2008年05月08日 第169回 通常国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【456】 - 質問
金融商品取引法改正案に関する参考人質疑
2008年5月8日の財務金融委員会で、4月25日に引き続き、内閣が提出した金融商品取引法(金商法)改正案に関する参考人質疑をおこない、佐々木憲昭議員も質問しました。
参考人として出席したのは、早稲大学大学院法務研究科教授の黒沼悦郎氏、東京証券取引所グループ取締役兼代表執行役社長の斉藤惇氏、日本証券業協会会長の安東俊夫氏、投資信託協会会長の樋口三千人氏の4名です。
金商法改正案は、課徴金水準の引きあげなど「市場ルール」構築する一方で、(1)専門知識を持ったプロ投資者に限定した取引の創設、(2)ETF(上場投資信託)など金融商品の多様化、(3)証券会社・銀行・保険会社間の役職の兼職規制の撤廃など、政府の言う「貯蓄から投資へ」の流れに沿って規制緩和するものです。
佐々木議員は、脱法的な新金融商品が被害者を生み出している現状からみて、包括的・横断的な金融サービス法が必要ではないかとただしました。
早稲田大学大学院の黒沼悦郎教授は、投資については投資サービス法がカバーしているが、金融サービス全般には及んでいないとしたうえで、「統一する法律が必要かどうかは議論が分かれる」と答えました。
さらに、佐々木議員は、野村證券のインサイダー取引事件を取り上げ、「日本の証券市場の信頼性が損なわれる事件だ」として再発防止策をただしました。
野村證券副社長を勤めたこともある斉藤惇参考人は、事件の原因として「管理が不十分だったの一言に尽きる」と指摘しました。
日本証券業協会の安東俊夫会長は「法人情報の管理や内部者取引防止策のあり方、協会員の倫理意識の向上などについて検討し、5月中には結果を出したい」と述べました。
議事録
【参考人の意見陳述と佐々木憲昭議員の質問部分】
○黒沼参考人(早稲田大学大学院法務研究科教授) 早稲田大学の黒沼でございます。
私は、今回の改正案の柱のうち、主として、プロ向け市場の枠組みの整備、課徴金制度の見直しについて意見を申し述べます。
まず、プロ向け市場は、資本市場がその本来の機能である資金調達の場、資産運用の場を幅広く提供できるように、プロ投資家のみが参加する市場を創設しようとするものです。金融商品取引法は投資者保護のために厳格なディスクロージャー規制を設けており、そこでは、日本語、日本の開示基準、日本の会計基準による開示が原則となります。このため、開示コストの負担を恐れて外国企業が日本国内の市場に上場せず、我が国の投資家が外国企業の株式に投資をする機会も限定されているのが実情だと思います。
そこで、プロ投資家のみが参加する市場を開設できるようにし、プロ市場における情報開示については、取引所による自主的な取り組みにゆだねようというのが改正案の要点です。
現行法においても、近く、英語による開示の対象が拡大される予定ですけれども、私は、一般投資家が参加する市場で英語開示の対象を拡大するよりも、情報を分析する能力のあるプロ投資家が参加する市場でそういった株式を取引させる方が適切であると考えておりましたので、今回の改正案に賛成であります。
このような制度を構築する場合、プロ向け銘柄が一般投資家の手に入らないように法的に手当てをすることが重要ですけれども、改正案では、転売制限のほか、業者が一般投資家との間でプロ向け銘柄の売買をしたり一般投資家から注文を受けて取引をすることをも罰則をもって禁止するなど、十分な手当てを行っていると考えます。
また、改正案では、プロ向け銘柄についても年1回以上の情報提供を義務づけ、提供情報が虚偽であった場合に、罰則や課徴金を課し、民事上の損害賠償責任を整えるなど、法律で最低限の情報開示を確保するようにしています。この点は私が当初予想していたよりも厳格な規制となっており、内容に満足しているところであります。
一般投資家はプロ投資家を通じてプロ向け市場へ投資をすることができるわけですが、その際の一般投資家の保護は、既存の法律制度によって図られることになります。例えば投資信託を通じて投資を行う場合、それが公募であれば法律上のディスクロージャー制度が適用されるわけですし、私募であっても、金融商品取引法上の説明義務や適合性原則などの販売勧誘規制が適用されるということになります。
