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金融(銀行・保険・証券) (信託業法)

2004年11月12日 第161回 臨時国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【263】 - 質問

信託業法改正案にかんする参考人質疑

 2004年11月12日財務金融委員会で、政府提出の信託業法改正案について質疑が行われ、午前には参考人質疑がおこなわれました。
 参考人は、古沢熙一郎氏(社団法人信託協会会長)、神作裕之氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)です。

議事録

【公述人の意見開陳部分と佐々木憲昭議員の参考人質疑部分】
○古沢熙一郎参考人(社団法人信託協会会長) 信託協会長を拝命しております三井トラスト・ホールディングスの古沢でございます。
 本日は、信託業法案の審議に当たり、信託業界を代表して意見を述べさせていただく機会をちょうだいし、御礼を申し上げます。
 まず初めに、信託業務の現状について若干申し上げます。
 信託は、資産をさまざまな形で管理、処分できる柔軟性に富んだ制度でありまして、時代時代の多様なニーズにこたえてまいりました。とりわけここ数年は、年金資金の運用管理や資産流動化などにおいて重要な役割を果たしております。
 現在、信託業務は、信託銀行を初めとする、信託業務を兼営する金融機関が担い手となっておりまして、受託残高は、平成16年3月末現在で492兆円に達しております。
 昨年7月に取りまとめられました金融審議会の信託業のあり方に関する中間報告書にもありますとおり、財産管理等のすぐれた機能を有する信託が我が国金融システムの基本的インフラとして活用される可能性は、今後ますます高まるものと考えております。
 次に、信託業界として、現在御審議いただいております信託業法案をどのように受けとめているかにつき申し述べさせていただきます。
 信託業界といたしましては、これまでの法案策定の過程で関係されました皆様方の御尽力に深く感謝いたしますとともに、委員の先生方の御理解を賜り、ぜひとも早期の成立を期待するものであります。
 まず最初に、信託業法案に対する基本的認識を申し上げます。
 今回の改正は約80年ぶりの改正であります。この間の経済社会の進展に伴う信託制度に対するさまざまなニーズに対応するものであり、信託制度のさらなる普及、発展に資するものと考えております。
 次に、改正のポイントとなる点について、三点申し上げます。
 第一に、受託できる財産権に関する制限が撤廃されるということであります。
 経済界には、知的財産権の流動化を初めとして、信託機能を活用したいとの具体的なニーズが存在していると仄聞するところであります。受託財産の制限がなくなることによりまして、我が国経済において喫緊の課題とされております知的財産権に関して、これまで接点のなかった産業技術と金融とのつなぎ役として信託制度を活用して管理したり、流動化して資金調達を実現することが可能となります。
 第二に、信託業の担い手の拡大と、それに伴う業者ルールの整備ということでございます。
 みずからが信託機能を有して活用したいとのニーズに対応して、新たに信託会社が信託業務を行えるようになることは、信託兼営金融機関との健全な競争を促し、より利用者の利便性が向上することになると考えております。こうした担い手の拡大に伴い、業者間で公正な競争が行われるための業者ルールの整備が不可欠となりますが、信託契約の締結の勧誘段階から信託財産の管理運用まで、幅広く適切に規律が用意されておりまして、必要かつ十分な整備がなされているものと考えております。
 三点目として、信託業のいわば周辺業について整備がなされ、信託制度へのアクセスが向上する点が挙げられます。
 具体的には、信託契約の締結の代理、媒介を行う信託契約代理店制度が設けられたこと、及び、信託受益権の販売、その代理、媒介を行う信託受益権販売業制度が設けられたことであります。これにより営業網が補完され、潜在的な信託制度へのニーズをくみ上げることが可能となります。
 最後になりますが、一般法である信託法につきましても、現在、改正に向け法制審議会で検討が進んでおります。一連の信託関連法の改正は、利用者にとって利便性と信頼性の高い信託制度の健全な発展に資するものと考えております。
 これまで申し上げた点について御理解を賜り、ぜひとも本信託業法案の早期成立をお願いする次第であります。
 以上、簡単ではありますが、私なりの意見を述べさせていただきました。ありがとうございました。(拍手)
○金田委員長 ありがとうございました。
 次に、神作参考人、よろしくお願いいたします。
○神作裕之参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 東京大学の神作でございます。
