくっています。
 第三に、特区諮問会議です。
 過去の歴史を振り返れば、やはり規制改革における最大の難関は、規制を所管する省庁の壁をどう突破するかであります。特区諮問会議は、そのため、特区担当大臣と規制担当大臣で民間有識者も交えて議論をし、その上で最後は総理が決定をするという枠組みを設けるものであります。
 今回、政府で提出された国家戦略特区法案、ここでは、こうした当初の提案内容が基本的に全てそのまま反映されていると認識しています。法案の検討プロセスにおいては、一時、当初の提案とややずれた方向に向かいかけたこともあったやに聞いておりますが、自民党における議論、あるいはさらに安倍総理のリーダーシップ、例えば、規制を所管する関係大臣は意思決定には参加させないという方針を総理が明確に示されたといったことによって、理想形にほぼ近い形で法案化が達成されました。これは大いに評価すべきと考えます。
 ただ、留意点もあります。
 第一に、統合推進本部の運営に関してです。
 この本部は、先ほど申し上げたように、国、地方、民間が一体となったミニ独立政府となるべきであります。国、地方、民間がばらばらに、それぞれの立場を主張し合う会議であってはならないと考えます。まして、それぞれのメンバーが会議において拒否権を有するような運営がなされれば、特区におけるスピーディーな意思決定と推進が大きく妨げられかねません。
 この観点で見ると、法案第八条第六項で、特区会議における決定の仕組みとして、構成員の全員の合意という規定がなされていることには若干の危惧を持っております。三者が一体となってという基本に沿って制度が運用されるよう留意が必要と考えます。
 第二に、特区諮問会議での意思決定については、最後は総理が決定する仕組みとすることが重要です。
 この点、法案第八条第九項で、特区諮問会議での審議を経て総理が意思決定を行う際に、関係大臣の同意を得なければならないという規定があります。これは運用次第では、関係大臣が反対すれば物事が何も進まないという仕組みにもなりかねませんので、ここも運用上の工夫、留意が必要かと思います。
 枠組みに関して、さらに今後の課題として二点申し上げます。
 第一に、今回の法案では、国家戦略特区の枠内で制度を組み立てております。その先の課題として、全国レベルでの規制改革との統合ないし一体的運用をどう確保するかも重要だと考えます。
 今回、個別の規制改革項目について各省と議論する中でも、特区にはなじまない、特区ではできないといった議論があちこちで出てきました。例えば雇用ですとか地方議会の被選挙権といったものでありますが、私自身、これらについて特区にはなじまないというようには考えませんが、ただ、こうした主張が出てきた際に、特区でできないなら、それでは全国でと迫れるようにしておくことは重要と考えます。
 このため、規制改革会議との緊密な連携、さらに、将来的には事務局や組織の統合一体化といったことも課題でないかと考えます。
 第二に、情報公開のさらなる徹底であります。
 これは、八田参考人や八代参考人が過去になされてきたことでありますが、過去の規制改革会議などでは情報公開の徹底を大きな武器としてきました。つまり、議論を国民の前に公開し、どちらに理があるか国民が判断できるようにして議論を進めていく。これによって、表で堂々と言えないような理由で頑張り続けることは難しくなり、結果として、規制改革の前進につながってきたと思います。
 今回の法案決定に至るプロセスでは、時間的な制約がやや厳しかったこともありまして、情報公開がやや後手に回ってしまった面があり、これは反省点だと思っております。
 例えば、雇用ルールについて、特区ワーキンググループで首切り自由化を検討しているといった、全く誤った報道がなされたことがありました。もともとワーキンググループで議論しておりましたのは、一貫して、ルールの明確化、これによって雇用の拡大を図るということでしたが、この意図が全く誤解されて、報道がなされました。
 さらに、政府の結論として雇用ルールの明確化が実現したわけですが、そうすると、今度は、首切り自由化という当初の提案から後退したから問題だといって、再び批判を浴びました。私から見れば、二重に誤った批判であります。
