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金融(銀行・保険・証券) (証券取引所, 公認会計士, 粉飾決算, 西武グループ事件)

2004年11月19日 第161回 臨時国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【268】 - 質問

UFJ銀行の検査忌避事件、西武鉄道グループの有価証券報告書虚偽記載事件について、佐々木議員が参考人に質問

 2004年11月19日財務金融委員会で、「金融機関のコンプライアンスについて」参考人への質疑がおこなわれました。
 参考人は、全国銀行協会常務理事の斉藤哲氏、東京大学大学院法学政治学研究科教授岩原紳作氏、弁護士の國廣正氏が招致されました。
 佐々木議員は、UFJ銀行の検査忌避事件や西武鉄道グループの有価証券報告書虚偽記載事件をとりあげて、銀行協会としての取り組みや監査体制について質問しました。

 斉藤参考人は、金融機関のコンプライアンス(法令順守)について、倫理憲章をつくり徹底してきたことや、UFJ銀行に全銀協の活動を自粛させたことなどを紹介しました。
 佐々木議員は「銀行協会として倫理憲章を徹底してきたにもかかわらず事件が発生した。きちんと分析をして改善方策を打ち出さないと、同じことが繰り返される」と指摘しました。

 西武鉄道グループの事件について、佐々木議員は「長期間に渡って有価証券報告書の虚偽記載が続けられ、放置されてきたのはどこに原因があると考えているか」と質問。
 岩原参考人は、「同じ個人の公認会計士が監査を続け違法行為をチェックすることができなかったのは、制度的に問題がある」とのべました。
 國廣参考人は「企業というのは社会の公器であり、株主の単なる持ち物ではない。世の中のために活動し、市場のために活動しなければいけない」とのべ、そのうえで、アメリカ型の株主主権論だけでは問題解決にならない、という考えを明らかにしました。

議事録

【参考人の意見開陳部分と佐々木憲昭議員の質問部分】
○斉藤哲参考人(全国銀行協会常務理事) ただいま御紹介をいただきました、全国銀行協会の斉藤でございます。
 本日、私からは、御下命の趣旨に従いまして、これまで全銀協として取り組んでまいりましたコンプライアンス施策について陳述させていただきたいと存じます。
 まずもって、たび重なる会員銀行の不祥事の出来によりまして信頼を損ね、先生方にも大変御心配をおかけいたしておりますことを、私ども銀行協会の立場としても大変心苦しく、申しわけなく思っております。
 当協会におきましては、銀行の社会的責任を積極的に遂行するための施策を検討する場といたしまして、昭和48年に社会的責任に関する委員会という役員クラスの会合を設置いたしまして、以後、平成10年度まで、この委員会が銀行におけるコンプライアンス問題を所管してまいりました。その後、平成11年4月の当協会の組織改正を機に、コンプライアンス概念の定着とその推進を図るために、公共委員会という役員クラスの会合を立ち上げるとともに、あわせて、その下部にコンプライアンス推進検討部会という次課長クラスの会合を設置し、今日まで、これらの会合を中心にしてコンプライアンス問題に取り組んでまいっております。
 銀行のコンプライアンス推進のために、近年当協会が取り組んでまいりました主な活動について申し上げます。
 平成9年のことでございますが、総会屋に対する利益供与という商法違反事件が起こりまして、こういうことを受けまして、全銀協におきましては「銀行の社会的責任とコンプライアンスについて」と題するコンプライアンス体制の強化策を打ち出しました。これは、銀行の社会的責任の重要性を改めて重く受けとめ、利用者の信頼向上に資する諸施策を講じるということを表明するとともに、五項目の目的達成に取り組むこととしたものでございます。この五項目につきましては、企業倫理の再構築、コーポレートガバナンスの充実、コンプライアンスプログラムの確立、反社会的勢力への対処、ディスクロージャーの充実、以上の五つでございます。
 また、同じ年、平成9年の9月の理事会におきまして、こうしたコンプライアンス体制の強化策を受けて、倫理憲章を制定いたしました。これは、各銀行が社会からの信頼の回復と確立に向け不断の努力を払うことを誓うものでございます。
 この倫理憲章では、銀行の持つ社会的責任と公共的使命の重みの再認識、質の高い金融サービスの提供、反社会的勢力との対決、社会とのコミュニケーションの向上といった項目とともに、あらゆる法令やルールを厳格に遵守し、社会的規範にもとることのない、誠実かつ公正な企業活動を遂行すること、すなわちコンプライアンスの推進を図っていくということもその内容となっております。
