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財政(予算・公共事業) (予算案)

2005年02月24日 第162回 通常国会 予算委員会≪公聴会≫ 【279】 - 質問

佐々木議員質問に酒井氏「ファルージャ攻撃は不安要因」 予算委公聴会

 2005年2月24日、予算委員会公聴会の2日目が行われ、日本共産党から佐々木憲昭議員が質問しました。
 この日の公述人は、河合正弘氏(東京大学社会科学研究所教授)、久保田泰雄氏(日本労働組合総連合会副事務局長)、河野龍太郎氏(BNPパリバ証券会社経済調査部長チーフエコノミスト)、酒井啓子氏(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事)です。

 日本貿易振興機構・アジア経済研究所参事の酒井啓子さんは、イラクの現状について発言し、軍、企業問わず外国の機関はイラクから出るべきと主張。
 酒井さんは、1月末のイラク暫定議会選挙結果はシーア派勝利といわれているが、「正確にはシーア派のイスラム教、宗教政党が議席で過半数を獲得したこと」が特徴であると指摘。これら第1勢力となったイスラム勢力が第2勢力となったクルド住民系の政党とともに、憲法制定を含めた政治的プロセスの遂行や治安分野で調整するのは「難しい」との考えを示しました。
 酒井さんは質疑で、「軍、企業問わず外国の機関はイラク国内で活動するのでなく、国内の組織を活用し復興すること」が「今のイラクにおいて最も有力な(国際)貢献になる」とのべ、米軍主導の多国籍軍による占領だけでなく自衛隊のイラク派遣についても否定的な見解を示しました。
 佐々木憲昭議員は、「昨年の米軍によるファルージャ総攻撃が今後のイラクに与える影響はどうか」と質問。酒井氏は、「武装テログループが根絶されるというより、北部のモスルなどに活動拠点を移している。各地に不安要因を拡散させている」と答えました。

議事録

【公述人の意見開陳部分と佐々木憲昭議員の質問部分】
○甘利委員長 これより会議を開きます。
 平成17年度一般会計予算、平成17年度特別会計予算、平成17年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。
 この際、公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成17年度総予算に対する御意見を拝聴いたしまして、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いを申し上げます。
 御意見を賜る順序といたしましては、まず河合公述人、次に久保田公述人、次に河野公述人、次に酒井公述人の順序で、お一人20分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 それでは、河合公述人にお願いいたします。
○河合公述人(東京大学社会科学研究所教授) おはようございます。東京大学の河合正弘でございます。本日はこのような機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
 まず冒頭に申し上げたいことは、平成17年度予算に賛成の立場から陳述させていただきます。
 本日の私のテーマは、国際経済問題、国際通貨問題であります。円、ドル、ユーロ、人民元の問題について、少しお時間をいただきたいと思います。
 ユーロは、1999年に発足いたしました。ユーロは、その後、EUの東方拡大等を通じまして、非常な勢いで拡大しております。国際通貨ドルが少しずつ侵食されているかのように見えます。その中で、中国は猛烈な勢いで台頭しております。人民元は一体どうなるのか、その中で、日本の役割、円の役割は一体何なのだろうかということにつきましてお話しさせていただきたいと思います。
 まず最初に、ユーロ圏の拡大についてであります。
 ユーロは1999年に導入されましたけれども、そこに至る道は、ヨーロッパにおきます国際協調、域内経済統合の動きでありました。1971年までは、旧ブレトンウッズ体制のもとで、各国はドルに通貨をペッグするという形をとっておりました。その結果、ヨーロッパ通貨は、それぞれの間でも相互に安定した関係を持っておりました。
 しかし、1973年に先進国が全般的フロート制に移行した結果、各国は対ドルレートの安定化から外れることになりました。それに伴いまして、ヨーロッパでは、これではいけない、お互いの通貨が変動してしまってはいけないということで、いわゆるスネーク制度、お互いの為替レートを安定化させる制度を採用いたしました。そして、それが、1979年の欧州通貨制度といいます、お互いの為替レートをもっと厳格に安定化させるといった制度をつくってまいりました。その中では、為替安定のための短期流動性のメカニズムをつくるとか、共通通貨単位、いわゆるECU、欧州通貨単位でございますが、といったものをつくるということで域内協調を進めてきました。
 1999年の単一通貨ユーロの導入と、それによります中央銀行、当初は11、後に12の中央銀行を統合して、欧州中央銀行、ECBをつくるということになってまいりました。その中で、何といいましても、ドイツのブンデスバンクが演じました役割といいますのは非常に大きなものがありました。安定的な金融政策を行うことによってヨーロッパを主導してきたわけであります。
 そして、2004年、去年の5月には、新たに東方10カ国を加えまして、今はEUは25カ国体制になっております。その中では、ユーロが厳然たる国際通貨でありますし、その周辺諸国にもユーロの影響は非常に強く及んでおります。ユーロ通貨圏が拡大しつつあるということでございます。昨年末にはロシアも、対ドル安定化政策から対ユーロ安定化政策へと移っております。
 次に、国際通貨ドルの問題を取り上げてみたいと思います。
 アメリカ大陸では、ヨーロッパほどではありませんが、NAFTA、北米自由貿易地域を、米州自由貿易地域、いわゆるFTAAといったものに拡大していく、南北アメリカを一つの自由貿易地域にするという動きが動いております。
 アメリカ大陸では、制度的に通貨統合を目指そうという動きにはまだ至っておりませんが、南北アメリカは事実上のドル経済圏、ドル圏でございます。中南米諸国の多くは、今は為替フロート制に移っておりますが、しかし、米ドルが何といっても一番重要な国際的な価値基準でございます。そして、アメリカ大陸、中南米だけではなくて、ほかの発展途上国の多くも米ドルを国際的な価値基準とみなしております。近年、1997年、アジアで通貨危機が起こりましたが、それまでのアジア各国も米ドルを国際的な価値基準とみなしておりました。
 そうした中で、今、アメリカの経常収支赤字が拡大しているという問題が起きております。これはお手元の図三に出ておりますが、去年は、恐らく、アメリカの経常収支赤字は対GDP比で5%程度になったのではないかというふうに思われます。もし、この経常収支赤字がこのまま拡大すると一体米ドルはどうなってしまうのだろうかといった反応が、市場の中で最近出てきております。このまま経常収支赤字が拡大していきますと、これはアメリカにとりまして、対外純資産ポジション、国際投資ポジションと申しますが、これが非常に悪化していく。今は、アメリカは世界最大の対外純負債国であります。
 図四にアメリカの国際投資ポジションと日本の国際投資ポジションが書かれておりますが、アメリカの場合、今は25%程度の対外純負債ポジション、対GDP比25%の、いわば外の世界に対します借金がございます。日本の場合は、対外純資産があります。外に対して資産を持っております。これは、日本のGDPの35%程度に今なっております。
 アメリカの経常収支赤字が続きますと、このアメリカの借金がどんどん拡大していくのではないかと言われております。これが行き過ぎますと、ドルは大幅に下がってしまうのではないか。その反対側としまして、円は相当上がってしまうのではないか、円高になってしまうのではないかといった懸念が持たれているわけでございます。そういう状況になりますと、アメリカの経常収支赤字は維持可能ではないということになります。
 私は、このアメリカの状況に関しまして、もう少し楽観的に考えております。
 アメリカ経済は依然として成長を続けております。アメリカ経済の柔軟性というものが非常に高い。潜在成長率では、アメリカは日本やヨーロッパを大きく上回っております。そういった成長性の高いところに資本がやってくる、経常収支の赤字ということは、海外から資本がやってくる。あるいはアメリカが借金をするということでございますが、借金をするだけの価値があるというふうに外の投資家がみなしている。
 第2番目は、アメリカは確かに純負債国化しておりますが、アメリカの海外に支払います投資収益、借金に対して払います利子あるいは配当等は比較的少ない。それに対しまして、アメリカが海外に投資している場合に得る収益、これは非常に大きなものがあります。したがいまして、アメリカの投資収益の収支は赤字にはなっておりません。アメリカは最大の純借金国でございますが、投資収益収支は黒字だという若干奇妙なことが起きておりますが、これはアメリカが海外で非常にたくさん稼いでいるということを示しています。
 3番目には、アメリカの経常収支赤字の一つの原因は、アメリカの拡大しつつある財政赤字でございますが、これは、アメリカはいろいろな場で財政赤字の縮小ということを国際公約として打ち出しております。かなり真剣に考えているというふうに思われます。
 第4番目は、ここ数年、実は既にドル安は起こっております。これは、図一ですとか図二、図二は実効実質為替レートでございますが、アメリカ・ドルは2002年から下がり始めております。そして、特にユーロに対して大きく下がっておりますし、円に対してもかなり下がっております。近々、その経常収支調整効果、ドル安によります調整効果、つまり経常収支の赤字の拡大が余り続かないということが起きてくるのではないかというふうに思われます。そして、通貨調整がもし必要であるとなった場合は、かなり、もう既にユーロ、円に対して通貨調整はなされております。人民元など新興市場諸国の為替に対して、まだ通貨調整がされる余地は大きいのかと思っております。
