憲昭からの発信
憲昭からの発信 − 論文・対談
小泉「構造改革」から日本経済を救う道
『前衛』2003年10月号
はじめに
7月の末に閉会した156通常国会は、小泉内閣がすすめてきた路線がさまざまなかたちでゆきづまりを見せた国会でした。私自身、この国会で30回の質問をおこない、小泉首相と六回の論戦をおこなう機会を得ましたが、そこでも全体として自民党政治のゆきづまりを実感しました。
私たちが、各地をまわってみなさんからお聞きするお話は、「リストラで失業しこれからの生活が不安です。雇用保険も切れるしどうしたらいいか」、「親も失業し、息子も就職難で仕事が見つかりません」「銀行の貸しはがしで廃業するしかない」など、切実な話ばかりです。ところが小泉首相は、こういう実態を直視し対策をたてる姿勢がまったくありません。経済政策といえば「不良債権処理の加速」などいっそう「痛み」をおしつけるものばかりです。しかも、生活不安が広がり、年収もここ2年間で30万円以上も落ち込んでいるもとで、これから4兆円負担増を国民におしつける。そのうえさらに、年金の大改悪や消費税の大増税をねらっている。本当に、どこまで生活を破壊すればすむのでしょうか。
小泉首相には、国民の「痛み」や「苦しみ」に思いを寄せるという発想がまったくなく、政治家として庶民感覚がゼロだということを論戦のなかで感じました。
この小泉・自公内閤にたいし、日本共産党は果敢にたたかってきました。これまでの政策の根本的な転換を求めて大奮闘すると同時に、具体的な成果もいくつかあげることができました。日本共産党の役割か光った国会だったと言えます。議員の奮闘だけでなく秘書の皆さんの奮闘、それを後押しする国民運動が多面的に広がったことも実感しました。
ここでは、国会の論戦をふり返りながら、小泉内閣との対決と経済政策の転換の方向について考えてみたいと思います。
一、国民への大増税・負担増に正面から反対
この国会では、冒頭の1月24日、補正予算にたいする質疑が、私の第一回目の質問でした。そのときにとりあげたのが、「消費税大増税」の問題でした。
日本経団連は、今年1月「新ビジョン 活力と魅力溢れる日本を」のなかで、来年から消費税率を毎年一%ずつあげ、最終的に16%にすべきだというとんでもない方針を出しました。何人かの閣僚がこれに賛同するという動きがありましたので、予算委員会でとりあげました。その後、5月になって経団連がふたたび、2004年から25年までに18%に引き上げる必要があるという提言をおこないました。また、6月には政府税調が、中間答申で、初めて「二桁の税率に引き上げる必要」を明記するなど、今後の経済政策の重大な焦点になろうとしています。
彼らは、消費税増税の口実として「将来の少子高齢化を支える財源」だと繰り返してきました。しかし私は、税制を問題にするさい、消費税だけを増税の対象にする発想自体かが問題だと思います。
国の税収は、基本的には消費税と法人税、所得税が大きな柱になっています。消費税は、1989年の導入以来一貫して税収が増え、全体の税収にしめる比率は、89年には5・95%だったのが、90年に7・69%、2002年度は21・66%と急増しています。一方で法人税は、89年に34・58%だったのが、02年は22・56%に下がっています。この消費税の比率は、5%のうち国に入る4%分だけで計算した数字ですから、地方に配分する分も入れると、法人税と消費税の比率は逆転します。
では、法人税の税収はなぜ下がったのか。不況の影響もありますが、法人税の税率を引き下げてきたことが大きな要因となっています。所得税の税収は全体として横ばいで大きな変化はありませんから、この間、庶民が払う消費税には大増税が押しつけられ、その一方で大企業が負担する法人税については減税が繰り返されてきた実態がはっきり浮かびあがっています。
経団連の主張は、この傾向をさらにすすめようとするものです。消費税をさらに引き上げ、世界でも低い水準にある法人税をいっそう引き下げるというのです。結局それは、庶民負担をますます増やし、大企業の負担をかつてなく軽くすることに他なりません。まったく勝手な考え方です。
