2008年05月13日 第169回 通常国会 財務金融委員会 【457】 - 質問
金商法が改正されたら、個人や自治体がハイリスクのプロ向け証券市場に巻き込まれる危険が強まると指摘
2008年5月13日、財務金融委員会で、8日の参考人質疑に引き続いて、金融商品取引法(金商法)改正案の審議が行われ、佐々木憲昭議員が質問しました。
法案の改正で、プロの投資家に参加者を限定し上場条件を緩くするプロ向けの証券市場が創設されます。
先行してプロ向け市場を開設したロンドン証券取引所では、不正行為があいつぎ「まるでカジノだ」との批判が証券業関係者からも起こっています。
金商法では、地方自治体はプロの投資家として扱われます。
佐々木議員は、地方自治体に「(プロ向け市場に上場が期待される)ほとんど開示情報がない海外の企業や新興企業の業績や将来リスクを判断する能力があるのか」と質問しました。
渡辺善美金融担当大臣は、「知識、経験、資産状況からプロ投資家に分類された」と答弁し、能力の有無について言及しませんでした。
佐々木議員は、一般的に「自治体にはプロ投資家も情報もないし、資金の原資は公金だ。そのような自治体をプロ向け市場へ誘導するのは、あまりにも無責任ではないか」と、ずさんな制度のあり方を批判しました。
さらに佐々木議員は、「一般投資家もプロ向け市場に巻き込まれる」と指摘しました。
佐々木議員は、プロ向け市場の取引では一般投資家の直接参加や商品の転売を禁止しているにもかかわらず、投資信託やファンドを通せば特別な規制なく一般投資家に商品を販売できる“抜け道の仕組み”を指摘しました。
渡辺大臣は、「(投資信託等の売買だと、一般投資家は)自分で投資判断をする必要はない」「自信のない自治体等は一般投資家になればいい」などと無責任な答弁に終始しました。
佐々木議員は、このままで実施すれば「相当の金融被害が広がる」「消費者保護が不十分な中で、このような規制緩和だけをどんどん進めるべきでない」と主張しました。
委員会では、与党議員からも「法人を通して一般の個人がプロ向け市場に巻き込まれる」との指摘が起こるなど、プロ向け市場の参加資格に関する問題の批判が相次ぎました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。私は、きょうは法案の内容についてお聞きをしたいと思います。
まず、プロ向け市場についてであります。
法案では、プロの投資者、すなわち特定投資家に限定した市場をつくる、そしてそれを運営する、こういうことですが、渡辺大臣、そのプロの投資家というのはどういうものですか。
○渡辺金融担当大臣 金融商品取引法では、お客様が特定投資家、つまりプロであるか一般投資家であるかという区分に応じて規制の適用を柔軟化する特定投資家制度を設けております。具体的には、投資者のうち、その知識、経験、財産等の状況から金融取引に係る適切なリスク管理を行うことが可能と考えられる者を特定投資家と位置づけております。金融商品取引業者が特定投資家との間で行う取引については、適用する行為規制の簡素化を図っているところであります。
特定投資家の範囲としては、金融機関等のいわゆる適格機関投資家のほか、国、日本銀行、地方公共団体や上場企業等を規定しております。また、その他の法人及び知識、経験、財産の状況に照らして特定投資家に相当する者として一定の要件を満たす個人については、原則として特定投資家には当たりませんが、本人の申し出及びリスクについての適切な情報提供等の慎重な手続を経た上で特定投資家として取り扱うことが可能となっているところであります。
○佐々木(憲)委員 プロ向け市場の参加者となる特定投資家というのは、一定の要件を満たした個人や法人だけではなくて、地方自治体が含まれる。
この地方自治体というのは、なぜプロなんですか。知識、経験、財産の状況から適切な資産管理ができる、そういう金融のプロであると。なぜ自治体がプロなんでしょうか。
○渡辺金融担当大臣 地方自治体は、一般的に投資に対して十分な知識、経験、財産を有するものと考えられることから、特定投資家として位置づけられています。
個々の地方自治体の選択により一般投資家に移行することが可能でもございます。つまり、特定投資家として位置づけられていますが、それぞれの自治体の判断、選択によって一般投資家に移行することもできるということであります。これに関して、地方自治体との間で金融商品取引契約を締結しようとする業者は、その地方自治体に対して、一般投資家への移行が可能ですよということを告知しなければならないとされております。
○佐々木(憲)委員 一般投資家にもなることはできるとしても、特定投資家の要件は備えている、今大臣は投資に対して十分な知識があると。