 国際通貨ドル、これは依然として世界の国際通貨、基軸通貨でございます。しかし、それはユーロの拡大によりまして構造的に侵食されつつあります。大きい目で見ますと、ドルがだんだん退潮していくということは、構造的にそうなるであろうというふうに思われますが、現在の経常収支の状況がそのまま急激なドル安あるいは円高といったものにすぐつながっていくというふうには思われません。
 次に、中国人民元のお話をさせていただきたいと思います。
 中国は、皆様御案内のように、大変爆発的な成長を続けております。ゴールドマン・サックスが出しました予測によりますと、2040年代には中国経済の規模はアメリカを上回るだろう、あるいは2020年ごろには日本経済の規模を上回るだろうというふうに言われております。これは、中国の市場経済への移行が順調に進む、あるいは社会的、政治的な安定性が維持されるといったことを前提にしますと、こういったシナリオが出てくるのも当然かもしれません。
 中国は、人民元を現在米ドルに事実上固定しております。大体1ドル8.27元、8.28元の間でございます。ところが、中国の人民元の対ドルレートの柔軟化といったものは、これはこれからは必然であるというふうに私は考えております。対ドルレートの固定化を長く続けることはできないということでございます。
 中国は、市場経済化とともに、国際資本移動の自由化を、緩やかなスピードではありますが、進めております。そして、中国のように規模の大きな経済にとりましては、自律的な金融政策、すなわち、自分の国の景気安定のために、あるいはインフレのコントロールのために独自の金融政策を持つということは必要でございます。仮に、これからますます国際資本移動の自由化が中国で進んでくる、そういう中で独自の金融政策を持とうとしますと、為替レートの柔軟化は必然、これは避けることができない問題でございます。
 そして今、足元では、中国人民元は過小評価されている、つまり安過ぎるというふうに考えております。人民元のレートが柔軟化されるとしましたら、これは人民元の切り上げが必要であるということでございます。
 その一つの理由は、外貨準備が構造的に増大しているということでございます。経常収支は若干の黒字、そして資本流入、資本収支も黒字、直接投資等で資本が入ってきています。あるいは、誤差脱漏といいます統計ではとらえることができない形で短期資金の流入も入っております。そういった中で外貨準備がふえている状況でございます。
 そして同時に、中国の中では金融機関の貸し出しがふえております。その中で経済過熱問題が出てくる。昨年には、中国は金利を引き上げるということも行いました。しかし、金利を引き上げますと、海外からますます資本が入ってくるということになります。そして、資本が入ってきて外貨準備がふえる、あるいは短期流動性がふえるということで、景気過熱を抑えることができない状況になってしまう可能性が非常に大きいと思われます。この状況は、実は1997年のアジア通貨危機に陥りましたアジア各国が、危機の前に遭遇していた状況とかなり似ております。中国のこの問題を解決するためには、そして健全な経済運営を行うためには、人民元の切り上げといったものが必要であるということでございます。
 もう少し構造的な観点からいたしますと、中国の場合、いわゆる購買力平価説といった考え方が経済学で行われますが、為替レートは各国の物価費を反映するものであるという考え方ですけれども、これは図五に書かれておりますが、世界全体の平均から見ますと、世界全体の平均は太い曲線で書かれております。そして、中国はこの太い曲線の上の方に、中国と書いてありませんが、黒いマークがあります。大体所得が4,500ドル。PPPレート、購買力平価レート当たりで、一人当たり国民総所得が今中国は4500ドルあたり、実際には名目レートでは1000ドルあたりですけれども。その中国は、この平均線よりもかなり上にあります。かなり上にあるといいますのは、かなり通貨が過小評価されている、30%ほど過小評価されていると思われます。
 中国としましては、直ちに為替フロートに移るということは余り現実的ではありません。むしろ、小刻みな切り上げを許す形で、私はこれをクローリングワイダーバンドというふうに呼んでおりますが、比較的大きな幅をつくりまして、その中でレートの変動を許しつつ切り上げをしていく。そして、その中の中心レートも、時間とともに次第に緩やかに切り上げていくという方向に移ることによって為替の切り上げを行う、数年かけて30%ほど切り上げていくといったことがいいのではないかというふうに思っております。
 そして同時に、為替レートの安定化の対象を対米ドルから移していく、いわゆる通貨バスケット、円ですとかユーロですとかドルのバスケットに対して安定化させるといいますか、それを為替の尺度として切り上げていくということが望ましいのではないかと思われます。
 最後に、東アジアの金融協調の問題と円の役割について、残りのお時間をいただきたいと思います。
 東アジアにおきましては、金融協調がここ7、8年ほど高まっております。これは、1997年、98年のアジア通貨危機の結果、東アジアで、こういう通貨危機を二度と起こしたくないという思いで金融協調が始まっております。アジアで通貨危機が起きましたときには、タイで起きた通貨危機が、フィリピン、マレーシア、インドネシア、韓国等にすぐ波及していってしまいました。これは、東アジアの中の相互依存の程度がかなり高いということを示しております。
 その中で、通貨危機時におきまして、日本は非常に大きな役割を果たしました。タイに対する経済支援、これは、タイが1997年7月に通貨危機に遭いまして、8月にこの経済支援がなされました。また、日本は、1997年9月に、アジア通貨基金構想、AMF構想といったものを打ち出しまして、何とか制度づくりを始めようとしました。これは今のところ実現されていません。新宮沢構想によります危機国への経済支援というものを行いました。これは、アジアでは大変感謝されています。東アジア諸国から日本に対する信頼度が非常に高まっているということを実感いたします。
 こういった状況の中で、2000年からは、ASEANプラス3、ASEAN10カ国と日中韓の3カ国の間で金融協調が非常に目覚ましく進んでおります。チェンマイ・イニシアチブといいます為替スワップ協定でございますが、一たんある国で通貨問題が起きたときに、流動性を融通し合おうという枠組みでございます。あるいは、サーベイランスのシステム、お互い域内の経済情勢をちゃんと監視していこう。そして、2003年からはアジア債券市場構想といったものが出てきております。
 こういったことは、東アジアにおきます経済的な相互依存が格段に高まっているということを反映した動きでもあります。貿易面、直接投資の面、金融面でも、日本を含みます東アジアは相互の経済的な依存が高まっております。日本を中心とします直接投資が、東アジアの域内で、垂直的な産業内貿易、同じ産業の中で部品や製品を交換し合うといった国際貿易が拡大しております。そして、域内の景気循環もかなり連動性を持つようになってきております。日本や韓国、主要なASEAN諸国の間では、景気の同調化がかなり見られるようになってきました。
 現在の東アジアの経済的な相互依存の程度は、ヨーロッパの経済的な相互依存の程度と実はそれほど遜色のない状況まで来ております。こういった中では、東アジアの中におきまして、一層の金融協調あるいはいろいろな経済協調が必要でありますし、相互の為替レートを安定化させていくといったことも必要でございます。
 しかし、東アジアでは、そういった面での制度化はまだ十分進んでおりません。FTA、自由貿易協定は、交渉が行われていますが、スピードが遅いといった問題があります。東アジア全域をカバーする自由貿易協定といったものはまだございません。為替レート協調もありません。域内為替レートの安定といった問題が必要でございます。そして、それを行うには、人民元の柔軟化、人民元が柔軟になりまして、東アジアの通貨が同じように外の世界に対して動くようになるといったことが必要かと思います。
 そういった中で、通貨協調のためには、これは長い目では東アジアの通貨統合につながる潜在性を持っておりますが、そういった通貨協調あるいは経済協調におきましては、ヨーロッパにおけるかつてのドイツのように、日本の東アジアにおけるリーダーシップが求められているかと思います。日本経済を活性化させるとともに、財政を健全化させて活力のある日本経済をつくっていくということによって、日本のリーダーシップを支えていく必要があるのではないかと思っております。
 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
○甘利委員長 ありがとうございました。
 次に、久保田公述人にお願いいたします。
○久保田公述人(日本労働組合総連合会副事務局長) 連合副事務局長を務めております久保田と申します。よろしくお願いします。
 本日は、働く者を代表いたしまして、勤労者が置かれております状況、特に雇用と生活実態がどうなっているのかということにつきましてお訴えさせていただき、私どもの情勢認識を話させていただきたいと思います。その上で、政府の経済財政運営への要望につきまして申し上げたいと思います。
 とりわけ強調したいことは三点でございます。
 一つは定率減税の廃止縮小問題、二つ目に雇用対策の問題、そして三つ目に社会保障制度の改革の三点につきまして、連合としての主張をお訴えさせていただきたいと思います。この予算委員会における審議におきましてぜひとも反映をさせていただきたいということで参っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
 定率減税の廃止縮小につきましては、反対でございます。今のサラリーマンのあるいは勤労者の生活実態ということを直視していただきまして、拙速を避けるといいますか、このタイミングは本当に必要なのかどうかということについて、もう一度再考いただきたいという立場でございます。
 雇用対策の問題につきまして、この予算で最大の問題意識を持っておりますのは、雇用問題はもう終わったという認識が政府の中にあるのではないか。これは現場と大変大きなギャップがあります。後で申し上げますが、雇用の中身の問題、そして、今後の日本社会のあり方として、今こそ雇用問題をしっかりやっていく時期にあるというふうに考えております。