もう一点、指摘しなければならないのは、消費税の基本的性格としで、「逆進性」があるという問題です。つまり年収の低い階層ほど、消費税の負担率は高くなる。税率の引き上げによってこの税がそもそも持っている悪い性格が、よりいっそう拡大することです。
たとえば、現行の消費税率五%で負担率の平均は2・11%ですが、年収が200万円未満の場合、4・09%の負担率となっています。しかし、年収が1500万円以上の階層は、1・26%の負担率です。今でもこれだけの逆進性があります。これが仮に16%に上がるとどうなるか。所得の一番低い層は13・08%の負担率に急増します。年問収入1500万円以上の階層は4・03%です。消費税の税率アップが逆進性を拡大し、いかに低所得者層の暮らしを直撃するかは明白です。
「朝日新聞」の6月の調査では、消費税率を引き上げることに「反対」か64%でした。これは、「賛成」の28%を大きく上回っています。たとえば20代の反対が82%など、とくに若い世代と女性の反対が強いのが特徴です。この間、ワインやタバコ、発泡酒などの増税が行われてきました。また所得税については、配偶者特別控除が来年4月から廃止され、さらに特定扶養控除の縮小・廃止も提案されています。これからは、庶民増税反対、負担増反対を前面に押し出してたたかっていくことが、ますます必要になっています。
先の国会では、医療費の国民負担を軽減するかどうかについても、大きな争点になりました。日本共産党をはじめ野党四党が、医療費の3割負担を2割に戻す法案を提案したのも大きな特徴でした。
では、将来の社会保障の財源をどうするか。税制では、逆進性のある消費税にたよるのではなく、別の道を考えなければなりません。これまで一方的に減税の恩恵を受けてきた大企業や高額所得者など負担能力のあるところに、応分の負担をしてもらうという民主的改革が必要です。もう一つは、財政の歳出構造を改革することです。大型公共事業のムダをチェックして内容を生活密着型に変えながら、全体として総枠を縮小すること、ODA予算や軍事費を縮減する方向に転換することなどが必要です。
二、大銀行奉仕・大企業奉仕をいっそう強めた自民・公明内閣
先の国会では、小泉内閣が経済危機をいっそう深刻化させながら、大銀行奉仕・大企業奉仕を強めたことも大きな特徴でした。
◆りそな銀行への2兆円の公的資金投入
そのひとつは、りそな銀行にたいして約2兆円もの公的資金を投入することが決定されたことです。小泉内閣は、実体経済をよくする対策は何一つおこなわず、他方で、「竹中プログラム」を強引にすすめたことが、「りそな危機」をまねきました。
たとえば「資産査定の厳格化」によって不良債権処理をいっそう加速化し、中小企業への貸しはがしや金利引き上げをもたらしました。それが地域経済に打撃を与えて「デフレ」を加速し、銀行の経営基盤を困難にするという悪循環をまねいているのです。
もちろん、りそな銀行には、不健全なところへの大口融資などバブル時代からの負の遺産も依然としてあります。しかし、政治の責任という点から言えば、竹中プログラムを中心とした政府の金融政策が、銀行そのものの経営のゆきづまりを生み出しているという点が重要だと思います。
りそな銀行に2兆円を投入すれば、中小企業に資金がまわるのでしょうか。私は、予算委員会でも追及したのですが、ますます中小企業つぶしに傾斜することが明らかになりました。4月に金融庁が出した「特別支援金融機関における管理会計上の勘定分離」という方針があります。それによると、りそなのような特別管理銀行になると融資先を「再生勘定」と「新生勘定」にわけることになります。この「再生勘定」は、実際には再生を目的としているのではなく、「不良債権の早期処理の観点から管理する」と書かれています。しかも、これまで処理対象とされた不良債権の区分よりもいっそう広い「要管理先以下」という区分で、早期処理をすすめるというのです。今まで以上に、中小企業にたいする締め上げを加速させる仕掛けです。りそな銀行が、その方針の第一号の対象になるわけです。だから、2兆円を投入しても、中小企業に資金がまわらないだけではなく、貸し渋り・貸しはがしがいっそう激しくなると言わなければなりません。
