2002年07月19日 第154回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【178】 - 質問
将来不安を解消する施策が必要 個人消費の回復について日銀副総裁が答弁
2002年7月19日、財務金融委員会で、日銀の「通貨及び金融の調整に関する報告書」(日銀法に基づく半期毎の国会への報告書)が審議され、佐々木憲昭議員が、日銀の景気認識をただしました。
佐々木議員は、速水日銀総裁が景気悪化の下げ止まりとの認識を示していることについて、「外需主導の下げ止まりではないか」と指摘し、外需の今後の見通しについて日銀の見解を求めました。
白川方明日銀理事が「先行きは不透明だ」との見方を示したことから、佐々木議員は、「肝心なのは内需だ」と述べ、「その柱である設備投資と個人消費はどうか」と現状を明らかにするよう求めました。
藤原作弥日銀副総裁は、設備投資について、2002年度の計画が大企業では対前年度比マイナス6.7%なのにたいし、中小企業ではマイナス9.3%となっており、大企業に比べ個人消費と関連の深い中小企業の落ち込みが大きいとの認識を示しました。
さらに個人消費が回復しない理由として、藤原副総裁は、雇用者所得の減少で家計が厳しいこと、年金など社会保障での将来不安があることをあげ、「雇用・所得環境の改善と、将来不安を解消する施策をとっていかなければならない」と答弁しました。
これを受けて佐々木議員は、大企業中心にすすめられる大規模なリストラや、いま審議されている医療改悪法案が将来不安を高め、財布のひもを厳しくしていることを指摘し、「抜本的な政策転換が必要だ」と強調しました。
議事録
○佐々木(憲)委員 先行きが不透明ということになりますと、やはり、外需依存型といいますか、あなた任せというか、そういう回復ということでは心もとないわけでございまして、肝心なのは、やはり内需をどう安定して拡大していくか。これは政府の政策にもかかわる問題でありますけれども、特に設備投資と個人消費、これをどのように活性化するかというのが大変大きなかぎになると思うんですね。
総裁の御説明ですと、持続的な景気回復のかぎを握る民間需要については、設備投資が引き続き減少しているほか、個人消費も全体として弱目の動きが続いており、まだ回復へのはっきりした動きはうかがわれません、こういう状況ですね。また、こういうふうにも述べておられるわけです。企業の投資や家計の支出が十分活発化するには至っていないことも事実ですと。これですと、なかなか力強い回復というふうにはなりにくいと思うわけですね。
まず、設備投資について確認をしてみたいと思います。
内閣府のGDP速報によりますと、民間企業設備投資は、昨年10―12月期は前期比でマイナス12・0%、ことし1―3月期ではマイナス3・2%。ことしの1―3月期を前年比で見ますとマイナス11・5%で、大変大きな落ち込みでございます。財務省の法人企業統計で見ましても、前年同期比で、昨年の10―12月期ですね、この時期はマイナス14・5%、それから1―3月期はマイナス16・8%と大変な落ち込みであります。このような傾向は内閣府の法人企業動向調査報告にもあらわれております。
日銀短観ではどうなっていますでしょうか。この数字を確認しておきたいんですが、13年度の実績見込み、それから14年度の計画、これは数字はどうなっていますでしょうか。
○藤原参考人(日本銀行副総裁) お答えいたします。
先ほど私どもが発表しました6月短観の設備投資計画ですが、先生御質問の数字は、大企業でいいますと、13年度は前年比マイナス8・9%でございます。それで、それが14年度にはどうなるというふうに数字であらわれているかといいますと、マイナス6・7%というふうに減少しております。中小企業はどうかといいますと、13年度のマイナス4・3%に続きまして、14年度もマイナス9・3%と、減少するという計画になっております。
この調査時期は、まだ企業が投資計画というものを決め切っていない時期でして、したがって数字が低目に出る傾向があるわけですけれども、であるとはいいましても、企業の投資姿勢は基本的にはなお慎重であるということはここからも推測できるところであります。
この設備投資がどうしてこういうふうなふざえな計画になっているか、私どもとして詳しく分析したわけじゃありませんけれども、考えられる背景といたしましては、まず、企業の先行き見通しが、それ自体が依然慎重であるということで及び腰であるということ、それからもう一つは、過剰債務の圧縮といった、リストラの動きが依然として続いているということが挙げられます。
