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税制(庶民増税・徴税), 金融(銀行・保険・証券) (証券優遇税制)

2001年11月06日 第153回 臨時国会 財務金融委員会 【144】 - 質問

証券優遇税制で国民を株式市場へ誘導するものだと批判

 2001年11月6日財務金融委員会で、佐々木憲昭議員は、政府提案の株式譲渡益課税減免法案が、株式市場活性化の効果が期待できず、一部高所得者を優遇し、不公平税制を拡大するだけのものであることを明らかにしました。

 佐々木議員は、各種世論調査結果などから、国民は元本が保証され安全な貯蓄を求めていることを示し、塩川正十郎財務大臣に対して「国民は税金が高いから株を買わないのか」と追及しました。
 これに対して塩川財務大臣は「税金が高いからではない」と答え、株が安全ではなく、下がる「不安があるから」株を買わないということを認めざるを得ませんでした。

 また、佐々木議員は今回の株式譲渡益への課税優遇措置によって「国民の株式投資がどれだけ増えるのか」とただしました。これに対して財務省の大武健一郎主税局長は「具体的には申し上げられない」としか答弁できませんでした。
 佐々木議員は、実体経済をよくすることなく国民を株式市場に誘導するのは、本末転倒であることを指摘。今回の税制「改正」は、世界で類例のない減免措置を導入しているが、結局、株式投資をしている一部の高所得者を優遇するものであり、不公平税制を拡大するものだと批判しました。

議事録

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。提案された証券税制改正法案についてお聞きをしたいと思います。
 日本の個人金融資産の構成というのは、日銀の資金循環統計によりますと、預貯金が51・9%、圧倒的に大きいわけであります。株式はわずか4・6%、投資信託や債券を含めても9%でございます。
 今度提案されました証券税制に関する法案は、預貯金から株式投資に広く一般の国民が参加するように誘導しようというのがねらいだというふうにされているわけであります。そこで、塩川財務大臣に極めて初歩的な質問をさせていただきたいのですが、庶民が金融資産をどのような形で持つかというのは、本来、それぞれの国民の選択の自由でありまして、いわば国民の勝手ではないか、預貯金で持っているのがなぜ悪いのか、こういう声がありますが、どのようにお答えになりますか。
○塩川財務大臣 私は、何も貯金で持っていたら悪いというようなことは全然言っておりません。貯金で持っているの、結構です。
○佐々木(憲)委員 そこで、日銀に事実関係をお聞きしますけれども、日本では株式で保有している金融資産の比率は、日銀の国際比較統計によりますと6・4%というふうに言われておりますが、国際的に見て、株式保有の比率は本当に低いのか。アメリカ、フランス、イギリス、ドイツではどのような比率になっているか、それぞれの国の個人金融資産のうち株式の占める比率はどうなっているか、お答えいただきたいと思います。
○永田参考人(日本銀行理事) お答え申し上げます。
 各国における株式のウエートでございますけれども、直近時点ということで申し上げますと、米国が19・5%、イギリスが9・3%、フランスが3・9%、そしてドイツが11・9%でございます。
 なお、参考までに、日本の2001年6月末時点では5・3%ということでございます。
○佐々木(憲)委員 今のお答えで明らかなように、日本の場合、直近は5・3ですね。そうしますと、フランスよりは日本の方が株式保有比率は高いわけでありまして、イギリスは一けた台、ドイツも、二けたといいましても11、2%というところですから、極端に日本が株式の占める比率が低いわけじゃないのですね。アメリカが19・5というのは極めてまだ高い、むしろアメリカが高過ぎるというのが国際的に見て正確な判断ではないかと思うのです。
 そこで、塩川大臣にお聞きしますけれども、先ほど、預貯金で持っているのは別に悪くはないのだ、こうおっしゃいました。預貯金で持っている比率は日本は大変高いというわけですけれども、なぜ預貯金で持つ比率が高いのか、その理由をどのようにお考えでしょうか。
○塩川財務大臣 これは、過去におきまして、国民が、有価証券市場といいましょうかいわゆる株式取引というか証券会社、こういうものに対するなじみが薄かったということ、これがやはり根本的な原因だろうと思っております。
○佐々木(憲)委員 そこで、日銀にお聞きしますけれども、金融広報中央委員会の家計の金融資産に関する世論調査というのがありますね。平成13年度の調査ですけれども、その中に、金融商品選択の際に最も重視していることはという問いがあると思うのですけれども、その回答はどうなっているでしょうか。また、これを安全性、流動性、収益性の三基準に分けますと、それぞれ何%になっていますでしょうか。
