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憲昭からの発信

憲昭からの発信 − 論文・対談

金融関連法の全貌を解明する

『前衛』1998年12月号
佐々木憲昭(衆議院議員・経済政策委員長)


 第143臨時国会は、7月30日に召集され、10月16日の最終日までの約2カ月半、まさに「金融国会」の名にふさわしく、金融関連法案をめぐって激しい攻防がくり返されました。
 与野党間の取り引きもあって、法案修正をめぐる内容が毎日変化し、2、3日たつと様相が大きく変わることもしばしばありました。
 このため、国会が終わったあとも、“大規模な税金投入が決まったが、内容がよくわからない”という声が国民のなかにあります。
 金融関連法の具体的な内容は何か、それがどのような結果をもたらすか、これらの点を正確に国民に伝えてゆくことが重要となっています。

スタートとゴールでは内容も規模もまったく違うものになった

 結論的にいうと、銀行支援の内容と規模が、「化け物」のように膨らみ、スタートとゴールでは、まったく違うものになったという点が最大の特徴です。

●スタート地点での自民党と野党との対決点
 国会がスタートした地点の8月初旬の段階で自民党が出してきたのは、ブリッジバンク法案でした。ブリッジバンク法案は、銀行が破綻したあとの対応策(借手保護が名目)としてつくられたもので、財源は今年2月につくられた金融安定化法の13兆円の公的資金投入の枠組みを利用するというものでした。

(注)「金融安定化に関する特別委員会」の8月21日の理事会で、たいへん印象的なやりとりがあった。野党側が自民党にたいして「ブリッジバンク法案以外に法案を出す予定はいっさいないと断言できるか」と問いただしたとき、自民党は「政府しても党としても、他に法案を出す用意はいっさいない」と回答した。

 野党側はどうか。民主、平和改革、自由の野党三会派が、8月下旬に共同提案した金融法案は、金融機関の“破綻処理”が目的で、破綻前の銀行への支援はおこなわない、これが基本的な考えでした。また、そのような観点から、13兆円の公的資金による資本注入の枠組みは廃止することをうたっていました。これが、野党三会派の共同提案の基本的考え方でした。
 日本共産党は、銀行の不始末に税金を投入することに一貫して反対し、破綻処理は銀行業界の自己責任・自己負担でおこなうべきだという立場で対処してきました。
 野党三会派とは、預金者保護を名目にした17兆円投入については立場の違いはあっても、13兆円の枠組みを廃止する点では一致していたし、8月下旬に急浮上した長銀への公的資金投入についても、これを許さないという点で共通項がありました。

●ゴール地点ではまったく違うものになった
 ところが、経過はあとで説明しますが、国会のゴール地点ではまったく違うものになってしまいました。
 一つは、破綻前のすべての銀行に公的資金の投入を可能にしたことです。健全な銀行がら破綻寸前の銀行まで、多様なルートで公的資金の投入が可能となりました。
 二つ目は投入の規模です。これは30兆円から60兆円に膨れあがりました。しかも、60兆円は上限ではなく、事実上無制限という途方もないものになりました。
 このように、スタート地点では、自民党案にも、野党案にもなかった内容が、密室協議の取り引きのなかで膨れあがり、当初、自民党が提案していた法案とはまったく違う、おどろくべき銀行支援策をつくりあげてしまった。これが、この国会の最大の特徴です。
 従来の国会は、自民党が出した法案を衆議院で強行し、参議院でも短時間で強行するというパターンでした。しかし今回は、参議院で野党が多数派だということをあらかじめ見込んで、自民党の国会対策がまったく変わりました。野党を取り込まなければ参議院は通せません。このため自民党は、野党を密室協議に引き込み、その過程で野党の提案を形のうえで受け入れるようなそぶりをみせながら、実質的には財界・銀行業界の意向を全面的に入れる。こうして、野党案をべースにしながら、自民党単独ではできなかったようなとんでもない悪法に仕上げていく。これが自民党の新たな作戦になりました。

二 どんな法律が成立したか−−中心は金融再生法と早期健全化法

 では、このなかでどんな法律ができあがったのか。九つの法律がとおりました。それぞれの法案は、途中でさまざまな修正が加えられています。中心的な法律は、金融機能再生緊急措置法(再生法)と金融機能早期健全化緊急措置法(健全化法)の二つです。このほかに予算措置として第二次補正がおこなわれ、巨額の予算枠がつけ加えられました。
 二つの法案を中心に具体的な内容をみることにしましょう。それは大きく分けて四点あります。

