奮戦記
【13.08.23】勉強になった2冊の本(facebookより)
この夏、読んだなかで勉強になった本は、この8月に刊行された工藤晃著『現代帝国主義と日米関係』(新日本出版社)と、3月に刊行された志賀櫻著『タックス・ヘイブン―逃げていく税金』(岩波新書)の2冊です。
●工藤晃著『現代帝国主義と日米関係』(新日本出版社)
●志賀櫻著『タックス・ヘイブン―逃げていく税金』(岩波新書)
ひとつは、工藤晃著『現代帝国主義と日米関係』
――この本は、(1)現代の帝国主義と日米関係、(2)マルクスの恐慌論を考える、(3)科学の方法論をめぐっての3部構成になっています。
著者の工藤晃さんは、日本共産党の元衆議院議員。党の幹部会委員・経済政策委員会責任者をつとめた政治家であり研究者です。現在87歳ですが“老いてなお益々盛ん”。毎年のように新しい本を著している大先輩です。
1999年には『現代帝国主義研究』(1998年、新日本出版社)が、「アメリカの軍事支配、多国籍企業の支配を最新の資料にもとづき解明」したとして高く評価され、第24回野呂栄太郎賞を受賞しました。
『現代帝国主義研究』では、「全世界的資料にもとづく分析」がおこなわれ、現代帝国主義の本質が深く解明されています。しかし著者は、それに満足せず「日米関係のための紙数を多くはとれなかった」として、この8月、新たに『現代帝国主義と日米関係』を著しました。妥協せず、ものごとを徹底追及し続ける姿勢には、本当に頭が下がります。
工藤さんは新著のなかで「対米従属下の日米軍事同盟のもとでの日本独占資本の対外膨張を歴史的にふりかえり、また必要な資料を集めて提示することにした」と述べ、「米国主導のグローバルな帝国主義のなかでの日米軍事同盟」について、新たな解明をおこなっています。
なお、日米独占資本の結合がいっそう深まっている事例として、私が2007年に著した『変貌する財界―日本経団連の分析』(新日本出版社)のなかから6頁にわたって資料「経団連役員企業の大株主上位10社」を紹介していただきました。光栄の至りです。
工藤さんは、リーマン・ショック後の世界的経済危機についても、積極的な資料提示と分析を行ってきました。その内容は『資本主義の変容と経済危機』(2009年、新日本出版社)で明らかにされています。国際金融市場での投機も、タックス・ヘイブンを利用した金融犯罪や脱税、租税回避なども、多国籍企業や国際金融資本が最も深くかかわっており、それはヘッジ・ファンドの大半がタックス・ヘイブンを居住地としていること一つを見てもあきらかである、と指摘しています。
工藤さんは、8月に出版された『現代帝国主義と日米関係』のなかで、そのポイントをこう説明しています。「米・欧の最大規模の金融機関による、どこからも規制されることのない闇の中での金融取引きの驚くべきふくれ上がり、その結果としての金融危機と、米・欧・日多国籍企業の、これからもどこからも規制されることのない、グローバルな利潤追求の結果としての過剰生産恐慌とが結びついて起きている」と。
ぜひ、多くの皆さんに読んでいただきたい本です。
ふたつ目は、志賀櫻著『タックス・ヘイブン―逃げていく税金』(岩波新書)
――この本は、金融と税制の分野で役人として国際的な交渉の最前線にいた著者が、自らの体験を踏まえて書かれたもので、たいへんリアルで説得力のあるものとなっており参考になります。
この本の狙いについて、志賀氏は「秘密のヴェールに包まれたタックス・ヘイブンの真相を解明し、タックス・ヘイブンのもたらす害悪に警鐘を鳴らすこと」にあると述べています。
そのうえで、タックス・ヘイブンは「魑魅魍魎(ちみもうりょう)の跋扈(ばっこ)する伏魔殿である。脱税をはたらく富裕層だけでなく、不正を行う金融機関や企業、さらには犯罪組織、テロリスト集団、各国の諜報機関までが群がる。悪名高いヘッジ・ファンドもタックス・ヘイブンを利用して巨額のマネーを動かしている」と指摘しています。
さらに、巨額な投機マネーが世界経済の大規模な破壊をもたらしているとのべ「このようなマネー・ゲームの行き着く先は、決まって大規模な金融危機である。一部の投機筋が引き起こしたマネー・ゲームの尻ぬぐいのために、市民が汗水流して働いて得たお金が、湯水のごとく使われていくのである」と厳しく批判しています。
また、高額所得者や大企業が、脱税や租税回避を行うことによって、「そのツケを負わされているのが、中所得・低所得の市民である」と主張し、さらにこう述べています。「いまや、その中間層は長引くデフレで疲弊し、やせ細ってきている。日本社会は現在、富裕層と貧困層とに二極分化しつつつある。タックス・ヘイブンを舞台にした悪事は、この傾向に拍車をかける。富める者はますます富み、貧する者はますます貧する。そう言う構造が生まれてきている」と指摘しています。まさに卓見です。
しかも、その対策のあり方についても詳しく紹介しています。
世界経済と金融の実態を分析し、さらには日本社会の構造にまで及ぶ、じつに広い視野で描かれており、著者の市民的怒りが伝わってくる書物です。