 八田座長は、何度かの記者会見を行うなど、極めて丁寧な対外発信をなさっていたと思いますが、今後の課題として、やはり、こうした誤解を生むことのないように、議論の情報公開をより一層徹底していくということが課題かと思います。
 最後に、規制改革の各論について触れます。
 今回の法案決定に至るプロセスでは、特区諮問会議などの正式な枠組みはまだスタートしていない段階ながら、ワーキンググループを使って相当の成果が得られたと思っております。
 先ほど八田参考人から、今回の成果が小粒だというのは不見識だというお話がありましたが、この点は私も全く同感です。八田参考人が挙げられた、最後の、表のつけられていた15項目には、これまで長年にわたって、問題提起されては何度もはね返されてきた課題が幾つも含まれています。例えば、外国医師による診療、病床規制、医学部新設、雇用ルールの明確化、公設民営学校、容積率規制の転換、農業委員会、農業信用保証など、いずれもそうした例だと思います。
 もちろん、抜けている例を探すことは簡単です。一回の国会の会期で日本の岩盤規制全てを解決し切ることはできるわけがなくて、残された課題は、当然、数多くあります。そのために、先ほど申し上げた、統合本部や特区諮問会議などの枠組みをつくって、さらなる規制改革を引き続き推進できるようにしているということだと思います。
 その上で、今回抜けている課題を私なりに幾つか挙げますと、配付資料にも書いておりますが、抜けている課題として、例えば、税制、金融、空港などの交通インフラ、外国人労働者など。それから、今回、取り上げたが十分に実現できなかった課題として、雇用、これは労働時間の問題ですとか、農業の企業参入といったような課題があるかと思います。
 今後、この特区制度がよりよく運用され、さらなる規制改革が強力に推進されていくということを強く期待いたしまして、私の意見陳述を終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
○柴山委員長 ありがとうございました。
 次に、八代参考人にお願いいたします。
○八代参考人 おはようございます。
 私は、直接この国家戦略特区のワーキンググループには関与しておりませんで、いわば外から見た形でこの問題を考えたいと思います。
 私は、かつて、規制改革会議で構造改革特区をつくるときの直接の責任者でもありましたし、あと、できた特区を全国展開するときの評価をする委員会の委員長もやっておりましたので、いかに日本にはくだらない規制があるかというのをつくづく認識しまして、何でこんな規制があるんだろうという体験を非常にしたわけであります。
 規制というのは、当然ながら、それができたときの経済社会環境に適応してつくられたものであるわけです。しかし、日本のように、戦後、急速に経済が発展し、社会が変わってくると、当然ながら、つくられたときには合理的であった規制が古くなるのは当たり前のことでありまして、そもそも、規制改革が是か非かという問題の立て方自体がナンセンスであるわけでして、経済社会の環境に適さない規制は当然変えるべきである、どの方向に変えるかをきちっと議論しなければいけないかと思います。
 先ほど八田参考人が、非常に経済学的な観点から、どういうときに規制すべきか、そうでないかというお話をされましたが、それに加えて、一番センシティブなのは、例えば雇用、労働問題ですけれども、およそ規制が労働者にとって有利であって、規制緩和が労働者にとって不利であるという非常に単純な分け方というのは、私は極めて問題だと思います。
 例えば、規制で雇用が守られるかということを言えば、既に雇われている人の雇用は当然守られる面が多いんですが、雇われていない人に対しては、むしろ規制があるがゆえに雇用機会が減ってしまう。労働者全体から見て最適な規制は何かということをきちっと考えなければいけないわけであります。
 後でもお話が出ます有期雇用契約の5年以内の規制というのは、当然ながら、有期の人が安定した無期雇用になれることを目指してつくられたわけですけれども、その結果、結局、企業が5年以内にその人を解雇してしまえば、かえって不安定になるわけですね。これまで例えば6年、7年と働いていた人が結局4年ぐらいで仕事をやめざるを得ない状況になって、本当にこれが労働者のための規制なのか、非常に疑問があるわけですね。