次に、課徴金制度について、今回、その水準の引き上げや適用範囲の拡大を目指す改正案が提出されています。これまでこの制度はスムーズに運用されており、一定の効果を発揮していると私は考えておりますけれども、課徴金額の水準が低いのではないかという声があり、今回の改正案が提出されているところであります。
例えばインサイダー取引については、重要事実の公表から2週間以内の最高値を基準とすることにより、従来の2倍程度の課徴金額が算出されるようになります。これは、インサイダーが得た利得というよりも、インサイダーがねらった利得をとらえるものであり、インサイダー取引を行おうとする者に対して一定の抑止効果を発揮するということが期待できると思います。利得相当額を剥奪するというだけでは抑止効果が十分でないという議論もありますけれども、まずは改正法を運用し、その実態を観察すべきであろうと思います。
課徴金の適用範囲も拡大されています。もっとも、すべての金商法上の規定違反について適用されているわけではありませんで、例えば、一般的な不公正取引の禁止規定である157条違反が対象となっていないという点については、異論もあるようであります。しかし、最近では、風説の流布、偽計取引の禁止を定める158条が活用されておりますので、158条に係る課徴金で十分対応することができるのではないかと考えております。
最後に、行政処分や課徴金の適切な運用のためには、ただ単にその適用範囲を拡大して行政がそれを運用するというだけでなく、それが公正に適用されるように最終的には訴訟の場で争うことができるという仕組みがとられていますので、我が国でも、訴訟の場でこういったものを争うという抵抗感が減少し、適用の基準が明確になっていくということが期待されると思います。
時間を超過して失礼いたしました。以上で私の意見を終わりたいと思います。(拍手)
○原田委員長 ありがとうございました。
次に、斉藤参考人、お願いいたします。
○斉藤参考人(株式会社東京証券取引所グループ取締役兼代表執行役社長) 東証の斉藤でございます。
本日は、この法案の審議にお招きいただきまして、大変ありがたく存じます。この法案、法律案につきまして、私どもの考え方を簡単に述べさせていただきたいと思います。
もう先生方はよく御存じのとおり、過去20年間、日本の資本市場は、世界でただ一つ縮小を続けました。東証の時価総額、20年前は600兆円が現在400兆円でありますが、ニューヨークは当時の470兆円が2000兆円を超えておりますし、ロンドンは120兆円であったのがただいま600兆円になっております。また、昨年の取引状況を見ましても、東証の取引金額は650兆円でありましたけれども、ニューヨークの取引金額は3000兆円、そしてロンドンは1000兆円というふうに、取引量でも格差がついてきている。今や世界は、どうやってリスク資本を自分の国に呼び込むかという熾烈な競争をしているという状況であります。
この法案の中にうたってありますETFにつきましても、私どもはしっかり取り組まなければいけないと思っております。
北米で680本のETFがあります。ドイツ市場は333本、ロンドンは167本、そして、パリにありますユーロネクストだけで321本と、合計800本近いETFがヨーロッパでは取引されているのに対して、つい先日まで東証は、何とわずか13本のETFでありました。ようやく今35本にふやさせていただきましたけれども、このETFというのは、上場投資信託、非常に安いコストで、しかも指数を投信にパックにして上場しておりますので、個人の方が投資なされば、例えば、世界で1000銘柄ぐらいを投資しているのと同じような効果が出ます。したがって、個人のダイバーシフィケーション、リスク分散の商品として高く評価されて、もう既に数年にわたって世界で取引されているこのETFが、実は日本ではいろいろな理由で未発達であった。したがって、個人が自分でリスク分散しながら投資するというチャンスを日本国民に我々は与えることができなかったという問題があります。
また、投資信託も、後でお話があるかもしれませんが、確かに日本は40兆円から80兆円近くまで伸びまして、GDP500兆円に対して16%になりました。しかし、アメリカは同じ時期に800兆円から現在1200兆円の規模に膨らんでおりまして、アメリカのGDP1200兆円と全く同じ金額の投資信託があるというのが、今の世界のような姿であります。
