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税制(庶民増税・徴税), 財政(予算・公共事業) (消費税)

2009年02月26日 第171回 通常国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【495】 - 質問

財務金融委員会参考人質疑──消費税増税についての見解をただす

 2009年2月26日午前、財務金融委員会で経済アナリストや経済学者ら参考人への質疑が行われ、佐々木憲昭議員も質問しました。参考人として、藤原直哉氏(経済アナリスト)、吉野直行氏(慶應義塾大学経済学部教授)、中里実氏(東京大学法学部教授) が招致されました。

 佐々木議員は、政府の消費税増税方針に対する見解をただしました。
 経済アナリストの藤原直哉氏は「(経済危機の中で)消費税増税を政府が話すのは不見識だ」と主張しました。
 吉野直行慶応大学教授は「(社会保障費は)最終的に税金で歳出しなければ破綻する」と述べ、中里実東大教授は、2009年度税制「改正」方針に盛り込まれた消費税増税方針について、「意味がある」と述べました。
 佐々木議員は、報道各社の世論調査を紹介し、「国民の6割前後が社会保障のための消費税増税にも反対している」と指摘し、与謝野馨財務大臣が、来年にも消費税増税法案を提出する考えを示していることについて、参考人の考えを聞きました。
 藤原氏は「まず国民が所得を得られ、生活が安定する方策について議論し、政策を打ち出すべきだ」と答えました。
 佐々木議員は、消費税が“社会保障のため”として導入・増税されてきたにもかかわらず、実際には社会保障が削減されてきた実態を告発し、国民の立場に立った税制を考えることが必要だと主張しました。
 これに対し、藤原氏は「政府による姑息な増税などに、国民は不信を抱いている。税や社会保険料など、公的なお金の集め方について、抜本的見直しが必要だ」と応じました。

議事録

○田中委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行及び財政投融資特別会計からの繰入れの特例に関する法律案、所得税法等の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。
 本日は、両案審査のため、参考人として、経済アナリスト藤原直哉君、慶應義塾大学経済学部教授吉野直行君及び東京大学法学部教授中里実君、以上三名の方々に御出席をいただいております。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、参考人各位からそれぞれ15分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願いいたします。また、参考人は委員に対し質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
 それでは、まず藤原参考人にお願いいたします。
○藤原参考人(経済アナリスト) 皆様、おはようございます。経済アナリストの藤原直哉でございます。本日はお招きいただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、経済アナリストという立場から、大きな視点で、財政その他、国家の金融等の運営に関しますお話をさせていただきたいというふうに思っております。
 まず、私の基本的な認識といたしましては、今の経済の状況は、やはり未曾有の経済危機と言ってよろしいと思います。100年に一度という言葉もございますが、それは、ただ単に不況だということを超えまして、構造的に今までの経済システムが成り立たない部分が出てきたというような意味におきまして、かなり深刻な問題だと私は受けとめております。
 レジュメのところに三点ほど要点を書いてございますが、私は、まず直接的には、金融あるいは貿易が日本の経済を主導する時代は終わったのではないかなと思っております。
 どういうことかと申しますと、皆様御案内のとおり、2年前にアメリカでサブプライム危機が発覚いたしまして、株の暴落あるいは金融機関の破綻その他がその後相次いでおります。それと同時に、昨年ぐらいから、製造業を中心といたしまして極めて深刻な需要の不足、すなわち、もう工場が動かない、仕事が余りにも少ないという状況が発生しているわけであります。
 なぜ金融と輸出産業にかくも重大な変化が起きたのか、ここに今何が起きているかのすべての答えがあるわけでございますが、皆様御案内のとおり、これは震源地がアメリカでございますけれども、アメリカは約30年ほど前から実は産業界の衰退というものが目に見えてきておりまして、今経営危機と言われております自動車産業は、もう30年ぐらい前から実は経営が大変でございました。そこでアメリカ政府は、基本的には産業の立て直しをある意味ではあきらめたというふうに私は見ております。産業を立て直すよりも、中国、日本、ヨーロッパから物は輸入すればいいという経済体制にしまして、その分、金融を充実させまして、世界じゅうから資金を集めて国家を回す。だから、輸入大国、金融大国の道を選んだのが30年前のアメリカだったと思います。
 しかしそうやって、いい仕事がない、産業を衰退させますと、どうしても働いている人が十分な給与を得られません。そのため、この30年間のアメリカ人の言ってみれば庶民の生活というのは、だんだん生活が追い詰められてまいりまして、いつ首になるかわからない、株を買ってもよく下がる。10年ぐらい前から、もう何かアメリカの庶民たちも本当に困りまして、いわゆる住宅バブルに乗っていったわけであります。
 アメリカでは住宅の値段が右肩上がりで上がり続けるというのは余り前例がなかったことだと思いますが、10年ぐらい前から、とにかく住宅の値段が上がっていった。住宅さえ持っていれば、値上がりするから生活できるという、ある意味で非常に悲惨な方程式がアメリカの経済全体に広がっていたと思います。しかし、それが限界に達しまして、ついに住宅の値段の下落が始まり、限界的な借り手から破綻が始まったわけであります。
 そうすると、アメリカはこの30年ぐらい、借金をして、国も借金、庶民も借金、企業も借金をして投資をする、消費をするという体制を整えておりましたために、巨大な不良債権が発生したために、もう市場がお金を貸さない、銀行がお金を貸さないという状況になりまして、企業も庶民もお金を借りられなくなったわけであります。そのために、家と車、経済を支えております二本柱、これは全部ローンで普通買いますが、こういう買い物がばたりととまったわけでございます。そういたしますと、アメリカに物を輸出しております日本、ヨーロッパ、中国など、こういう国にもばったりと注文が入らなくなったわけでございます。
 したがいまして、アメリカ人が借金できなくなった途端にアメリカで物が売れなくなって、アメリカに物を輸出している国の産業もとまってしまった。現状を簡単に申し上げれば、こんな状況ではないかなと思うんですね。
 事の本質を掘り下げてみれば、30年ぐらい前からアメリカがとにかく借金に借金を重ねて不均衡の上に巨大な需要を成り立たせていた部分、これが崩壊したわけでありますから、私は、アメリカを中心にとにかく金融を発展させ、輸入大国を続ければいいというアメリカの国策は事実上破綻したんじゃないかなというふうに思っております。
 金融の問題等も、今回アメリカで金融破綻が起きておりますが、私は、見ていて非常に気がつきますことは、80年前の世界大恐慌のときアメリカ政府は、もっと果敢に問題の本質追求をやっていたように思います。