●長銀処理に大規模な税金投入が可能になった
 まず一つは、長銀にたいして大規模な税金投入を可能にしたことです。
 国が長銀の全株式を買い取って一時的に国有化し、国の丸抱えのもとで、運転資金も出す、業務上の損失補填もおこなう、さらに不良債権の買い取りもおこなうことが可能になりました。長銀への多面的な公的資金の投入に道を開いたのです。
 法律のうえでは、長銀を破綻認定なしでも「特別公的管理」下に置き、税金で身ぎれいにしたうえで、他の銀行に株式譲渡、営業譲渡などで売り渡し、受け皿となった銀行(当時は住友信託銀行が想定されていた)にたいしても資本注入ができるということになりました。

(注)金融再生法では、破綻の認定なしで特別公的管理に入ることができると修正された。金融再生委員会が特別公的管理の開始の決定をおこなうことができる条件として、「銀行がその業務又は財産の状況に照らし預金等の払い戻しを停止するおそれが生ずると認められる場合」を加えた。わざわざ「生ずる」と書いているところがみそだ。野党原案では「停止するおそれがあると認める場合」となっており、破綻を前提としていた。10月2日の衆議院・金融特別委で佐々木憲昭が、特別公的管理の対象には「破綻しそうな銀行も含まれるのか」とただしたところ、提案者の枝野幸男議員(民主党)は「(破綻)直前の段階で特別公的管理に入れるという趣旨だ」と答弁している。

 実際には、10月23日、長銀が「特別公的管理」を申請したのにたいし、小渕内閣はただちに「破綻した銀行」として国有化することを決定しました。「破綻認定」をしたとしても、結局は国が丸抱えすることに変わりはありません。国が破綻処理の責任をすべて負い、揖失補填や不良債権処理などに、莫大な国民の税金を投入することになります。
 重大なのは、国会審議のなかで、大蔵省も金融監督庁も「長銀は破綻していない」とくり返し言明してきたことです。ところが、法案が成立したとたんに「破綻していた」などというのは、悪法を成立させるため、虚偽の答弁をくり返していたといっても過言ではありません。しかも、3月におこなわれた優先株購入などによる約1700億円にのばる長銀への資本注入も、まさに紙くず同然となりました。これらの責任もきわめて重大です。

<長銀が破綻したら金融システムが崩壊するという脅し>
 8月末の国会の論戦のなかで、答弁にゆきづまるたびに政府がもちだした反論は、長銀に公的資金を入れなければ破綻する、破綻したら金融システムが大混乱におちいって金融恐慌になり、世界に波及して大変なことになる、という論点でした。これを、論戦で突きくずすことが、重要課題として浮上しました。
 私は、9月4日の衆議院・金融特別委でこれをとりあげました。日銀の解説などによると、金融システムの危機につながるような銀行の債務不履行(支払い不能)が起こるケースは、二つあります。ひとつは、銀行が債務超過(資産よりも負債の方が大きくなって支払不能におちいること)になったとき、二つは、その銀行の信任が低下し、資金ショート(資金繰りがつかなくなること)が起こる場合です。
 私は、日銀の速水総裁に「債務超過におちいっていない銀行が、債務不履行におちいることはありえないではないか」と聞いたところ、「それでいいと思う」と答弁しました。それなら、政府が「長銀は債務超過でない」といっているのだから、財務面からは債務不履行は起こりえない。では、二つ目の「資金ショート」が起こった場合、必然的に金融システム全体に波及するのかとただすと、日銀総裁は「支援する方法は政府の資金でなくても、たとえば日銀特融という形で一時的な資金補給をすることはできる」と答え、税金投入がなくても金融システム全体への波及は防止できることを認めました。
 仮に、長銀が債務超過で破綻しても、システム全体への波及をおさえることは日銀特融を発動すれば可能なのです。拓銀の場合も、山一証券の場合も、日銀は日銀特融を発動してシステム全体への波及をおさえたのです。
 こうして、政府のいう「金融システム危機」論は、まったくの虚構の論理でしかないことが明らかになりました。

●「健全銀行」からも不良債権買い取りが可能に
 二つ目は、今回の法律で、健全な銀行からも不良債権の買い取りを可能にしたことです。
 これまでは、銀行が破綻したあとの破綻処理のひとつの方策として、不良債権の買い取りというものがありましたが、破綻前の銀行から不良債権を買い取るという仕組みはいっさいなかった。ところが今回できた法律(再生法)では、すべての銀行から、整理回収機構(日本版RTC)が不良債権を買い取ることが可能になりました。これもたいへん重大なことです。

