アドレス(URL)を変更していますのでブックマークされている方は変更してください。
<< ホームへ戻る

景気回復

2004年06月09日 第159回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【253】 - 質問

家計所得を温めることが景気回復のカギ=日銀総裁の考えをただす

 佐々木憲昭議員は、2004年6月9日の財務金融委員会で、半年ごとに国会に提出される「日銀報告書」にもとづいて、個人消費の動向や家計所得の現状認識などについて福井俊彦日銀総裁に質問しました。

 福井総裁は、「家計所得がなお伸び悩んでいる」との認識を示す一方で、「個人消費はやや強目の動きとなった」と述べています。所得は伸び悩んでいるが消費はふえている、という状況が生まれているということです。
 この点をとらえて佐々木議員は、「勤労者世帯の消費性向が上向いた、あるいは高齢者世帯では生活のために貯蓄の取り崩しがあった、そのために所得の裏づけがなくても消費がふえた、こういうふうにしか考えられない」と指摘。「個人消費が一時的に拡大をしても、その持続性がなければならない。そのためには所得全体がふえていくということが大事だ」として、大企業を中心にバブル景気以来の経常利益を上げていることを示しつつ「企業利益を勤労者世帯に還元していくということが大変大事だ」と強調しました。
 福井総裁も「個人消費が本当にしっかり回復するためには、企業の利益が雇用者所得の形できちんと還元される、このいい循環メカニズムがもう少し強く働いてくる必要がある」などと応じました。

 さらに佐々木議員は、日本の家計貯蓄率が、2000年代に入ってから急速に低下し、2002年度には6.4%と過去最低を記録したことを示し、年金制度の改悪などによる将来不安が影響しているのではないかと日銀総裁の認識を問いました。
 福井総裁は、「将来の制度変更について不確定要因があれば、生活設計を慎重に立てるということになって、貯蓄率の低下にブレーキがかかって消費が活発化しないというふうな現象が起こったり、さまざまな影響が出てくることは確かだ」と述べ、「税制あるいは社会保障制度については、受益と負担の関係の公平性ということを十分担保しながら、将来の制度変更の不確実性ということを極力なくすような政府における対応ということが非常に重要だ」との認識を示しました。

