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税制(庶民増税・徴税) (証券優遇税制)

2010年02月26日 第174回 通常国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【556】 - 質問

参考人質疑 低所得者への手厚い給付や証券税制の是正を

 2010年2月26日、財務金融委員会で、国税関連法案に対する質疑、参考人質疑が行われました。
 佐々木憲昭議員は、所得格差を是正するための税財政のあり方について、参考人に意見を求めました。
 森信茂樹・中央大学法科大学院教授は、厳しい世界情勢のなかで、経済効率と公平性のバランスをとった税制が必要だと主張し、格差・貧困を解決するためには、若者の低所得者層への援助を手厚くすべきだと強調しました。
 土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授も、失業給付などの社会保障制度や所得への累進課税の強化など、経済安定化のための仕組みを埋め込むことが必要だと指摘しました。
 佐々木議員は、株の譲渡益や配当への課税が半分の10%になっている証券優遇税制を「元に戻すべきではないか」と質問。
 水野忠恒・一橋大学院法学研究科教授は、「同じ意見だ」「せめて20%に戻すべき」とのべました。
 この点で、土居氏も「金融・所得一体課税で税率をそろえていくという意味で、軽い税率をなっているものを改めていくのは重要なことだ」と述べました。

議事録

○玄葉委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 引き続き、内閣提出、平成22年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案、所得税法等の一部を改正する法律案、租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律案の各案を議題といたします。
 本日は、各案審査のため、参考人として、中央大学法科大学院教授森信茂樹君、一橋大学大学院法学研究科教授水野忠恒君及び慶應義塾大学経済学部教授土居丈朗君、以上三名の方々に御出席をいただいております。
 この際、参考人の皆様に一言ごあいさつを申し上げたいと思います。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいというふうに存じますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、参考人各位からそれぞれ15分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますと、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いをいたします。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
 それでは、まず森信参考人にお願いいたします。
○森信参考人(中央大学法科大学院教授) 中央大学の森信でございます。よろしくお願いいたします。
 それでは、私の方から、税制改革につきましての意見を述べさせていただきたいと思います。お手元に資料をお配りさせていただいておりますので、基本的にはこれに沿ってお話をさせていただきたいというふうに思います。
 私は常々、税制を考えるに当たって二つの大きな柱があるというふうに考えております。
 一つは、政府の規模をどの程度にするかという観点からの税制改革、これは基本的には受益と負担、受益が大きければ負担もそれに伴って大きくなる、あるいは受益が小さければ負担も小さくてもいいじゃないかというふうな議論だと思います。
 もう一つは、そういう受益と負担あるいは政府の規模と離れまして、今のグローバルな経済社会の中で我が国の経済社会がどのような問題を抱えていて、それに対してどういうふうな税制を考えていくべきか、これは私の言葉で言えば、あるべき税制はどうあるべきかというふうなことだと思います。
 つまり、財源調達機能としての政府の規模としての税制改革の問題と、それからグローバルな世の中に的確に対応していくための税制のあり方、この二つを基本的には分けて考えながら、最後には、同じ税制ですから一緒に考えていくというふうなことが必要ではないかというふうに思います。
 こう申しましたのは、世の中の議論がどうしても、税制といいますと消費税の議論につながりまして、そこで実は議論がとまってしまうということが過去往々ありました。そういうことから、あるべき税制の姿というものは消費税の増税ということと切り離して考えて、最後にはもちろん、同じ税制ですからあわせて考えていくというふうにすべきではないかというのが私の基本的な立場でございます。
 今資料をお配りしておりますが、一ページ目でございます。
 そういった状況の中で、では我が国としてどういうふうな税制を考えるべきかといったときに、我が国は既にグローバルな経済の中に取り込まれているということの認識が重要だと思います。グローバルな経済といいますのは、わかりやすく言えば、人も物も金も、さらに今、企業の価値とも言えるかもしれませんが無体財産権、そういったものも自由に動き回る、こういった経済社会の中で我々が活動しているんだということでございます。
 では、そのグローバルな経済のもとでどんな問題が起きているかということで、課題を五つ整理させていただきました。
 一つは、所得格差の拡大と貧困問題。これはやはり、冷戦後の国際競争の激化の中で中進国から安い商品が先進国に入ってくる、そうすると低スキルの労働代替が起きまして、どうしても企業としては、正規雇用を非正規雇用にしていったりということで対応していかざるを得ない、そういう中で所得格差の拡大と貧困の問題が出てきているということです。
 それから二番目は、税の引き下げ競争。これも特にヨーロッパで激しいんですが、冷戦後の、特にEUの域内が拡大しましたから、かつての東欧圏、こういったところが法人税率を引き下げて、ドイツとかフランスとかから企業を呼び寄せて、そこで雇用を確保しよう、あるいは所得税で稼いでいこうというふうな形での法人税の引き下げ競争が激化しております。これは後で申し上げたいと思います。
 それから同時に、今度は高所得国の企業の行動として、法人所得を低税率国へ移転していくという、これは決して非合法という形ではありませんで、むしろ合法な、いわゆるタックスプランニングとしてそういったことが行われております。例えば、低税率国に持ち株会社をつくって、そこにいろいろな世界各地に散らばる法人の収益を集約させていく、そういう形でのタックスプランニングが進んでいるということでございます。