 本日は、信託業法の改正につきまして意見を述べる機会を与えていただき、まことに光栄に存じております。
 現代社会は信託ないし信認の時代であるということが日米の識者によって指摘されております。例えばアメリカのボストン大学のターマー・フランケル教授は、社会は、身分制社会から契約を中心とする社会、そして契約を中心とする社会から信託ないし信認を中心とする社会に移りつつある、こういう指摘をされております。この指摘の意味することは、次のようなことと理解しております。
 すなわち、現代社会においては、分業と専門化が特色となっており、人々は専門家に対して一定の権限を授与し、専門家はその受益者のために、専門的な知識、技術を十分に生かしながらさまざまな事務処理あるいは財産管理等を行うというものでございます。
 このように、信託は、プロによる財産管理という機能を提供するのみならず、例えば、委託者、受託者、受益者の倒産から隔離された独立財産をつくる、こういった倒産隔離機能、あるいは、法律関係を単純化する単純化機能、こういったさまざまな重要な機能が認められております。近年、流動化または資金調達のスキームに特に適した法形式として信託は大きな注目を集め、かつ実際の利用も広がっているところであります。
 信託法はもともと英米法に由来し、信託法こそが英米法の真髄であると言われております。我が国は、御承知のように大陸法系に属する国でございますけれども、明治38年に社債の担保の管理のために担保附社債信託法という法律を制定し、信託制度を大陸法系の我が国に導入するという一つの決断を下しました。ややおくれて、大正11年には信託法が制定され、私法上の規律も整備されるに至っております。また、大正11年には同時に信託業法も制定され、その後、昭和18年に制定されました金融機関ノ信託業務ノ兼営等ニ関スル法律とともに、我が国における信託法制のインフラを提供する法として重要な役割を果たしてきたものと認識しております。先ほど申し上げましたように、信託というのは本来プロによる財産管理等の制度でございますから、プロに対するルールである業法が重要な役割を担うということは当然のことであると考えております。
 なお、信託の本家の英米におきましても、商事的な信託の利用は主として金融の分野で行われております。また、制定法としての信託法を有しないドイツのような大陸法系の諸国におきましても信託法理は判例法理として認められ、今や、ドイツにおきましても、信託なくしては金融の分野は語れないと言われているほどでございます。
 グローバル化やIT化の影響も受け、金融資本市場が急速に変化し、かつ金融技術の発展が目覚ましい中で、資金調達手法の多様化、運用対象の選択肢の拡大、こういった観点から、信託の機能に対する期待が大いに高まっているというふうに認識しております。
 そのほか、知的財産権の重要性の高まり、これを反映いたしまして、例えばグループ企業内で知的財産権を集中管理する、あるいは大学技術移転事業においてTLOが信託機能を活用したい、このようなニーズも具体的にあらわれているというふうに伺っております。
 ところが、現行の信託業法が、それらのニーズを満たし、さらには信託制度を利用した新しい工夫や技術の開発を促進するということに対する制約となっているのではないかという問題意識が出てまいりました。
 具体的な例を二点申し上げますと、例えば、受託可能財産が金銭等に限定されておりますために、先ほど申し上げました知的財産権を当初信託財産として受託するということが業法上はできないこととなっております。また、信託業の担い手が金融機関に実際上限定されているといった問題もあるわけであります。
 そこで、今回の改正提案は、受託可能財産を信託法上引き受けが可能な財産権一般に拡大するということを提案するとともに、信託業の担い手として金融機関以外の一般事業者等が登場してくるということを前提に、信託の類型に応じた区別を行い、参入基準をきめ細かく設けるものでございます。
 信託と申しましても、その信託が果たす機能はさまざまでございます。受託者以外の第三者からの指図に基づき財産を管理運用し、専ら受託者は財産の保管管理に努める、このように、保管業務に重点が置かれた信託から、より積極的に受託者が裁量権を行使する、このような信託までさまざまな信託がございます。
 そこで、今回の改正提案は、信託がどのような機能を求められているものかという類型に応じて参入基準も区別するという考え方に立つものであり、このような方向は、信託を用いたさまざまな金融商品や金融手法の開発を可能にするとともに、投資家にとってはその選択肢を広げるという点において適切な方向であると考えております。
 もっとも、一般の人々から信頼を受けて財産権を委託されるというこの信託の特徴からいたしまして、受託者が健全かつ効率的に業務を遂行する、そのことを確保するためのいわゆる業者ルールが必要不可欠でございます。
 私がとりわけ重要と考えておりますのは、受託者の義務に関するルールでございます。
