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金融(銀行・保険・証券) (金融消費者保護, 偽造・盗難キャッシュカード問題)

2005年08月02日 第162回 通常国会 財務金融委員会≪参考人質疑≫ 【323】 - 質問

偽造・盗難キャッシュカード問題 金融庁スタディグループ座長、弁護士 参考人質疑

 2005年8月2日、財務金融委員会で、偽造・盗難キャッシュカード等の問題について参考人質疑が行われました。
 参考人として招致されたのは、東京大学大学院法学政治学研究科教授で金融庁の偽造キャッシュカード問題に関するスタディーグループ座長の岩原紳作氏と預貯金過誤払被害対策弁護団事務局長の野間啓弁護士の二人です。
 佐々木議員は、偽造・盗難カードによる被害だけでなく盗難通帳などを用いた不正引出しなども基本的性格は共通していると指摘。
 衆院を通過した預貯金者保護法案が偽造・盗難カード被害のみを対象としていることは救済対象をごく一部に限定するものであり、今後改めてすべての預金者の被害に対して銀行の責任を明確にした救済策が求められるのではないかと質問しました。
 岩原氏は、「速やかに窓口、預金通帳の問題も含めた立法化がなされるべきだ」と述べ、野間氏は、賛同したうえで金融機関は既に一定金額以上の窓口取引について印鑑以外の本人確認を実行しており、すべての預金者に対する救済策はすぐにできるとの考えを示しました。
 また、野間氏は、「ある被害者は町に出られないとか、銀行の前を歩くと動悸がするとか、うつ状態になっている方もいる」と被害者の深刻な実態を述べ、この犯罪への対策を放置し被害者に冷たい対応をしてきた金融機関を強く批判しました。

議事録

【参考人の意見開陳部分と佐々木憲昭議員の質問部分】
○金田委員長 この際、参考人のお二人に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、岩原参考人、野間参考人の順序で、お一人10分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えをいただきたいと存じます。
 それでは、岩原参考人、よろしくお願いいたします。
○岩原参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 岩原でございます。
 本日、参考人として発言の機会をいただきましたこと、大変光栄に存じております。
 今回、偽造キャッシュカード等の被害が急増したことから、与党と民主党が速やかに預金者保護のための法案を議員立法として国会に提出され、与党法案が衆議院を通過、成立しましたこと、大変高く評価したいと存じます。参議院におきましても可決、成立することを期待したいと存じます。
 私は、25年にわたりましてこの問題に取り組んでまいりまして、平成6年には金融制度調査会における立法への努力が挫折した経験を持っておりますので、大変感慨深く、議員立法に尽力してくださっております諸先生に深く感謝申し上げます。
 与党と民主党の法案には若干の違いがございますが、いずれも基本姿勢といたしましては、預金者の資金を安全に預かるのが金融機関の使命であって、帰責事由のない預金者を不正な預金払い戻しから守り、預金者が安心して預金サービスを受けられるようにするという立場に立っている点では共通であると理解しておりまして、いずれも高く評価しております。
 両案の違いは、第一に、民主党の法案は預金者保護の基本原則を法案化しようとしたのに対しまして、与党案は実務的な考慮をより取り入れたものにしようとしたものであること。第二に、与党案の方が、預金者側の金融機関への通知義務ですとか説明義務を定めるなどして、いわゆるモラルハザードの問題や被害の偽装の問題に、より配慮しようとしたものであるということであります。第三に、与党案は偽造及び盗難キャッシュカードの問題に絞る規定をしているのに対しまして、民主党案はキャッシュカード以外の通帳取引あるいはインターネットバンキング等についても規定するなど、適用範囲を広くしている点に特色があるかと思います。
 与党案がより実務的であり、モラルハザードや被害の偽装の問題に、より配慮されているのは、私が座長を務めました金融庁の偽造キャッシュカード問題に関するスタディグループ報告書を参考にしていただいたものと理解しております。そして、スタディグループの案と比べますと、幾つかの点で、より預金者保護に重点を置いた法案になっております。私個人としては評価すべき法案であると考えております。
 ただし、与党案につきましては、附則3条に規定され、また衆議院の附帯決議にございますように、幾つかの点で課題が残されていることも事実だと考えております。
 まず、与党案の適用に当たっては、附帯決議にございますように、過失や重過失の意味について慎重に限定した解釈をする必要があると思われます。また、与党案六条ないし八条に定められておりますようなセキュリティー体制や不正行為防止体制を整備することが、今後の極めて重要な課題になると考えております。
