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憲昭からの発信

憲昭からの発信 − 論文・対談

暮らしも経済も破壊する政治からの転換

『前衛』2002年11月号

はじめに

 バブルが崩壊してすでに12年が経過しました。しかし、いつまでたっても日本経済の先行きが見えない状態がつづいています。
 −−いったい日本の経済はどうなっているのか、小泉内閣の政策はどのような影響をもたらしたのか、景気を回復させ経済を再生の軌道にのせるため、これからどうすればいいのか。これは、国民の多くが感じている疑問です。これらの点について皆さんとともに考えてみましょう。

最近の日本経済をどうみるか

 まず、日本経済の最近の動向をどう見たらいいのでしょうか。
 政府はこの春、景気の「底入れ宣言」を出しました。「景気は底を打ったので、あとは回復あるのみ」というわけです。しかし、本当にそうでしょうか。

◆「外需依存型」景気底入れ宣言の“底割れ”
 私は、7月19日の衆議院財務金融委員会で、日銀の速水総裁に、この「底入れ」というのは、アメリカ向け輸出などに依存した「外需依存型」ではないのかと聞きました。これにたいし、速水総裁は「国内需要は依然弱い、しかし輸出や生産面の明るさが増してきて、企業の収益や業況感も改善するなど、全体としてほぼ下げどまってきたと見られる」と答弁し、事実上、外需依存型だということを認めました。
 このような外需依存で、はたして安定した回復過程にはいることができるのか、ということが問題です。この点についてもただしました。日銀の答えは「最終的にはアメりカ経済の動向に依存する面も強いようにも思いますので、そこも含めて注意深く見ております。……先行きについては前月に比べますと若干不透明な要因が高まっている」というものでした。
 いまアメリカでは、バブルが崩壊し経済が深刻な打撃を受けています。日本のこれからの輸出の先行きもいっそう不透明になっいます。したがって、外需依存型ではとうてい安定した回復が見込めないことは明らかです。
 したがって肝心なことは、内需にしっかりと足をつけた安定した回復軌道にのせることができるかどうか、ここにかかっているのです。

◆内需の二つの柱が低迷している
 では、その内需はどうなっているでしょう。内需の柱は、いうまでもなく設備投資と個人消費です。
 まず、設備投資を見ましょう。内閣府の「GDP速報」によると、「民間企業設備投資」は、昨年10−12月期は前期比でマイナス12.0、今年の1−3月期ではマイナス3.2%となっています。今年の1−3月期を前年比で見るとマイナス11.5%で、たいへん大きな落ち込みです。また、財務省の「法人企業統計」では、前年同期比で、昨年の10−12月期でマイナス14.5%に落ち込み、今年の1−3月期はマイナス16.8%、4−6月期は15.5%減と、3四半期連続でマイナスになっています。とくに製造業の落ち込みは激しく全体でマイナス23.7%です。内訳を見ると、電気機械はマイナス48.2%、一般機械はマイナス42.0%と下げ幅が目立ちます。
 大企業よりも中小企業の方が、大きな落ち込みをしめしています。たとえば、6月の「日銀短観」によると、今年度の大企業の設備投資計画はマイナス6.7%、中小企業ではマイナス9.3%という計画になっています。
 では、内需の最大の柱でありGDPの約六割を占めている個人消費はどうでしょうか。
 総務省の家計調査によると、一昨年の2000年の平均消費支出(全国・全世帯)を100として、昨年1月から今年7月までの19カ月の消費支出をみると、100以上となった月は、昨年の2月と10月のたった2カ月だけでした。あとの17カ月は、水面に顔を出せない状態(100以下)だったのです。
 9月5日に財務省が発表した「法人企業統計」にも、この消費低迷が反映しています。今年4−6月期の全産業の売上高は、前年同期比でなんとマイナス9.2%となっています。これで、4期(1年間)連続して減少したことになります。しかも、この落ち込み幅は、現行の調査を開始して以来、一番大きなマイナスとなっているのです。

