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景気回復 (量的緩和政策、超低金利政策, 郵政民営化)

2006年03月10日 第164回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【344】 - 質問

日銀総裁に「超低金利政策がどのような影響を与えたか」と佐々木議員質問

 2006年3月10日、財務金融委員会で日本銀行の「通貨及び金融の調節に関する報告書」に対する質疑が行われ、佐々木憲昭議員は、福井俊彦日銀総裁に質問しました。
 質問前日、日銀は、金融政策決定会合で、2001年3月から5年にわたって続けてきた量的緩和政策の解除を決定しました。
 当面は、ゼロ金利を継続するといいますが、この時点で、これまでの超低金利政策がどのような影響を与えたかについて、検討すべきです。
 国民経済計算にもとづいて三菱総合研究所が試算したところ、91年の金利水準をもとにすると、これまでに家計が失った利益(逸失利益)は累計で283兆円にのぼります。
 その反面、企業負担は260兆円軽減され、金融機関は利子所得を95兆円増やしています。 
 佐々木議員は、「低金利を通じて、企業、金融機関に家計から巨額の所得移転が進んだということか」と質問。福井総裁も、この傾向については認めました。
 次に、佐々木議員は財政赤字と資金の流れについて質問しました。
 すでに国の長期債務残高は605兆円にのぼっており、地方が204兆円、重複を除いても国・地方あわせて775兆円の債務残高になります。
 この債務残高は、GDPの150%にあたる莫大な額です。仮に、金利が1%上がれば、それだけで7〜8兆円もの財政負担増になります。
 今後、普通国債の発行残高は、政府の予測によれば、いまの542兆円程度から、2012年の753兆円、2017年度の892兆円に増加します。
 地方債もあわせると2012年に948兆円、2017年に1120兆円となると予測されています。
 いったい、これだけの膨大な公債をどのようにして消化するのか。また、その際の金利はどうなるのかが問われます。
 経済財政諮問会議に出された資料をもとに、2003年度と2017年度を比較すると、「民」から「官」に流れる資金は、650兆円から950兆円に増えます。
 そうでなければ財政が支えられないからです。はたして、それが可能なのでしょうか。
 佐々木議員は、「郵政の民営化によって新たな問題が出てくる」と指摘しました。
 これまで、郵政公社の資金運用は、基本的には国債またはそれに準ずるものに限定されてきました。つまり、信用リスクを取るような運用をしませんでした。だからこそ、国債発行の受け皿になってきたのです。
 じっさい、日銀の「資金循環統計から見た国債保有者別内訳の変化」という統計を見ても、1994年度末と2004年度末をくらべると、郵便貯金の比率が5.4%から14.7%へ、簡保は2.5%から7.7%へと上昇しています。
 しかし、郵政事業が民営化されることで、リスクを取る運用に変わります。そうなると、国債を安定的に引き受ける公的な部門がなくなります。
 佐々木議員は、「これだけ膨大な国債は、どこが引き受けていくのか、日銀に、政府から圧力がかかっていくのじゃないか」と質問。
 これにたいして、福井総裁は、「日銀の直接引き受けは、ありえない」と明言しました。
 佐々木議員は、日銀が膨大な国債を引き受けることになれば、「財政規律がますます失われていくことになる」「無制限に引き受けるようなことは絶対あってはならない」と述べました。

議事録

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 5年にわたった量的緩和政策を解除して、当面はゼロ金利を継続すると言われました。今の時点で、これまでの超低金利政策がどのような影響を与えたか、これを振り返る必要もあると思います。
 国民経済計算に基づいて三菱総合研究所が試算したところによりますと、91年の金利水準をもとにしますと、これまでに家計が失った利益、逸失利益は累計で283兆円に上ると言っております。きょう来ておられる白川理事も、1991年の利子収入が続いたと想定して推計すると、2004年までに国民が失った利子は304兆円に上ると言われたことがあります。