 我が国の金融実務におけるセキュリティー体制は、諸外国に比べましておくれている部分が多いことは否定できないところであります。これは、最近まで我が国が他の諸国に比べて比較的治安が良好な国であったこと、また、金融機関を保護する約款や判例のもとで、不正行為による損失をいわば預金者に負担させることができたためであると思われます。しかし、今日では、治安が悪化してきておりますし、きちんとしたセキュリティー体制を整えないまま損失を預金者に負担させることは許されないと思います。
 実際にどのようなセキュリティー体制の向上策をとるべきかということにつきましては、ICカード化、暗号化、その他スタディグループの報告書が提案しているところをごらんいただきたいと存じますが、ただいま申しましたICカード化、暗号化、その他にも、金融機関にとってコストのかかる施策がいろいろ必要になってまいります。また、引き出し限度額の設定あるいはその引き下げですとか、暗証番号の設定の仕方の変更、あるいはその他預金者利便の、場合によっては低下につながるような施策も必要になってまいります。さらに、単独の金融機関だけの対応では不十分で、金融界全体が足並みをそろえて実行しないと効果の少ない対策も多いと考えております。
 このため、何よりも金融機関自身が、従来慣行的に行ってきた実務を見直し、業務のあり方や、場合によってはビジネスモデルの見直しを行う必要があると思っております。また、金融機関の間での協力関係の見直しも必要です。
 そして、料金体系の見直しや金融サービスの提供の仕方の見直しを通じて、預金者にも一定の協力を求める必要があると考えております。附帯決議にございますように、なるべく預金者の負担は避けるべきでありますが、安心できる金融サービスを提供してもらうためには預金者もそれなりの協力が必要であると考えております。
 そして、附則三条や附帯決議に示されておりますように、与党法案には含まれていない問題、すなわち窓口での通帳による払い戻しあるいはインターネットバンキング等につきましても、早急に預金者保護の制度整備が図られる必要があると考えております。
 特に、通帳による不正引き出しは多発して、判例も実に多数に上っておりますし、その判例も裁判所によってまちまちの判断が出て、混乱している状態と言って差し支えないと思います。それを受けまして、金融実務の方も、どのようなセキュリティー体制をとればよいか混迷しているように見受けられます。インターネットバンキングにつきましても、最近、不正事件が明るみに出ているところでございます。
 これらの問題に対処するためには、本人確認の方法の抜本的見直しや、金融サービスのビジネスのあり方まで見直しがなされる必要があると思います。簡単に答えの出る問題ではございませんので、直ちに取り組んで、附則三条に示す時期までに次の法制整備がなされることを期待したいと存じております。
 最後に一言申し述べさせていただきますと、平成6年に中断しました金融制度調査会におきます電子資金移動に関する法制整備の作業におきましては、この預金の不正支払いの問題だけではなく、多くの資金移動に係る問題を取り上げておりました。多くの国におきましてはそれらにつき既に立法がなされておりますが、我が国ではこの不正支払い等の問題以外手がつけられない状態でございます。金融機関の利用者保護や支払い決済システムの安全性保護の点で、我が国が他国に大きくおくれをとっているわけであります。また、次々と生まれてまいります新たな支払いサービスに対する法制整備も追いついていない状態であります。
 偽造キャッシュカードのように、実際に被害が発生してマスコミ等で取り上げられないと制度の改善がなされないというのではなく、今後は、不正支払い以外の問題につきましても先手を打って法制整備を行い、包括的な支払い法といったものを立法する方向に進むことを期待したいと存じます。
 以上、簡単ではございますが、私の意見とさせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
○金田委員長 ありがとうございました。
 次に、野間参考人、よろしくお願いいたします。
○野間参考人(弁護士) 弁護士の野間でございます。
 本日、意見を述べさせていただく機会をちょうだいしたことについて御礼申し上げます。また、本委員会で与野党の先生方、あるいは岩原先生を初めスタディグループの委員の先生方の真摯かつ非常に精力的な議論につきましても感謝申し上げたいと思います。
 私どもの弁護団、預貯金過誤払被害対策弁護団、私は事務局長でありますが、この弁護団は、盗難通帳被害の多発と被害救済の放置を感じ取りまして、平成14年7月に弁護士有志で結成した弁護団であります。先ほど岩原先生が述べられた、判例実務の混乱を招いている張本人でございます。
