税制(庶民増税・徴税), 財政(予算・公共事業) (消費税, 社会保障・税一体改革)
2012年08月03日 第180回 通常国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【692】 - 質問
参考人質疑 「消費税増税で財政悪化」を主張
2012年8月3日、財務金融委員会で、赤字国債発行の公債特例法案について参考人質疑が行われました。
参考人として、國枝繁樹さん(一橋大学国際・公共政策大学院准教授、熊谷亮丸さん(株式会社大和総研チーフエコノミスト)、土居丈朗さん(慶應義塾大学経済学部教授)が招致され、佐々木憲昭議員が質問しました。
3人の参考人が消費税増税の必要性を述べたのに対して、佐々木議員は家計消費が低迷して国内の景気が悪くなり、財政が悪化するのではないかと指摘しました。
具体的な事例として、1997年に消費税5%への増税や医療負担増が行われた後、税収が96年度以降の15年間で14兆円の大幅減となったことを示しました。
一橋大学の国枝繁樹准教授は「経済は低迷したが、縮小はしていない」と述べました。
佐々木議員は「増税による消費の低迷が非常に大きな要因だ」と指摘し、財源というなら法人税減税、富裕層減税、ムダな公共事業を見直すことこそ必要だと強調しました。
また佐々木議員は、消費税増税などにで実質可処分所得が全世帯で4.8〜9.2%程度落ち込むと試算した大和総研レポートに言及し、名目3%もの経済成長は果たして可能なのかと質問しました。
これにたいして、大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「今まで将来不安があった。(一体改革で)消費が活性化する。政策がうまく軌道に乗れば想定しうる」などと述べましたが、具体的な方策は示しませんでした。
佐々木議員は「消費税増税と社会保障改悪で将来不安は広がる。この点では見解が異なる」と主張しました。
議事録
【参考人の意見陳述部分と佐々木議員質問部分】
○海江田委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、一橋大学国際・公共政策大学院准教授國枝繁樹君、株式会社大和総研チーフエコノミスト熊谷亮丸君、慶應義塾大学経済学部教授土居丈朗君、以上三名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、参考人各位からそれぞれ十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、念のため申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人は委員に対し質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
それでは、まず國枝参考人にお願いいたします。
○國枝参考人(一橋大学国際・公共政策大学院准教授) おはようございます。
一橋大学国際・公共政策大学院の國枝繁樹でございます。
本日は、私の考えを述べさせていただく機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
それでは、早速説明に入らせていただきます。
私は経済学者でございますので、政府の財政政策と特例公債の関係につきまして、簡単な式を使って御説明させていただきます。
どのような政府も予算の制約式というものに沿って財政政策を進めていく必要がございます。その予算制約式をごく単純な形で示しましたのが、そのスライドのページ二と書いてあるものの真ん中にある式でございますけれども、この等式、イコールの右側に、国債費を除く歳出、それから既存の国債に一と利子率を掛けたものがございますが、これは元利償還分ということでございますので、歳出全体に対して、税収等、この中にはその他収入も入ります、そして単純化のために建設国債を考慮しないでおきますと、新規赤字国債でファイナンスをするということになるわけでございます。
これを、この式から、すぐ次ページでございますけれども、政府が永遠に借りかえができないという前提を置きますと出てまいりますのが次の関係でございます。現在の国債残高というのは、現在及び将来の税収等の現在価値から現在及び将来の歳出(国債費を除く)の現在価値を引いたものにイコールになりまして、すなわちこれは、現在及び将来のプライマリー財政黒字の現在価値ということでございます。
式で申しますと難しく感じられるかもしれませんけれども、ここで言いたいのは、国債という借金は全て、いずれ全額返さなければいけない、国民の負担の形で返さなければいけないということでございます。残念ながら、現在の我が国の財政政策のままでは、この等号が成立しておりませんので、その意味で、持続可能ではないということになります。