我々は、国民一人一人が自分の人生を自分の資産運用でしっかり考えるという意味でも、このETFというものをぜひ拡大させていただきたい、こういうふうに思っております。
プロ向け市場でありますけれども、後ほどまた説明させていただきますけれども、若者がいろいろな事業を起こしたい、あるいは、日本の大学がいろいろなインキュベーター的な技術を持っている、あるいはベトナムや中国やインドの国々のいわゆる新興企業というものが、とてもそういうところは銀行がお金を貸せない先であります。リスクが非常に高い。だからこそ、リスクマネーを供給する資本市場の役割があるはずでありまして、そういう夢と希望を持ったビジネスマンにまたは投資家にチャンスを与える意味でも、このプロ市場というのをぜひつくらせていただきたいというふうに思っております。
最後の残りの時間で排出量の問題でありますが、我々としては、何を取引するか、そういうものはかなり国家的な戦略等々もありますので、そのことについていろいろここでコメントするつもりはありませんけれども、肝心なことは、排出量というのは既にもう大きく取引されている、そして、そのルールをどんどん西洋人を中心につくっていっている。その中にもし日本が今入らなければ、戦前と同じように、自分だけよければいい、世界のルールができ上がってから、孤立化してから批判してもしようがないということで、私どもとしては、もし商品の規定が決まれば、いつでも取引できるように取引所としての整理をしておきたいということで、既に研究会を発足しております。
考え方としては、取引所は国民の共有の財産だと思っております。何とか東証は、常に創造的かつ挑戦的な姿勢を保ちつつ、個別の具体的な施策に取り組んでまいりたいと思いますので、どうか、今後とも先生方の御支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
簡単でございますが、ごあいさつとさせていただきます。(拍手)
○原田委員長 ありがとうございました。
次に、安東参考人、お願いいたします。
○安東参考人(日本証券業協会会長) 日本証券業協会の会長を務めております安東でございます。
常日ごろ、諸先生方におかれましては、証券市場、証券界に対しまして御理解を賜りまして、ありがとうございます。
今、証券業協会は、証券会社319社、それと、第二地銀以上の銀行並びに信金、信組というところで221社、これが特別会員でございます、そういう構成で日本証券業協会は成っております。
御高承のとおり、我が国の証券市場は、サブプライム問題に端を発しましたアメリカ経済の先行きの不透明感、及び、それに起因する円高、原油高に伴う企業業績の懸念などによりまして、日経平均ですと、昨年7月の1万8000円台から、本年3月には1万1000円台まで下落いたしました。その後、若干上昇基調にはあるものの、いまだ1万4000円前後の水準にすぎず、我が国の市場と同様にサブプライム問題で昨年夏以降下落した他の主要先進諸国よりも回復がおくれておるところでございます。
このような状況を反映いたしまして、証券会社の決算でございますけれども、この3月期決算におきましては、営業損益ベースで前期と比べまして31%減の約6900億、そして、先ほどのサブプライムに絡む特損のありました証券会社の影響によりまして、当期純損益ベースでは95%減の約270億と、大変厳しい決算状況になると思われます。
また、我が国の金融資本市場に関しましては、ロンドンでことしの3月に公表されました国際金融センター指標、グローバル・ファイナンシャル・センターズ・インデックスということでございますと、1、人材、2、ビジネス環境、3、競争力等々5つの評価項目の総合で東京市場は第9位ということと低迷しておりまして、ちなみに、1位がロンドン、2位がニューヨーク、3位香港というところで、東京市場は先ほど言いました第9位ということで、国際的なプレゼンスの低下が懸念されているところでございます。
最近の国内のIPOを含めましたエクイティーファイナンスの状況を見ましても、昨年、2007年中は約7200億円と、前年に比べまして5分の1程度まで減少しておりまして、リスクマネーの供給という機能発揮の面での不十分さというような指摘もなされておるところでございます。
