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景気回復, 雇用・労働

2007年04月17日 第166回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【389】 - 質問

日銀総裁に「景気回復と雇用問題」で質問

 2007年4月17日、財務金融委員会が開かれ、日本銀行から『通貨及び金融の調節に関する報告書』について報告を受け、佐々木憲昭議員が質疑をおこないました。
 福井総裁は、「概要説明」のなかで「雇用者数は堅調に増加しており、雇用者所得も緩やかな増加を続けています。そのもとで、個人消費は底堅く推移しています」と発言。
 しかし、内閣府が、同じ時期に出した『日本経済2006―2007』(ミニ経済白書)は、「景気回復の今後の持続性についての課題」というサブタイトルをつけています。
 その内容をみると、2006年の中ごろまでは順調に回復してきたが、2006年半ば以降の消費には伸び悩みがみられると分析しています。
 さらに、その背景の一つとして「雇用者所得の伸び悩みがあると考えられる。実質雇用者所得の推移をみると、2005年以降、実質雇用者所得は緩やかな増加を続けており、それと歩調を合わせて消費も緩やかに増加を続けてきた。しかしながら、2006年半ば頃から、実質雇用者所得の伸びは鈍化し、その動きと合わせるように、消費の伸びも鈍くなっている」と指摘しています。
 大企業の経常利益はバブル期を超えていますが、問題はその分配の仕方です。
 一般労働者の賃金を抑制している一方で、大手企業の役員給与と配当金だけが急増していることです。
 財務省の法人企業統計をみると、2001年を100として、2005年の従業員給与等は93.3でマイナスです。
 これにたいして、配当金は277.6、役員給与等は187.6となっています。
 佐々木議員は、配当金や役員給与が増えても、消費に回る部分はそれほど大きくありません。やはり、従業員給与が増えなければ、消費拡大につながらないのではないかと指摘しました。

議事録

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 私は、景気回復の現状と展望、特に景気と雇用の関係について、総裁の見解をお伺いしたいと思います。
 先ほどの総裁の通貨及び金融の調節に関する報告書概要説明、この中で、「雇用者数は堅調に増加しており、雇用者所得も緩やかな増加を続けております。そのもとで、個人消費は底がたく推移しています。」こういうふうに述べておられるわけです。
 ところが、同じ時期に、昨年の12月、内閣府が出した日本経済2006―2007、いわゆるミニ経済白書があります。このサブタイトルが景気回復の今後の持続性についての課題ということであります。
 これを見ますと、2006年の、つまり昨年の中ごろまでは順調に回復してきたけれども、2006年半ば以降の消費には伸び悩みが見られる、こういう分析があります。そして、このように書いているんですね。「その背景の一つとして雇用者所得の伸び悩みがあると考えられる。実質雇用者所得の推移をみると、2005年以降、実質雇用者所得は緩やかな増加を続けており、それと歩調を合わせて消費も緩やかに増加を続けてきた。しかしながら、2006年半ば頃から、実質雇用者所得の伸びは鈍化し、その動きと合わせるように、消費の伸びも鈍くなっている。」こういうふうに指摘をしているわけです。
 福井総裁にお伺いしますが、この2006年の半ばごろからの変化をどう認識されておられるでしょうか。
○福井参考人(日本銀行総裁) GDP統計の中の個人消費の項目をごらんいただきましても、御指摘の時期に個人消費がかなり落ち込んだような形になっております。しかし、その後のGDP統計では、それがかなり取り戻されているというふうな形になっておりまして、個人消費は、通じて見まして、決して堅調とは申し上げられませんけれども、底がたく推移しているという言い方でほぼ現状を正しく表現しているのではないかというふうに思っています。