 ですから、なぜ特区でそういうことをするのかというと、これは、例えば一部の専門的な労働者ですけれども、そういう規制を、例外をつくることによって本当に雇用がふえるのか、減るのかというのを試してみよう、そういう一つの試みが特区であるわけで、特区は社会的な実験だと言われるのはそういう意味であって、過去の日本のように、どこかすぐれた先進国、アメリカやフランスやデンマークをとってきて、それを目指して変えるというような余地が今の日本では余りないわけでありまして、日本自身がみずから何が最適な制度、規制かを考えていかなきゃいけない。
 そのときに、単に国の審議会で議論して、これでいこうというのは余りにも危険なわけでして、やはり、自治体の協力を得て、特定の地域で何が最適な規制かを試してみる。それによっていい成果が上げられれば、全国に展開していく。特区というのは、そういう意味で極めて重要な役割を果たしているかと思います。
 だからこそ、これまで、私のレジュメ一に書いてありますように、大きく分けて四つの特区があったわけで、沖縄、構造改革、総合特区、復興特区というのがあるわけですけれども、この四つの中で類型が二つできると私は思います。
 すなわち、沖縄、総合、復興というのは、あくまで地域振興のため、地域振興を目的としているわけで、特定の地域に限って規制を改革し、あるいは財政的な支援をすることで、その地域の経済活動を発展させる。
 これに対して、構造改革特区というのは、先ほど言った社会的実験というのをより主体にしたわけでありまして、決して特定の地域の特権にしてはいけないということであります。あくまでそこは実験場であって、それがうまくいけば速やかに全国に展開する。これを評価委員会の方でやっていたわけであります。
 私は、今回の国家戦略特区は、どちらかといえば構造改革特区の遺伝子といいますか、この考え方をやはり強く受けたものであることが望ましいと思います。
 構造改革特区の比較ということですが、国が規制改革のメニューをつくって、自治体の首長さんとの協力で、トップダウンで意思決定をする。決して住民の意向を無視するようなことはあり得ないわけで、それは、代表制民主主義ですから、首長さんというのは、地域の住民、議会の利益を体現して行動、活動する、それに問題があれば地元の方できちっとチェックしていただくというメカニズムになっているかと思います。
 それから、国と地方の税制優遇の組み合わせで、投資効果の大きな大都市部にまず重点を置く。しかし、これは決して排他的なものではなくて、地方の主要な都市にも当然その成果は波及しなければいけないわけです。
 それから、構造改革特区では、ほかの特区と違って、補助金、財政的支援をあえて排除したわけです。
 この点、いろいろ多方面から批判を受けたわけですけれども、なぜ財政支援を排除したかというと、金のためではなくて、純粋に自分の地域を規制改革で発展させようという自治体の熱意を酌み取るというのが大事であって、今回は税制上の優遇措置がつけられたということはいいことです。
 もう一つ、利子補給というのも考えられているようですけれども、この利子補給というのは、やはり財源が必要ですから、ある意味で財源の制約が、総合特区のときも一部そうだと聞いておりますが、結局、財源がなくなると、もうそこで打ち切りになってしまう危険性がある。それではやはり全国に展開ができないわけで、なるべく税制上のものだけにとどめるべきではないかと思います。
 それから、今回の国家戦略特区で大きなポイントとしては、当初の規制改革メニューというのが確かにあるわけですけれども、構造改革特区では、もうこれで終わりだったわけです。だけれども、今回は、あくまでそれは第一弾の規制改革であって、実際に特区を運営している中でいろいろな問題が出てくる。規制は細部に宿ると言われますので、そのときには当然ながら追加的な規制改革もするということが大事かと思います。
 そういう意味では、まだまだ発展形であって、第一弾、第二弾、第三弾の規制改革が組み合わされるというのが今回の国家戦略特区の大きなポイントではないかと思います。