この単純な関係から言えることでございますけれども、一つは、増税等によってプライマリー財政黒字を実現しないと財政は持続不可能になるということでございます。これは財政黒字でございまして、バランスさせただけでは足りないということでございます。
それから、改革を先送りすれば、その分、国債残高が増加いたしますので、将来必要となる増税幅は増加してしまうということでございます。
それから、その負担を負う中で、現在生きている世代が負担していかないと、その分、将来世代が巨額の負担を負うことになります。既に実は負っております。これは財政的な児童虐待ということで学界では呼ばれている状況でございます。残念ながら、我が国は世界で一番財政的に児童を虐待している国になってしまっております。
それからもう一つ、現在、投資家が日本国債に投資するのは、我が国が、先ほどの式を満たすように、必要な増税等の改革を実施するという信頼があってということでございます。
今回は特例公債法の審議でございますので、ではその赤字国債が発行できないとどうなるかということでございますけれども、それは五ページでございますが、先ほどの一番初めの式から赤字国債の発行というのがなくなりますので、そこの(3)式にありますような形になります。これが意味しているのは、歳出、国債費を除く部分と国債費を足した部分全体を税収等で補うしかないということでございます。
ということは、六ページでございますが、赤字国債を発行できなければ、基本的に即時の増税及び歳出削減で対応するしかないということでございます。
特例(赤字)公債の平成24年度一般会計歳入中の割合は42・4%ということでございますので、仮に特例公債が一切発行できないとしましたら、今ある税金の税率を全て倍近くにするような増税、あるいは歳出を5割以上カットするという削減をしないと、財政が破綻してしまうということでございます。
したがって、そういったことは現実的でないということだとしますと、赤字国債、特例公債が必要でございまして、その意味で、特例公債法の必要性は明らかというふうに考えております。
とはいえ、さまざまな要因で特例公債法の審議が難航した場合、我が国の財政の持続可能性が疑われることになりまして、経済に悪影響を与えるおそれがございます。
このいわば前例といたしまして、ちょうど1年前ぐらいになりますけれども、アメリカの債務上限引き上げのおくれの影響という事例がございます。七ページでございます。
アメリカには債務の上限というのがございまして、それを超えて債務を負うことはできないわけでございますけれども、それが、アメリカも財政赤字が多々ございますので、その上限に当たってしまう、それ以上になるとアメリカがデフォルトするのではないかというおそれが出てきたわけでございます。
それにもかかわらず、米国議会の中で、共和党と民主党が、それぞれ党の思惑もありまして対立いたしまして、その債務上限を引き上げるという合意がなかなかつかないという状況がございました。それでこれが大幅におくれまして、8月2日がタイムリミットだったんですけれども、その直前に合意しまして、ぎりぎりで債務上限の引き上げを行うといった事例がございました。
この結果、やはり、世界の投資家から見まして、米国財政への信認というのが大きく損なわれる結果になりました。8月5日には、スタンダード・プアーズが米国債の格付をトリプルAから引き下げるという事態が起こっております。
この格付の引き下げについては、適切だったか議論のあるところではございますけれども、しかし、このニュースは非常に大きな衝撃として世界じゅうに伝わったわけでございまして、米国債の格付の引き下げは世界の金融資本市場に大変深刻なダメージを与えたということがございます。これは米国債ショック等と呼ばれているような状況でございます。
国会での御審議でございますので、もう一つ資料をおつけしております。八ページでございます。
こうしたことの結果、米国議会に何が起こったかということなんですけれども、その直後に、アメリカにギャラップ社という世論調査で有名なところがございますが、そこで行った世論調査では、議会に対する支持率が、残念ながら、歴史的に最低水準の13%に低下するという事態が起こっております。不支持率の方は84%に上るということでございまして、やはり債務上限の引き上げのおくれを招いた米国議会に対する国民の信頼がそのことによって大きく低下したということがわかるかと思います。
最後でございますが、そういったことを踏まえまして、日本へのインプリケーション、含意でございますけれども、アメリカのような事態を避けるためには、やはり特例公債法への速やかな対応が望まれるのではないかというふうに思います。
それからもう一つは、これは御提案でございますけれども、特例公債発行が当面の間残念ながら避けられないという状況の中で、特例公債法を毎年制定する形を続けることが望ましいのかどうか、当面の間の特例公債を認めるような法律の制定というのも検討されるべきではないかというふうに思うところでございます。