 個人消費が企業部門の活動に比べていまいち物足りない、底がたいとは言えても個人消費は堅調だとなかなか言えない状況にあります背景としては、やはり、一人当たりの名目賃金が、緩やかな上昇基調にはありますけれども、ともすれば伸び悩みぎみになる、そうしたことが大きな背景にあるのではないかというふうに私どもも認識いたしております。やはりグローバルな競争環境が大変厳しい中にありまして、企業が賃金の引き上げについて慎重な姿勢を維持している。その一方で、働く側の方でも、やはり、過去の厳しい雇用環境を経験いたしました後でございますので、賃上げよりも安定的な雇用を志向するという傾向がなお残存しているということに影響されているのではないかというふうに思っております。
 なお、つけ加えて申し上げれば、団塊世代の退職は昨年の後半から増加し始めておりまして、賃金水準の高い世代の退職者が前年対比で増加していることも、賃金の平均的な前年比を押し下げる方向に働いている、これがまた消費の基調に何がしか影響している、こういうふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 半分お認めになっているようで、そうでもないような答弁でございます。
 賃金の傾向が、6月、昨年の半ば以後マイナス傾向に転じているということが具体的な数字でも言えるわけでございます。その要因として、先ほど、労働者の方が賃金よりも雇用なんだというふうにおっしゃいましたが、労働者は雇用と賃金両方要求しているんじゃないか、抑制しているのは企業の側じゃないかと私は思っております。
 それから、団塊世代の退職の話がありましたが、これは、数字からいいますと、全体の中では現在ではそれほどまだ大きくないわけで、極めて部分的なものであります。もちろん、傾向としては、おっしゃる傾向はありますが、総体としてまだ比重は小さいと私は思っております。
 具体的な数字で言いますと、例えば毎月勤労統計、厚生労働省の統計ですけれども、一人当たりの名目賃金、2005年から2006年、2年連続で前年比プラスだったわけですが、所定内給与は、2006年には前年比マイナス0.3%、小幅ですけれどもマイナスに転じておりますし、特に昨年の11月から12月期、前年同月比で0.8%マイナスであります。この1月は、所定内給与は前年同月比でマイナス0.2%、マイナス圏にあるわけです。加えて、この1月は、特別給与が前年同月比マイナス21.8%と、かなり大幅に落ち込んでいるわけであります。一人当たり平均給与もマイナス1.4%と低迷しているわけであります。
 ですから、このような点からいいますと、先ほど説明にありましたように、「雇用者所得も緩やかな増加を続けております。」というのは少し楽観的に過ぎるのではないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。
○福井参考人 一人当たり賃金が伸び悩んでいるということは、私も申し上げました。一方で、雇用者数、雇われる人の頭数は、かなり順調に伸びております。したがいまして、雇われている方掛ける一人当たり賃金という意味での雇用者所得は緩やかにふえ続けている、これは統計的に検証されることでございます。極めて緩やかな増加でございますので、個人消費を支える度合いもかなりモデストである。したがって、個人消費は、ふえてはいますが目下底がたいと言える程度ではないか。
 ただ、私ども、先行きを考えますと、経済が緩やかであっても順調に拡大を続けるならば、やはり労働需給も一層タイト化してまいりますので、賃金の伸び率につきましても、上向く方向でさらにいい傾向が出る可能性があるのではないか、そういうふうに見ております。
○佐々木(憲)委員 私は、先行きの問題で大変重要な要因として考えなければならないのは、非正規雇用の増加という問題でございます。
 これは構造的な要因でありまして、非正規雇用の賃金は、正規雇用に比べれば当然かなり低いわけであります。その非正規雇用の比率が企業内で高まるというふうになりますと、平均賃金を押し下げる要因になるわけですね。ミニ経済白書によりますと、非正規雇用者の比率は労働分配率を押し下げる方向に寄与し続けているという指摘をしているわけです。雇用の非正規化の流れが労働分配率の低下に一定の役割を果たしていると考えられると指摘をしているわけです。
 この非正規雇用の比率がふえるとなりますと、平均賃金を押し下げる、こういう要因になると思いますが、総裁、どのようにお考えでしょうか。