こうした中で、我が国が安定成長を持続し、国民一人一人の豊かな生活を実現するということは、今日の日本経済の最も重要な課題であります。
証券界といたしましては、我が国の金融資本市場の国際的な競争力を維持し、多くの国民が安心して投資を行うことのできる世界最高水準の市場の確立を目指しまして、貯蓄から投資への流れを加速、確実なものとするために、投資促進のための税制改正要望などを初めといたしまして、さまざまな施策に取り組んでいるところでございます。
さて、金融商品取引法でございますけれども、利用者保護ルールの徹底と利用者利便性の向上、貯蓄から投資に向けての市場機能の確保、国際化への対応という三つを大きな柱といたしまして、昨年9月30日から施行されておりますが、当初は、年末までをピークとして、やや混乱が見られました。
本協会の独自の調査によりますと、例えば証券会社におきまして、特定投資家であるとか一般投資家の振り分け、あるいは契約締結前書面等の作成、広告規制への対応が必要でした。一方、顧客の反応としては、特に銀行等の顧客が中心でございますけれども、書面交付の際の説明時間が非常に長くかかり過ぎるといったような反応がございましたけれども、これらにつきましても、現在のところは大分落ちつきを取り戻しているところでございます。
今回の金商法の改正案では、我が国金融資本市場の競争力の強化を図るため、いわゆるプロ向け市場の創設、ETFの多様化、取締役等の兼職規制の撤廃など、いわゆるファイアウオール規制の見直し、課徴金制度の見直しなど、言ってみたら、日本版ビッグバン以来の、我が国の金融資本市場の競争力の強化に向けた諸施策が網羅的に打ち出されております。
特に、冒頭にも申し上げましたけれども、こうした厳しい時期だからこそ、証券界としても、この法案が国会での御審議を経まして速やかに成立し、早期に実施されることを望んでいる次第であります。
ただ、銀行、証券間のファイアウオール規制については一言申し上げたいと思います。
初めに、私としては、我が国ではいわゆるユニバーサルバンクを目指すべきではないというふうに考えております。この考え方を前提とした上で、今回の改正では、利益相反管理体制の整備の義務づけ、銀行の優越的地位を濫用した証券会社による勧誘の禁止等の措置を講じた上で、役職員の兼職規制、法人顧客に関する非公開情報の授受の制限緩和の措置が講じられることとされております。
しかし、この規制緩和の新たな枠組みが十分に機能するためには、前提といたしまして、厳しい自己規律に基づいた、グループ内における規制の実効性が確保される必要がありますし、そこがおろそかになってしまいますと、かえって弊害が生じることになります。
今後、利益相反の管理体制につきましては、法令、ガイドラインにおいて規定されることと思います。証券界といたしましても、みずから適切な運用に努めることはもちろんでございますけれども、行政当局の適切な監督指導により、規制の実効性が確保されるようお願い申し上げます。
最後に、本協会の取り組みについて申し述べたいと存じます。
御承知のとおり、本協会は証券戦略部門と自主規制部門とに分かれております。証券戦略部門は証券市場の健全な発展を推進する業務、自主規制部門は証券市場の公正かつ透明性、信頼性の高い市場運営を推進する業務と言うことができまして、言ってみたら、車の両輪のごとく機能することが求められております。
本協会としましても、今後も、その自律性、専門性の特性を生かしつつ、法令を補完して適切に機能するよう、積極的に種々の課題に取り組んでいく所存でございます。
以上、いろいろと申し述べさせていただきましたが、私ども証券界といたしましても、さらなる証券市場の活性化に取り組んでまいりたいと存じますので、引き続き御支援を賜りますようお願い申し上げます。
以上で私の冒頭陳述とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
○原田委員長 ありがとうございました。
次に、樋口参考人、お願いいたします。
○樋口参考人(社団法人投資信託協会会長) 投資信託協会の樋口でございます。
衆議院財務金融委員会の先生方には、日ごろから何かと御支援を賜り、まことにありがとうございます。