 委員の皆様御案内のとおり、80年前の世界大恐慌のときにアメリカの上院でペコラ委員会という委員会ができまして、なぜこんな金融破綻が起きたのかという構造分析と、それからその後の対処を非常に積極的にスピーディーにやってまいりました。しかし、今のアメリカを見ておりますと、そういう本格的な金融、経済再建のための制度の見直しについての議論がなかなか進んでおりません。ああいうのを見ておりますと、随分衰退したなと私は思っている次第でございます。
 こうなりますと、我々日本といたしましても、アメリカにお金の運用を任せればうまくいくというようなことはもう通用しないと思います。さらに、アメリカ型金融システムをそのまま導入してくればうまくいくということはもうないと思います。アメリカであれだけシステム的な問題が起きたわけでございますから、もう一回我々も考え直さなければならない。
 さらに、特に貿易、これは非常に重大な問題でございます。委員の皆様御案内のとおり、つい昨年ぐらいまで我が国は、非常に長期にわたる景気回復を統計上していたわけでございます。しかし、それは輸出産業を中心とした景気回復であったことは否めなかったと思います。
 したがいまして、輸出がとまった途端に、我が国のGDP成長率は先進国の中でも最も大きな落ち込み幅を示しております。世の中を見ておりましても、輸出産業の一部は調子がよかった、しかし、内需関連、サービス業その他は大変厳しい経済状況であったというのが、この5、6年の状況であったと思います。
 日本経済は、昔から輸出依存体制が強過ぎるから、もっと内需中心の経済にしなければならないと言い続けられてきたわけでございますが、結果的にこの10年ほどの間、我が国は輸出産業に極めて偏重し、そして金融産業に極めて偏重した国家づくりになってしまっていたんだと思います。
 それが今回、このようなアメリカ発の危機に陥りましてこんな状態になったわけでございますから、例えば税収一つとりましても、輸出産業頼みの税収では国家が回らないと思います、金融頼みの税収では回らないと思います。税金を国民の皆さんに払ってもらうためには、まず景気がよくなって、お金を稼いでもらわなければならないわけで、今回ばかりは小手先の対策ではどうにもならない。みんなが本当に、国民がお金を稼げる体制に国家としてもう一回システムをつくり直さない限り、これはもとに状況が戻るということはないんだろうというふうに私は思っております。
 そして、政府というものの行動を考えた場合、私は二点あると思います。政府は、基本的に、当面の対策と抜本的政策という二つがやはり必要だと思います。
 当面の対策というのは、絶望の回避と私はあえて言いたいと思います。
 本当に、民間経済人はリスクがあるとは申しますけれども、それにいたしましても、この金融の物すごい混乱、さらには輸出産業の物すごい落ち込みは、多くの人の想像あるいは多くの経営者の実力を超えたものがあります。少なくともことし、来年ぐらいは何か政府が突っかい棒を入れてつぶれるものをとめないと、将来の産業の種火が消えてしまいかねない、それぐらいの状況でございます。
 ですから、2年ぐらいは突っかい棒を入れて、とりあえず絶望を回避して、その間に、先ほど申しました、もう金融依存、輸出依存の体制が続けられないということであれば、やはり新しい国家ビジョンをつくるしかないんだろうというふうに思います。
 委員の皆様も御案内のとおり、アメリカのオバマ政権は、グリーンインフラストラクチャーというような言葉を使いまして、新しい社会基盤をつくり直そうというようなことを言っております。私は、今国民が求めておりますのは、細かい部分の手直しではなくて、大きな、50年先まで見通せるような国家ビジョンだと思います。
 民間の企業でもそうなんですが、こういう厳しいときに小手先の対策を打っております会社はまずうまくいっておりません。やはり大きなビジョンのもとに積極的なリーダーシップを発揮するということが必要でございまして、これはもう、ここまで来ますと、経団連のような輸出系を中心としました会社の経営者に任せておきましても、なかなか物事ははかどらないと思います。あるいは、中小企業の経営者の自助努力だけでも問題ははかどらないと思います。やはり国家の指導者が、それはただ一人のだれかという意味ではなくて、政治全体がもう少し、こっちの方向に行くから皆さんついてきてくださいということをはっきり言ってほしいんだと思います。
 それは海外も同じではないかなと思います。例えばアジア諸国は、今回の金融危機、経済危機、日本以上に厳しい状況になっているところもございます。日本なんかまだ余裕がある方でございます。したがいまして、世界各国からも日本のリーダーシップを皆さん求めているんだと思うんです。
 やはり内需主体に、金融ももう少し、投機的な金融、ばくち型金融ではなくて、産業と金融が一体になったような形でこれはつくり直すべきなんだと思うんです。私は、アメリカが30年ぐらい前から経済をゆがめていったということは、逆に言えば、30年ぐらい前までの姿を少し思い起こしてみると答えは出やすいと思います。
 例えば、今、貿易赤字が急速にふえております。貿易赤字がふえておるということは、今までのように、この30年間のように、一方的な黒字がたまるということはないということでございます。一方的な黒字がたまるということでないということは、日本は金満大国の看板をいよいよおろさなければならないということであります。お金も、下手をすれば赤字になってしまう。黒字と赤字を行ったり来たりで必死になって金を国全体で稼ぐという、30年前までの我々の先輩が直面していた現実に我々はいや応なく戻るんだと思います。
 私は、最近の日本を見ておりまして、どうも現状認識が甘いような気がいたします。何か、怖い話をあえてしないような感じがいたします。それは、怖い話に遭遇して怖いことに直面しなくても、何となく豊かさがあるからやっていける、そんな感覚が官にも民にもみんな何かしみ渡ってしまったような感じがするんです。私は、それは大変危険なことではないかなと思うんです。
 今、金融なんかに関しましても、年金の運用、退職金の運用、皆さん、貯蓄から投資へということで運用しておられます。しかし、もうかっている人というのはほとんど見ることがございません。やはりこれだけ厳しい世の中で老後の資産がなくなってしまったということは大変なことでございまして、ですから、これはその損失の責任という話もあるでしょうけれども、しかしそれ以上に、では、これから少子高齢化社会を生き抜く元手はどう確保するか、これはやはりもう一回、国の中で考え直さなければなりません。アメリカ頼みというわけにはもういかないわけでございます。それから、少子高齢化の中で人の数も減ってまいります。
 したがいまして、我々は、過去10年間のとにかく引き締めに次ぐ引き締めをしていたこの時代をよく反省いたしまして、市場原理主義ではもうだめなわけでありますから、私は政治家の皆様に方針を変えるとはっきり言っていただきたいと思うんです。やはり、方針を変えると政治家の方に言っていただきませんと、民間企業も何となく昔の、グローバリゼーションだとか市場に任せておけばいいという頭から抜けられないわけでございます。それが民間の実情だと私は思っております。
 そして、私は、この2年間ぐらいの間に新しい金融システムをぜひ政治主導で立て直していただきたいと思います。もう民間の金融機関だけでは未来をつくる大規模な投資ができないと思います。私は、こういうときこそ、10年、20年、30年のスパンで何十兆、何百兆円という投資を政治主導で行っていただきませんと、我が国の新しい形はできないと思います。