○福井参考人 非正規雇用と申しますか、パートタイマーあるいは派遣社員といった形での雇用のウエートが上がりますと、これは相対的に賃金水準が低いということでその比率が高まるわけでございますので、おっしゃるとおり、それだけ一人当たり賃金の伸び率を押し下げる力がある、それは確かだというふうに思います。
○佐々木(憲)委員 そこで、福井総裁が4月10日に行った記者会見の報道を見ますと、こういうことを総裁はおっしゃっているわけです。フルタイマーの所定内給与はなかなか伸びにくい、これは企業が長期的な競争力確保のために固定費抑制姿勢を堅持していることもある、こういうふうに述べて、一番予想増加率が弱いという点では、我々の消費に対する予測を難しくしている、こういうふうに発言されていますね。これはどういう意味でしょうか。
○福井参考人 働く人々から見ますと、やはり将来の所得がどれぐらい保障されているかという意味の恒常所得と申しますか、そこの予測がしっかりしていると消費にお金が向かいやすい。したがって、我々も消費の予測がつきやすいということはございます。
 これまでのところ、パートタイマーないしは契約雇用の方々の賃金はかなり上がっているんですけれども、フルタイマーのいわゆる所定内賃金の上がり方が鈍い。このことは、もしかすると働く人々の将来の所得予測というものがかつてに比べて弱いかもしれない。つまり、恒常所得という認識がもしかしたら弱いかもしれない。しかし、どれぐらい弱いかというのはなかなか正確につかめませんので、その分、将来の消費を予測することが少し難しくなっている、そういうふうな意味でございます。
○佐々木(憲)委員 パートタイマーとか契約社員の賃金は若干上がっているとはいえ、正規雇用に比べるとまだまだ低いレベルにあるわけですね。そして、その部分がふえるというふうになりますと、全体としては賃金押し下げ要因というのは変わらないと思います。
 同時に、今総裁がおっしゃったように、フルタイマーの所定内給与の伸びというのは、企業の競争力確保ということで固定費抑制という企業の行動が働くために、どうしても抑える傾向が強くなる。そうなりますと、非正規雇用化の流れがとまらないのが一つと、総裁が指摘されるように、正規雇用の賃金が伸びない、この二つが合わさりますと、消費の伸びというのは非常にマイナスの要因が大きくなるのではないかというふうに思いますけれども、今後の見通しで、この二つの傾向はなかなか反転しないような感じがしますが、どのようにお考えでしょうか。
○福井参考人 その点は、私どもも注意深く今後の状況を点検したいと思っております。
 二点申し上げさせていただきますと、一つは、委員おっしゃる非正規雇用という形の働き方でございますけれども、過去、経済が非常な不況の状況にありましたときはこれが非常にふえる、一方、正規雇用が減るというかなり明確なコントラストがございました。それに比べますと、最近は、企業はやはり良質な労働力をかなり安定的に確保したい、経済が順調に拡大するならば、そういうふうに労働力を求めているという傾向が強まってまいりましたので、かつてのように、いわゆる非正規雇用がどんどんふえ、正規の雇用がどんどん減るというふうな状況は一応終わったというふうに思います。
 ここから、正規雇用、非正規雇用を含め、多様な形の労働力をいかにいいバランスで使うかという方向に変わってきているというふうに思いますので、従来のように、一方的に非正規雇用のウエートが高まるという状況ではなくなったという点が一つでございます。
 それから、正規雇用、非正規雇用を含めまして、全体の労働力に対する企業の需要は、たとえ緩やかであっても、景気の拡大が長続きすればするほど需要が強まってくる。つまり、需給がタイトになってまいりますので、需給バランスから見て、賃金が上がりやすいという傾向がやはり強まってくる。過去の高度成長期時代と違いまして、周辺諸国との企業競争というのは厳しくなる一方でございますから、固定費を抑えたいという気持ちはずっと続くだろうとは思いますが、そうであっても、やはり良質な労働力を確保しないと企業としては競争力を築いていけませんので、賃金を引き上げるという力も徐々に強まってくるのではないか、こういうふうに予測をしております。