 三つ目の、社会保障制度改革は、もはや待ったなしだというふうに思っております。ぜひ、国会の責任においてあるいは政治家の責任において、サラリーマンの将来不安の解消ということについて全力を挙げていただきたいという立場でございます。
 まず、勤労者の生活実態につきまして、お手元に、連合総研のアンケート、あるいは定率減税縮小廃止の連合の主張を、資料を用意させていただきました。お時間もございませんので後で目を通していただきたいのですが、端的に、勤労者の生活実態が今どうなのかということについて申し上げたいと思います。
 昨年9月に実施されました日銀の生活意識に関するアンケート調査では、約半数の人が、一年前と比べて現在の暮らし向きは悪くなっていると答えております。また、一年前と比べて収入が減ったという人も約五割弱。財布のひもを締め続けているわけでございます。
 その理由としては、6割を超える人たちが、年金や社会保険の給付が今後少なくなるんじゃないかという不安を抱えています。また、6割弱の人が、将来の仕事や収入への不安があると答えています。また、四割強の人たちが、将来増税されるのではないか、社会保障費の負担が引き上げられるのではないかという不安を持っているということが明らかになっております。
 内需主導型の経済に向かうために、まず、今最も大事なことは、民のかまどといいますか、個人消費の圧倒的多数を占める、そして、日本の雇用労働者の八割がサラリーマンでありますが、そのサラリーマンの日常の生活の安定と、雇用の不安をしっかり解消し、しかも、将来への、社会保障を含めた老後の不安を、安心できるそういう制度をつくるということが第一義にあるべきではないかと考えています。
 連合のシンクタンク、連合総研がやりましたこの手元のアンケートでも、今申し上げた職場、賃金の実態は如実に出ております。勤め先での仕事の先行きや労働条件が下がるんじゃないかと思っている人は、回答者の何と6割を占めております。自分が将来失業するんじゃないかと不安におびえる人も5人に一人の割合でおりますし、従業員百人未満の企業では約3割が失業不安を抱えております。雇用の不安というのは実は全く解消されていないというのが実態でございます。
 所得もそうです。勤労者世帯の可処分所得は5年連続で下がり続けているというのが政府のデータでも明らかになっています。私どもの調査でも、自分の賃金が1年前と比べて減ったという人が3割を超えております。
 一方で、職場での働き方のアンバランスが拡大をしています。長期失業者が大変ふえている一方で、今職についている人たちは、ぎりぎりの人数で仕事をしております関係から、実は大変忙しい。不払い残業、いわゆるサービス残業の横行はとまっておりません。
 連合が昨年11月に不払い残業相談ダイヤルというのをやりましたけれども、もう朝から晩まで電話がひっきりなしでございます。連合総研のアンケートでも、きっちり残業代が支払われているという回答を寄せた方は5割以下でございまして、労基法違反とも言える行為が、企業規模にかかわらず依然として存在をしております。一たん残業の打刻をして、その後仕事をするなんというひどい例もこの相談ダイヤルには寄せられておりました。
 連合としても、徹底して労働組合としての改善の努力をいたしますが、それでも改善されない場合は内部告発辞さずということを明言しながら今職場で取り組んでいる最中でございますが、法の遵守の立場から、労働基準監督行政をぜひ強化していただきたいというふうに思っております。
 政府は、一貫して景気は堅調に回復していると主張されておりますが、私どもの実感と全く違います。今、我々の実感は、企業の業績回復が自分の生活の改善に結びついていないということに尽きるわけでございます。OECDの労働組合諮問委員会の会議で、経済総局長も、日本の経済の問題は企業の所得が家計部門に移転していないことに尽きるという指摘をされております。全くそのとおりだと思っています。働く者に、今、景気回復の実感はありません。生活が向上していっているという実感がない、そこに最大の課題がございます。
 政府の経済財政運営につきまして、小泉政権の成果は何か。さまざまな成果が上がっていると言われていますが、問題を先送りし、しかも国民に痛みを押しつけて、構造改革という名の市場万能主義が横行していったのではないかという懸念を持っております。財政再建も大事でありますが、余りに最優先にし過ぎますとさまざまなデメリットも出てまいります。
 しかも、今、我々労働組合の問題意識の最大のポイントは二極化でございます。この日本を支えてきた分厚い中間層といいますか、一億総中流社会と言われましたが、それが崩れかけているというのが言われているところでございます。あらゆる分野において二極化がひどくなり、産業間、あるいは同じ産業でも企業の間で、企業規模間、大企業と中小企業、そして地域の間においても格差がますます広がっております。働く者の間でも、いわゆる雇用形態間によって格差がどんどん開いています。正規社員と言われる典型社員と、パートやアルバイトや派遣労働者の非典型社員の間の格差はますます広がっています。そして、それを後押ししてきたのは、実は規制緩和という名の政府の政策ではなかったかというふうに思います。
 勤労者の雇用や生活、社会保障への将来不安が続く限り、景気の本格的な自律回復は望めないというのが連合の主張でございます。ぜひ耳を傾けていただきたいと思います。
 政府の構造改革は、まず国民に痛みありきでやってしまっているのではないか、抜本的な改革は先送りという感がぬぐえません。我が国の経済を持続的な成長軌道に乗せるためには、まず、雇用、生活の安定と将来不安の解消を最優先とすべきだと考えます。自律的な景気回復を確実に実現した上で、財政構造の抜本的な改革を断行し、中長期的な財政再建を目指していくべきであると考えています。
 そのためには、安心して暮らし、働ける環境をつくるための政策であり、予算であるべきだと考えます。特に、雇用創出や格差是正につながる政策を最優先に打ち出していただきたいと思います。国民が納得できる税制や社会保障制度の抜本改革を早期に実現して国民の将来不安を解消することこそが、今求められているのではないでしょうか。
 そういう観点から、定率減税問題と雇用対策と社会保障制度の三点につきまして御意見を申し上げたいと思います。
 まず、定率減税の廃止縮減問題ですが、お手元に資料を用意いたしました。国民が雇用、生活不安を抱えて、将来不安も解消されないまま、貯蓄を取り崩しながらの生活を余儀なくされている中で、税や社会保険料などの国民負担だけが相次いで引き上げられているということについて、極めて問題ではないかと考えております。特に、定率減税の2006年1月からの段階的縮小廃止が今回の政府予算案に盛り込まれているということにつきましては、強く反対の立場から御意見を申し上げたいと思います。
 指摘すべきことは二点です。一つは景気への影響、二つ目は、所得税以外の恒久的減税の取り扱いが、もう条件が終わっているのかどうかという問題でございます。
 所得税、住民税の定率減税について定めました1999年の恒久的減税法では、景気が回復したら見直すということになっておりますが、今、景気回復だと言われても、それは実感なき景気回復でありまして、定率減税を縮小廃止することは、医療費や配偶者特別控除の廃止、年金保険料や雇用保険料の相次ぐ負担増でただでさえ負担感を感じている勤労者の家計を直撃して、消費が冷え込んでしまいかねないという懸念を持っています。
 とりわけ、景気回復から取り残されている地域経済、地方の経済は大きなマイナスになりかねないと懸念をしております。今、連合は、定率減税問題で街頭に出ております。とりわけ、地方に行きますと、サラリーマンの方々から大変大きな反応がございます。連合頑張ってくれ、生活大変だという声は、地方に行けば行くほど非常に強いものがございます。
 二つ目に、定率減税問題ですが、恒久的減税法では、所得税、住民税の最高税率及び法人税率の引き下げも措置をされたわけでございます。これも所得税の抜本的な見直しとセットであると書かれているわけでございまして、政府の説明では、恒久的減税を廃止する条件がそろったと言っておりますが、では、それならば、最高税率や法人税率についても議論があってしかるべきじゃないか。しかし、この間、そうした議論は全く行われておりませんし、政府が示されているのは、所得税、住民税の定率減税だけの廃止縮小案になっております。国民が納得できるだけの議論も説明も全く欠けているんじゃないかというふうに思います。
 税制の抜本的改革を言うのであれば、ジニ係数に顕著にあらわれているように、拡大しつつある格差をどう是正するかという視点が貫かれなければならないと考えています。明らかに我が国では税の所得再配分機能が落ちているのではないか。これを是正するための税制改革、所得税の累進機能をもう一回高める、そういう見直しがあってこそ、恒久的減税法は見直しをされる時期に来たと言えるのではないかと思います。
 連合は、労働者の所得増に確実につながる景気回復への道筋はまだ見えていないということ、そして、税制が持つ所得再配分機能を高める視点からの抜本的改革が行われていないこと、この二点から、恒久的減税見直しの条件はまだ満たされていないと考えております。したがって、2006年1月からの定率減税の廃止縮小は何としてもすべきではないということをもう一度強調させていただきたいと思います。
 二点目は雇用問題です。
 雇用問題につきまして、先ほど申しましたけれども、雇用問題はもう終わったという感覚があるのではないかという最大の危機感を持っております。そういう意味で、この政府予算は、雇用対策予算は全く不十分だと言わざるを得ません。大幅な拡充を求めていきたいと思います。
 二つありますが、第一は雇用の二極化の問題、第二は若年者雇用の問題でございます。
 雇用の二極化の問題ですが、総務省の労働力調査でも、98年からの5年間で、典型労働者、いわゆる正規従業員は372万人も減っておりますが、パート、派遣、契約、請負などの非典型労働者は逆に410万人もふえています。フリーターも217万人を数えまして、将来の経済成長や社会保障制度への悪影響が懸念されています。