一方で、同じ短観では、そういう計数評価のほかに判断基準というものがありますが、設備投資がどうなっていくかという関連でちょっとだけ申し上げますと、生産の持ち直しを受けまして、設備投資への影響が大きくあらわれる企業収益は、現在は回復に転じつつあるという数字上の結果が出ております。
こうした中で、設備投資の先行指標である機械受注等の一部には下げどまりの動きが見られているということも、これまた事実でございます。これは、内閣府及び財務省の設備投資に関する調査からちょっと動意が見られる点じゃないかと個人的には考えます。
○佐々木(憲)委員 今の御説明では、全体として先行きの見通しが慎重になっている、それから過剰債務の圧縮、リストラで設備投資が慎重になっている、こういうような話であります。
日銀短観で、全体としての、13年度の実績見込みはマイナス5・6で、14年度の計画ではマイナス7・6というふうに見ておりますけれども、今、大企業と中小企業に分けた数字の説明がありました。この中で、私は、特に中小企業の先行きの設備投資の計画、これがマイナス9・3というのは非常に大きいと思うんです。低目に出るという話がありましたが、それにしても、大企業の方はマイナス6・7、これもまあ大きいことは大きいわけですよね、それ以上に中小企業の落ち込みというのが非常に大きい。
これはなぜそうなるのか。いろいろな理由があり得ると思うんですけれども、最終消費市場である個人消費が低迷していて、それに非常に近い、密接に関連のある中小企業、その設備投資が落ちているという面。それから、中小企業の債務、経営が非常に厳しい状況の中で返済が滞るということで不良債権化する、それを処理するということで貸し出しが一層厳しくなる、資金回収が深刻になる、こういうことで中小企業の経営環境というのは非常に大手の企業に比べますと深刻な事態になっているのではないか、それがこういう形で反映しているのではないかというふうに思われますけれども、その点はどのように見ておられるか、お聞きをしたいと思います。
○藤原参考人 お答え申し上げます。
私どもは、これはあくまでも計数の調査及び判断基準の調査でして、そこから推測するしかないわけですけれども、大きく分けまして、先生が今御指摘になりましたように、中小企業は、大企業に比べまして、個人消費につながる部分が多いジャンルが大宗であるということ、そのとおりだと思います。
もう一つは、大企業に比べまして、やはり現在の債務の返済に苦慮しているということも事実だと思います。
それから、中小企業にもいろいろな規模、内容がありますが、いろいろな産業構造の変化の中で衰退していくジャンルのものが、非製造業を中心に、中小企業には多いということも言えるかと思います。
規模で見ますと、零細に近い中小企業の方に特にそういう現在の傾向があらわれているかと推測しております。
○佐々木(憲)委員 企業倒産を見ましても、今おっしゃったように、物が売れないという比率というのが、不況型倒産という項目が非常に大きい形であらわれているわけですね。最近の統計ですと76・3%、二カ月連続して75%を上回っております。物が売れない、焦げつきが発生したというようなことで、不況要因によって倒産に追い込まれる企業が全体の4分の3を占めているわけです。
これはやはり最終的には、私は、個人消費そのものをどう回復させていくかということとセットで考えていかないと、なかなか中小企業だけしりをたたいてもうまくいくはずがないわけでございまして、そこで、個人消費の問題について次にお伺いしたいと思います。
総裁も、個人消費も全体として弱目の動きが続いており、まだ回復へのはっきりした動きがうかがわれませんと先ほど述べられました。
実際に、5月の勤労者世帯の消費支出を見ましても0・4%のマイナスであります。2月、3月のマイナスから、4月にはプラスになったんですが、5月になりまして再びマイナスになるということで、大変消費の低迷というのが明確に出てきているわけですが、この個人消費の低迷の要因、その理由について、どのように把握しておられるかお聞きをしたいと思います。
○藤原参考人 お答えいたします。
個人消費はいろいろな点から動向をはかれるわけですけれども、わかりやすいものからいいますと、例えば、目に見えるといいますか品物から見ていきますと、乗用車販売とか、それから家電販売などには一部に底がたさがうかがわれるということが統計的に出ておりますが、しかし、御指摘のとおり、全体としては弱目の動きが続いております。