 予測どおりいくかどうか、注意深く見ていきたいというふうに思っています。
○佐々木(憲)委員 需給がタイトになって、賃金の上昇する要因は背景としては広がる。しかし、問題は、企業行動として、例えば、利益の分配をどういう形で行うかというのが大変重要なかぎになると思うんですね。確かに、大企業の経常利益は、この間バブル期を超えておりまして、問題は、それが一般の労働者の賃金を上げる方向に作用せず、むしろ役員給与を大幅に上げる、あるいは配当金が急増する、こういう形で分配が行われているのではないか、結局、株主重視、人件費抑制、こういう傾向が強まっているのが現実の姿ではないのかというふうに思うわけです。
 数字で見ましても、財務省の法人企業統計で、2001年を100とすると、2005年の従業員給与等は93.3、これはマイナスであります。これに対して、配当金は277.6、大変急増しております。それから、役員給与等は187.6であります。ですから、今回の景気回復の非常に特異な現象は、こういう形で一般の労働者の賃金が抑制され続けている反面で、配当と役員給与が急増しているという、ここに特徴があります。
 そこで問題は、消費につながるという点でいいますと、配当がふえたり役員給与がふえれば消費がふえるじゃないか、そういう議論も一部あります。しかし、問題はそう単純ではないと私は思うわけです。なぜかといいますと、配当が増加しても、個人株主の割合はそれほど高まっているわけではありませんで、雇用者報酬にかわって家計の可処分所得を押し上げるというような役割は余り期待できないのではないかというふうに思うからでございます。
 一番肝心なのは、やはり従業員の全体の給与が引き上がることだというふうに思いますけれども、この点は、岩田副総裁、お答えいただきたいと思います。
○岩田参考人(日本銀行副総裁) ただいま御質問をいただいた点であります。
 御指摘いただきましたように、現在、グローバル化というのが進展しているもとで、日本の企業も、そのグローバルな競争の中でどうやって生き抜いていくかという課題に直面しているというふうに思っております。
 そうしたことを背景にしまして、企業は、どちらかといいますと、販売管理費でありますとか人件費、こうした固定費用をなるたけ抑制する、その一方で、海外におきます収益機会の拡大でありますとか、あるいは設備投資をより最新なものにして生産の供給体制を整えるというようなことを努力されているように思います。
 そして、御指摘がございましたように、このところ、日本企業の配当性向というのも、これは国際的に見ますと必ずしも高いわけではございませんが、次第に高まってきております。
 同時に、新卒の採用、大学の卒業あるいは高校卒業、これは、内定率もこのところ高まってきておりますし、初任給も、昨年に引き続きことしも上昇するということが見込まれております。
 私、日本の企業がこうした課題に直面している中で、資本市場からの規律というのがやはり次第に強まってきている。コストはできるだけ抑制して、その中でぎりぎり必要な支出を行う、そういうことを通じて生産性を向上させ、企業価値の向上を強く意識した経営というのが行われているように思います。
 私は、こうした我が国企業が国際競争力を向上させて新たな付加価値を生み出していくということは、日本経済を発展させていく上での基盤であるというふうに思っております。そうした日本企業がさらに力を強めていくということが、次第に家計にも及んでいくのではないかと思うわけであります。
 ただ、今御指摘ありましたけれども、企業が得た収益をどういう支出項目に割り振るのか、あるいは利潤の配分をどのように行うのか、これは市場経済のもとで民間企業がそれぞれ独自にお決めになることでありまして、中央銀行の立場からこの配分が適切であるかどうかというようなことを述べることは適当ではないというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 どうも私の質問に対して、えらい漠然とした、ばくっとした答えしか出てこないので、若干失望いたしました。
 私が聞いたのは、一般の労働者の賃金の引き上げと配当の所得、これが消費拡大という観点からいってどちらが効果があるのですかという点を聞いているわけでございます。しかも、その理由として、私は株の配当というのは単純に消費に回るものではないということを指摘したわけですが、これに対して何もお答えがなかったんですが、きちっとお答えしていただきたい。