(注)金融再生法では、整理回収機構による資産の買い取りの対象となる金融機関を、(1)被管理金融機関、(2)継承銀行(ブリッジバンク)、(3)特別公的管理銀行、(4)その他の銀行とし、わざわざ「その他の銀行」を入れている。これでは「すべての銀行」と同じ意味になる。これは体力のあるいわゆる「健全銀行」を含め、金融機関がみずからつくリ出した不良債権の処理を、公的資金でおこなおうとする露骨な銀行救済策にほかならない。

 不良債権をいくらと見るかについてはいろいろ議論がありますが、たとえば銀行の自己査定による分類債権は約80兆とか100兆といわれています。ですから、買い取り金額は空前の規模になりえます。これも、大規模な公的資金投入にまったく新たな道を開いたという点で重大です。

●資本注入はどんな銀行にもできるようになった
 三点目は、新たにつくられた「早期健全化法」で、公的資金による資本注入、つまり銀行の株式などを購入して銀行の資本増強をはかってやるという支援が、どんな銀行にたいしてもできるようになったことです。
 従来の金融安定化法では、「破綻の蓋然性の高い銀行」、つまり破綻しそうな銀行には資本注入はできない、というのが法律の建前でした。ところが今回は、破綻していなければどんな銀行でも対象になりうるのです。
 法案の提案者は、要件をみたすことが前提なので、すべての銀行が対象になるわけではない、などと開き直りました。これは、言い訳にもなりません。10月15日の参議院・金融特で、日本共産党の笠井議員が追及したように、「健全銀行」にも、「特に著しい過小資本銀行」にも、いずれの資本注入の要件にも、「その他とくに必要と認められる場合」と書いてあるのです。笠井議員が、これなら「どこにでも注入できるではないか」と追及したところ、自民党の保岡議員は「これはシステミック・リスクのことだ。その場合、資本増強が検討される」と答えています。
 「システミック・リスク(金融システムの危機)」というのは、きわめて都合のよい言葉で、そういう不安があれば何でもできるということになりかねません。たとえば速水日銀総裁は、9月17日の衆議院・金融特で、今日の状況について「金融システムにたいする人びとの信頼も弱い状況にある」とのべています。また宮沢大蔵大臣は、同じ日の金融特で「日本の金融危機にたいする世界的な不信がある」と答弁しています。このように、現在、システミック危機の不安があるというのが、日銀や政府の共通の認識です。そのような認識なら、どんな銀行にもそれを理由に公的資金で資本注入ができるということになるのは明らかです。

●空前の規模に税金投入が膨れあがった
 四点目は、公的資金役人の枠組みが空前の規模に膨れあがったことです。これはほんとうに、あっとおどろくような膨れあがり方をしました。
 金融関連法では、預金保険機構のなかに三つの勘定をおくことになっています。一つは「金融再生法」でつくられた「金融再生勘定」で、18兆円です。二つ目は「早期健全化法」でつくられた「早期健全化勘定」で、従来の金融安定化法の13兆円が25兆円に膨らみました。三つ目は、従来からある「特例業務勘定」で、17兆円、合計60兆円にのぼります。勘定が、これまでの二つから三つに膨らんだ。それから金額も30兆円から60兆へと、倍になった。とんでもない膨れあがり方をしたわけです。
 なぜ、60兆なのか。自民党の丹羽雄哉・政調会長代理は「日経」10月13日夕刊で、こう説明しています。「海外で金融危機における最も大規模な投入例(フィンランド)がGDP(国内総生産)の10%なので、これを上回るものだ」。97年度の名目GDP約505兆円の「ほぼ11%相当を用意した」。また、早期健全化勘定25兆円を全額注入したとすると、主要19行の自己資本比率が平均25%(現行同9・6%)と大幅に改善するとのべています。大銀行に国際競争で勝てる体力をつけてやるうという意図がみえみえです。

(注)金額を膨らませるうえで、民主党がはたした役割は大きかった。10月9日、民主党が政府に提出した「強力な金融危機対策策定とその迅速な実行を求める申し入れ」には、「金融機能健全化勘定に30兆円の枠を用意し、必要な予算措置を講ずること」、「金融再生勘定に20兆円の枠を用意し、必要な予算措置を講ずること」という項目が盛り込まれていた。特例業務勘定の17兆円とあわせ、実に67兆円にのぼる途方もない要求をしていたのである。

