金融(銀行・保険・証券), その他 (郵政民営化)
2005年06月15日 第162回 通常国会 郵政民営化特別委員会 【309】 - 質問
すべて元本割れの危険 民営化後の郵貯銀「新規事業」 竹中担当相が佐々木議員の追及で認める
2005年6月15日、NHK中継があった郵政民営化特別委員会の質疑で、佐々木憲昭議員は、郵政民営化による将来の経営見通しについて小泉総理大臣らに質問しました。
郵便局は身近で役に立つ存在で、とくに、国民の零細な資金を安心して預けることができます。いちばん多いのは200万円程度の貯金で、家族のなかで誰かが利用しています。
貯金の目的として一番の多いのは、「老後のため」、「不慮の災害や病気にそなえて」というものです。
佐々木議員は、「国民の大事な財産である貯金を、安全・確実に運用してしっかり守る。そういう金融サービスを、すべての国民が受けられるようにするというのが、政府の大切な責務ではないか」と質問。小泉首相は否定できませんでした。
しかし、小泉内閣が「民にできることは民に」のスローガンのもとで、郵政民営化法案をごり押ししようとしているもとで、国民のなかに「民営化して一般銀行のようになったら、身近なところでそのサービスが受けられなくなるのではないか」という不安が広がっています。
佐々木議員は前提として、貯金事業が民営化した場合と公社を維持した場合のそれぞれの採算の見通しについてただしました。
竹中郵政民営化担当大臣は、骨格経営試算では民営化された郵便貯金銀行の2016年度の利益は、厳しい金融環境になった場合「600億円の赤字になる」と答えました。
これにたいして、郵政公社が続いた場合には1383億円の黒字になることを竹中大臣は認めました。預金保険料も委託手数料の消費税も払わなくてすみ1983億円もコストが少なくてすむからです。
佐々木議員はパネルを示して、公社の場合2016年には1383億円の黒字がでる(納付金をおさめた後でも692億円の黒字)。民営化された郵貯銀行の場合は600億円の赤字になり、法人税も払えなくなると指摘しました。
2016年以降も、郵政公社の場合は黒字だが、民営化された郵便貯金銀行はそれ以降もずっと赤字が続くというのが民営化準備室の試算なのです。
小泉首相は、6月3日の答弁で、「なぜ公社ではダメか」と聞かれて、「公社でやる限りは……資金運用においても安全を重視しますから、なかなか、ある程度収益は上がるけれどもリスクをとるという場合につては運用しにくい」と述べました。
小泉首相のいう「リスクをとる」とはどういうことなのかを、佐々木議員は明らかにしました。
金融庁の「信用リスクに関する検査に係るチェックリスト及びマニュアル」に、「信用供与先の財務状況の悪化等により、資産(オフバランス資産を含む)の価値が減少ないし消失し、金融機関が損失を被るリスクである」と書かれていることを紹介し、資産の価値がなくなって金融機関が損失を被るリスクのことではないかとただしました。伊藤金融担当大臣はこのことを認めました。
民間銀行のホームページでも「信用リスク管理」の解説があり、「信用リスクは、(銀行が)保有する最大のリスクであり、信用リスクの管理が不十分であると、リスクの顕在化に伴う多額の損失により経営に甚大な影響を及ぼしかねません」と書かれており、大変危険なものだということは明らかです。
儲かるときは大きいが、失敗すれば大損するということが「リスクをとる」という意味です。
佐々木議員は「いま、国民が求めているのは、そういうものではない。安心して預けることができる貯金ではないか。利幅が少なくてもいいから『堅実で安心できる運用をしてほしい』ということではないか」と主張しました。
次に、佐々木議員は民営化して実施するという「新規事業」の内容を明らかにしました。
民営化準備室の資料によると、「段階的に貸付その他の信用リスクを取る業務を拡大し」その残高を「35兆円」にすると書いています。
運用先としてあげているのは、「貸付、シンジケートローン、私募債、株式、クレジット・スワップ、CDO、ABSなど証券化関連商品、ファクタリング(債権買収)、ローン・パーティシペーション、保証業務」など、複雑で投機的なものを含む運用先です。
もともと郵貯銀行は、こんな運用はやったことがなく、それができる人材もノウハウもほとんどありません。
