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景気回復

2004年03月23日 第159回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【235】 - 質問

日銀総裁に景気の認識などで質問「回復のカギは個人消費」

 2004年3月23日、財務金融委員会で日銀から半年ごとに国会に報告される「通貨及び金融の調節に関する報告書」が審議されました。佐々木憲昭議員は、景気の認識などについて福井俊彦日銀総裁に質問しました。

 日銀「報告書」は、景気の現状について、「企業収益は、リストラの効果もあって引き続き改善した」とのべる一方、「完全失業率は総じて高水準が続くなど、家計の雇用・所得環境は、なお厳しい状況から脱するに至らなかった」と書き、「個人消費は、弱めの動きを続けた」と指摘しています。
 現在の「回復」現象は、輸出関連の一部大手企業の利益拡大とそれに関連する設備投資の拡大にすぎません。経済の自律的回復の最大のカギは、内需の中心である個人消費がどうなるかが重要です。
 佐々木議員は、新たに政府の7兆円負担増政策が加わることを指摘し、「家計に明るさが見える要素が非常に少ない」として、日銀総裁の認識をただしました。
 福井総裁は、「個人の負担をなるべく少なくする方向、支出にむだがないようにする方向、年金や医療など将来の所得を保障する制度的枠組みの不安定性を除去し、制度の将来について崩壊リスクを感じさせないということが非常に大事だ」と述べました。
 またこの日、佐々木議員は、この間急拡大している政府の為替介入について質問しました。
 外為特会の資金調達額は、円売り介入にともなう為替発行残高の増加に応じて大幅に引き上げられ、今年度予算案では140兆円という、かつてない規模になっています。日銀のかつてない量的金融緩和政策が、事実上それを支えています。
 現在の為替介入は、乱高下を押さえながら全体として円安に誘導する政策となっていますが、為替水準というのは実体経済の反映であり、為替介入は一時的に変化を引き起こすにすぎないものです。佐々木議員が、「そこにはおのずと限度があると思うがどうか」と聞いたのにたいし、福井総裁は、それを認めました。

議事録

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 初めに、日銀の金融緩和政策と為替介入の関係についてお聞きをしたいと思います。
 政府の為替介入の規模というのは、この間非常に急速に拡大をしてまいりました。これに対して、内外の風当たりも強まっているわけでございます。外為特会の資金調達額は予算によって限度額が設定されておりまして、円売り介入に伴う為券発行残高の増加に応じて、限度額も大幅に引き上げられてまいりました。来年度予算、2004年度予算案では140兆円と、かつてない規模になっているわけであります。
 実際の介入資金は政府が短期証券を発行して調達をしておりますが、これだけ規模が拡大いたしますと、金融機関、機関投資家の、短期証券、FBの購入のゆとりというものがなくなってくる。しかし、現在の局面では、日銀がかつてない量的金融緩和政策を行って事実上これを支えているということであります。
 場合によっては、例外的、時限的な対応によって直接支えることもあるということですが、総裁は、為替介入のために必要な資金というものは幾らでも供給する、こういう姿勢に立っておられるのか、それとも、何らかの自己規制が必要であると考えておられるのか、まずこの点についてお聞きしたいと思います。
○福井参考人(日本銀行総裁) 日本銀行は、現在実行中のかなり思い切った金融緩和政策、この方向性と、為替市場の不規則な動きに対して牽制をするための為替市場への介入は、現時点において方向性は矛盾はないというふうに考えております。
 しかしながら、日本銀行が介入政策に対して直接にファイナンスをするとか、そのファイナンスを強く意識しながら金融緩和政策を進めるというふうな構図にはなっておりません。日本銀行の場合には、あくまで、経済の情勢、物価の情勢、そして特に金融市場の状況、この中で資金のやりとりがくまなく円滑にいくようにということに最重点を置いて、必要かつ、今はもう最大限と言っていいと思いますが、最大のスケールの流動性を供給している。
