2003年05月07日 第156回 通常国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【199】 - 質問
大証社長に不正取引への関与をただす 巽社長が取引開始への関与を認める答弁
2003年5月7日、財務金融委員会は、証券取引法等一部改正案が審議され、午前には政府に対する質疑、午後には参考人質疑が行われました。
参考人として、大阪証券取引所(大証)の巽悟朗社長が出席し、佐々木憲昭議員が、巽氏の大証不正取引疑惑への関与について事実関係をただしました。
大証不正取引疑惑とは、大証が、市場での取引が活発なように見せかけるために、関連会社としてペーパーカンパニーを設立し、仮装売買を繰り広げていたものです。仮装売買の発注者であったペーパーカンパニー・ロイトファクス社は、巽氏が当時社長を務めていた光世証券との間で売買を繰り返しており、巽氏の不正取引への関与の有無が焦点となっています。
質疑の中で巽氏は、光世証券がロイトファクス社と取引を開始した経緯をただした佐々木議員にたいし、「初め、野口から私に電話があって、顧客紹介というのがあったわけですけれども、それは電話番号と個人の名前だったと思います」「登記簿謄本を全部そのときとりまして、全部把握されている」と述べ、みずから取引に関与していたことを初めて認めました。
巽氏のいう野口とは、ロイトファクス社を通じた仮装売買を直接指示したとして刑事告発されている野口卓夫氏(当時大証専務)であり、個人の名前とは、八木二郎氏(元大証部長)です。ロイトファクス社が大証の関連会社であり、ペーパーカンパニーであることを知った上で、取引を開始した疑いが、極めて濃厚になりました。
その一方で、巽氏は、ロイトファクス社との取引内容については、「所定の役員がいるので一切把握していない」「ロイトファクスは通常の取引だった」と繰り返しました。佐々木議員は、ロイトファクス社が取引を行っていた相手先のうち、日本電子証券との取引は巽氏自身が証券取引法159条違反の疑いがあるといい、大和証券は通常の売買行為とは考えられないとして取引を中止していることを指摘し、「光世証券の取引だけが正常だというのはあまりにも不自然だ」と述べ、「新しく立ち上げた個別株オプション市場を商盛に見せかけるなら、市場のスタート時点である光世証券との取引の時期がより重要だ」と強調しました。
さらに佐々木議員は、巽氏自身が、1995年の証券経済学会全国大会での講演のなかで、光世証券では経営者が先頭に立ってリスク管理を徹底していることを披露して、「私も年に数回、長期間に渡って海外に赴くことがありますが、必ず日々の取引内容や市場リスクの報告が直接入るシステムを確立しております」と述べていることを紹介し、「これでロイトファクスの取引を知らないというのは通らない」と疑惑への関与を否定する巽氏を批判しました。
佐々木議員は、自主規制機関である取引所のトップの役割は、行政の調査に真摯に対応して事実関係をすべて明らかにすることであると強調し、証券取引等監視委員会の調査の最中に光世証券は無関係だとの主張を記者会見で行う巽氏の姿勢について、「光世証券の立場でしか振る舞っていないということであり、取引所の社長としては相応しくない」と述べました。
また佐々木議員は、この日午前の質疑の中で、証券取引等監視委員会にたいし、不正取引問題での大証に対する検査状況についてただしました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
参考人の皆さん、御苦労さまでございます。
証券取引法改正案の法案審議に資するために、特に市場の信頼性の問題についてお聞きをしたいと思います。時間がありませんので、きょうは巽社長を中心にお聞きをしたいと思います。
巽さんは、4月17日に記者会見をされまして、「関連会社問題に対する本所の考え」というものを公表されております。今お配りした資料がそれでありますけれども、記者会見で発表された資料の中に、大証の元副理事長が無断で関連会社を設立し、関連会社を通じた仮装売買を行っていたこと、それが証取法159条違反の疑いがある、こういうふうに述べられています。仮装売買とは、取引所資金を使って、10年11月に証券会社を設立し、市場が商盛であることを見せるために、同社に対し発注を繰り返していた行為だ、こういうふうに書かれています。
そこでお聞きしますけれども、ここで言う証券会社というのは日本電子証券のことだと思いますし、それから、発注していたのはロイトファクスだと思いますが、この点を確認したいと思います。
○巽参考人 そのとおりでございます。