 これらの非典型労働者の数の中には、労働契約を結ばずに契約上は請負や業務委託契約となっている人たち、すなわち、実態は極めて労働者に近い個人請負や委託労働者が多くおられます。また、パートタイム労働者の中には、生活費を稼ぐために多重就労を行っている場合もございます。政府の統計では就業者がふえていると言っておりますが、中身はこういう問題でございまして、雇用問題は解決したというのはとんでもない認識のギャップ、誤解でございます。
 連合は、非典型労働者がふえることはけしからぬ、雇用の多様化が進むことはけしからぬと必ずしも言っているわけではございません。働く側からすれば、選択肢の拡大という側面がございます。ただ、そのためにはしっかりしたルールをしっかり確保してもらいたい。そのキーワードは均等待遇でございます。
 我が国は、ILO100号条約、これは男女同一価値労働同一報酬の条約ですが、これを既に批准しています。すべての労働者に、公正な賃金、あるいはいかなる差別もない同一価値の労働者についての同一報酬を規定している。政府はこれを誠実に実現すべき国際的責任も負っていると思います。
 連合も、均等待遇の実現をこの春季生活闘争の中で最重点課題として位置づけておりまして、パートタイマーの組織化、条件改善、今職場で盛んに取り組んでおります。同時に、パート・有期契約労働法の制定を求めておりまして、昨年6月に民主党が提出をしていただきましたパート労働法の実現を切に願うものでございます。均等待遇というルールをしっかりした上で雇用形態の多様化やそういうものに対応するということがなければ、どこまでも二極化は進んでいく、そして、将来の社会保障や若い人たちの生涯にわたる生活というものはこれから大変なことになっていくんじゃないかという危惧を持っております。
 若年者雇用問題に移ります。
 この部分は、政府とも問題の意識は同じであろうと期待しておりますけれども、問題は、対策が十分かどうかということでございます。
 フリーターの急増やニートの存在というのは、我が国の中長期の競争力や社会保障や担税力や社会の活力さらには治安など、さまざまな問題につながりかねない深刻な問題だと思っております。UFJ総研の試算によりますと、税収や消費などの経済的な損失は10兆円以上というふうにされています。若年者問題は、社会全体として取り組むことが重要であると考えています。
 フリーター対策でございますが、フリーターは働く意思がございますので、雇用機会の確保が重要となります。さきに連合と日本経団連のトップ懇談会でも確認したところでございますが、若年者対策の必要性については労使ともに問題意識を持っておりますので、政府としても、余力のある企業に対して、若年者の雇用を促進するような施策をぜひ強化していただきたいと思います。トライアル雇用やインターンシップ、キャリアコンサルタントの養成、増員につきましては大幅に拡充していただきたいと思います。
 ジョブカフェにつきましても、現在、各都道府県に一カ所設置とされておりますが、その設置数をもっとふやしていただきたい。広域行政300カ所ぐらいにふやしていただきたい。そして、相談機能と紹介機能がきちんとリンクをしたワンストップサービスが提供されるように機能強化を図るべきだと思います。
 ニート問題への対応については、これは大変難しい問題だと思っておりますが、昔のように、おやじの背中を見て育つような環境条件が非常に薄れています。ただ、やはり親が雇用と生活の不安におびえるような環境の中では、その子供たちが将来に希望が持てないということになっていくのではないかというふうに考えております。
 最も大事なことは、学校教育における職業観や勤労観の醸成ということがやはり中核になるのではないかというふうに思っております。既に幾つかの県で行われていますが、中学校や高校の授業で一週間くらい職場体験をさせる試みが行われています。こうしたものへの支援を拡充させることは大変重要だと思います。受け入れ先の企業を探すのに今苦労しているようでございますが、企業に対するインセンティブなども考えていただきまして、連合としても、教育現場への講師派遣や若年者の仕事探し支援など、労働組合としても協力できるところは積極的に協力をしてまいりたいというふうに思います。
 その点で、地域労使就職支援機構というのを、予算をつけていただきまして、今労使で運営しておりますが、ここをどう活用するかという視点をお訴えさせていただきたいと思います。学生やニート等に職場経験をさせる受け入れ側企業との橋渡しをする、そして、若年者への勤労意識の啓発や適職相談を行うコーディネート機関として、この地域労使就職支援機構はふさわしい組織ではないかと考えております。既に一部の機構では実施しているところもございまして、各県の労使共同で若年者対策に取り組む機関の一つとしてこの地域労使就職支援機構を位置づけていただくとともに、十分な継続した予算措置をお願い申し上げたいと思います。
 最後、三つ目の視点です。社会保障制度の抜本改革について申し上げたいと思います。
 昨年の年金制度の改革におきましては、結局、年金保険料の引き上げと給付の削減だけが決定をされまして、制度の抜本改革を見送られたということは極めて残念だ、問題であったと考えております。厚生年金の空洞化、国民年金の空洞化はとまっておりません。その結果、社会保障制度に対する国民の信頼が全く回復されずに、国民年金の未納率は一層拡大している現状にあるんじゃないかというふうに思っています。
 私ども連合にとって、昨年の年金制度改革の唯一の収穫は、労使代表が入って、連合の笹森会長が入っておりますが、年金、医療、介護の社会保障制度を総合的かつ一体的に見直すための社会保障制度のあり方に関する懇談会を設置していただいたことだと考えております。この懇談会において、実効ある検討と、その結果を最大限に尊重した社会保障制度の抜本改革を実現することをお願いいたしたいと思います。
 もう時間がございません。連合としては、社会保険料の15%を超える以内に抜本改革をすべしだというふうに考えておりまして、この懇談会に並行して、この国会におきましても、党派を超えた検討の場を設置されるよう切にお願いを申し上げたいと思います。サラリーマン、勤労者は本当に将来不安の解消を願っております。国会の先生方の決断と、そして、現在の社会保障制度の問題点につきまして本当に真剣に考えていただきまして、ぜひこの国会の場で安心できる社会保障制度の改革をなし遂げていただきたいというふうに思います。
 もう一つ、この国会におきましては介護保険改正案が審議されることになっておりますが、この改正法案には、被保険者、給付対象者の拡大について附則に検討条項がついておりますが、この内容では、2009年度からの適用拡大があいまいになったままでございます。昨年の年金制度改革における先送り体質と同じことが出ているのではないかと危惧をいたします。
 連合は、制度発足当初から、被保険者、すなわち40歳以上の被保険者と65歳以上の給付対象者につきまして、普遍主義という視点から、年齢で限定すべきではないとずっと一貫して主張し続けてまいりました。ぜひ、2009年度に適用拡大を行うことを明確にしていただきたいというふうに思います。被保険者の範囲につきましては、40歳以上から20歳以上への拡大の道筋をこの国会でつけていただきたいと切に要望いたしたいと思います。
 以上、勤労者の厳しい雇用、生活実態を踏まえまして、働く者を代表して、この政府予算案を勤労者国民の生活不安、将来不安を払拭する予算に組み替えていただきたいということを申し上げまして、連合を代表して意見といたします。
 ありがとうございました。(拍手)
○甘利委員長 ありがとうございました。
 次に、河野公述人にお願いいたします。
○河野公述人(BNPパリバ証券会社経済調査部長チーフエコノミスト) 御指名をいただきましたBNPパリバ証券東京支店の経済調査部長・チーフエコノミストであります河野龍太郎であります。
 本日は、平成17年度予算案について意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず最初に、予算案全体に関して意見を述べさせていただきたいと思います。いろいろ細かい問題点はあろうかと思いますが、基本的には与党案に対して賛成の立場であります。
 既に日本の公的債務の水準は、持続可能性が問題になるほど大きく膨らんでおります。このため、可能であれば、できるだけ早い時期から財政再建を行うべきだということが考えられます。ただし、現在の日本経済の状況をかんがみますと、デフレ脱却の兆しが見えてきたといっても、まだ完全に立ち直ったとは言えない状況であります。マクロ経済の状況を踏まえますと、大幅な歳出の削減あるいは大幅な増税を実施するには、もう少し体力を回復してからというふうになろうかと思います。
 とはいえ、体力が回復するまで何もしないかというと、そういうのも妥当ではないというふうに考えております。デフレであったとしても、可能な財政再建というのはあります。それは、歳出の中身を入れかえるということです。歳出の中身を改革していくということであります。仮に歳出額の全体が一定でありましても、あるいは財政赤字の規模が同じでありましても、必要性の低くなった歳出を削減していって、一方で必要性のより高い歳出に入れかえていくということで、より望ましい歳出構造に近づけていくというふうなことは可能だと考えております。
 こうした観点からしますと、平成17年度予算は、マクロ経済の状況を勘案して、体の歳出規模をほぼ横ばいに抑制する中で、従来よりもめり張りをつけた予算配分になっているという点では、歳出構造の見直しを進めているということで適切だというふうに考えております。
 今回、17年度予算案については、定率減税の縮減が盛り込まれているわけです。将来については全廃が必要かというふうに思いますが、現在のマクロ経済への悪影響を考えますと、17年度予算案については半減にとどめたという点でも妥当だというふうに考えております。また、マクロ経済の情勢次第では、実施を再検討するということも与党サイドでは念頭に置いているというふうに聞いておりますので、こちらも妥当な措置だというふうに考えております。
 ただ、問題は、周知のとおり、マクロ経済、足元減速しているのではないかということで、この観点で、定率減税の縮減は妥当かということについてもう少し考えてみたいと思います。