◆個人消費あっての設備投資
 このように、内需の柱である設備投資も個人消費も、驚くべき落ち込みを見せているのです。では、この両者の関係をどう見たらいいのでしょうか。
 新しい設備投資をしたいという意欲が高まるのは、ものが売れるからです。売れるという予想が立たなければ、誰も新しい設備をつくろうなどと思わないでしょう。つくったってその設備を十分に稼働させることができないからです。設備が無駄になることが分かっていながら新しい設備をつくって、わざわざ設備を遊ばせる企業家はいません。
 したがって、設備投資を決める決定的な要因は、最終的な消費市場としての個人消費の動向なのです。個人消費が盛り上がれば、ものが売れて在庫が減少し生産も回復して設備投資も盛り上がってくるのです。そうなれば、株価も当然上がるでしょう。こんなことは誰が考えても、当たり前のことだと思います。
 ところが、このことをまったく理解しないのが小泉内閣です。竹中経済財政担当大臣などは、答弁で「需要と供給は一致するんですから、設備投資をすれば需要が増えるんです」などと平気でいうのです。それなら、はじめから不況など問題にならないでしょう。もうこんな空論はうんざりです。

◆消費低迷の原因はどこにあるか
 では、消費が低迷している理由は何でしょうか。
 日銀が、半年ごとにやっているアンケートがあります。「生活意識に関するアンケート調査」です。ここにひとつの傾向があらわれています。
 「支出を減らしている理由」のなかで、いちばん多いのが「将来の仕事や収入に不安があるから」で63.6%をしめています。つぎが、「年金や社会保険の給付が少なくなるとの不安から」で55.3%、さらに「不景気やリストラ等による収入の頭打ちや減少から」47.5%、「増税や社会保障負担の引き上げがおこなわれるとの不安から」38.6%でした。いずれも、半年前の調査より増加しています。
 ここには、はっきりと消費低迷の原因がしめされていると思います。いま求められているのは、この原因を取り除くことです。しかし、小泉内閣にはそういう意識はまったくありません。

小泉内閣の大負担増計画は、何をもたらすか

 重大なのは、小泉内閣がこれまで国民負担を増やす政策をすすめてきただけではなく、今後も、たいへんな国民負担増を計画していることです。まさに、「国民大収奪」計画と呼ぶべきものです。それは、たんに国民に「痛み」をおしつけるにとどまらず、いっそう消費を冷やし、経済全体を低迷させ破局的な結果をもたらすものです。

◆来年度だけで3兆円を超える大負担おしつけ計画
 まず、来年度2003年度の社会保障の負担増、あるいは社会保障給付額の切り捨てが、史上最悪と言える規模で予定されています。
 たとえば、前国会で強行採決につぐ強行採決で、成立したとされている医療制度の改悪だけでも、サラリーマンの健康保険の白己負担3割への引き上げ、あるいは高齢者の1割負担、そして保険料の値上げという改悪で、1兆5100億円の負担増になります。介護保険は、来年が3年に1度の見直しの年にあたりますが、そこで予定されている保険料の値上げは厚生労働省の調査でも2100億円にのぼります。
 さらに年金保険では、2000年度から凍結されていた物価スライドの凍結解除が予定されています。これまでは、物価が下がってもそれにスライドさせて年金を引き下げることをしないで凍結していたのに、それを解除し年金も下げるというわけです。しかも、財務省は、さかのぼって切り下げをおこなうという方針で、総額9200億円の給付減をねらっています。
 また、これほど雇用が深刻な状況のもとで、国の責任は棚上げにしたままで雇用保険の保険料値上げで6000億円の負担増をねらっています。来年度は給付日数や給付金額の面でも切り下げも計画され、その影響はいっそう深刻です。
 このように国民がいちばん頼りにしている、いわば「命の綱」ともいえる制度をつぎつぎ改悪し、国民に負担増と給付減という形でしわよせを押しつける。その規模は、あわせて3兆2400億円というたいへんなものです。小泉内閣が、いかに冷たい政策を推進しているかを端的に示しています。
 重要なことは、この負担増が先ほど見たような景気の低迷の中でおこなわれることです。このままでは、大規模なしわよせが重大な個人消費に対する打撃となり、とりかえしのつかない結果をつくりだします。ただちに中止させなければなりません。

