国会での活動
国会での活動 − 政治経済キーワード、税制(庶民増税・徴税)
【政治経済キーワード】課税最低限
2002年2月15日
「課税最低限」は、課税対象となる最低金額のことです。相続税などにも「課税最低限」という言葉は使われますが、一般には個人所得を課税対象にした所得税の課税最低限を指します。
所得といっても給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、利子所得等々あります。しかし、政府税調では、「納税者の大半を占める給与所得者について、その水準以下では課税されず、その水準を超えると課税が始まる給与収入の水準を示す指標を課税最低限と呼んでいます」(2000年7月、政府の税制調査会の「中期答申」)と定義づけています。
その給与所得者の所得税の「課税最低限」について、財務省は、夫婦子2人、夫婦子1人、夫婦のみ、独身の四つのモデルを示していますが、夫婦子2人の給与所得者の場合は次のような内容になっています。
給与所得
控除社会保険料控除
(給与収入の10%)基礎
控除配偶者
控除配偶者
特別控除扶養
控除特定扶養
控除130.8万円 38.4万円 38万円 38万円 38万円 38万円 63万円
この合計額は384万2千円になりますから、給与収入384万2千円が課税最低限というわけです。
では個人住民税の場合の「課税最低限」はどうかというと、次のようになっています。
給与所得
控除社会保険料控除
(給与収入の10%)基礎
控除配偶者
控除配偶者
特別控除扶養
控除特定扶養
控除115.5万円 32.5万円 33万円 33万円 33万円 33万円 45万円
この合計額は325万円になりますから、給与収入325万円が課税最低限になります。
この「課税最低限」について小泉内閣をはじめ政府税制調査会も日本は「主要国中最も高い水準にある」としています。
ほんとうにそうでしょうか。
国際比較をする場合は、第1に、いうまでもなく同じ基準で比較しなければなりませんが、そうはなっていません。基礎控除については比較的主要各国共通するようですが、他の控除については、日本と同様の控除制度がある国ない国様々です。それに、イギリスのように所得控除より社会保障を重視している国もあります。それらを所得控除制度を一律に無理にまとめて、税制だけで国際比較をしてもほんとうの国際比較にはなりません。
第2に、財務省は為替レートを使って計算をして国際比較をしていますが、いつまでも古い為替レートの試算を示しています。財務省は、1ドル=119円で試算していますが、現在は1ドル=134円前後であり、財務省の試算は現実的ではありません。これは、次の表を見ると為替レートの違いによって変化することが理解できると思います。
課税最低限の国際比較(夫婦子2人の場合)
(注1)財務省の試算は、為替レートを1ドル=119円、1ポンド=173円、1マルク=55円、1フラン=16円として計算しています。
(注2)「最近の為替レート」は、2002年2月12日17:00現在のもので、1ドル=134円、1ポンド=190円、1マルク=60円、1フラン=18円として計算しています。 日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス 財務省の試算 384.2万円 299.8万円 137.0万円 368.0万円 279.5万円 最近の為替レート
による試算384.2万円 337.6万円 150.5万円 401.5万円 314.0万円
為替レートで国際比較をしようというなら、購買力平価で比較する必要があります。
購買力平価というのは、各国通貨のそれぞれの国での購買力(1単位の通貨によるモノ・サービスを買う力)を等しくするレートです。例えば、1個の同じハンバーグが日本で200円、アメリカで0.65ドルだとしますと、200円=0.65ドルで、1ドル=308円となり、ハンバーグに限った購買力平価は、1ドル308円となります。購買力平価は、このように個別品目について計算できますが、財・サービスを集計した集合体についても定義できます。
購買力平価での比較が必要だといいますのは、ハンバーグの例で見ましたように各国で物価に相違があり、各国間で内外価格差があるからです。これを無視すると正確な比較になりません。
そこで、OECD(経済協力開発機構)が毎年発表している購買力平価の2000年平均を使って「課税最低限」の試算をし、財務省の試算と比較してみました。
給与所得者の課税最低限の国際比較
(注)購買力平価では、1ドル=156円、1ポンド=241円、1マルク=84円、1フラン=25円で計算しています。
夫婦子2人の場合 夫婦子1人の場合 独身の場合 財務省
の試算購買力
平価財務省
の試算購買力
平価財務省
の試算購買力
平価日本 384.2万円 384.2万円 283.3万円 283.3万円 114.4万円 114.4万円 アメリカ 299.8万円 393.0万円 265.3万円 347.8万円 88.6万円 116.1万円 イギリス 137.0万円 190.8万円 137.0万円 190.8万円 78.4万円 109.2万円 ドイツ 368.0万円 562.0万円 300.0万円 458.2万円 111.1万円 169.7万円 フランス 279.5万円 436.7万円 243.3万円 380.2万円 134.9万円 210.8万円
これで明らかなように、購買力平価で比較しますと、夫婦子2人の場合も、夫婦子1人の場合も、独身の場合も、日本の「課税最低限」はアメリカ、ドイツ、フランスよりも低いのです。イギリスは日本より低くなりますが、社会保障が充実していますので、これをもって「庶民にとって日本の方が暮らしやすい」とは断言できません。
また、「課税最低限」を考える場合、国際比較だけでなく、国民のくらし向きを考え、生計費には課税しないようにする必要があります。この観点からしますと、日本の所得税の「課税最低限」はあまりにも低い金額ではないでしょうか。
給与収入384万2千円といえば、一時金3ヵ月として月収約25万6千円のサラリーマンです。そして、配偶者は無職、子供2人の内1人は16歳以上23歳未満の子供で、大学生か高校生という想定になっています。しかし、給与25万6千円以外いっさい収入のないこのような4人家族は、現実にはどれほどいるでしょうか。これを日本の「標準家族」として「課税最低限」が高いというのは、そもそも現実的ではないと思います。
憲法25条(「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」)を基準にすると、この「課税最低限」では憲法25条水準の生活ができないことははっきりしています。にもかかわらず、この金額をもって「日本の課税最低限は高い」と主張して所得税を払わせようとするのは、国際的にみて恥ずかしいことではないでしょうか。
独身者の場合はどうかというと、「課税最低限」は114万4千円になっています。これは、一時金3ヵ月分として月収約7万6千円です。これはもうあれこれ述べるまでもなく低い金額で、これを「課税最低限」としてこの金額以上の所得を課税対象にするのはあまりにもひどい話ではないでしょうか。