金融商品取引法の改正案の中で、投資信託業界にとって特に関係いたします二点について、御意見を申し上げたいと存じます。
まず、ETFの多様化について述べさせていただきます。
さきの競争力強化プランには「取引所における取扱商品の多様化」として掲げられておりましたが、ETFを組成し運用する投資信託の運用会社の立場といたしましても、この法改正が行われることは、大変意義のあるものと思っております。
ETFは、先ほど斉藤参考人からもございましたが、1990年代に米国を中心に急速に発展をいたし、今、諸外国にも広がりを見せております。諸外国のETFは種類も豊富でありまして、株価指数に連動するもの、債券指数に連動するもの、あるいは商品の価格に連動するものなど、非常に多様化をいたしております。
ETFが最も発展をいたしております米国におきましては、自己の判断による投資活動が非常に活発に行われておりまして、その手段として、ETFや通常の投資信託が大いに利用されておるところでございます。
今回の金融商品取引法改正案が成立をいたしますれば、我々日本の運用会社も、投資家のさまざまなニーズにこたえるべく多様なETFを組成、運用して、我が国国民の皆様の資産形成に寄与できるものと考えております。
ETFは、運用対象となる有価証券指数や商品指数に連動するものがほとんどでございます。したがいまして、個別の有価証券や商品に投資するのに比べまして効果的に分散投資効果を得ることができ、投資経験が少ないとされております個人の方々にとりましても、比較的わかりやすい商品ではないかと思います。
さらに、株式、債券、REIT、商品など複数の資産のETFを組み合わせますれば、資産分散の効果も働き、リスク分散を図ることも可能となると考えられます。
また、諸外国の運用会社が商品を含めた多様なETFを組成、運用できるのに対しまして、我が国では以前は商品への投資はできませんでしたので、今回の改正案は、我が国の運用会社の国際競争力向上の面でも大いに意味があるものと考えております。
次に、プロ向け市場の創設について述べさせていただきます。
投資信託は、もともと、一般の個人の方々にかわりまして、専門家である運用会社が運用を代行する仕組みとなっております。一般の個人の方が高度な金融知識を習得し、経済・金利動向を予測いたし、さらに個別企業の収益や財務状況を分析するということはなかなか難しいものがございますが、投資信託を活用することにより、投資に参加することが可能となるわけでございます。
また、デリバティブ取引のように個人の参加が困難な市場であるとか、コールローンや手形を売買するインターバンク市場のように、金融機関だけで構成され、個人がそもそも参加できない市場でありましても、投資信託を通じまして、この市場での商品や取引を利用することができるわけでございます。
今回の改正法案に盛り込まれておりますプロ向け市場も、参加者をプロに限定した取引所市場でありますので、一般の方々は、投資信託を利用することによってこの取引に参加することになります。
投資信託の運用会社といたしましては、投資対象となり得るマーケットが拡大することは大いに歓迎すべきことであると判断いたしており、プロ向け市場の創設は、投資信託を通じて個人の資産形成に貢献できるものととらまえております。
投資信託は、分散投資と長期投資に最適であるという商品性から、国民の皆様の資産形成のための中核商品であるというふうに認識をいたしております。投資信託の運用会社といたしましては、プロ向け市場の創設などを通じまして、今後ますます多様化する投資対象をプロの視点で十分に分析をし、投資家の期待にこたえる運用成果を上げるよう努力をしてまいりたいと考えております。
以上で私の発言を終わります。ありがとうございました。(拍手)
○原田委員長 ありがとうございました。
以上で参考人4方の意見の開陳は終わりました。
これより参考人に対する質疑を行います。
質疑の申し出がございますので、順次これを許します。
≪中略≫
次に、佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
参考人の皆様方、大変長時間、お疲れさまでございます。私、最後ですので、どうかよろしくお願いいたします。
まず、黒沼参考人にお伺いをいたします。
