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奮戦記

【13.05.17】障がい者が識別しやすい紙幣、利用しやすい金融機関を目指して

  ■私は、この10年ほど、障がい者や高齢者にとって利用しやすい金融機関にしていくなど、「金融のバリアフリー」の問題を取りあげてきた。この間、前進した面もあるが、まだまだ残された課題が多いと感じている。
 「障害者基本法」の目的には、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため」と定められている。(第1条)

 今日の財務金融委員会では、紙幣の改善と金融機関の対応についてただした。
 生活する上で、お金を正しく数えられるということは絶対に必要な条件であり、現代の社会において金融機関を使わずに社会生活をおくれない。障害者や高齢者に優しく、誰でも利用しやすい金融のバリアフリー化を進めることが大事だと思う。

  ■まず、紙幣の識別についてだ。
 4月26日、財務省から「日本銀行券の券種の識別性を向上させるための取組み」について説明があった。それは、財務省、日本銀行、国立印刷局が、以下の取組みを行うというものだった。
 ………………………………
1、早期実施に向けて着手する3つの具体的な取組み
l 5千円券の改良…表面左下に貼付しているホログラムの透明層(光沢性のある透明シール)を拡大するとともに形状を変更
l 携帯電話に搭載可能な日本銀行券の券種識別アプリの開発・提供…お札の券種識別機能をスマートフォンのアプリケーションとして開発し、これを、国民の皆様に無償で提供する予定
l 券種の識別機器の開発・情報提供…お札の券種識別のための専用簡易機器のモデルを開発し、完成後は、当該モデルについて民間企業等に対し情報提供を行う予定
2、将来に向けた取組み
 将来の日本銀行券改刷(様式の変更、時期未定)が、目の不自由な方々にとっての券種の識別性の大幅な向上につながるものとなるよう、関係者からの意見聴取、海外の取組状況の調査等、様々な観点から検討
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■現在有効な紙幣は22種類あるが、主な7種類をみるだけでも、2千円札(154mm)と旧5千円札(155mm)と5千円札(156mm)の横幅が1ミリずつしか違わない。
 以前にも、紙幣の識別の問題を取り上げた時にも指摘したが、1mmの違いでは、大きさで判別することはとてもできない。
 ホログラムは分かりにくいというのが、障害者の皆さんの声だ。例えば、何回か折ると区別がつかなくなる。流通して古くなった紙幣では、なおさらわからない。それに、中途失明者や糖尿病などで手の感覚が敏感でない方には判別できない。
 ホログラムだけではなく、インクの盛りで識別できるようにしているというが、同じような問題がある。この点では、さらに改善が必要だと思う。

  ■スマートホン対応のアプリの開発についてはどうか。
 財務省に聞いたところ、今回対応するのはアイフォンということだ。どれだけの視覚障害者の方が、アイフォンやその他のスマートフォンを利用しているか。財務副大臣の答弁では、1割程度ということだった。
 ATMの問題も何度も取りあげたが、そもそも、視覚障害者の方々は、タッチパネルの利用が困難である。物理的なボタン式でなければ、どこをさわっていいかわからない。対応策は他にもあるのではないかと思う。

■識別のための簡単な機械の開発について。
 これが、安価で視覚障害者が手に入れやすいということであれば、前進だと思う。
 だが、識別のための機械が出来たからといって、問題が解決するわけではない。例えば、買い物している最中に、いちいち機械で判別するというわけにもいかない。視覚障害者の方々は、あんまの治療院をやったり、働いている方も多い。お客さんから代金をもらって、その場で機械で判別するというのは、お客さんとの信頼関係上、なかなか難しいという。こういう実態を考慮しなければいけない。
 大事なことは、使う人の側に立って、識別しやすい紙幣にするために改善をしていかなければならないということだ。この点では、財務大臣からも副大臣からも、前向きの答弁があった。

  ■将来に向けての取り組みとして、財務省は関係者からの意見を聞くそうだ。視覚障害者の方々に、意見を聞くわけだから、点字のアンケート、点字の回答があって当然だと思うが、まだ明確ではない。これから検討するという答弁だった。
 点字以外でも、実際に現物を触って感想を出してもらったり、インターネットを使って意見を募集したりすることが必要だと思う。
 改善にむけて、多くの視覚障害者の方々の意見を聞くことが必要だ。いちばん大事なのは、現在の紙幣で何に困っているのか、どう改善してほしいのかという声を汲みつくすことだ。
 そして、視覚障害だけでなく聴覚障害もある「盲ろう者」の方たちの意見も聞くべきだ。盲ろう者の方々は、スマホや機械をつかって音声で読み上げたとしても、判別することができない。盲ろう者は体表点字という手段を使えば、紙幣の読み取りが出来るようになると聞いている。
 誰もが使いやすいという観点で、障害者の方々や高齢者など、広く声を集めるべきだと考える。