残念ながら、りそな銀行への公的資金投入に明確に反対したのは日本共産党だけでした。国民の税金を無駄にせず、中小企業のために銀行をどう再生させるか、そういう立場から銀行業界に自主的・自立的な再生の要求を主張しているのが日本共産党だということが鮮明になったと思います。
◆竹中プランがまねいた金融機関のゆきづまり
大銀行奉仕という点では、株式保有機構の「改正」がおこなわれたことも重大です。
もともとこの仕組みは、2001年に法律がつくられ昨年1月に発足したものです。銀行保有株を買い上げ値下がりしたら税金で穴埋めする仕組みです。日本共産党はこの仕組みができたとき、厳しく批判し反対の態度をとりました。
これまでは、銀行か機構に株を売却する際に売却額の8%を銀行が拠出金として出す仕組みでした。ところが今回提案された改悪案は、銀行が拠出金を出さなくてすむようにしようというものです。日本共産党は、これは徹頭徹尾銀行を支援する内容であり、株価が下落した損失を国民に押しつける大改悪だと批判しました。
破綻した企業を「再生」させると称して産業再生機構がつくられたのも先の国会でした。これは、銀行業界や民間が資金を拠出してつくられるのですが、ここでも5年間の業務を終え解散するときに、損失が生まれたら、拠出で足りない部分を最大限10兆円まで国民負担にする仕掛けがつくられました。言わば銀行と産業界が勝手につくった計画が失敗したら、国民の負担で穴埋めするというものです。
生命保険の予定利率の引き下げも大問題になりました。これは、契約者である国民が受け取る保険金を大幅に削減することを可能にする法案です。
保険業界にとっては、信頼性を高めることがいちばん大事なことです。業界に不信感が広がったら、保険そのものの根本が危うくなるからです。そのためにも政府は、「デフレ」を克服する政策を採用し、保険会社の資産運用を保障するような経済運営をすることこそ必要なのです。ところが、逆に、将来の保険金の支払いを削ることを可能にする法律を出すのですから、本末転倒としか言いようがありません。
「竹中プログラム」をはじめ、政府の金融政策の中心になっているのは、「銀行は利益を求めなければならない」という利益至上主義の発想です。これは、根本的に間違った発想です。ほんらい銀行は、利益を追求すると同時に金融機能の公的な役割の発揮が求められます。銀行業法にもそのことが明記されています。ところが、その公共的性格をどこかに置き忘れてしまい、政府自身が利益第一主義の旗をふっているのです。
銀行の両替手数料やATMの手数料の値上げがいっせいに行なわれている点にも、それが端的にあらわれています。私は、国民への利子の支払いがほとんどないのに、手数料だけが上がっていくのは不当だと追及しました。「東京三菱銀行に行って両替機で100円玉を1円玉100枚に両替するといくら手数料がかかると思うか」と聞きましたが、小泉首相は「知らない」と言いました。私が「200円かかる」と言うとビックリ仰天し、しばらく絶句してから「おかしいと思うのも無理はない」と答えました。
大銀行が横並びでATMの土曜日の昼間の料金を有料化したり、両替手数料を引き上げたり、その他いろいろな形で手数料引き上げをおこなっています。そういう利益優先の銀行にたいして、なぜ国民の税金・公的資金で援助しなければならないのかと、怒りの声が広がっています。これは、まったく是正されていません。
金融行政を大もとから転換させるかどうか、これも今後の大きな対決点の一つとなっています。
三、サービス残業の根絶、大企業に社会的責任をとめる
小泉政治のゆきづまりがもっともあらわになったと言えるのが、サービス残業の問題です。サービス残業というのは、"働かせて賃金を払わない"のですから犯罪です。6カ月以下の懲役、30万円以下の罰金刑が科されます。企業犯罪といってもよいでしょう。
この問題については、これまでも日本共産党が何度も国会でとりあげてきました。その結果、一昨年4月には、厚生労働省に是正を求める通達を出させました。今年の5月には企業に労働時間管理の責任を明確にさせる指針(ガイドライン)も出させることができました。これは、現場の労働者のたたかいや、家族・地域ぐるみの運動とむすびついた日本共産党の役割がいかんなく発揮された分野だと思います。