簡単ではございますが、私の意見は以上でございます。(拍手)
○海江田委員長 ありがとうございました。
次に、熊谷参考人にお願いいたします。
○熊谷参考人(株式会社大和総研チーフエコノミスト) 大和総研の熊谷亮丸と申します。
本日は、お招きいただきまして、心より光栄に存じます。
さて、本日、私は少し厚目の資料を用意させていただきましたけれども、時間も限られておりますので、私からは一ページから六ページ目までのみを御説明させていただきます。その後で、先生方から御質問を頂戴した際に、必要に応じて七ページ目以降の資料を用いて御説明申し上げたいと考えております。
それでは、お手元の資料の一ページ目をごらんください。
本日、私からは三点ほど申し上げたいと思います。
まず第一点でございますけれども、財政規律の維持の重要性ということ。この背景といたしましては、今後、日本の経済そして金融環境というのがかなり、3年から5年ぐらいのタームで見たときに激変する可能性がある、これを第一点として申し上げたい。
それから第二点といたしましては、財政再建に向けた課題でございますけれども、増税、成長戦略そして社会保障の合理化という三本柱をバランスよくやっていくということが必要である、そして、経済成長もしくは歳出カットのみによる財政再建というのは困難であるということを申し上げたいと思います。
それから三点目といたしましては、非常に世界経済の不透明感がございますので、こういったもの等に照らしますと、特例公債法案の成立が望ましい、これを三点目として申し上げたいと思います。
二ページ目をごらんください。
ここでお示ししているのが、日本経済を取り巻く中長期的な環境変化でございますけれども、左が今までの構造。これは六点セットのようなものがございまして、まず、一番左端のところに、資金需要が低迷して金余りがある。第二点として、貯蓄・投資バランスの観点から巨額の経常黒字が存在した。三点目としては、その結果、円高になり、四点目として、デフレになる。そして、金融機関は金余りの状況でございますから、五点目として、非常に低い金利が続いて、ある種の国債バブルのような状況が生じていた。そして六点目として、この結果、財政赤字に歯どめがかかりまして、これがまた貯蓄・投資バランスの面等から経常収支の黒字へとつながっていくという構造でございます。
その意味では、ゆでガエル構造と書いてございますけれども、カエルが温かいお湯の中に入って、少しずつ温度を上げていくと、気持ちよくてそのままゆで上がってしまう、こういう非常に長期で日本がじりじりと悪くなっていく構造というものがビルトインされていたということでございます。
これに対して、今後の動きとしては、右側の図表でございます。まず、高齢化による貯蓄の取り崩しが想定される。そして、私どものシミュレーションですと、2015年から20年前後にかけて我が国の経常収支は赤字化の可能性が出る。その結果、円安、そしてインフレというよりはスタグフレーションと言われるような不況下の物価高の可能性、そして、長期金利が非常に大きく上がってしまって、財政赤字が本当にもう発散するような状況になってしまう。そういう意味で、今までのゆでガエル構造が、ちょうどオセロゲームがひっくり返るように一気にハードランディングの構造へと向かってくる可能性がある。
ですから、その意味では、私は、2015年というのが財政再建のある種のリミットであって、ここまでにしっかりとした財政再建の青写真を示し、実行していくということが必要である、こういう考え方をしています。
三ページ目をごらんください。
先ほど申し上げました、日本の国債が下落する可能性でございますけれども、この三ページ目の下の部分に書いてございますのが、南欧諸国、ギリシャだとかスペインと比べると、今までは日本の国は二つの面で違っていた。
第一点目として、彼らは双子の赤字でございますが、日本は経常収支は黒字であった。その結果、第二点として、外国人に国債を持ってもらっているわけではなくて、外国人の保有ウエートはわずか8%しかない。ですから、とりあえず92%の日本人が日本を信頼する限りにおいては、すぐに国債が暴落する状況ではないということでございましたけれども、この仕組みが、2015年から20年にかけて経常収支の赤字化が視野に入ってくる中で、大きく変わってくる可能性がある。
まず、左上のグラフがイギリスの1930年代の事例、右上のグラフがアメリカの1970年代の事例でございますが、いずれも、経常収支の赤字化が視野に入ってきますと、海外から資金を呼び寄せる必要が出てきますので、長短スプレッド、長期金利と短期金利の差が拡大するような形で、かなり国債の暴落のようなことが起きている。
こういう観点に照らしますと、私は、やはり2015年前後までにある程度財政再建のめどをしっかりとつけていくということが必要であるという見方をしております。