 要するに、もう貸し渋り、貸しはがしがひどくて、これでは経済は縮小する一方なんです。そこに一歩勇気を持って、国民のお金をもう一回集めて、それは税金という形ではなくて、私は政策金融がよろしいと思っているわけでございますが、もう一回、こういう方向で国づくりをするからお金を出してくださいと言って、預金でも債券でもいいですから集めて、ぜひ大々的な投資をしていただきたいと思います。
 とにかく、国がここは積極的な投資に動くということをしませんと難しい。それが日本版のいわゆるニューディール政策になるんだろうというふうに私は思っておりまして、短い時間ではございましたが、私の思ったところを述べさせていただいた次第でございます。
 委員の皆様のますますの御活躍を御祈念申し上げて、お話とかえさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
○田中委員長 ありがとうございました。
 次に、吉野参考人にお願いいたします。
○吉野参考人(慶應義塾大学経済学部教授) ただいま御紹介いただきました吉野直行でございます。
 私だけたくさん資料を用意いたしまして、大部でございますが、表を使いながらまず御説明させていただきたいんです。
 大きな字で「バブル経済の発生と経済政策の対応」という紙がございます。それを一ページおめくりいただきますと、右の下に二ページと書いてございますが、きょうお話しさせていただきたい内容を一から三に掲げさせていただきました。
 一つは、世界的な金融危機が発生したわけですけれども、私は、今後ともこういう危機というのは発生するんじゃないか、では、なぜこういうことが発生したかということをまず最初に申し上げます。それから、1―5、1―6というところでは、民間の資金を用いたケインズ政策というのをもっと推進していただきたいというふうに思います。ケインズの時代は国債を発行しながらケインズ政策をするということだったわけですけれども、PPPとかさまざまなインフラボンドなどを活用しまして、今中国やインドでは、民間資金を用いていわゆる地方と中央を結ぶ道路や鉄道をつくろう、そういう動きがございます。それに関しても、日本に関しても同じように民間資金を活用した政策というのをお願いしたいと思います。
 それから二番目、二ページの下の方の二番目でありますが、やはり、アジアがこれからの一つのエンジン・オブ・グロースといいますか、成長の大きな源泉があると思います。中国やインドあるいはASEAN、こういう国々と日本がうまくタイアップしながら、その成長に対して日本が協力し、また日本がベネフィットを受けていく、こういうことが今後必要ではないかと思います。
 最後は、大量国債の発行と金利変動準備金の活用というのを御説明いたします。
 それでは、三ページをごらんいただきたいと思います。これがアメリカの急激な株価の下落で、御承知のように、2007年をピークに株価の下落が、左の数字を見ていただきますと、110が60ぐらい、こういうふうに減ってきております。
 四ページは、ちょっと私間違えて、住宅価格と株価と同じだったんですけれども、住宅価格もほぼ同じような下落をいたしております。
 五ページをごらんいただきたいと思いますが、特に五ページの下の方ですけれども、2008年のサブプライムローンが急に起こりますと、やはり金利が非常に上昇いたします。それから、貸し出しが滞る。こういう金融市場への大きな影響があるというのが五ページ目でございます。
 次は、六ページ目の七と書いてありますが、こういうことによりまして、アメリカでは銀行業の、大分問題のある銀行がふえてきておりまして、短期的な政策としては、この銀行に対する公的資金の注入あるいは株式の資本注入、こういうものを行っております。
 次に、七ページをごらんいただきたいと思います。ちょっと見にくく三つ書いてございますが、では、日本では資金の循環がどうなっているかというのを見たものでございます。ここの三つの表をごらんいただきますと、一番上が84年から90年のバブルの時期、真ん中が90年から2000年、一番下が2000年から2005年のところでございます。
 この図の見方は、左側の部門から右側にお金が流れるということを言っております。例えば、一番上の行をごらんいただきますと、金融機関からどういうところにお金が流れているかということでございます。金融から民間企業には、バブルのときには、年平均55・6兆円もお金が動いております。今度真ん中をごらんいただきますと、金融から民間企業にマイナス2・8兆円、つまり、金融機関から借りない、または金融機関が引き揚げている。一番下をごらんください。マイナス16・9です。つまり、日本の企業がお金を借りて設備投資をするということをしていないということです。これは、やはり日本の成長にとってマイナスであるということがわかると思います。
 さらに、一番上の一番右ですけれども、今度は金融機関がどれくらいお金を全体で運用しているか。縦をごらんいただきます。金融機関全体では、お金を集めて運用して、193兆円です。それから、上から三行目に民間企業、64兆円の資金を運用しております。それから、五行目の家計、一番右ですけれども、77・6兆円です。これくらいみんな活力があったわけです。次に、90年から2000年をごらんください。特に三行目の民間企業、マイナス8・5兆円。これはお金を引き揚げているということであります。それから、家計をごらんいただきますと、一番上の右側ですが、家計は全体で77・6兆円運用しておりました。1990年から2000年の、真ん中の五行目の一番右、39・4兆円。それが一番下に行きますと16・3兆円。こういうふうに、みんなが貧乏になってきてしまっているわけであります。
 結局、ではだれが一番お金を吸収しているかといいますと、四列目の縦のところをずっと見ていただきます。それの一番下の数字をずっと見ていただきますと、政府が一番お金を調達している。つまり、政府が一生懸命国債を発行してお金を調達して、それで国民の方々に分配していただいている、こういうことであります。
 ですから、今の金融の危機のときには仕方ないですけれども、将来的にはやはり上の姿に戻らなければ、日本経済の回復はないということであります。それをするためには、やはり私は、アジアと共存しながら、日本のメリットを生かして、それで日本がアジアにいろいろお手伝いをし、それからそこでいい形で回転していくということが重要だと思います。
 では、それができているかというのが八ページでございます。これは、東アジアの資金の流れをあらわしております。ちょっと汚いので申しわけないんですけれども、一番左側、真ん中、右側、三つの円グラフがございます。
 まず一番左側は、東アジアの諸国が、高い貯蓄率なんですが、どこに投資をしているかということです。アメリカに42%投資をしております。ヨーロッパに37%投資をしております。アジア域内では、一番左が8・2%しかありません。つまり、アジアで集められた貯蓄のほとんどは、アメリカやヨーロッパに主に長期の債券として流れております。
 では、今度真ん中をごらんいただきまして、どこからアジアにお金が来ているかといいますと、アメリカから37%、ヨーロッパから30%、これが株式とか短期資金で戻ってくるわけです。つまり、せっかくアジア人が貯蓄したものを、失礼な言い方をしますと、テラ銭をアメリカやヨーロッパに稼がせて、それで結局短期のお金ですぐ入ってきたり出ていったりする。ですから、せっかくまじめにアジア人が貯蓄をしたものがうまく活用されていない。どうやったらアジアの中で我々のお金が回るかということも、今後はぜひ考えていただきたい大きな問題だと思います。