 それから三番目でございますが、個人の富裕層の所得、これが租税回避地、タックスヘイブン国ですね、こういったところにやはり回避が進んできている。
 これは目に見えませんので、なかなかこれだというふうにわからないんですが、例えば有名な例としまして、リーマン・ショックのときに世界的に問題になりましたのは、タックスヘイブン国にたまったさまざまな膨大な金融資産、資金が、いわゆるサブプライムローンの証券化した商品に回って、それがバブルを大きくしたというふうなことがあって、それ以降、タックスヘイブン対策というものが、単に今まではOECDの租税委員会のレベルで議論されておりましたが、その後、サミットとかそれからG20とかそういったところで、国際的にタックスヘイブン対策を共通して講じなければいけないじゃないかというふうな状況になっております。
 それから四番目に、そういうような状況の中で、しかし政府は、高齢化に伴い増大する社会保障費用というものを確保しなければいけない、それと同時に経済の活力も保持しなければいけないという難しい選択を迫られているわけでございます。
 それから最後に、五番目に、これは今の高齢化のための、社会保障のための財源確保というだけではなくて、さらに穴があいた危機的な財政の赤字への対応としての税収の問題が出てきているというふうなことでございます。
 それでは、次のページに行きたいと思いますが、次のページは、そういった状況のもとで税制はどうあるべきか。これはやはり日本独自で考えていく分野もなきにしもあらずと思いますが、基本的にはやはり世界の税制の大きな流れの中で考えていかなければ、一国だけ異なった税制を構築していくということはなかなかできにくい状況にあると思います。
 ここに、今の五つの問題に対して私なりの考え方を整理させていただいております。
 一番最初は、格差、貧困問題。これにつきましては、「税制と社会保障の一体化による低所得者対策としての勤労税額控除」と書いてありますが、いわゆる給付つき税額控除でございます。そういう意味で、民主党の考え方であります所得控除から税額控除へ、税額控除から給付つき税額控除へ、さらには手当へというこの考え方の流れにつきましては、私は全面的に賛成するものでございます。
 ただ、この給付つき税額控除というのは、単にお金を与えるという思想ではございませんで、ワークフェアという、働くことによって給付がふえていく、働くことによって老後の生活を豊かにしていく、そういった政策でございまして、これはよくイギリスで言われておりますが、セーフティーネットからトランポリンへ、つまり政府は、上からこぼれ落ちてくる人を受けとめるためのセーフティーネットを張りめぐらすというだけではなくて、というか張りめぐらすのではなくて、むしろ一度、こぼれ落ちたと言うと失礼ですが、そういった人たちをもう一度市場経済に押し出していくというトランポリンの役割を持つべきだ、その一つのツールが給付つき税額控除、勤労税額控除だというふうに考えております。
 そういう意味で、私は所得税の累進機能の再構築が必要だというふうに考えておりますが、それは、この給付つき税額控除で、今貧困、格差の問題で困っている低所得者層への対策として、ここを政策として補うことによって、全体の累進機能の確保あるいは活用を図るべきだというふうに考えております。
 それから二番目の、法人税の引き下げ競争でございますが、これは私は、課税ベースの拡大とセットで日本も法人税率の引き下げをする、つまり税収は中立で、税率を下げる、しかし課税ベースを拡大していくということが必要だというふうに思います。これにつきましては資料をつけておりますので、簡単にちょっと資料だけ見ていただきたいと思います。
 三番目、これは全部OECDの分析をとりましたので英語で恐縮ですが、法人税の表面税率、法定税率、この推移でございます。この20年に大体十数ポイント、法人税の表面税率がどんどん下がっております。特にこの10年で大体10ポイント下がったという分析があります。日本も、この20年をとれば下がってはいるんですが、この10年では下がっておりません。今、日本とアメリカだけが40という水準にありまして、この図にありますのは2006年でございますけれども、今ドイツは40から10ポイント下げて30になっております。
 次のページをお開きいただきたいんですが、実は表面税率を十数ポイント下げているんですが、特にこの10年で10ポイント下げておりますが、法人税収のGDPに占める割合は落ちていない、むしろ上がっているんですね。ここに書いてありますが、94年と2004年を比べますと、法人税収のGDP比はむしろふえております。
 それから、次のページでございますが、今はGDP比をとりましたが、今度は税収に占める法人税収の割合でございます。これもこの10年でふえております。つまり、税率を引き下げたけれども、結果的に法人税収はGDP比でも税収の中に占める割合もふえているということが見てとれるわけです。
 それで、最後のページでございますが、では、何でそんなことが起きるのかということで、これはOECDの分析を私なりに整理をしたものでございます。このGDP分の法人税収というものを三つに分けまして分析をしております。
 結論だけ申し上げますと、一つは、一番下の三行でございますが、税率の引き下げ競争といっても、各国とも課税ベースは広げているということでございます。特にドイツとかイギリスとか、それから、ついことしスウェーデンが下げましたけれども、これも基本的には課税ベースを広げて税率を下げていますから、基本的には税収は傷んでいない。傷んでいないどころか、二番目、三番目、特に個人から法人へのシフト、あるいは三番目が重要でございますが、個人のアントレプレナーシップというものがわき起こりまして、新規起業というものが起きて、それが結果的には増収につながっている。言ってみれば、活性化が原因になっているということでございます。
 つまり、この三つが合わさって先ほどのような法人税のパラドックスと言われているものが起きているので、私は、これはもう少し先の話かもしれませんが、こういった法人税率を、課税ベースを広げながら下げていくという改革が必要だというふうに思っております。
 ちょっと前に戻りますが、三ページ目でございます。三枚目の先ほどのところでございます。
 法人税の後の租税回避の問題は、これは所得税の問題ですが、各国は課税ベースを拡大しつつ所得税の最高税率を引き下げてきたというふうな動きがあります。それから情報交換協定の締結、租税回避の防止措置。ただ、これは幾ら法律で決めても、現実が先に行くということがあります。なかなか難しい問題だと思います。