◆外形標準課税は中小企業つぶしの悪税
 しかもその次には、大増税計画が控えています。再来年度からの実施が検討されているのが、たとえば法人事業税への外形標準課税の導入です。外形標準課税とは、資本金や給与の総額など企業の利益以外の、法人の事業活動の規模を表すもの(外形)を基準にして課税しようとするものです。検討されているのは、資本金、給与総額、支払利子、支払い賃料などです。
 いちばん大きな問題点は、赤字企業にたいしても課税することです。現在の法人課税は、法人所得(利益)に対して課税されるのが原則であり、基本的に赤字法人には課税されませんが、外形標準課税は赤字法人にも税が課せられるため、赤字経営に苦しむ中小企業を直撃することになります。
 一方で、高収益をあげている大企業は、税率引き下げの恩恵を受けます。すでに総務省は、現行の法人事業税の税率を9.6%から4.8%へと半分にし、残りの半分を外形標準課税に置き換える案を出しています。
 つまり、外形標準課税が導入されると、現行では黒字企業(77万5000社)が負担する法人事業税のうち、半分はこれまでどおり所得が基準で、税率は半減する。残り半分が外形標準で、赤字企業(67万9000社)も加えた全法人(245万4000社)が負担します。法人事業税の税収が同じなら、赤字企業が新たに負担するため黒字企業の負担は減ることになります。
 吉井英勝議員が、予算委員会で明らかにしたように、トヨタ自動車は310億円、武田薬品が108億円も減税になるのです。しかも、サラ金被害を広げているアコムが69億円、プロミスが49億円、武富士も44億円の減税になるのです。赤字の中小企業から税金を取り上げて、大企業やサラ金に減税をする。−−こんなことを平然と実施する政府かどこにあるでしょうか。
 「行政サービスを受けているのに赤字企業だからといって税金を払っていないのは問題だ」という攻撃も事実をゆがめています。日本商工会議所の試算では、中小企業は赤字でも黒字でも、法人住民税の均等割や固定資産税など、外形基準の税金を年問六兆四千億円も負担しています。それなのに人を雇って事業をしているというだけで税金をとるような外形標準課税は、税金を負担する能力を無視した中世の"人頭税"とまったく変わらないと言わなければなりません。
 「ほんの一握りの高収益企業は減税かもしれないが、中小企業の9割以上は増税。税金は担税力のあるところからとるのが基本です。無理やりとって、鶏を殺してしまえば卵を産まなくなってしまいます」(日本商工会議所)と中小企業団体も猛反発しているのは、当然のことです。

◆消費税大増税、所得税増税計画が着々と
 政府内には消費税の引き上げを求める声も強まっています。政府税調が、6月に出した「基本方針」には、「税率の引き上げ」とはっきり明記しました。一昨年の税制調査会の文章では「消費税を基幹税にする」と書きました。つまり消費税を基本的な税金にすることを宣言したのです。私たちは、これは「消費税の大増税」を認めたものだと批判しました。しかし、今年は「税率の引き上げ」を明確に書き込んだのです。これは、着々と消費税増税の準備が進んでいることをしめすものとして重大です。
 これに加えて、小泉首相が実施に意欲を持っていると言われている所得税の課税最低限の引き下げによる大増税が準備されています。その理由として、政府は「日本の課税最低隈は高すぎる」といっています。「課税最低限」とは、課税対象となる最低金額のことです。
 ほんとうにそうでしょうか。
 国際比較をする場合は、第一に同じ基準で比較しなければなりません。基礎控除については比較的主要各国共通するようですが、他の控除については、日本と同様の控除制度がある国ない国などさまざまです。それに、イギリスのように所得控除より社会保障を重視している国もあります。それらを所得控除制度を一律に無理にまとめて、税制だけで国際比較をしてもほんとうの国際比較にはなりません。
 第二に、財務省は為替レートを使って計算をして国際比較をしていますが、これでは、本当の比較はできません。
 国際比較をしようというなら、購買力平価で比較する必要があります。購買力平価というのは、各国通貨のそれぞれの国での購買力(単位の通貨によるモノ・サービスを買う力)を等しくするレートです。OECD(経済協力開発機構)が毎年発表している購買力平価の2000年平均を使って「課税最低限」の試算をし財務省の試算と比較してみました。
 そうすると、夫婦子2人の標準世帯の場合も、夫婦子1人の場合も、独身の場合も、日本の「課税最低限」はアメリカ、ドイツ、フランスよりも低いのです。イギリスは日本より低くなりますが、社会保障が充実していますので、これをもって「庶民にとって日本の方が暮らしやすい」とは断言できません。
 また、「課税最低限」を考える場合、国民のくらし向きを考え生計費には課税しないようにする必要があります。したがって、「課税最低限が高い」というのは、そもそも現実的ではありません。