 では、なぜこのようにアメリカに行くかといいますと、一つは、アメリカにたくさん金融商品がありました。このために、アメリカにまず一度行って、それからアメリカの資金が戻るというのが一番目です。それから二番目は、これまでやはりアメリカの債券というのは非常に信用度が高かったわけであります。それで、アメリカあるいはヨーロッパに流れました。それから三番目は、皆様もニュースでごらんになりますと、なかなかアジアの情報というのは入りません。大体ニュースで出るのは、ユーロと円の関係、円とドルの関係、アメリカの株、ヨーロッパの株、これくらいしかありませんから、アジアの情報が余りありません。そういう意味では、もっとアジアの情報をお互いに交換する、それからアジアの中でいろいろな債券のようなものをつくっていく、こういうことが必要だと思います。
 八ページの一番右側をごらんいただきますと、ヨーロッパはヨーロッパ域内で65・56%も回っております。ですから、ヨーロッパは自分たちの中でお金を回しているわけです。だから、アジアがやはりこういうふうになっていかなくてはいけないと思いますが、そのためには四つぐらいのレベルのいろいろな方策が必要だと思います。
 一つは、政治家の先生方の間での、政治レベルでのアジアとの協調が第一番目であります。それから二番目は、政府の間での、政府間のさまざまな結びつき、これが二番目です。三番目が、ビジネスの間での結びつき。それから四番目が、学者とかいろいろなところを通じた学問的な交流。この四つがうまくバランスをとりながら、アジアとの共存ということがぜひ必要ではないかと思います。
 日本では、三番目のビジネスの動き、これは非常にアジアと結びつきがございます。これは、製造業が円高の中でアジアにどんどん出ていきました。そして、アジアの生産ネットワークができたわけであります。ところが、1、2、4がまだまだこれからだと思います。ぜひ、先生方も含めて、アジアとの共存を図り、その中からアジアで資金を回し、さらにアジアの活力を日本と一緒に享受していくということが必要だと思います。
 次は、九ページをごらんいただきたいと思います。
 先ほど、アジアの資金がアメリカに流れ、それからアメリカから日本あるいはアジアにたくさん資金が流れると申し上げましたが、九ページは、東京証券取引所の、どういう人たちが売買をしているかというのをフローで見たものであります。
 ごらんいただきますと、2008年の中ごろは、半分以上、65%ぐらいですね、70%近く外国人が取引をしているわけです。つまり、日本の証券市場ですら外国人のシェアが多い。最近ですと53・8%と下がってきておりまして、これが日本の株価の下落にもつながっているわけであります。もう少し日本の国内でうまく回す、それからアジアで回すということが必要ではないかと思います。
 次に、十ページをごらんいただきたいと思います。
 今、特別会計の積立金を取り崩しながら、これからの景気対策にしばらく使っていこう、こういうことでございますが、これはやはり、100年に一度の景気の悪化でございますので、ある程度こういう積立金を使うということは必要であると思います。ただ、もっと重要なことは、長期的には民間の資金をさまざまな政策のために調達していただきたいと思います。それは最後に申し上げます。
 この特別会計の積立金の中では大きいものが三つございますが、一つは年金の積立金。これは大体154兆ぐらいございますが、これは将来のお年寄りのためにとっているわけですから、この積立金を取り崩すことは絶対できないと思います。それから二番目の外国為替特別会計の積立金。これも、これまでためてきた黒字の資金でありますけれども、これは為替レートが変動したり金利が変動するときに大きく動きます。この外為の大半は、アメリカの国債を買っているというのが現状でございます。さらに最近の円高で、もし時価で評価しますと、残念ながらこの積立金はほとんどないというのが現状でございます。そうしますと、使えるのは三番目の財政投融資の特別会計の積立金ということになります。
 財投の場合、なぜこういう積立金を持っているかと申し上げますと、財政投融資が自立採算で、自分の中で集めた資金を中小企業あるいは海外のために貸し出す、こういうのが財政投融資のやり方であります。そして、一番最後に書いてありますけれども、万一金利の変動があっても、自分のところである程度留保を積んでおいて、絶対に外からは借り入れをするようなことがないようなやり方の規律づけをつけるためにこういう積立金を積んでおります。
 ところが、これまで千分の百というのがあったんですが、それを50まで減らすということになりました。これは、シミュレーションしますと、3千本のうちの大体三本程度がこれですと赤字になる可能性があるということであります。
 なぜそんな積み立てが必要かと申し上げますと、これまでは長期で貸して、それで短期でお金を集めておりましたので、その資金のミスマッチというところがあります。それから、現在は、長期の貸し出した資金がありますので、金利が低いですから収益が上がっているわけです。ところが、これが逆転しますとこの積立金も赤字になって、だんだん減ってくる、そういう可能性がございます。だから、そういう意味では、現在、この一部を景気対策に使うということは必要だと思いますが、長期的にはやはり千分の50のあたりまで戻す必要があると思います。
 最後に、こちらの図を使いながら、世界的な金融危機とそれから今後の日本というのを少し御説明させていただきたいと思います。
 資料と書いてございまして、カラーの図がございますが、まず一番下をごらんいただきたいと思います。下の方に、一ページから、一番最後が五ページと書いてございます。
 これは日本の図でございますけれども、赤いところは銀行の貸し出しでございます。日本の一つの問題点は、やはりバブルで銀行の不良債権が大きくなり、それで500兆円あった銀行の貸し出しが400兆まで減った、これくらい、100兆円も銀行の貸し出しが減ったところに、日本の景気回復がおくれたところがございます。アメリカはこれを回避するために、公的資金を非常に短い期間に入れております。ですから、そういう意味ではアメリカ、ヨーロッパは、日本の経験を踏まえ、金融機関、特に銀行の貸し出しが滞らないようにするという短期の政策は今のところ成功していると思います。
 下の図は、地価と株価の変動でございます。
 時間の関係で、三ページをごらんいただきたいと思います。
 三ページの下の方に、これは中国の上海の株価でございます。これもごらんいただきますと、中国も約3分の一程度まで株価がピークと比べると下がっております。ところが、中国と日本の違いは、三ページの一番下ですけれども、銀行部門は中国は傷んでおりません。日本の場合は、先ほど一ページにありましたように、500兆円あった貸し出しが400兆になる、こういうふうに減ってきたわけですが、中国の銀行が傷んでいない理由は、一つは、銀行が株式を持っていない。それからもう一つは、地価の下落を中国政府が抑えておりまして、高どまりさせております。そういう二つの理由で、中国の株式の下落は銀行に影響を与えていないということでございます。
 最後に、四ページ、五ページでございますが、短期の政策と中長期の政策というのがあると思います。現在、各国では、短期の政策としまして金融機関の援助というのをしております。
 最後の五ページをごらんいただきたいと思います。これが私がきょう申し上げたい、民間の資金を活用したケインズ政策というのをぜひ今後日本でもどんどん進めていただきたいと思います。