○永田参考人 お答えいたします。
 最初の御質問でございますが、この設問に対して選択肢の答えが幾つかあるわけですが、そのうち一番高い比率でありますのが、「元本が保証されているから」ということが34・5%であります。これは、重複回答をあれしておりますので、必ずしも全部足して100ということではありませんけれども、一番高いのがそれでございます。
 それから、おっしゃられました三つの基準、安全性、収益性、流動性というふうに分けた場合、安全性という範疇に入れておりますのは、「元本が保証されているから」という先ほどのものと、もう一つ「取扱金融機関が信用できて安心だから」、この二項目を安全性と言っておりますが、そのウエートが直近の調査によりますと51・1%ということになっておりまして、ピーク時の55・9%よりは若干下がっておりますけれども、そんなウエートでございます。
○佐々木(憲)委員 塩川大臣、今世論調査の結果をお聞きになったと思うのですが、国民が預貯金で持つ理由というのは、株式に投資するよりも預貯金の方が極めて安全であるという回答が一番多いわけですね。元本が保証されているということであります。ですから、株に対してなじみがないという面もあるかもしれませんけれども、それだけではなくて、むしろ、安全性、確実性、元本保証というところから、株よりは預貯金の方が安心であるということがこれらの調査で明らかになったと思うのです。
 例えば、ほかの調査も同じような結果が出ておりまして、日本リサーチセンターの平成12年度証券貯蓄に関する全国調査というのがありまして、これを見ましても、貯蓄保有世帯に貯蓄するときに重視している点を選んでもらいたいということで、調査をいたしますと、「元金が安全なこと」というふうに答えた世帯が52%であります。要するに、元本が保証され、安全であるということが、預貯金で持っている最大の理由であります。
 それだけではなくて、もう一つ私大事だと思いますのは、最近は預貯金の残高が逆にだんだんふえているのですね。この10年間をとってみましても、定期性預貯金は47%10年間でふえております。それから、通貨性預貯金は106%ふえております。つまり、倍以上にふえているわけですね。これだけ預貯金がどんどんふえていくこの理由、これは大臣、どのようにお考えでしょうか。
○塩川財務大臣 一つは、投資先がないから当面流動性貯金で持っていようという、その選択が多いのじゃないかと思います。それともう一つは、株式とかあるいは債券というものの将来性に対する不安、先ほど佐々木さんがいみじくもおっしゃった預貯金は安全であるという、これはやはり大きい要素になっておるだろうと思いますけれども、とりあえず私の思いますのは、適当な投資先がない、買い物、消費をしようにも消費先がない、だから、いつでもその資金が活用できるような状態に置いておきたいというのが一般の人たちの意向ではないかと思っております。
○佐々木(憲)委員 今の御答弁で、投資先がないからというのが一つと、二つ目に、株式の将来性の不安というのが挙げられました。
 私は、もう一つ大変重要な要素があると思うのです。それは、この日本総研の雑誌がありますけれども、この中で、環境・高齢社会研究センターの副主任研究員の飛田英子さんがこういう論文を書いているのです。「不確実性とディスインフレ下の家計の金融資産選択行動」という論文なんですけれども、この中で、こういうふうに書いてあります。
 将来不安の増大が家計の貯蓄志向を強めていることが実証された。このことは、現在消費マインドを脅かしている諸要因が改善されない場合には、今後も引き続き貯蓄意欲が強まることを意味している。したがって、個人消費振興のためには、社会保障制度の抜本改革や失業・雇用対策の見直し等を通じて、家計の将来不安を解消することが不可欠である。こういうのが一つ結論として挙げられております。
 それからさらに、こう述べているのですね。「老後の所得保障の手段として、通貨性預貯金の重要性が高まっている。通貨性預貯金の期待収益率は他の資産に比べて低いことを考えると」本当に預金の利率が非常に低いですから、収益性というのは本当に低いわけですね。そういう低いことを考えると、「この傾向は現在の所得からより大きな部分を貯蓄に回す必要性を示しており、将来不安の増大に加えて家計の貯蓄志向の強まりを説明するものといえる」つまり、将来不安というのと老後の所得保障、これが今の預貯金に大きく国民の金融資産がシフトしている要因であるということであります。これは、私は非常にはっきりしているんだというふうに思うのですね。