 四番目、高齢化に伴う社会保障費の増大。これは、先進各国はやはり今、所得税というよりは消費税を中心に引き上げるという対応をしてきております。
 以上を総合しますと、税制としてあるべき姿というのは、やはり公平というもの、これと効率というもの、活力とか成長とかと言ってもいいかもしれませんが、これをうまくバランスをとりながら世界各国がそれなりにやってきている。こういった流れの中で、我が国も税制改革を考えていくべきじゃないかというふうに思っております。
 とりあえず、以上で私の話は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
○玄葉委員長 ありがとうございました。
 次に、水野参考人にお願いいたします。
○水野参考人(一橋大学大学院法学研究科教授) ただいま御紹介いただきました水野でございます。15分ほどお話をさせていただきます。
 今回のテーマは専ら税制改正法案ということで、私も法案をいただきまして、特に例年にも増して非常に分厚いといいますか、本当に昔あった電話帳ほどの改正法案と対照表、この委員会にお持ちしようかと思いましたけれども、やはり多分見ることはないだろうと思いまして、失礼させていただきました。
 意見陳述項目としてごく簡単なことを挙げております。専ら、今回の税制改正の目玉のようなものについてそれぞれお話をさせていただきたいと思っております。
 最近は非常に便利になりまして、例えば平成22年度税制改正のポイント、いわゆる税制改正大綱、これの後ですけれども、概要がホームページから拝見できます。さらに、それのポイントということでもう少し易しい形のもの。それから、これはもう少し後になりますけれども、6月の時点で「改正税法のすべて」といった非常に詳細なものが出てまいりますけれども、それまで待っているわけにいきませんのでこの場でお話をさせていただきたいと思います。
 非常に全般的に申しまして、今、森信参考人が税制を取り巻く状況など幅広いお話をいただきましたが、私の方は、もともと租税法というものを専攻にしておりますので、多少細かいところに目が参りましたので、それに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
 ただ、全体的な印象でございますけれども、とにかく歳入が35兆という、ちょっと今までには考えられないような税収の落ち込みです。これは、やはりリーマン・ショック以来の経済的な不況、世界的なものですけれども、日本もひどくそれに影響されてここまで来ているなという印象を持っております。
 例年ですと、例えば法人税率を下げるとかそういうことは必ず議論になるんですけれども、これは、いわば今日のこの状況を全般的に検討して対応していかなければいけませんので、税制だけ取り上げてということもなかなか難しい問題であろうかと思っております。
 ただ、税制について言えますことは、団塊の世代がどんどん退職されて年金世代に入るということもございますし、社会保障全体の伸びということが必要になってまいります。それを賄うために、本来税制が中心にあるべきですけれども、とうとう50%にも満たない状況になってしまいました。しかしながら、いずれにしましても、これについては既に首相も言われていることですけれども、抜本的な改革というものが必要になってくるであろうし、問題はそのタイミングがどの時期であるかということでございます。
 とにかく、租税というのはそもそも財源の調達手段である。それと並んで、公債ですとか、ごくわずかには公営事業といったものも考えられましたけれども、いずれにしましても、財源調達機能をどうやって直していくのかという問題がございます。
 それから、最近は格差社会ということ。これは10年ぐらい前の税制調査会の答申などを見ますと、大体、我が国では世帯による格差というものがよその国に比べてみますと割に平準化している、こういうような書きぶりであったんですが、最近は、非常に格差、特に低所得者の方が増加して、これはリストラの問題からも出てまいりますし、また失業率といったもの、非常に大きな問題を抱えておりますので、その中で租税の所得の再分配機能、これをやはり重視せざるを得ないということでございます。一般的に申しますと、いわゆる支え合うような社会を目指していかなければいけないということ、これは当然ですけれどもお話をさせていただきました。
 ちょっとぐずぐずしていたら時間がなくなってまいりましたので、論点だけ申し上げます。
 二番目が個人所得税ですが、これは非常に課税最低限の問題が、やはり所得再分配機能から考えた場合に一体どのあたりに置くべきかという問題。
 これは最近の政策的な手段、手法としまして、税制のみでなくて直接的な給付、子ども手当といったもの、こういうものが出てまいりましたので、当然税制に対しても見ていかなければいけないのかと。既に改正案に上がっておりますけれども、年少扶養控除といったもの、これをまず削っていく。それから、もう少し上の世代になりますと高校生の授業料を無償化する、そういうふうなことになりますので、当然、対応としまして特定扶養控除の方も高校生の世代のものはもとに戻してという形になってまいります。
 政策的な手法としてなかなか、税制、一方的に徴収するものと、それから最近目立ってまいりましたのがいわゆる給付である、この二つをどうやって組み合わせていくのかということが大きな課題ではないかと思います。当然ですけれども、直接的な給付というのは受給者にとって非常に影響が大きいので、それだけ反応も大きいなというふうに考えております。
 こういうようなことでございますが、ちょっと角度を変えて今度は法人税です。
 非常に技術的なお話になって恐縮ですけれども、グループ税制というものが改正案に入っております。従来ですと、いわゆる親会社と子会社と取引した場合にどうするかということで、例えば国際課税の面では有名な移転価格税制で、親子会社といえども適正な時価で取引をしないとその分は課税される、これが国際的なルールです。これは、いわばどっちの国で税収を確保するかという国と国の競争あるいは協調の問題がありますのでそういう問題が出てまいりますが、我が国の国内の親子会社の取引については、簡単に言いますと、これはこの時点では見ないということが今度の改正案になっております。非常にこれは興味深いものでございまして、連結納税を選択した法人は、既に親子会社というものは一体としてとらえられておりますけれども、選択をしていないいわば100%親子会社の場合には、これについて今回大きな改正が入ったということでございます。