 では、どういうようにやるかということですが、五ページの図がございますが、例えば高速道路だったといたします。そこから料金収入が入ります。例えば、現在ですと、高速道路の建設などはすべて国の資金、財投の資金でやっているわけですけれども、一番下のように、30%程度は税金あるいは国債のお金で調達いたします。しかし、上の、70%は民間の資金を集めます。高速道路から集まってきた料金を民間の投資家に配分する、こういうやり方であります。これがいわゆる、民間の資金を一部持ってきて、それによって公的な仕事をするというやり方です。
 このいいところは、民間の投資家に配当の率がわかります。そうしますと、効率のいい道路であれば、この配当の率が高くなる。そして、効率の悪い道路であれば、配当の比率が低くなる。さらに、余りにも悪い道路であれば、民間の資金が来ない。こういうように民間から、ある程度公的な仕事に対してもチェックができるということであります。
 実は、これは中国でお話ししましたところ、中国はこれを使いながら地方と中央の間の鉄道とかあるいは高速道路網をつくろうということを考えております。インドでも始めております。そういう意味では、アジアでこういうことが始まっておりますので、日本でも、先生方のお知恵を拝借しながら、どういう事業にこういうものができるのかということをぜひ考えていただければと思います。
 ちょっと時間をオーバーしてしまいましたけれども、以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
○田中委員長 ありがとうございました。
 次に、中里参考人にお願いいたします。
○中里参考人(東京大学法学部教授) 本日は、意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。そこに簡単なレジュメをお配りいたしましたけれども、その順番でお話をいたします。
 ちょっとテクニカルになりますけれども、まず、改正案全体に対する所見でございます。
 現下の我が国の経済は、明らかに景気後退局面に入っておりまして、今後、下降局面が長期化、深刻化するおそれが、先ほどのお話にもありましたように指摘されているわけです。こうした危機的な経済状況から脱するためには、もちろん、持てる政策手段を総動員して、景気回復に向けて取り組む必要があることは言うまでもございません。
 しかし、他方、少子高齢化やグローバル化といった経済社会の構造変化の中で、我が国の直面するさまざまな課題を解決するために、税制の抜本改革を行うことが緊急の課題であるということも忘れるわけにはまいりません。とりわけ、社会保障の安定財源の確保は、国民の安心を確保するために、決して避けて通ることのできない問題でございます。
 こうした中、今回、本委員会において審議が行われております平成21年度税制改正案においては、私がざっと見ただけでも、過去最大規模の住宅ローン減税や省エネ等に関する投資促進税制など、随分と思い切った政策税制が盛り込まれております。また、これらのほか、外国子会社からの配当を益金不算入とする制度の導入など、これまでの政府税制調査会における議論等を踏まえた税制改正も盛り込まれているわけでございます。
 そして、何よりも重要な点として、本年の改正税法の附則におきまして、今後の税制抜本改革に関する道筋が示されている、この点が注目に値するわけです。これは、一昨年における政府税制調査会の答申「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」を踏まえたものでございまして、私、これを画期的なものとして高く評価している次第でございます。本年度の税制改革に盛り込まれた種々の政策税制とあわせまして、こうした将来の税制改正のあり方を一体的に示すことは、国庫を預かる政府といたしまして、その責任を示すものではないかと考えております。
 この中で、私は、国際課税に関する改正、さらに消費税を含む税制の抜本的な改革について所見を述べたいと思います。
 まず、国際課税に関する改正でございますが、今般の法案に盛り込まれております外国子会社に関する外国税額控除制度の見直しについて触れたいと思います。
 進展するグローバル化や事業形態の複雑化、多様化のもとで、クロスボーダーの経済活動に対する課税については、我が国の適切な課税権の確保と経済活動に配慮いたしまして、日本の経済の活性化とのバランスを保つ必要がございます。この観点を踏まえ、本法案におきましては、国際的な二重課税排除の制度について、外国税額控除制度の大枠を維持しつつ、親会社が外国子会社から受ける配当を益金不算入とする制度を導入する改正が盛り込まれました。
 配当還流につきましては、一定の分野に使途を制限するといった政策税制的な観点ではなく、企業の判断によって配当を戻すタイミングや使途をみずから選べるということ、すなわち、企業の配当政策に対する税制の中立性という観点が重要でございます。また、間接外国税額控除制度につきましては、これは法科大学院等で講義していると頭が痛くなるほど制度が複雑でございますし、また実務的にも書類提出の煩雑さが言われておりましたが、この制度が導入された結果として制度を大幅に簡素化できるということで、望ましい改革ではなかったかというふうに思っております。
 次に、消費税を含む税制の抜本的な改革の道筋についてでございますけれども、この法案で最も注目される附則第104条に規定された消費税を含む税制の抜本的な改革に関し所見を申し述べます。
 税制の抜本改革の必要性については、私も特別委員として参加しております政府税制調査会において、一昨年、集中的な議論が行われました。ここで指摘されたのは、我が国における経済社会の全般にわたる激しい構造変化、すなわち、主要先進国の中で例を見ないほどの速さで急速に進行している少子高齢化と、経済のグローバル化の急速な進展という疑いもできない事実でございます。
 少子高齢化は、年金、医療、介護などの社会保障給付の増大を必然的に招いているわけでございますが、これを賄う財源のうち、公費負担につきましては、現在、その約3分の一程度を将来世代へのツケ回しということで、それに依存している状況です。国、地方の債務残高は、2009年度では対GDP比150%を超えることが見込まれておりまして、こうした状況が続くならば、社会保障制度の持続可能性に対する国民の不安感、これを惹起するばかりか、国際的にも我が国経済への信認を損ないかねません。
 他方、経済のグローバル化の進展やバブル経済崩壊後の我が国の経済停滞と軌を一にして、都市と地方、大企業と中小企業、あるいは正規雇用と非正規雇用といった、さまざまな側面で格差の問題が指摘されるようになったことも重大な変化でございます。
 こうした問題意識から、政府税制調査会におきまして、一昨年の11月に税制の抜本改革に関する網羅的な答申を取りまとめまして、政府に対しては、適切な時期にこれを実施していただくよう求めてまいりました。また、昨年11月の答申においては、さらに一歩進みまして、当時、政府において議論が進められていた中期プログラムにつきまして、政府税制調査会の提言内容が同プログラムに十分に反映されるとともに、その実施時期が明示されるよう強く求めていたところでございます。
 今回の改正税法附則の内容は、中期プログラムを踏まえまして、抜本改革の実施時期及び基本的な考え方を明示したものであると理解しております。具体的には、消費税を含む税制の抜本的な改革について、経済状況の好転を前提として、税制抜本改革が遅滞なく実施できるよう、必要な法制上の措置を2011年までに講ずることとされておりまして、こうした道筋が法制上明確化されたことは実に大きな進歩ではないかと考える次第でございます。
 次に、税制抜本改革の基本的な考え方でございますが、今般の附則第104条の第三項におきまして、消費税を含む税制の抜本的な改革を行うに当たって、具体的にどのような基本的方向性で各税目の改正を行うのかといった具体的な論点が実は掲げられております。