 それでは、塩川大臣にもう一回お聞きしますけれども、先ほども御答弁の中で少し出てまいりましたが、株式投資に個人資産が回らないという理由ですね。要するに、個人が株を買わない理由ということについて、大臣はどのようにお感じになっていますでしょうか。
○塩川財務大臣 現在、配当性向が非常に低いですね。やはり、株を持っておっても利回りが全然悪いということが原因であったということと、それから、株が、高低差がちょっと最近はきついように思います。そうすると、やはり不安を感じるということ。以前、十数年前でございましたら、株は右肩上がりのそれ行けどんどんでございますから、持っておったらもうかるという時代でございましたけれども、今持っておったら損するでというような、そういう意識も持っておる人がふえてきた、そういうものがミックスしたので、やはり私は、ここで一番大事なのは、株の信用、株式に対する国民の認識を変える、その認識を変える一番の中心は、株は安全であり、やはりそれ相当の利益も期待できるものであるという、そういう実績を積み重ねていくことが一番大事なことだと思っております。
○佐々木(憲)委員 大変今率直に、利回りが悪い、あるいは不安があるというようなお話がありました。
 確かに、政府税調に出された資料が、この調査局の財務金融調査室で出した資料を見ましても、アンケート調査結果がここにも出ておりますが、「個人投資家が株式市場に参加しない要因」、それは株式投資の経験のない世帯に聞きますと、知識を持っていないからだというのが49・5%、「損したという人の話を聞いたから」これは28・9、「株価の動きなどに神経を使うのが嫌だったから」25・4、それが、株を買ったことのない世帯の回答です。
 それから、株を買ったことがある世帯のアンケートによりますと、株を買っていない、最近株を買わなくなった、その理由は何かということで調べますと、「値下がりの危険を感じたから」が30・5%で一番多いのですね。「これまでの結果が思わしくなかったから」これが24%というふうになっております。
 結局、大臣がおっしゃったように、株の値下がりがこのところずっと続いてきた、自分も損をした経験がある、人からも、損をした、危ないよという話を聞いたことがある、そういうような不安というのが大変大きい。株式市場に対する信用性、信頼性という問題ももう一つある。そうなりますと、やはり問題は、そこのところをどう解決するかということだと思うのですね。
 そこで、次に、この法案の効能といいますか効果でありますが、今度の法案では、株取引で得た利益に対する税金を軽減するということが盛り込まれているわけですが、では今、株を買わない理由として、税金が高いから買わないという方がどの程度いるんだろうか。税金が高いからというのは、どのくらい株を買わない理由としてあるとお思いでしょうか。
○村上財務副大臣 佐々木委員の御指摘の考え方もあると思うのですけれども、やはり今回の税制改正のねらいは、貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方への切りかえということが理念にありまして、そして申告分離課税の一本化により透明性、公平性の高い、オープンな証券市場の構築をする、そういうこととあわせて、税率の引き下げや損失繰越制度を導入することによって税負担やリスクの負担の緩和を図る、これらの措置を通じて、個人投資家にとって安心して証券市場に参加できる環境の整備が図られるということをねらっておりまして、個人投資家の市場への参加が促進され、そして厚みのある市場形成をできるのではないか、そういうふうに考えております。
 ただ、御指摘のように、個人投資家の株式市場の参加の促進については、税制だけではやはり限界があるわけでして、むしろ市場の監視、取り締まり体制の充実や証券市場への信頼性向上のためのインフラを早急に整備することも重要と考えておりまして、関係者の皆さんの積極的な対応を望みたい、そういうふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 今の私の質問に直接お答えにならないで、いわばこの法案のねらいといいますか何といいますか、間接金融から直接金融への移行という、これは政府の意図としてはそういうことがあると思いますが、問題は、私が聞いているのは、国民の側が株を買わない理由に、税金が高いから買わないんですよという要因というのはどの程度の比重なのか。
○塩川財務大臣 それは余りないだろうと思いますね。余り国民は、株から起こってくる税制に対して、税金が高いから買わないというのじゃないと思います。けれども、私は、税制を有利に、インセンティブを与えて有利にするということで、株の投資をやってみようかという魅力を感じてくれるということ、そちらの方を誘導しようというのが今回の税制の改正ですから、税は高いんだ、こう言っている人に対する直接の答え方とはちょっと違ったねらい、先ほど村上副大臣が言っていましたように、今度の税制の趣旨は、要するに誘導していこうという趣旨でございます。