◆庶民から取り上げて大企業・大金持ちに減税する
 塩川財務大臣は、来年度から2兆円規模の減税措置を3年間継続し、減税総額を6兆円にしたいとの考えをしめしました。その上で「私案」としながらも、「(来年度の減税額が)2兆なら、3年間で6兆円減税になる。増税の方は、6兆円相当額を5年かかってやる」とのべました。減税措置について塩川財務大臣は、企業の研究開発や設備投資を促す政策減税を柱にすべきだとのべました。まさに大企業減税そのものです。6兆円分の減税分を穴埋めする増税措置については「(控除措置が多く税収が上がりにくくなっている税の)空洞化を埋めることが重要」などといい、所得税の各種控除を整理・統合して課税範囲の拡大を図るべきだというのです。
 先日、私の事務所に雑誌『SPA!』の編集部の方が取材にみえました。インタビューのテーマは、「許せない増税、社会保険負担増」でした(10月1日発売号)。編集部の方が言うには、「まだまだ知られていないので、こういう特集を考えた」のだそうです。まさにそのとおりで、一刻をあらそって、国民のあいだにこの事実を知らせ、その政策の転換を求めていくことが、日本経済の再生のためにも不可欠です。

小泉内閣の「デフレ対策」がもたらすものは何か

 さすがの小泉首相も、最近の深刻な経済の実態を前に、「デフレ対策」を口にせざるを得なくなっています。今年、2月のデフレ総合対策にはじまり、6月、7月に自民党があいついで、第二次、第三次のデフレ対策を決定し、近々、新しいデフレ対策を決定すると言われています。
 しかし、小泉内閣が新たに推進しようとしているデフレ対策なるものの中身は、とてもデフレ対策と呼べるような代物ではありません。ここに、経済のかじ取りができなくなった自民党政治のゆきづまりが如実にあらわれているということができます。

◆破たんしたPKO(株価維持政策)の繰り返し
 現在、取りざたされているデフレ対策の一つの柱は、年金資金で株価指数連動型上場投資信託(ETF)を2〜3兆円購入するというものです。
 たしかに、9月に入って株価の大幅な下落がありました。バブル崩壊後の最安値になり、一時は9000円を割り込むという状況にもなりました。小泉内閣が発足したときの日経平均株価は、1万4500円台でした。つまり、この1年半のあいだに、株価が3分の1吹き飛んでしまったというのがいまの事態です。そこに深刻さがあらわれています。
 株価が下がっても、庶民は株をもっているわけではないから、関係がないと言うわけにはいきません。株価は、「経済の実態を映し出す鏡」だからです。福田官房長官は、「株だから上がったり下がったりする」などと無責任なことを言っています。
 しかし、個人消費を支える政策を打ち出さないまま、国民の大切な資産である年金資金を、危険な株式投資に持ち込んで、株価を引き上げようなどというのは本末転倒です。ETFというのは、日経平均株価あるいは東証株価指数(TOPICS)などを構成している全部の銘柄を組み込んだ投資信託です。つまり、平均的な株価が下がれば、たいへんな損失が出るというものです。ここに年金資金をつぎ込むというわけですから、これは年金本来の目的からまったくはずれた使い方だと言わなければなりません。
 厚生労働省も、「(年金資産は)将来の年金給付にそなえたもので、そういうところに使うのは法律の趣旨と違う」といって難色をしめしたほど、いかに無謀な計画であるかは明らかです。
 これまでも政府は、年金資金などの公的資金を株に投資をして、PKO(プライス・キーピング・オペレーション)−−株価維持政策をおこなってきました。これが失敗し、大きな損害を国民にもたらしてきたその累積額は何兆円にものぼるとみられています。そのことについて、何の反省も、謝罪もないまま、また同じ誤りをくり返そうというのです。これは絶対に認めるわけにはいきません。