 まず、個人所得課税につきましては、所得再分配機能の回復の観点から、高所得者の税負担の引き上げと、中低所得者世帯の負担の軽減の検討が述べられております。政府税制調査会における議論でも、我が国の所得税は、これまで幾たびかにわたる税制改正によって、勤労意欲や事業意欲を阻害しないようにとの観点から所得税の累進緩和が行われてきた結果、その財源調達機能や所得再分配機能が低下しているとの認識でございまして、私も、社会保障制度とともに所得再分配を担う存在として、所得税の役割を適切に発揮させていくことは重要な課題であると考えている次第でございます。
 なお、附則で、給付つき税額控除を今後検討することとされている点について一言所見を述べさせていただきます。
 いろいろお考えはあるでしょうけれども、この制度は、税金を支払った者に税金をお返しするというのみならず、支払っていない方々についても給付を行うというものでございます。仮にこれを我が国で実施する場合には、特に執行面で相当大きな壁を乗り越える必要があるものと考えます。
 端的に言いますと、税務署は、お金持ちについての情報は持っていますが、そうでない方に対する情報は余り持っていないということでございます。適正な給付を行うためには、現在所得税を納めていない者も含めて、所得を正確に捕捉する必要がございますが、我が国において、徴収の大部分を源泉徴収に頼っており、また納税者番号制度も整備されておりません。今般の附則においても、「歳出面も合わせた総合的な取組の中で」ということにされておりますけれども、少なくとも実行可能な制度が仕組まれるよう、今後、幅広い観点からの検討が行われる必要があると考えております。
 法人課税につきましては、政府税制調査会の議論においては、経済のグローバル化の進展に伴い、国境を越えた経済活動が活発に行われるようになってきている中で、企業の税負担面での国際的なイコールフッティングを図るべきであり、法人課税の国際的な動向に照らすならば、法人実効税率の引き下げが必要であるとの意見が強かったかと記憶しております。
 他方で、課税ベースや社会保険料負担を考慮した企業負担を考えてみますと、これは国際的に見て日本は必ずしも高い水準にあるわけではないとの試算も行われました。こうした中で、今後の検討に当たっては、厳しい財政事情も踏まえまして、今般の附則にもあるように、課税ベースの拡大といったものについて検討が行われるべきなのではないかというふうに思うわけです。
 消費税についてですが、政府税調におきましても、経済の動向や人口構成の変化に左右されにくく、世代間の公平の確保に資するといった観点から、税制における社会保障財源の中核を担うにふさわしいとの認識でこれは一致しております。
 消費税につきましては、低所得者の負担が相対的に大きいとの指摘があるわけでございますが、再分配政策を語る上では、一つの税目の負担のみに着目するというのは誤りでございまして、ほかの税目や社会保険料を含む負担全体、さらには社会保障給付等における受益全体をも考慮に入れた議論が行われる必要があると考えます。
 仮に、消費税収のすべてを社会保障給付として還元するのであれば、当然のことでございますけれども、社会保障の所得再分配効果が結果として高まるということになります。したがいまして、社会保障の受益は一般的に低所得者で大きいということがあるわけですから、逆進性の議論についても、受益と負担を通じて考えればさほど重要な問題とはならないという指摘も理論的には可能でございます。
 附則におきましては、複数税率の検討についても述べられておりますが、この点に関し、政府税調におきましては、再分配効果や制度の簡素化、中立性、事業者の事務負担、執行コスト等を考慮すれば、極力単一税率が望ましいとの結論でございます。また、社会保障の安定財源として一定規模の税収確保が必要となることを考えますと、軽減税率による減収分だけ標準税率を高くせざるを得なくなるというような心配もあるということに留意する必要があります。
 附則では、また、複数税率の検討について、「歳出面も合わせた視点に立って」「総合的な取組を行うことにより低所得者への配慮について検討する」という形で、非常に注意深い規定ぶりとなっておりますが、これはこれまで私が申し上げたような視点を踏まえたものと解しております。
 相続税につきましては、所得税と同じく、最高税率の引き下げを含む税率構造の見直しが行われてきたことに加え、基礎控除の水準が引き上げられてきた結果、年間死亡者数のうち相続税の課税が発生する割合が4%程度まで減少するということで、資産の再分配機能が低下しているという議論が税調では行われました。
 こうした状況に加え、相続税をめぐる今日的な課題として、格差の固定化の防止や老後扶養の社会化の進展への対処が挙げられます。つまり、相続を機会に高齢者世代内の資産格差が次世代へ引き継がれる可能性が増してきているのではないかといった点や、公的な社会保障制度が充実し、老後の扶養を社会的に支えていることを踏まえ、被相続人世代が生涯にわたり社会から受けた給付の一部を相続税という形で社会に還元することを求めることができないかといった議論がなされているところでございます。
 以上のような点も踏まえ、今後、相続税の税率構造や課税ベースを見直していくことが必要であると思います。
 以上、平成21年度改正税法に関する所見を述べてまいりましたが、今般の税制改正には現下の危機的な経済状況に対し政策的な処方せんを示したものが非常に多く含まれておりまして、これが所期の効果を発揮するためには、平成21年度予算とあわせて年度内に法律として成立し施行される必要がどうしてもございます。もたもたしている暇はございません。
 将来行われる税制改正の検討の基本的方向性をこのように法律の形で具体的に示すというのは、恐らく初めての試みなのではないかと思います。その意味で、今回示された基本的な方向性は、政府税制調査会が一昨年に示しました答申であります「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」と軌を一にするものであって、この答申の取りまとめに参加した一員として、ぜひ今後こうした方向性で議論が先生方により熱心に進められることを強く希望するものでございます。
 ありがとうございました。(拍手)
○田中委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
≪佐々木議員質問部分≫
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 今回提案されている国税法案の附則に、「消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする。」こういうことが書き込まれたわけであります。
 与謝野大臣とも私はこの場で何度も議論をいたしましたが、大臣のお考えはもともと、消費税を一度にどんと上げた方がいい、こういうお考えのようでありまして、来年の国会にも提案をしたい、つまり、この附則にある法律上の措置を講ずるということを提案したい、こういうふうにおっしゃっておりました。
 そうなりますと、9月までに行われる総選挙の最大争点の一つになる、このようにもおっしゃっていたわけであります。つまり、自民党と公明党は、消費税の増税というものを総選挙の大争点として国民の前に提示をし、私どもはこれに当然反対という立場で選挙をやることになると思うわけであります。
 そこで、2011年度から実施をするという消費税の増税について、国民的に言いますと、さまざまな世論調査では大体6割前後が、社会保障のためという理由であってもそれはやってはならない、反対であるという声であります。