 そういたしますと、金融市場におきましては、かなり緩和した状況が実現する。その土壌のもとにおいて、結果として、政府の方の外為市場介入のための必要円資金の調達が容易になっているということは言えると思いますけれども、それが主目的で我々は金融緩和を推進しているというわけではございません。物事の順序立てというものはやはり違っているということでございます。
○佐々木(憲)委員 現在の為替介入というものは、今おっしゃったように、乱高下を抑えながら、全体としては円安への誘導という性格を持っていると私は思っております。もちろん、日銀が直接為替介入をやっているわけじゃなくて、政府自身が政府の判断でやっているわけですけれども。
 総裁に、これは一般論としてお聞きしたいんですけれども、為替水準というものは根本的には実体経済の反映であるというふうに私は思うんですが、介入ということになりますと、これは一時的に変化を引き起こすわけであります。したがいまして、外需依存、輸出依存、それから内需が低迷している、こういう状況のもとでは一定の限度というものが私はどうしてもあると思うんです。その点についてお考えをお聞かせいただきたいと思います。
○福井参考人(日本銀行総裁) 委員御指摘のとおり、為替相場の不規則な動き、ボラティリティーと申しますか、実態から離れた動きに対して牽制効果をするということは、タイミングによっては非常に効果があるということでございますけれども、実態から見て為替相場がそう離れていない状況で動いているときに、水準を変えようというふうな動きをすれば、恐らく、一時的な効果はあるように見えても、それは長続きしない効果であろうというのは、御指摘のとおりだろうと思います。
○佐々木(憲)委員 日銀は、量的緩和政策のもとで、当座預金残高の目標値の上限を2兆円引き上げて、ことし1月には3兆円引き上げるというようなことをやってまいりまして、いわば通貨供給量としては結構じゃぶじゃぶ供給しているという感じになっていると思うわけです。
 しかし、全体として見ますと、日銀統計で見ると、銀行から先の貸し出しというものはかなり減少しておりまして、中でも業態別の貸し出し動向を見ますと、大手銀行ほど貸し出しが減っているというのが現状であります。例えば2001年3月から昨年末までの統計ですけれども、この間、地銀がマイナス1.3%、第2地銀がマイナス10%、信金がマイナス5.5%、都銀等はマイナスの19.5%、かなり大幅な、2割程度のマイナスになっているわけであります。
 緩和政策をとりながら、現実の資金の市場への貸し出しというものが縮小している、特に大手行でそれが大きく出ている。この理由について、総裁はどのようにお考えでしょうか。
○福井参考人(日本銀行総裁) 結果としての貸出残高の伸び率ということと、まず、銀行の一線の窓口でどれぐらい積極的に新しい貸し出しをしようという姿勢に変わってきているか、この両面の切り口から考えなきゃいけないと思うのでございます。
 今の景気回復局面、そして企業のリストラがある段階まで進んだ現状ということをバックにいたしまして、新しい貸し出しを積極的に開拓して進めようという動きが強く出てきている順番からいえば、今委員が御指摘になられた順番とは逆の方向で、まず大きな銀行からそういう意欲と実際の行動が始まっている。ところが、貸出残高の伸び率で見ますと、逆に大手の銀行ほど減少率が高い、こういう現象になっていると思います。
 これは、私思いますに、今度は企業側の状況を見ますと、先ほどからも御説明しておりますとおり、企業のリストラというのは大企業から先行して進んできている、中小企業にまでひとしく及んでおりますけれども、スピードが、やはり大企業の方が先行して進んでいる。そして、大企業の中でも製造業については、リストラが相当進んで、新規の投資も始まっている。そういった企業に関連のある中小企業の段階にまでそれが少しずつ及んできている。こんな状況だと思います。