 御存じのとおり、2004年の11、12月のGDPは、前期比でマイナス0.1%ということになりました。2004年4―6月期の前期比マイナス0.2%、7―9月期のマイナス0.3%に続いて、34半期連続のマイナス成長となっております。統計の性格上、恐らく、いずれも小幅なマイナスでありましたので、正確なところは、ゼロ成長が続いたというふうに言った方がいいんだと思います。
 こうした状況のもとで、定率減税の半減、縮減を行っても大丈夫かという意見も十分あるかと思われます。この点について、今から意見を述べたいと思います。
 まず、結論を先に述べますと、経済統計を詳しく見てみますと、既に足元で景気回復の兆しなるものが見え始めております。ですから、現在の景気減速は恐らく一時的で、深刻な後退には陥らないというふうに予測しております。事後的に見ると、この1―3月期から実は景気回復が始まっていたという評価になる可能性も十分あり得ます。ですから、定率減税の半減の実施というのは2006年の1月からということになりますが、それをきっかけに景気が深刻な後退に陥る可能性は小さいというふうに考えております。
 もう少し経済についてお話をしたいと思います。
 皆様のお手元に日本経済の見通しという資料がございますが、こちらの資料四ページを開いていただきたいと思います。
 今回の景気の減速のきっかけは何だったかといいますと、昨年の4―6月期にアメリカの景気減速が起こったことが背景でありました。この影響で、日本を含み世界各国のアメリカ向けの輸出が減速したということで、日本の景気が7―9月期から減速したということが背景になっております。
 この四ページ目のグラフを見ますと、鉱工業生産と輸出のグラフが出ておりますが、輸出が昨年の7―9月期に改善がとまった途端に、生産が7―9月、12月、連続で減速したということがこのグラフでわかると思います。大体、輸出が上がると、生産がほぼ同時あるいは14半期後に上昇し、輸出が減速しますと、同時あるいはほぼ14半期後に生産が減速していくということになっております。
 ですが、今回の景気減速のきっかけとなりましたアメリカにつきましては、減速自体が非常に一時的に終わっておりまして、既に昨年の7―9月から回復が始まっております。その影響もありまして、このグラフが示しているとおりですが、日本の輸出は10―12月から既に緩やかに回復しております。輸出と生産の連動性を考えますと、この1―3月から生産は回復に転じてくるというふうに考えられます。
 つまり、今回の日本経済の減速のきっかけとなったショック自体が非常に小さかったということもありますし、そのショックの震源地でありますアメリカの減速も既に終わっているということを考えると、今回の日本の景気減速は非常に軽微なのではないかというふうに考えられます。これが一つの理由であります。
 もう一つ、日本経済の今回の減速が非常に軽微ではないかと考える理由があります。それは、日本経済自身が90年代に比べて相当改善してきたということであります。幾つか要因があるのですが、私自身、一番大きな変化は、企業や家計が持っていましたデフレ予想あるいは資産デフレ予想というのが足元で大きく後退してきているということがあるのだろうと思います。私自身、日本経済の失われた10年と呼ばれる長期低迷の最大の原因は、企業や家計でデフレ予想が定着していたということがあったと考えております。
 つまり、どういうことかといいますと、企業では、まだまだ価格が下がって売り上げが減るから設備投資をふやさない、あるいは採用をふやさない、あるいは家計では、まだまだ値段が下がるから、値段が下がった後に消費すればいいんだから消費は先送りするというのがデフレ予想の定着で、景気を抑制していた要因なわけですが、このデフレ予想がかなり足元後退してきたということであります。
 この点、もう少しお話をしたいと思います。
 グラフの六ページを見ていただきたいと思います。日本銀行の発表します全国企業短期経済観測調査、いわゆる短観というのがあるんですが、この中に販売価格判断という項目があります。企業は、自分の会社の製品に対して、あるいは自分の会社のサービスについて価格が上がるか下がるかということを答えているわけなんですが、この6ページ目の左側のグラフを見ますと、こちらは先行き自社製品の値段が下がっていくという割合ですが、2002年をピークに減少しているということがわかると思います。
 一方で、右側のグラフ、こちらは価格が先行き上がっていくという予想ですが、2003年の後半から、価格が上がるというふうに見込む企業がふえております。昨年後半、景気減速が起こったわけですけれども、このデフレ予想の後退という状況が基本的には変わっていなかったということがわかると思います。
 今お話ししましたとおりですが、少し前までは、デフレ予想が非常に強いから売り上げの増加の見通しが立たない、だから企業は、手元の資金がふえても、借金の返済に回して設備投資や採用をふやさなかったわけですが、それが状況が変わってきたんだというわけであります。
 最近も、企業経営者の方とお話をしますと、借金を返すのがもったいなくなり始めたというふうにおっしゃっているんですね。どういうことかといいますと、借入金利が下がっているわけじゃないんです。ですが、価格が下落するという予想が後退していって、売り上げがふえるという見通しが出てきた。そして、そうした中で銀行金利を見ると、今借りているお金を見ると、金利はそんなに高くない。これは返すのはもったいない、それならば使おうということで設備投資をされ始めています。これが最近の設備投資の回復の背景であります。
 雇用でも全く同じことが起こっておりまして、雇用が回復しているというのも、このデフレ予想の後退が非常に影響しているということであります。
 ただ、そうはいっても、本当に企業が設備投資あるいは採用をふやす状況になっているのか、過剰雇用、過剰設備はどこに行ったんだということですが、実はここも相当改善しているということであります。
 これは7ページ目のグラフを見ていただければ明らかだと思います。7ページ目のグラフは、左側に、企業が生産設備について過剰か不足かを答えたものですが、設備の過剰感は非常になくなっているというのがわかると思います。90年代の水準に比べても、非常に低い状況までやってきているということです。ですから、環境は相当変わっているんだということです。
 右側のグラフは、より気になります雇用状況です。企業が考える雇用過剰感、不足感を見ますと、過剰感はほとんどない、ゼロになっているわけです。雇用過剰だというふうに思い込んでいらっしゃる方も多いんですけれども、実は、企業が考える雇用の過剰感はほとんどゼロになっております。実際に、こちらは全規模、全産業のデータを見たものですが、非製造業だけ取り出しますと、大企業、中堅、中小企業、いずれも雇用不足という状況になっております。そうすると、企業のいわゆる今までの大きな問題、設備の過剰問題、雇用の過剰問題はほとんどなくなっている、むしろ足りなくなって、設備投資をふやす、雇用をふやすという状況までやってきているんだというわけであります。
 もう一つ、次の8ページ目のグラフを見ていただきたいと思います。こちらは企業の業績の動向を示しているグラフです。このグラフには、労働分配率ということで、企業の生み出した付加価値のうち、労働者の取り分が出ております。この労働者の取り分が下がっているということは、当然、企業の収益が回復してきているということです。
 90年代、大きな問題は、売り上げがふえない中で労働者の取り分がふえてきたということで、企業がもうかっていなかった、成長のエンジンである企業が全くもうかっていなかったということが大きな問題だったわけですが、2003年の後半から、製造業のみならず非製造業の労働分配率も下がり始めたということです。まさに企業業績が改善をし始めたということであります。
 そうすると、過剰雇用がむしろ不足になってきた、あるいは過剰設備がむしろ非常に和らいできた状況のもとで企業業績が改善しておりますので、現在の企業業績の改善がエンジンとなって設備投資がふえ始めた、そしてようやく雇用に回復が向かい始めたという状況であります。
 ただ、こういった状況だと、雇用に全く、家計部門に恩恵が行っていないのではないかというふうに見られると思いますが、実は、ついに家計部門への恩恵も始まり始めたというのが次の9ページ目のグラフであります。
 雇用情勢は実は相当改善しておりまして、左側のグラフを見ていただければわかるとおりですが、2003年に360万人いた失業者、こちらは60万人既に減りまして、300万人まで減っております。雇用情勢は相当改善しているんだという状況です。
 一方で、家計がそれをどう受けとめているかということなんですが、右側のグラフが、消費者がどのように雇用状況を考えるかということであります。90年代で最も改善している状況まで行っているということです。つまり、2001年、2年に日本国じゅうを覆いました失職リスクなるものは相当後退しております。
 つまり、周りで採用がふえている、失業者が減っているという状況なので、雇用情勢は相当改善しているんだということであります。これは、あらゆる家計部門に聞いたセンチメントインデックスで、雇用情勢の改善から、消費者の不安感は後退、あるいは消費者の態度は改善しているというのがいずれの統計からも出ております。そういった意味で、消費を取り巻く環境は改善しております。
 ただ、問題は、御存じのとおり、GDP統計を見ますと、7―9月、10―12月期、いずれも消費は若干の減少だったわけで、この雇用情勢あるいは消費環境の改善とどう整合的なのかというわけであります。
 実は、昨年の7―9月あるいは10―12月の消費の低迷、一番大きかった要因は、皆さん御存じのとおり、日本に相次いで上陸した台風の影響と、暖冬で冬物衣料が売れなかった、こちらが非常に大きく影響しております。ですが、今申しましたとおり、雇用情勢が非常に改善して、家計部門のセンチメントも非常に底がたい状況が続いておりますので、今回のGDP統計で雇用者所得の下げどまりも確認されておりますので、個人消費も早晩改善に向かってくるだろうというふうに考えられます。
 ここまでの話をまとめますと、景気は既に明るい兆しも見え始めておりますので、定率減税の半減を行っても、それをきっかけに景気が大きく悪化する可能性は小さいと思います。もちろん、将来、不測の事態が生じたときには再検討するということも視野に入れておくべきだというふうに考えております。