第二点としては、今後の財政再建の課題でございます。
四ページ目をごらんください。
ここでお示ししているのが、2020年度のプライマリーバランスのGDP比のシミュレーションでございますけれども、横軸が経済成長率、縦軸が社会保障の伸び率ということで、御注目いただきたいのは、左下の隅の部分に一カ所だけピンク色でプラスの0・2と、このシナリオだけが、2020年度にプライマリーバランスが黒字に転換するシナリオです。
具体的には、三つの条件がございまして、第一点としては、まず、横軸の経済成長については、名目3%の上げ潮の高成長を達成する。第二点として、消費税については10%まで上げるということをこの試算では織り込んでいます。第三点として、縦軸の社会保障でございますが、年率4%程度のペースで削っていく。この三つの条件を全て達成したとして、ぎりぎり2020年度に我が国が財政再建の入り口のところに立てるということでございます。
現在、消費税増税法案、衆議院で可決をいたしまして、参議院で審議されている途中でございますが、仮にこの法案が成立する方向性ということであれば、私は、消費税の増税までにまだ1年半あるわけでございますので、この1年半の間に、しっかりとした社会保障の合理化と成長戦略、この二つをやっていくということが今後の国民的な課題になるのではないかという考え方をしております。
五ページ目をごらんください。
今の点との関連で一つだけ申し上げますと、経済成長をしただけで財政再建というのはなかなか難しい。具体的には、ドーマー条件、名目成長率が長期金利よりも高い、これを満たしていれば、プライマリーバランスだけを均衡させれば自動的に財政収支は改善するわけでございますが、これを実は日本はほとんど歴史的に満たしてこなかった。
例えば、左のグラフの右上の部分に勝率がございますが、71年からの40年間では、ドーマー条件の勝率はわずか25%しかない。そして、81年からの30年に限れば、勝率はわずか10%、30年間でわずか三回しか満たしていないということですし、また、右のグラフでございますけれども、国際的に見ても、70年代、金利が自由化する前は、ドーマー条件を満たすというのが一般的であった。ただ、80年以降は、金利が自由化しましたので、よほどのバブルでも起きない限りは、このドーマー条件というのは国際的に満たさなくなっているという状況です。
最後に、六ページ目でございますけれども、ここでお示ししたように、私は、日本経済は復興需要に支えられて緩やかな景気の拡大をすると想定いたしておりますが、ただ、四つほどのリスク要因、ヨーロッパの悪化、原油高、円高、そして原発の停止、これらの、言ってみればいろいろなところに地雷が埋まっているような状況でございますので、こういった下振れリスクを勘案した上で、私は、国民経済の観点から見れば、特例公債法案をやはり通していくということが望ましいと。非常に国民経済に多大な打撃が出てくる可能性がございますし、あわせて、マーケットに対して、日本が国の債務を返済していく意思、またそのことに対するマーケットの信頼をしっかりと保っていくという意味で、この法案の成立が望ましい。やや僣越ながら、ある意味で、これは日本の政治のあり方ですとか信頼そのものに関連する非常に大きな問題ではないかというふうに考えております。
私からの御説明は以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○海江田委員長 熊谷参考人、ありがとうございました。
次に、土居参考人にお願いいたします。
○土居参考人(慶應義塾大学経済学部教授) 慶應義塾大学の土居でございます。
本日は、本委員会におきまして、私の発言の機会をいただきましたこと、大変うれしく思っております。お手元にございます参考資料に沿いまして、お話をさせていただきたく存じます。
本委員会で、ただいま特例公債法案が審議されていると伺っております。私の特例公債法案に関する意見は、この二ページ目に書かれているとおりでございます。もちろん、公債発行に依存するような財政状況はできるだけ公債に依存しないようにしていくことが望まれるということではございますが、いろいろな意味で税収が不足する現在の財政状況におきましては、社会保障の給付等々行政サービスのためには、財源を確保するためにやはり特例公債の発行をしっかり法的に担保するということが重要であるというふうに考えております。
もし特例公債法案が成立しなければ、市中における公債発行が円滑にできないということになります。財務省証券という短期的な資金繰りの債券によって資金繰りを何とかつなぐことはできるというような意見もあるやに聞いておりますけれども、やはりそれは、本来あるべき姿ではないという意味において不適切であり、かつ、予算総則において財務省証券の発行上限が定められているということからいたしましても、それが、年度末までもつというような意味で持続可能であるとは私は思いません。その意味でも、1日も早く特例公債法案が成立することを私は望んでやみません。
