2001年10月19日 第153回 臨時国会 本会議 【140】 - 質問
大銀行への新たな税金投入策だ、「銀行株式取得機構」法案を本会議で追及
2001年10月19日本会議で、「銀行株式保有制限法案」の趣旨説明・質疑が行われ、佐々木憲昭議員が日本共産党を代表して質問にたちました。
この法案は、銀行にたいして株式保有の制限を新たに課し、それにともない銀行が売却する株式を買い取る「機構」を新設しようというものです。「機構」は市場の動向を見ながら株を売却します。機構の株買取資金の借り入れには政府保証が付けられ、株が下がって損失が出れば税金で穴埋めする、という仕組みになっています。
佐々木議員は、「法案の最大の問題点は、銀行保有株式取得機構を創設し、銀行支援のために新たな税金投入をおこなおうとしていることだ」と指摘し、「銀行が抱える株のリスクを、なぜ、国民が肩代わりしなければならないのか」と柳澤金融担当大臣の認識をただしました。
また佐々木議員は、政府が当面の株式の買い取り限度額を2兆円としていることを踏まえ、「(今後)2兆円では足りなくなったとして政府保証枠を拡大することはないと明言できるか」と追及しました。
柳沢伯夫金融担当大臣は、「株式市場の動向を現時点で見通すことは困難なため、将来必要があれば見直しをおこないうる」として、歯止めのない税金投入になる可能性を否定しませんでした。
佐々木議員は、大量の株式を保有しているのは大手銀行15行が中心で、買取機構が行う株式の買い取りはもっぱら一握りの大銀行を対象にしたものにすぎないことを具体的な数字をあげて明らかにし、これまで大量の株式保有によって多大な含み益を得てきた大銀行が、株価が低落して含み損を抱えたからといって国民に肩がわりしてくれというのはあまりに虫が良すぎると今回の政策を批判しました。
そのうえで佐々木議員は、政府の70兆円銀行支援策に基づいて、今年3月末までに約27兆6000億円の公的資金が使用され、約9兆円の国民負担が確定していることを紹介し、「この法案はそのうえにまたもや新たな税金投入を上乗せしようというものだ」として「政府には、国民の負担の重みに対する感覚が、完全に欠如してる」と批判。「国民には耐え難い痛みと負担だけをおしつけ、大銀行にはつぎつぎと手厚い支援策を拡大する、このような逆立ちした政策を根本的に改めてこそ、日本の金融機関の国際的な信用を回復させることになる」と政府の政策の根本的転換を求めました。
議事録
○佐々木憲昭君 私は、日本共産党を代表して、銀行等の株式保有制限等に関する法律案に対し、柳澤金融担当大臣に質問します。(拍手)
本法律案の最大の問題点は、銀行保有株式取得機構を創設し、銀行支援のために新たな税金投入を行おうとしていることであります。これは、森内閣の緊急経済対策で掲げられ、骨太方針に受け継がれた一連の銀行支援策の一つであります。
この法案は、銀行に対して株式保有の制限を新たに課し、その株式を買い取った機構が市場の動向を見ながら売却を進めるというものであります。その際、機構の買い取り資金の借り入れに政府保証をつけたり、株が下がって損失が出れば税金で穴埋めをするという仕組みになっております。これは結局、国民負担につながるものであります。
柳澤大臣、銀行が抱える株のリスクをなぜ国民が肩がわりしなければならないのでしょうか、一体、国民にどのような責任があるというのでしょうか、はっきりお答え願いたい。(拍手)
ことし3月、当時の宮澤財務大臣が銀行保有株式買取機構の構想に対して財政資金の投入に積極的な態度をとったとき、柳澤大臣、あなたはこう述べていました。私はできるだけ公的なものが出ていくということは慎むべきだというふうに基本的に考えている、何か、だっと財政資金に寄りかかるようなことはやはり避けるべきだと発言しておられました。ところが、今回提案された内容は、まさに財政資金に寄りかかる仕組みになっているではありませんか。一体、どう説明するのですか。答弁を求めます。
