2014年10月29日 第187回 臨時国会 財務金融委員会 【800】 - 質問
日豪EPA 車は恩恵 牛肉打撃
2014年10月29日、佐々木憲昭議員は財務金融委員会で、4月に基本合意した日豪経済連携協定(EPA)が自動車産業の利益と引き換えに、日本の畜産・酪農に大打撃を与える内容になっていると指摘しました。
佐々木議員は、日豪の貿易額上位5品目の関税率を提示(表)。輸出では自動車関連産業が恩恵を受ける一方、輸入では牛肉が大打撃を受けるとして、「自動車(の関税撤廃)と引き換えに、冷凍・冷蔵牛肉で(関税の)大幅引き下げ要求をのんだことになる」と批判しました。
麻生太郎財務大臣が「(日豪EPAは)国内の畜産業者をかなり保護する内容になった」と答弁したのに対し、佐々木議員は、農水省も豪州産農産物の関税が撤廃されれば、国内畜産業が2500億円減少すると試算していることを指摘。豪州食肉家畜生産者事業団は日豪EPAの結果、20年後には豪州産牛肉の輸出額が約4倍に増えると試算し、「勝利宣言」までだしているとして、「(日本の)畜産農家が壊滅的な状態になるのは明らかだ」と強調しました。
あべ俊子農林水産副大臣は「(日豪EPAでは)効果的なセーフガード(緊急輸入制限)がある」と答弁。佐々木氏は、過去の輸入実績を基準にしたセーフガードでは「畜産農家を守る役にはたたない」と批判しました。
質疑の後、討論・採決が行われ、佐々木議員は反対討論を行いました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
提案されている法案に関連して、幾つか確かめておきたいと思います。
今回の日豪経済連携協定は、重要品目のうち除外となったのは米のみでありまして、牛肉、乳製品で大幅な関税削減を認めるというものになっております。そういう点では、国内農業に大変大きな打撃を与える内容になっているのではないかと思うわけです。
まず、大臣に確認したいんです。
日本から豪州への輸出額のうち現在関税が無税となっている割合は何%か、それから、今回の日豪EPA協定が完全に実施された場合、何%にそれが拡大するか。逆に、豪州から日本への輸入額のうち今関税が無税となっているのは何%か、それが協定の完全実施で何%になるか。基礎的なことですけれども、確認をしておきたいと思います。
○麻生財務・金融担当大臣 佐々木先生、まず、日本から豪州への輸出額のうち、現状でいきますと33・8%が関税が無税でありますけれども、日豪EPAが発効後10年以内に99・8%について無税ということになることになります。
また、豪州から日本への、輸入につきましては、現状では93・5%につきまして無税でありますけれども、発効後10年以内に93・7%が無税になるということであろうと存じます。
○佐々木(憲)委員 次に、関税総額について聞いておきたいと思います。
貿易量が一定と仮定しまして、最終年には現状に比べて豪州が受け取る関税額は幾ら減少するか、また、日本が受け取る関税額は幾ら減少するか。これは政府参考人で結構ですが、お答えいただきたい。
○宮内政府参考人(財務省関税局長) お答え申し上げます。
日豪EPAの実施が我が国の関税収入に及ぼす影響等につきましては、今後の貿易動向や為替変動等についての予測が困難であるため正確には見積もれませんが、その上で、オーストラリアからの輸入量が一定である等の一定の仮定のもとで最新のデータを用いて機械的な試算を行ってみますと、関税の支払い額、すなわち豪州が受け取る関税でございますが、関税引き下げ等の最終年度で580億円程度の減収になります。一方、我が国の関税収入額につきましては、最終年度で330億円程度の減収となります。
以上でございます。
○佐々木(憲)委員 この数字だけ見ますと、日本の方が何か得をしたかのように見えますけれども、問題は、誰がどれだけ恩恵を受けるか、誰がどれだけ打撃を受けるか、こういう問題であります。
具体的にお聞きしますけれども、日本から豪州への輸出について、上位五品目の輸出額、現在の関税率と協定の関税率、これを述べていただきたい。それから、豪州からの上位五品目の輸入額、現在の関税率と協定による関税率、それぞれ述べていただきたいと思います。
○宮内政府参考人 お答え申し上げます。
日本からオーストラリアへの主な輸出品目の2013年の輸出額につきましては、自動車が約7500億円、石油製品約3100億円、ゴムタイヤ及びチューブについて約600億円、建設用・鉱山用機械約500億円、自動車部品については約400億円でございます。