 30兆円の枠組みが、60兆円へと倍に膨らんだだけではありません。上限は無限定だという点が重要です。たとえば「金融健全化法」の付則第4条では「国会の議決がなされた場合には、この限りではない」と規定されています。また「金融再生法」では、66条で「国会の議決を経た金額の範囲内において」とされています。これでは、国会の議決があればいくらでも増やせることになってしまいます。上限はあるように見えますが、実際はないということです。
 これほど莫大な公的資金の投入枠は、自民党の最初の構想にもなかったことです。たとえば、宮沢大蔵大臣は、8月1日付「朝日」のインタビューで、「公的資金の30兆円を増額する用意は」と聞かれて、「(増額は)いりようがないと思う。健全銀行への資本注入でも、破たんによる預金者保護でも、あれだけの額は使えない」と答えています。つまり、当初の自民党案の30兆円でさえ使えない、といっていたのです。ところがふたをあけてみると、使えないどころか60兆円に増やしてしまう。おどろくべき変化です。

<投入した資金が返ってくる保障はない>
 私たちが“こんなに莫大な国民の税金を使うのはけしからん”と批判すると、“投入した資金は返ってくる”という反論がおこなわれました。しかし、それがきわめて欺瞞的であったことは、10月15日の参議院・金融特での日本共産党の池田幹幸議員の質問への答弁で明確になりました。
 まず、預金者保護の17兆円(特例業務勘定)はどうか。宮沢蔵相は「これは預金者保護を目的として破綻金融機関に生じた損失の補填に使いますので、これは返ってまいりません」と答弁しています。17兆円は戻らないと政府が認めたわけです。
 「再生勘定」の18兆円はどうか。池田議員が“損失の補填は返ってこないのではないか”と聞きますと、伏屋大蔵省金融企画局長は、「いわれたとおりだ」と答えています。さらに池田議員が「18兆円全体はどうなのか、返ってこないはうが現実ではないでしょうか」と聞きますと、蔵相は「それはおそらくそうでございます。儲けちゃったなんて話は、この部分にはないと思います」と答えています。18兆円の全部は戻らないと、大蔵大臣自身が認めたのです。
 「健全化勘定」の25兆円はどうか。法案提出者である自民党の保岡議員は、「これは必ず投資したものよりはもっと大きなものが返ってくると申し上げたわけではなくて、そういうことを期してみんなで頑張らなきゃいけない、そういうように申し上げたところでございます」と答弁しています。なんのことはない、返ってくるように頑張るうという程度の話なのです。株価は当然上がったり下がったりします。元本保証はいっさいありません。ですから、返ってくる保障はまったくない。
 メリルリンチ証券調査部のシニアアナリストの小関広洋氏は、どのくらい返ってこないのかという点について、「資本注入に踏み切る前に、国民に注入額のかなりの部分がロスになる可能性があることを明示する必要がある。半分程度が損失になると予想され、単純な投資とは異なるからだ」(「日経金融」10月14日付)とのべています。60兆のうち半分は返ってこない、こういうことを国民にきちっと説明しなければならないと専門家がいっているのです。
 このように、60兆円の投入策というのは、対象も金額も無制限で、しかも返ってくる保障はまったくない、実に恐るべき国民の血税の無駄遣いです。

<大きな役割を発揮した日本共産党の金融機能正常化法案>
 日本共産党は、税金投入による銀行支援に正面から反対するとともに、党独自で「金融機能正常化法案」を提出してたたかいました。衆議院では、まだ予算をともなう議案提案権がありませんので予算関連部分を除いた法案として提出しました。しかし、参議院では、参院選での日本共産党の大躍進の結果、予算をともなう議案提案権(21議席以上)を手にすることができました。これをただちに活用して、金融機能正常化法案など関連四法案を、予算をともなう法案として提出することができました。これは、画期的なことでした。
 わが党の法案は、銀行の自己負担・自己責任原則をつらぬき、預金保険料の引き上げによって預金保険機構の財源の手当てをおこなうこと、投機的な不良債権の実態を開示すること、金融監督委員会を設置することなどを盛り込みました。これは、真に国民の立場に立った金融システムの安定化と信頼回復をはかる提案でした。これは、自民、民主、平和改革三会派提出の金融再生法と同時に審議され、野放図な銀行支援か、それとも銀行業界の自己責任・自己負担の確立か、という対決が鮮明になりました。
 この法案は、日本共産党の筆坂秀世議員が、10月5日の参議院本会議で提案理由説明に立ち、金融・財政活性化特別委員会でも提案者として答弁に立ちました。テレビでその答弁姿を見た視聴者から、「日本共産党も大臣を出すようになったか」という声が寄せられるほど、堂々としたものでした。これは93年11月の政治改革法案以来5年ぶりのことです。もちろん、予算をともなう法案では初めてのことでした。