 さらに、この倫理憲章の制定の際には、憲章の精神に著しく反するような行為が行われた場合に当該銀行に対する措置を検討する、全銀協活動に関する自粛勧告委員会を設置いたしました。この委員会は銀行の頭取、社長クラスの会合でございまして、会員からの自粛申し出の受理やその取り扱い方針の決定、あるいは会員に対する自粛勧告の要否の決定等を行うことといたしております。
 これに関連して申し上げますと、今般問題となりましたUFJ銀行及びシティバンクにおける不祥事に関しましては、両行から、倫理憲章の趣旨に反する不祥事の発生にかんがみて全銀協活動を当面自粛したいというお申し出がございまして、去る10月19日に自粛勧告等委員会においてこの申し出を受理することを決定いたしました。これによりまして、UFJ銀行の沖原頭取は当協会の理事、副会長を辞任するとともに、両行とも当面、当協会の委員会活動や各種行事への参加はできないこととなっております。
 このほかの活動につきましては、銀行員のコンプライアンス意識を高める一助となるよう、各種のハンドブックを作成いたしております。具体的には、贈収賄罪及び国家公務員倫理法について解説したハンドブックや、独占禁止法について解説した銀行の公正取引に関する手引、こういうもののほか、銀行活動の国際化を踏まえまして、海外の金融関係法に基づくコンプライアンスについて整理したハンドブックなどを作成して、広く会員銀行に配付して活用を求めております。
 また、平成11年以来、毎年二回、会員銀行の役職員を対象としてコンプライアンスに関する講演会を開催し、コンプライアンス意識の醸成、啓発に努めております。この講演会のテーマの一例を御紹介申し上げますと、コンプライアンス体制構築の実務、コンプライアンスプログラムの構築に当たっての留意点、あるいはコンプライアンス体制のさらなる充実を目指してといったものでございまして、それぞれのテーマに応じて、大学教授や弁護士などの専門家の方々に講師をお願いいたしております。
 今年度の活動といたしましては、既に、国家公務員倫理法などについて解説したコンプライアンスハンドブックを改定いたしまして、再発行いたしております。そのほか、7月に第11回目のコンプライアンス講演会を開催いたしております。講演会につきましては、年度内にもう一回開催する予定といたしております。
 さらに、昨今における銀行不祥事の発生を踏まえまして、全会員あてに倫理憲章の内容を再徹底するための通達を発出することといたしております。この通達につきましては、来週開催する公共委員会及び理事会で、改めて倫理憲章の趣旨を再確認した上で、全会員の代表者あてに通知する予定といたしております。
 また、銀行における取り組みについて申し上げますと、それぞれの銀行は、金融検査マニュアルのチェック項目等を指針として、自行の実情に合ったコンプライアンス体制を構築し実施しているものと理解をいたしております。
 すなわち、組織面では、コンプライアンス担当役員やコンプライアンス統括部署を設置するとともに、各業務部門や営業店ごとにコンプライアンス担当者を配置する等の体制を整えていると承知いたしております。また、自行のコンプライアンスに関する基本方針を策定し、行員が守るべき諸法令や社内ルール等を取りまとめたコンプライアンスマニュアルを作成し、さらに、これらの基本方針やマニュアルを行内に周知徹底するための実施計画、いわゆるコンプライアンスプログラムと言われているものでございますが、こういう実施計画を作成、施行する、こういうようなことで、それぞれコンプライアンス体制の確立とその実効ある推進を図っているものと認識をいたしております。
 ただ、不祥事が生じているという現実から申しますと、これらにつきまして万全な体制なのかという御指摘もあろうかと存じますが、各銀行とも、事例研究を積み重ねるなど、終着点はないとも言われておりますコンプライアンス体制の改善強化に努めているところでございます。
 以上、申し上げましたように、当協会といたしましては、これまで各銀行の取り組みをサポートするよう活動してまいりましたが、改めてその役割を再認識し、銀行界のコンプライアンスを一層推進するよう取り組んでまいる所存であります。先生方におかれましても、御指導のほどをよろしくお願いいたしまして、私からの陳述を終えさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
○金田委員長 ありがとうございました。
 次に、岩原参考人、よろしくお願いいたします。
○岩原紳作参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 御紹介にあずかりました、東京大学の岩原でございます。
 本日は、本委員会においてこのような発言の機会をいただきましたこと、大変光栄に存じております。金融機関におきますコンプライアンスの重要性と、それを改善するための方策について、一言申し上げさせていただきたいと存じます。
