税制(庶民増税・徴税) (関税・EPA(経済連携協定)・TPP)
2013年03月22日 第183回 通常国会 財務金融委員会≪総理出席≫ 【716】 - 質問
TPPのISD条項 多国籍企業が国を支配することを容認するのか
2013年3月22日、佐々木憲昭議員は、財務金融委員会で、安倍総理に質問しました。
環太平洋連携協定(TPP)に盛り込まれる「企業と国家の紛争解決(ISD)条項」について、佐々木議員は「国の主権を侵害することは明白だ」と指摘し、交渉に参加しないよう求めました。
ISD条項は、多国籍企業が進出先の政府から「不当な法律や規制で損害を受けた」とみなした場合、国際的な第三者機関に提訴し、それが認められると進出先の国から賠償を得られる制度です。
外務省は(1)第三者機関は仲裁人3人の多数決で決まり、上訴できない(2)問題とされた制度の必要性は争われず、「不利益」の有無だけが裁定の争点になるとのべました。
佐々木議員は、米国がISD条項で訴えられた14件のうち負けたのはゼロ。一方で、カナダとメキシコが提訴された46件のうち30件は米国企業が原告だったことを紹介し、「ISDをいかにアメリカが有利に使ってきたかがわかる」と強調しました。
さらに「企業の言い分が認められたら、国民の税金で賠償し、しかも結果的に外国企業の言うとおりの制度にしなければならなくなる。主権侵害の極めて重大な仕組みだ」と指摘しました。
安倍総理は「日本企業も外国政府を訴えられる仕組みであり、平等な条約だ」と正当化しました。
これでは、「はじめに参加ありき」で霧のなかに突っ込んでいくようなものです。
佐々木議員は「主権を危うくするもの。参加をやめるしかない」と強調しました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
今議題となっております関税法案は、国境措置にかかわる問題であります。それに関連して、今焦点となっておりますのはTPPの問題です。
我々は、TPP交渉に参加することには反対でありまして、これは日本国民に甚大な被害をもたらし、国の土台を危うくするものであるということで、参加すべきではないということを主張してまいりました。
きょう確認しておきたいのは、投資分野の中核的な規定でありますISD条項についてです。
簡単に言いますと、この条項は、多国籍企業が、進出した先の政府から不当な法律や規制で損害を受けたとみなした場合、国際的な第三者機関に仲裁を申し立て、認められたら賠償金を獲得できる、こういう制度です。
そこで、自民党が2月13日にTPP交渉参加に対する基本方針というものを発表しておりますが、その中に、「国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。」というふうにしております。
総理に伺いますけれども、国の主権を損なうといいますが、それはどういう意味でしょうか。
○安倍内閣総理大臣 ISD条項については、御承知のように、我が国がこれまで締結をしてきた15の投資協定、そして九つのEPAにも規定されているわけでありまして、新しいものではないわけであります。締約国が必要かつ合理的な規制を行うことを妨げるものではございません。
TPP交渉においては、これまで得られた情報によれば、投資の保護と国家の規制権限の確保との間の公平なバランスを保つことで、ISD手続の濫用を防ぐための規定が検討されているというふうに承知をしております。
国の主権を損なうようなISD条項には合意しないという党の基本方針は、さまざまな協議を経て、党の英知を集めて取りまとめを行ったものでございますが、今後、交渉を行っていく中において、今交渉を行っているわけでございまして、具体的な内容について言及することは適当ではございませんが、TPP交渉においては、国の主権を損なうようなISD条項には合意をしないということでございまして、自民党の決議については、しっかりとそれを胸に刻んで、強い交渉力を持って、国益を最大限に実現するように全力を尽くし、結果を出していきたいと考えております。
○佐々木(憲)委員 自民党のTPP対策に関する決議というのが3月13日に行われておりまして、そこには、「政府調達、金融サービス等について、我が国の特性を踏まえることなく、国際調和の名の下に変節を余儀なくされるのではないか、といった様々な懸念が示されている。」というふうに書かれています。
また、TPP検討委員会第二グループの検討結果の中には、我が国が訴えられる危険性が高まる可能性、国内投資家に対して海外投資家を過度に利するおそれを内包している、こういう指摘があります。
そこで、具体的にお聞きしますけれども、裁定を下す第三者機関、これはどのようなものがあるか、外務省、説明していただきたい。
○正木政府参考人(外務省大臣官房参事官) お答えいたします。
通常、投資関連協定では、投資家と投資受け入れ国が選定した仲裁人から成る仲裁裁判所が裁定を下します。その際に付託できる主な仲裁としましては、投資紛争解決国際センター、ICSID条約による仲裁、国際連合国際商取引法委員会、UNCITRAL、国際商業会議所、ICC、及び、ストックホルム商業会議所仲裁協会、SCCの各仲裁規則による仲裁が挙げられます。
なお、これらの機関の事務局は、仲裁の行程の管理などの手続的な側面的な支援を行うことはございますが、仲裁範囲の判断に影響を及ぼすことはございません。
○佐々木(憲)委員 今、複数の機関が挙げられました。