特例公債法案が成立しないということになりますと、国債市場における疑心暗鬼の増幅によって、突発的な国債金利の上昇というものが予期せぬ形で起こるという可能性もあるというふうに私は思っております。
もちろん、国債金利が上昇するという話は、オオカミ少年とか、いろいろな言い方でこれまでにも言われてきました。私も、財政健全化をしなければいつ国債金利が上昇してもおかしくないということをこれまで述べてきましたが、御承知のように、実際は、国債金利はそこまで上昇したことはありません。
しかし、全く上昇しないで今後も10年間、20年間安泰でいられるというような日本経済、日本財政の状況であるかというと、むしろ日々刻々そうでない方向に動いているように私は思います。そういう意味では、今までなかったから国債金利の上昇は今後もないと言い切れるような状況ではないというふうに私は思っております。
先ほど國枝参考人もお述べになられましたけれども、アメリカの連邦予算の例を引きますと、お手元の資料の三ページですが、昨年の8月の話は國枝参考人のお話にありました。実は、ことしの7月末にアメリカの与野党は既に2013年度に関して六カ月間の暫定予算を可決させる方向で合意しておりまして、ことしは未然に、昨年のような債務上限の危機というものに直面しないように政治的な配慮がなされているということであります。私は、このアメリカの連邦予算の例に沿って、与野党による合意が不可欠なのだろうというふうに思います。
金利上昇については先ほど触れたとおりでありますけれども、四枚目にその資料を載せておりますが、ますます我が国の国内で国債が消化し切れるというような状況ではなくなりつつあるということであります。
国債発行は、御承知のように、毎年のようになされておりまして、国債残高は累増しております。その一方で、高齢化ないしは経済の低迷ということも相まって、家計の金融資産は伸び悩んでおります。そういう意味で、いつ国内で消化できなくなるかわからないというような懸念があります。
もちろん、国内での消化が円滑に行われなくなったということだからといって、いきなり財政が破綻するわけではありません。しかし、国際的な金利裁定がより働く、つまり、海外の投資家が保有する割合がより多くなることを通じて、海外の投資家の影響が日本国債の金利により大きく作用する、その可能性が高まっているという意味では、今までのような状況にはないということだと思います。
それからもう一つ、日本の財政構造について、利払い費の増加が懸念されます。もちろんこれは杞憂であってほしいわけですけれども、もし国債金利が予想以上に上がった場合に、それがどういう形で財政構造に響いてくるかということで、これは財務省の試算ではありますけれども、経済学的な、より精密な分析でも同様の結果が得られておりますけれども、五ページにありますように、仮に、よい形で経済成長が促されて名目成長率が上がるということがあったとしても、自然増収だけでは、残念ながら、利払い費の増加をカバーできないという日本の財政構造があります。
これを避けるには、もちろん、無駄な歳出を削減するということによって収支を改善するということ、それから、税制を改革することによって税収を確保する、その二つが不可欠だろうというふうに思います。
続きまして、七ページに参りまして、ただいま本委員会で審議されております法案の中には、年金特例公債に関する部分もございます。年金特例公債は、まさに、基礎年金国庫負担の財源を確保することとして発行される特例公債ということだと聞いております。
その法案には、その償還財源を消費税とすること、それから償還期限を明示しているという点では、私はこれは高く評価しております。やはり、財政規律を維持するという観点からしても、財源を明示し、かつ、いつまでに償還する、いつまでも借り続けるわけではないということを内外に示すことによって財政規律を維持する姿勢を政府が示すということは重要なことだろうというふうに思います。
さらに、当然のことながら、償還財源を消費税とするということであるとすれば、これは消費税に関連する法案も同時に成立するということが不可欠なわけでありまして、2014年度以降の基礎年金国庫負担の財源確保、さらには年金特例公債の償還財源の確保ということについても、2014年、2015年に予定されている消費税増税ということは不可欠だろうというふうに思います。
もちろん、デフレの中で消費税増税を行うということについては懸念が示されておりますし、増税を行うと経済成長を損ねるのではないかという懸念もあるやに思います。ただ、私が思うには、もはや、デフレが終わるまで増税を待っているわけにはいかないという状況にあるのだろうというふうに思います。