その背景として考えられますのは、まず、企業の根強い人件費削減姿勢といったものを背景にしまして、雇用者所得が明確な減少を続けるといった家計の雇用所得環境が引き続き厳しい状況にあるということをまず指摘できるかと思います。
それから、家計が、年金や社会保障制度のあり方、将来不安といったものを依然として抱いているということも指摘できるかと思います。
そういった個人消費を回復するためには、したがいまして、まず経済活動の活発化に伴いまして、雇用所得環境を改善するということ、裏返しですけれども、それが必要でありますし、もう一つ、家計の方ではそういった将来不安が解消されるような施策をとっていかなければならないと考える次第です。
○佐々木(憲)委員 確かに、今大規模なリストラが、昨年の秋以後、大手の企業を中心に大変な規模の計画がつくられて、それが実行されております。したがって、このリストラそのものが、全体として、雇用不安あるいは家計の所得の将来の不安というものにつながっております。
我々は、こういう大企業のリストラについては規制すべきだ、やりたい放題どんどんやるということでは個人消費そのものを冷え込ませる非常に大きな要因になるので、ヨーロッパ並みにせめて法的な規制をやる必要があるという主張をしております。
もう一つは、将来の家計、年金とか社会保障の不安というふうに先ほどおっしゃいました。この点も、今医療保険の審議が参議院で行われておりますけれども、2割負担から3割負担に引き上がる。あるいはお年寄りの負担がふえる、保険料がふえるということで、全体として一体どうなるんだろう、将来不安というのがやはり大きな要素として出てきておりますので、そういうことから財布のひもが非常にかたくなっていく、こういうことにつながっているんだと思うんですね。
ですから、消費を拡大しようとすれば、私は、今までのようなやり方を抜本的に発想を切りかえて、政策の上で転換をする必要がある、そういうふうに思うわけでありますが、しかし、日銀にそれをやれということを言ってもこれは担当が違いますので、政府に言わなければならないというふうに私は思っております。
そこで、こういう状況の中で中小企業が大変な経営難に陥って、倒産がふえているという状況でありますが、最後に、不良債権処理との関係についてお話をお伺いしたいと思います。
この不良債権の処理は小泉内閣の一つの大きな柱の政策でありますが、我々は、不良債権はもちろん減らさなきゃならぬと思いますが、減らし方に問題があると思っております。
といいますのは、不良債権だからといって、ともかく資金の回収を優先させていくということになっていきますと、中小企業の倒産あるいは貸し渋りを非常に広げて、倒産、廃業に追い込んでいく、こういうことにつながっていくわけでありまして、そこは慎重にやる必要がある。むしろ私は、実体経済の最終的な市場であります個人消費をどう刺激するかというところに政策の重点を置くべきだという主張を持っております。
いずれにしましても、この不良債権処理を2、3年で最終処理をやり遂げるという政策が出されておりますから、そうすると、中小企業の側としては、どうしても新たな資金を借りるという立場からいいますと非常に困難な事態に追い込まれていくということで、実際に金融緩和を日銀が史上空前の規模で行われておりましても、銀行から先に資金が流れていかない。
今月の8日に発表されました日銀の貸出・資金吸収動向によりますと、信用金庫を含む銀行の平均貸出残高というのが、前年同月比で4・4%のマイナスになっているわけですね。これは、比較可能な2000年1月以降を見ますと、18カ月連続のマイナス、つまり、全体として資金貸し出しはどんどんどんどん減っているわけです。日銀としてはじゃぶじゃぶ資金は供給しているとおっしゃるわけだけれども、中小企業には、そこから先に行かないんです。そこのところをどう解消していくか。
これは、一方では最終需要を拡大するというのがありますが、同時に、銀行に対して一方的に不良債権処理を急げというのではなくて、やはり中小企業の実態に合った貸し出し、資金需要に即応した貸し出しということをもっと積極的にやっていく必要があるのではないかというふうに思うわけであります。その点についてどのようなお考えをお持ちか、お聞きをしたいと思います。
○速水参考人(日本銀行総裁) 確かに、不良債権処理の促進で直ちに景気がよくなるというわけではないと思います。短期的には、むしろ、倒産とか失業の増加を通じて景気を下押しする要因となる可能性もあると思います。