金融危機の発生した97年ごろに私も大蔵委員会に所属しておりましたが、金融商品に対する幅広いルールをつくるべきだということで、包括的、横断的な金融サービス法の制定ということが議論されました。政府も前向きの方向だったと思うわけですが、その後、個別的、部分的な法整備は行われたものの、金融サービス法自体としては、どうもどんどん先送りされているような感じがするわけであります。
その結果、法のすき間を縫うような商品が開発され、また、それが販売され被害がふえるというような事態も起こっております。外国為替証拠金取引というようなものもそういう一つではなかったかと思いますが、今の法整備の現状、到達点というのをどのように見ておられるか、さらに、包括的、横断的な金融サービス法の制定に向けてどういう課題があるのか、その辺の考え方をお聞かせいただきたいと思います。
○黒沼参考人(早稲田大学大学院法務研究科教授) まず、現在の到達点についての認識ですけれども、確かに従来は、新しい金融商品が出てくるたびごとに規定を整備して、どのような金融機関で取り扱いするかというのを決定するような方式がとられていました。
それに対して、昨年9月から施行されている金融商品取引法では、これは審議段階では投資サービス法という名前で呼ばれていましたけれども、投資に対する包括的、横断的な投資者保護のルールを整備して、それによって新しい投資商品の開発を促そうという目的でつくられたものであります。
そこでは、典型的には、集団投資スキーム持ち分という概念を用いて、一種の包括的な有価証券の概念を使いまして、法のすき間を縫うような投資商品があらわれても、かなりの部分はこれを適用して、販売勧誘ルールとか、あるいは、場合によってはディスクロージャールールを適用していくことができるようになっているというふうに考えています。
従来から、投資サービス法の先に金融サービス法があるというふうに言われていまして、金融サービス法に向けての検討も引き続いて行うというふうにされているところであります。この点については先ほども少し申し述べましたけれども、預金や保険契約を含めた、広い範囲の金融サービスについての総合的な規律を定めるということを目的にした制度と一般には考えられています。
そこでは、行政的な監督規定、市場に関するルール、それから、契約者と業者との関係を規律するルールというものを包括的に定めることが考えられるわけですけれども、市場に関するルールというのは、実は投資サービス法でもう既に整えられていまして、それ以外に、保険契約、預金契約というのは一般的には個別に結ばれるものですから、さらにつけ加える部分は余りないのではないかというふうに私自身は考えております。
それから、金融機関ないしは業者と顧客との関係についても、投資サービス法で、投資性の高い金融商品についてのルールがかなりの程度横断的に定められました。これを一般的な金融商品についても及ぼしていくということは、それほど難しいことではないと思います。
さらに、業者の監督についても、これは統合は可能であります。ただ、現在ある証券取引等監視委員会のようなものは、これは証券市場に特有の機関ですので、これをどうするかという問題は重大な問題として残っていると思います。
ですから、法律自体を統合するとか、あるいは幅広いルールを薄くかけていくということはそれほど難しくないのですけれども、先ほども述べましたように、法律の目的というのが違っている部分がありまして、それぞれ目的に即した規定があるわけですから、これを一つの法律に置くのがいいのか、それとも、できるだけ横断的なルールは定めるけれども、なお銀行法とか保険法といった法律を残して、実質的な意味での金融サービス市場法ができればいいというふうに考えるのかは、議論が分かれるところではないかと思います。
御質問に対するお答えになっているかどうかわかりませんけれども、私からは以上です。
○佐々木(憲)委員 私は、市場の信頼性というふうに言われますけれども、公平公正なルールが確立されているということと、それから、紛争が起こった場合の処理が公明正大に行われる、このことが大変重要だろうと思っております。
そういう意味で、やはり消費者保護的観点をしっかりと踏まえた金融サービス法、それから、裁判外の紛争処理のルールの確立、制度の整備、これが非常に大事だというふうに思いますが、黒沼参考人のこの点についてのお考えをお伺いしたいと思います。