佐々木議員は、「ここにあげられている運用先のなかで、元本割れが絶対に発生しないものはどれか」と質問。
竹中大臣は、「元本割れが絶対に発生しない運用先はない」と答えました。
佐々木議員は、「郵貯銀行は赤字のうえ、ノウハウもないのに元本も保証されないような運用をやるなど、バクチのような話だ」と追及しました。
結局、35兆円もの資金運用の大半を、投資顧問会社や金融機関などにゆだねる以外なく、庶民の零細な貯金が食い物になるだけです。
運用に失敗して郵貯銀行が破たんしたら、ユニバーサルサービスもズタズタになり、膨大な税金も投入しなければならなくなります。
佐々木議員は、「そんなリスクをおかしてまで、なんで民営化しなければならないのか」とのべ、政府の試算でも、公社のままであれば今から15年先までずっと黒字が続き、安定した経営ができることは明らかであり、不十分なところはきちんと改革し、国民が安心できるサービスを提供することが必要だと述べました。
最後に、佐々木議員は「結局、郵貯・簡保など340兆円の国民の資産を日米の巨大資本に明け渡すことになる」「郵政民営化法案は廃案以外にない」と主張して、質問を終わりました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
郵便局は、身近で役に立っている存在でございます。特に郵便貯金は、国民の零細な資金を安心して預けられる。一番多いのは200万円程度の貯金でございます。家族の中でだれかが利用している。貯金の目的は、老後のため、不慮の災害や病気に備えてというのが一番多いわけですね。
この国民の大事な財産である貯金を安全確実に運用してしっかり守る、そういう金融サービスをすべての国民が受けられるようにする、これが政府の大切な責務だと思いますけれども、まず、総理大臣の見解をお聞きしたいと思います。
○小泉内閣総理大臣 金融機関の健全性、信頼性、これは極めて重要なことだと認識しておりますし、そのような改革を今進めているところでございます。
○佐々木(憲)委員 今、国民の中で、民営化して一般銀行のようになったら身近なところでそのサービスが受けられなくなるのではないか、こういう不安が広がっているわけです。
前提として確認をしておきたいんですけれども、貯金事業が民営化した場合と公社を維持した場合、採算の見通しはどうか。まず、民営化した場合、骨格経営試算で郵便貯金銀行の2016年度の利益は幾らになるか。長短スプレッド1%という厳しい金融環境になった場合の数字を示していただきたい。
○竹中郵政民営化担当大臣 これは2016年度ということですね。長短スプレッド1%の場合の収益は幾らか。郵政民営化準備室で、民営化後10年間の民営化四会社の収益水準を見積もるという試算を行っております。
このスプレッドが縮まるという意味でリスクシナリオでは、2007年度から2016年度までの移行期間に、そのスプレッドが1.3%から、委員の御指摘のような1%に縮小するという前提によりますと、郵便貯金銀行は2016年度には600億円の赤字になるというふうに試算をされております。
○佐々木(憲)委員 600億円の赤字になる、民営化したらそうなると。非常に大きな赤字であります。
では、郵政公社が続いた場合はどうか。預金保険料も手数料への消費税も払わなくて済みますから、そのコストは1983億円少なくて済むわけですね。したがって、1383億円の黒字になる、そういう計算になりますね。
○竹中郵政民営化担当大臣 まさに、民間に比べて、税金を払わなくていい、そして預金保険料を払わなくていいという優遇があるわけですから、その優遇があればそのような数字になります。
○佐々木(憲)委員 今の答弁で明らかなように、郵便貯金事業の利益でありますが、郵政公社のままなら黒字が1383億円、民営化された場合には赤字が600億円、今大臣がお認めになったわけであります。
郵政公社のままであれば、例えば納付金を納めた場合でも692億円の黒字になるわけであります。民営化された郵貯銀行の場合は、600億円の赤字ですから、これは法人税も払えない、こういう悲惨な事態になるわけですね。金融環境が悪化しても、郵政公社の場合は黒字でやっていけるけれども、民営化された郵貯銀行は2016年以降もずっと赤字が続くというのが今の答弁でございます。これでは、わざわざ赤字にするために民営化するようなものじゃありませんか。