 そうなりますと、銀行の窓口から見ておりますと、大企業製造業、それからそれに関連する中小企業のところは新規の貸し出しが成功するかもしれないというので、今、貸し出し攻勢が始まっているということなんですが、実際には、その同じ企業が、過去の過剰借金を引き続きかなりの額で返済し続けているという状況があって、終わってみると、新規貸し出しよりも返済額が多くて、ネット減少額がなお今のところ大きい。これは、企業がリストラを進めながら次第に前向きの投資行動を始める、ちょうどその移行期の姿が、その断面図が、結果として銀行の貸出残高の減少率という形で出ているというふうに理解いたしております。
○佐々木(憲)委員 今、大手ほど意欲があるけれども、実態は大手が一番減少率が高い、極めて矛盾した状況にある、これは移行期だとおっしゃいましたけれども、しかし、この間、ずっと大銀行の貸し出し状況を見てみますと、やはり中小企業に対してとりわけ貸し出し意欲は非常に厳しい。中小企業から見ますと貸してくれないという実態というものがあるわけであります。この2年9カ月の間に、大手行の貸し出しを見ますと、大体54兆円マイナスになっております。これは金融機関全体で貸し出しが減った総額の実に八割を占めているわけであります。
 資金需要の低迷という面もありますけれども、銀行の貸し出し姿勢というものがかなり厳しいのではないか、そのように思うわけです。やはり貸し渋り、貸しはがしというものが、つまり優良企業の選別あるいは不良債権処理の加速というようなことで、全体としていいますと、優良企業に対する意欲はあるけれども、しかし切り捨ての方の意欲もかなりあるということで、現実には、貸し出しの残高という結果を見ますと、かなり大幅なマイナスになっているというのが実態ではないかと思うんです。
 そこで、大銀行に対してそういう貸し出し姿勢を高めていく、このことが大変大事だと思うんですが、日銀として、今の、結果として数字は貸出残高が大変なマイナスになっておるわけですから、大手銀行に対して特別の貸し出し増の指示をする、あるいは何らかの手を打つということはお考えになっておられないのでしょうか。
○福井参考人(日本銀行総裁) 日本銀行では考査局という窓口を持っておりまして、ここで、個々の金融機関と日々接しながら、新しい銀行行動について話し合いをずっと続けております。
 その場合に、中堅中小企業、なかんずく中小企業の資金繰りの問題というのは引き続き非常に厳しいということを共有しながら、この問題をどういうふうに克服していくか。
 目をつぶって単純に貸し出しの量を増加するということが将来の日本経済につながるかどうかというところまで深く物を考えながら、今、対話を交わしておりますけれども、ここのところはなかなか難しい。やはり、中小企業といえども、時代の変革の波の中で、ビジネスのあり方、方向性というものを絶えず見直しながら考えていただく必要があるので、そのことについては、金融機関との間で十分対話を交わしながら、金融機関も新しい感覚でお金が出せるように、少しでも方向性が変わっていくということが望ましいということは、当然、意見が一致するところでございます。
 したがいまして、考査局の窓口では、業績がよくなりかけた中小企業に向かっては銀行がむしろラッシュ的に貸し出し競争をやっているので、これはこれとして、そうでない、まだ一歩手前にいる企業については、企業再生のいろいろなプログラムに工夫ができないかとか、それから、企業そのものの実態から見ましても、従来のようにいきなり担保で議論が始まるというのではなくて、やはり地道に手がけておられる企業の将来の収益の上げ方に工夫ができないか、収益が上がるとしたらそのキャッシュフローをどういうふうに読み、なお経済の好転を前提にして考えてもどれぐらいリスクがあるかというふうなことで、金利は安ければ安いほどいいという感覚を少しずつ修正しながら、多少リスクを織り込んだ金利ということで銀行と話し合いができないだろうか、その場合には担保のウエートというものはある程度下げながらというふうな、新しい融資の仕組みについて、銀行と企業との間でより円滑に会話が進むように、少し、そういう意味ではまどろっこしいと申しますか即効性が乏しいというふうにお感じになるかもしれませんが、将来につながる姿として、今この努力の範囲を次第に広げているという状況でございます。