法案では、機構が解散する際、株価低落で損失が残った場合、銀行が出した拠出金の残金で損失を補うことになっていますが、それでも損失が埋まらなければ、残りはすべて国が負担する、穴埋めするということになっております。
現在想定されている株式の買い取り限度額は2兆円ですから、そこから割り出した銀行の損失負担額は、売却時拠出金の1600億円、それに当初拠出金の100億円の残余金、すなわち、1600億円プラスアルファが銀行負担の上限となります。それを超えた損失は、すべて国民にかぶせるという仕組みになっているのです。
なぜ、銀行の責任に帰すべき負担に上限をつけ、全く責任のない国民の負担は無制限となるのですか。明確な答弁を求めます。(拍手)
柳澤大臣は、公的資金に対する国民の批判を意識して、盛んに国民負担を最小化すると説明しておられます。しかし、その保証は全くありません。
金融庁は、政府保証つきの買い取り対象が、国内上場株式または店頭登録株式であって、投資適格である格付トリプルBマイナス以上のものに限定するため、リスクは少ないと説明しています。しかし、先ごろ破綻したマイカルでさえトリプルBであったことを見ても、全く説得力はありません。
買取機構が引き受けた株式の中から経営破綻する企業が出てくれば、買取機構は100%の損失をこうむることになるのです。その場合、国民負担は甚大であります。国民負担を最小にするという保証は、一体どこにあるというのでしょうか。国民にわかるようにお答えください。
国民の預金を受け入れ、決済機能を持つ銀行等の経営の健全性が株価によって左右されることは防がなければなりません。そのために、銀行等の株式保有を規制することは当然のことであります。しかし、その達成は、銀行自身の自己責任で行うべきであり、新たな公的資金による銀行支援策は全く必要がありません。
大銀行は、これまで、企業との株式の持ち合いによる株式の大量保有によって、大きなメリットを享受してきました。株式含み益に基づく益出し操作は、銀行に多大な収益をもたらしてきたのであります。空前の利益を懐に入れてきた大銀行が、今度は株価が低落して含み損を抱えたから国民に肩がわりしてくれというのは、余りにも虫がよ過ぎる話ではありませんか。
全国銀行協会の山本会長は、銀行から株式損失のリスクを遮断する工夫の一つとして政府の保証が有効だと述べています。まことに身勝手な話であります。
今、政府がやるべきことは、新たな銀行支援の仕組みづくりではありません。このような全銀協会長の姿勢をただし、自己責任の原則に基づいて、銀行業界みずからの努力によって、新たな株式保有制限水準を達成するよう促していくこと、これが今なすべき政府の仕事ではありませんか。
政府は、税金投入の新たな仕組みを導入する理由として、銀行が一斉に株式を売却すれば、株価が著しく変動し信用秩序の維持に重大な支障が生ずる、それを防ぐためだと述べています。しかし、これには大変なごまかしがあります。
今、株を自己資本比率を大きく超えて保有しているのは、専ら一握りの大銀行であります。金融庁資料によれば、ことし3月末時点の地方銀行と第二地銀の株式保有額は、自己資本相当額の5割台におさまっているのであります。ところが、大手15行を取り上げますと、株式保有額が自己資本相当額の1・6倍になっており、その超過額は11兆円に上ります。すなわち、本法案の言う株式保有制限の達成に向けて機構を活用しながら株式の売却を進めなければならないのは、専ら大手銀行だけだと言えるのではありませんか。
信用秩序の維持などといいますが、その実態は、国が大銀行から株のリスクを引き受け、株価変動による自己資本比率の低下を公的資金の投入で支える大銀行支援策そのものにほかならないではありませんか。
あわせて、ここで指摘しておかなければならないのは、今回の方策の中には、政府がこれまで繰り返してきた公的資金による株価買い支え、PKOの発想があることです。公的資金による株価操作は、公正な市場の形成をゆがめるものであります。実際、この間、実施してきたさまざまなPKO政策は、今日の状況が示しているように、結局のところ、失敗しているではありませんか。