○岩田参考人 配当の所得が、確かに家計部門も、株式の保有比率を見ますと、このところ外国投資家の比率も高まっておりますし、家計部門も四分の一かそのぐらいの比率で持っておられると思います。2005年度国民所得統計によりますと、家計部門が受け取った配当所得というのは7.5兆円というふうに言われております。このところ、この額はふえてきております。
 こうした財産所得がふえているのが、果たして極めて豊かな人だけが享受しているのかどうかということについては、例えば最近の投資信託でありますとか、これはかなり幅広い方々がお持ちになっております。それから、株式の保有を年収別に調べたことがかつて私ございますが、それほど年収が高くない、年金等で生活されている方も、過去の貯蓄で株を持っておられるというようなこともございます。ですから、かなり幅広い方がこの財産所得を、ふえるということで、そのある割合は消費に向けられていくのではないかと思います。ということであります。
○佐々木(憲)委員 では、次に行きましょう。
 福井総裁は、昨年10月13日の経済財政諮問会議でこういうふうに述べておられるんですね。「イノベーションを進め、経済のオープン化を図るということは、経済全体として競争相手国との関係でこれを見た場合には、いわゆる要素価格均等化定理はもっと徹底的にしみ込んできて、」というようなことを言っているんですが、非常にわかりにくい専門的な用語を使われているような感じが私にはするんですが、これはどういう意味ですか。
○福井参考人 オープンな経済になりますと、資源の最適配分の力が一層強く働いて、すべての生産要素について同じ価格がつく傾向がある。その生産要素について技術ないしイノベーションの力が附帯しておりますので、イノベーションの力の強い生産要素についてはより高い対価が払われ、そうでない資源については相対的に低い対価が払われる。それぞれ、国境を越えて、技術レベルが同じであれば同じ価格に収れんしていく傾向が出るでしょう、これが要素価格均等化定理でございます。
 賃金というふうなレベルでこれを考えますと、人間というのは労働力が一つの生産要素でございますので、これが、製造業の技術あるいはIT関連技術、あるいはそんなものでなくても、ちょっとした工夫を凝らしながら仕事ができる人あるいはできない人の差というものが賃金の開きとして出てくるし、しかし、それぞれの同じレベルの製造業技術、IT技術、あるいは工夫ができる力ということであれば、これは国際的に均等化する方向に行くだろう、こういうことを申し上げたわけでございます。
○佐々木(憲)委員 なるほど、そういう意味で言われたということは今わかりました。
 そういう観点からいうと、同じその会議の発言で、「イノベーションを身につけた人と、イノベーションをなかなか身につけられない人との間の所得の差は、むしろ、さらに広がるということを相当覚悟しておかなければいけないのではないか。 そういう差はむしろ縮まるんだという幻想を余り容易に与えない方がいいのではないか。」こう発言されましたね。このことに対して、どこかの党の幹事長がかなり攻撃をしたようでありますが、私はそういう傾向は確かにあるんじゃないかと思うので、一々イノベーションに対してけちをつけたかのように受け取って、与党の幹部がこの発言をこきおろすなどというのはやるべきじゃないと私は思っております。
 実際に進行している格差の拡大、それから景気回復の中でのこの二極化の傾向、そういうことを考えると、今後さらにそれがどういうふうな日本経済の発展の姿になっていくんだろうか、これを考えていかなきゃならぬと思うんです。
 その場合に、今おっしゃったように、オープンな経済、つまり、日本が例えばアジア諸国と今後FTAとかEPAを結んで経済的な国境を取り払って、自由な物、金、人の移動が可能になるという状況が生まれてくる。そうなりますと、日本の労働条件というものがアジアの労働条件と平準化してくる。先ほど総裁がおっしゃいましたように、アジアの労働者の賃金というのは今後は相対的に上がるでしょう。同時に、日本の一般労働者の賃金はかなり下がっていく可能性がある。つまり、アジアとの競争、アジアとの平準化ということを考えるとですね。