○佐々木(憲)委員 金融機関はやはり公共的な性格がありまして、日本経済の基礎を支えていく、そういう重要な社会的役割を負っているということだと思うんです。同時に、民間の機関の場合、収益性というものも追求する。最近は、収益性を追求するということが、どうも政府の旗振りが非常に激しいものですから、そちらに傾斜して、なかなか、中小企業に対して資金が回るような営業が非常に萎縮してしまっているという実態があるんだと思うんです。
 私は、そういう状況を、たくさん話を聞いておりますので、ぜひその点で、公共的性格、それから地域中小企業に対する資金提供という角度にもう少し軸足を置いていただいて、今、景気の回復かどうかという状況ですので、そういう時期こそてこ入れが必要であると思いますので、ぜひよろしくお願いをしたいと思うんです。
 次に、日本の経済実態、これをどう見るかという点でありますけれども、現在の景気回復と言われる状況は、輸出関連の一部大手企業の利益拡大、それと関連をする設備投資の増大というのが中心になっております。出された日銀報告では、結論的に、総論的にも書かれているわけですが、「企業の業況感は、製造業を中心に緩やかな改善が続き、とりわけ上期後半には、輸出環境の好転などを受けて改善の動きが明確化した。」先ほど福井総裁の概要説明の中でも、「海外経済が高目の成長を続けると見られますもとで、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続き、緩やかな景気回復の動きが継続するものと見ております。」こういう御説明がございました。
 そこで、問題は、輸出あるいは海外経済への依存型で景気回復をリードしていくといいますか、そういう状況が一体どの程度続くのかというのが問題になると思うんですね。
 ここに、ある銀行がまとめた調査レポートがありまして、この中で、例えばアメリカ経済についてこういう指摘をしております。「米国景気は2004年半ばまで比較的高成長が続くとみられる。」「2004年後半になると、減税額が縮小すること、年半ばの利上げに伴う長期金利の上昇を背景に、個人消費や設備投資などの伸びが鈍化すること、最終需要の鈍化を受けて在庫が積み上がり局面に入ること、などを要因に、景気は減速するとみられる。」という分析をしております。
 輸出に依存した形での回復というものはやはり限界があると私は思うわけでありますが、今後のこういう輸出依存型の回復の見通し、あるいはその限界といいますか、これをどのようにお感じになっているのか、お聞きをしたいと思います。
○福井参考人(日本銀行総裁) 今委員は、輸出依存というお言葉をお使いになられました。そういうふうに見える面も確かにあるわけでございますけれども、最近はやはり、輸出が確かに一つのきっかけになって日本経済の中に好循環を引き出しつつある、こう思いますが、同時に、輸入も物すごくふえておりまして、海外経済との間には相互依存関係が強まりつつある経済じゃないかなというふうに思います。
 そういう意味では、今回の景気回復を長もちさせるためには2つの面がある。
 一つは、世界経済全体を、相互依存という形を前提にしながら持続性あるものにしていくために、やはり、国際的な経済に対する認識を共通化し、各国の政策行動というものに相互に整合性のとれたやり方をやっていくという国際的な努力がまず一つ絶対に必要だと思っております。
 国内の方では、委員恐らく御懸念のおありのとおり、輸出をきっかけにして大企業において生産がふえ、収益を経て、設備投資が行われる、この循環だけでは不十分ではないかと御指摘のとおりだと私どもも認識しております。やはり非製造業にもこうした好循環が波及する、そして中堅中小企業にもすそ野が広く好循環が広がる、これが一つの条件です。これでも私はまだ足りない、もう一つは、やはり企業の所得が個人所得に還元されるという形で、所得の増加を伴った個人消費の増加、ここまでそろって本当の意味での持続的な回復への条件が整う、こういうふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 私も、今おっしゃったように、内需の拡大というものが最終的には大変重要な柱に据わらなけりゃならぬというふうに思っておりまして、おっしゃったように、その中心はやはり個人消費だというふうに思うんですね。日銀報告では、「企業収益は、リストラの効果もあって引き続き改善した。」と述べておりますが、リストラ効果ということがかなり大きな要素として指摘をされておりまして、やはり、この面にどう注目をして、そこを引き上げていくかということが大事だと思うんですね。日銀報告の中でも、「完全失業率は総じて高水準が続くなど、家計の雇用・所得環境は、なお厳しい状況から脱するに至らなかった。」「個人消費は、弱めの動きを続けた。」こういうふうに書かれております。