○佐々木(憲)委員 このロイトファクスは大証が設立した関連会社の一つであります。巽社長は、大証理事の当時に、大証が不正取引疑惑解明のためにつくった調査委員会、これに加わっておられます。ここに大阪証券取引所関連会社に関する調査報告書というのがありますけれども、この中に、ペーパーカンパニー、ロイトファクスについてこういうふうに書かれております。ペーパーカンパニーであり、調査活動を行う人員もいないというふうに断定されていますけれども、これはそのとおりですね。
○巽参考人 そのとおりでございます。
○佐々木(憲)委員 配付した資料の3枚目に不正取引の関係図がありまして、この中に出ているロイトファクスと日本電子証券の取引が仮装売買であって、証取法159条違反の疑いがあるということであります。一方で、このロイトファクスと取引のあった光世証券などは、一投資家からの通常の委託注文ということで、通常の取引であったというふうに説明がなされています。
しかし、今確認いたしましたように、このロイトファクスというのは、大証の取引が商盛であることを見せかけるために大証がつくったペーパーカンパニーだ。そうしますと、光世証券や大和証券などに対する発注も、ロイトファクス側はそういう意図で行っていたのではないかと思われますが、これはいかがでしょうか。
○巽参考人 先生にここではっきり申し上げますのは、電子証券ができるまでの間、こういう3社に発注していたわけでありまして、この3社の発注と電子証券に対する発注は全然違うわけであります。3社の発注は単なる顧客として、本当に実在の人間もおったわけですけれども、ペーパーカンパニーでありますけれども、これを運用する人間は元証券取引所の職員というのがおりまして、にせの名刺なんかも使っていた事実もありますけれども、そういうふうにして発注していたというわけであります。
この間、参議院でも言われましたけれども、これは完全にそういうあれやないというのは今度の検査でもはっきりすると思いますけれども、一注文一注文、これは大引け関与になるとか、これは仮装売買であるとか、けっているわけですよ。その事実がちゃんと書類で残っているわけですよ。ですから、全然違う取引でありまして、その辺をしっかり認識してもらいたい。
私を攻撃するために、そういう無断で、私も持っていないような資料を表に出されて、いろいろなことが思われているようですが、その点ははっきり申し上げておきます。
○佐々木(憲)委員 その点を今いろいろと具体的に質問しているわけでありまして、巽社長は当時光世証券の社長でありました。日本証券業協会は、新しい顧客と取引を開始するに当たって各証券会社が遵守しなければならない事項を定めていると思うんですね。
ここに公正慣習規則第九号「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」というのがございます。この中では、取引を行う顧客の顧客カードを整備して、住所、氏名、投資目的、資産の状況などの把握を義務づけております。さらにこの細則というのがありまして、その中には、顧客が法人の場合には、登記簿謄本または抄本などで本人確認を行うことを定めている。当然、光世証券はこれを遵守して、こういうことで取引を行ったと思うんですが、これにのっとってやったということですね。
○巽参考人 当然であります。
○佐々木(憲)委員 えらい早い答弁です。
それならば、ロイトファクスの口座開設に当たりまして、当然、どういう会社かというのはこれに沿って調べていると思うんですが、ロイトファクスの代表者はだれでしょうか。また、取引開始に当たり、口座開設の手続に来られたのはどなたでしょうか。
○巽参考人 私は社長でありまして、一々それは担当しておりませんけれども、八木という人物だったと思うんです。といいますのは、初め、野口から私に電話があって、顧客紹介というのがあったわけですけれども、それは電話番号と個人の名前だったと思います。それで、先ほども申されました登記簿謄本を全部そのときとりまして、それはまだ検査中ですので何も言えませんけれども、全部把握されていると思います。証券会社は、そんなことは当然なんですよ。
○佐々木(憲)委員 登記簿謄本を私もここに今持っておりますけれども、役員は一人しかいないんですね、一人しかおりません。その役員は、最初は今言ったように八木二郎氏でありましたが、その後松原公一氏になっているわけですね。
この八木さんと松原さんというのは、どういう人物なんでしょうか。
○巽参考人 元証券取引所の職員と役員であります。
○佐々木(憲)委員 そうしますと、この証券取引所の役員、八木さんというのは、97年3月末まで大証の調査部長を務めてこられた方でございます。退職後は、大証が不正に設立した関連会社の役員を務めた、こういうことになるわけですね。その後交代して取締役についた松原氏も、大証の理事であったということであります。つまり、大証と人的つながりのある会社だとすぐわかるわけですね。しかも、この住所は日本郵船ビルの住所であります。大証の正規の関連会社である大証システムサービス、DSS株式会社の東京事務所があったビルであります。
