奮戦記
【13.03.11】インフレターゲットは「悪夢」を呼び込む危険な道
「インフレターゲット(物価上昇目標)を2%に設定する」ことをめぐって、さまざまな議論がありますが、ここで「物価上昇」とは何かをきちんと考えなければなりません。
物価上昇には、大きく言って2つの面があります。
1つは、需要が供給を超えて伸びることによって物価が上がるという現象です。たとえば、キャベツが不作で値上がりするようなことです。
2つ目は、通貨が過剰に供給され、それが流通必要量を超えたため通貨の値打ちが下がり、そのことによって名目的に物価が上昇するという現象です。これが、通常の物価上昇とは区別されるインフレーションです(いまの管理通貨制度のもとで起こり得る現象)。
安倍内閣が「インフレターゲット」「インフレ」という場合、この2つの現象を区別していないのが特徴です。
安倍さんは、どのようにして2%の物価上昇目標を達成するのしょうか。
1つ目の方法で達成しようとすると、国内の需要を大いに高めなければなりません。
そのためには、GDP(国内総生産)の6割を占める家計消費を増加させなければなりません。賃金を大幅に引き上げ、年金・医療・介護などの負担を大幅に軽減し、消費税増税を中止するなど、これまでの政策を根本的に転換し“大胆な家計支援策”を実施しなければなりません。しかし、安倍さんはそれをやるつもりはないようです。
安倍さんは、公共投資を拡大することによって、需要を喚起することを考えているようです。ところが、公共投資がGDPに占める比率は、わずか4%程度でしかありません。いくら増やしても限度があります。
需要を喚起する1つ目の方法では、2%目標は達成できないことは明らかです。
達成できなければどうなるでしょう。
ずるずると大型公共事業を無制限に拡大することになるでしょう。そのために多額の国債発行を続けなければなりません。
それが、市中だけで消化できなくなると、事実上、日銀が引き受けることになってしまいます。そうなったら歯止めがなくなり、財政規律を失うことになるでしょう。
戦争中の戦費調達のために、政府が日銀を支配下に置いて国債を無制限に発行し引き受けさせたあの道を繰り返すことになりはしないでしょうか。
それが、戦後の大インフレーションを引きおこし、庶民生活をどん底に突き落としたのです。国民生活の犠牲によって、国の借金はチャラになりました。
これが、流通に必要な量を超えて通貨が過剰に供給されて通貨価値が下がり物価が上昇するインフレーションという2つ目の道であり、たいへん危険な道です。
安倍さんは、過度な物価上昇には歯止めをかけるかのように言いますが、いまの政治の動きを見ていると、あの“悪夢”が再び繰り返されようとしているように思えてなりません。