 時間がなくなりましたのでまた飛ばします。
 それから、私が非常に関心を持ちましたのは租税特別法の透明化法案というものでございます。これは数年前から既に民主党さんの方から出ておりましたが、今回、これが法案になって、成立しますと非常に重要な法律になるのではないかと思っております。
 こちらは、実際に租税特別措置が利用された場合に、年度末になってどれだけ本来の税収が失われているか、それを公にするものですので、納税者の方にどういう申告書を出させるか、そちらの検討も当然なされていると思いますけれども、それを最終的に集めて公表する。
 これと関連したものに、租税歳出予算というものが世界的にございます。これはもともと、スタンレー・サリーさんという租税法の世界で非常に先駆的で、なおかつ独創的な考え方をされる先生がおられましたが、サリー教授が、ケネディ政権になったときにケネディ大統領から直接、財務省のアシスタント・セクレタリーですね、アシスタント・セクレタリー・フォー・タックスポリシーと書いてありましたが、いわゆる租税政策担当の財務次官補になられまして、これがきっかけでございます。非常に公平な課税というものを考えておられたサリー教授が、租税歳出予算というものを考案されました。
 我が国の今回の租税透明化法案の方は、結論としてどれだけ失われたかということですけれども、サリー教授が考えられたのは、いわば見込みとしてどれだけの税収が失われるだろうか、こういうようなものでありました。非常にこれが全世界にといいますか、特にOECD諸国に採用されて、現在ではどの国にもこの租税歳出予算という考え方が定着してきているところでございます。
 我が国でも、これは解説に、諸外国と比較しても先進的な取り組みである、こう書かれてありますが、そのとおり、こういった公平の観点から租税特別措置を見直すという試みについて、これはぜひとも進めていただきたいと思っております。
 時間になってしまいましたので、まだお話ししたいことはございますが、これで私のプレゼンテーションは終わりにさせていただきます。どうもお粗末で失礼いたしました。(拍手)
○玄葉委員長 ありがとうございました。
 次に、土居参考人にお願いいたします。
○土居参考人(慶應義塾大学経済学部教授) 皆様、こんにちは。慶應義塾大学の土居でございます。
 きょうは、このような形で皆様の前でお話をさせていただくことを大変うれしく思っております。お手元に横長の参考資料を御用意させていただきましたので、これに沿いながらお話をさせていただきたいと存じます。
 この委員会では、特例公債法、それから税制改正法案、それから租税特別措置透明化法が御審議されているというふうに伺っておりますので、それに関連するお話を私からはさせていただきたいと思います。
 まずは、特例公債法絡みの話でございます。
 我が国は、皆様に申し上げるまでもなく、財政赤字が累増いたしまして、非常に大きな政府債務を抱えております。ついに、この直近に至りましては、我が国の政府債務というものが、実は我が国の家計が蓄えている金融資産とほぼ同じような金額に達するというような事態に陥っているというふうに思っております。
 お手元の参考資料の二ページをごらんいただきたいと思いますけれども、我が国の家計は1400兆円ぐらいの金融資産を持っているとされております。しかし、そのうちの400兆円ぐらいは、自分たちの住宅ローンなどの家計の債務ということで、ほかの企業とか政府には貸し出せないお金ということで持っております。自分で持っているはたで自分で借りているという状態であります。それを差し引きますと、大体1千兆円ぐらいの純金融資産が家計にはあるということであります。
 これに対しまして政府、これは国と地方自治体合わせてということでありますけれども、それが、一般政府と呼ばれるものではかりますと大体1千兆円、GDPの二倍という金額で、直近ではほぼ近しい値に到達しているという状況であります。
 この状況は、直ちにあす財政破綻が起こるというわけではないわけですけれども、今までのように、国内で低い金利で国債を発行できるというような状況がもはやなくなりつつあるということを意味しているというふうに御理解いただければと存じます。
 ちなみに、釈迦に説法ですが、諸外国、先進国をごらんいただきますと、三ページにありますように、去年で見ましても、欧米先進国は3%から4%の国債金利を支払っているという状況にありますが、幸いというべきか、我が国は1・4%程度の金利で済んでいるという状況であります。
 しかし、これは、国内の貯蓄があって、国内で国債を消化できるという状況があって成り立つというものでありまして、それがだんだんなくなりつつある、海外の投資家からお金を借りてこなければならないというような状況になりますと、当然のことながら海外の投資家は、そんな低い金利では貸せないよと。別に、日本政府が信用できないということでなくても、アメリカ政府、イギリス政府、その他先進国の政府と同等の信用が日本国政府にもあるということだとしても、同じような金利水準、つまり3%から4%の金利水準を要求してくるという日が近づいてきているというわけであります。
 直ちに3%から4%の金利になるということではないかもしれませんけれども、そういう金利上昇圧力が徐々に高まっているということでありますので、私が思いますのは、できるだけ早くこの国債発行についての歯どめないしは財政健全化目標というものをきちんと打ち立てていただきたいというふうに思うわけであります。
 さはさりながら、財政健全化にいそしめば、経済成長がおろそかになって、経済成長によって財政健全化がなし遂げられるという道をふさいでしまうのではないかという懸念があります。つまり、自然増収が税に期待できる、その税の自然増収を財政健全化の糧にすればいいではないかという御議論があります。ただ、私がいろいろと調べておりますところによれば、残念ながら、そうした状況も期待ができなくなるというのが将来像であろうということであります。
 四ページの表にあります、これは財務省が平成22年度予算にあわせて後年度影響試算ということで出した資料に基づくものでありますけれども、この数字を私の学者の立場から検証いたしますと、もし経済成長が期待できたとして、例えば想定よりも2%高い成長が期待できたといたしましても、自然増収は2011年では0・8兆円、2012年では1・7兆円、2013年では2・7兆円の自然増収が期待できる。ところが、それに比して国債の金利がもし上がってしまうと、それよりも多い利払い費の増加が予想されているということであります。