◆日銀による銀行株保有という愚策
 日銀はすでに、政府の意向にそって史上空前の金融緩和を実行しています。日銀総裁自身、「すでにジャブジャブ資金を供給している」とのべるほどです。問題は、日銀の市場への資金の供給にあるのではなく、銀行から先に資金が流れていないことにあるわけです。とりわけ中小企業に必要な資金が供給されていないところに問題があります。デフレ対策と言うのであれば、まずやるべきことは、ただちに「貸し渋り、貸しはがし」をやめさせることです。その原因を究明しないで、ただ、金融緩和をさせるといっても、それは百害あって一利なしです。
 案の定、9月18日に日銀が出した政策は、「銀行の持っている株式を買い取ってあげます」という前代未聞の政策でした。「不良債権処理を促すため」などと言っていますが、とんでもないことです。損失が出たらどうなるのでしょう。「日銀が損をする」というだけではすみません。損が出たら、日銀から国に入る「国庫納付金」がその分減ってしまい、最終的には国民負担につながるからです。
 日銀に「世界でこのようなことをやった例はあるのか。日本では過去に例があるのか」ときいたところ、「外国にも日本にも前例はありません」というのです。速水総裁は「世界の中央銀行で民間の株を持っているところはない」(18日の記者会見)と認めるように、元本保証もない株式を保有するなど、とんでもないことです。
 日銀の山口企画室審議役は、9月12日の参議院決算委員会で「日銀法では、日銀かオペにより買い入れることができる資産は、手形あるいは債券に限定されており、日銀かETF(株価指数連動型投資信託)を買い入れることは想定されていないと理解している」と発言したばかりです。
 もともと、日銀法33条では金融調節の手段として「商業手形その他の手形の割引」など8項目の金融調節業務を行なうことを定めていますが、このなかには株式の購入は含まれていません。今回は、同43条の「この法律に規定する日本銀行の目的達成上必要がある場合において、財務大臣及び内閣総理大臣の認可を受けたときは、この限りでない」という規定を使うそうです。しかし、これは、まさに例外条項なのです。こんな禁じ手を使うことは許されません。
 自民党内では、「日銀は国債を買うことも考えるべきだ」という意見まで出されているそうです。こうなると、財政規律の歯止めもなくなり歳出が拡大されかねません。また、その結果、悪政のインフレを生み出し、日銀法が定める「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」という金融政策の根本も踏み外すことになってしまいます。
 日銀の、歴史をふり返っても、侵略戦争を推進する資金の供給は、大量の国債増発を日銀が引き受けることで賄われました。あのような無謀な戦争に突入していった歴史の教訓をふまえて確立されたのが現在のスタンスです。それを踏みにじるような無謀な事態を容認する発言が出てきています。これは、絶対に容認できません。