 平成14年9月、110番活動をして、全国から悲鳴にも似た被害申告が殺到いたしました。本日配付させていただきましたけれども、一件当たり600万を超えるような健全な国民の預金が失われて、銀行が全く責任をとらないという状態が長きにわたり続いたわけでございます。被害相談は現在までに500件を超え、提訴原告は250人を超えております。弁護団も全国六カ所できました。
 私は金融の全くの素人でありまして、申し上げたいことはただ一点、通帳が外れてしまったことであります。本日配付させていただいた資料も、この点に関するコメントであります。
 今回の与党案、カード被害、特にこれまで救済の枠組みが著しく狭かった盗難カードにつきまして、原則として金融機関負担という法制度ができましたことはまことに画期的であります。しかし、他方、カード以外の取引、とりわけ窓口における払い戻しが除外されたという点が、残念ながらこの法律の価値、輝きを著しく損なったという評価をせざるを得ません。すばらしく美しい山ができたわけでありますけれども、登った人間からしますと、北の壁から落ちれば助けていただけるけれども、南の壁から落ちると助けていただけない、こういう状況になったわけでございます。
 窓口取引は対人取引ですので機械払いのATMとは違うのだ、こういう御意見をお聞きいたします。確かに、それは別の法体系で対策を整備すべきだという理由にはなると思いますが、保護の要件を別にする、片っ方は一切保護しないという合理的な理由にはならないのではないかと考えております。預金者にとっては関係のないことであります。預金者にとっては、とられたものと手口が違うというだけで180度結論が異なるということに納得できる方はいらっしゃいません。また、現実の窓口取引は、印鑑照合も含めまして機械化が顕著でありまして、多くは派遣社員あるいはパートタイマーがマニュアルに従ってシステム操作しているというところでありまして、実態は機械払いとほとんど差がなくなってきております。
 次に、窓口はATMと違って本人確認をちゃんとしているからいいのだ、被害は起こらないのだ、こういう御主張もお聞きしましたが、これは私どもの被害相談が、全く異なる実態であるということを如実に示しております。
 書かせた住所が違う、氏名が違う、これを見落とす、こうした初歩的なものはもちろんのこと、金融機関の本部は、事件の情報、被害情報を各支店に十分に伝達あるいは注意喚起しておりませんでした。そのために、例えば、使用された偽造保険証の情報がほかの支店に伝達されていないために、同じ偽造保険証で何回も被害が起こったり、直前三カ月の間に二度も被害に遭った支店において、三度目の被害の後にその被害のことを窓口行員が知った、こういう事例もございます。
 あいた口がふさがらないような事案のオンパレードでありまして、私どもの弁護団が結束を持って被害救済に当たっているのも、その金融機関の対策に対する腹立たしさ、これが大きな要因となっております。そして、これらの事案について、多くの金融機関は、印鑑が似ているという点だけで返還に応じておりません。こうした実態を改善させるためにも立法的解決が望まれるところであると考えております。
 窓口における払い戻し、通帳取引が除外された問題性は、三点に整理できると思っております。
 第一に、今述べましたとおり、被害実態を無視した議論であるという点であります。
 昨年ぐらいから偽造カードの問題がかなり取り上げられ、ことしに入りまして犯人の逮捕がセンセーショナルに報じられまして、一気にここまでやってきました。しかし、先日の審議で明らかになりましたとおり、最近の被害でも、盗難通帳の被害件数あるいは金額は、偽造カードのそれを上回っております。払い戻しの件数そのものがATMの方が圧倒的に多いわけですから、被害に遭う頻度や危険性は通帳の方がかなりリスクが高いと考えられます。立法事実論から見て、今回の法案には若干疑問を感じざるを得ません。
 二点目は、法体系上の矛盾であります。
 民法478条は、預金者側の事情、預金者が善意であろうが悪意であろうが、金融機関が無過失であれば免責を認めるという、債務者の迅速な弁済を保護する規定であります。この迅速な弁済の保護の必要性は、対面せず少額な取引を多数処理するATMの方が、対面して高額な取引を少数取引する窓口よりも保護する必要性は高いことは明らかです。すなわち、民法478条によって銀行を免責する必要性はATMの方が高いと考えられます。それなのに、ATMの方だけに民法478条の適用の排除あるいは権利創設による救済を認めたわけであります。法律家としては、非常に気持ち悪い状況、矛盾を抱えた状況であると言えます。
 第三に、この問題はシステムの問題ではなくて預金の安全性の問題であります。しかし、このメッセージ、この価値観の転換が残念ながら発信されなかった形になってしまいました。勤勉に働いて貯蓄した国民の預金が全部なくなってしまう、そうしたことを避けるために預けているのに、いとも簡単に払い出されてしまう。そういう社会は不公平であり不正義ではないか。そうした価値観から私どもの活動はスタートしております。その価値観の転換を、国会という最高機関から発信していただきたかったというふうに考えております。