八ページに記しておりますけれども、経済成長も財政健全化も、これをともに両立させていくという方策が求められるというふうに思います。経済成長を先にするということで増税を後にするというほど、日本の財政状況は強固ではありません。むしろ、増税をしてもなお経済成長が損なわれないような方策というものが不可欠であり、経済成長にまつわる成長戦略も重要なことだろうというふうに思います。
デフレの中で増税を行えばもっとデフレが深刻になるのではないかという意見がありますが、私は、そうではないというふうに考えております。
九ページのスライドにお示ししておりますけれども、基本的に、消費税の増税というのは物価を上げるということであります。もちろん、一時的な物価上昇ということですから、消費税増税をしたときだけ物価が上がり、消費税増税をそのまま据え置いた次の年には物価の上昇はなくなるということにはなります。
しかし、今、国会で審議されております消費税増税法案は段階的な引き上げということであり、かつ、しかもそれが予告されているということになりますので、国民には広く事前に消費税が上がるということが知られて、それをもって国民が賢明に消費活動を行うということなのだろうというふうに思います。
そういたしますと、物価が上がる前にある程度買えるものは買っておこう、特に耐久消費財を買っておこうというような動きは出てまいります。そういたしますと、駆け込み需要ということで、消費税増税前にそれなりの需要喚起が行われる。
もちろん、一度限りの消費税増税ですと、消費税が上がった後、いわゆる買い控えということが起こり、そこによる需要の減退というものがあるかもしれません。しかし、段階的に引き上げられるということになりますと、1年半後にまた消費税が引き上げられるということを知っている国民、消費者は、いつまでも買い控えてばかりはいられないということになりますので、当然のことながら、2014年4月から2015年10月までの間に、しかるべき買い控えを抑えるような行為が起こる。別の言い方をすれば、消費の前倒し効果というものが起こるだろうというふうに思います。
もちろん、2015年10月以降には何も消費税の増税については決められておりませんから、その後は、何もしなければ、物価はもとに戻るといいますか、物価上昇率がもとに戻るということになります。私は、そのころまでには、金融政策なども連携しながら、経済成長戦略も連携しながら、デフレが恒常的に脱却できるような体制をこの消費税増税とあわせて同時並行で行っていけば、デフレ脱却という問題は解決するのではないかというふうに考えております。
さらに、日本経済をただいま悩ませております円高の問題との関連で、十ページに記しておりますけれども、円高と消費税増税の関連は、むしろ、消費税増税を含む財政収支改善は円安要因になるということであります。
どうしてかと申しますと、消費税増税を初めとする財政収支の改善策というのは、国債発行額自体を抑制する、減少させるということになります。そういたしますと、日本国債の増発が抑えられる分だけ日本国債の金利上昇圧力が弱まるないしはより低下する要因になるということになりますので、国際的な金利裁定を考えますと、円をドルにかえる、つまり、円が、金利が下がっているということで、ドルにかえる取引がむしろ促されるということを通じて円安になるということであります。もちろん、為替レートはこの一つの要因だけで決まっているわけではありませんから、ほかの要因があるという点は無視できませんけれども、消費税増税と為替レートの直接的な関係ということで申しますと、そういう対応関係があるというふうに思います。
その意味では、円高それからデフレという懸念、当然、日本経済はこれを克服していく必要があるとは思いますけれども、消費税増税が大幅にこれらを邪魔するというようなものではなくて、むしろ共存して、デフレ脱却と経済成長と財政健全化の両立というものが可能になるのではないかというふうに思っております。
私からは以上です。ありがとうございました。(拍手)
○海江田委員長 土居参考人、ありがとうございました。
以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
【中略】
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
大変お忙しい中、緊急の参考人招致ということで御出席をいただきまして、本当にありがとうございます。
私の問題意識を申し上げますと、消費税の増税と財政健全化との関連なんですけれども、増税をしたら必ず財政が改善するのかどうか、これがまず第一点の問題意識です。それから、第二点目は、増税した場合、当然、国内消費にマイナスの影響が出ると思うんですが、その場合、景気の後退を招く、この点をどの程度と理解するか。この二つが私の大きな問題意識であります。