先ほど、新しい事業、盛んにそういうことをやるんだとおっしゃいましたけれども、果たして、新規事業をやるということで利益が出るんだろうか。
総理にお聞きしたいんですが、6月3日、この委員会の答弁でこのようにおっしゃっています。公社でやる限りは制約があります、資金運用においても安全を重視しますから、なかなか、ある程度収益は上がるけれどもリスクをとるという場合については運用しにくいというふうに述べました。
総理、リスクをとるということはどういう意味でしょうか。
○小泉内閣総理大臣 公社である限りは、やはり安全運用が重要ですね。リスクなり、ある程度収益が予想されても、多少リスクのある資産運用はできないでしょうね。そういう点から、民間になれば、そういう点について経済的にも活性化させる作用が働くと私は思っております。
○佐々木(憲)委員 活性化すると言いますけれども、非常に危険性を伴うんだと私は思うんですね。
例えば、金融検査マニュアルがここにあります。リスクをとる場合の信用リスクというものは一体何か、これを規定しているわけです。こういうふうに書いてあるんです。「信用供与先の財務状況の悪化等により、資産の価値が減少ないし消失し、」つまり失われ、「金融機関が損失を被るリスクである。」リスクというものはこういうものなんだと。
伊藤金融担当大臣、こういうことですね。
○伊藤金融担当大臣 お答えをいたします。
検査マニュアルにおきましては、今委員が御紹介されたような規定になっているわけでありますけれども、このように規定をいたしておりますのは、金融機関の役割が、信用リスクを初めとした諸リスクについて適切な管理を行いながら必要なリスクテークを行っていくことにあり、そうした機能を前提としたときに、信用リスクを適切な水準に管理し、リスクに見合った収益を確保するための管理体制の整備が求められているからでございます。
○佐々木(憲)委員 つまり、大変大きなリスクがある、したがって、管理をきちっとしなさいよ、こういう話ですね。だから、信用リスクというのは非常に危険だということなんです。
例えば民間銀行のホームページも、開いてみますと、こういうふうに書いているんですね。信用リスクは銀行が保有する最大のリスクであり、信用リスクの管理が不十分であると、リスクの顕在化に伴う多額の損失により経営に甚大な影響を及ぼしかねません。つまり、もうかるときはどんともうかるけれども、失敗をしたら大損害になる、これがリスクをとるということであります。簡単に言えばそういうことなんです。極めて危険なことでございます。
今国民が求めているのはそういうものではないと思います。安心して預けることができるのが貯金でありますから、利幅が少なくてもいいから堅実で安心できる運用をしてほしいというのが、圧倒的多数の国民の皆さんの願いではないか。だから今そういう運用をしている。先ほど小泉総理も、公社の場合は着実に安全な運用をする、しているとおっしゃいました。それを国民がまさに願っていることではないんだろうか。
新しい事業をやるといろいろおっしゃいましたけれども、新規事業の内容というのは具体的に何でしょうか。民営化準備室が出した資料、採算性に関する試算というのがありまして、この中に、新規事業の内容についていろいろ書いております。
例えば、貸し付け、シンジケートローン、私募債、株式、クレジットスワップ、CDO、ABSなど証券化関連商品、ファクタリング、ローンパーティシペーション、保証業務、こういうふうにいろいろ書いているわけです。
こうなりますと、これはもう聞いただけで頭が痛くてよくわからない。複雑で、極めて投機的な性格を持つものを含む、そういう運用先であります。もともと、郵貯銀行というのはこういう運用をやったことがないんです。それができる人材もノウハウもほとんどない。
そこで確かめたいんですけれども、今私が紹介をいたしましたこの準備室の出しております運用先、この中で元本割れが絶対に発生しないというものはありますか。どれですか。
○竹中郵政民営化担当大臣 この35兆円の信用リスクビジネスの例示として掲げておりますので、信用リスクビジネスでございますから、元本割れがしないというものは、これは当然ないわけでございます。しかし、これは決して投機的な商品ということではございませんで、リスクとリターンを適切に管理する、それを段階的にノウハウをつけながら行っていただくことによって、民間にもお金が回る、公社の収益力も高まる、そのような姿を想定しているわけでございます。