これまでに全国で、2001年4月から02年9月までに1年半のあいだに81億円の残業代が支払われたことが明らかになっています。その後の半年間で、東京、神奈川、愛知、大阪の四都府県で41億円を超える支払いがおこなわれました。また、7月には武富士一社で35億円という一社当たりでは過去最大のサービス残業代の支払いがおこなわれるなどの成果が上がっています。
武富士のサービス残業問題については、私も国会でとりあげ、過大なノルマを課し、残業代を払わないまま労働者の尻をたたく異常な事態を告発しました。
連合か昨年の12月に公表した、2002年連合生活アンケート調査でも、「サービス残業をしている」と答えた労働者は、男性で48・5%、女性で42・3%にのばりました。それは、公務員の職場でも広がっています。国公労連の残業アンケートによると、実際の残業にたいして超過勤務手当が全額支給されたのは1割にすぎず、7割以上が不払いがあったと回答しています。これだけサービス残業が蔓延しているのは、政治の責任だと言わざるを得ないのです。
これは政府も認めざるを得ず、国民生活審議会の総合企画部会雇用・人材・情報化委員会が、昨年7月に出した報告「働き方とライフスタイルの変革」のなかで、「失業者が上昇するという『人余り』現象がある一方で、就業時間が長期化している者はむしろ増えている。……大企業では全体として雇用者数を減らしながら、同時に長時間労働の社員の割合を高めているという様子が窺える。……いわゆる『サービス残業』が増加している可能性を示す統計データもある」と言っています。この審議会の所管は内閣府です。
なぜサービス残業がいつまでもなくならないのでしょうか。それは、リストラをあおってきた政府の政策に大きな原困があります。この点について「反省はないのか」と質問しても、「リストラ奨励をやめます」とは頑として言いません。「構造改革」の名でリストラをあおる政府の姿勢が変わらないかぎり、通達を出してもそれが守られない。だから労基署が調査に入っても、その場かぎりの「サービス残業はしていません」という対応だったり、データを改竄してまで隠そうとする。そこに大きな問題かあります。
ですから、サービス残業が現実には増加傾向にあるのです。大企業は、徹底的な人減らしをすすめ、個々の労働者に長時間超過密労働を公然と押しつけています。過労死も増えています。たとえば5年問で過労死の請求件数は76%増、認定件数は3・5倍になっています。過労自殺をふくめればもっと大きな数字になります。
このような大企業の利潤第一主義を是正させ、政府も財界もあげてサービス残業を根絶するという姿勢に転換させなければなりません。
またこの国会では、志位和夫委員長が党首討論で異常な就職難やフリーターの急増など若者の雇用問題について大企業の責任をあきらかにし、小泉首相に政府としての対策を求めました。この追及は、大きな反響を呼びました。
志位委員長は、1995年と2001年の比較で、中小企業が3万人の若者の正社員を増やす一方、大企業が108万人も減らした実態を明らかにし、「異常な就職難、フリーターの急増という事態をつくった主要な原因は企業側にある。とくに大企業の責任は重いのではないか」とのべ、政府として大企業にたいし本腰を入れた雇用増の働きかけを提起しました。
これにたいして、小泉首相は「確かにこれは看過できない大事な今後の問題だ」「ご指摘の点も踏まえて、今後雇用対策に力を入れていきたい」と答えざるをえませんでした。
また、志位委員長は、『国民生活白書』が、フリーターの急増が引き起こす問題として、(1)フリーター自身が不利益を被ったり不安を感じたりする、(2)若年の職業能力が高まらなければ、経済の成長の制約要困になる、(3)社会を不安定化させる、(4)未婚化、晩婚化、少子化などを深刻化させるという4点を指摘していることを紹介し、若者の雇用問題が日本社会の再生産、存続自体を不可能にする事態を招くと警告しました。
今後、大企業の社会的責任を徹底的に追及し、家計を温めることによって消費を拡大し、日本経済の自律的発展の軌道に乗るようにしなければなりません。これも、選挙に向けた大きな争点となるでしょう。