 その反面、この三菱総研の試算では、企業の利子負担が約260兆円軽減され、金融機関が利子所得を95兆円ふやした。低金利を通じまして、企業、金融機関に家計から巨額の所得移転が進んだということになると思うわけです。
 この傾向を福井総裁として確認していただけますでしょうか。
○福井参考人(日本銀行総裁) 量的緩和政策並びに超低金利政策は、いずれも、日本経済が非常に悪い状況、それをさらに悪い状況に突き進むということを防ぐために大変なコストをかけて行った政策だ、したがってこれはなるべく早くやめなければいけない政策ということは、基本的な性格としてあるというふうに思います。
 市場メカニズムを犠牲にする、あるいはそういうふうに家計にも重い負担をかける、しかし、マクロ経済全体として新しい前進のパスをつかむためには、やはり経済の機動力を発揮するのは企業であります、企業の投資力というものを回復させるために、経済全体としては払うべきコストを払いながら政策を進めてきたということだと思います。
○佐々木(憲)委員 大きな数字として、先ほどのような状況があるということは確認をしていただけると思うんですが、どうですか。
○白川参考人(日本銀行理事) お答えいたします。
 今先生御指摘の数字でございますけれども、これは、先般の国会におきまして、一定の前提でこうした計算をしてほしいという御依頼を受けまして計算した数字でございます。
 具体的に申し上げますと、国民所得統計における家計の受取利子額を用いて、これは1991年における受取利子額がその後2004年まで同じ額で継続するというふうに仮定した場合と現実の金利所得との比較でございます。そうしたベースで逸失金額を計算してほしいというふうに言われまして、そうした金額につきましては、累計で304兆円であるというふうに申し上げました。
○佐々木(憲)委員 家計に大変な負担を負わせたというふうに思います。
 それで、今後ですけれども、このゼロ金利政策を解除するという場合、どのような条件が整った場合にその解除が行われるのか。その条件についてお伺いしたいと思います。
○福井参考人(日本銀行総裁) 量的緩和政策の枠組みを解除したばかりでございます。これからゼロ金利を起点として金利政策が再スタートした段階でございますので、ゼロ金利解除の時点を今から正確に見通すということはなかなか難しゅうございます。
 しかし、ゼロ金利政策というのは、引き続き、かなり異例の政策だということは間違いございません。いずれ、経済、物価の実勢に見合った金利水準に徐々に修正していく最初の出発点として、ゼロ金利を修正する時点を迎えるだろうというふうに思いますが、これはやはり、デフレ的な状況に長く苦しんだ経済が活力をどれぐらい取り戻していくかということをもう少し冷静に見きわめながらその時点を正確に判断していきたいというふうに思っています。
○佐々木(憲)委員 今、条件そのものについては余り具体的におっしゃらなかったんですけれども、それもぜひ、詰めた形でお知らせをいただければと思います。
 そこで、金利が上昇する局面というのは当然今後出てくると思うんですが、さまざまな部門に影響が及ぶと思います。例えば企業では、これは企業規模によって随分また違いますし、あるいは家計の場合も、世代別に見ますとまた違ってくる。いろいろあると思うんですが、この影響、金利が引き上がることによる影響というものはどのように考えておられるか、お聞きをしたいと思います。
○福井参考人(日本銀行総裁) まず大前提として、今後金利を調整していく過程は、でき得れば、できる限りなだらかなものにしていきたい、急激な金利の調整というのを避けるというふうな金融政策をしたい、こういうふうに思っております。もちろん、経済ですから、いかなるショックが外から及んでくるかわかりませんので、そういう場合は別でございますが、通常であれば、できる限りなだらかに持っていきたい。
 そうしますと、量的緩和政策から脱却いたしました今の時点では、余り非連続的な変化が生じない、しばらくゼロ金利でございますので生じない。いずれゼロ金利が修正され、極めて低い金利水準になり、それがさらに徐々により高い金利水準に上がっていくという過程でございますけれども、私どもやはり、まず企業部門について言いますと、おっしゃったとおり、大企業だけでなくて、中小企業の資金繰りの円滑性ということがいかに保たれているかということは十分検証しながらやっていかなきゃいけないというふうに思っています。