議事録

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 きょうは、個人消費の動向について、少し立ち入ってお聞きをしたいと思います。
 先ほど福井総裁は、報告の中で、雇用者所得は徐々に下げどまってきているというふうに述べました。しかし、改善しているというふうな評価はされておられなかったわけでございます。総裁は、ある講演で、家計所得がなお伸び悩んでいるという表現もお使いになっておられます。その一方で、個人消費はやや強目の動きとなったと述べられました。つまり、所得は伸び悩んでいるが消費はふえている、こういうことだと思うんですね。
 実際、現金給与総額を見ますと、昨年の後半はマイナスになっております。しかし、4月の勤労者世帯の家計消費は、対前年比で名目で6.6%増、実質で7.2%増、こういうことなんですね。所得の裏づけがないのに消費だけがふえた。
 なぜそうなるのか。それは、勤労者世帯の消費性向が上向いた、あるいは高齢者世帯では生活のために貯蓄の取り崩しがあった、そのために所得の裏づけがなくても消費がふえた、こういうふうにしか考えられないわけですが、そこはどういうふうに考えておられますか。
○福井参考人(日本銀行総裁) 最近の個人消費の動きを見ておりますと、日本銀行が事前に予測いたしますよりはやはり強目に個人消費の結果が出てきている、こういうふうな状況でございます。
 そして、いろいろな経済指標を見ますと、まず一番大事な雇用、あるいは雇用者所得は下げどまってはきておりますけれども、明確にこれが増加する傾向にまで移ったというふうにはまだ断定できない、そういう状況でございます。つまり、所得がふえていないのに消費が先行して増加し始めている、こういうふうな現象でございまして、日本経済、過去の経験を振り返ってみますと、余りこういう経験はないわけでございます。
 アメリカ経済の場合は、景気が立ち直るときは、所得がふえる前から消費がまず走り出す、これは比較的よく見られるパターンでございますが、日本経済では過去そういうことがございませんでした。したがいまして、私どもは、経済の予測を立てるときに、消費者の皆さんはきっと慎重だろう、所得がふえるまでは財布のひもはかたいんじゃないかという前提で予測を立てるものですから、最近はこの予測が少しいい方に外れていて、消費が結果的に少し伸びているという状況でございます。
 その理由は必ずしも明確ではありませんが、おっしゃるとおり、貯蓄性向が下がっている。高齢化社会が進んで、高齢家族ではどうしても貯蓄を崩しながらの生活になるという面がありますのと、それから、高齢者世帯でなくても、やはり経済全般の方向性が少し明るくなった、自分ないしは御主人、あるいは息子さんたちが勤めている職場の雰囲気が明るくなったというふうなことから気分的に消費者マインドが明るくなっている、そこに、企業の方が、日本の企業はデジタル家電を初め消費者のニーズを非常に先取りしながら新しい商品をどんどん提供してきている、このことが明るくなった気分と結びついて、消費を所得に先行して少し伸ばし始めている要因になっているのではないか。ここは推察でございます。そういうふうに考えております。
 しかし、個人消費が本当にしっかり回復するためには、企業の利益が雇用者所得の形できちんと還元される、このいい循環メカニズムがもう少し強く働いてくる必要があると思っております。私どもの見通しでは、そういうふうないい循環が働く可能性が次第に強まってきているんではないか、こういうふうに見ているところでございます。
○佐々木(憲)委員 個人消費が一時的に拡大をしても、その持続性がなければならないわけでありまして、やはりそのためには所得全体がふえていくということが大事だと思うんですね。
 今回の日銀の報告でも、企業収益は着実な改善を続けた、こういうことで指摘をされていますが、実際、大企業を中心に、バブル景気以来の高水準というふうに言われているように、大変利益が急増しておりまして、例えばトヨタの純利益は一兆円を超えたというので大変評判になりましたが、上場企業の九割が連結ベースで最終黒字になった、あるいは経常利益で過去最高を更新した企業は4社に1社に上っている。
 しかし、先ほどもありましたように、勤労者世帯の所得の方は横ばいないし伸び悩みと続いているわけであります。したがって、それを改善するためには、やはり先ほどもおっしゃいましたが、企業利益を勤労者世帯に還元していくということが大変大事だと思うわけです。そのためには何が必要かといいますと、これは、当然賃金を上げなければならないし、企業の責任で雇用をふやすということが大事だと思うわけです。
 例えば、この点では生命保険系の研究機関がいろいろな報告書を出していまして、こういうふうに書いているんですね。「現在、企業部門内にとどまっているキャッシュフローが、賃金、あるいは配当の増加という形で家計へ波及し、家計の所得が明確に増加することが、個人消費の本格的、持続的な回復の条件と言えるのではないだろうか。」私は、これはこのとおりだと思うわけです。