 それから、三番目の規制改革事項の評価ですけれども、先ほど八田参考人が小粒と言うことはおかしいと言われたわけですが、私の二ページ目を見ていただくと、より具体的な例が書いてあります。
 ここでは、国家戦略特区で採用された規制改革で、一見すると非常に、何でこんなものをというふうに思われると思いますが、そのこんなものすら実は今まで実現できなかったわけで、最初の外国人医師の国内診療というのはどういうことかといいますと、これまでは、アメリカ人の医師はアメリカ人の患者しか診られない、カナダ人もシンガポールの人も診てはいけない、そういう非常識的な規制があったわけです。これが今回、ようやく全ての外国人の診療が可能になった。外国人に聞けばジョークのような規制が幾らでもあったわけです。
 こういうものも、それぞれやはり閣議決定で検討するとか結論を得るというのが決まっていたにもかかわらず、過去3年間、それ以上、放置されていて、今回、国家戦略特区で全部それが、全部というか、大きく前進したわけで、これはある意味で在庫一掃セールというか、ちょっと言い方は悪いですけれども、これまでの規制改革で議論はされながら全然結論が出なかったものについて、一挙にここで片づけたということになるかと思います。その意味では非常に大きな成果があったのではないかと思います。
 それから、先ほど言った特区、有期雇用の話ですけれども、こういう雇用について、一部の地域だけ規制を緩和するのは問題だということを厚生労働省が強く主張されたわけです。これは、実は構造改革特区のときでも同じ問題がありまして、そのときに、我々としては、特区でやるというのは、いきなり全国でやっては危険だからという理由でやるわけであって、担当省庁が特区は危険だからと言われるなら、すぐに全国でやっていただいて全く結構ですと。その方が手間が省けるわけです。
 構造改革特区のときにも、実は、特区提案として出てきた規制改革がいきなり全国で緩和された方が数は多いわけです。なぜそういうことが起こるかというと、規制改革のニーズがあっても、なかなか担当省庁としては、忙しいので、法律を改正するのを怠ってきた。そのときに、特区というものが出てくることで慌てて規制改革をする。特区をわざわざつくるには余りにも恥ずかしい規制がいっぱいありましたので、そっと全国ベースで変えてしまうということもあったわけです。
 ですから、これは特区か全国か、どちらでもいいわけで、そのときにこういう国家戦略特区のような一種の機会があれば、そこで一挙に規制改革が進むということであるわけです。
 最後に、国家戦略特区の今後のあり方ということで、これは、やはり構造改革特区のときの経験からしまして、私は、今回は、かなりそういう進め方の面においても進化している面が幾つかあるかと思います。
 規制の弊害は細部に宿るために、法律だけじゃなくて政省令についてもきちっとチェックしなきゃいけない。このためには、今まで出てきた特区ワーキンググループが、きちっと次に引き継ぐ組織ができるまでは引き続き活動していただいて、この政省令のチェックをしていただく必要があろうかと思います。
 それから、同時に、特区諮問会議ができたとしても、細かい話を一々総理が出席の場でやるわけにはいきませんので、引き続き、経済財政諮問会議の専門調査会のように、そういう委員会をつくって各省との折衝を続ける必要があるかと思います。
 それから、特区の選定は、やはり提案された改革事業を持つ地域について、できるだけ幅広い行政単位が必要ではないか。例えば、県知事がやるべきだと思っていても、その中の一自治体が反対したらうまくいかないというのはやはり困るわけでして、幅広い観点を持つ、やはり県知事あるいは都知事、そういう人たちがきちっと説得できるような余地をつくる必要があろうかと思います。
 それから、あと、細部に宿るという点をちょっと補足しますと、こういう例がございまして、構造改革特区のときに、耕作放棄地を使って、農地のところにダチョウを飼うダチョウ特区というのをつくったわけですね。
 ダチョウを飼うためにはおりが必要なわけですが、ただ、おりというものは工作物ですから、それを農地の上につくることはだめだといって、後で農水省が文句を言ってきたわけです。そうしたらダチョウ特区はできないわけで、当時の小泉首相が直接電話をかけて、ふざけるなと言われたということでありますが、とにかく、そういうことを、一々総理を煩わせるんじゃなくて、きちっとしたこういう会議の場で、実際の特区の運用に妨げになるようなことを防ぐ措置が必要かと思います。