 金融機関に限らず、すべての企業にとりまして、法令を遵守する義務があるということは当然のことでありまして、そのためのコンプライアンス体制を構築するということは、経営者にとって当然の義務であります。商法は株式会社取締役の法令遵守義務を規定しておりますし、その法令に関する違反は取締役の会社に対する責任原因になるというのが最高裁の判例でございます。
 そして、このような取締役の義務は、単に各取締役個人として注意義務を果たせば足りるというものではなく、会社全体としての法令遵守やリスク管理等の体制をつくる義務が取締役会にあるとされております。すなわち、平成14年に改正されました商法特例法及びそれに基づきます商法施行規則は、いわゆる委員会等設置会社につきまして、法令、定款を遵守し効率的な職務執行が行われるための体制、及び損失の危険の管理に関する規程その他の体制を取締役会が定めるべきことを規定しております。そして、このような取締役会の義務の規定を監査役設置会社をも含みますすべての大会社に拡充し、営業報告書への記載も義務づける方向で、ただいま法制審議会は会社法現代化のための法案の検討を行っているところであります。
 このような立法が行われる前から、既に判例や学説におきましては、取締役にコンプライアンス体制ないし内部統制の体制の構築義務があるということを認めておりました。判例はやはり銀行に関するものが多いのでありますが、中でも画期的でございましたのは、有名な旧大和銀行に関します大阪地方裁判所の判決でございました。この平成12年9月20日の判決は、商法260条2項が定める重要な業務執行として、取締役会が内部統制の大綱を決定することを要するとした上で、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は大綱を踏まえ担当する部門における管理体制を具体的に決定する職責を負うというふうに申しまして、またそれ以外の取締役も、代表取締役及び業務担当取締役がそのような義務を履行しているか否かを監視する義務を負っているといたしまして、それに違反した取締役の責任を認めたわけであります。
 以上の判例からもうかがえますように、このコンプライアンス体制の構築がとりわけ強く求められるのが金融機関でございます。判例も、とりわけ金融機関の経営者に高い注意義務の水準を求めているようであります。これは、以下のような事情によります。
 銀行法1条が規定しておりますように、銀行業務には、信用を維持し預金者の保護を図り金融の円滑を図るといった公共性がございます。そのため、銀行には、銀行法に基づき、一般企業にはない各種の規制が課せられているわけでありまして、また同時に、銀行法1条2項は、この法律の運用に当たっては銀行の業務の運営についての自主的な努力を尊重するように配慮しなければならないとも規定しております。
 ということは、銀行の経営者たる取締役には、銀行に課せられた厳重な規制を銀行自身の自主的な努力で守っていく義務がある、すなわち銀行自身のコンプライアンス体制を構築する高度の注意義務が取締役にあるということを意味しているわけでありまして、これは、例えばアメリカなど外国においても同様に考えられております。
 このような考え方は、金融検査マニュアルに明確に示されております。すなわち、マニュアルは、預金者保護及び金融の特殊性から国は金融機関の業務の健全性に関心を持たざるを得ないといたしまして、それにはまず、金融機関自身の内部管理体制及び会計監査人監査の充実によりそれは実現されるべきであるけれども、検査はそれを前提に補強するためのものとして位置づけられると書いてあります。
 それでは、なぜ最近になって金融機関の違法行為あるいは不正行為が数多く問題になるようになったのか、考えてみたいと思います。
 これはあくまで推測にしかすぎませんが、近年の金融機関の破綻や再編、リストラ等々によりまして、あるいは役員や従業員の規律や士気に緩みが生じているのかもしれません。しかし、それ以上に重要だと思われますのは、検査監督当局の姿勢の変化あるいは体制の変化にあるように思います。かつては本人確認法などの法律がございませんでしたし、そういうことから、違法あるいは不正な取引をチェックする手がかりが余りなかった。また、検査官の人数が決定的に不足しておりました。そして何よりも、検査監督当局の姿勢が、金融秩序の安定を第一として、その信頼を損なわないように、不祥事をなるべく表面化させないようにしていたように思われます。
 かつても、法令違反の行為や不正行為などはあったと思います。しかし、それが発見されなかったり明らかにされなかっただけではないかと思われます。それに対し、最近は、本人確認法など法制が整備されてまいりまして、また、検査官の人数が、いまだ不十分ながらも、かなり増強されてまいりました。そして何よりも、当局が、発見した違法行為、不正行為を積極的に公表し、行政処分を行い、そして最近のように刑事告発を行うところにまで至ったわけでございます。