 これまでお話ししましたように、デフレ予想はかなり後退してきておりまして、日本経済も徐々に正常な状態に近づいております。ですから、17年度予算案の議論だけではなくて、今後の財政再建のためにどのような政策をとるべきか、そろそろ10年先、20年先をにらんだ戦略を明確に打ち出す時期になったのではないかというふうに私自身考えております。
 ですので、最後に、今後の財政再建のあり方について、私の考えを述べさせていただきたいと思います。
 まず、毎年一般会計歳出で80兆円強、そして歳入が40兆円強しかなくて、国債依存度が40%というふうな現在の状況を考えると、景気回復で自然増収が図れるとか、歳出削減だけで財政再建が可能だという見方はちょっと難しいんだというふうに思います。いずれは消費税率の引き上げなどの増税も検討すべきだというふうに考えますし、日本の場合、諸外国に比べますと、日本の家計部門の税負担は決して重いとは言えないということもあります。ですから、課税所得最低限の引き下げも必要だと思います。
 ただ、現在の歳出構造を続けたままでは、国民の多くは増税を決してすんなりとは支持しないということも考えておかないといけないと思います。つまり、増税を行うのであれば、増税の前提として、17年度予算案で行われた見直し以上に徹底的な歳出構造の見直しが必要だというふうに思われます。
 それで、財政再建の本来の目的というのは、公的債務を持続可能な水準まで引き下げるということもあるわけですが、それだけではなくて、ある種、すっかり固定化してしまった歳出を削減して、限られた財政資金を時代の要請に応じた歳出へと振りかえるということがあります。本当に必要な歳出だというふうに国民が考えるのであれば、国民は納得して税金を払うと思います。
 また、本格的な歳出削減を行う際には、国民に対して国がどこまで公共サービスを提供するのか、あるいはどこまで社会保障を出すのかという最低限保障すべき水準、いわゆるナショナルミニマムの水準も改めて打ち出す必要があると思います。
 現在の公共サービスは、私から見ますと、本来あるべきナショナルミニマムの水準を超えたものまで国が供給しているのではないかというふうに考えます。少なくとも、ナショナルミニマムを超えたサービスについては、対価を払ってもよいと思う方が、対価を払った上でサービスを受け取るような仕組みにすべきだというふうに考えます。少なくとも受益と負担の原則を重視した制度にしなければ、財政再建は達成できないというふうに考えております。
 さらに、国民のニーズは、昔と大きく異なって、多様化しています。ですから、現在の公共サービスをすべて国がこれまでどおり供給していく必要があるのかどうかというのも再検討する必要があると思います。
 つまり、人によっては、もっとサービスが簡素でよいからコストが少ない方がよいんだというふうに考える人もいますし、一方で、人によっては、もっとお金を払っていいからもっと質の高いサービスが欲しいというふうに考える人もいると思います。しかし、これに国がこたえようとすると、料金も一律でサービス内容も質も一律だということになってしまいます。ですから、さまざまなニーズに対応するためには、そのサービスの供給を民間企業にゆだねていく必要があるということだと思います。
 最後に、今後、人口の減少と高齢化で、例えば労働あるいは貯蓄といった経済資源にはこれまで以上に強い制約がかかってきます。これまでは貯蓄も余っていた、労働も余っていたという議論ですが、これも徐々に減ってくるということです。そうしますと、一方で、現役世代の負担はますますふえてきます。負担そのものを軽減する努力も必要なわけですが、同時に、高まってくる負担を維持可能とするためには、できる限り現役世代の所得あるいは生産性を高める必要があります。
 そのためにどうするかということですが、同じ経済資源を使ってもより高い産出が可能な経済主体に生産を任せていくというのも一つの考えだと思います。つまり、政府が行うのではなくて、民間にできることは民間に任せるということが重要だと思います。日本経済が抱える多くの問題は、生産性を高めることである程度解決していくことが可能だと思われます。
 そして、長期的に生産性を高めるために重要なことは、マクロ経済政策によって物価や雇用といったマクロ経済の安定化を図りつつ、同時に、市場を自由かつ競争的に保つことで、人々の自由な創意と工夫を最大限に引き出してくるということだと思われます。
 経済成長の源泉というのは、あくまでも民間の自由な経済活動の結果から生まれてくるものであって、政府活動の領域の拡大というのは、むしろ一国経済の成長を損なう可能性が高いことを常に認識しておく必要があると思われます。こうした観点からも、財政再建を進めていくことは重要だと思います。
 以上であります。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
○甘利委員長 ありがとうございました。
 次に、酒井公述人にお願いいたします。
○酒井公述人(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事) ただいま御指名いただきましたアジア経済研究所の酒井でございます。
 私は、これまでの三先生方とは若干話題を異にいたしまして、イラク情勢について解説をさせていただきたいと存じます。これに関しましては、予算委員会というこの場におきまして、とりわけ外交、経済協力、防衛といったような議論をしていただく際に基礎的な情報ということで、議論の土台の情報として御参考に聞いていただければというふうに考えて、お話をさせていただきたいと存じます。
 お手元に三枚紙の資料をつけさせていただいております。先の二枚が本日お話しいたします内容になっておりまして、三枚目には、今次イラクで行われました国会の選挙の結果の詳細を記してございます。
 まず、選挙が1月の終わりに実施されたわけですけれども、今後、イラクにおいて、選挙によって選ばれた新たな政権がどのような形でイラクに安定をもたらすことになるのか、あるいは、それに伴い、国際的な治安情勢、特に中東の治安情勢は一体どのように展開していくのかということを中心にお話をしたいと思います。
 この1月の終わりに実施されましたイラクでの国民議会選挙、そして、最近では、それに基づいて新たに首相がそろそろ決まるということになっております。恐らく、来月の前半から半ばにかけては新たな政権の陣容は固まるということになっていくかと思いますが、この選挙の結果の最大の特徴と申しますのは、しばしば新聞などに報じられておりますのは、シーア派勢力が圧勝であるというふうに伝えられております。これは必ずしも正確な表現ではございませんで、今回の選挙の特徴を一言で申し上げるといたしますと、イスラム勢力、つまり宗教政党の過半数の確保ということが一番大きな性格になるかと思います。
 同じシーア派でありましても、現首相であるアラウィ首相のように、極めて強い世俗主義、宗教色を排した世俗主義に基づく国家運営ということを考えていた人たちが惨敗いたしまして、それにかわって、イスラム国家の樹立を目指すイスラム政党、イスラム主義に基づく政党が少なくとも議会の過半数を占めているというのが今のイラクの現状であります。
 そのことが、とりわけシーア派のイスラム勢力が大半を占めるということで、宗派対立を助長することになるのではないか。さらに言えば、このイスラム国家の樹立を求める宗教勢力は、今回の選挙の公約で多国籍軍の撤退日程を明示化せよというような要求を掲げているということを考えますと、米軍を中心とした多国籍軍との関係も、果たして今後安定的に続くかどうかというのは、これまでのようには安定的にはいかないのではないかという懸念が出てまいります。
 そこで、今後、この議会の勢力を反映して、どのような形で新たな移行政権、ことし末まで続く予定になっております移行政権の陣容がどのように決まるかということが注目されております。
 重要なポイントは三点ございます。
 まず一点目には、今申し上げましたように、議会で過半数を占めましたシーア派のイスラム勢力がどこまで人事の主要ポストを握ってくるかという点が最も注目されるわけです。
 この宗教政党を集めました第一党であるイラク統一同盟というところには、三つの大きな政党が入っております。このうち、ここに記してございますけれども、SCIRIというふうに略されておりますけれども、SCIRIという政党、そしてダアワ党というこの二つの政党が、これまで申し上げてきましたような、イスラム国家の樹立を目標とするいわゆる宗教政党ということになります。恐らくは、次回の組閣人事におきましては、こうしたSCIRIあるいはダアワ党という政党の幹部が主要な人事を握ってくるだろうというふうに考えられるわけです。
 こうした宗教政党が人事ポストの主要な部分を独占するというようなことになった場合に、二つの問題点が考えられます。
 一つは、まず、諸政策の宗教化ということになります。これまでの世俗的な法体系から、宗教的な色彩の強い政策が単独過半数で議会で可決できるというような状況になります。これは、後ほど申し上げますけれども、憲法の制定においても重要なポイントになってまいります。特に、これまでも、これまでのイラクの暫定政権においては、こういった宗教勢力は、まず財務省、それから青年スポーツ省、あるいは、今ではございませんけれども戦後直後には厚生省といったような、いわば宗教政党としては基本であるところの生活密着型の省庁をまず押さえるという形で来ておりますから、恐らく次回の人事においても、そういったところ、特に経済省庁を中心に宗教政党が押さえてくるものというふうに考えられます。
 二番目の問題は、イランとの関係でございます。これは、やはりシーア派のイスラム政党であるということを念頭に置きますと、こうした今挙げましたSCIRIなどのような政党は、20年間にわたってイランに亡命し、イランで政治家、そして軍人といったものを養成、育成を受けてきたという経験も持ちます。ですから、今後、例えば、これも後ほど申し上げますけれども、こうした宗教政党、特に、イランでの亡命経験があり、イランと強いパイプを持つような政治家が国防相あるいは内務相といったような治安関係の職務につくということになりますと、これはイラクの安全保障政策において大きなシフト転換であるということになるかと思います。