 今のタイミングで、今度のこういう法案の中に附則を書き込むということ、このことについて、それぞれ3人の先生方の御見解、御感想をお聞かせいただきたいと思います。
○藤原参考人(経済アナリスト) お答え申し上げます。
 先ほど申し上げましたように、私は、この時点で消費税率の引き上げのお話、政治家、政治の方からお話しになることは、甚だ不見識なのではないかなと思っておる次第でございます。国民は、お金が財布に入ってくればお金を払うと思います、そんな納税意識の低い国民とは思えませんので。まず2年なら2年、3年たって、景気が本当によくなって、ああ危機を脱したと思って、それからお金をいただく話をしなきゃならない、それが第一点でございます。
 それから第二点目といたしまして、消費税そのものの構造には多大な問題があると思います。課税をされて、顧客からお金を集めているのに納税しない人もおります。徴税漏れも甚だしくあるわけでございます。したがいまして、不公平な税制にもなっているかなと思います。ですから、そういう面について、適正な課税を行うということを担保されないままに、いたずらに消費税率の引き上げをするということはおかしいと思います。
 さらに、社会保障負担等を税で賄おうという御議論もあるわけでありますけれども、先ほど申し上げましたように、財政それから社会保障、一体お金はどれだけあってどれだけ足らないのか、まずその数字を国民に示さなければ、私は、国民は新たなお金を出すということに対して本能的に拒否反応を示すんだと思うんです。
 それは、いたずらに納得させるというよりも、情報開示をしていただきまして、その上で、これはどうしても足りないと言えば、説得にも説得力がわくものだと思います。増税がもし必要であれば、ぜひそういう帳簿の徹底開示をした上での議論をすべきだ、そのように考えておる次第でございます。
 以上でございます。
○吉野参考人(慶應義塾大学経済学部教授) 日本の財政の支出を見てみますと、戦後すぐのときには社会保障が15%か20%、低かったと思いますが、それが30、40%にやはり高齢化の中で出てきているわけですから、そういう意味では、財政の歳出に占める非常に大きな割合を持っているということは否めないと思います。
 ただ、社会保障がこれだけ必要だから、ではそれに対してどうしようというよりは、まず最初に、社会保障はこれくらい将来かかるかもしれないけれども、先ほど申し上げましたように、高齢者でも働ける人たちにもっと働いていただいて、何とかそれを低くしようという努力はぜひしていただきたいと思います。
 日本では、退職された後も働きたいという方がたくさんおられます。現在、いろいろな労働市場と言うと変な言い方ですけれども、大学卒のところでは非常にマーケットがございますが、そうでないところでは余りないわけです。そうであれば、退職された方々のところでまた一つ大きな労働の市場といいますか、そこで需給を考えるというようなこともぜひ必要だと思います。
 ですから、まず一つは、社会保障の歳出で減らせるところ、そして働ける方々には皆さんに働いていただくということがまず第一だと思います。
 それから最終的には、税金で集めたお金で歳出をしなければ、国家は必ず破産します。そういうことを言っていて、ブラジルとかアルゼンチンとか、みんな最後はそれになってしまったわけです。ですから、最終的には税金で歳出を見る。
 それからもう一つ、私が指標としてつくっていただきたいのは、歳出と歳入の何倍ぐらいなのかという指標が国民が全然わからずに、自分たちはただいろいろな便益をいただいているという形式ですから、現在、税金の部分がどれくらい、そして国債の部分がどれくらいということが、歳出を受け取る方々にもわかるような指標というのは必要ではないかと思います。
 以上です。
○中里参考人(東京大学法学部教授) 今回の附則の意味でございますけれども、財政規律について国会が真剣に考えているということを内外に示したという点に意義があるのではないかというふうに思っております。
 アメリカもヨーロッパも、先ほど申し上げましたとおり、どんどんこれから国債の発行をふやさなければいけない状況です。日本も、今までそうでしたが今後もそうなるという中で、財政規律のない国の国債というのは暴落するであろう、それから通貨も暴落するであろうということでございまして、そういうことが起こらないようにするためには、一定の財政規律について我々が真剣に考えているということを内外に示すということは必要になってくるんだろうと思います。
 あの附則については、テクニカルに申しますと、さまざまな読み方ができるのではないかというふうに思いますけれども、いずれにせよ、消費税について全く考えていないわけではなくて、将来的に上げる可能性が十分あるし、それを真剣に考えているんだということ、この点を国民にも示し、外国にも示すことができたのではないかというふうに考えておるわけです。
○佐々木(憲)委員 財政規律が必要だというのは、私もそのとおりだと思うんです。ただ、それを消費税で賄うのかどうかというのが問われているわけであります。
 少し過去にさかのぼりまして、大ざっぱな統計ですけれども、消費税が導入されましてから20年たつわけでございます。この間消費税をどのくらい国民が払ったか、累計ですけれども、213兆円消費税を払っております。これに対して法人3税、法人税、法人住民税、事業税ですね、この法人3税の場合は、この20年間で減収になっておりまして、累計で減収分が182兆円なのでございます。さまざまな減収の要因があると思いますけれども、私は、その中に法人税の減税というのがあったと思います。
 そういう意味では、消費税の方はこの間増税が行われました。法人税は減税がありました。簡単に言いますと、200兆円国民が払って200兆円近く企業の減税に回った、こういうふうにも言えないことはないわけでございます。またそのほか、高額所得者の減税あるいは証券優遇税制、こういうことも行われてきたと思うんです。
 したがって、税金のあり方ということを考えますと、どうも、大きな利益の上がっているところには減税が行われて、家計が赤字の家庭にかなり重い負担がかぶさってきたのではないか、このように思いますけれども、この点、3人の先生それぞれ感想をお伺いしたいと思います。
○藤原参考人 お答え申し上げます。
 私は、この10年、15年の、先生今御指摘の税のことを含めまして、企業の運営をしておりました企業経営者には重大な責任があったと思います。不景気だということで、減税その他さまざまな施策を国からいただいたわけでございます。しかし、それに十分にこたえていなかったんだと思います。
 もし、減税をあるいは財政投融資を十分に生かしていれば、今我が国は景気がよくなっているはずでございます。ところが、景気は非常に悪い。おまけに、最近になりましてどんどん雇いどめとかいうことを言いまして、どんどん行政の方にコストを押しつけてくる。あなたたちは今まで幾ら減税をもらって幾ら優遇税制をしていただいたんですかと、私は企業経営者の方にもぜひぜひ反省をしていただきたいと思うんです。
 企業経営者が公の金を使うということに対してもっと真剣な意味を持って、貧しい人から集めたお金を自分たちが使わせていただくということの責任、貧しい人たちにもお金が還元されなければそれは国民は怒り出しますから、そういうことを総合的に経営者にやっていただかなければならない。