三 法律の施行でどんなことが起きるか

 成立した金融関連法が施行されると、どういうことになるでしょうか。以下の三点を強調しておく必要があります。

●景気対策に役に立たないばかりか、逆行する
 第一は、景気対策に役立たないばかりか、それに逆行するということです。
 小渕内閣はこれまで、実体経済にたいするテコ入れはまったくやってきませんでした。もっぱら、銀行にたいする税金投入の仕組みづくりのみに熱中し、この間にも実体経済はいっそう悪化しました。
 金融関連法が施行されると、どうなるでしょうか。景気が良くなるどころか、逆に貸し渋りと資金回収がいっそう強化される恐れがあります。『週刊東洋経済』10月2日号は次のように書いています。「(自己資本比率が)8%以下になると、公的資金の注入を受けられる代わりに、経営責任を問われる」と指摘し、不良債権にたいする引き当て負担を避け、自己資本比率を維持するため、「銀行は曲類債権(回収に注意が必要な債権)を回収して、自己資本比率8%維持に走らざるを得ない」と書いています。このスキームを実行すると、結果的に銀行は必死になって自己資本比率を高めようとする。そのため、銀行は資金回収にどんどん走っていくというのです。
 9月の貸出残高を全国銀行ベースでみると、前年同月比で2・9%のマイナスです。これは、1991年7月に統計をとりはじめて以来、最大のマイナスです。九ヵ月連続で貸出残高が減少していますが、金融関連法が施行されると、いっそう悲惨な事態をまねきかねません。
 さらに重大なのは、中小企業に新たな「恐怖」がおそいかかることです。いま中小企業は、銀行からの「貸し渋りの恐怖」におそわれています。これを第一の恐怖とすると、第二は「取り引き銀行の破綻の恐怖」です。取り引き銀行が拓銀のように破綻するのではないか、徳陽シティのように破綻するのではないかという恐怖感がある。それに加えて、今回の金融関連法で、どんな銀行でも自分のかかえている不良債権を整理回収機構に売り飛ばすことができるようになりました。銀行は、中小企業にたいして「赤字経営だから、あなたの会社は不良債権だ。金利の引き上げや担保の積み増しなどの条件をのまないと整理回収機構に売り飛ばすぞ」とおどすことが可能になるでしょう。こうして、ほとんどすべての中小企業に、いままでになかった「第三の恐怖」がおそいかかることになります。
 実際、破綻した徳陽シティや拓銀でも、まじめな借り手が別の銀行に移されることになりましたが、うまく移行できるかどうかで大問題になっています。たとえ移行できても、引き受ける銀行からは「うちにきてもらってもいいが、貸出金利をあげてくれ」、あるいは「担保を積み増してくれ」といわれる。「それに応じないと、あなたのところは整理回収銀行にいってもらいますよ」というおどしを現実にやっています。それが、今回は法律によって一般銀行にも広がっていくことになります。中小企業にとって、これはまさに第三の恐怖になりかねません。

(注)8月19日の衆院予算委員会で日本共産党の木島議員は、ブリッジバンク法案との関連について、財務内容で区別されると、自動的に貸し出し資金の回収ということになる恐れがあるのではないか、貸し渋りが広がるのではないかと追及した。これにたいして宮沢大蔵大臣は、「その点は私も憂いを同じくしております」と答弁した。10月9日の参院・金融特での日本共産党の笠井議員の質問でも、一般銀行からの不良債権買い取りということになれば、「憂い」がまたでてくるのではないかという指摘にたいし、宮沢大蔵大臣は、「あまりしょっちゅうご意見が(共産党と)いっしょになることはないのですが、どうもその点は私やはり心配でございます」と答弁をしている。

 わが党が一貫して主張してきたように、銀行そのものの貸し出し姿勢をきびしく監視し、それを是正させる適切な行政指導をおこない、業務改善命令などを出すことが必要です。これがないかぎり、いくら税金を積み増ししても、同じことがくり返されることになります。

●財政負担の増大で耐えがたい増税と負担増が
 第二に、財政負担が非常に増大する可能性が大きくなります。
 銀行に公的資金がどんどん使われると、当然、財政負担が大きくなっていく。長銀のように、1800億円を注入しても、株券は紙屑のようになってしまう。そういう可能性が今後ひろがります。そのため、財政危機がいっそう深刻化し、結果的には国民負担増、消費税大増税などの危険性が強まっていきます。
 この点については、『週刊東洋経済』10月24日号で慶応大学の小林良彰教授か、「もっと重要なことは、公的金投入にしても商品券配付にしても、その財源をどうするのか、ということである。……小渕内閣では、財政はいったん脇に置いておいて、次々に大盤振る舞いが続いている。しかし支出分の分だけ、何を削って幾らを捻出するという話がないために、結局は将来、大増税があるのではないか、そうでなくてもインフレで資産価値を削られるのではないかという不安を拭いきれずにいる」と書いています。