 それから最後に、スピードが大事であります。ここはまだ決まっていないわけですが、構造改革特区の例でいえば、年二回提案を受け付けて、通常国会、臨時国会双方で法律を改正して、どんどん規制改革の追加事項をふやしていく。とにかく、年一回でも遅いわけで、年二回のペースでどんどんこの国家戦略特区をふやしていって、改革のスピードが実感されるような特区というふうにぜひしていただきたいと思います。
 以上でございます。(拍手)
○柴山委員長 ありがとうございました。
 以上で各参考人からの御意見の開陳は終わりました。
―――――<中略>―――――
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 きょうは、参考人の皆さんから大変貴重な御意見をいただきました。心から感謝しております。
 私は、議論全体の進め方として、情報は全て公開し、国民の声を反映させながらまとめていく、これが基本だと思っております。
 八田参考人に具体的なことで確認をしておきたいのですが、配付した資料、お手元にあると思いますけれども、これは一ページ目を見ていただきたいのですが、第五回国家戦略特区ワーキンググループの配布資料のリストなんです。これは官邸のホームページに載っていたわけですが、それを見ますと、非公開にするというのが資料一、参考資料三、この二つが非公開となっているわけです。これを非公開とした理由は何だったのでしょうか。
○八田参考人 ありがとうございました。
 私どもは、もうとにかく、極力、会議は公開すべしと思っております。そして、特に役所がとにかく普通に聞けば理屈にもならないような理屈を言うときには、それが公開されることによって、どっちに分があるかということははっきりすると思いますので、その公開ということはもう根本だと思っております。ただし、座長が判断するときには非公開にすることができるという条項がございます。
 この議論のときには具体的にどういう状況だったかというと、これは、お察しのように、非常に短い時間でやっておりますから、打ち合わせの時間なんかもそんなにとれないわけで、このワーキングの本番のときに、コンセプトの紙のたたき台を大臣がお出しになりました。それで、大臣は、これはもう忌憚なく議論してほしい、どんな批判でもいいというふうにおっしゃったんですね。それで、それならば、そこで後で公開されることになって、みんながちょっと遠慮するというようなことがあってはまずいだろうと。だから、私は、では、これは非公開にしましょう、そして存分に意見を言ってください、そういうふうにいたしました。それが理由でございます。
 それから、ここでお配りいただいたものに書いてある資料一というのは、言ってみれば、後で正式に出てきたものの本当にたたき台であります。その一部のところに関しては、大変熱のこもった議論があった。それから、私の提出資料というのは、そのコンセプトペーパーを事前に見ておりましたから、それに対する、ある意味で反論の資料として用意したものでございます。したがって、これもその議論の中身がその時点で出るというのはまずいと思いましたので、非公開といたしました。
 しかし、今は全部が終わっていますから、公開にしてあります。
○佐々木(憲)委員 私は、この程度のと言っては失礼ですけれども、こういう資料は極秘資料でも何でもないので、たたき台であろうが素案であろうが、表に出して、議論をして、こういうふうになりました、これをしても何もおかしくないと思っております。
 といいますのは、例えば「成長戦略(素案)」というのがありました。これは公開していますね、素案ですけれども。それが再興戦略という形で成案になっていますね。そういうふうに、素案の段階から公表する。あるいは、一体改革の場合も、一体改革素案が出て、それでまた直して成案にしている。こういう経過、これは、国民が見て、ああそうか、これがそういう経緯でこういうふうに直ったんだなと納得できるわけですね。ですから、素案だからとか、たたき台だから公開しないというのは、ちょっとやり過ぎではないかというふうに思います。