 最後に、私ごとで恐縮ですが、私はこれまで参考人の随行として二度ほど国会にお邪魔させていただいております。いずれも厚生委員会あるいは厚生労働委員会ですけれども、一度目は、東京HIV訴訟の原告弁護団員として、1998年の感染症医療予防法。衆議院厚生委員会において、参考人から憲法違反ではないかという指摘を受けまして、5年後の見直し条項が定められておりますが、いまだに見直しの議論はございません。二度目は、ハンセン病訴訟の原告弁護団員としてかかわりました2001年のハンセン病補償法であります。御承知のとおり、1953年に成立したらい予防法は、参議院の厚生委員会の附帯決議において、近き将来改正を期すと規定されましたけれども、廃止は実に43年後でございました。
 前回の審議におきまして、盗難通帳につきましては、「これに対する対応策という法律を必ずつくっていくべき問題」という答弁がなされております。本日、法案可決後に私が呼ばれて意見を述べさせていただいているのも、今後の活動に向けられた意見だというふうに存じております。ぜひ、このいびつな状態を早期に解消いただくよう御尽力いただければと思います。
 どうもありがとうございました。(拍手)
○金田委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人のお二人の御意見の開陳は終わりました。



○金田委員長 次に、佐々木憲昭君。
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 預金の安全性を確保して、安心して銀行に預けられるということが一番肝要な点でございます。ところが、偽造カードだけではなくて、盗まれたカードあるいは盗まれた通帳、印鑑、こういうものを用いて不正な引き出しを行うというのが非常に多いわけであります。私がこの委員会で確認をしたところ、金融庁は、この5年間で、偽造カードの被害が516件、これに対して盗難通帳の場合は4140件であります。金額にしますと、偽造カードの場合は12億9300万円ですが、盗難通帳の場合は103億900万円、圧倒的に盗難通帳の被害が多いわけであります。したがって、私は、盗難通帳の被害も含めて対応するというものが求められる、預金者の安全、安心ということを考えますと当然そういうことでなければならないと思うわけです。
 そこでお聞きをしたいのですが、偽造カードあるいは盗まれたカードだけではなくて、盗まれた通帳あるいは印鑑を用いた不正引き出し、これは無権限者による取引であり、あるいは銀行から見ると過誤払いである、こういうことになると思うんですが、そういう基本的性格については共通しているというふうに私は思いますけれども、お二人の参考人の御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○岩原参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) お答え申し上げます。
 確かに先生御指摘のとおり、基本的に申しますと、無権限者による引き出しという点では共通している性格の問題だと私も理解しております。
○野間参考人 先生のおっしゃるとおりだと理解しております。
○佐々木(憲)委員 そういたしますと、共通しているその性格に着目をいたしますと、預金者の被害を救済するという場合、これは偽造カードに限定するというのは、その性格からいうとまだまだごく一部の救済にすぎないわけでございまして、当然そういう銀行の責任というものを明確にした救済ということが求められると思いますが、今回の法案では、与党案はそこまでまだ行っておりません。しかし、答弁あるいは附帯決議等で検討の対象になるということでありますが、今後改めてこの法案を改正するとしたら、当然そういうものを入れるべきだというふうに私は思いますが、お二人の参考人の御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○岩原参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 先ほど申し上げましたとおり、私も、速やかに窓口、預金通帳の問題も含めた立法がなされるべきだと考えております。
○野間参考人(弁護士) 全く同意見です。
 なお、付言させていただきますと、金融機関は平成10年以降も十分な時間が何年もあって、15年の秋ごろの段階では一定金額以上は印鑑以外の確認を既に実行しているという実態がございますので、それほど時間はかからないのではないかというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 この問題は随分昔から問題になってきていて、先ほども御紹介がありましたように、欧米では70年代、80年代から対応策がとられているというわけでありますが、日本の場合もチャンスは幾らでもあったというふうに思うんです。