●大銀行中心の金融再編がすすむ
 第三は、公的資金が銀行の公共性を強めるためでなく、巨大銀行中心の金融再編へのてこ入れとして使われることです。
 早期健全化法の第3条には、五つの「原則」がかかげられています。そのなかに、「金融機関等の再編を促進すること」という項目があります。これは、この法律にもとづいて講ずる施策の基本的な考え方を明らかにしたものです。
 この点に関連して、たとえば保岡議員(自民党)は、国会答弁で――これは合併の問題に関連して答えているのですが――このように答えています。「金融再生委員会が金融再編、日本の金融か将来どういうふうにあるべきかという全体を考えたなかで、この個別行同士の合併がそれに資するかどうか、これは金融再生委員会の判断になるのでございますが、おそらく金融再生委員会も全体を描いたうえできちっとそれに位置づける」ことになる。つまり、大銀行中心の金融再編成、中小銀行は整理淘汰、そういう方向で金融再編をおこなっていくことに役に立つのかどうかという角度から公的資金投入、資本注入を考えていくということです。ここには、きわめて明確な意図が出ています。
 こんどの二つの法律は、金融ビッグバンのむかで日本の大銀行に下駄をはかせるために資本注入をおこなって体力をつけさせ、国際舞台に出していくことが基本的なねらいです。
 しかし、下駄を履かせて出ていっても当然、外国からは“これは下駄はいてるな”と足元を見られて、日本の銀行は公的支援なしにはやっていけない銀行だと評価され、国際的信任は逆に低下していく要素にもなります。これでは、正常な金融の発展にはつながりません。

四 与野党「合意」と「修正協議」はどのようなものだったか

 次に、このようなとんでもない結末をもたらした与野党協議とは、どういうものであったのかを見ておきましょう。

●8月下旬から9月半ばにかけて
 まず最初は、8月下旬から9月半ばの時期です。この時期に、民主、平和・改革、自由の三党から、金融再生法案が出されました。17兆円は預金者保護だから認めるが、13兆円の公的資金による資本注入の法律は廃止するというのが一つの特徴でした。もう一つは当時、急浮上した長銀への公的資金投入についての態度です。長銀への公的資金投入は認めない、長銀は破綻処理するというのが野党三会派の主張でした。この二点については、日本共産党とも一致する点でした。
 9月4日の私の本会議質問で、この二点について確認すると、民主、平和・改革、自由の三党とも、“そのとおりです”という答弁でした。

(注)8月25日の三会派の「合意事項」では、「金融安定化特別措置法は廃止し、預金保険機構が金融機関の自己資本充実のために出資することはしない」と明記していた。
 9月4日の衆議院本会議で、佐々木憲昭が「この法案が成立すれば13兆円の税金投入の根拠はなくなるか」「長銀への税金投入は、この(三会派提出の)法案の立場と両立しないと考えてよいか」と質問したが、これにたいする各党の答弁は、以下の通り。
 民主=「長銀への税金役人は、明らかに長銀救済であり、金融機能安定化法に違反する」。金融安定化法の廃止によって「長銀への税金投入はできなくなる」(伊藤英成政調会長)。
 平和・改革=「金融安定化禁忌措置法が廃止されれば、当然ながら、同法にもとづく長銀への公的資金投入はできなくなる」。「長銀の抱える不良債権処理のための支援策だと考えざるをえない」として「反対である」(坂口力政審会長)。
 自由=「三党案が成立すれば、13兆円の公的資金の根拠がなくなる」、三党案と長銀への税金役人は「両立しない」(野田毅政審会長)。


 当初は、自民党と野党の修正協議は、理事会のもとに設置された協議会で話し合うことになっていました。ですから、8月の下旬から9月の中旬にかけて、野党は完全に五党足並みをそろえて自民党と対決をするという姿勢が明確でした。私自身も、野党五党の理事協議会にも出席して、結束を固めながら理事会に対応してきました。
 協議会というのは理事会のもとに設置された公的な機関です。これは委員会の一つの機構としてつくられているわけですから、そういう正規の場をわれわれは重視するという立場をつらぬきました。日本共産党も社民党も参加して、全六会派で法案の内容についての修正協議をはじめようということになっていました。