 しかし、現実はなかなかそうはならないわけで、例えば、賃金は上がらないんだけれども就業者は多少ふえているという傾向があります。つまり、就業者の内訳で、常用雇用がふえない、しかし、パートとか臨時雇用の方が若干ふえる、こういう傾向があるわけです。それは大企業になればなるほどその傾向が強まっておりまして、一番核になる常用雇用の拡大というものがなかなか、企業の経営戦略として、そこは追求しない、むしろそこはできるだけ最小限にとどめて、むしろ低賃金の不安定雇用、パート、期間工、そういう部分を景気の拡大に応じた形でふやす、景気がちょっと悪くなる、業況が悪くなれば、そこは縮小する、そういう傾向が非常に強いわけでございます。
 こうなると、やはり非常に不安定な形でいきますから、単純に持続的な所得の増加というふうにつながっていかない。この点を根本的に改善しない限りは、個人消費主導の景気回復というふうにはなかなかなりにくいというふうに思うんですけれども、どのようにお感じでしょうか。
○福井参考人(日本銀行総裁) これは、ある意味で世界的な共通の現象という側面もあるような気がいたします。グローバル化の中で、国境を越えた企業間競争が非常に厳しくなっていまして、そういう意味では、賃金コストというのは合理的な意味で抑制しながら、生産性の成果は、もちろん賃金に還元するんですけれども、さらに新規の投資で収益機会をふやしていく、この両方向で企業展開を図っていかなければ企業間競争に勝てないという動きになっている。したがって、雇用を、あるいは賃金を回復させていくという場合にも、常用雇用よりは臨時雇用、パートタイマー等の形でまず手を染める、あるいは、賃金の場合でも、定例給与よりはボーナスというふうなところから還元を始める。
 しかし、やはり最終的には定例給与であり、そして常用雇用。それはなぜかというと、コアとなる雇用というものはしっかり確保しないと、その企業の中でのイノベーションが停滞してしまって、一番重要な競争力構築の要素が欠けてくるということになりますので、最終的にはやはりそこに及んでいくんではないか。
 日本におきましても、常用雇用よりはパートタイマー、臨時雇用から今始まっておりますし、賃金の方につきましてもボーナス等から始まっているということでありますが、個々の企業にヒアリングなどをかけて、私ども、それを持ち寄って検討しておりますところでは、これからだんだん、雇用にしても賃金にしても本格的なところでの増加というところに徐々に実現可能性が強まってきている段階かなというふうに思っているわけでございます。
 したがいまして、大事なことは、今の世界の経済のいい環境が保たれ続けること、何よりも日本経済それ自身について、せっかく出かけてきた景気回復のいい芽をきちんと、途中で壊さないで、大事に育てていくこと、これが一番大事だと思います。
 今の日本の企業の場合には、単にスリム化ということだけではなくて、新しい投資、イノベーションで生産性を伸ばしながら収益を上げ、そして、新規の投資も考えるけれども、これから徐々に雇用者所得への還元も考えていこう、こういうふうな立体的な発想で物事が今進み始めているように思います。賃金への還元は非常に大事だと私ども思っておりますが、常に企業が新しいイノベーションで新規の投資を施して、生産性を上げながら、一方で雇用者所得への還元のメカニズムを築き上げていく、このいい循環メカニズムにぜひ到達したいということだと思います。
○佐々木(憲)委員 最終的に常用雇用、安定した雇用へつなげていくということが大事だということは、私もそうだと思うんですね。そのためには、やはり企業自身の経営戦略といいますか、あるいは企業自身が社会的責任をどう自覚して取り組むかということが大事だと思うのでありまして、どうも、私どもの見る限りは、日本の大企業はその点が極めて不十分であるというふうに思うんです。やはり、これは日銀の責任ではございませんが、政府の責任としてそういう点を、政策的にも企業に対してしっかりと、雇用の拡大、賃金の引き上げということを要請すべきだ、あるいは、制度的にも法的にもそういう仕組みをつくるべきだというふうに我々は考えております。
 さて、それで、次に貯蓄動向でございますけれども、先ほども少し議論になっておりましたが、GDP統計で見ますと、日本の家計貯蓄率というのは1970年代半ばには20%を超えていた時期がありました。しかし、2000年代に入ってから貯蓄率が急速に低下をしまして、2002年度には6.4%、過去最低を記録したわけです。2003年度になりますとさらに落ち込んだのではないか、こう言われているわけです。日銀の資金循環勘定で家計の資金過不足を見ますと、2003年には1兆円の資金不足である。これは、これまで経験したことのない事態だということでございます。