しかし、これはよく考えてみますと、自治体の職員が本当にそんな金融のプロなのか。ほとんど開示情報のない海外の企業あるいは新興企業の業績、将来のリスク、そういうものを判断する能力があると見ているわけですか。
○渡辺金融担当大臣 一般的に、地方自治体の余資運用というのは、かなり厳格に規制をされているのが実情であろうかと思います。したがって、そうした運用の規制の中にあって、今回、金商法の体系の中で特定投資家として位置づけているわけでございますが、先ほども申し上げましたように、一般投資家に移行することも可能でありますし、また、金商業者は一般投資家への移行が可能であることを告知しなければならないという規定を設けているところであります。
○佐々木(憲)委員 これは答弁になっていないですよね。一般投資家なら一般投資家でいいんじゃないですか、そうなることができるとか言わなくても、最初からプロじゃないんですから。
この金商法で自治体がプロの中に入ったのは、前回の改正であります。プロになれば、先ほどの説明がありましたように、説明義務などは、そういう規制は受けないわけです。もうプロですから、そういう基礎的な説明などはしなくてもよろしいと。果たしてそういうことで市場にいざなうということが適切なのかどうか。
そこで、具体的に確認したいんですけれども、前回の法改正後、具体的にプロとして金融商品を買った事例があるか、その自治体の数と金額を示していただきたい。
○西原政府参考人(金融庁監督局長) お答え申し上げます。
自治体が購入しているものということですが、先ほど大臣からも答弁がございましたように、国債や地方債や政府保証債、こういった安全性の高い金融商品が中心であるというふうに承知しておりまして、いわゆるプロとして、特定投資家としてどのような金融商品をどの程度購入したかという実績につきましては、把握をしておらないのが実情でございます。
○佐々木(憲)委員 法律はつくったけれども、実際にそれがどう使われているか把握していない、私はこれはかなりいいかげんじゃないかと思いますよ。法改正によって実態がどうなったか、それを十分に把握して、それで次の改正に進むというのが本来のあり方だと思うんですね。
自治体にはプロはおりません。情報も掌握はできない状況にあります。新銀行東京というのを見ても、自治体がまともな管理もできていない、これは明らかであります。しかも、資金の原資というのは公金ですからね。それなのに、今度はプロ向け市場にどうぞお入りくださいと。これは余りにも無責任だと私は思います。こういう特定投資家に入れることが私は最初から間違っていると思いますが、大臣、これは一般投資家で十分なんじゃないんですか。
○渡辺金融担当大臣 金融商品取引法では、顧客がプロであるか一般投資家であるかという区分に応じて規制の適用を柔軟化する制度にしてございます。投資家のうち、知識、経験、財産等の状況から金融取引に係る適切なリスク管理を行うことが可能と考えられる者を特定投資家、つまりプロと位置づけて、適用する行為規制の簡素化を図っているところでございます。自治体のみならず、国、日本銀行などもこの特定投資家の範囲に含まれているところであります。
○佐々木(憲)委員 説明になっていないですね。
適切なリスク管理ができる者と言うけれども、それができないのが実態なのであって、プロ向け市場の中でプロ同士が売買している金融商品はいかにリスクが高いかということは、例えばロンドン証券取引所のAIMの事例でも明らかでありまして、日経新聞の昨年7月26日付ですが、こういうふうに紹介されております。
AIMでは資源高相場を反映し株式時価総額の5割が鉱山と石油・ガス関連で占めている。企業買収や投資などの事業計画だけで上場できる。経営実態を持たずに資金を集める器を示すキャッシュシェル、この仕組みがトラブルを多発させている。典型は2005年に油田開発会社のリーガル石油がギリシャの石油発掘に失敗したケースだという紹介がありまして、これについてアメリカの証券取引委員会、SECのカンポス委員が、AIMを、まるでカジノじゃないかということでことし3月に批判をした、こういうことが報道されているわけですね。
したがって、一般投資家に対してこういう金融商品というのは原則転売禁止なわけですよ。そのプロ向け市場に自治体を組み入れる、どうもこれは理解できません。
問題なのは、プロ向けの商品は一般投資家には販売できないんですけれども、そのプロ向け商品を組み合わせて投資信託あるいはファンドなどを組成した場合、説明義務違反などがなければ一般投資家への販売が可能である、こうなっているわけです。例えば、プロ向け市場の中でAという金融商品がある、Bという金融商品がある。それは、それぞれ一般投資家には販売できないわけです。しかし、このAとBを組み合わせた金融商品をつくりますと、一般投資家に販売できるわけです。これは私はおかしいと思うんですね。ハイリスク・ハイリターンに変わりはないのに、なぜこれは一般投資家に販売できるんでしょうか。