この第三者機関と呼ばれる組織の特徴はどうなっているか。不利益を受けた外国企業、多国籍企業が、このうちの一つを選択して訴えを起こすわけです。その場合、仲裁人は三人しかおりません。紛争当事者同士が一人ずつ推薦し、あとの一人を両者の合意で選ぶ、こういうことになっております。そして、この三人の多数決で裁定を行う。それから、上訴の仕組みはない。こういう理解でよろしいですか。
○正木政府参考人 お答えいたします。
今先生御指摘のとおり、一般的には、投資関連協定に基づく国際仲裁においては、仲裁裁判所の裁定は、仲裁人の多数決で決定いたします。
○佐々木(憲)委員 総理、これは外国企業、多国籍企業が国を訴える仕組みなんですよ。しかも、その裁定にその国の国内の司法権は及ばない。これは一体どこに主権があるんでしょうか。国の上に企業を置くようなものですよね。
これは主権を侵害する制度ではないかと思いますが、どうですか。
○安倍内閣総理大臣 そもそも、この協定を結ぶ上において、これは、TPPについてはマルチ、多国間で協定を結んでいくわけでございますが、既に、先ほど答弁をさせていただきましたように、関税協定等において15の国々と我々は協定を結んでいるわけでございます。この協定を結ぶ際に、我が国はそれを了解し、それによってむしろ国益は守られるとお互いに判断し合っていわば協定を結んでいくことになるわけでございまして、いわば主権とのかかわり、そしてその合理性等、バランスをとりながら運用していくことが正しいわけでございまして、交渉をしていく中において、そうしたものが損なわれることがないように交渉をしていく考えでございます。
○佐々木(憲)委員 この制度自体の問題点として、企業が国を訴えて、それを第三者機関が認めたら損害賠償を行う、こういうわけでありまして、企業が損害が生じたと認識して第三者機関に訴えた場合、結論が出たら、これはその上に上訴できないんですよ。もう結論は一発で終わり。ですから、直ちに国民の税金で損害賠償をするということになる、そういう仕掛けですね。確認したいと思います。
○城内外務大臣政務官 佐々木委員の御質問にお答えします。
我が国は、投資関連協定を締結するに当たりまして、国内法との整合性の観点から、必要な範囲で留保及び例外規定を置いてきております。我が国が法令に基づき合理的で必要な規制を行っている限り、仮に国際仲裁を提起されたとしても、協定違反が認められることは通常想定されておりません。
その上で申し上げますと、万が一、仲裁廷が、我が国の協定違反により投資家に損害が生じたことを認定し、金銭等による賠償を命じた場合には、国際約束に従って賠償することになります。賠償金を支払う場合には、国庫から支出することになると考えられます。
○佐々木(憲)委員 仕組みはそういうことになっているんですね。
この裁定では、不利益をどれほどこうむったかということが争われるのが基本でありまして、その国内の国民の健康や安全、あるいは環境保全にとって必要だということで、その制度がなぜ必要になったのかということについては争わない。つまり、不利益か不利益をこうむっていないか、それはどれほどか、これが争われるというのが基本だと思いますが、いかがですか。
○正木政府参考人 お答えいたします。
通常、このISD手続に基づきます仲裁廷が示し得る判断は、御指摘のように、損害賠償あるいは原状回復ということに限られます。したがいまして、仲裁廷が、投資受け入れ国に対し、国内の法令、制度の変更を命じることはできないと考えております。
○佐々木(憲)委員 これまで、FTA、EPAを初めとする投資関連協定に基づいて提訴された件数、これが幾らあるか、それを紹介していただきたい。
○正木政府参考人 お答えいたします。
今まで、このISDにつきまして、最も広い統計をとっております機関としまして、国連の貿易開発会議、UNCTADがございます。こちらの資料によりますれば、2010年末までに付託された世界の投資関連協定に基づきます国際仲裁の件数は、390件であると承知しております。
以上でございます。
○佐々木(憲)委員 その中で、アメリカが訴えられてアメリカが負けた件数、これは何件ありますか。
○正木政府参考人 今申し上げました件数のうち、アメリカ政府を訴えたものは14件とされております。
ちなみに、この統計の中では、国側が敗訴した事例というものは集計しておりませんので、どちらが勝ったかということは承知しておりません。
○佐々木(憲)委員 アメリカが負けた件数はゼロであります。
北米自由貿易協定、NAFTAを結んでおりますカナダ、メキシコの場合、これまでにISDを使って46件の提訴があったと言われておりますが、この原告のうちアメリカ系企業は何件でしょうか。
○正木政府参考人 お答えいたします。
先生御指摘のとおり、今の国連貿易開発会議、UNCTADが公表している投資仲裁データベースによれば、1987年から2010年までの間に、NAFTAに基づく投資仲裁の事例としては、46件が掲載されております。そのうち、アメリカ国籍の企業が仲裁に付託した事例は、30件と承知しております。
○佐々木(憲)委員 圧倒的にアメリカ系企業がこの条項を使っているわけです。
いかにアメリカが有利に使ってきたかということを示しておりますが、具体例として、アメリカの企業がカナダとメキシコから多額の賠償金をかち取った事例、これを紹介していただきたいと思います。
○正木政府参考人 お答えいたします。
NAFTAにおきまして、カナダが敗訴し多額の損害賠償の支払いを命じられました事例としましては、廃棄物処理事業者であるSDメイヤーズ社がカナダを訴えた事例というものが挙げられます。仲裁廷は、カナダの内国民待遇違反を認定しまして、損害賠償として約386万ドル及び利子の支払いを命じたと承知しております。