 そうなりますと、日本自身の国内の、国内経済としての日本経済の発展ということを考えると、この平準化というのは私はマイナスではないのかというふうに思うわけです。
 もちろん、イノベーションに関連する業界あるいはそこの労働者の賃金は、若干上がるかもしれない。しかし、アジア全体との競争でいきますと、一般の労働者の賃金というのはもっと下がっていく可能性がある。そのことが日本経済の将来にとって一体どういう事態をもたらすのか、その展望を総裁自身はどのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。
○福井参考人 委員御指摘のとおり、日本経済、そしてその中に働く我々一人一人が非常に厳しい条件のもとにさらされているというのは御指摘のとおりだと思います。
 厳しい競争というのは今後ますます厳しくなる。これを避けるのがいいのか、あえて厳しい競争に挑んでいくのがいいのかという選択が一つございます。恐らく、私の個人的な感じでは、この厳しい競争を避けて閉鎖的な経済という方向に進むならば、多分、日本経済は世界全体の発展の中から取り残されていく方向になり、みんなが不幸せになる危険があるのではないか、こういうふうに一つ思います。
 したがいまして、むしろこの競争に積極的にチャレンジして、競争がいかに厳しくとも、我々の力を磨いて、技術レベルそれからイノベーションのレベルでは常に他国に一歩先んじている、常に一歩先んじているという状況を実現し続けていくということが大切ではないかと思います。これは大企業だけの問題ではなくて、大企業、中小企業、製造業、非製造業を問わない問題として、外国と比べて、常に一歩イノベーションのレベルで先を行っている。企業を構成しているのは働く人たちでございますので、働く人たちの能力が、諸外国と比べて、一人一人比較しても常に一歩先を行っているという状況が一番理想的な状況で、そうした状況を実現できるかどうか。もしそうした状況を実現できれば、賃金が一方的に下がるというふうなことを悲観的に考える必要、その度合いはかなり薄れるというふうに思います。
 しかし、その場合でも、国内で見ると、やはりイノベーション、技術革新についていける人たちと、その度合いが少ない人たちとの間で格差が生じてくる、あるいは広がるということは避けられない、それは私が諮問会議で述べたとおりでございます。社会全体がみんなの幸せを築いていけるような社会、新しい課題を、どういう政策対応を割り当てていくか、別の問題があるわけであります。最終的に、どんなに努力をしてもイノベーションについていけない人たちのためのセーフティーネット等、これは新しい政策課題、これは日本だけではなくて、すべての国がこの新しい政策課題に今直面し、新しい政策体系の樹立の競争が始まっている、こういうふうに理解しています。
○佐々木(憲)委員 もう時間ですので終わりますが、日本の将来にとって、技術革新、イノベーションというのは当然必要なことだろうと思いますけれども、問題は、それが、国内の国民、働く人々、労働者、勤労者、こういう方々の生活水準が向上する形で消費も拡大し、よい循環を確保していくことだろうと思うんです。その場合、今のままではなかなかそうはいかないので、私は、企業の行動についても一定のルールが必要である、つまり、利益が上がったものを経営者と株主だけに配分して労働者は二の次、そういう経営の仕方では、本当に将来にとってプラスになるとは思えないわけであります。
 したがって、それを規制するというか、ルールをどう確立していくか、これは法制度の問題でもあるんです。規制緩和をどんどんやれば企業の野放し状態が生まれますので、そうではなくて、がんじがらめにするというのじゃありませんが、生活を重視した一定のルールづくりというものが大変重要である。しかも、国の政策の方も、例えば国民負担、この問題について一層軽減措置をとるとか、こういう政策対応が求められているというふうに思っております。
 そのことを最後につけ加えておきまして、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

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