四、「政治とカネ」をめぐる問題の解決を目指して
◆ゼネコンの政治献金規制
今度の国会でも、大島農水相の秘書の口利き問題、自民党長崎県連への違法献金事件、自民党の坂井衆院議員のヤミ献金事件、保守新党の松浪議員の暴力団元組員の経営する企業の秘書給与肩代わり問題などが発覚しました。小泉内閣のゆきづまりの実態が国民の前にあらわになったもう一つの問題に、この「政治とカネ」の問題があります。
私がまずとりあけたのは、ゼネコンからの政治献金を規制する問題です。赤字で無配のゼネコンからの献金をいつまでも受け続けるのかと、小泉首相に質問しました。2月はじめ、自民党がゼネコンの業界団体にたいし、3億円の献金を要請したことに関連した質問でした。赤字の会社であっても、横並びで献金を強制されています。実は、ゼネコンの側からも毎年献金させられることに不満が寄せられていたのです。
1996年から2002年までの7年間で、無配に転落したことのある企業をリストアップし、政治資金収支報告書をもとに自民党への献金の有無を調べました。そして献金企業37社の一覧表をつくり、予算委員会に配布しました。無配のときに献金している建設会社は29社ある。二期以上無配が連続している企業は、20社になる。三期以上連続して無配が続いているのに毎年献金している会社が11社です。このような献金はやめるべきだと追及しました。多額の欠損を抱えた中での政治献金は違法とした熊谷組にたいする福井地裁判決も紹介しながら、小泉首相の姿勢をただしました。
これにたいして小泉首相は、はじめのうちは「経営者も無配の状況で献金することはあってはならない」などと人ごとのようなことを言っていました。しかし、結局は「自民党も無配の会社からの献金を求めないという姿勢にしなければならない」と答弁せざるをえなくなりました。
ゼネコンからの献金について言えば、自民党長崎県連に諫早干拓事業を受注したゼネコンが多額の献金をしていたことを、衆院予算委員会で小沢和秋議員が明らかにしたことは重要です。小沢議員は「なぜムダと環境破壊の公共事業が止まらないのか。背景には与党である自民党への企業献金がある」と指摘しました。
小沢議員は、諫早湾干拓事業(総事業費2490億円)を受注した五洋建設、若築建設、西松建設などのゼネコン39社から自民党長崎県支部連合会に対して、1995年から2000年までの6年間で3億円もの献金が渡っていることを明らかにしました。また、元九州農政局長や諫早湾干拓事務所長などの農水官僚が、潮受け堤防工事を受注したゼネコンに専務や常務などとして、判明しただけで33人も天下りしていることを指摘しました。
◆企業献金をヤミに隠す法案を出した自民・公明
これらの政治献金をどう規制するかについては、昨年の鈴木宗男議員の事件を契機に、野党が共同で法案を提出しています。国民の税金を使って仕事をする会社からの献金は禁止すべきという提案です。これにたいし小泉首相は、当初、何らかの対応をしなければならないと答えていました。ところが、その具体的な対応については自民党に丸投げするだけでした。自民党は政治資金に関する「有識者懇談会」を開催し、提言を出したのですが、結局、政府与党は何の規制策も出すことはできませんでした。
しかも重大なのは、与党が国会の終盤になって新たに出してきた政治資金規正法「改正案」の内容は、公共事業受注企業の献金規制がまったく盛り込まれていないだけでなく、政党支部にたいする献金(政党支部は政治家・議員がその責任者になっており、事実上、議員にたいする献金になる)の公開基準を、今の5万円以上から24万円以上に引き上げるという驚くべき内容になっていたことです。
これまでは、5万円以上献金すると、どの企業がいくら献金したかがわかりました。ところがこの改悪案では、毎月2万円以上、定期的に振り込むという形であれば24万円までは公開せず、企業献金を見えなくしてしまうのです。私たちがおこなった鈴木宗男議員の北方四島やアフリカ支援事業をめぐる献金の実態調査も、5万円以上が公開されているから可能だったのです。ところが、24万円以下が隠れてしまうとそれさえもできなくなるのです。たいへんな改悪案を出してきました。