 私は、さらにその上に政府の負担増政策というものが加わるのではないかという危惧を抱いておりまして、昨年からことしにかけまして、予算を初めとして、例えば増税、これは所得税などでもかなり行われますし、さらにさまざまな、年金ですとか介護ですとか、そういう社会保障分野の負担増というものも合わさってまいります。そうなりますと、我々の計算では、約7兆円程度の負担増になっていく、この3年間ぐらいを考えますと、年間そのぐらいの規模に膨らんでいく。
 今、総裁がおっしゃいましたように、企業の利益が個人に還元されることが必要であるというふうにおっしゃいました。そのためには、賃金の引き上げ、雇用の拡大、これは企業としてもそういう社会的責任を果たしていただかなければならぬわけでありますが、それはなかなかそうなっていないというのが現状であります。同時に、今言いました負担増が加わっていくと、これはなかなか、家計に明るさが見える要素が非常に少ない、そのように思うわけであります。
 そういう状況を踏まえて、内需、特にその中心であります個人消費の展望について、総裁はどのようにお考えでしょうか。
○福井参考人(日本銀行総裁) これまた、世界経済全体の枠組みがかなり変わってきているというふうに議論されていると思います。アメリカ経済もかなり力強く景気が回復しておりますけれども、つい最近までジョブロス・リカバリーと言われたぐらいに、やはり企業収益が雇用とかあるいは賃金という形でなかなか早い段階から還元されにくい経済になっているということがございます。
 これは、はっきりそのバックグラウンドの理由があるわけでございまして、一つは、やはり国際化で国境を越えて企業が激しく競争している。国境を越えて世界じゅうに散らばっている資源を有効活用しようということでありますので、どうしてもコストの低い資源から先に活用しようとするということがあると思います。
 それから、イノベーション先行型の経済の発展ということがIT革命によってますますはっきりしてきていて、これはこの間もグリーンスパン議長が言っておられたんですが、90年代、アメリカは猛烈にIT投資をした、でも、例えば1人1人パソコンの使い方というのは、習熟したのはようやく最近で、このIT投資の成果が生産性にはっきり結びつくようになるまでに随分時間がかかりました。最近は生産性が非常に上がっていて、これはいいことなんだけれども、目先すぐ人手を多く雇う必要がむしろなくなっているというような現象がある、こういうことなんです。
 しかし、イノベーション先行型で経済回復のメカニズムの土台が非常にしっかりしていけば、これは、国際的な経済の依存関係を強めるという形を十分保ちながらそれぞれの国において資源が十分活用されていくという姿につながる、つまり、個人の家計部門に対しても雇用あるいは所得という形で還元されるメカニズムになる。そのためには、やはり今の景気回復を十分持続性を持たせるということが一番大事な点じゃないかということでございます。
 ただ、もう一つは、委員御指摘になられましたように、そういった民間の経済の循環メカニズムの中で個人所得がいかに還元されるか。これは、持続的な経済の成長を確保することによって必ず確保される、こう私は申し上げましたけれども、もう一つは、取り巻く公的部門の活動から来る個人部門への負担という問題がございます。