 それはなぜかと申しますと、受託者は、単に財産管理権を任されているだけではなく、財産権についての名義まで受託者に移譲されます。したがって、受託者には一般的に言って非常に広大な権限があると言えるわけであります。さらに、受託者に対しましては、実質的な所有者である受益者からのコントロールが必ずしも期待できないという特色もございます。受託者の範囲の拡大に伴い、受託者の財務及び業務の健全性、効率性の確保に対する適切な規律がなければ、信託制度に対する信頼が得られず、信託機能の発揮は阻害されてしまうおそれが大きいと考えられるからでございます。
 他方、信託会社の行為規範を可能な限り明確にするということも必要でございますし、受託者がその専門的な知識やノウハウを存分に生かす、創意工夫を妨げることがないような、このような行為準則を定めることが期待されます。
 このような観点から、本法案は、いずれもこれらの要請を満たすべくルールが置かれているものというふうに理解しております。
 金融のスキームとして信託が利用されるためには、市場と投資家を結ぶ仲介者の役割が非常に重要でありまして、この仲介者の役割の重視は世界的な傾向でございます。
 本改正提案におきましても、信託契約代理店及び信託受益権販売業者という制度を設けまして、市場と投資家とを結ぶ制度、これをあらかじめ道筋をつけ適切な規律を行っており、世界的な、金融を仲介するもの、市場と投資家を結ぶものに対する規律、あるいはその機能を果たすことを積極的に考えていくというグローバルスタンダードにも合致しているものと理解しております。
 最後に、私法としての信託法との関係、及び、現在平成17年の国会提出を目途として法制審議会信託法部会において議論されております信託法改正の動向との関係について、一言申し上げさせていただきたく存じます。
 先ほど述べましたように、受託者の義務及び責任を初めとし、信託の私法上の規律について、平成17年を目標として行われております信託法改正により抜本的な改正がなされる可能性が高いように思われます。信託業法は私法上の規律をいわばベースにしているものでございますので、もし信託法の改正が実現するということになりますと、信託業法のさらなる改正は避けられないものというふうに私は理解しております。
 しかしながら、これまで述べさせていただきました理由から、私は、動きの速い金融の分野におきましては、信託法改正を待たずに、いわば第一段階の信託業法の改正として、少しでも早く本法案についての御審議がなされることが望ましいことではないかと考えております。
 以上、私の意見を述べさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)
○金田委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。
……中略……
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 お二人の参考人には、大変貴重な御意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございます。
 今度の信託業法の改正のポイントは、先ほどからお話がありましたように、一つは、信託の受託対象財産の制約を取り払って、信託の対象財産を広げていくというのが一つですね。それから、扱う業者として金融機関以外の参入も認めていくという、大変大きな改正だと思いますが、これによっていろいろな商品が生まれる、それから、新たに参入してくる業者も広がりますから、いろいろなトラブルが当然発生し得るわけでございます。
 したがって、これからの信託会社に問われるのは、一般投資家の保護、それから受託者責任、これをしっかり果たすということになるんだと思うんです。
 そこで、古沢参考人にお伺いします。
 例えば、一昨年、変額個人年金保険、10月から銀行での窓口販売を解禁しましたが、この際には銀行で担当する職員にかなりきちっとした研修を行ったというふうにお聞きしておりますけれども、当然、協会あるいは業界として、こういう新しい体制をつくっていくということになりますと、その商品の理解、従業員の、ルールをしっかり守る、そういう教育といいますか、これは大事になると思いますけれども、どのような方策をお考えになっておられるか、具体的にお伺いしたいと思います。
○古沢熙一郎参考人(社団法人信託協会会長) 今回、受託可能財産の範囲が拡大をするということとか、新規参入者が入ってくるということでありますので、業界、協会としても、そういう方々についてはどちらかというと門戸を広げて業界、協会の中に加盟をしていただきたいというふうに考えておりますが、あわせまして、やはり新しい方々に対して、先生御指摘のようないろんな意味での研修であるとか、そういうことを通じて、受益者保護といいますかそういうことがきちんと守られていくような、そういう研修活動みたいなものも今後検討していく必要があるのではないかというふうに考えております。
 以上でございます。