 確かに、経済成長率が高まれば、国債金利がそのままであるとすれば、その分の自然増収が収支の改善につながるということでありますが、残念ながら、経済成長というものは国債の金利をむしろ引き上げる可能性がある。つまり、民間での資金需要が高まれば、それだけ国債の金利は低い金利では借りられなくなるという、幸か不幸かそういう経済の原理があります。
 そういたしますと、経済成長率が上がって喜んだ反面、金利も上昇します。その分、国債の利払い費がふえてしまうという意味で、収支が改善しにくい状況が今の我が国の財政構造であるということは、恐らくこれは確かなことであろうというふうに思います。そういうことを踏まえながら財政健全化の道を探っていく必要があると考えます。
 五ページには、私が思っておりますことで、財政健全化は重要であるということなんですけれども、特に重要なことは、今すぐ財政健全化のために増税せよというような意味ではなくて、むしろ少し先の話でもよいので、行く末はこういう行く末である、こちらの方向に向かって政策のかじを切っているんだという方向を指し示し、それを人々に知らしめるということが重要だということを申し上げております。
 むしろ、2020年代にどうするかというようなことでも構わないので、国債残高をこういう形に抑制していくんだとか、ないしは財政収支をこういう形で改善していくんだというような、何らかの具体的な指標を伴いながら、それでいて低過ぎず高過ぎないハードルを設けて、その目標に向かって頑張っていく、そういうやり方が求められていると思います。
 もう一つは、これは財政健全化と経済成長という話の中にあっては忘れ去られがちなことなんですけれども、政府が借金を残すということは将来世代に対して負担を残すということである、将来世代の負担をふやしてしまうということで、将来世代と現役世代との間の負担の格差を生んでしまうということにもきちんと配慮をする必要があろうかと思います。そういう意味では、いわゆる霞が関埋蔵金依存は永続できないので、早い段階で恒久的な財源の検討をお願いしたいところであります。
 さはさりながら、ただ単に赤字だから増税せよというようなことは、なかなか国民も理解をいたしません。そういう意味では、財政運営に対する中長期的な姿勢をきちんとした形で示すということが重要なのではないかというふうに考えております。
 六ページには、私も学者としてかねがね、こういうことを我が国でも導入してはどうかということを提起しておりましたけれども、鳩山内閣になりまして、昨年10月23日に閣議決定されたようでありますけれども、「予算編成等の在り方の改革について」ということで中期財政フレームをお示しになるというようなことで、それについては私も非常に期待をしております。確固たる形で、よりきちんとしたコミットメントで国民にお示しになるということを期待したいと思います。
 私が思いますのは、複数年度予算編成というものは、イメージとしては九ページのところにございます。単に、2年から3年の収入と支出についてあらかじめ示すというだけの話ではなくて、むしろ、この2年から3年かけてどういう政策目標を達成しようとするのか、目標と具体的な手段を両方セットできちんと示すということで国民に対して約束をするとともに、コミットメントの信頼性を持って国民を安心たらしめる、そういうような効果というものがあるのではないかというふうに思っております。
 そういう意味では、中長期的な財政運営のスタンスとして、経済学から一つの示唆が与えられておりまして、これは十ページにあります課税平準化政策というメッセージであります。イメージといたしましては、11ページの方にイメージをかかせていただいております。
 単純に申しますと、できるだけ税負担の増加、増税を先送りにして、土壇場になってやむを得ず増税せざるを得ないという形で追い込まれて高い税率をかけてしまうというよりかは、毎年こつこつときちんと税をかけていく。確かに、目先は少し税負担が重くなるかもしれないけれども、早い段階で税負担をお願いしていくということを通じて、将来税率がどんどん高まっていくというようなことを防ぐ、そういうふうに財政運営を行っていくことで、逆に経済成長にもいい影響がある。
 つまり、経済学が示唆するところでは、税率は高くなればなるほど、その税率の大きさの二乗に比例する形で経済活動を阻害すると。例えば、消費税が5%のときの経済活動を抑制する大きさを一とすれば、二倍の税率である10%のときには、単に税率が二倍になったということで経済活動は二倍分萎縮するというのではなくて、むしろその二倍の二乗、つまり四倍の大きさで経済活動を萎縮させる。さらには、20%という税率にすれば、5%のときに比べて税率は四倍ですので、その四倍の二乗で16倍の大きさの経済活動を阻害する悪影響が及ぶということが経済理論では知られております。
 そういう意味では、やがて上げざるを得ない税率であるならば、余り最終的な税率が高くならないようにする。そのためには、タイミングを逃さずにできるだけ早目に税率を上げて、かつ、将来は余り高く税率が上がらないようにとどめさせる、そういう財政運営が求められると思います。
 後半では、税制改正法案に関連するところで意見を述べさせていただきたいと存じます。
 12ページには、私が重要であろうと思う点について触れておりまして、今後の税制を考える上では、少子高齢化、グローバル化、財政健全化、地球温暖化防止という観点をどういう形で税制に反映していくかということが重要だというふうに思っております。
 そういう意味では、効率性と公平性、特に垂直的な公平性と効率性ということでいえば、消費税と所得税との間の役割分担というものがこれからは重要になってくるという考え方を持っております。
 税制改正法案の具体的な話に関連いたしましては14ページに述べておりますけれども、所得控除から給付へという形で、この税制改正、特に所得控除の見直しというものが図られた点に関しましては、私は望ましい方向だというふうに思っております。
 確かに、子ども手当というものは子育てについての社会的な支援という観点もございますが、もう少し税制と関連したところで、所得再分配効果がどうなっているかということで私が研究しているものの一端を御紹介させていただきたいと存じます。
 15ページですけれども、私の転記ミスで、一枚紙の訂正のものを御用意させていただいております。左上に「訂正」と書いてある方が正しいものでございます。これで、皆様御承知のように、年少扶養控除を廃止し、特定扶養控除の18歳以下の部分についての上乗せを廃止するということとともに、子ども手当を支給するということの効果を見ております。
 所得階層を10%ずつ区切りまして、下から10%、その次の10%ということで十分位の階級になっております。一が一番低い所得で十が一番高い所得層ということであります。