 それから、家計部門については、そういう金利上昇のペースが緩やかであれば、預金金利という形で十分均てんできるというのはかなり時間がかかるだろうなというふうに思いますけれども、一方、雇用や所得環境の改善から雇用者所得が緩やかな増加を続ける、それを実現するために金融政策をやっているわけですから、そういうことは十分期待できるだろう、こういうふうに思っています。
 それから、政府部門でありますけれども、これは最大の資金不足主体であります。財政再建を着実に進めていただく必要があるわけでして、そのためには、まず、一層の規制緩和などを通じて構造改革をさらに進めていただく、民間の活力を引き出して日本経済の潜在成長力そのものを高めていくという本質的な対処が大事だというふうに思っております。それが最終的には安定的な歳入の確保につながる。
 それらすべての過程を円滑に進めるために、私どもは、できる限り不連続性の伴わない金融環境、変化はいたしますが不連続性を大きくは伴わない金融環境の提供ということでサポートさせていただければ、それが最高だというふうに思っています。
○佐々木(憲)委員 今後を見通す上で、民間の資金需要がどういうふうになっていくかということと、それから、今も触れられましたように、財政の赤字が一体どうなるのか。これは大変大きな要因だと思うんです。
 国、地方の財政の状況は、長期債務残高が605兆円に上っておりまして、地方が204兆円ですから、合わせまして、重複を除きましても775兆円という大変な規模になるわけで、この債務残高は、減るというよりも、当面中期的にはふえていくという見通しでございます。これは、全体として金利を引き上げていく大きな要素になっていくのではないかと思うわけです。
 775兆円の債務残高は、GDPの150%ですから、膨大な金額であります。仮に金利が1%上昇しても、それだけで7、8兆円の負担増、財政的には大変大きな負担増になる。それが回り回って国民の増税とかさまざまなマイナス要因としてはね返る可能性もある。もちろん財政運営というのは政府の問題ですから日銀に責任があるわけではございませんが、今後、政府の予想によりますと、普通国債の発行残高、今は542兆円ですけれども、2012年では753兆円、2017年に892兆円、どんどん増加していく。地方債も合わせますと、2012年に948兆円、2017年に1120兆円、これは大変な予測でございます。政府自身がそんな方向を見通しているわけでございます。
 そうなると、一体これだけの膨大な公債をどう消化するか、その際の金利はどうなるのか、これは大変大きな課題になっていくと思うんです。もちろん、我々はその政府の財政政策を容認するわけではありませんが、今の状況が続くとそういう状況になる。
 そこで、これは岩田副総裁にお願いしたいんですけれども、一体、消化の展望あるいは金利の傾向をどのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。
○岩田参考人(日本銀行副総裁) ただいま御指摘をいただきました点でありますが、政府部門におきます債務が増加する、その結果、金利にはどういう影響が及ぶんだろうか、こういう御質問であったかと思います。
 御指摘のように、金利といいますのは、一つは供給面といいますか、どのくらい国債等が新たに発行されていくかということと、それから需要の面、そういう債券に対する需要の面、両面で決まっております。
 私どもが、長期金利が例えばどういう形で基本的には決まっているというふうに考えているかということを申し上げますと、これは主として市場参加者の、将来の経済あるいは物価に関する市場の見方、成長率でありますとかあるいは物価の上昇率でありますとか、こういうものが将来どういう推移になるのかな、こういうことに対する市場の見方と、それに加えまして、今御指摘もありましたけれども、財政部門の例えば不安定性に由来するリスクプレミアム、あるいは、経済が大幅に変動いたしますと、これも先行きの成長率とか物価の上昇率が大幅に変動してしまう。そうしますと、これもやはり長期金利に不安定性が拡大しますとリスクのプレミアムがふえてしまう、その結果、長期金利が上昇してしまう、こういうふうに考えております。
 したがいまして、先行き、長期金利というのが安定的な形で、いわば経済のファンダメンタルズに見合ったような形で形成されていくということが極めて重要なことだ。マクロ経済的な経済とか、物価の環境というものを安定的な状況に保っておくということが、一つ極めて重要だ。