 私はこのような変化を基本的には歓迎したいと思います。違法、不正行為を隠ぺいして金融機関の信用を守ろうとすることは不可能でありまして、結局、金融機関のあしき体質を温存し、傷口を大きくしてしまい、最後は隠し切れなくなって破綻に至り、金融機能ひいては経済全体を危機に陥れかねないということは、過去数年の金融危機において嫌というほど経験したところでございます。
 しかし、金融検査マニュアルが言っておりますように、金融機関の違法、不正行為や信用リスクなどを当局の検査監督だけでチェックしようということは、民間企業たる金融機関のあり方に反しますし、そもそも不可能であります。あくまで、まず金融機関自身がコンプライアンス体制、内部統制体制を確立し、当局はそれと連携して補強していくという体制をとるべきだと思います。
 そのような観点から、今後の金融機関のコンプライアンスの一層の充実のための課題を最後に申し述べたいと存じます。
 アメリカは、エンロン事件、ワールドコム事件のように、不正経理が大問題になった直後に、直ちにサーベンス・オクスレー法という法律を制定しまして、その404条等におきまして、金融機関だけでなくそれ以外の公開会社を含め、非常に詳細な厳格な内部統制システムの構築を義務づけ、それをディスクローズすることを義務づけたわけであります。
 我が国でも、最近の西武鉄道の事件などをかんがみまして、金融審議会におきましてはアメリカに倣った内部統制システムの構築や開示の制度の導入を現在検討しておりますが、少なくとも金融機関に関してはアメリカ並みの内部統制あるいはコンプライアンスの体制を制度化する必要があるのではないかと考えております。
 また、検査監督当局につきましても、より体制を充実するとともに、今まで金融危機の中で主に信用リスクの検査監督に力を入れてきた感がございますが、今後は法令遵守に関するコンプライアンスについても一層力を入れていただきたいと考えております。
 そして、違法、不正な行為があったときのそれに対するペナルティーを十分に厳格なものにすることが必要ではないかと思います。
 現行法では検査忌避罪等が2億円の罰金でありますが、大和銀行がニューヨークでそのような罪を犯したときには3億4000万ドルの罰金が科せられたわけでありまして、日米のペナルティーの違いが非常に大きいと感じられます。行政処分を含め、やはり悪い行為に対してはきちんとペナルティーを科すことによって規律を正していくということが必要ではないかと思う次第でございます。
 以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
○金田委員長 岩原参考人、ありがとうございました。
 次に、國廣参考人、よろしくお願いいたします。
○國廣正参考人(弁護士) こんにちは。弁護士の國廣と申します。
 きょうは、私、弁護士という実務家の立場から意見を述べさせていただきたいと思っております。
 きょうの委員会のテーマは金融機関のコンプライアンスであると言われています。コンプライアンスという言葉は非常によく使われているのでありますけれども、私、いろいろ新聞、テレビ、ラジオなどを聞いておりまして、コンプライアンスという言葉はどういう言葉かな、どういう場面で使われるのかなというふうに考えてみますと、大概暗い使われ方、ろくでもない使われ方をしていることが多い。どういうときかというと、不祥事を起こした企業の役員がずらっと並んで頭を下げるときに必ず念仏のように唱える言葉が、今後は当社もコンプライアンスをうんちゃらかんちゃらというようなことであります。そのような意味において、コンプライアンスというのは、ごめんなさいとか、何か起こった後に済みませんと言うときに使われる言葉である。そのような使われ方こそが、まさに日本企業のコンプライアンス経営を阻害しているものではなかろうかというふうに感じるわけであります。
 では、コンプライアンスというのは一体どういうふうに考えていくのかということを少し意見を述べさせていただきたいと思うのでございますが、まず、前提問題として、最近、企業不祥事が、金融機関に限らずですけれども、続発しております。非常に多くの企業不祥事というものが起きている。これで、昔に比べて日本企業の遵法意識が低下した、昔はよかったけれども最近は企業が劣化したというような評価が加えられることがあります。しかし、私は必ずしもそれは正しくないと考えます。
 つまり、私の意見でございますが、日本の企業行動は変わっていない、従来と同じに横並びになっている、ところが、日本社会の方がそれを許さない社会に変わってきている。すなわち、日本社会というのがどういうふうに変わったかというと、特にバブルを境として、やはりグローバル化という形で、要するに、行政との事前指導あるいは癒着と言ってもいい場面もあるのかもしれませんけれども、それで横並びで業界でやっていく、そういうやり方が通用しなくなって、企業みずからが自分の頭で自由競争の公正なルールの中で競争していかなければならない世の中に変わってきつつある。ほぼ変わった。にもかかわらず、従来の横並び的発想から抜け出さずに、それまでそれでうまくいってきたからということで企業が旧態依然とした行動をやり続けていること、これがいわゆる企業不祥事の原因なのかなという感じがいたします。