 こうしたことに対して、例えば、周辺のアラブ諸国のサウジアラビアやヨルダンといったようなスンニ派の、特に世俗主義の強いシリアやエジプトといった国も含めて、こうしたイラクのイランとの接近あるいはパイプの強化といったものに対して極めて強い危機感を持っているのが現状でございます。
 参考までに、下に、今回首相に指名されるであろうと目されておりますジャアファリ氏の首相就任のデメリット、メリットを挙げさせていただいております。
 簡単に申し上げますと、今申し上げましたように、今回の人事においては、宗教色、イラン色というものが非常にぎらついた人事になるのではないかという懸念が強く出ておりますので、ある意味では、このジャアファリ氏の首相任命というのは、それを少しでも和らげようというようなものであったろうかと思います。すなわち、イスラム政党の中では、ダアワ党という政党は比較的イランとの距離感がある。今申し上げましたSCIRIのような、20年間亡命してイラン政府に庇護されていたというような環境とは若干違った様相を持つという意味ではメリットになるのかなというふうに思われますが、他方、ダアワ党の党首のジャアファリさんという方は、イラク戦争が起こる直前まで戦争に反対していた人物であります。
 あるいは、アメリカとの関係も、2000年になるまでは大変悪かったということになります。あるいは、もう20年以上も前の話になりますけれども、それこそ、その当時の、1980年代のいわゆるイスラム勢力のテロと言われたような事件にこのダアワ党などが絡んでいるのではないかというような憶測は、特にアメリカの国内ではよくなされていたような政党ですので、果たして、対米関係において、このダアワ党の党首が首相につくということがどの程度友好的な形で進められるのかというのは大変難しい問題になろうかと思われます。
 こうした宗教色、イランとのパイプというようなものが、新しい政権での第一のハードルということになるかと思います。
 二番目のハードルといいますか、ポイントといたしましては、今回の選挙で第二党につきました、少数民族政党であるクルドの勢力の台頭でございます。ちょっと余談になりますけれども、クルド人の人口は、現在、イラクでは、人口の17%から多く見積もっても20%というふうに言われております。ところが、今回の選挙におきましては、クルド政党は26%という得票数を得ております。この人口比を超えた形での台頭というのは、クルドの勢力が、強い自治、強い独立性といったようなものを今後イラクの国政において要求してくるであろうということが懸念されております。
 特に、こうしたこのクルド勢力、少数民族であるクルドの自治要求の拡大ということにつきましては、イラクという国のみならず、周辺の中東諸国にも大きな影響を与えるというふうに考えられます。
 とりわけ、最も懸念しておりますのが、トルコの反発でございます。トルコは、人口比におきましては、恐らくクルド人口を最も多く中東の中で抱えている国ということになりますから、これまでもクルドの自治を抑えるためにさまざまな対策をとってまいりました。その意味では、イラク国内でクルド勢力が台頭するということで、トルコの出方、トルコの対イラク関係というのが大変微妙な問題になってくるということがございます。
 それだけではなく、見逃されがちなことでございますけれども、現在、大統領候補に名前が挙がっておりますクルド人のタラバーニという政治家がいますけれども、このタラバーニさんが恐らく大統領になるのではないかというふうに予測されております。タラバーニさんは、クルド人で、シーア派ではないわけなんですが、過去の政治過程の中でイランとのパイプを大変強く持っております。タラバーニさんが地盤といたします地域はイラン国境に隣接しておりますので、そういう意味では、第一党であるシーア派イスラム勢力も、第二党でありタラバーニさんを中心としたグループであるクルド勢力も、両方ともイランとは大変太いパイプを持っているということになります。ここで再びイランとのパイプ、これが、ただ単に宗教勢力を通じてだけではなく、民族的な関係も踏まえて、イランの影響力がいやが応でも拡大するというような構造になりかねないということだろうと思います。
 三つ目の点です。これも恐らく日本の対イラク政策においては一番重要なポイントになるかと思いますが、治安対策の転換の可能性ということになります。先ほど申し上げましたように、国防大臣、内務大臣が今後どのような政党によって指揮されていくかということは、今後のイラクの治安情勢を左右する上で大変重要なポイントになります。
 御存じのように、これまでのイラクの治安対策は、親米世俗主義のアラウィ政権のもとで、旧バース党政権に参加したような治安警察あるいは軍人であっても積極的に起用していく、ある意味では、武装勢力に流れていかれるよりは、むしろ政権の中に取り込んで、こういった旧バース党勢力を容認していくという形で治安対策が進められてまいりました。
 他方、今回第一党につきましたイラク統一同盟、とりわけその中でもイスラム勢力であるSCIRIやダアワ党といった勢力は、こうした旧バース党勢力に対して大変強い反発を抱いております。これはクルド勢力についても同じことが申し上げられます。すなわち、第一党、第二党ともに、むしろ治安対策については旧バース党勢力を政権の中枢から排除する、とりわけ治安組織の中から排除するというような政策をこれまでも強く主張しております。そういう意味では、これまでの治安政策が一転して、シーア派、クルド勢力によって牛耳られるというような可能性が出てくる。そうした治安政策の転換に伴う一時的な治安の混乱というようなものが発生することになると、これは大変危険な兆候になりがちであるということになるかと思います。
 それから、しばしば言われますように、今回の選挙では、スンニ派の住民が選挙に投票、参加できておりません。これは、専らスンニ派地域で治安が極端に悪かったということと、それから、スンニ派勢力の中で多くの人々が支持政党なしという回答を出しているということで、積極的に選挙に参加したくなかったということと二つあるかと思いますが、いずれにいたしましても、選挙でこぼれ落ちてしまったスンニ派勢力をどのように新しい政権の中に取り込んでいくかということが重要になろうかと思います。
 時間の関係で、三番目の憲法制定につきましては、先ほどちょっと触れさせていただきました関係で省略いたします。
 ここでは、新たに成立いたしました国民議会の一番の重要な課題が、ことし10月15日までに憲法を制定する、そして、10月に国民の信任投票によって新たな憲法を制定するということがこの議会の責務になっているわけですけれども、そうした憲法制定において、第一党であるイスラム勢力が憲法におけるイスラム化を要求し、そして第二党であるクルド勢力がクルドの自治といったものを要求する、こうしたある意味では真っ向からぶつかるような要求が、どの程度、あと8カ月の間で調整できていくのかということは大変難しいことになる。
 この憲法の制定が、10月の15日という日程が定められておりますけれども、万が一これが後ろにずれ込む、おくれるということになりますと、その後の政治日程、すなわち、ことし末までに正式な政権を樹立するというような日程がずれ込み、来年以降に正式政権の設立がおくれてしまうという可能性にもなろうかと思います。
 最後に、これも冒頭で申し上げました、イランとアメリカの関係が現在悪化しておりますけれども、そうしたものがイラクの今後の政権運営にどのように影響を与えるかということになります。
 これも簡単に申し上げますと、今申し上げましたように、イラクでは、シーア派を中心といたしました宗教勢力が中心になって今後の政権づくりをする。少なくとも今のアメリカの政策は、イスラム勢力ではあっても民主的に選ばれた勢力による政権づくりというものをバックアップするという姿勢をとっております。他方、同じようにシーア派のイスラム勢力が政権を握っておりますイランに対しては、これに対する敵対的な関係を続けております。つまり、イランとイラクで、同じ政治勢力に対する政策が整合していないということになります。
 今後の対中東政策ということを考えますと、いかに、こうした中東全体で台頭しておりますイスラム主義勢力に対して、どの程度整合的な協力体制をつくり上げていくかということが火急の課題になろうかと思います。
 時間になりましたので、私の意見は、以上にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
○甘利委員長 ありがとうございました。
……中略……
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 きょうは大変貴重な御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございます。時間がありませんので、全員にはお聞きできないんですけれども、まず久保田公述人にお伺いいたします。
 所得税の定率減税の縮減廃止に反対であると、これは我々も全くそのとおりで、そういう立場でありまして、この点では大いに共通性があるなというふうにお聞きをいたしました。
 そこで、少し角度を変えまして、2007年度に増税ということが検討されている消費税の問題です。これは逆進性を持った税制であって、これを増税いたしますと、その逆進性が一層拡大をして所得の低い階層に大きな打撃になるということもありまして、私たちは増税には反対でありますけれども、公述人は、逆進性があるというこの税の性格について、そのような認識をお持ちかどうかというのが一つであります。そして同時に、この引き上げに連合としては賛成なのか反対なのかという点をお聞かせいただきたいというふうに思います。
○久保田公述人(日本労働組合総連合会副事務局長) 消費税は、それだけを取り出せば、逆進性を持つという性格は持っているというふうに理解をしております。
 ただ、まず基本的には、現在の勤労者、サラリーマンがいかに公平で公正な社会をつくっていくか、とりわけ税の負担についてどういう社会をつくっていくかということをトータルで設計しなければならない、そういう時期に来ているんだろうと思います。過去から、労働組合も、負担はできるだけ少なく、給付は多くということで言ってきた時代もありますが、そのことで済むほど事は容易ではないというふうに思っております。