また、メキシコの例ということでございますが、メキシコが敗訴し多額の損害賠償の支払いを命じられた事例としましては、甘味料の製造企業であるアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド・カンパニー、それからテート・ライル・イングレディエンツ・アメリカス社がメキシコを訴えた事例があると承知しております。仲裁廷は、この事件に関しましては、メキシコの内国民待遇違反というものを認定いたしまして、損害賠償として約3351万米ドル及び利子の支払いを命じたと承知しております。
○佐々木(憲)委員 企業が国を訴えて、そしてその企業の言い分が認められたら、直ちに国民の税金を使って賠償金を払う、こういうことになるわけです。
今紹介を受けました事例は、環境問題などに関連して起こったものであります。国内事情によって環境保護のルールなどを変更する、つまり、より強くするというような場合、それによって多国籍企業が損害を受けたということで訴えた場合、企業の言い分が認められると国は税金で支払わなきゃならぬ。
これは非常におかしな話でありまして、しかも、結果的には、多国籍企業の言うとおりの制度にしなければ、いつまでも、何度でも訴えられるという話になるわけでありまして、主権侵害の極めて重大な仕組みだと思いますが、安倍総理はそういうふうに思いませんか。
○安倍内閣総理大臣 この仕組みは、相互に協定を結んででき上がる仕組みでございまして、先ほど申し上げましたように、投資協定の中において15の国々と日本は既に結んでいるわけでありまして、当然、これは、日本の企業も相手国政府を訴える権利を得るわけでございまして、相互にとって平等な条約であります。
当然、米国がいわばそういう今までの事例において勝訴をしている事例が多いということは十分に承知をしております。その上において、TPPについては、11カ国が加盟をしておりますから、そういう国々ともいわば情報交換等をしながら、よりよい形にしていくことが必要であろう、こう考えております。
○佐々木(憲)委員 国家主権を非常に強く主張される安倍総理にしましては、極めて納得できない答弁であります。日本の企業も訴えることができる、相手も訴えることができると。しかし、こういう制度自体が国の主権を危うくするということに、どうも気づいていないようであります。
最近、おくれて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、アメリカなど既に交渉を始めていた九カ国から、交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある、既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できないという、極めて不利な追加条件を承認した上で参加を認められていたというふうに言われております。これは事実ですか。
○安倍内閣総理大臣 メキシコとカナダが本件について今立場を明らかにしていない中において、メキシコ、カナダとTPP交渉参加国とのやりとりの内容について、第三国である我が国がコメントする立場にはございません。また、我が国に対して御指摘のような条件が提示をされているということはございません。
他方、交渉開始から既に2年が経過をしているわけでございまして、既に合意されたルールがあれば、おくれて参加をする我が国がそれをひっくり返すということは難しいというのは厳然たる事実であります。
いずれにせよ、我が国としては、可能な限り早期に交渉に参加した上において、強い交渉力を持って、主張すべき点、国益はしっかりと守っていきたいと考えております。
○佐々木(憲)委員 しかし、コメントできないというわけですけれども、現実に何が起こっているかを十分把握できずに、ともかくやみくもに参加だ参加だという話は成り立たないと思いますよ。
自民党の検討委員会では、ISD条項の除外を前提に交渉に臨むべきだと言っていますけれども、このTPPというのはパッケージになっているわけです。一つの条項だけを除外したり拒否するということはできないんじゃありませんか。
○安倍内閣総理大臣 自民党としては、ISD条項についても、国益にかなわなければならないということを政府に要求しているわけでありまして、我々も当然、国益にかなうものでなければならない、こう考えているわけでございます。
そこで、先ほども申し上げておりますように、このTPPについては、これはマルチの交渉になるわけでございまして、TPPに参加をしている国々とEPAあるいは投資協定においてISD条項を結んでいるところもあるわけでございまして、なぜ結んだかといえば、それは、我が国にとってそれは利益になる、こう考えたわけであります。
そうした意味においても、このTPPにおいて日本の主権が守られるのは当然のことでございますが、国益という観点からも、このTPPにおいてISD条項がよりよいものとなるように交渉していきたいと思っております。
○佐々木(憲)委員 国益、国益というふうにおっしゃいますけれども、この条項の内容、それから提訴の仕組みなどを見ますと、国家主権そのものを侵害する内容になっているということは極めて明白であって、そういうことを十分に知っていながら、あるいは知らないというのもおかしな話でありまして、それでいながら、それに参加することだけを優先させる、これは非常に重大な事態を招くということを最後に指摘しておきまして、終わりたいと思います。