これらの品目は、現在、無税または5%の関税が課されておりますが、有税部分につきましては、一部の例外を除きまして最終年度までに撤廃されるところでございます。
また、オーストラリアから日本への、主な輸入品目の2013年の輸入額でございますが、石炭約1兆4800億円、石油ガス類約1兆4600億円、鉄鉱石約9900億円、非鉄金属鉱約2千億円、牛肉約1400億円でございます。
このうち牛肉以外につきましては、一部の例外を除き、現行で関税率が既に無税でございます。現行の牛肉の関税率は38・5%でございますが、生鮮等の牛肉につきましては15年目に23・5%まで、冷凍牛肉につきましては18年目に19・5%まで、段階的に削減されるという予定でございます。
○佐々木(憲)委員 今御説明がありましたように、お配りした資料、これがそのことをあらわしております。
二枚目を見ますと、日本から豪州に対する輸出に係る関税、これが特に自動車関連は非常に恩恵が大きいわけであります。ところが、逆に豪州から日本に対する輸出に係る関税、これらは既に上位四品目はもう無税でありまして、問題は牛肉なんです。それからチーズ及びカードとか、下にありますけれども、こういう農産品に関連するものが大変な打撃を受ける、こういう構図になっているわけですね。
結局、自動車の輸出に関する関税が撤廃されて、輸入では豪州産の牛肉の日本の関税が軽減されて、輸入が促進される。要するに、大臣、これは、自動車と引きかえに牛肉の大幅な引き下げ要求をのんだ、こういうことになるんじゃありませんか。
○麻生国務大臣 いろいろ先ほども申し上げましたように、この種の話というのは、消費者の利益と生産しておられる方々とのバランスというのが常に一番の問題になろうと存じます。国内産業の保護と消費者利益のいわゆるバランスということなんだと思います。
先ほど申し上げましたように、冷蔵牛肉と冷凍牛肉の二つがあるんですが、これをかなりの長期間、片一方は15年、片一方は18年の長きにわたって時間をかけてやってまいります。国産牛肉と競合いたします冷蔵牛肉につきましては冷凍より4%高いことにしておりますし、いろいろな意味で、輸入量が一定を上回った場合はちゃんとセーフガードをかけますよとか、いろいろな形にしてございますので、私どもとしては、これは国内の畜産業者をかなり保護する内容にやれたんだと思っております。
同時に、やはり国内の畜産業者の方々もこの15年、18年の間にいろいろ努力をしていただいて、消費者の利益がふえていきますようにいろいろ御努力をいただかねばならぬということも確かだと思いますけれども、いずれにいたしましても、こういったことによって輸入牛肉の値段が安くなっていくということは非常に大きな利益になるものだ、私どもはそう思っております。
○佐々木(憲)委員 今の説明は納得できないところが多々ありまして、消費者の利益と言いますけれども、安くなるという利益ももちろんあるかもしれないが、問題は、安定供給という面ではどうか。国際的な食料危機などの問題がありますよね。そういうときに、国内の自給率が下がっている場合はどうなんだと、非常に大きな懸念が持たれているわけであります。
そういうときに、国内の畜産業界が打撃を受けるようなことを一方でやる。プラスには決してなりませんね。打撃をどれだけ少なくするかという程度の話なんですよ。問題は、自動車の輸出を何とかしたい、そちらの方が先行しておりまして、結果的に農家が犠牲になる、こういう構図になっていることはもう明らかであります。
そこで、農水省にお聞きします。
先ほどもちょっと議論がありましたが、豪州産牛肉の関税が下げられることによって国内の畜産業にどういう影響が出るのか。これは、貿易量、為替について一定の前提を置けば試算はできると思いますが、ぜひそれを出していただきたいと思います。
○あべ農林水産副大臣 佐々木委員にお答えいたします。
この日豪のEPAの合意内容につきまして、先ほど財務大臣からも御説明がございましたように、冷蔵、冷凍間の4%の税率差、例えば、冷蔵に関しましては38・5%が23・5%に、冷凍は38・5%が19・5%というふうにされた。また、近年の輸入水準以上の輸入量になったときには、先ほど大臣からも申し上げましたとおり、関税を現行水準の38・5%に戻す効果的なセーフガード、さらには長期の関税率の削減期間を冷蔵15年、冷凍18年の確保など、国内畜産業の存立さらには健全な発展と両立し得る内容であると私ども農林水産省は考えているところでございます。