この証券業協会の規則どおりに取引先の身元確認をすれば、大証の関連会社であって、しかもペーパーカンパニーだ、しかもそのペーパーカンパニーの目的は、取引を商盛に見せるための会社である。こういうことを知っていて取引をされた、あるいは知らないで取引をした、どちらでしょうか。
○巽参考人 申し上げましたとおり、一顧客として相対したのでありまして、取引を商盛に見せるためにというのは、私はずっと証券マンとしてやってきまして、今までのあれがありますけれども、そんなもので商盛になるはずがないわけですよ。
それは全部今どこの記録にも残っていますけれども、私は常に、証券取引所というのは、そんなことで商盛に見せる――ですから、今のところそれしか考えられないということでそういうことをやっていますけれども、商盛に見せるためにやったという、大証に対してのプラスというのは何もありません。
○佐々木(憲)委員 あなた自身が調査委員会を設置された中に入っておられて、その中で調査もした。それから、記者会見の中で、仮装取引をしていた会社である、ペーパーカンパニーである、こういうふうにお認めになっているわけですから、そういう会社と取引をされたわけでありまして、その取引をされたことは事実であります。つまり、そういうものと知っていて取引をした。1997年の7月から99年1月まで取引をされている。
これは社長自身が記者会見で配付された、お手元にある資料の四ページ目ですか、この中にあります。これは、発注の相手先というのはだれだったんでしょうか。
○巽参考人 発注の相手先は、ロイトファクスですね。(発言する者あり)何ですか。(佐々木(憲)委員「取引所の人間ではないんですか」と呼ぶ)取引所の人間というのは全然知りません。東京で、大阪の証券取引所にどんなのが勤めているか知りません。私も全然知らなかったです、それは。
ですから、調査委員会の中で名前が出た、ああ、そうか、どんなやと言ったら、こうやと。それですぐに私は会社へ言いまして、その書類を全部提供させて、そこで初めてそういうことがわかったわけです。一切知りません。
○佐々木(憲)委員 いや、知らないといっても、最初に巽参考人は、調べた、登記簿も調べたと。それで、八木さんと松原さんが大証の幹部であった、これも認識をされていた、会社はペーパーカンパニーであった、こういうことでありまして、知らないというのはちょっとどうでしょうか。
そこで、大和証券もこれは取引をされていたわけですが、大和証券は取引を途中で中止しているわけですね。なぜ中止したかといいますと、調査委員会の資料を拝見しますと、大和証券側の発言として、将来第三者の検査が入ったときに問題として指摘されるおそれがあると。それは、一つは、売り買い同数注文、クロス注文である。二つ目に、量的に大きく目立つ、関与率が高い。それから三つ目に、発注のタイミングが東西市場の売買高の拮抗しているときである。四番目に、代金が大阪から振り込まれる理由、これは、東京の会社なのになぜ大阪から手数料が振り込まれるか、こういう意味であります。それから五つ目に、損切りが多いが意図が不明である。つまり、ロイトファクスとの取引というのは通常の売買行為とは考えられないというふうに答えているわけですね。それで、大和証券は98年8月以降取引を一切中止したわけであります。
しかし、光世証券は取引を続けたんですが、これはなぜ続けたんでしょうか。
○巽参考人 私は、申し上げていますように、光世証券には五つのルールがありまして、これは受けられぬ、これはだめだということで、一々その事実があるわけです、これは。ですから、大和証券さんはどうしてそのときに、社内検査が入ったのかどうかはわかりませんけれども、そういうことで、全部精査して注文を受けているわけです、一顧客として。
それから、先ほど申されました、私は登記簿を見てというのは、それはずっと後の話でして、そのときは会社が所定の手続によって調べたということだけであります。
それから、重ねて言いますけれども、光世証券は、そのことに対しましては、証券取引等監視委員会から11月10日に検査がありました。それから、証券業協会も11月2日がありました。全然、その問題は全部ごらんになりましたけれども、指摘を受けた事実はありません。
○佐々木(憲)委員 そういう検査の中身のことを聞いているわけじゃないんですよ。私は、大和証券が、いろいろな問題がある、通常の取引じゃないということで中止しているのに、光世証券が続けていた、このことを聞いていたわけで、今の説明ではちょっと納得はできないんです。