 右下の所得純増額ということで、子ども手当の受け取りがふえる一方で控除が減って税負担が多くなるというものの差し引きでどうなるかということで数字を見ますと、十分位、一番高い10%の所得層を除くと、子ども手当の支給によって可処分所得がふえるという経済効果、さらにその上に、基本的にはより低所得の方々の方がより多く所得がふえるという意味で、格差是正の効果が働いているという計算結果になっております。
 そういう意味では、子ども手当は、もちろん子育て支援という意味のところが重要な一つのポイントではありますけれども、また別の側面で、所得再分配効果もより発揮されているという経済効果が期待できるということが予想されております。
 さらにもう一つは、社会保険料負担が実は逆進的であると。この15ページの右上の社会保険料負担のところをごらんいただきますと、低所得層の方ほど負担率が高いという意味で逆進的になっております。
 そういう意味では、今後さらに、子ども手当という形ではないかもしれませんけれども、例えば給付つき税額控除など、逆進性緩和、所得再分配効果をより発揮させるという観点からすれば、給付つき税額控除というのも一つの重要な選択肢なのだろうというふうに思います。
 最後に一言だけ、租税特別措置透明化に関連して申し上げさせていただきたいと思いますが、透明化ということは非常に重要で、これは私としても強く賛同できるところであります。ただ、今後の課題といたしましては、単に租税特別措置法に書かれているものだけが対象になるということなのではなくて、本則の税法、それからさまざまな政策的な配慮、つまり税を通じた政策の効果を発揮させるのがよいか、ほかの方法がよいかという比較考量などの観点も交えながら、もう一段さらに再整理なさるといいのではないかというふうに思っております。
 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)
○玄葉委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
【佐々木氏議員質問部分】
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。三人の専門的な御意見をお伺いしまして、本当に参考になります。ありがとうございます。
 まず私は、少し広く、税財政というものの位置づけですけれども、それ自体は、例えば税制、あるいは財政、それは言うまでもないことですけれども、自己完結してそれで終わるというものではなく、背景にある全体の経済、それから、経済の中での国民生活あるいは企業の状況、そういうものをどう認識するか。そしてその上で、経済政策として基本方向をどう打ち出すか。その中で税と財政というものがどのような役割を果たすか、どういう機能が必要か。全体として言いますと、こういうふうな位置づけだろうと思うんですね。
 したがって、まず、経済の構造全体をどう見るかというのが、基礎的なものとして大変大事なことだと思います。その点で新しい政権は、経済格差、所得格差というものに着目をして、その格差を是正したい、そういう意向を持っているというのは、私は今野党ですが、伝わってきている、そういうふうに思っております。
 そこで、税の役割というのは、そういう経済格差を縮小していく上で、手段として大変大きな役割を果たすことになるんだろうと思うんです。所得の再分配機能ということがこの間弱まってきたというのが政府税調の答申でもありますが、それを強めていく、再分配機能の強化というものが基本方向として政権の方から打ち出されているように私は思います。
 そこで、私は、その基本方向は賛成なんです。その方向に向けて、税制あるいは財政、これが一体どのような具体的な政策として必要なのか。専門の先生三人の方々の少し具体的な提言も含めた御意見をそれぞれお伺いできればと思っております。
○森信参考人(中央大学法科大学院教授) お答えしたいと思います。
 私の個人的な意見でございますが、先ほど冒頭意見を申しましたように、我々は今、極めて難しいグローバルな経済の中にいるということでございまして、どちらかといえば、あちら立てればこちら立たずというふうな状況にあるということでございます。
 どういうことかと申しますと、税制の最大の原則であります垂直的公平性、こういった原則を重視して、こちらに重点を置いた所得再分配政策をとりますと、今度は経済効率という別の租税原則が損なわれる。これが特にグローバルな経済の中で、人、物、金、日本の富裕層でも個人の所得を海外に移すということが実際行われているというふうに私は認識しておりますので、なかなかそういった垂直的公平性一本で税制を構築するということができない状況になってきているというふうに思います。
 そういう意味において、私はうまく公平性と効率性のバランスをとった税制が必要じゃないかということで先ほど申し上げた次第でございますが、具体的にどういうことかというふうに申しますと、今起きている格差、貧困、この問題のやはり主眼は、特に若者の低所得者層の所得が一番影響を受けているわけでございまして、そこに手厚く給付つき税額控除等で経済援助をしていく、あるいは児童手当、これは子ども手当というふうな形で設計されておりますが、児童税額控除とかそういった形で、子育て家庭に経済支援をしていくという形で手当てをしていく。
 他方で、では、高所得者層の方はどうするんだということでございますが、最高税率を引き上げるというふうな考え方もあると思いますが、私は、グローバルな経済の流れの中において、これ以上最高税率を引き上げますと、結果的には、税源といいますか資金が海外に今以上に逃げていって、日本の国の中に税源が残らないというふうな状況になる可能性があるというふうなことを考えております。
 そういう意味で、所得再分配機能をより強化することは大賛成でございますが、その手段としては、あくまで、原因をつくっております低所得者層の方に給付つき税額控除という形でお金を支援していくということが必要ではないかというふうに思っております。
 資産課税につきましても、基本的には私は、相続税につきましては、やはり課税ベースを広くしていく。税率は変えないで、課税ベース、今は被相続人100人に対して4人程度が相続税を負担しているというふうな状況でございますが、これをもう少し、100人の方に対して1割ぐらいの方が相続税を負担するような、そういった形で税制を構築していくべきじゃないかというふうに考えております。
 とりあえず、以上でございます。
○水野参考人 (一橋大学大学院法学研究科教授) 御質問いただきましてありがとうございます。また、私の個人的な意見を述べさせていただきます。