これは、景気の持続性ということを、十分持続させていくというメカニズムを民間の経済の中できちんと確立できるならば、将来に向かっては、政府の活動はどういうサイズでどういう部門に重点を置くべきかということが改めて世界的に大きな議論が起こると思いますけれども、私は、やはりどちらかというと、個人の負担をなるべく少なくする方向、したがって、支出にむだがないようにする方向、それから、将来の所得を保障する制度的枠組み、これは年金とか医療がございますけれども、この制度的な不安定性、不安というものを除去する、制度の将来について崩壊リスクを感じさせないということが非常に大事だというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 個人消費を考える場合、生活の実態といいますか家計の実態というものが大変重要だと思うんですが、これは、日銀の情報サービス局が事務局をやっております金融広報中央委員会の統計がありまして、家計の金融資産に関する世論調査であります。
 ちょっとこの数字を御紹介していただこうと思ったんですが、時間がありませんので私の方から申し上げますが、貯蓄を取り崩す世帯というのは大変ふえておりまして、昨年貯蓄が減った世帯というのは51.1%であります。半分以上が貯蓄を取り崩している。貯蓄が全くゼロになったという世帯が22%に上っておりまして、5軒に1軒が貯蓄ゼロということであります。
 その理由は何かということで調査をしておりますが、一番多いのが定期的な収入が減ったから、これは59.6%、約6割であります。ですから、なかなか家計への還元というものが実際には行われておらない、逆に家計からの吸い上げというものが続いているというのが現実であります。
 実際、国民経済計算年報によると、過去5年間にゼロ金利で家計の利子収入は11兆円マイナスになったとか、リストラで雇用者報酬が17兆円減少したとか、そういう統計も紹介されておりまして、これはなかなか簡単に家計の収入が拡大するという状況にはない、むしろ厳しい事態が進んでいる。
 その上に、さらに所得の格差が拡大しているということでありまして、例えば、ここにUFJ総合研究所の資料がございますが、ここでは、高所得者の所得は伸び悩んでいる、高い所得層も所得は伸び悩んでいる、低所得者層の所得は減少している、このため所得格差が拡大している、こういうふうに紹介をされていまして、これは非常に重大な事態でございます。国民の暮らしの面からいいますと、全体として負担増、所得の減少、これが進んでいて家計消費が伸びない。その所得の内容を見ると、高所得者層が横ばいであり、低所得者層はどんどん下がっている。その結果、これは大変低所得者層へのしわ寄せというものが耐えがたい状況になっておりまして、年間3万人を超える自殺者が生まれる、あるいは多重債務者が急増している、こういう状況が生まれているわけであります。
 これは、日本経済全体としてあるいは日本社会として、十分に考えていかなければならない重大な事態だというふうに思うんです。もちろん、日銀の金融政策とかなり遠いところにあるというふうにも思えるわけですけれども、しかし、全体の経済構造をどのようにとらえ、どういう金融政策を実行していくかというのは大変重要だと思いますので、最後にこの点での総裁の見解をお伺いしたいと思います。
○福井参考人(日本銀行総裁) 日本経済を改めて力強く持続的な回復のパスに乗せなければならないし、それは可能だというふうに考えておりますが、しかし、かつてのような高度成長の経済に戻るわけではない、成熟経済の中での話でございます。
 パイがかつてのように大きくならない経済の中にあって、なおかつ、人口が減り、高齢化社会、高齢者のウエートがふえる、こういう枠組みで考えますと、やはり受益と負担の関係というのは、その公平性ということをより明確に図りながら社会の中で納得のできる仕組みというのが十分埋め込まれて、そして、その上で十分厳しい競争社会を実現していく必要があるというふうに考えています。
 したがいまして、政府の方の制度設計と、日本銀行がいろいろなマーケットを十分整備してひとしく努力する人にはベネフィットが及ぶというふうな環境を整備していくこと、この両方がうまく整合性がとれるということが非常に大事だというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 終わります。

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