そもそも、今、小泉内閣がやっていることは、不良債権処理で失業と倒産をふやし、社会保障、医療などの面で国民負担を増大させる政策であります。政府自身が、マイナス成長もやむなしと述べ、当面の景気を悪くする政策を実行しているわけであります。株価は、経済の実態を映す鏡であります。政府自身が株価を下げるような政策を実施していながら、その穴埋めを国民に求めるなど、言語道断であります。(拍手)
今、必要なのは、公的資金による株価対策ではありません。個人消費を応援して実体経済の改善を図り、企業の業績を改善することこそ、真の株価対策ではありませんか。
さらに重大なのは、今後の一層の国民負担増に道を開いていることであります。
そもそも、政府保証枠は法定事項ではなく、予算案に計上し、政令を改正すれば幾らでも拡大できるものであります。本法案には、検討条項が盛り込まれており、法律施行後3年以内に、法律の施行状況等を勘案して、株式保有制限と機構制度について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずることと明記しています。
柳澤大臣にお聞きをいたします。2兆円では足りなくなったとして、今後、政府保証枠を拡大することはないと明言できますか、明確にお答えください。
最後に、本法案による銀行等の株式保有制限の内容についてお聞きをします。
これまでも、銀行が単一の事業会社の株式を5%を超えて保有することを禁止する規制は行われてきました。しかし、総量では無制限に認められてきたのであります。本法案は、銀行の株式保有に対する総量規制を初めて課すものであります。しかし、その上限を自己資本相当額としています。
欧米の例で見ると、最も厳しい米国では、グラス・スティーガル法により、銀行本体の株式保有は原則として禁止され、昨年施行された金融近代化法により、金融持ち株会社の子会社にのみ一定限度内での保有を認めているにすぎません。また、ドイツでは、銀行が事業会社の株式を保有することは認めているものの、事業会社に対する出資額の総額は自己資本の額の60%を超えてはならないと規定しています。
これらの国際的な水準と本法案の規制内容を比べて、識者からは、国際的な潮流も踏まえると、自己資本の範囲内にとどめるだけではまだ十分ではないとの指摘もなされております。
今回の法案では、なぜ、株式保有制限の上限を自己資本相当額としたのでしょうか。また、規制は当分の間の措置であるとされていますが、将来は規制撤廃を考えているのでしょうか。株価変動のリスクから銀行経営の健全性を確保するためには、規制の充実こそが求められているのではありませんか。答弁を求めます。
今回の公的資金投入策に対して、各方面から強い批判が上がっております。新聞の社説でも、こんな法案をすんなり認めるわけにはいかない、国によるしりぬぐいそのものではないかといった厳しい見解が表明されています。
これまで、政府は、住専処理への税金投入以来、公的資金70兆円による銀行支援策に至るまで、公的資金による至れり尽くせりの銀行支援を拡大してきました。政府の70兆円銀行支援策に基づいて、ことし3月末までに約27兆6千億円の公的資金が使用され、約9兆円の国民負担が既に確定しているのであります。本法案は、その上にまたもや新たな税金投入を上乗せしようというものであります。政府には国民負担の痛みに対する感覚が完全に欠如していると言わざるを得ません。
小泉内閣が打ち出している大銀行支援は、これだけではありません。骨太方針では、新たな国民負担増に道を開く、整理回収機構による健全銀行の不良債権買い取り業務の拡大も打ち出されております。これでは、日本の銀行は政府の丸抱えであり、護送船団行政そのものではありませんか。
国民には耐えがたい痛みと負担だけを押しつけ、大銀行には次々と手厚い支援策を拡大する、このような逆立ちした政策を根本的に改めてこそ、日本の金融機関の国際的な信用を回復させることになるのであります。このことを指摘して、私の質問を終わります。(拍手)
○金融担当大臣(柳澤伯夫君) まず第一に、銀行の株式保有制限と国民負担との関係についてお尋ねがありました。