 確かに現在、非常に、税収の落ち込みとともに格差が広まっている。通常ですと、所得税が機能すればそれなりの所得再分配というのは果たせたわけですけれども、今の状況でなかなか難しいと思っております。もう一つ、相続税というものが、これも富の再分配というものを期待されておりますけれども、再分配機能を考える場合には、所得税と同時に相続税の方も考えるのがよろしいかと思っております。
 今後の、将来の話ですけれども、いわば消費税のウエートが高くなってまいりますと、特に高額所得者の場合に、消費されずに残された資産ということで、相続税の重要性はまた大きくなっていくものと思っております。
 基本的には所得税の問題をまず議論すべきであると思いますが、これは困りますのは、所得税の税率、これを上に上げればそのまま再分配につながるかというと、そうではなくて、実際問題として、いわば給与所得者で働いている、なおかつ高額の所得を取っている方、最近は少しずつ出てきているようですが、所得税の税率がそのまま適用される高額所得者というのは決して多くなくて、いわば課税逃れと言っておりますけれども、最近の裁判所の判決など、国際的なレベルで大きな課税逃れが行われているということがございます。
 平成22年度の改正法案の中に、タックスヘイブンの税制に対する改正も入っておりますけれども、そのようなタックスヘイブンと言われる軽課税国を利用したような投資というものは盛んに行われているようでありますし、具体的には、外国の不動産に投資をして、減価償却などを計算した結果、意図的に損失を出しまして、それで国内の所得と合算してマイナスにしてしまうとか、そういうような試みが、経済がよくないときであるにもかかわらず、どうもやはり高額所得者の方の方では、恐らくそういうものを唆すような会社があるんだと思います。
 そういうような問題が出てまいりますので、やはり税率とともに、課税の対象となるべき所得が意図的に縮小されないような検討というもの、これもあわせて行うことが大事ではないかと思っております。
 ただ、課税逃れだけで格差が広がっているわけではありませんので、当然のことながら、経済全体の中で、さて税率の問題、これを引き上げることが経済的にどういう影響をもたらすだろうか、非常に難しい問題ですけれども、そのあたりも含めて、全体的に議論していかなければならないと思っております。
 失礼いたしました。
○土居参考人(慶應義塾大学経済学部教授) 御質問ありがとうございます。
 私は、財政学を研究している立場から申しますと、財政政策、税制も含めたところでの機能というのは、資源配分機能、所得再分配機能、経済安定化機能という三つの機能があるということを学生にも教えておるわけでありますけれども、多分に、これまでの、特に90年代以降の日本の財政では、経済安定化機能、つまり景気対策がかなり大きなウエートを占め過ぎた。いつも裁量的な財政政策がその都度その都度行われてきたというところは、やはり今後は少し抑制していかなければならないところなのかなというふうに思っております。
 そういたしますと、前二者の資源配分機能と所得再分配機能ということが、もっと大きなウエートとして、財政政策ないしは税制の設計というところでは重視していかなければならないところだと思います。特に、格差が広がっているということがありますから、目下のところは、この所得再分配機能について、より有効に、財政政策ないしは税制でこれを果たしていかなければいけないというふうに思います。
 ただ、もう一つ、日ごろは余り強調されていないようではありますけれども、私が最近こういう点は重要ではないかと思っている点について述べさせていただきますと、いわゆるビルトインスタビライザーというものをもう少し、より強く働かせるようなことが求められるのではないか。ビルトインスタビライザーというのは、御承知のように、景気がよくなると、累進課税がなされたり社会保険料が徴収されるようになるなどというようなことで、経済の過熱を抑制する反面、不景気になると失業給付が出たり、累進課税で、低所得になるとその分税負担が軽くなるということで、景気の底割れを防ぐということが、制度の内在的な要因によって果たされるということだというわけです。
 もちろん、法人税とか、ある意味で、景気がよくなったらたくさん税を取るけれども、景気が悪くなるとたちまち赤字法人が出てきて税を取らないというような意味のスタビライザーはあるのかもしれませんが、所得税制ないしは社会保障制度で、私は、もう少しよりよくビルトインスタビライザーが機能するような仕組みを埋め込んでいく必要があるのではないか。それがないがゆえに、景気が悪くなると裁量的な財政政策を講じて、景気対策だ景気対策だと、必ずしも本当に効果があるかどうかわからない裁量政策もなされるというようなことが、残念ながら90年代から繰り返されてきたのかなと思います。
 もしビルトインスタビライザーがちゃんと機能する財政制度であれば、それほど裁量的に財政政策を講じなくても、失業手当なり累進所得税なり、いろいろな仕組みを通じて経済安定化機能も果たせる。さらには、所得格差是正という観点からも、累進課税だとか失業給付だとかというものは、格差是正機能も実は両方果たし得るという意味で、そういう意味では、我が国の税制、財政は、もう少しビルトインスタビライザーの機能を埋め込むような仕組みに転換していくことが必要なのではないかというふうに思っております。
○佐々木(憲)委員 大変参考になる御意見、ありがとうございました。
 社会保障の役割というのも、今のお話との関連でいいますと、所得再分配機能の中で非常に大きな柱になるだろうと思うんです。ですから、税制だけではなく社会保障の分野をどうするのかというのも、やはり重要な柱に位置づける必要があるというふうに思いました。
 それから、もう一つは、例えば社会の格差ということを考えると、非正規雇用がこれだけ広がっている状況をどうするのか。これはやはり労働法制の問題にかかわるものでありまして、必ずしも税財政だけにおさまらない、そういう分野も念頭に置いた対応というものが必要だろうというふうに感じております。
 さて、そこで、先ほど少しお話ありましたが、森信先生の方から、公平と効率のバランスというお話がありました。
 垂直的な所得の再分配、それだけを追い求めると、今度は、例えば国際的な課税の面でいいますと、企業に負担がかかり過ぎるのではないか、当然そういう論理になると思うんですね。そこで問題なのは、その論理が正しいかどうかというのは吟味が必要だと思いますが、それが前提としますと、国際的な課税のあり方というのがもう一つの分野として求められるんだろうと思います。