私たちの追及にたいして小泉首相は、「何でも制限すればいいというものじゃない」とか、「政党の努力、政治の努力を奨励するようなことも考えていい」などと、勝手な理屈をならべて開き直るだけでした。
さらに問題なのは公明党の態度です。公明党は、最初は24万円への引き上げに反対だったのです。「公明新聞」4月5日付の「主張」は、「非公開基準の引き上げは時代に逆行する」とのべていました。神崎代表も冬柴幹事長も、「反対」を表明していました。ところが与党間で調整をした結果、180度態度を変えたのです。あげくのはてに公明党は、月々2万円、24万まで振り込む形で記録が残るようにしたのは「画期的な前進だ」と礼賛を始める始末でした。
私は、公明党から出ている坂口大臣に、「おかしいじゃないのか。時代に逆行すると言っていたのに、なぜ賛成するのか」と質問すると、大変困惑していました。坂口大臣は「それは党の方に聞いてもらいたい」「全体として見ると進歩だ」などと開き直りました。こういうやり方でクルクル態度を変え、自民党に同調し悪政を合理化する姿はあまりにも醜いと思います。一般新聞からも、「自民党と一緒に長く与党暮らしを続けるうちに、自民党の悪しき文化に染まってしまったのだろうか」などと皮肉られる始末です。
この改悪案には、もう一つ、政党支部への献金の上限を150万円までにすることも盛り込まれています。これは、一見規制を強化するかのように見えて、実際には、ほとんど規制の対象にならず尻抜けなのです。たとえば小泉内閣の閣僚の政党支部を調べても、150万円以上の献金を受けている大臣は、15人の政治家の閣僚のうち、片山総務大臣、坂口厚生労働大臣、鴻池構造改革担当大臣の三人だけです(2001年分)。
その一方で、政党本部にたいする献金はまったく骨抜きで、資本金に応じて750万円から1億円までの献金は自由にできます。これには、なんら手がついていません。この「改正案」なるものは、今国会で成立させることができず、継続審議になりました。
政府・与党は、政治献金を暗やみにする法案を再びねらってくると思います。鈴木宗男議員の疑惑から1年たっても金権・腐敗が次々くり返されています。引き続き、きびしく追及する必要があります。企業・団体献金を受け取らず、税金の山分けである政党助成金も受け取っていない日本共産党だからこそ、真価が発揮できるのです。
五、日本経済の民主的再生を目指して
いよいよ総逢挙が目前にせまっています。9月には自民党総裁選がおこなわれます。民主党への自由党の合併もすすめられており、マスコミもさかんにこれらの問題に焦点を当てるようになるでしょう。しかし、いま大事なことは、これまでの自民党政治を本当に根本的に変える路線を提起できるかどうかです。
国民の多数も、従来の政策の転換をのぞんでいます。たとえば「毎日新聞」の世論調査では、「改革路線を維持した方がいい」という答えは27%で、「景気優先に転換した方がいい」というのがその2倍以上の59%。小泉内閣を支持する人の中でも「転換すべきだ」と言う人が多いのです。「朝日新聞」でも、同じ傾向が出ています。「小泉内閣の『構造改革』一辺倒ではダメだ」、「景気対策を中心にし暮らしを何とかしてほしい」との声が圧倒的に多くなっています。それに応える政策を提示し旺盛に活動を展開していくことが求められていると思います。
泥沼状態にある日本経済の転換の方向を、どのように打ち出していくべきでしょうか。
一つは、耐えがたい負担増を中止させることです。これは、選挙の大きな争点となるでしょう。今年から来年にかけ予定されている4兆円を超える負担増にとどまらず、さらには年金の大改悪、消費税の増税もたくらまれているわけですから、国民をこれ以上苦しめる負担増を許さないという旗を高くかかげてたたかいたいと思います。これは、国民の苦しみを克服すると同時に、経済の6割を占める家計消費を支援し日本経済を再建する一歩となるからです。