 これは私、非公開になっているので、資料を出してくださいと何度も要求したんですけれども、なかなか出てこないんですね。おとといの午後になりましてようやくこの資料が出てくる、こういう経緯でありました。
 きのう、新藤大臣にお尋ねする機会がありましたのでお聞きしましたら、これは八田座長が決めたものです、こういうふうに言われたのできょうお聞きしたんですが、できるだけ公開していただきたいと思います。
 それから、もう一つは、参考資料三ですね。これは八田座長自身が提出した資料でありまして、「規制の立証責任について」という表題がつけられていて、これは議事録そのものが資料になっているわけですけれども、これを非公開にした理由がよくわからない。なぜならば、その議事録は既に公開されているものなんです。公開されている一部を配ったのは非公開であるというのは、理屈がわからないんですが、なぜそういうふうなことをしたんでしょうか。
○八田参考人 議事録は、一部未公開というふうに書いてございます。したがって、議事録全てが公開されているわけではなくて、この資料を使った部分の議論というのは未公開でございます。
 そして、これについては、これは未公開ということを前提に議論したものでございますから、その関係の方々の承諾が要ると思いますが、もちろん全ての方が承諾されれば公開してもよろしい内容です。要するに、先ほどの役所と云々というようなのとは事情が違います。
 それから、委員が御指摘になった、いろいろなたたき台をこういう役所の文書でつくっていく段階で、ある種の節目節目に公開していくというのは当然あっていいじゃないか、もう御指摘のとおりです。
 普通の場合は、委員の間でこういう案というのはつくっていくものなんですよね。そして、中途段階ができるものなんですね。その場合に公開するのは何の問題もないと思いますよ。この場合には、もう本当に大臣が御熱心で、大臣がみずからおつくりになったわけですよ。それについて、本当に大臣が寛容にも、もうこういうものをつくったから、君たち、自由闊達に議論してくれないかとおっしゃったわけです。そこを私の判断で、それなら、確かにそうですね、それでは遠慮なく言わせていただきますねというので、そのかわりに非公開にしましょうという判断を私がしたということで、ちょっと事情が普通の場合とはかなり違うということです。それで、皆さんもそのことを了解した上で伸び伸びとした議論をされて、最後に結構いいものができ上がった、そういうことでございます。
○佐々木(憲)委員 この参考資料三というのは、八代参考人の発言の部分なんですけれども、八代参考人は、これは公表していただきたくない、こういう意向を伝えて非公開になったということで理解してよろしいんでしょうか。
○八代参考人 私は、特にそういうことは事務局には言っておりません。
○佐々木(憲)委員 別に、既に公開されている議事録であり、御本人からはこれを非公開にしてくれということも特になく、八田座長自身が配付した資料なのに、公開しないというのはどうも理屈がよくわからないですね。
 例えば、配付資料の四ページを見ていただきますと、「だからとにかく制度を改革するときはまず特区でやってみて、全国でやるというのは規制改革でなくてもやるべきことであって、どちらがより多くの国民をモルモットにしているのか。そういうような議論の仕方ができるのではないかと思う。」と発言をしていますが、私は、この発言というのはちょっと上から目線で国民をモルモット扱いにするものだとちょっと不快に思ったんですが、こういうものを出したくなかったということなんでしょうか。
○八田参考人 全くそういうことではございません。
 では、一応発言の当事者の個々の名前というようなことを伏して、そこでの議論がどういうものだったかということをお話しいたしたいと思います。
 ここの参考資料はなぜ必要だったか。しかも、これを非公開としたのは、本質的にまだ成案になっていないものだったんです。それでもう本当に非公開の議論ならばこれを出しましょうということで、恐らく八代さん自身も最終的にこれをチェックしていない、文章もチェックしていないものです。それで、それを議論のために私が提出したものです。
 それはなぜかといいますと、こういうことです。