本法案では、金融システムの構造改革に向けて、銀行等の株式保有のリスクを限定するために保有制限を課すことといたしております。機構は、これに伴う銀行等による株式売却が円滑に進められるように、公的支援を背景としたセーフティーネットとして設立されるものでありまして、それは公共性を有する信用秩序の維持のために必要なものであると考えております。
次に、財政資金に寄りかかっているのではないか、あるいは、国民負担は無制限ではないか、さらには、国民負担を最小化する保証はあるのかとのお尋ねがございました。
機構に公的支援を行う場合であっても、最終的には国民負担に極力つながらないようにすることが重要であると考えております。
このような考え方のもとで、買い取りは、可能な限り国民負担につながらないと考えられるETFや投資信託の組成、さらには自社株取得を目的とした勘定によることといたしておりますほか、政府保証を付するセーフティーネットとしての買い取りについても、買い取りの対象株式を限定していること、買い取りの開始には運営委員会の決議を要すること、銀行等からあらかじめ株式の売却額の8%に相当する売却時拠出金を拠出させることとしていることなど、諸方策を講じているところであります。
次に、銀行業界はみずからの努力によって保有制限を達成すべきではないかとのお尋ねでございました。
政府といたしましても、まさに銀行等は、みずからの努力によって、株式を市場に計画的に売却し、保有制限を達成するように努めていくべきものと考えております。
しかし、それのみにゆだねるときは、銀行等による株式の短期間かつ大量の処分により株価の著しい変動を通じて信用秩序の維持に重大な支障が生ずるおそれがあるために、そのような事態を避けるため、市場売却を補完するセーフティーネットとして機構を設立するものであります。
機構を活用するのは大手行だけではないか、また、機構の実態は大銀行支援ではないかとのお尋ねがございました。
我が国の金融システムは、事実として、大手行を中心に、それとの強い関連のもとで、地銀等を含め一体のものとして構成されていることは御案内のとおりであります。直接的には主に大手行に関係する施策ではあっても、それは地銀等の安定にも資することであることは当然であります。現に、機構の設立についても、このような考え方のもとで、できる限り多数の銀行の参加が期待されているところであります。
公的資金による株価対策はやめるべきであるという御指摘がありました。
機構は、銀行等による株式処分が円滑に進められるように、セーフティーネットとしての機能を果たすものであります。また、銀行等が保有株式を機構に売却するか、市場に売却するかは任意となっているのでありまして、機構が一定の株価水準を維持するような仕組みにはなっておりません。したがって、株価対策という御指摘は当たらないものと考えております。
次に、政府保証枠に関するお尋ねでございます。
最近の銀行等による株式の市場売却実績等を勘案すれば、政府保証枠は当面2兆円で足りるものと考えております。
ただし、株式市場の動向等を現時点ですべて見通すことは極めて困難でありまして、このことから、機構のセーフティーネットとしての機能を考慮すれば、将来必要があれば見直しを行い得るという規定を置いていることを御理解賜りたいと思います。
株式保有制限の上限についてのお尋ねでございます。
問題は、株式の価格変動リスクを銀行のリスク管理能力の範囲内にとどめる必要があるということであります。
しかし、現在のところ、国際基準といたしましても、銀行等が適切に株式に係る価格変動リスクを把握する方式がまだ確定しておりません。このため、このような状況を踏まえて、株式の保有量について規制をすることとし、その上限を自己資本相当額としたものでございます。
今後とも、社会経済情勢の変化等に対応しつつ、自己資本比率規制等の方式の構築の進展度合いに応じまして、本制度の見直しも含めて、銀行等の経営の健全性の確保を図っていく所存であります。
以上であります。(拍手)