 したがいまして、先ほど最初に申し上げました、不祥事を起こしてコンプライアンスをなどと下を向いて言っている企業というのは、多くの場合、ある自動車会社などの例に見られるように、そういう不祥事を繰り返します。やはりそこの意識、社会が変わったんだという意識を企業自身が自分の頭と自分の足で考えていかなければこの問題は解決しないのかなと思うわけであります。
 あと、ちょっと横道にそれますが、企業不祥事、不祥事という言葉自身が、これまで従来の日本社会の不祥事に対する対応、姿勢をあらわすものだと思います。
 と申しますのは、広辞苑で不祥事という言葉を引きますと、縁起が悪いこと、不運と書いてあって、違法行為とか不正という訳語がないんですね。ということは何かというと、結局、横並びで赤信号をみんなで渡っていれば怖くない時代が長く続いてきたわけであります。その中で、ちょっとやり過ぎた企業が捕まっちゃったね、だから不祥事だよというような使われ方を恐らくこれまでされてきたのではないか。今は不正とかいけないことという意味で不祥事という言葉が使われるようになっておるわけでありますけれども。
 そのような言葉一つとってみても、単純にコンプライアンスということを念仏のように唱えるのではなくて、企業行動自体が問題ではないか、その根っこにある意識、さらに言えば社会意識、やはりそこまで踏み込んだ形で考えなければ、いわゆるこういう不祥事の問題というものはいつまでたってもなくならないであろうと考えます。
 では、金融機関の不祥事、コンプライアンスについてはどのように考えるべきかということであります。
 今、不祥事の一般論で申し上げました。先ほど岩原先生も、基本的には銀行と一般企業は同じだよということをおっしゃいましたけれども、私も同意見でございます。ただ、銀行、あるいは証券会社も保険会社も金融機関に含まれるわけでありますけれども、これらの機関というのは非常に公共性が高い、すなわち資本主義の血液である金融を担っているという意味があるかと思います。
 銀行について見ますと、従来はいわゆる大蔵省の護送船団と言われる中で、ある種合理性が、当時、20年前、30年前にはあったのかと思いますけれども、これからその発想からいかに抜け出ていくのかというところ、抜け出ることができない銀行がやはりいろいろな問題を起こしていく。すなわち、自分の頭でルールとは何なのかということを考えて、その判断に従って自主的、自律的行動をすることになれている企業、銀行であるか否かというところが、これから成長していくか不祥事を起こすかを分けることになるのではなかろうかと思います。もちろん、検査監督当局の検査等の強化、あるいは、先ほどのお話にもありましたような、違反行為を公表するという厳しい態度、このようなことが行われることによって規律というものはできてくる面も非常に強いと思いますけれども、やはり最終的には自分の頭で考えるようになれるかどうかということ、ここが一番大事な問題だろう。金融庁に検査されるから対応しましょうというようなことであると、やはり今後の国際競争の中で生き残っていくことは難しいのではなかろうかと考えます。
 銀行ばかりの話ではなくて、金融機関のもう一つの証券会社についても考えてみたいと思います。
 証券会社も相変わらずいろいろな不祥事を起こし続けているわけであります。しかし、本来、今後の日本の金融のあり方ということから考えますと、大きな流れとして間接金融から直接金融への流れ、これがなければやはり日本の今後の経済成長、発展というのはなかなか難しいであろうと考えます。そのような意味において、まさに証券会社の果たすべき役割というものは大事でありまして、それに対する税制の問題などもいろいろ議論されており、それは大事なことだと思いますけれども、私は、まさにその直接金融にシフトしていくという中での証券会社の役割という観点からすると非常にコンプライアンスというものが大事だろうと思います。
 ここで言うコンプライアンスというのは、要するに公明正大にルールを守るというやり方でありまして、従来の、株屋は怪しいことをやっているのではないかという一種の差別的な見方もあるのかもしれませんけれども、そのような、早耳の何とかみたいな形で早い情報をとってくる証券会社がその情報を顧客に与えるのがいいことだなどという古い体質の部分があるんですけれども、こういうのはインサイダー取引になるわけです。そのような意味において、まさに証券会社が公明正大にルールに従ってきちんとした営業をやっていくんだということ、これがやはり多くの顧客を直接金融に資金を移転させるために不可欠の前提ではなかろうかというふうに考えるわけであります。