○佐々木(憲)委員 そうすると、税制というか、税金の重さで買わない比率というのは余りないというふうにおっしゃいましたね。要するに、税では、税を操作することによってそれほど動く部分というのは少ないのだと思うのですよ。
 ですから、例えばこういう結果が出ております。これは、平成12年度の「証券貯蓄に関する全国調査」の結果がここにありますが、その中で、貯蓄時の重点視、何を重点にしているかということなんですが、この中で、税制面で有利になるというのを選択の基準として重視しているという方は、平成12年でわずか2・4%なんです。圧倒的多数は、元金が安全かどうか。これはもう先ほど言ったように、52%がそこで判断するわけです。ですから、税制によって動かされる部分というのが、全体でいいますと2%程度なんですよ。
 それでも、やらないよりやった方がいいというふうにおっしゃるのかもしれませんけれども。しかし、このことによって、何か間接金融から直接金融へというふうに、大きく全体の事態が移行するような効果を持つとはとても思えない。
 そこで、もう一度日銀に事実関係だけ確かめたいのですけれども、アメリカの個人金融資産に占める株式の比率は高いということでありますが、歴史的に見ますとどうなのかということですね。例えば、1975年ごろでは何%であったか、それからピーク時は何%か、現在は何%か、それぞれ数字をお答えいただきたいと思います。
○永田参考人 お答えを申し上げます。
 米国におきます金融資産の中における株式のウエートでございますが、お尋ねの75年末時点では13・4%、ピーク時でございますが、これは1999年の末でございますが、これが26・6%、そして直近時点は、2001年の6月ということをとりますと、これは時価が下がっているということもございまして、19・5%になっております。
○佐々木(憲)委員 アメリカの場合は、金融自由化という80年代の大きな動きの中で、個人の金融資産が預貯金から株式へとどんどん移行していきました。1975年には13・4%でしたけれども、ピーク時は26・6%、大変高い株依存体質になったわけであります。それが、このところの株価の急落によりまして19・5%。落ち込みの比率だけ見ますと26・7%、四分の一以上大幅に損失、失われているわけであります。
 バブルの崩壊というのがアメリカで実際にあらわれたわけです。これが株への過大な依存体質を直撃しまして、現在大変な消費不況になっているわけですね。ですから、株に依存する体制をつくるということは、流れからいうと、間接金融から直接金融への移行のように一面では見えますけれども、同時にまた、国民の資産が株の価格の上下によって左右されるという、大変脆弱な構造に変えられるということも逆には意味するわけであります。
 そこで、アメリカのこの事態について、金融資産が株価暴落でかなり大きな影響を受けていると思うのです。その金融資産の消費への影響、それから経済への影響、この点について、財務大臣自身はアメリカの事態についてどのように認識されておられるか。――財務大臣の認識をお聞きしているのですけれども。
○村上財務副大臣 この問題は、非常に株式保有割合が高いアメリカにおいて、消費者の気分というかセンチメントがどのように株式市場に強く影響されるかという問題なんですけれども、過去数年の個人消費の高い伸びが、こうした資産効果に支えられた面があったということは事実だったと思います。
 昨年来の株式相場の調整局面では、消費に対する資産効果の落ちが消費を抑えているという指摘もなされています。また、その逆資産効果につきましても、資産価格の下落が消費にマイナスの影響を与えるまで、マイナスを与えるまでの期間のタイムラグが大きいという見方もありまして、今後、この影響が本格化して米国の個人消費を押し下げる可能性があるということも指摘されておりますけれども、現時点では、それがどういう影響を、定量的に判断するかについては、十分な材料がないということで御理解いただきたいと思います。
○佐々木(憲)委員 株の下落によってかなり消費が抑えられている、こういう事実はお認めになりましたし、それが今後どういうふうなあらわれ方をしていくか、タイムラグがあって、将来もっと深刻化する可能性もあるということであります。
 そういうことですから、株式市場への国民の金融資産の移動が、決してプラスだけではなくて、マイナス効果、マイナスの要素もあるのだという点を我々はよく認識をしていく必要があると思います。そういう点を考えていかないと、何か株に依存するのがいいことで、預貯金で持っているのがよくないことでというような話になりますと、国民の暮らし、国民の資産、国民の消費ということを考えますと、これは一方に偏り過ぎた考えになるのではないかということを危惧するわけであります。