○佐々木(憲)委員 今はっきり言いましたね、元本割れがしないものはないと。元本割れの可能性がある。つまり、国民が預けた零細な預貯金、零細な貯金ですよ。子供たちも正月にお年玉をもらって預けに行く、そういうものを本当に安心できるような運用をしてもらいたい、堅実にやってもらいたい、これが圧倒的多数の国民の願いです。ところが、民営化をする、そのときの運用先というのは、今言ったように、元本割れするものが、可能性のあるものが全部であると。元本割れの発生しない運用先は一つもない。
ですから、私は、先ほど言いましたように、まずベースが民営化したら赤字になる。赤字になった上で、しかも、その上に今度は、元本割れする可能性のある運用をする。それは、もうかるときはいいかもしれないですけれども、しかし、やってみないとわからない。ある意味ではばくちみたいなものであって、これをやって元本割れしたら一体どういうことになるのかという点を考えなければならないと思うんです。
ノウハウもないのに、元本も保証されないような運用をやる、それはできるわけがないわけですから、結局、この35兆円もの資金運用の大半を投資顧問会社あるいは金融機関などにゆだねる以外にはありません。結局、庶民の零細な貯金が食い物になるだけじゃありませんか。運用に失敗して貯金銀行が破綻したら、ユニバーサルサービスもずたずたになるんですよ。膨大な税金も投入しなければならない。そんなリスクを冒してまで、何で民営化しなければならないのか。
私は、根本的なこの発想が間違っているというふうに思います。結局、郵貯、簡保など340兆円の国民の資産を日米の巨大資本に明け渡すということになるんじゃありませんか。いかがですか。
○竹中郵政民営化担当大臣 佐々木委員はばくちのようだというふうに言われましたが、信用リスクビジネスとばくちとは違います。これは厳然と異なりますので。
これは、市場の経済の中でリスクとやはり正面から正しく向き合って、このリスクを適切に管理していくことこそが私たちの社会に必要なことであって、そのリスクを乗り越えていかないと、リスクを封じ込めたり、市場の一部を硬直化させてリスクを反映させないようなシステムをつくってしまうと、かつてのソ連邦のように崩壊をしてしまうということではないかと思います。
やはりリスクをしっかりと管理していく、そのための適切な制度をつくっていくことが必要であろうかと思っております。
○佐々木(憲)委員 リスクを乗り越えていかないととおっしゃいましたけれども、何でリスクをわざわざ導入しなければならぬのか。ソ連の問題を出しましたけれども、そんなのは関係ないですよ。
今あなた方がやろうとしているのは、まさに公社を崩壊させようとしているんだ。民営化によって国民の貯金を、運用そのものを、ばくちのようだというのは、素人がやったらばくちになるじゃありませんか。そういういいかげんな民営化によって国民の資産を危険にさらす、絶対にそんなことは認められない。
公社のままだと、例えば準備室の計算を見てごらんなさい、今から15年先までずっと黒字が続くという試算が、あなた方の試算によっても明確になっているじゃありませんか。利益は少し減るかもしれないけれども安定した経営ができるというのが、政府の試算でもそうなっているわけです。
我々は、今ある公社のさまざまな不十分な問題はあると思います。それは、公社のままで改革を進める。例えば、労働条件の改善、国民サービスの向上、こういうことをしっかりやっていくというのが本来の改革じゃないんでしょうか。それをやらずに、そういう危険な方向にのみ何か活路を求めるというのは、私は、改革とは全く違う方向に行っていると言わざるを得ません。
公社の改革を進めながら、将来にわたって確実にやっていくということが本来の改革のあり方であります。今、例えばサービス残業の問題など、いろいろあります。ここでも塩川議員が指摘をして、改善の方法が出てきたけれども、そういう問題を解決していくというのが改革なんですよ。
国民の財産を危険にさらすというのは改革ではない、民営化法案は廃案しかない、このことをはっきり申し上げまして、質問を終わります。
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