 なぜ貯蓄率が急速に低下したかということでありますが、これはいろいろな要素があると思うんですけれども、例えば、政策的な要因というのが非常に強いというふうに民間の研究所で分析をしておりまして、これはニッセイ基礎研究所経済調査部門のレポートですけれども、こういうふうに書いているんですね。
 「高齢者の貯蓄取り崩しの拡大には、厚生年金定額部分の支給開始年齢が、2001年度以降徐々に引き上げられていることが影響していると考えられる。」要するに、定年になって以後、すぐ年金はもらえないものですから、その年齢が引き上げられる間貯蓄を取り崩すというのが急速にその時点で起こった。
 「厚生年金定額部分の支給開始年齢引き上げのスケジュールでは、2001年度以降に60歳となる男性の支給開始年齢が61歳に引上げられた。この影響は2001年度と2002年度に表れ、」「2004年度以降は支給開始年齢が61歳から62歳に引き上げられるが、この影響が2004年度と2005年度に表れるために、世帯主年齢60歳以上の世帯の貯蓄率のマイナス幅がさらに拡大する可能性がある」、こういうふうに言われております。
 さらに、それだけではなくて、こういう指摘もされております。今回、年金制度の改正案が、強行されたと我々言っているわけですけれども、参議院で通った。そうしますと、「10月からは厚生年金保険料が毎年引き上げられる」ということになり、これに加えて「配偶者特別控除の廃止による税負担の増加が2004年末には明確になるなどの負担増から、可処分所得の伸びは限られる。」こういうことで、高齢者世帯もそうでありますが、現役世代の負担増というものがこれから確実に現実化していく。そのことが、従来は日本は貯蓄率は高かったわけですけれども、それが急速に低下していく要因になっているのではないかというわけであります。
 これまでは、将来不安が強まりますと、当然、貯蓄をしなければということで、貯蓄率が高かったわけですけれども、最近は、将来不安はますます不安になるんですけれども、しかし現実の生活の面で、貯蓄をするよりも貯蓄を取り崩さなければ毎日の生活が支えられないという状況に転化している。つまり、状況が、これまでと極めて重要な変化が起こっているというふうに見なければならないのではないか。そうなりますと、これは単純に一時的な現象ではなくて、その背後にはもちろん高齢化という大きな構造変化があります。同時に、今のような政策要因が加わって、貯蓄率の急速な低下が起こっている。
 そうなりますと、現在、日本財政の赤字というものが依然として非常に拡大しつつある、そのときに、例えば国債の最終的な消化というのはどういうふうになっていくのか、あるいは、資金の流れがうまくいかないために急速に金利の上昇ということもあり得るかもしれない、現に国債の金利上昇が、長期金利の上昇が起こっている、そういうことを考えますと、今の貯蓄率の低下というのは大変重要な、単に一時的ではない構造的な問題を抱えているのではないかというふうに思うんですけれども、その点で総裁の御認識はいかがでしょう。
○福井参考人(日本銀行総裁) 高齢化社会の中におきましては、ある意味で自然な貯蓄率の低下ということは起こり得るし、それは起こっておかしくない。あくまで自然な貯蓄率の低下でございます。それは、諸制度の枠組みを前提にしながら、年齢が高齢層になればなるほど、この先の生涯可処分所得ということを念頭に置いて生活設計を立てるがゆえでございます。
 ところが、今委員御指摘のとおり、制度変更を急に予期せざる状況で行われるとか、あるいは、さらに、将来の制度変更について不確定要因が多いといったような場合には、貯蓄率の自然な低下というものに対してさまざまな影響が及んでくる。つまり、急に制度変更があれば、生活設計を急に変えられないから、貯蓄率の急屈折という形で下がるかもしれない。逆に、将来の制度変更について不確定要因があれば、生活設計を慎重に立てるということになって、貯蓄率の低下にブレーキがかかって消費が活発化しないというふうな現象が起こったり、さまざまな影響が出てくることは確かだというふうに思います。
 したがいまして、これは経済の健全な運営という点からいきましても、税制あるいは社会保障制度については、受益と負担の関係の公平性ということを十分担保しながら、将来の制度変更の不確実性ということを極力なくすような政府における対応ということが非常に重要なことだというふうに考えます。
○佐々木(憲)委員 個人消費ということに着目をして、今、家計の所得をどう拡大していくか、それから家計の負担をどう軽減するか、こういう点でお聞きをいたしましたが、やはり日本の政府の政策の責任というものが極めて大きいということを、今のやりとりを通じてさらに再確認をさせていただきました。
 以上で終わります。

Share (facebook)

このページの先頭にもどる