しかし、長い目で見れば、金融機関の前向きな信用仲介、今、貸し出しが伸びていないと言われるのは、銀行が、大銀行も中小金融機関もそうなんでしょうけれども、リスクを抱えて、それをまず償却しないと新しい貸し出しも危なくてできないといったようなことが現状なんでありまして、不良貸し出し処理というのは、そういった根っこにあるものを早く落としてしまう必要があるということで、これはやはり構造的な問題でございます。
これができないために、日本の銀行、大銀行も地方の中小金融機関も預金者からいま一つ信頼が得られない、あるいは競争相手からも信頼されないといったようなことが起こっておるわけで、金融機関の前向きな信用仲介、資源の有効活用といったようなものを可能にして、持続的な経済成長を実現していくためには、やはり不良債権処理というのは不可欠なことだと思うし、それこそ今やるべきだというふうに思います。
加えて、金融機関の信認向上につながっていくならば、株価上昇などを通じて比較的早目に景気への好影響が期待できるとも言えましょう。
金融機関が企業の実態を十分見きわめて対応すべきことは当然でありますけれども、不良債権処理の手を緩めることは、かえって経済にはマイナスになると私は思っております。
○佐々木(憲)委員 そこが根本的に我々と姿勢の違う、政策的な視点の違う点でございまして、実際に、早く落としていくというふうにおっしゃいましたが、昨年来、大変な規模の不良債権処理をやりました。ところが、残高を見ますと逆にふえているわけですね。
なぜふえているかといいますと、実体経済の悪化はもちろんありますが、不良債権処理をやれば、中小企業の経営が一層深刻になり、消費が冷え込み、逆に不良債権がふえていくという結果をもたらしているのではないか、そういう悪循環になっているのではないか。やはり根本的にその点をぜひ考えていただきたいというふうに思うわけです。
それからもう一つは、銀行の行動そのものについても、やはり中小企業に対する貸し出し姿勢の改善ということ、この指導をぜひやっていただきたい。
総裁も、相対的に信用力の低い企業の資金調達環境がなお厳しい状態にあることも確かです、このため、金融機関行動や企業金融の動向には引き続き十分注意していく必要があると考えています、先ほどそういうふうに御説明になりました。
つまり、金融機関行動、これはやはり信用力の弱い企業の調達ということを考えた場合、この貸し出し姿勢というのが大変大事なことになると思うので、一体どのようにここのところを改善していく必要があると考えておられるか、この点について最後にお聞きをしたいと思います。
○速水参考人 中小企業に対する貸し出しが伸びない、あるいは借りられなくて地方で非常に苦しい思いをしているということを随分あちらこちらで耳にいたします。貸し出しをやっても、やはりリスクのある貸し出しは、民間の金融機関である限りなかなか貸せないものだと思います。
私は今、機会あるごとに、講演会やあるいは金融機関の方々と話し合うときに申しておりますことは、中小企業の取引先で、ぜひそれを育てていきたいというお気持ちでおられるときには、よく経営者と話し合って、今のこの仕事をこうやってこのまま続けていて続けられるのかどうかということを、本当に親身になって相談相手になってやるということが一番大事ですよと。そういうことができないでずるずる延ばしても、先行き見込みのない、競争にも勝てないといったような中小企業をそのまま続けていくということにはやはり無理があると思うんですね。その辺のところは、これなら新しい需要がくっついていけるといったようなものを銀行、金融機関の立場からいろいろ考えてあげるとか紹介してあげるとか、そういったことを借り手の立場に立って考えてあげることが必要だというふうに思います。
ただ、今これを、生き延びるためにお金を出して、それがプラスに使われていくならいいですけれども、そのままで、先行きの当てもなしに中小企業が現状のままの仕事を続けていくというのであれば、やはりそれには無理があると思うんですね。その辺のところは、世の中が変わり、経済の基本が変わりつつあることを認識してもらわなければだめだと思います。
○佐々木(憲)委員 これで終わりますけれども、中小企業の経営というのは、経営者そのものの責任というよりも、むしろ今は業況全体が悪化しているわけでありまして、それをどう支えていくかということを考えていかないと日本経済そのものが底が抜けてしまうという状況になるわけで、それをやはり金融面で支えるという姿勢が銀行にとって大変重要なポイントだと私は思っておりますので、その点を最後に述べまして、終わりたいと思います。ありがとうございました。