 以上、金融機関で証券会社と銀行を例にとって申し上げましたけれども、最後に、私の実務家としての現状の印象について述べさせていただきたいと考えます。
 まず、金融機関のコンプライアンスは進んでいるのか進んでいないのかということですけれども、私は、これはすごく差が歴然としてきている、すなわち、銀行においても証券会社においても、コンプライアンスを本音でやっていくところと、仕方がないから形だけやっていくところ、ここに非常に現実的には分かれているのかなというふうな印象であります。いわゆる本音でコンプライアンスをやる企業と、建前でしかやらない企業に分かれているであろう。
 では、本音でやっている企業というのはどういうところかというと、やはり時代の流れというものをしっかりと見据えた企業であろうというのが言えると思います。あるいは、本音でやっている企業は、痛い目に遭って、それで目が覚めて本音でやっている企業、ここもかなりの数あるのではなかろうかと思います。さらに言えば、痛い目に何度遭っても繰り返していく、こういう企業もあるように思われます。このようなところは、やはり市場から退場を願うしかないのかなというふうに考えているわけであります。
 国会という場で金融機関のコンプライアンスということを御検討、お考えいただくわけでございますけれども、私の希望といたしましては、金融機関というものは非常に大事でありますが、より広く、コンプライアンスとは何なのか、あるいはコーポレートガバナンス、企業統治とは何なのか、あるいは証券市場というものの信頼をどうやって確保するのか。最近の西武の事件などを見ている限り、本当に新しい金融の時代が出てくるとはなかなか、悲観的にならざるを得ないわけであります。
 したがいまして、まさに資本主義の血液の金融というものが安定的、信頼に足りるものとして機能されるように、ぜひ国会で十分な御審議をされ、長い目で見て、長い目に耐え得るシステムづくりということをやっていただければ大変ありがたいのではないかと思います。
 以上、意見を述べさせていただきました。(拍手)
○金田委員長 國廣参考人、ありがとうございました。
 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

― 中略 ―
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 まず、全銀協の斉藤参考人にお伺いしたいと思います。
 コンプライアンスの取り組みにつきまして、個別銀行と全銀協、協会との関係ですね、この点についてお聞きしたいんですが、銀行協会は事業者団体である、したがって、指導できる立場にはないということが言われていますが、個別のいろいろな法令違反、事件が起きますね、それについて一体協会としては何ができるのかということが問われると思うんです。
 先ほどの議論を聞いておりましたら、コンプライアンスの充実の体制、度合いがどのようにできているかは把握していないということでありまして、そうなりますと、状況の把握もできないということであれば、協会としての役割というのが一体どこにあるのか非常に疑問に思うわけですが、コンプライアンスの取り組みを協会として一体どのように進めるべきと考えているのか、まずはその点についてお聞きしたいと思います。
○斉藤哲参考人(全国銀行協会常務理事) お答えをいたします。
 全銀協としてのコンプライアンスの拡充というか充実につきまして、私どもの方で考えておりますのは、事業者団体としてできることの限界まで考えた話でいきますと、あるいはやるべき仕事ということの関係で考えますと、やはり倫理憲章の精神というものの徹底をどこまで図れるかということが一番の問題なんだと思います。
 各銀行のコンプライアンスの充実度合いについてはかることができないと言っているのは、非常に短絡的なお話を申し上げましたけれども、現実の問題として、例えばコンプライアンスを、先ほど来岩原先生なんかがおっしゃっておられますコンプライアンスマニュアルといいますか、金融検査マニュアルの中に盛り込まれているコンプライアンス事項、こういうものについて基本的に最低限守られているということは、多分、特段の事件が起きなかったりあるいは行政指導なんかが行われていないところを見ますと、最低限充実はされているんであろうとは思います。
 ただ、そのことについて個々に私どもの方が報告を求めたり、あるいはそのことについて確認をしていくというようなところについては、各銀行から業務の負託を受けていないというのが一つのお答えでございます。
○佐々木(憲)委員 倫理憲章の徹底ということをおっしゃいまして、余りそれ以上のことをやらないみたいな話なんですが、例えば、ずばりお聞きしますけれども、UFJの検査忌避事件というのがあって、大問題になりましたが、これは一体どこに問題があるというふうにお思いなのか。そしてまた、全銀協としては、その事件以後、どういう取り組みをやったのか、やろうとしているのか、その点についてお聞きしたいと思います。