そこで、最初に三人の参考人の方々にそれぞれお聞きしたいんですけれども、消費税率が3%から5%に上がったとき、それ以後の財政状況を見ますと、1996年度の税収総額は90兆円でありました。2010年度は76兆円に減っております。14兆円のマイナスですね。その原因は、私は、消費税の増税、それから負担増によって国民の消費が落ち込み、その結果、税収にマイナスが生まれた、とりわけ法人税と所得税のマイナスが大きかった。したがって、消費税が若干ふえても、マイナスの方が大きいものですから、税収全体として減ったわけであります。
このことについて、三人の参考人の皆さん、どのように認識をされておられるか。そしてまた、今回消費税を増税した場合、また再びそのようなことが起こらないというようにお考えなのかどうなのか。この点、それぞれお聞きしたいと思います。
○國枝参考人 お答えいたします。
消費税の3%から5%への引き上げ、その後の税収への影響ということなんですけれども、これは、確かによくそういう指摘をなさる方がいらっしゃるわけなんですけれども、税収というのは、もちろん税率と課税ベースから決まってまいります。確かに、税収が減っているかもしれませんけれども、それは、別に日本経済が、低迷はしたにせよ、縮小したわけではなくて、実はその間に税率の引き下げが行われているからでございます。
税率が引き下がって減収になっているというのはむしろ当然のことかと思いますので、それをもって消費税を引き上げると税収が減るという議論にはならないのではないかというふうに思います。
○熊谷参考人 御質問ありがとうございます。
今、國枝参考人からお話があったのと基本的には同じ認識でございますが、結局、消費税を上げた後でなぜ税収が減ったかというと、これはたしか、小渕総理のいわゆる小渕減税と言われるものが私の記憶ですと6兆円程度、それから地方への税源移譲が3兆円程度行われていると思いますので、それらのものを全部取り除いて考えたときには、リーマン・ショックの前の段階で、97年の消費税を上げる前の税収のレベルというのは回復していたと私は認識しています。
それから、あと、ちょっと今の御質問の点とは若干ずれるかもしれませんが、私は、消費税を上げることによって日本経済が壊滅的な打撃を受けたかといえば、それは事実関係として少し違うのではないかと思っています。
消費税を3%から5%に上げたときに日本経済が悪くなった主因は、当時の金融システム、山一、拓銀ショックと言われる問題、それからアジアの通貨危機、この二つが主因でございますので、ですから、その意味では、もちろん時期的に少し適正ではないときに結果論として上げてしまったということはあるわけですが、消費税を上げたことによって日本経済が壊滅的な打撃を受けた、もしくは税収が物すごく減ったというのは、これは事実認識として少し違うのではないかと考えております。
○土居参考人 お答えいたします。
日本で消費税を引き上げたという経験は、1997年のときのみであります。1997年のときの状況は、先ほど熊谷参考人もお述べになられたように、やはり金融危機があったということは、これは外せないことだと思います。
そういたしますと、97年のときに消費税が増税されたからその後の日本経済の低迷をもたらしたということではむしろなくて、1997年のときの金融危機によって金融システムが大きく毀損したことによってかなり日本経済がダメージを受けたということによる影響が大きいということだろうというふうに思います。
特に、消費税の増税にまつわる部分は日本では一度しか経験したことがなくて、しかも、不幸なことに、金融危機が起こった1997年にしか経験がないということで、とかくそれがトラウマのように捉えられることがあるわけですが、ヨーロッパ諸国の例を見ても、決して、消費税の増税というものが、ないしは、ヨーロッパ諸国では付加価値税と呼んでおりますけれども、付加価値税の増税が直ちにヨーロッパ経済を疲弊させたというわけではむしろありません。
私が用意させていただきました資料の11ページにその点について触れておりますけれども、もちろん、これはヨーロッパ経済が2000年代にそれなりに好調であったということが背景にありますけれども、決して、消費税率が高いから経済成長が低い、そういう関係ではむしろないということであります。
ほかの政策が伴って初めてこういうことが実現するということではあるのですが、消費税率がほぼ20%前後であるヨーロッパ諸国は、2000年代には、これはリーマン・ショックの影響も含んだ上での経済成長率でありますけれども、実質経済成長率がほぼ3%前後であったということからいたしますと、うまく経済運営を行うことによって、それなりに高い消費税率と共存して税収を確保するということはできるのではないかというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 ありがとうございました。