 さて、その次に、財政に与える影響についてお聞きをしたいのですけれども、今回の証券税制の改正によって、これはどのぐらいの減収になりますでしょうか。
○大武政府参考人(財務省主税局長) お答えさせていただきます。
 今回の改正は、基本的には15年度以降の株式譲渡に係るものでございますので、13年度の税収に直接影響するものではございません。
 それから、15年度以降の減収額の計数につきましては、当然、株式市場の動向に左右されるわけでございますが、一応13年度予算の税収をもとに一定の前提を置いて試算いたしますと、概して1千億円程度以上の規模かと思われます。
○佐々木(憲)委員 1千億円以上の税収減ということでありますが、単純計算すると1700億円ぐらいの減になるというのは、財務省の資料でも我々は聞いております。
 そうしますと、今の財政状況というのは大変危機的な状況だと大臣も御認識されていると思うのですね。このような減税が今の財政全体にどういう影響をもたらすか、この点については、大臣、どのように判断されていますか。
○塩川財務大臣 税への影響というのは、再来年に出てくると私は思うのです。
 ですから、14年度の税制に直接、多少は影響はございますけれども、そんなに大きい変動ではない。15年度には相当改正いたしましたものが、要するに分離課税と申告、一本になりました結果のものが出てくると思いますし、また、特別優遇のものが17年度以降において出てくると思っておりますので、14年度、直接には余り大きい影響はないと私は思っております。
○佐々木(憲)委員 いずれにしても、ここ数年の間にその影響が大きく出てくる。マイナス影響だというふうに私は思います。
 今回のこの法案というのは、税制の体系からいっても異例ずくめではないかというふうに私は思うのですね。源泉分離課税は廃止して申告分離課税に一本化する。しかし、その税率は引き下げる。また、損失繰越控除制度を創設する、100万円特別控除制度は廃止しない、株式の長期保有を特に優遇する緊急投資優遇措置はつくられる。
 これは本当に異例の優遇税制というふうに言ってもいいと思うのですけれども、要するに、1年を超えて株保有をすると、2003年から2005年の間に譲渡した場合、100万円までの譲渡益は課税されない、100万円を超える譲渡益は10%しか課税されない、もしトータルで損失が出れば、その後の譲渡益からは控除できますよと。さらに、2005年から2007年の3年間の譲渡益についてはもっとよい譲渡益非課税の緊急投資優遇措置があります、今は株式の買いのチャンスですと言わんばかりのものでありますが、先ほど言ったように、株でそれほど動くものではないし、私は税制のゆがみの方がむしろ問題じゃないかというふうに思うわけであります。
 そこで、まず一つお聞きしたいのは、100万円の特別控除制度の問題であります。9月18日の税制調査会の金融小委員会の「証券税制等についての意見」というのがあります。この意見はこう述べているわけですね。「100万円特別控除制度については、課税ベースを大きく縮減させるものであって、その下での税率の引下げは適当でなく、税率の引下げを行う場合には、廃止又は縮減することが適当である」あるいはこう述べているわけです。「100万円特別控除制度を廃止又は縮減した上で」云々、こういうふうに書いてありまして、この意見と実際に出されてきた今回の法案は全く違うものであります。
 つまり、一カ月半前に明確に廃止、縮減ということを打ち出したにもかかわらず、この意見を完全に無視して今度の法案が出されていると思うのですが、これはなぜそうなったのでしょうか。
○大武政府参考人 お答えさせていただきます。
 ただいま先生から御指摘がありましたように、政府税制調査会の金融小委員会の意見におきましては、今後の申告分離課税の税負担水準のあり方については、非課税ベースを大きく縮減している特別控除がある中では税率控除の引き下げは適当ではないと指摘されているのは、そのとおりでございます。
 ただ、同じ小委員会の中でも、これからは売買の促進ではなくて保有を重視していく、個人にできるだけ持っていただくということを重視するというのも同様に触れられておりまして、そうしたことも勘案しながら、かつ、最近の経済情勢、株式市場の動向を踏まえて、個人の投資家の株式市場への保有という形での参加を促進する観点から、100万特別控除につきましても、期限をしかし区切って特別に税負担を軽減するということにしているものでございます。
