2010年04月20日 第174回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【567】 - 質問
「金融危機再発防止のため必要な措置を」日銀総裁に質問
2010年4月20日財務金融委員会で、佐々木憲昭議員は金融危機防止策について白川方明・日本銀行総裁に質問しました。
佐々木議員は、今回の金融危機について、アメリカで1930年代の大恐慌以来、銀行業務と証券業務を分離してきたグラス・スティーガル法を廃止するなど、規制緩和を進めてきたことに要因の一つがあると指摘しました。
そのうえで、アメリカでは現在、自己勘定取引の制限や金融機関の事業規模・範囲の制限などを含む金融規制策(ボルカー・ルール)が連邦議会で審議されていることにふれ、「日本でも具体的な規制策を考えるべきだ」とのべ、白川総裁の見解を求めました。
白川総裁は、金融危機の要因について、「規制緩和により、金融機関や市場参加者が積極的なリスクテイク(損失を覚悟して利益を求める取引)をおこなうきっかけの一つとなったのは事実だ」と答え、私の指摘を認めました。
そのうえで、「アメリカのボルカー・ルールを関心を持って注視している。日本に即した規制を考えたい」と答えました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
まず、この間のアメリカ発の金融恐慌、これは過剰生産恐慌に連動したと私は思いますけれども、実体経済に非常に深刻な打撃を与えました。景気の現局面をどうとらえているか、それから、この危機から脱したと見ることができるのかどうか、まず最初にその認識を伺いたいと思います。
○白川参考人(日本銀行総裁) 2008年秋のリーマン破綻を契機にしまして、世界的な金融危機が発生し、世界経済は急速に大幅に悪化しました。これに対し、各国の政府、中央銀行は、公的資本の注入や潤沢な流動性の供給などさまざまな対策を矢継ぎ早に講じてまいりました。こうした措置の効果もありまして、金融市場は安定を取り戻し、世界的な金融危機は、これ自体は収束をしたというふうに思います。拡張的な財政政策や金融緩和策の効果などから、世界経済は急速な悪化の局面を脱し、現在は緩やかな回復を続けているということでございます。
議員御質問の危機との関係でいきますと、いわば急性症状としての金融危機は収束をしたということでございます。ただ、まだ世界経済、なかんずく先進国の方は、自律的な回復力は乏しいというふうに思っております。そういう意味では、危機の後遺症といいますか、あるいは危機の前のバブルの後遺症というものがまだ経済には残っているということでございます。
現在、新興国は力強く拡大しておりますので、我々としましては、この新興国が力強く拡大している間に先進国が持続的な成長軌道に復帰できるかどうか、それを実現することが大きな課題だ、そういう局面だと認識しております。
○佐々木(憲)委員 先進国が自律的な景気回復の軌道になかなかはっきりとは乗り切れないといいますか、そういう状況だということであります。
一つの、日本としてのポイントとしては、内需の拡大、とりわけ私は家計消費の動向というのがその中でもポイントになると思いますけれども、先ほどの総裁の報告の中で、企業部門の好転が家計部門に波及するにつれて我が国の成長率も次第に高まってくる、こういうふうにおっしゃっておられます。しかし、なかなか実態はそういうふうになっていないし、また、これまでも、企業部門の回復が家計部門に波及しないというのが実態だったと思うんですね。
ことし3月の日銀の金融システムレポート、これを拝見いたしますと、こういうふうに書いています。「製造業の経常利益は大幅に落ち込んだ。その後、全規模・全業種で、主として人件費などのコスト削減が事業計画を上回るペースで実施されてきた。この結果、企業は利益を捻出できるようになっている。」と。
つまり、コスト削減で、いわば労働者の賃金を抑えた、あるいは非正規雇用への転換というのが今までずっとありまして、派遣切りというものが行われた。その影響というのが非常に深刻だと私は思うんです。内需を縮小していく一つの要素になった。確かに企業の利益は回復しているけれども、全体としていいますと、内需低迷の要因というものは依然として大きなものがあるというふうに思うんです。
この点についてはどのような認識を持っておられるか、または見通しをどう考えておられるか、お聞きしたいと思います。
○白川参考人(日本銀行総裁) お答えします。
日本の現在の経済、あるいは他の先進国もそうですけれども、リーマン破綻後のショックによって、特に大企業製造業を中心に、まず大きな世界的な需要のショック、落ち込みが発生しました。そうした事態に対処するために、企業は、さまざまな経費の圧縮、この中にはもちろん人件費も含まれますけれども、損失補てんに努めました。その結果、固定費が圧縮された結果、一方で売り上げが回復し、企業収益は徐々に回復してきておりますけれども、これが家計部門にどう波及してくるかという問題意識は、私ども全く同じ認識を持っております。