そもそもこのロイトファクスというのは、取引を商盛に見せるためにつくられたペーパーカンパニーである。先ほど示した三枚目の図を見ていただきたいんですけれども、ロイトファクスと日本電子証券の取引というのは証取法159条違反の疑いがあるという、巽社長自身がそうおっしゃっているわけです。大和証券は通常の売買行為とは考えられないといって取引を中止した。なのに光世証券との取引だけが正常だというのは余りにも不自然だと私は思うんですね。
しかも、光世証券の取引は、このロイトファクスの取引の36・4%を占めておりまして、時期も、光世証券が終わってから日本電子証券と入れかわっていくわけで、新しく立ち上げた個別株オプション市場を商盛に見せかけるなら、市場のスタート時点というのは非常に重要でありまして、つまり、仮装売買の意図に照らすと、日本電子証券の取引よりも光世証券との取引の時期の方がより重要な時期であるということになるわけであります。
そこで、重要なのは、この光世証券が97年7月の株式オプション取引のスタート当時からロイトファクスと取引があった、その取引内容を社長自身が把握していたかどうかということであります。当然、取引状況、内容については、把握していたと思いますが、いかがでしょう。
○巽参考人 所定の役員がおりますので、私は一切把握しておりません。それは、このたびの調査でも逐一お調べになっていると思います。
○佐々木(憲)委員 ここに「投機」という、これは「新聞雑誌にみる巽悟朗と光世証券35年の歩み」という大変分厚い本があります。
この中で、これは「巽悟朗と」と書いているぐらい、巽社長はオーナーとして相当強力な指導力を発揮されている会社だというのが想定されるわけですけれども、この中に、1995年の証券経済学会全国大会であなた自身が講演をされ、その講演の記録が載っておりまして、この中でこういうふうに言っているわけであります。
リスク管理を行うにあたって、まず、経営者が先頭に立って、徹底的に管理することです。そして、それを会社全体で把握する。また、管理するだけでなく、そのリスクによって、どれだけの収益を計上しているのか。オーバーナイト・ポジションの変動リスクなど、デリバティブは、ありとあらゆるリスクを生み出しているが、それを的確に把握し、リスク区分までも万全にしておかなければならないのです。
「経営者が先頭に立って、」と。
それから、
私も年に数回、長期間に渡って海外に赴くことがありますが、必ず日々の取引内容や市場リスクの報告が直接入るシステムを確立しております。そして、どのような事態になれば、どのようにヘッジすればよいか、常に準備していますし、必要に応じて指示を出します。
私がリスク管理にタッチし、それを部下に先導していく、
こういうふうにおっしゃっているわけでありまして、海外に行っても日々の取引内容をすべて報告させて、みずからつかむと言っているわけで、これでロイトファクスの取引は知らないというのは、これは通らないと私は思うんですね。
4月17日の新聞を見ますと、この問題で参考人として聴取をされたというふうに報じられていますけれども、これは事実でしょうか。
○巽参考人 事実じゃありません。
それから、先ほど申しましたように、光世証券は、社長がそんな100分の1か1%か〇・何%という商いまで、そんなものやっていたら、とにかく1日過ぎますよ。それはちゃんと係がおるわけですから、その結果問題点はない、こういうことなんですよ。
それと、先生に申し上げますけれども、それを告発しているのは私ですよ。私が告発しているわけですよ。私は改革者として入ったわけですよ。全員、役員を、これはいかぬということで、途中で、その調査委員会もそうですが、事務局から全部手懐けられていたという連中なんですね。全部首にして改革しているわけです。なぜ、そのように執拗に私のことに迫るか。国政の場を利用して、国政を何と心得られるか、私はそれを言いたい。
○小坂委員長 時間が終了しておりますので、手短にお願いします。
○佐々木(憲)委員 余り興奮されないようにひとつお願いをしたいと思うんですが、一点の曇りもないとおっしゃっていますけれども、現在、金融庁の検査が続行中でして、自主規制機関である取引所のトップでありますので、トップの役割というのは、行政の調査に対して真摯に対応して、事実関係をすべて明らかにすることだと思うんです。
○小坂委員長 時間が終了しておりますので、手短にお願いします。
○佐々木(憲)委員 検査最中に、光世証券は無関係だというような主張を記者会見で行うというようなことは、光世証券の立場でしか振る舞っていないということでありまして、取引所の社長としてはふさわしくないなというのが私の実感でございます。
きょうは法案の質疑でございますので、その法案の質疑に当たりまして、市場の信頼性ということについて、非常に具体的な話で恐縮でございますが、この件について質問させていただきました。ありがとうございました。