 先ほどの水野先生のタックスヘイブンなどを初めとする税逃れの問題、これはこれとして、しっかりと税を把握する、課税するという動きはあると思います。ただ、それだけではなく、OECDなどでは、国際的な税引き下げ競争というものがよろしくないのだと。つまり、各国の財政、税制に空洞化をもたらすものである、したがって、それを抑制するために、どのようにして国際的に、利益の上がっているところに課税を強めていくかということが議論になっているんだろうと思います。
 リーマン・ショック以降の議論の中では、金融資本を中心として非常に莫大な金転がしが行われた、それが余りにも膨らみ過ぎてバブルがはじけて全世界が大変なショックを受けた、したがって、その要因となるようなところに対しては、あらかじめ低い水準の課税なり、あるいは何らかの行き過ぎないようなコントロールが必要であろう、これは国際的な議論に今なっていると思います。
 そういう点で、森信先生は、この国際的な課税の今の議論というものの関連でどのような御意見をお持ちか、お聞きをしたいと思っております。
○森信参考人(中央大学法科大学院教授) お答えします。
 私は、先ほどの冒頭のプレゼンテーションでも申し上げたんですが、タックスヘイブンに対して資金が集まる、あるいは、タックスヘイブンまでいかなくても、もう少し低税率国の方にお金、あるいは人間そのものが逃げていって、日本に1年の半分以下の居住という形で暮らすというふうなことも実際起きてきているわけでございます。
 そういったときに、今委員が御指摘のように、タックスヘイブン、世界的な税の引き下げ競争に対して、OECDがイニシアチブをとってそういったことを抑制するようなプロジェクトをつくるということは非常に必要だと思いますし、現実に、これは法人税の世界が中心でしたが、ハームフル・タックス・コンペティション、有害な税の競争に対して、先進国共通でそういったタックスヘイブンを名指ししてやったこともあります。それから、最近では、まさに今おっしゃいましたように、サミットでもG20でもそういうことが行われておりまして、そのときのかぎになるのは、私は情報交換だと思います。
 やはり、課税当局者がそういった今まで銀行機密で守られていた国に対して情報交換協定を結ぶことによりまして、そこの情報が日本の課税当局に流れるようになってくる、そういうことが非常に公平な税制につながってくると思います。現に、リーマン・ショック以降のいろいろな先進国の努力にもよりまして、日本も最近、たしかスイスと情報交換協定を結んだり、ケイマンともそういう話を、締結の方向で進んでいると思いますが、タックスヘイブン国も、なかなかそういった自分たちだけがいい形でというふうにはならないような、先進国のそういう動きが起きてきているというふうに思っておりますので、この動きをもっと進めていくことが必要じゃないかというふうに思っております。
 以上です。
○佐々木(憲)委員 最後の質問をしたいと思います。
 証券優遇税制の是正の問題は、この委員会でも議論をしてまいりました。譲渡益課税あるいは配当課税が20%のところを半分の10%、こういう形になっている。私は、当然これはもとに戻すべきだというふうに主張してまいりましたし、新しい政権になって、当面は前の政権から維持されているものはありますが、できるだけ早くこれを是正したい、そういう意向が示されております。
 やはり、そういうことを一つ一つきちっとやっていく、それから、根本的には、やはり総合課税に累進課税ということが大事だと私は思っておりますが、いずれにしましても、現在の減税というのはちょっと行き過ぎた面があるのではないかと思っておりまして、この是正の方向について、今度は水野先生と土居先生のお二人に御意見をお伺いしたいと思います。
○水野参考人(一橋大学大学院法学研究科教授) どうも御質問ありがとうございます。
 私も基本的に先生の御意見と同じでございまして、そもそもかつては、株、有価証券の取引についてはなかなか所得税がかけられないという捕捉の問題、それから証券市場を育成しなければいけないということで非課税になっていたわけです。
 その分、有価証券取引税という形で対応していたわけですが、これも、税制の抜本的な改革、消費税の議論の中で、基本的に源泉分離課税あるいは申告分離課税という二つの方式、それによって課税されることになったわけですが、源泉分離課税というのも、これもまだ不公平であるということで、大分前になると思いましたが、もう10年ぐらい前になりましたでしょうか、これを申告分離に一本化するという話にまとまりまして、法律もそのようになっていたわけですが、今度は、株を取得したときの原価がなかなかわからないとか、いろいろな不平が出てまいりまして、結局、申告分離の形にはなっているけれども、特定口座を開いておけば、そこで証券業者の方で源泉分を徴収しますと。
 この状態と、税率が10%に引き下げられているという状態が続いておりますので、総合課税まではまだほど遠いということですが、せめて利子並み課税と言っておりますけれども、大体金融商品は20%で課税するという方向へ収れんしてきております。申告分離に一本化されてから大分になりますので、そろそろ、私も先生が言われるように、せめて税率を20%に戻すべき、これをしたから急にまた株が暴落するというものではないのではないかと思っております。
 個人的意見ですが、失礼いたしました。
○土居参考人(慶應義塾大学経済学部教授) 御質問ありがとうございます。
 私も、基本的には、金融所得一体課税という意味では、税率をそろえていくという意味で、軽減税率という形で軽い税率になっているものを改めていくということは重要なことだと思います。
 税率を上げると、とかく、課税後の収益が下がるということで株式等への投資が鈍るのではないかというような懸念が示されるんですが、私は、必ずしもそればかりではないと。むしろ、税率が上がることを通じて、損益通算制度を使えばリスクが軽減するというメリットがあって、そのリスクが軽減するということを通じて、そういうローリスクな資産、税引き後ですけれども、税引き後、ローリスクになった金融資産に対して投資が行われる可能性というのも決して無視できないというふうに思います。もちろん、言うまでもなく、損益通算制度というものは重要ですので、これがうまく機能するように制度設計をしていただきたいというふうに思っておりますけれども、基本的には私はそういう考えを持っております。
○佐々木(憲)委員 きょうは、大変貴重な御意見を三人の先生方から伺いました。以上で終わります。ありがとうございました。

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