それで、労働市場の統計を見てみますと、賃金上昇率あるいは有効求人倍率、それから雇用者数を見てみますと、足元の数カ月間は、それ以前のずっと下がってくる局面から、少し局面が変化してきて、少しいい方向への変化が見られるようにはなっています。ただ、いずれにせよ、現在レベルが低いことはそのとおりでございます。
これは、実は日本だけではなくて、経済がグローバル化している結果、今、先進国がともに悩んでいる点でございます。アメリカは今、失業率自体も10%に近い高水準でございますけれども、賃金がやはりなかなか上がってこない。これは、グローバルな競争が強くなってきている、その結果、なかなか賃金が上がらないということで、今、アメリカではジョブロス・リカバリーということが言われております。
ただ、そういうふうな流れが一方であることも事実ですけれども、しかし、製造業大企業、あるいはグローバル経済の改善がやがて日本経済にしみ込んでくることも事実ですし、一方で、グローバルな競争が続くことも事実でございます。大きな流れとしては、徐々に家計部門に波及をしてくるというふうに思っておりますけれども、ただ、そのテンポは、現状ではまだ緩やかだというふうに判断しております。
○佐々木(憲)委員 今のお話を聞いても、やはり、これは日銀そのものの守備範囲を超えた話になりますけれども、内需拡大の中心である家計部門をどのように支援していくかというのは、財政、税制政策の中では非常に重要なポイントになるだろう。それから、大企業、大きな会社の雇用に対する姿勢というものをやはり問い直さなきゃならないというふうに私は思っております。
さて、このアメリカの金融危機の原因ですけれども、私は、金融の規制緩和というのがこの10年あるいはそれ以前からかなり進行していた、それが背景にあったと思うわけです。例えば、金融と証券の分離というものが非常に骨抜きになってしまうというような問題も大変大きな要素としてあったと思っております。
1930年代の世界恐慌を教訓につくられたのがグラス・スティーガル法でありますけれども、これは、銀行が証券業務を行うことによって、株式投機といいますか、これがどんどんあおられていった、それから不公正取引の温床となった、これは非常に大きな深刻な教訓だったと思うわけです。その結果、株価が暴騰して急落するという御承知の事態が生じたわけです。また同じことを繰り返しているんじゃないか、こういう指摘があるわけです。
この間の規制緩和を振り返りますと、やはり、銀行と証券の壁というものがどんどんどんどん下げられている。いわば銀行と証券が一体として運営できる形態が容認され、いわば巨大な複合金融機関と言われるような巨大な金融機関が誕生する、それが非常に大きな力を持つようになった。つまり、その巨大な力を持った金融・証券にまたがる資本というものが全体の投機的な動きにさらに加速をしかけていく、こういうことがあったと思うんです。
例えばサブプライムローンのように、銀行が債権を証券化する、その証券を今度は転売して、それをもとにして新しい金融商品をつくる、さらにほかのものと組み合わせて、次々とそういう新しい商品を派生的な形で生み出していく。そこに今度は預金者の資金も回されていくような、そういう状況がつくられたのではないか。
日本は、日米の金利差をもとにして、円キャリートレードというようなものが活発に行われて、アメリカに資金が流れる。そういう形でバブルがアメリカを中心に巨大な規模に膨れ上がっていく、こういう実態が生まれたのではないか。
したがって、これに対してどう対応するかというのがやはり今問われていると思うわけでありますが、この金融恐慌を引き起こした要因としてどういうものがあったと総裁は認識をされているか、まずそこをお聞きしたいと思います。
○白川参考人(日本銀行総裁) お答えいたします。
今回のグローバルな金融危機は、2000年代半ばの数年間にかけまして、世界的に、実体経済、金融の両面でさまざまな不均衡が積み上がったということがまず基本的な背景だと思います。
よく信用バブル、クレジットバブルという言葉が使われますけれども、一言で言いますと、このクレジットバブルが拡大したということでございます。問題は、なぜこのクレジットバブルが拡大したのかということでございます。これは、原因についていろいろな整理の仕方が可能でございますけれども、私自身は三つの要因に分けて整理をしております。
第一は、2000年代半ばにかけまして、世界的に物価上昇率も低い、成長率も高い、金利も低いという極めて良好なマクロ経済環境が続きまして、そうした環境が続きますと、人々のリスク認識は甘くなってくるということが生じました。その結果、さまざまな経済活動の行き過ぎが生じました。これが第一点でございます。
それから第二点目は、さまざまな金融のイノベーションが進み、新しい金融商品が広がるもとで、金融機関による金融商品の価値とリスクの適切な評価やあるいはディスクロージャー、リスク管理などが十分に機能しなかったということでございます。これは、第一の理由とも関連した話でございます。
それから第三番目は、こうした状況に対しまして、金融資産や取引のリスクの捕捉やマクロ的な金融システムのリスクの評価などの点において、規制、監督体制の面でも枠組みが不十分であったということだと思います。