●9月17〜18日の党首合意で分水嶺をこえた
 この理事会・協議会の現場では何度か協議をやり、野党は足並みをそろえて自民党と対決していました。しかし自民党は、そこではもう話かすすまないということで、協議の場を「ハイレベルにあげる」という話をもちだしました。それなら、この協議会は「ローレベルなのか」という話も出ましたが、結局は党首会談にもっていかれました。
 9月17〜18日にかけて党首会談がおこなわれてから、大きな変化が起こりました。自民党は、民主、平和・改革、自由と個別の党首会談を開き、さらに社民とも党首会談をやりましたが、日本共産党には呼びかけないという不当な態度をとりました。結果的に、自民と民主、自民と平和・改革のあいだで、それぞれ「合意」が結ばれました。自由党は、その段階で、合意は結ばないという態度をとりました。その後、自民、民主、平和・改革の三党の実務者協議が横行することになりました。
 党首会談での三党の「合意」内容の特徴は、三点あります。一つは、長銀にたいして「破綻認定」なしで、一時国有化というやり方で税金投入のしかけをつくることです。二つ目は、13兆円の枠組みはいったん廃止するが、早期健全化の枠組みを「早急に検討する」という内容を入れたことです。三つ目に、与党の案にも野党の案にもなかったことですが、一般金融機関からの不良債権の買い取りをつけ加えたこと、つまり健全な銀行からも不良債権を買い取りますということを認めたことです。
 不破委員長は、すでに9月11日の記者会見で、「破綻前処理」という名で「税金投入に道を開こうという議論は、はっきりいって議論そのものがいかさまだ」と警告を発していました。そして三党首会談の「合意」がなされたあと、9月18日、不破委員長は「合意」内容を批判した記者会見をおこないました。これは、非常に的確で「合意」の危険性を鋭くえぐりだしたものでした。この後のだたかいの方向をさししめす大変重要な記者会見でした。
 三野党や自民党の案は、もともとは破綻処理のための法案でした。それが「破綻認定」なしに破綻前の銀行にも適用できるように変えられ、一線を越えてしまったのです。これについて不破委員長は、「分水嶺をこえた」と的確な本質的指摘をおこないました。この指摘が正当であったことは、その後の事態が事実でしめしました。
 破綻認定なしで税金投入ができるとなれば、“もっと早く、もっと前に”となって、どんどん広がり、“それなら「健全銀行」にも入れたほうがよい”となってしまう。その後、民主と平和・改革は、「分水嶺をこえて」ずるずると自民党の路線に引っ張り込まれていきました。

●「与野党協議」の名で密室協議が横行
 与野党三党の実務者協議は、まさに密室協議そのものでした。正規の委員会や理事会、協議会での実質的な議論はその後、いっさいありません。まさに、国会の空洞化がすすんだといえます。野党三党案をベースに、修正協議しようという自民党の誘いに民主と平和・改革がのって、自由、共産、社民が完全にその協議からはずされるという形になりました。
 正規の理事会や協議会も、ときどきは聞かれました。その場で私は、「正規の協議会の場に、いまやっている実務者協議の中身を全部報告せよ、少なくともそのくらいはやるべきではないか」と主張しました。しかし、中身はまったく報告されませんでした。「実務者の協議をやって、だいたい基本では合意されておりますが、細部にわたったつめの協議をおこなっています」という経過報告だけで、中身は何もない。そういうことが、くり返されました。
 委員会での審議も、審議時間が極端に短くされました。修正協議を裏でやって表に出してきたら、いきなり通せというやり方です。修正案が夜中の11時に理事会に出され「明日ただちに採決をしたい」という話を持ち出す。われわれは、当然、このようなでたらめなやり方に反対しましたが、強行されました。やむをえず徹夜をして質問の準備をしましたが、修正再生法については、衆議院での全部の質疑時間はわずか約2時間でした。
 さらに荒天なのは、大蔵大臣も法案を見ていないことが明らかになったことです。私が質問のなかで、この修正法案で長銀はどのような処理になるのかを細部にわたって聞いているうちに、大蔵大臣が「法案をみていないので、細かなことはわからない」という発言をしたのです。だいたい大蔵大臣が法案をみないで通すなどということは、とんでもない話です。私は「法案も見ないで通すとはなにごとだ。だいたい2時間で通すなどということは許されない。こんなやり方は認めない」といって座り込みました。委員会はとまりませんでしたが、議場は騒然となりました。

(注)「国会法」57条の3では、議員の発議による法案や法案修正で予算をともなうものについては、委員会は「内閣に対して、意見を述べる機会を与えなければならない」とされている。したがって、宮沢大蔵大臣が「意見」をのべるためには、法案を見なければならない。そうでなければ、意見などいえないはずである。