○黒沼参考人(早稲田大学大学院法務研究科教授) 証券取引法や金融商品取引法では一般に投資者保護という言葉が使われておりまして、そこでは、投資者と消費者は一応区分された概念で議論されています。私が考えるところでは、消費者保護的観点が必要な部分と、そうではなくて、投資家保護といいますか、投資者保護的な観点が必要な部分とがあると思います。
投資者保護的観点というのは、これは、情報をきちんと発行者などに開示させ、その情報に基づいた投資者の投資判断を尊重して、その判断の結果は投資者に帰属するようにする。そうすることが、市場における効率的な価格形成に寄与しますし、企業の資金調達などを通じた資源の効率的な配分に寄与する。そういう考え方から成っています。したがって、市場ルールとかディクスロージャーといったものについては、投資者保護的な観点からの規制が重要であろうと思います。
それに対して、業者と投資家、投資者の関係については、これは消費者保護的観点からのルールが必要な場面も出てくると考えています。両者の間には、情報の格差がありますし、契約に関する知識なども差がありますので、発行者が虚偽記載を行ったとかそういうのでなくて、証券会社の外務員が詐欺的な言辞を用いて投資勧誘を行ったとか、そういった直接的に投資家と接触が起こる場面では消費者保護的な観点からの法規制というのが必要であるし、現在、そういった観点からの規定も幾つか置かれているところであります。
それで、紛争の迅速な処理と投資家の納得のいく紛争解決というのも、消費者保護的な観点から求められていることだろうと思います。
○佐々木(憲)委員 次に、安東参考人、斉藤参考人にお伺いをいたします。
今回、野村証券元社員のインサイダー取引に関連をして逮捕者が出るということで、大変な大きな話題になっておりますが、企業情報部というMアンドAを扱う部門で発生した事件であります。日本の証券市場の信頼性というのは非常に損なわれる可能性が大きいと思うんですが、なぜこういう事件が発生したのか、その原因はどこにあるのか。
特に私が疑問に思いましたのは、この事件を起こした社員が、これは入社したばかりでこの企業情報部に配属されているわけですね。一昨年の2006年2月にすぐこのMアンドAを行う企業情報部に配属された。重要な非公開情報に接する部署に会社に入って間もない人物が配置される、これが通常行われているやり方なのかどうか。
野村証券に斉藤参考人は35年間お勤めになり、副社長まで務められたわけでありますし、安東さんは、34年間ですか、30数年お勤めになっておられると思うんですが、みずからの体験も踏まえて、こういう人事配置というのは通常行われているのかどうか、それから、今回の事件の背景、原因、こういうものをどのようにとらえておられるか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
○安東参考人(日本証券業協会会長) 通常、新卒採用ですと、ジョブローテーションとの関係がありまして、今、企業金融部門とかあるいは一般的な営業部門とか二通りの採用をしておりますけれども、いきなりこういった企業情報部みたいなところに行くケースは少ないと思います。
ただ、今回のケースは中途採用でございますので、特にこういったMアンドAに絡むビジネスというのはもちろん重要でございますし、それから、クロスボーダーといいまして、各国をまたぐようなビジネスも多いということで、恐らく今回採用した社員は、即戦力として、もちろん、中国人で京都大学ということで日本語と中国語を十分に操れる、かなりレベルも高いんだろうというようなことで配置したというふうに考えております。
○斉藤参考人(株式会社東京証券取引所グループ取締役兼代表執行役社長) 私も働いたことのある会社でこういうことが起きて、大変遺憾に思って申しわけなく思いますが、正直言いまして、私も10年以上前にもう会社をやめておりますので、今、野村の体制がどうなっているか、採用をどうしているかよくわかりませんので、一般論的にちょっとあれしますと、企業情報部というのは、先生もおっしゃるとおり、大変な秘密を保っている部でありますので、私たちが経営していたときは、これは別会社に独立させておりました。後で中へ入れた。どうして入れたかとか、それはよくわかりません。