◆景気にとってマイナスの大企業減税
 デフレ対策で再び浮上してきているのが、大企業向けの法人税減税です。たとえば研究開発や投資促進のための減税を来年度から実施するというもので、2兆円規模ともいわれています。また証券税制を「改正」し、株の取り引きの税金を軽くするなどの政策か取りざたされています。
 しかし、こういう減税をしたからといって、景気がよくなるという保障はいっさいありません。実際、この長期不況のなかでは、法人税は何回も下げられてきました。また、投資減税を何度か実施されてきました。にもかかわらず、景気は回復しませんでした。それは根本問題を回避しているからです。国民の消費をどう拡大するのかという視点に立たないかぎり何をやっても効果は上がりません。
 この法人税減税の財源を、生活や営業の苦しい国民から取り上げた税金で賄うというのです。それを、利益が上がっている大企業のための減税にまわそうというのですから、むしろ国民の消費をさらに冷え込ませ、経済に決定的なダメージを与えることにもなります。これは完全に景気対策としては逆行しているとしか言いようがありません。

◆銀行の不良債権を国民の血税で買い取る
 さらに、RCC(整理回収機構)が銀行から不良債権を買い取る際、これを実質簿価で買い取るという制度をつくることも検討されています。実質簿価というのは、現在の買い取り価格よりも高い価格で買うという制度です。その差額分(ロス)は、単純に言えば国民の税金で穴埋めするということにならざる得ません。これも大銀行奉仕政策です。
 そもそも、不良債権が増える原因を取り除かないで、不良債権の処理や買い取りばかりを積み増しするというやり方が、経済の再生にどんなに逆行しているかは、不良債権処理をやればやるほど不良債権が増えるという現実をみれば明らかなはずです。
 今年3月決算を見ても、大銀行を中心とする不良債権は、かえって増えています。全国銀行129行の統計を見れば、前年にたいし59.0%の不良債権を処理しています。つまり6割は不良債権を処理したにもかかわらず、都銀など大手銀行では、新しく8兆9000億円の不良債権が発生しています。全体としてみれば、前年にくらべると不良債権が三割も増えているのです。
 不良債権と、言われている企業の主なものは中小企業が中心です。そして、その中小企業の経営がうまくいかないのは、消費が低迷しているからです。その原因に対策を立てないで、中小企業の経営が悪いから、この企業に対する融資はストップする、あるいは融資を回収するとなっていくと、それだけ倒産が増えます。
 昨年、私は、政府が言うように「破綻懸念先」全部の不良債権処理を実行したとした場合どうなるかを計算したことがあります。20万社から30万社というたいへんな規模の企業がつぶされることになることがわかりました。関連する企業の倒産にも連動し連鎖倒産が広がります。経営者だけではなく働いている従業員が路頭に迷うという事態も生まれます。
 そううなれば、また消費が冷えこんでものが売れなくなり、中小企業の経営はますます悪くなります。優良な中小企業でも不良債権化します。実際に、こういう悪循環が生まれているのです。先ほど示した数字が、それをはっきりと示しています。つまり、不良債権の買い取り価格を多少引き上げて、国民に負担を増やしても、不良債権の根本原因である国民の消費の低迷という根本問題を解決しない限り、何の解決にもなりません。むしろ、いっそうの経済の悪化をまねくものです。

◆従来型政策の根本的な転換を
 結局、政府のデフレ対策は、その場しのぎの応急的な対処療法にすぎません。それどころか、経済全体を疲弊させるものとなっているのです。−−だいたい、株が下がったから株引き上げのPKOをやる、銀行の経営がたいへんだから税金を投入する、設備投資が低迷しているから投資減税を行う。こんな対症療法を繰り返しても何の効果もなかったことが、これまでの政策のゆきづまりをはっきりとしめしているのです。
 GDPの6割近くをしめている個人消費を「国民大収奪」で破壊していることが、根本的な誤りなのです。これでは社会全体の需要は収縮するばかりです。こう見てくると、政府の政策が、お先真っ暗と言えるような出口の見えない経済状態を生み出しているのではないのでしょうか。