 その中で、連合が今消費税問題を取り上げているのは社会保障に関連することでございまして、時間もございませんので簡単に言いますが、年金の改革につきまして、連合はしっかりとした政策を打ち出しております。基礎年金の税方式化を言っておりまして、その上に二階建ての報酬比例年金をやるべきだ。その基礎年金の税方式化は、現在の2分の1の国庫負担の上に年金目的消費税ということを3%の範囲の中で創設をいたしまして、あと基礎年金部分の6分の1だけは間が残りますが、それは、従来の企業の負担といいますか保険料負担と同等なものでございまして、一種の社会保障税として企業は負担すべきであるという考え方を持っております。
 年金目的消費税という具体的な政策を持ちながら、一人一人の国民が、老いも若きもそれぞれが負担をしながら、しかもそれが確実に自分の老後生活に返ってくる、そういう仕組みを打ち立てることは今後必要ではないかというふうに考えておりますので、消費税一般論議をするつもりはございませんが、そういう具体的な設計図を持って社会保障の将来のあり方について政策論議をすべきである、こういう立場でございます。
○佐々木(憲)委員 次に、酒井公述人に伺います。
 先ほどのイラクにおける選挙後の国内政治の構造について、実に鮮やかに描き出されておりまして、私は、聞いて大変感心をいたしました。今後、憲法を制定し、その憲法に基づいて、年末には正式のイラク国民から選出された議会、政府を樹立する、こういうことになっていくということが言われております。
 こういう手順を聞いておりますと、何か政治システムが着実に安定した方向に進んでいるかのように見えますけれども、ただ、問題は、イラクの治安、あるいはイラク国民の間の対立といいますか、そういう問題は、この政治システムの全体としての構築と同時に安定した方向に行くものなのか、そうではなく、実際にはより激しく対立する方向に行くものなのか。治安の行方といいますか、その点についての御見解を伺いたいと思います。
○酒井公述人(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事) 御質問ありがとうございました。
 治安に関しての御質問でございますけれども、二点、不安な要因があるかと思います。
 一点につきましては、先ほどの説明でも若干触れましたけれども、今後、治安政策、特に治安を維持する母体の党派性が変わっていく可能性があるということであります。
 今後、これからシーア派のイスラム勢力、そしてクルド勢力といったような第一党、第二党が与党について、そして国防組織、治安組織を運営していくということになりますと、注意しなければいけないのは、こうしたイスラム勢力はいずれもゲリラ時代の民兵勢力を持っております。これは、そういう意味では、イラク戦争まではイランを拠点に、あるいはクルド地域を拠点にフセイン政権の正規軍に対してゲリラ戦を展開してきたような政党でございますから、シーア派イスラム勢力も、あるいはクルド勢力も、ともにみずからの民兵組織を持っております。そして、こうした民兵組織は、本来ならば解体して国軍の中に吸収されなければいけないということになっておりますが、いまだにまだ十分に解体ができていないということが言われております。
 先ほど申し上げましたように、今後、軍や治安組織が、国民のだれから見ても中立的で、どの党派にも寄らないような形で治安組織が確立されていけば、治安の安定に十分つながるというふうに考えられるわけですが、残念ながら、もしこの第一党、第二党が党派性を非常に強く出した形で治安部隊を再編していくということになりますと、こうした民兵の性格の非常に強い、言ってみれば、違う党派に対してこれまでのような形でのゲリラ戦術を展開するような正規軍になりかねないということを考えると、今後の治安政策がどういうふうに変わるかによって、かえって非常に不安定要因をもたらすということがあるかと思います。
 二つ目の点といたしましては、今回の選挙で圧倒的にこぼれ落ちてしまいましたスンニ派勢力、このスンニ派勢力の多くが、かつて軍の中核を担っていた、あるいはそれこそバース党員として政権の中枢を担っていたということがございますので、非常に短絡的な発想をすれば、選挙で参加できなかった、あるいは正式な政党システムの中で意見を申し述べるような機会を与えられなかったということが、翻って、それでは軍事クーデターによって今後政権を奪取するという道の方が近道であるというような考え方になりかねない。
 そういう意味では、今回、政治システムが着実に進んでいくということは望ましいことですけれども、その政治システムが国民の広範な勢力を代表するようなものにならなければ、逆に、取りこぼされた人々の間で、より武力によって政権を再奪取するというような方向性が出てこないとは限らないという問題があろうかと思います。
○佐々木(憲)委員 ありがとうございました。
 自衛隊の問題ですけれども、昨年12月に1年間の派遣延長というのが決められたわけですが、我々これは反対だったわけですけれども、昨年の4月に初めて迫撃砲による攻撃が自衛隊に対して行われて、それが徐々にふえてきている。特に、10月末に続いた攻撃というのは、宿営地内に破壊力の強いロケット砲の攻撃ということで、大変危険な状況になったというふうに聞いております。
 このような自衛隊に対する攻撃の発生度の高まりといいますか、その背後に一体どういうものがあるのか。その理由をどのようにお感じになっているか。また、自衛隊に対するイラク国民の意識というものは、一体、以前と最近はどのように変わっているのか。この点についてお聞かせいただきたいと思います。
○酒井公述人(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事) 自衛隊に対するイラク国民の反応、そして攻撃が高まっている背景ということの御質問でございます。
 まず、攻撃の背景につきましては、いまだにその背景ははっきりとはわからないという状況だろうと思います。
 ただ、攻撃の内容そのものを見ておりますと、やはり地元の人々の間に何らかの攻撃をサポートする者がなければなかなかできないような、近くに迫った攻撃になりつつあるという印象を受けます。その意味で懸念されますのは、地元住民の間で自衛隊に対する不満が高まるということになると、これは大変危険な状況になるということがあると思います。
 そこで、住民の自衛隊に対する意識の変化でございますけれども、基本的に、この間に出されております世論調査等々を見る限りでは、一般的にはまだまだ非常に高い評価を得ているということであります。
 ただ、高い評価を得ている一方で、自衛隊の活動が十分ではない。これは当初から言われてきたことではございますけれども、給水活動や学校の修復といったものにとどまらず、例えば一番深刻な問題である発電所の建設であるとか、生活により密着した形での援助をもっと早く、もっと効率的に行ってほしいというような希望が高まっておりますから、そうした希望がかなえられないことによって、反発というか不満が上がってきているということがあろうかと思います。
 そういう意味では、先ほど言いました、攻撃の回数がふえている、そして攻撃が近くなっているということが地元の反応だとすると、そうした地元の不満足感、十分に自衛隊の活動から利益を得られていないという不満感がこうした攻撃につながっているという可能性は否定できないと思います。
○佐々木(憲)委員 昨年11月に米軍がファルージャに対する総攻撃というのを行いました。これは大変な規模だったと聞いておりますけれども、米軍、イラク軍合わせて最大1万5千人を投入したというふうに聞いておりますが、大変なことだと思うんです。
 その実態というものがなかなか表に出ておりませんので、病院を攻撃したとかいろいろな話もありますが、公述人が知っておられる範囲で、この実態がどのようなものであったのか、それから、これがイラク全体の今後に与える影響といいますか、これをどのようにお感じになっているか、お聞かせいただきたいと思います。
○酒井公述人(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事) ファルージャの状況につきましては、私が知り得る限りでもなかなか具体的な情報が伝わってきていないというのが事実でございます。これは、御指摘にもありましたように、最初に病院が米軍側のコントロールのもとに置かれましたので、病院に運ばれた被害者の総数が一般に流れてこないということが一つの理由かと思います。
 ファルージャの掃討作戦がその後のイラク情勢に与える影響、あるいは今現在与えている影響ということで言いますと、一言申し上げておきたいのは、このファルージャ作戦によって、いわゆる武装テロ勢力が根絶されているわけではない、逆に、よりポイントを絞った形で攻撃を強めているということがございます。
 ファルージャ自体は今はまだ廃墟状態になっておりまして、難民生活を続けている住民が大変多い。このファルージャを含めて、前回の選挙では、アンバール県というファルージャのございます県では投票率がわずか2%であった。これは、行きたくなかったから行かなかったという2%ではなくて、行こうにも難民状態にあって行けなかったというようなアンバランスが生じたものと思います。
 そうしたファルージャ自体が回復していないということに加えて、ファルージャが活動拠点にならなくなったということで、別の地域にテロ勢力が活動を移しているということがございます。
 その別の地域というのが北のモスルというところでございますけれども、このモスルというイラクでの第三番目の大都市に対して、米軍は何度もこれまで、ファルージャと同じような掃討作戦をかけなければいけない、このまま放置していては町自体が大変危険なことになるという認識を持っておりましたが、逆に、ファルージャでの経験を考えて、モスルに掃討作戦を起こすと米軍側の被害が大変大きなものになるという判断の上に、現在は、米軍は具体的な行動を起こさず、基本的に地元の警察、治安部隊に任せているという状態ですので、残念ながら、ファルージャ後、各地に不安要因が拡散した状態で、今のところ打つ手がない状態にあるというのが現状だろうかと思います。
○佐々木(憲)委員 ありがとうございました。

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