もう一つは、財政のムダを削って、社会保障をどう充実させていくかという提起が大事だと思います。私たちはこれまでも、繰り返し大型公共事業のムダを減らすよう提言してきました。小泉首相は、公共事業は減らしたと言いますが、実際にはデフレで物価が下がった程度のコスト削減にすぎません。財務大臣は「仕事の量は減らさない」とまで言っているくらいです。そうではなく、一つひとつの事業について、必要があるのかどうかの吟味を徹底して行い、ムダな事業を洗い出していくことが求められています。空港や港湾、ダムなど、まだまだムダがあります。それを一つひとつ吟味して徹底的にムダを削るということです。生活密着型の公共投資は増やしながら全体として公共事業を圧縮して、国民の暮らしに予算をまわしていくことが必要です。重点となる対象は、社会保障、介護、医療、年金、そして緊急の課題である雇用対策、失業対策です。こういう予算の構造、財政の構造の大きな改革が求められています。
そのためにも政・官・業癒着構造にメスを入れることが大事です。それは政治の腐敗をただしていくだけではなく、日本の財政構造を転換するうえでも避けられない大きなテーマだと思います。
もちろん農林漁業の分野、地域の地場産業、中小企業を守る問題など、日本経済の底辺から経済を再建していくことは大きなテーマです。そのため、金融機能の回復・再生、とりわけ地域金融をどう再生させるのかは重大な問題です。大銀行の貸し渋り、貸しはがしを是正させるとともに、中小企業・地域経済を支援する金融に変えられるかどうか、これはたいへん大事な問題です。
また、サービス残業の根絶と雇用の拡大、とりわけ青年の雇用の拡大について大企業の社会的責任を問いかけていくことも大きな柱です。これらの問題を、日本経済を立て直す政策として練り上げ、大いに訴えていきたいと思います。
◆日本共産党の躍進を誠実にねばり強く訴え
選挙を前にして「マニュフェスト」議論がはやっています。その背景には、これまでの政治にたいする不信感があります。
いつまでガマンしたら経済と暮らしは良くなるのか。政治とカネをめぐる不祥事は、なぜあとをたたないのか。なぜ憲法を踏みにじりイラクに自衛隊を派兵するのか、などなど、政治にたいする不満が大きくひろがっています。そのため、政党にたいして、国民の切実な要望に応えた公約をしめし誠実に実行してもらいたい。−−こういう声が強まるのは当然です。最近、「マニフェスト」という言葉がはやっているのも、このような背景があるように思います。
たしかに公約は抽象的なものでなく、できるだけ具体的なものでなければなりません。日本共産党は、そのための努力を積み重ねてきました。福祉の分野でも、農業の分野でも、可能な限り具体的な数値目標をしめし財源も明らかにしてきました。「財政再建10カ年計画」や「日本経済への提言」「新日本経済への提言」を発表し、5年〜10年を展望した総合的で具体的な対策も示してきました。
大事なことは、自民党政治のどこをどう変えるのかを明確にすることです。これまで野党の一部にあったように、自民党政治の延長線上でスピードを競うようなやりかたではダメです。自民党政治に代わる別の選択肢を鮮明に示さなければなりません。
特に指摘しなければならないのは、選挙での公約とまったく違うことを平気でやっている政治家や政党がしばしば見られることです。これでは「マニフェスト」どころではありません。約束を破るようでは「マニフェスト」をつくっても、また裏切ることになるからです。消費税の増税に反対だと言ってきたのに、当選したら賛成にまわる。医療費は上げないといってきたのに、引き上げに賛成するというのがこれまでの実例でした。今年のいっせい地方選挙では、生命保険の予定利率引き下げを隠しておいて、選挙が終ったら突然出してくるというひどいやり方もありました。たしかに国民に約束した政策を、力関係で実現できないことはしばしばあります。しかし、約束したことと、まったく違うことをやるのは問題外です。こんなことをやった政党が、いくら「マニフェスト」などと言っても、信じられるものではありません。
日本共産党の立場は一貫しています。アメリカベったり、大銀行・大企業奉仕というこれまでの自民党政治の流れを抜本的に切りかえて、国民中心の経済政策、経済民主主義の実現をめざしてがんばる−−現在、提案されている綱領改定案は、私たち日本共産党の指ししめす日本経済の改革方向を明確にしめしています。その旗を高く掲げて、多くの国民に語りひろげ、党の躍進をめざして全力をあげたいと思います。