 岩原先生にお聞きいたしますが、1987年の金融制度調査会で金融消費者保護についての法整備が議論されていた、そのときに、先ほども少し御紹介がありましたように、調査会の中にエレクトロバンキング専門委員会をつくって、88年に具体的な立法化の検討に入った、その段階でさまざまな意見が出されて、特に銀行業界が立法に反対をしたというふうにお聞きをしました。先生の本の中にも、「電子決済と法」という本で先ほども議論になったような紹介があります。
 具体的にお聞きしますけれども、銀行業界はどういう理屈でこれに反対をされたのか、それに対して先生はどういう批判的見地を持っておられたのか、もう少し詳しくお聞かせいただきたいと思います。
○岩原参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 当時の銀行業界の主たる反対の理由は、やはり先ほどの民法478条という民法の規定がいわば私法の大原則である、銀行の預金払い戻しに対して当然それが適用されるべきだと。そうすると、盗難キャッシュカード等についても、少なくとも銀行の方に過失がなく払い出した以上は免責されるべきであって、それを預金者を救済するようにその原則を変えるような立法というのは基本的に賛成できないし、さらに、銀行界が非常に強く主張しましたのは、いわゆる被害の偽装等の問題が出てきて、かえって問題を起こす可能性があるということを強く主張されたわけであります。
 それに対して、私は、民法478条というのは、本当は、もともとこれはフランスから来た規定でございますけれども、規定の沿革から申しまして、こういった預金の払い戻し等の場合に本来適用されるべき規定としてフランスから日本民法が引き継いだ規定ではなくて、こういう場合に民法478条でいわば銀行側の事情だけ考えて、銀行に過失がなければそれで免責されるというのは問題ではないかと。むしろ、預金取引というのは預金者が安心して取引ができることが大事ですので、預金者側に問題がなければ預金者は保護される必要があるということで、私はそれに反論したわけであります。
 そういう意味では、実はさっき私が申し上げたのは間違いがございました。詐欺の場合についてもさっき民法478条が適用されるかのように申し上げましたけれども、本来の民法の原則に戻って、民法の詐欺等の規定によって処理するのが本来であるというふうに考えております。
 以上でございます。
○佐々木(憲)委員 最近も全銀協は、ここで参考人に来ていただいて会長の御意見を伺ったんですが、その際も、簡単に言いますと、法律をつくってもらっては困る、約款で対応させてもらいたい、あるいは行政上の対応でやってもらいたい、こういう話を盛んにされました。
 しかし、これは預金者の立場に立てば大変正反対の対応でありまして、もっと積極的に、これは国会が法律をつくって、一律に同一の基準で預金者を保護するという対応が当然必要だというふうに私は主張したわけですけれども、この銀行の対応について野間さんにお伺いしますけれども、最近は、多少、被害者に対して一定の柔軟な対応ということも見えるわけですけれども、この法律が通り、またさらに再改正ということを我々見通しておりますが、銀行の対応の問題点、それからまた、こうしてほしいという被害者の方々の要望、この点について御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○野間参考人(弁護士) お答えになっているかどうかちょっと自信がないんですけれども、裁判の中でよく銀行側から主張が出るのは、例えば500万、1000万という多額の預金をという主張に対して、当金融機関にとっては多額ではないという反論が出るんですね。ですから、迅速に取引して簡単に免責していいんだという主張につながるんですけれども。これは裁判所も同じですけれども、会社等の取引で500万、1000万の売り掛けが焦げついたという事件と、国民が汗水垂らしてためた500万、1000万がなくなるということの意味合いの違いを、銀行だけでなく、ぜひ関係者の皆さんに御理解いただきたいと思います。
 本当に、ある方は町に出られないとか銀行の前を歩くと動悸がするとか、そういう世界になっていますし、退職金をあらかたやられてしまった人の場合はうつ状態になっている方もいらっしゃいます。そうした実態をお金を預かっている金融機関の皆さんが本当に理解されていられるのか。窓口で実際に対応されている方の個人の預金に置きかえればわかることだと思うんですけれども、ぜひその点、首脳の方は本当に個人の預金を守る立場でやっていただきたいと思います。
○佐々木(憲)委員 時間が参りましたので、終わります。どうもありがとうございました。
○金田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人のお二人におかれましては、御多用中のところ御出席の上、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。
 参考人のお二人は御退席いただいて結構でございます。

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