議員御指摘のさまざまな金融の業務緩和あるいは規制緩和でございますけれども、これは、過去10年間、さまざまな規制緩和が行われまして、これが金融機関や市場参加者が積極的なリスクテークを行うきっかけの一つになったことは事実だろうというふうに思います。
ただ、金融危機のより重要な要因としましては、そうした規制緩和なり、新しい商品が生まれる中で、それぞれのリスクを適切に評価するということがやはり不十分であった。これは、良好な経済環境が続いたこともありますし、そういう中でやはり人々が非常に無警戒になったということだと思います。
業際規制との関係で一点だけ申し上げますと、グラス・スティーガル法によって、アメリカは投資銀行業務とそれから商業銀行業務を分けたわけでございます。
今回、どういう金融機関が破綻したかということを見てみますと、さまざまなタイプの金融機関が破綻しています。まず、伝統的な投資銀行であるベアー・スターンズあるいはリーマンが破綻しました。それから、伝統的な商業銀行の一つである、例えばイギリスでいいますとノーザン・ロックが破綻しました。それから、政府系金融機関であるGSEが実質的に破綻状況になったということでございます。
このことが示しますように、これは、業務規制が重要でないということではもちろんございませんけれども、しかし、より重要なことは、リスク管理についての体制、認識だと思います。そういうことを申し上げた上で、どのような業務規制がいいのかということについては、実は今また先進国の間でいろいろな議論が起きております。
私としては、そうした議論も十分にフォローし、我々としてどういうことを考えないといけないのかということについて、今後とも検討していきたいと思っています。
○佐々木(憲)委員 そういう状況のもとで、どのような規制、監督というものが求められているか、これは国際的なさまざまな議論があると思いますが、例えばアメリカで最近焦点になっておりますのはボルカー・ルールと言われるものであります。これは、活動範囲の制限、それから規模の制限、大きな二つの柱があります。
例えば、活動範囲の制限という点でいいますと、銀行及び銀行を傘下に保有する金融機関について、以下を禁止するということで、二つあります。一つは、ヘッジファンドあるいはプライベート・エクイティー・ファンドの所有、投資、スポンサーとなる、そのことを禁止する。それから二つ目は、顧客サービスと関連のない、自己の利益のための自己勘定取引、これを禁止する。これは非常に大胆な対応だと私は思うのです。
それから、規模の制限という点でいいますと、米国金融セクターにおける経営統合を制限する。大規模金融機関に対し、預金の市場シェアに係る既存の制限、これは10%の規制がありますが、それに加えて、負債の市場シェアの過度の拡大に、より広範な制限を課すというような提案がなされています。
これは、上院を通ったんでしょうか、これから下院の審議が始まるというようなことでありますが、そういうアメリカの新しい規制、監督政策、これは、我々としても大変参考になりますし、日本としてもそのような具体的な対応策というものを金融当局あるいは政府としても考えるべきじゃないかと私は思うんです。
具体的に、例えば、銀行と証券の分離という問題、これを今後どう考えるか、それからヘッジファンド等の規制、あるいはそこに対する金融の関与というもの、これに対する監督と規制というもの、これをどうするか、最後に具体的な方策としてその点をお聞きしたいと思います。
○白川参考人(日本銀行総裁) 今、議員が御指摘になりました、アメリカのいわゆるボルカー・ルール、あるいはそれに関連した金融機関の業務の規制をどうすべきかという議論は、私どもも非常に関心を持ってフォローしております。
まず一般論から申し上げますと、いろいろな金融のルールについては、これだけ金融がグローバル化していますから、国際的な整合性ということも意識する必要があります。しかし同時に、それぞれの国はやはり状況が違っていますので、日本の状況に即した規制のあり方も考えていく必要があるということでございます。
今回、米国の金融危機を見て、我が国を見た場合に、幾つかの論点が挙げられるように思います。
第一は、金融改革を行う上で、金融機関がやはり資本基盤の充実と流動性リスクの適切な管理を図っていくことが重要であるということでございます。この点については、昨年12月にバーゼル銀行監督委員会から、自己資本規制と流動性規制に関する包括的なパッケージ案が公表され、現在、その具体化に向けた作業が進められております。
私どもとしては、マクロ経済との関係も十分踏まえた上で、こうした規制の見直しということは一つ大事なことだというふうに思っております。
それから第二番目に、これは先ほど業務規制に関連して申し上げたこととも関連しますけれども、金融機関あるいは当局は、金融システム全体が抱えているリスクをしっかり認識することがやはり大事だというふうに思っております。
その面で見ますと、今回はやはりマクロ的な視点が弱かったなという感じがします。やはり実体経済と金融システムは相互に影響し合います。そうしたことも踏まえた上で、日本銀行として、あるいは規制監督当局として、しっかり対応していく必要があるというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 以上で終わります。ありがとうございました。