私は、消費税の増税プラス社会保障、とりわけあのときは医療の負担が急に上がりまして、消費が低迷したというのが一つの要因だと思います。非常に大きな要因だと私は思っております。もちろん、金融危機の影響もありましょう。それから、法人税の引き下げというのもあったと思うんです。
したがって、今我々が考えるべきことは、消費税の増税によって消費を冷やし、低迷させるということではなく、むしろ、税収ということを考えるなら、今まで減税し過ぎてきた法人税の方を見直す、あるいは、高額所得者に対する応分の負担を求める、無駄な大型公共事業を見直す等々、財政全体の財源の確保をどう考えるか、その質の面をよく検討する必要があるというふうに思っております。したがって、今回、法人税の税率を下げるということとセットに消費税増税ということをやることは、これはまた同じ道を歩んでいるな、私はそういうふうに感じているところでございます。
さて、それでは次に、國枝参考人にお聞きします。
資料の最後の九ページのところですけれども、この特例公債の問題ですが、毎年制定するのではなく、当面の間、特例公債を認めるような法律の制定も検討されるべきではないかという御提言をいただきましたが、予算は言うまでもなく単年度主義でありまして、その予算の裏打ちとして、税収等と国債の発行、こういうものが歳入面としてあるわけですね、ワンセットであります。
これを、借金の法律だけが、一度決めたら数年間、どの程度かはわかりませんけれども、それでできますよ、こうなりますと、一つの問題は、財政上の規律が完全に緩んでしまって、歳出に見合って国債は幾らでも発行できるというようなことになりますと、これは大変なことになるんじゃないか。それから、歯どめは一体どのように考えているのか。この点、お聞きしたいと思います。
○國枝参考人 お答えいたします。
御指摘のように、私、説明の中で、数年間にわたる形の特例公債の発行を認めてはどうかということを書かせていただきましたが、ちょっと説明をつけ加えさせていただきますと、もちろん、その前提としては、今後の財政再建のあり方につき、きちんとした姿勢を示して、どうやってその特例公債の発行を今後減らしていくのかということを示し、それに沿って財政運営がなされていくということが当然の前提でございます。それなしでは、もちろん財政規律がどうなるのかという御懸念は出てくるかと思いますので、私の提案の中では、あわせて、財政再建の姿をきちんと示していくということも含む必要があるというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 熊谷参考人にお聞きしますけれども、大和総研のレポートについては、私もいつも興味深く拝見をして、国会の質問でもそれを引用させていただいているわけですけれども、例えば、ことしの税制改正関連で試算が発表されております。
昨年12月16日のレポートですけれども、先ほども少し御紹介があったと思うんですが、家計を見まして、2011年と2015年を比較されているわけです。五類型の家計を想定しまして、その実質可処分所得、これがどうなるかという試算をされているんですね。それによりますと、全ての世帯でマイナス4・78%から9・23%可処分所得が落ち込むというふうに試算されているわけです。これは、今回の一体改革というものを実行したらそういうふうになってしまうということなんですね。これは当然、GDPを押し下げてマイナス成長という方向につながっていく危険性があると思います。
そこで、参考人がお示しいただいた四ページのシナリオですけれども、これを見ますと、社会保障の削減というのがマイナス4%のとき、そして、消費税の増税がもちろん前提になっていて、これをやりますと、当然家計消費が冷えますので、景気を後退させる要因になりますよね。それなのに、なぜ名目成長率が3%、実質成長率2%、こういうことが想定できるのか、この点がよく理解できないんですけれども、説明をしていただきたいと思います。
○海江田委員長 もう持ち時間がほとんどありませんので、短目に。
○熊谷参考人 それでは、端的にお答え申し上げますと、基本的には、要するに非ケインズ効果的なものが一部で働くだろう、そういうことを一つは考えております。そのあたりは15ページのところにございますが、今まで将来不安で貯蓄率が上がってきた、その部分で、消費が中長期で活性化する部分があるということ。加えて、日本銀行の政策ですとか政府のサプライサイドの政策がうまく軌道に乗ればそういうことも想定し得る、そういうふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 ありがとうございました。
将来不安が解消されるかどうかという点については、私は見解が違いまして、政府の今の政策をやると将来不安が広がると思っておりますので、そこは見解の違いということです。
ありがとうございました。