○佐々木(憲)委員 全く御都合主義のやり方だと思うのですよ。もう一カ月半前に廃止、縮減というのを決めていながら、何もその状況がそれほど変わったわけでもないのに、インセンティブを与えるためだからといってそれを継続する。これはもう本当に税制の基本的な議論を無視してやっていくということでありまして、これは私は非常に問題だというふうに思うのですね。
 もう一つ、塩川大臣が肝いりで、購入価格1千万円までの株式を2年間保有して次の3年間で売却すると非課税である、売却したときの利益が例えば倍に上がっていても、三倍に上がっていても課税はゼロである、大変異例中の異例なんですけれども、こういう制度は外国に事例としてありますでしょうか。
○大武政府参考人 お答えさせていただきます。
 主要諸外国において今般の緊急投資優遇措置と全く同じものがあるということはないというふうに思っております。
 ただ、株式譲渡益の非課税措置という観点からは、例えばイギリスにありますインディビジュアル・セービング・アカウントといいまして、あえて言えば個人貯蓄勘定というのでしょうか、そういうものがございます。この勘定につきましては、年間7千ポンドまでの拠出金の運用から得られた株式譲渡益課税等を非課税にするというものがございまして、1999年に10年間の時限措置として導入されたというふうに承知しております。
○佐々木(憲)委員 イギリスの個人貯蓄勘定というのは全く性格が違うものでありまして、今回のようなこういう制度は世界にはどこにも見当たらないわけであります。一部の投資を誘うためにこういう大規模な減税措置を、しかも税制の体系もかなりゆがめ国際的に見てもやったことのない、そういうものをやるわけでありますから、これは本当に、効果がないにもかかわらずやったことのマイナスの方が非常に大きいという税制だと私は思うのです。
 そこでちょっと、もう一つお聞きしますけれども、今度の税制改正で株式投資というのはどの程度ふえると予想されているでしょうか。あるいは、現在のこの状況を前提としますと、対象となる人はどのくらいふえるというふうに予想していますでしょうか。
○大武政府参考人 今先生が御質問にございました優遇措置といいますか、今度の税制改正全体で個人投資家の証券市場への参加あるいは株式の保有というものにどの程度の影響があるかという御質問でございますが、明らかに、我々の意思としましても、株式の保有、売買ではなくて保有というところへインセンティブを与えるという改正をしておりますので、我々の期待としては多くの個人投資家がこれを機会に株式市場に参加いただけることを期待しているということで、具体的にこれはどの程度になるかということは申し上げることはできないということは御理解いただきたいと思います。
○佐々木(憲)委員 具体的にどんな効果が出るかもわからない、これだけの臨時異例の措置をとりながら効果もはっきりしないというんじゃ、全く私は無責任だと思うんですよ。実際に税制で動くという可能性のある方々はわずか2%程度だという状況でありますから、効果が実際にはほとんど考えられない。そうしますと、一体何のためにこういうものを出してきたのかという根本問題が問われるわけであります。
 結局、現状でいいますと、株の取引を実際にやっている個人の方々というのは非常に例外的な方々であります。一般的にいいまして、非常に高所得者の方々が、例えば年収1500万以上の世帯では46・6%が株を保有している、これは持っているだけも含めてですけれども。700万以下の世帯になりますと平均して十数%にすぎないんですよ。ですから、全体としては、現に株を売った、買ったをしている投資家、一部の株保有者にとっては大変有利な減税になるでしょう。しかし、これは一般の投資家を刺激し、一般の投資家を株式市場に誘導するというほどの効果はほとんどない。
 そうなりますと、結局、不公平な税制を拡大するというだけであって、その負担は財政に来るわけです。財政に来る負担は国民が負担するわけです。結局、ごくごく一部のいわば高額所得者に減税になるのが中心であって、どうも実際にはそれを国民が負担するという構造になっているのではないか。
 私は、株の問題を考える場合にはやはり実体経済をどれだけよくしていくかということが基本だと思うのです。先ほども貯蓄の理由に将来不安がある。将来不安を解消するということによって初めて消費に回る、あるいは株の投資もしてみようか、そういう方々がふえていくわけでありまして、やっていることが、本質を外れたところでどうも効果のないことをやっているというふうにしか私には思えないわけであります。
 そういう点で、この法案については我々としては賛成できないということを最後に申し上げまして、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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