そうした中、日豪EPAが今後の我が国の牛肉の生産に与える具体的な影響に関しましては、関税のほか、他の外国産牛肉の輸入状況、景気動向、為替変動などさまざまな要因が影響を及ぼすため、予測することは困難であるというふうに考えております。
いずれにいたしましても、本協定の効果、影響に留意しつつ、生産者の皆様が引き続き意欲を持って経営を続けられるよう、畜産、酪農に対して構造改革や生産性の向上による競争力強化を推進してまいりたいと思っております。
○佐々木(憲)委員 要するに、長々言いましたけれども、計算できないのではなくて、計算しないということだというふうに私は思いますね。
大体、2006年12月1日に農水省が「豪州産農産物の関税が撤廃された場合の影響(試算)」を公表しているんじゃありませんか。
○あべ副大臣 佐々木委員にお答えいたします。
おっしゃるとおり、2006年12月に農林水産省におきまして、豪州の農産物の関税が撤廃されたときの影響、試算を公表したことは事実でございます。
○佐々木(憲)委員 だから、結局、試算をしようと思ったらできるわけでありまして、若干複雑になるかもしれないけれども、前提を置いてやればできるんですよ。
この2006年の農水省の試算によると、価格面で国内農産物は市場での競争に敗れ、豪州産の農産物に置きかわり、それに見合う国内生産が縮小する可能性、その場合に受ける四品目についての直接的な影響を見積もれば、合計で約8千億円という試算、こういうふうに公表しているわけです。しかも、牛肉に限って言うと2500億円の減少ですよ。これは関税撤廃という前提ですけれどもね。
ですから、試算をやろうと思ったら幾らでもできるわけで、マイナス影響が大きいから試算は出したくないというのが本音だというのが、もうありありとしているわけであります。
今、農民の側から非常に不満が広がっておりまして、大変な事態になっている。一方で、オーストラリアの側のMLA、豪州食肉家畜生産者事業団の駐日代表のホームページでの声明を見ますと、まさに勝利宣言でありまして、20年後には55億豪ドルにまで拡大する、つまり今の約4倍になる、こう言っているわけですね。こうなりますと、国内生産が大変な事態になるということはもう明らかであります。
既にこの10年間、例えば乳用牛の飼養戸数、それから肉用牛の戸数は両方とも、乳用牛の方は9千戸減っております。肉用牛の方は3万2千戸減っているわけです。これが実態なんですね。その上に、豪州に言わせれば、これから四倍にもふえてくるんだと。こうなりますと、壊滅的な事態になるわけですね。
セーフガードがある、セーフガードがあると言いますけれども、セーフガードの基準は一体何によって決まるんですか。
○あべ副大臣 佐々木委員にお答えいたします。
セーフガードは輸入の急増時の安全弁として措置されるものでございまして、一般的に、輸入数量が一定の基準を超えた際に関税の引き上げを行うものでございます。
発動基準を定量的に定めている既存のセーフガードとして、例えば特別セーフガード措置、これは、ウルグアイ・ラウンドの合意に基づき関税化された農産品を対象として、前3年の輸入数量の平均をもとに算出する一定の数量を超えた場合に追加関税として通常関税の三分の一を上乗せする措置でございまして、また、牛肉に関しましては、関税の緊急措置として、四半期ごとの輸入数量が対前年同期比で117%を超えた場合に関税を38・5%から50%まで戻す措置でございます。
今回の日豪のEPAにおける牛肉の特別セーフガード措置の合意内容、これは、冷凍、冷蔵別に、あらかじめ毎年定められた年間の輸入数量、例えば初年度は冷凍19万5千トン、冷蔵に関しては13万トンを超える輸入が行われた場合にセーフガードを発動いたしまして関税を38・5%に戻すといった内容となっておりまして、単純に過去の輸入実績を基準とする措置と比べて効果的なセーフガードであるというふうに私どもは考えております。
○佐々木(憲)委員 長々答弁したけれども、結局、過去の実績を基準にして、それを上回るように設定されているわけです。ですから、現実にそれによって輸入する量が確保される……
○古川委員長 佐々木君、申し合わせの時間が来ておりますので、まとめてください。
○佐々木(憲)委員 了解です。わかっております。もう終わります。
したがって、このセーフガードというのは、事実上、農家を守ることには役立たないというのが実態だと思います。
時間が参りましたので、以上で終わりたいと思います。
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