○斉藤哲参考人(全国銀行協会常務理事) 少しさかのぼってお話をさせていただきます。
 私ども、不祥事件が起きたときに、どういう形で対応してきたかということについてお話を申し上げたいと思いますけれども、そんなに前までさかのぼらないで、比較的直近のところで、記憶に残っているものを申し上げますと、例えば、大和銀行の事件が先ほど出ましたけれども、大和銀行のニューヨーク支店の問題が起きたとき、こういうときは、これについて私どもとしてコンプライアンスハンドブックというものをつくりまして、海外拠点においてどういう法令を遵守しなければいけないのかというようなことについて各銀行に徹底するというようなことを一つはやっております。
 それから、その後、第一勧業銀行の商法違反事件というのが、まだ御記憶にあるかと思いますけれども、こういうものがあったときには、銀行の社会的責任とコンプライアンスについてという、いわば申し合わせといいますか確認事項をやっておりまして、そのときにあわせて倫理憲章をつくった、こういう形でやっております。
 そういうような流れの中で、あとは都市銀行を中心としました大蔵省、日銀等に対する贈賄事件というのがございまして、この件につきましては、国家公務員との接触に関するコンプライアンスの留意点というようなことで注意点を取りまとめて各銀行に配付をする、こういうようなことをやっております。
 UFJ銀行のお話を最後に申し上げますけれども、UFJ銀行の件につきましては、先ほども触れましたけれども、自粛勧告等委員会というのを開催いたしまして、自粛すべき措置について決定をしたわけでございまして、この決定においては全銀協活動を当分の間自粛するということがUFJ銀行については行われた。そのとき副会長、理事という形で要職についていたUFJ銀行の沖原頭取は、いずれもこの先、1年間でございますけれども、全銀協活動の停止が行われた、こういうことが事実でございます。
 それから、先生のお話の中にございました、どういう事実を認識してそういうことになったのかというお話でございますけれども、この辺のところにつきましては、私どもがある意味当事者から説明を受けたものと、公表されているような例えば記者会見でのお話だとか金融庁さんからのお話であるとか、こういうようなものの突き合わせはいたしておりますけれども、そういう突き合わせの中でこの自粛措置が適当であろうということで決定をしたものでございます。
○佐々木(憲)委員 今のは経過と結論についての御説明でありました。私がお聞きしたかったのは、あのような事件が起きた原因をどのように見ているかということをお聞きしたわけです。
 つまり、協会としては、いろいろ過去の事件についての対応を、努力をして、コンプライアンスについてのさまざまな文書なども発表し徹底してきた、あるいは倫理憲章を徹底してきた。しかし、それをやっていたにもかかわらず、こういう事件がまた発生したわけです。したがいまして、今までやってきたそういう努力というものが現実に報われていないわけですね。なぜそうなのか。そこはやはりもう少し突っ込んで分析をし、その改善方策を打ち出さないと、また同じことが繰り返されるということも考えられますので、そこをお聞きしたんですが、いかがでしょうか。
○斉藤哲参考人(全国銀行協会常務理事) ルールを整々と守るということ以上には、本当にこういう問題というのはないんだと思うんですね。
 それで、なぜこういう形で何回も何回も起きてくるんだという話は、恐らく、逃げているわけじゃないんですけれども、コンプライアンスに携わっておられる方の、皆さんの、モグラたたきのようにいろいろなものが出てくるということはあるんだと思います。ただ、事象そのものは、それぞれにそれぞれの事象が恐らくあって、同一のものは非常に少ないんだろうなとは思います。
 基本的には、私個人で申し上げると、やはり粘り強く、ルールの遵守というものがいろいろな社会生活の基本なんだということについて、それは企業も変わらないし私生活も変わらないし、そういう形で基本的に身についていかないと、なかなか根絶ができないようなことになるんではないかというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 それでは、岩原参考人と國廣参考人にお伺いします。
 西武鉄道グループの有価証券報告書虚偽記載事件というのが大問題になりまして、上場廃止というようなこともあります。これは、非常に長期間この問題が続いていた。その原因というものが一体どこにあるというふうに考えておられるか。公認会計士とか監査法人というのは、当然こういうものをチェックするのが役割だろうと思うんですが、一体どうしてこういう事態を見逃してきたのか。監査のあり方にも触れまして、コンプライアンスの問題についてこの事件とのかかわりでお話をいただければと思います。
