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奮戦記

【14.04.29】財政ファイナンスへの危険な道を許さない

   私は、先日(4月23日)の財務金融委員会で、日銀の黒田総裁に質問しました。日銀が、銀行保有の国債を大量に買い入れるのは、事実上の「財政ファイナンス」ではないかと。
 「財政ファイナンス」とは、国家財政の赤字を穴埋するため、日銀が国債を大量に買い取ることです。しかし、日銀の黒田総裁は「長期国債の買い入れは、あくまでも金融政策の目的で行うもので、財政ファイナンスではない」と反論しました。本当にそう言えるのでしょうか。

財政法では「赤字国債の発行」は認めていない

   もともと、財政法第4条には、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」としています。つまり、公債も借入金を認めていないのです。
 なぜこのような条文があるのでしょうか。それは、過去の戦争のさい政府が戦費調達のため国債を無制限に発行し、それを日銀に直接引き受けさせて通貨価値を暴落させ、戦後の大インフレーションを引きおこした経験があるからです。

 ですから、財政法では赤字国債の発行は認めておらず、第4条でかろうじて認めているのは、公共事業等のための公債(4条国債)・借入金だけです。それも、返済計画を提出するなどの条件付なのです。
 この財政法に穴を開け赤字国債発行を可能にしたのは、赤字国債発行法(公債特例法)という法律でした。それは、毎年、予算とともに国会に提出し可決する必要がありました。

 憲法第83条は、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」と定めています。どこから財力を調達するかも含め、主権者である国民を代表する国会の議決に基づくものとしているのです。また、憲法第86条は「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と、予算の単年度主義を規定しているからです。

 かつて大平正芳(おおひらまさよし)大蔵大臣は、1975年12月の衆議院大蔵委員会で赤字国債発行について、こう述べたことがあります。
 「財政法は、公債の発行は4条国債以外認めていないわけでございます」。赤字公債の発行が「習い性(ならいしょう)となっては困るわけでございますので、異例の措置であれば、その年度限り、その特定の目的のために、これだけのものをお願いする、というように限定しなければならぬ」と。

日本銀行による「歯止め」もあった

   また1971年11月1日の参院予算委員会で、佐々木直(ささきただし)総裁はこう述べています。

 「国債の発行を何か当然のように考えている傾向がございますが、これは中央銀行の立場から申しますと、はなはだ警戒すべき態度であると思います。……国債の発行に歯どめを与えるという意味から、すでに御説明のございました財政法第4条の規定、それからまた日本銀行としていまとっております国債の直接引き受けはしない、それからまた発行後一年未満の国債あるいは政保債の買い入れは、これは右から左に消化するという印象を与えるということで、やっぱりそこに歯どめの効果を持たすために一年未満は買い入れをしない、この二つの原則は日本銀行として強く維持していくつもりでおります」。こう答えています。

 1999年02月09日の衆院大蔵委員会で、速水優(はやみ まさる)総裁は、「国債の買い切りオペ、幾らでもどんどん買えばいいじゃないかという御意見もあろうかと思いますけれども、そうすればやはり引き受けと同じことになってしまいまして、財政節度が失われるおそれもございますし、国債の直接引き受けと大差ないことになってしまう」。こう答えているのです。

 このように、財政法から見ても日銀ルールから見ても、赤字国債発行と日銀引き受けを厳しく制限してきたのがこれまでの原則でした。

「二つのルール」を投げ捨てるアベノミクス

   ところが、この原則を覆したのが、民主党政権の最後の年(2012年11月)に提出された赤字国債発行自由化法でした。

 自公民の合意で「2012年度から2015年度まで」の4年間、赤字公債の発行を自動的に認める法案をつくり、可決してしまったのです。
 これは、国会のチェック機能を今後3年にわたって奪うことにもなり、議会制民主主義の重大な蹂躙でもありました。
 総選挙後、自民党政権が復活した後、2013年度から2015年度までの3年間は、どんな大規模な予算を組んでも自由に赤字国債を発行できることとなりました。原則の大転換がおこなわれたのです。

 そのうえ、安倍内閣になって日本銀行のルールを、根本から覆す転換がおこなわれました。
 一つは、日銀券ルールを停止したことです。これは、2001年(平成13年)3月の金融政策決定会合で決定された金融調節上の必要から行う「国債買入れ」を通じて日本銀行が保有する長期国債の残高については「銀行券発行残高を上限とする」というルールです。
 アベノミクスで、このルールを停止してしまいました。日銀券発行残高(2014年3月)は86兆6308億円なのに、日銀の長期国債保有残高はすでに154兆1536億円にのぼっています。「日銀券ルール」が生きていれば、明らかにルール違反の状態になっているのです。

 二つは「1年ルール」の放棄です。これは、1967年につくられたルールで、「発行から1年未満の国債あるいは政保債の買い入れはしない」というルールです。財政規律を維持するために必要なこの原則も、破棄されてしまいました。
 日銀は、政府の国債発行後すぐに市場から買うようになってます。銀行が、財務省の実施する入札に応じて国債を仕入れ、翌日から数日後には、日銀が実施する国債買い入れで売る取引が、昨年の夏から目立つようになりました。「右から左に消化している」としか言いようがありません。

 日銀の黒田総裁は、「財政ファイナンスではない」と言いましたが、その根拠としてあげたのは「直接引き受けをしていない」という点だけです。これでは、まったく反論になっていません。

スタグフレーションへの道を許してはならない

   日銀総裁が「この二つの原則は日本銀行として強く維持していくつもりでおります」としていたものを、黒田総裁になってそれを否定して当然という姿勢に転換したのは、まことに驚くべきことです。やってはならない「財政ファイナンス」そのものです。

 これで今後、日本の財政と金融はいったいどうなるでしょうか。
 結局は、財政規律を失い、過剰な通貨供給を招くことになるのです。流通に必要な量を超えて通貨が過剰に供給されれば、通貨価値が下がり物価が上昇するインフレーションというたいへん危険な道に入ることになるのです。

 経済が停滞するもとで物価上昇が起こるスタグフレーションへの道に入り込んだら、日本経済も国民生活も破滅に導くことになります。この道は、絶対に歩んではなりません。

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