私も、去りますときに、法曹界でも一番厳しいような弁護士先生なんかにいろいろ管理をしていただくような体制をしいて去りましたので、その後、後輩たちは相当一生懸命やっていたようには拝見していたんですけれども、これはやはり抜けていたと思います。
やはり時代で、今後これはもういろいろ問題が出てくると思いますが、外国から見て日本企業の一つの閉鎖性という言葉になるんですが、言われるのは、日本の本社に外人がいない。これは、世界でこんな国はない。本社は、大体数十カ国の人材、あるいは役員も、もはや今の時代は数十カ国の人間が一緒に働く時代だというようなことを言われておりまして、多分これは、ある一種のプロフェッショナルとして中国を専門にするというような考えで採用したんだろうと思いますが、これはもうまさしく管理が不十分であった、一語に尽きると思います。
○佐々木(憲)委員 今、管理が不十分だったということですけれども、こういう部署だけではないと思いますけれども、重要な部署につく場合には、当然、社内の研修なり、あるいは情報管理のあり方というものをしっかりと確認するということが大事だと思うんですが、今回、こういう事件を踏まえてどういう対応をするかということが大変大事だと思うんです。97年のときに氏家社長は、3回目を起こせば社会的な信頼を二度と取り戻せない、こう言っていたわけです。ところが、またこういうことが起こる。もう三度目、四度目ということなわけですね。
ですから、これは日本証券業協会としても、自主規制機関としての何らかの対応というものが求められると思います。どういう対応をとられるのか。
当然、その原因の究明はもちろんですけれども、きちっとした対応をとらない限りは、やはり、幾ら国民に株を買いなさいと言っても、これはなかなかそういうふうにはならないわけでありまして、この点での対応を具体的にお聞かせいただきたいと思います。
○安東参考人(日本証券業協会会長) インサイダー取引は、もちろん市場の公平性を阻害する、かつ重大な法令違反行為でございます。したがいまして、証券市場あるいは証券界に対する信頼の確保、向上というのが求められている中では、極めて遺憾な出来事だ。
現在、当局とも情報交換を行っているところでございますし、野村証券においては第三者による特別委員会が発足したということでございますので、その結果につきましては現在不明でございますけれども、当協会としては、今御指摘のありました自主規制機関として、現在、内部者取引防止に関する内部管理体制等検討ワーキングというようなものを設置しておりまして、金融庁及び金融商品取引所等とも連携を図りながら、内部管理体制について現在検討を行っているところでございます。
○佐々木(憲)委員 検討もしっかりやっていただきたいんですが、その具体的な対応策をいつごろまでに、どのようにとられるかということをお聞かせいただきます。
○安東参考人(日本証券業協会会長) 具体的な検討事項といたしましては、まず、法人関係者情報の管理のあり方、これは極めて重要でございます。それから、協会員の役職員における株式取引のあり方、内部者取引防止のための協会員における売買管理、内部管理体制、協会員の役職員の倫理意識の向上、違反者に対する処分の厳格化というようなところが具体的なところでございまして、5月中にこれはやるつもりでございます。
○佐々木(憲)委員 安東参考人は先ほど、ファイアウオールの関連で、規制の実効性が確保されるように臨みたいというふうにおっしゃいました。これは、企業任せということではなかなかこのファイアウオールの管理というものも十分できないと私は思います。
この間の金融機関の不祥事も、コンプライアンス体制の監督をしても防げなかったということもありますし、やはり、直接的な監督体制の強化というものが非常に大事だというふうに思っておりますので、この点で具体的な規制のあり方、この点についてお考えがあれば、最後にお聞きをしたいと思います。
○安東参考人(日本証券業協会会長) これはもう協会として、現在監査が60名いますけれども、これらの物理的な人員も含めて、監査を徹底強化していくというのが早いかと思っています。
○佐々木(憲)委員 時間が参りましたので終わります。どうもありがとうございました。