○岩原紳作参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) お答え申し上げます。
 西武鉄道事件の詳細は存じませんので、具体的にどういう点が問題だったのかということはよくわかりませんけれども、確かに、一般論として言えば、御指摘のとおり、27年間ですか、同じ個人の公認会計士の方が監査を続けて、そういった違法行為をチェックすることができなかった。やはりこれは恐らく制度的に問題があるところだと思っております。
 最近、法律が改正されまして、アメリカの、先ほど申し上げましたサーベンス・オクスレー法などに倣って7年間で公認会計士あるいは監査法人は交代しなければならないということが決められたわけでありますけれども、そういうことは最低限必要なことでございまして、どうしても同じ人が見ていればそこによどむものが出てくることも確かでございます。先ほど性善説の話がございましたけれども、一方で人間は誤りを犯す存在でもありますので、どうしてもそういうふうに同じことが続きますと問題が出てきますので、適当な期間で交代をしてほかの人の目が入るようにするとか、そういう制度的な改善はやはり今後必要である、そのためには証券取引法の改正がぜひ必要であると考えております。
 以上です。
○國廣正参考人(弁護士) 西武鉄道の事件ということで、私、個別の事件は新聞等で読んでいる程度しかわかりませんので、それを前提にお話をいたします。
 まず、有価証券報告書虚偽記載の行為というのは、私は日本の株式市場を偽る重大な事件であると考えております。当然これは許しがたいことであると考えております。しかも、ことしの春に総会屋事件を起こしています。それから明らかになったのかどうかわからないんですけれども、そのような企業の体質は非常に問題が大きいというふうに私は個人的に思っております。
 さっきから性善説の話が出ているんですけれども、みんなが性善だよと言っているわけではなくて、このような行為が組織的に行われる企業というものに対してはやはり厳しい対応がなされてしかるべきだろうと思います。
 一点、長期間なぜこのようなことが起こったのかということで、一般論的に考えますと、コーポレートガバナンスあるいはコンプライアンスを考える場合に、株主主権的に考える考え方というのがアメリカ的な考え方で、要するに株主の利益を害する行為はいかぬよとか、あるいは株主代表訴訟で経営の暴走をとめましょうということ、これは株主を無視するような経営はいかぬという観点で、これは非常に重要だと思うんです。けれども、事この問題に関しますと、最大の株主がやっているという問題なんですね。その観点からいたしますと、単に株主主権論だけではなかなか説明がつきにくい。
 じゃ、何が必要なのかというと、これも私の個人的な見解でございますが、企業というものは社会の公器である、すなわち、株主の単なる利益のための持ち物ではなくて、世の中のために活動し、そして株主のため、市場のために活動しなければいけない。最終的には、その経営者、あるいは大株主でも同じだと思いますけれども、そこの自覚という、非常に倫理的な部分というものを常に考えている経営者、理念ということでもいいのかもしれませんけれども、やはりそこに行き着くのかなというふうに感じている面がございます。
 したがいまして、大株主がいる会社だけじゃなくて一般の公開企業においてももちろんですけれども、どのような企業であっても社会のための存在であるということ、その自覚というものはすべての前提として必要なのかなというふうに思っています。
 公認会計士の役割、あるいは、たしか株式担当者が全然かわってなかったとかいうような問題もあったかと思いますけれども、企業の大きな不正が行われる場合というのは、大体、外部の目が入らない、あるいは一人の担当者がずっとやっているという、秘密性ということであろうかと思います。したがいまして、外部の目を入れるとか、あるいは担当者を交代していくとか、そういう透明性といいますか、そういう概念がやはり必要なのかなと思います。
 それと、これは余計なことかもしれませんが、外部の目を入れると言いますと、必ず不祥事を起こした企業は、外部の偉い人が何か委員会に入って、それでいつの間にか何をやっているんだかというようなことになる例もないとは言えない。西武がそうであると言うわけではありませんけれども。やはり外部の目を入れるというときには、その入った外部がどれだけ活躍できる権限を与えられるのかということがないと、単純なアリバイ的な外部の目ということになってしまうおそれがありますので、透明性、外部の目という場合は、きちんと権限を持たせる意味での入れ方が必要になってくるのではないかと私は考えております。
 以上です。
○佐々木(憲)委員 3人の参考人の皆さん、本当に長時間、貴重な御意見をお聞かせいただきましてありがとうございました。
 以上で終わります。

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