○佐々木(憲)委員 今後検討されるということですので、しっかりその点はやっていただければと思います。
 それで、例えばトラブルが発生した場合の対応でございますけれども、現在、信託協会に信託相談所というのがあるそうですが、これから新しい体制になっていくわけですけれども、その場合に今までのようなやり方で果たして対応できるのかどうか、これが問われると思います。商品も非常にバラエティーに富んだものが生まれる、それから金融機関以外の業者がどんどん参入してくる。そうなりますと、想定し得ないようないろんなトラブルが発生することが想定されるわけですね。それに対応するものとして相談窓口のようなものがあったとしても、現在の状況ですと、一応受けて、それを関連する会社に紹介をして、相談をしてくださいよ、親切に対応してくださいよと言うことぐらいだと思うんです。そして、複雑な場合には弁護士にも頼むということだと思うんです。しかし、もっとこれは客観的なトラブルの解決というものが求められていくのではないか。
 したがいまして、業界対応をもう一歩踏み越えて、第三者的な性格を持ったそういう機関も必要になっていくのではないかと思うんですけれども、その点で、古沢参考人、神作参考人、それぞれお考えをお聞かせいただきたいと思います。
○古沢熙一郎参考人(社団法人信託協会会長) 現在、いわゆるお客様のいろんな紛争、トラブルに対する窓口といいますか、そういう面では信託協会の中に信託相談所というものを設けておりまして、そこでお客様と加盟会社との間の合意による問題の解決を目指して、できるだけ早期に解決をするというようなことで臨んでおりますが、先生御指摘のように、新しい参入者あるいは受託財産の可能範囲が広がるということになりますと、従来のような対応だけではちょっと不十分かなという感じもしておりまして、そういう意味では、信託相談所の担当職員に対する教育研修、こういうものももう少し高めていく必要があるかなというふうに考えております。
 以上、回答申し上げます。
○神作裕之参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) お答えいたします。
 受託者の範囲の拡大あるいは信託引き受け可能財産の範囲の拡大等に伴って消費者からのさまざまなトラブルが出てくるのではないかという御指摘、まことにごもっともと存じます。
 信託を用いて金融商品等を販売した場合に、大きく三つのタイプのトラブルがあるのではないかと考えております。まず第一は、信託商品を販売する段階で生ずるトラブル。第二段階は、その信託商品の仕組み自体が問題である、それに起因して発生するトラブル。それから第三段階が、受託者の行為、業務、これが適切であったかどうかという点に起因して生ずる問題。こういった大きく三つに分けることができるかと存じますけれども、特に第一の、勧誘をめぐるトラブル、それから受託者が善管注意義務を果たしたかどうかということにつきましては、なかなか厳密な意味での立証責任を尽くすことが難しい。俗な言葉で申しますと、水かけ論に終わる可能性が非常に高いと考えております。そのような分野におきましては、裁判所において紛争を解決するのではなく、裁判手続外の紛争処理、これが非常に重要な役割を果たすことになるのではないかと考えております。
 したがいまして、このような観点から、消費者のトラブルを幾つかに類型化した上で、ADRに任せるようなものについては、ADRについてのさらに積極的な活用、その充実を図っていくということが必要ではないかと考えております。
 以上、簡単ではございますが、お答えさせていただきました。
○佐々木(憲)委員 先ほど神作参考人が最後に意見陳述の中で述べられました、今回の改正はまだ一歩である、さらに改正が必要だというようなお話をされましたので、この法律上どういう部分をさらに改正が必要だというふうにお考えなのか、簡単にお聞かせいただきたいと思います。
○神作裕之参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) お答えいたします。
 私法としての信託法の改正作業が現在進んでいるところでございますけれども、現在行われております信託業法の改正は、現行の信託法をベースにしたものである。逆に申しますと、業法というのは、やはり私法上の規律がどうなっているかということを無視して業法をつくるわけにはまいらないと理解しております。したがいまして、私法としての信託法が改正されましたら、恐らく信託業法の改正も不可避になる、そのように理解しているわけです。
 しかし、私は、意見陳述の中でも申し述べさせていただきましたように、非常に進展の速い金融の分野におきましては一刻の猶予もなく、できる限り速やかに、第一段階の改正だけでも早期に速やかに御審議いただくことが望ましいことではないかと考えている次第でございます。
○佐々木(憲)委員 では、終わります。ありがとうございました。

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