 健全化法案についても、同じ問題がありました。健全化法案は、自民、民主、平和・改革の合意では「早急に検討する」とされていました。ところが、自民党は、水面下で平和・改革や自由党に働きかけていたようです。自由党の議員が質問すると、自民党の提案者は。そのとおりです。それは法案に取り入れますカという答弁でした。だから自由党は、自分たちが提案したものが全部入ったと思ったようです。私が自由党の議員に、なぜ賛成するのかと聞いたところ、「われわれが提案したのをみんな認めたんだ」という返答でした。
 こうした事態をへて健全化法案は、それまでと違って民主党が除かれ、自民党が自由、平和・改革と協議を優先するかたちになりました。この健全化法も、質疑時間は8時間半というきわめて短い時間で強行されました。

五 これからの運動の方向について

●「野党とは何か」の問いかけをきびしく
 この間の動きをみると、結局、自民党は完全に野党を自分のペースにのせて取り込んだというのが現実の姿です。民主党は、「野党の案を自民党が丸のみした」などと盛んに宣伝していますが、これまでみてきたようにまったく逆です。野中官房長官は「運命共同体の船に乗せた」という発言をしています。自民党の森幹事長は「われわれの主張が一つひとつ法律に盛り込まれた」という言い方をしています。また、野党との修正協議にあたった津島雄二元厚相は「換骨奪胎し野党を洗脳した。それを誇りに思う」という発言もしています。これが本音です。
 自民党にとっては、やろうと思いながらなかなかできなかったことが、密室の修正協議で完全に可能になりました。最初、自民党はブリッジバンク法案しかがせなかったのです。これは、政府・自民党も認めるように、大手銀行には適用できない法律です。非常に限定的で、しかも破綻したあとの処理のための法案です。しかも30兆円という枠はそのままで、増やすという提案はいっさいなかった。ところが結果的には、自民党のそりたい放題のことを野党の法案をペースにして全部盛り込んでしまったのです。
 ここまできたのは、野党にも弱点があるからです。三野党の法案は、公的資金役人にはいっさい反対ではない。17兆円の枠組みは賛成です。そういう弱点をかかえていますから、もともと公的資金投入にたいしてあまり抵抗がない。
 臨時国会閉会にあたっての日本共産党国会議員団総会での不破委員長のあいさつで、「野党とはなにか」という提起がおこなわれました。これは、非常に大事な点です。「いま自民党政治の行き詰まりはいたるところで国民を苦しめています。そのときに、野党というものは悪政と対決し、それに歯止めをかけるところに最大の任務があるのであって、そういう活動を積み重ねてこそ国民の信頼も広がり、自民党政治にかわる新しい政治の担い手として発展することもできる」という指摘です。これはわれわれ肝に銘じていく必要があります。

●国民の審判はこれから――監視、批判、告発に全力
 今後の問題ですが、不破委員長のあいさつにもあったように、法案が通っても国民的な規模でいえば問題はこれからです。
 「今度できた税金投入の方式のもとで、いったい税金はどのように流れるのか、どのようにつぎ込まれるのか、その一つひとつを徹底的に監視し、問題点を明らかにし、国民の前で批判し告発する、この活動がたいへん重要です」。監視・批判・告発という点を、私たちも大いに活動のなかで位置づけてやっていく必要があります。
 「日経」(10月20日付)は、公的資金投入「56%が容認」という記事を一面トップで報道していますが、これはきわめて意図的です。中身をみますと、金融機関への公的資金投入を「評価する」というのは、わずか9・6%です。「評価しない」は35・6%です。「評価しない」が「評価する」の三倍以上にのぼっています。ところが、「やむを得ない」という選択肢があり、これが47・1%です。このなかには、さまざまな考えの人が含まれています。ところが「日経」は、これをあわせて56・7%という計算をし、「容認」という見出しをつけている。調査の仕方も、報道の仕方もきわめて意図的です。こういう動きがいろいろでてきますから、よく注意をしていく必要があります。
 「銀行にだけ、なぜ税金を投入するのか」という批判の声は、かなり広範な国民のあいだに広がっています。私たちは、そういう世論に依拠し、60兆円の銀行支援法の実態を監視・批判・告発して怒りを大いに組織していくということが大事です。
 経済の全体の再生のためには、実体経済をよくしていくことが基本です。日本共産党は他の議員とともに消費税減税法案を参議院に出しましたが、消費税減税が消費拡大のうえでいかに大事かを、銀行への不当な税金の使い方とあわせて、その積極的な意義について大いに宣伝し、運動もすすめていかなければなりません。
(都内での学習合での講演をもとに整理・加筆したものです)

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