国民がもとめる経済政策に転換してこそ

 何よりも大事なことは、経済政策の基本を家計消費の拡大に置くことです。この方向は、国民の圧倒的な世論とも一致しています。
 世論調査を見ても、たとえば日銀の国民意識に関するアンケート調査が半年に一度おこなわれていますが、そこでは、必ず共通した要望が出されています。たとえば、「あなたはどうしたら支出を増やしますか」という問いにたいして、3月の調査では、こう答えています。第一は「雇用や収入の不安の解消」、第二は「消費税率の引き下げ」、第三は「国民負担の将来像の明確化」、第四は「所得税減税」でした。−−こういう要望が毎回上位を占めていることに注目しなければなりません。
 リストラの不安をなくすこと、社会保障を充実させて将来不安をなくすこと、消費税の減税をおこなうこと−−この方向こそが、重要です。まさに、国民の要望にこたえる政策こそ、いままさに求められているわけですし、それにこたえる政策を実行することが、消費の拡大につながるのです。
 財源はどうするか。財政上の無駄づかいにメスを入れることです。今年度の予算で、小泉内閣は、公共事業の削減を方針に掲げ、当初予算では、公共事業を1兆円マイナスにしました。首相は、さかんに見栄を張っていましたが、実際には、今年1月に補正予算を組み、2兆5000億円の公共事業の大幅な積み増しをおこない、削減は実現しなかったわけです。結果として、無駄な公共事業予算は拡大されました。
 軍事予算やODAなどのムダについても、いっこうにメスが入りません。世界の流れとも言える軍縮やODAの抜本改革はいっこうにすすんでいません。
 しかも、70兆円の公的資金の予算の枠が依然として組み続けられていることです。すでに、銀行にたいして、いままでに30兆円の公的資金がつぎ込まれています。しかし、そういうことをいくら続けても中小企業の貸し出しは減り続けています。まったく無駄だといわなければなりません。
 問題は、なぜ、これがあらたまらないのかということです。そこには、政・官・業の癒着の構造があり、ここにメスが入らないからです。
 たとえば先日、9月12日に2001年度の政治資金収支報告が発表されました。そこには、「自民なお公共事業依存」(「東京」)と新聞に大見出しで書かれているような事態が、なお厳然と存在しているのです。自民党にたいする献金の上位には、トヨタ、新日鉄、日立、東芝、松下、ホンダ、スズキ、清水建設、サントリー、戸田建設、前田建設、五洋建設、デンソー、ソニー、三菱電機、竹中工務店などの名があがっています。上位20社のうち直接、公共事業受注している土木・建設企業が6社にのぼります。さらに、官公庁受注の電算システムの開発や自動車、電化製品の納入企業も名を連ねています。
 しかも、自民党は銀行から多額の借金をしています。このような政治資金収支報告には現れない政治献金の形態があることも見過ごせません。
 政・官・業癒着が、どんなにひどい実態を招いているかは、東京電力の原子力発電所のトラブル事故隠しにも現れています。企業ぐるみで原発故障のデータを虚偽記載し、しかも、これに経済産業省が一枚かんでいたことは明白です。農水省と食肉加工業者との癒着関係も重大です。これは日ハムの問題に端的に示されていますが、農水族議員が農水省に働きかけ、BSE対策のための牛肉買い取り制度をつくらせ、それを悪用した不正事件がおこなわれる。そして、三井物産の事件です。外務省の高級官僚が天下りをして、ディーゼル発電所を設置することに深くかかわりました。これのことは、何よりも、政・官・業癒着の構造をあらためることが必要であることをしめしています。
 そのためには、企業からの献金を全面的に禁止すること、とりあえず、まず国民の税金を使って仕事をする企業からの献金は全面的に禁止することが必要です。また、天下りを規制しなければなりません。

 国民の要望に正面からこたえ、日本経済再建への方向に実際に舵取りができるのは、日本共産党しかありません。来るべき、いっせい地方選挙と総選挙で日本共産党の躍進をかちとることこそが、新しい政治の流れをつくり、日本経済の明るい展望をきりひらく根本的な力です。その責任を自覚して、私も奮闘したいと思います。

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