 もともとの、事務局から提案された、大臣もごらんになったその提案の中には、提案した人自身がその規制のリスクについて評価し、そして、これはリスクがありませんということを証明しなければならないといったような文章が入っていたんです。私はそこを批判したんです。ほかの委員も批判されましたけれども、少なくとも私については発言したことは言ってもいいですが、それはあり得ないと。
 要するに、規制というのは元来ないのが原則であって、自由が原則であって、それを、規制を設けるなら、その規制を設けている官庁がその根拠を示すべきであると。それを、規制で困っている人たちが提案して、これは規制改革しても一切弊害はございませんという証明をするなんて、もうとんでもない話だ、だからそこの条項を外すべきだというのが私の主張です。
 そして、その主張をする際に、たまたま、その前に、ヒアリングのときに八代さんがおっしゃった発言、それから、そこに私が、要するにこういうことですねとまとめた議論というものは大変関係あると思いましたので、この議事録自体は、もちろんその段階ではまだ完成品になっていませんでしたけれども、非公開なところだからということで私は提出して、そして、こういう意見もございましたよ、私も賛成ですということを申し上げたと。その理由でございます。
○佐々木(憲)委員 それは当然、意見は、賛成意見、反対意見、あるいは対立する意見、当然出て当たり前なので、その出ている記録、この意見に対して否定したからそれは公開しないというのは、これはおかしいと思うんです。賛否両論あって、それを国民が見て判断するわけでありまして、ですから、ちょっとこれは余りにも理屈が私はよくわからない。
 それからもう一つ、お配りした資料で、議事概要の四ページのところと七ページの、これは非公開というふうに、今、もとのが非公開というふうになったので、その部分に関連する議論のところは非公開、こうなっていると思うんですが、もとをもう出しちゃったわけですし、それから、もうそれは基本的に終わっているということなので、これは当然公開するというのは当たり前のことだと思いますが、いかがですか。
○八田参考人 これは、私も含めて、非公開を原則で発言して、大臣に対して失礼なことも申し上げているわけですよね、それを今から公開するというのは、私は、その発言者の同意がなければやはり信義に反すると思います。
 それから、委員がおっしゃるように、こういうものは原則公開でやるべきだというのも全く賛成です。ただし、この場合には、先ほど申し上げましたような非常に特殊な状況があった。そこで、それは私の判断でございました。
○佐々木(憲)委員 いずれにしても、公開を原則にするとおっしゃっているわけですから、今後そうしていただきたい。
 それから、最後に一点だけ、山口参考人にお聞きします。
 今回の法案が作成されてくる経緯は、アベノミクス特区を提唱した竹中氏が橋下大阪市長、猪瀬都知事、大村愛知県知事、総務大臣、こういう方々と協議をして、八田座長のワーキンググループに集まる有識者が項目を選定していく、そういう過程で、安倍総理直結で法案ができているわけですね。国会に出す前の段階から国民の声が反映するような仕掛けがないわけです。
 こういうやり方についてどのように思われるか、一言だけ、最後にお願いします。
○山口参考人 先ほど来議論を伺っていまして、例えば、医療、農業、弱いところだとおっしゃいましたけれども、弱いというのは思い込みです。日本の医療は世界最高水準です。農業も、確かに価格が高いですけれども、あれだけの人が地域に分散して、農業に従事して、そしてコミュニティーを維持しているという意味でいえば、大変な役割を果たしている。
 それに対して、要するに金もうけという一つの原理を当てはめて、どんどん変えていこう、既存の仕組みを変えていこうという、ある種非常に党派的といいましょうか、特定の価値観に立った主張でありまして、それ自体が適切なものかどうか、やはり広く国民的な議論を仰いだ上で案を練っていくというプロセスが必要だと思っております。
○佐々木(憲)委員 終わります。ありがとうございました。

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