 それから、もう一つは、財政部門におきましては、財政再建の長期的な方向性というのを透明な形で示す、そういうことによりまして、財政赤字に伴いますリスクプレミアムをできるだけ大きくならないようにしていく、こういうことが極めて重要だ。つまり、これほど大幅な国債残高を抱えた経済で、今後どういうふうに政策運営するかということを日本銀行の任務の方から考えてみますと、金融経済情勢というものをできるだけ安定的な形で保ちながら、とりわけ重要なのは、長い目で見ました物価の安定そして持続的な成長というのを実現する、こういうことを通じて、いわばリスクプレミアムの部分をできるだけ小さくする、その結果、安定的な金利形成が行われる、こういうことが望ましいというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 なかなか抽象的な答弁で、かみ合った感じがしないんですけれども。
 官と民の関係で、単純に言いますと、今後の資金の流れというのは、明らかに民から官に流れるんです。経済財政諮問会議に出された資料をもとに、2003年と2017年を比較いたしますと、民から官に流れる資金量は、650兆円だったものが950兆円にふえるんです。これは、福井総裁も出席された、その会議に出された資料でございます。そうでなければ、これは財政を支えられないという状況なんですね。果たしてそれが可能かという問題になるわけです。
 そこで、郵政の民営化によって新たな問題が出てくると私は思うんですが、これまで郵政公社の資金運用は、基本的に国債またはそれに準ずるものというふうに限定されてまいりました。つまり、信用リスクをとるような運用はできなかったわけです。だからこそ、国債発行の受け皿に郵政事業がなっていたわけですね。日銀が公表した資金循環統計から見た国債保有者別内訳の変化という資料がありますが、それを見ましても、1994年と2004年を比べますと、郵便貯金の比率は5.4%から14.7%に上がっております。簡保は2.5%から7.7%に上がっている。つまり、それだけ郵政事業における国債の保有率が急増したということでございます。
 しかし、この民営化によってリスクをとる運用が行われる。そうなると、国債を安定的に引き受ける公的な部門というものが失われていくわけであります。しかも、今回の量的緩和解除に伴って、最大の引き受け手である民間金融機関が債券離れを始めている。残高の圧縮、保有期間の短期化ということが行われている。そうなると、これだけ膨大な国債の発行、一体どのようにこれは消化されていくのか、どこが引き受けていくのか、こうなってきますと、これは日銀に、これが引き受け圧力として政府からかかっていくのじゃないか。
 先ほども、いろいろな議論がありました。つまり、膨大なこのような公債発行の受け手として、日銀は引き受けなさい、引き受けなさい、こうなってきますと、これは逆に、財政規律がますます失われていく可能性がある。そこで日銀の姿勢が問われていると思うんです。そういう意味で、総裁として、今後この問題にどのように対応されていくのか。私は、安易な引き受けをどんどんやっていくということは正しくないと思っております。
 総裁のお考えをお聞かせいただきたい。
○福井参考人(日本銀行総裁) 郵政の民営化に伴いまして、郵便貯金、そしてストレートに国債運用というふうに流れていた資金が、どういうふうに多様化した流れを示すかというのは、よく注意していかなければいけないというふうに思っています。
 いずれにいたしましても、最終的に日本銀行が国債の引き受けを迫られるような市場環境になるかどうか、それはわかりませんけれども、仮になったといたしましても、日本銀行としては、国債の直接引き受けということは、文字どおり、財政規律に真っ向から反するというふうに考えております。引き受けるということは、法律的にも禁じられておりますし、私どものディシプリンとしてもそれはあり得ないというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 現在も、既に日銀の保有比率が13.5%ということでして、これを無制限に引き受けるようなことは絶対私はあってはならないと思っております。
 今、福井総裁から基本的なお考えをお聞きしましたので、以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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