○渡辺金融担当大臣 プロ向け市場における直接の取引参加者はプロ投資家に限定されています。一般投資家は、投資信託等により、企業の将来性を見きわめるプロ投資家の専門的な資産運用を通じて、プロ向け市場における投資成果を享受することが可能であります。
この場合、一般投資家は、投資信託の運用対象となる個々のプロ向け銘柄について、自分自身で投資判断を行うことは必ずしも必要ではありません。他方、投資信託の運用状況やリスクについて、的確に投資判断を行うための情報は適切に得られることが必要であります。このため、プロ向け市場に投資する投資信託については、一般の投資家が的確にそのリスク判断ができるよう、その投資方針、運用状況に関する情報について現行の厳格な法定開示規制の対象としているところであります。
プロ向け市場については取引所ルール等による自主的な情報提供の枠組みを創設するものでありますが、これは必ずしも投資判断に用いられる絶対的な情報量が少ないということを意味するものではありません。投資信託の投資運用を行うプロが個別のプロ向け銘柄について投資判断を行う際には、専門的な見地からの十分な情報の分析等が行われているものと考えております。
○佐々木(憲)委員 その説明ではなかなか納得できないですね。
つまり、プロはそれなりの情報源があり情報を掌握しているとしましても、それが必ずしも万全ではありませんで、先ほど言いましたように、かなり深刻な失敗もあるということですから、それを前提としてプロはプロの市場で売買しているわけですね。それを一般投資家に組み合わせて販売できるということになりますと、プロ向け市場の危険な状況をいわば拡散して、一般投資家を巻き込むことになる、そう言わざるを得ないと思いますよ。
しかも、このプロ向け市場というのは参加者の要件を限定しておりますが、金融資産3億円以上で、かつ1年以上の取引がある場合、これは一般投資家から特定投資家に移行できる、こうなるわけですね。そうすると、専門的な知識がない場合でも、資産が3億円以上あって1年以上取引している、こういう要件が兼ね備わっていれば、どうぞプロ向け市場で取引してください、こうなるわけでありまして、これも相当危険な状況だ、トラブルが多発する状況をつくると私は思います。
先ほど石井議員も指摘していました法人の問題、これもかなり広い範囲を対象としているわけですね。そういうことを考えますと、今回の法改正というのは、結局、投機的な分野に一般の国民が巻き込まれるおそれがある、そういうふうに思わざるを得ません。大臣、いかがですか。
○渡辺金融担当大臣 一般投資家が直接参加するマーケットにおいては、情報の非対称性という問題がございます。当然、投資家保護に万全を期す観点から、情報開示義務等の厳格な規制が必要とされているところであります。一方、取引参加者がプロ投資家に限定される場合には、情報の非対称性が減少することから、自己責任に立脚した自由度の高い取引の場を創設することが可能であります。こうした考え方に立って、今回の改正案においては、直接の参加者をプロ投資家に限定しつつ、法令に基づく公衆縦覧型の情報開示を免除するプロ向け市場を創設するものでございます。
地方公共団体は、先ほどから申し上げていますように、一般的には投資に対して十分な知識、経験、財産を有するものと考えられることから、特定投資家に位置づけているわけでございますが、そうした選択をせずに一般投資家に移行することは可能であります。また、金融商品取引業者は、地方公共団体に対して、一般投資家への移行が可能であるということを告知しなければならないわけでございます。自信のない地方公共団体は一般投資家の道を選択するということになろうかと思います。
○佐々木(憲)委員 今の説明を聞いても全く納得できないですね。
要するに、自治体という素人をプロ向け市場に巻き込むものであり、そして一般投資家をプロ向け市場の中でつくられる投機的な商品に巻き込んでいく。結局、私は、これを実行すれば相当金融被害というものが広がると思います。トラブルが多発し、大変な事態にならざるを得ないと思います。しかも、投資家、消費者を保護する体制も今の段階ではまだ極めて不十分であります。そういう中で規制緩和だけどんどん進めていく、これは私はやるべきではないというふうに思います。
もう時間が参りましたので、続きは次回にすることにしまして、きょうはこれで終了したいと思います。