 私は、この10年、15年間の日本経済を見ておりますと、この間を担っておりました特に大企業の経営者には重大な責任があったと思うわけでありまして、ですから、政治だけではなく、企業経営者がもっと襟を正してお金の使い道を改めていただきませんと、幾ら減税をしても景気がよくならない、したがって取りやすいところから取る、悪循環が絶えないのではないか、私はかように思っている次第でございます。
○吉野参考人 先ほど、消費税は213兆円、それから法人税は下がっているというお話でしたけれども、日本の法人税が下がっておりますのは、私のレジュメでも御説明しましたけれども、日本の製造業の国内での生産が相当落ちてきております。これは、円高の中で、最初は東南アジアに直接投資をし、それから中国に行き、最近はベトナムに行く、これがアジアの発展につながったわけでございます。ですから、ただこの数字だけで、日本の法人税が減ってけしからぬということにはならないと思います。
 さらに、法人というのは海外との競争をしておりますから、日本がそこで非常に不利な税制をしますと、今後ますます、日本の法人企業は海外に出ていってしまうと思います。やはり最終的には、日本で産業があってこそ、日本全体の消費者も、それから収入が入るということでありますから、ただ短期的にだけ見て、ここをゼロにすればいい、こっちからうんと取ればいいというふうになりますと、長期的に日本の産業構造は全くだめになると思います。
 そういう意味では、やはり税のバランスを考えて歳入を考えていかないといけないというふうに思います。
○中里参考人 余り外国との比較をあれこれ申し上げても、そのこと自体が国民の方々にすぐ理解していただくわけにはいかないというところはあるんでしょうけれども、ヨーロッパの北欧、デンマークとかスウェーデンとか見ておりますと、20%を超える消費税を負担していらして、その分福祉も厚くて、消費税の税率が高いから住みにくい国でだめだという、これは一種のプロパガンダでございまして、北欧に行けば、消費税の税率が高いから我々は老後も安心だ、そういうことになっているんだろうと思います。
 ですから、問題は、消費税がいいか悪いかではなくて、その税収を何に使うかということなんだと思っておりまして、それを社会保障の充実のために使うのであれば、これはいい税金だということになりますし。
 ただ、忘れてはならないのは、佐々木先生何もかもおわかりの上でおっしゃっているんだろうと思いますが、法人税や所得税につきましても、さまざまな特別措置がまだございますので、この整理は十分に行った上でということは当然のことではないかというふうに思います。
○佐々木(憲)委員 私もいろいろな議論をしていきたいんですが、きょうは参考人の御意見を伺う場なので。
 ただ、一言申し上げますと、法人税が高いから外国に日本の企業が出ていくというふうにおっしゃいましたが、経産省の調査によりますと、その比率は非常に低いんです。外国に出ていく最大の理由は、アジアの労賃が日本の六分の一、十分の1、こういうところが一番理由が多いわけであります。あるいは、アジアの市場に近いところに生産拠点を持ちたい、それから、資源、原材料が近くにある、こういうものが海外進出の最大の理由に挙がっているわけですね。したがって、何か税金だけで、高くなったらぱっと出ていって、低くなったら帰ってくるなんて、そんな簡単なものではないということだけは申し上げておきたい。
 それから今、OECDなどでも、法人税の引き下げ競争というのは各国の税収にとってマイナスである、こういう指摘もされているわけでございますので、その点は指摘をしておきたいと思っております。
 それから、ヨーロッパの点について言いますと、例えばスウェーデンなどは税率が25%ですから、非常に高いですね、付加価値税。しかし、社会保障の財源としてそれがどの程度使われているかといいますと、その分は8・6%の分でございます。
 つまり、社会保険料の事業主負担あるいは法人税その他、所得税などの税金が社会保障財源として比率は非常に高いわけでございまして、ですから、何か消費税を上げなければ社会保障が充実しないとか、ヨーロッパは消費税で社会保障をやっているんだとか、こういう議論は実態とはちょっと違うわけでございます。その点は少し指摘をしておきます。
 その上で、日本の消費税の増税がこれから行われようとしておりますが、政府の側は、いや、その分は社会保障に回す、社会保障に回せば低所得者に厚く回るので、逆進性というのは解消されておつりが来るんだ、こういう議論をされているわけですね。
 しかし、私は、その前提というのが非常に架空の前提だと思うんですよ。といいますのは、過去の事例で見ましても、消費税が導入され、それから増税をされました。そのときの理由は、すべて社会保障のためでありました。あるいは、この間、所得税、住民税の増税が定率減税の廃止で行われましたね。この増税分は、国は、2・8兆円国に入りますよ、これは年金の基礎年金の部分、2分の1に引き上げのために全部使いますと。政府税調もそのように言っていたにもかかわらず、これは五分の一程度しか使われない。あとはどうしたんですかと聞いたら、赤字の穴埋めに使いましたと。
 だから、今度はまた消費税、当面は埋蔵金でやりますが、3年後は消費税でやります。こういうことで、次から次と、理由は社会保障を挙げながら、実際には違うことをやっている。こういうことでは、なかなかこれは国民から信用されないわけですね。だから、先ほどの世論調査のような批判が非常に強くなっているわけです。
 ですから、私は、今回のこの附則ということを考えますと、さまざまな角度から議論はあると思いますが、やはりもう少し国民の立場に立った税制というものを考えた上で提起をすべきだったと思います。この附則には私は反対でございます。
 最後に、日本の税制のあり方について、やはり所得あるいは利益のあるところが応分の負担をしていくということが非常に大切なことだと私は思いますので、今後の税制を考える場合どうなのか、時間がありませんので、藤原参考人にお伺いをして、終わりたいと思います。
○藤原参考人 お答え申し上げます。
 私は、やはり国民的視点から申し上げるならば、狭い意味での税以外に、社会保障負担も税と同様に国に納めているお金ということになると思います。さらに最近は、地域おこしその他で皆さん独自にお金を使うケースもふえてきております。やはり私は、この辺で、広い意味での税の抜本的な見直しはどうしても必要になるかなと思います。公のためのお金をどう集めてどう使うかという議論でございますね。
 ですから、例えば税制改正等も今先生御指摘のとおりでございまして、どうも何か議論と結果がよく見えない部分がある。あるいは、例えば国会の閉会間際に、何か見えないところのこそくな増税の一条が加わっちゃうことがよくあるんですね。税制改正がまとまりましたと、えっ、だれがこんな一条を入れたんですかというようなことで、こそくな増税が中小企業に迫られる。本当に多いんです。ですから、そういうことが積み重なりますと、本当に不信感が消えません。
 私は、何度も申し上げるようでございますが、日本国民の納税意識はそんなに低いことはないんだろうと思うんです。したがいまして、ぜひ信頼感の回復という形で、制度をまず全部透明に、帳簿の公開をしていただきまして、その上で、社会保障あるいは町おこしその他公のお金の集め方という観点で抜本的な見直しをしていただきたいと思います。
 そしてやはり、委員の皆様が的確に行政を監督していただきまして、国民があっと驚くようなことのないようにお仕事をしていただくことを切にお願いしている次第でございます。
 以上でございます。
○佐々木(憲)委員 大変貴重な御意見を3人の先生方にお伺いいたしました。ありがとうございました。
 以上で終わります。

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