■2005年の質問の時にも紹介したが、ユーロ紙幣は視覚障害者の方々も識別しやすいように、大変工夫されている。
 5ユーロから100ユーロまで縦が5mm、横も6〜7mmずつ大きさが違う。200ユーロと500ユーロは、横が6〜7mmずつ違う。色でもはっきり区別しており、弱視の方やお年寄りにも判別しやすいものになっている。例えば5ユーロはグレー、10ユーロは赤、20ユーロは青、50ユーロはオレンジ、100ユーロは緑、200ユーロは黄茶、500ユーロは紫。
 このようにユーロ紙幣は、金額の値が大きいほど大きさは大きく、近い金額の紙幣は対照的な色というふうになっている。なぜ、ユーロはこのように識別しやすい紙幣をつくったのか。
 2002年から発行されたユーロ紙幣は、今月から新しい紙幣が発行されている。まずは5ユーロからということだが、この新紙幣について、欧州中央銀行のHPでは「紙幣の最初のシリーズと同様に、第二シリーズのデザイン段階で視覚障害者と協議を行い、彼らの必要条件は最終的なデザインに含められた」と紹介している。
 やはり、デザインをつくる段階から、視覚障害者の方々などから要望を聞いている。

  ■視覚障害者の方々に話を聞くと、「普段は財布の中で金額ごとに入れる場所を決めているが、買い物の際にお釣りとともに、同じようなサイズで触覚も紙幣と変わらない領収書を財布に入れてしまい、紙幣と思いこんで使おうとしてしまった」という声がある。
 また、弱視の方からは、「夜間に一番困っている。大きさだけでは判別しにくいため、夜間タクシーに乗った際、特に見えづらいため、間違って渡してしまう。正直な運転手さんもいるが、千円のつもりが5千円を渡して、黙ってそのままということある。はっきりとした色であれば、弱視でも判別しやすい」という声もあった。
 「買い物の時、後ろに人が並んでいたりすると焦ってしまうし、ゆっくりと紙幣の隅々まで触ってみて、じっくりと判別することは難しい。紙幣が自分では確認できないのは、気が気じゃない」という声もある。
 その場で、瞬時に「形でわかる」「手触りでわかる」というものに、改善していくことが求められる。

  ■次に、金融機関の障害者対応について。
 この問題を、私が最初に取りあげたのは、2004年の4月だった。それまでは、銀行の障害者対応がどうなっているか、金融庁は実態も把握していなかった。この間、金融庁の取り組みもあって、改善もしてきている。当時、視覚障害者の方々に聞くと、「窓口が減り、ATMを使うようにと言われるが、そのATMの機械そのものが使えない」ということだった。
 まず、銀行の視覚障害者対応ATMの整備状況について聞きたい。04年当時と直近における比率はどうなっているだろうか。金融庁監督局長の答弁では、いわゆるハンドセットを備えたATMについては、銀行(都銀、地銀、第二地銀)からのヒアリングベースでは、04年5月の約12%から、12年9月末で約71%に増加している。大変増加したことがわかる。視覚障害者の方々も、「視覚障害者対応のATMが増えたと実感する」と言っている。
 次の問題は、入出金の記録が得られないということだ。点字通帳等取引の履歴がわかる書類の発行について、現状はどうなっているか。主要行の状況をきいた。
 金融庁が平成24年9月現在で行ったアンケートにおいて、主要行等(16行)のうち、取引履歴等の明細について点字通知を実施しているものは、普通預金については約19%(3行)、定期預金については25%(4行)である。なお、いわゆるメガバンクなど、都市銀行等(5行)についていえば、普通預金については40%(2行)、定期預金については80%(4行)である。569行全体についていえば、普通預金については8%(48行)、定期預金については5%(28行)である。
 このように、障害者対応のATMは増加したが、点字で入出金の記録を発行するということは、ほとんど行われていないというのが実態だ。お金を預けている本人が、その取引の内容がわからないということはおかしい。今後、改善していくべきだ。

  ■障害者の方々が切実に要望されているのは、代筆制度の徹底である。
 障害者対応のATMが取り付けてあったとしても、視覚障害者が機械を操作するのはとても時間がかかる。後ろに人が並んでいたりすると、使うことをためらい、窓口で用件を済ませる人が多い。ところが、窓口で預金をおろそうとしても、自筆で記入することが困難であり、また確認ができない。そのために、手続きの代筆依頼を断らないでほしいという要望がある。
 代筆依頼とは、窓口係員が記入したものを、その上司に当たる行員が内容を読み上げ、確認し、窓口係員と上司行員が捺印するもの。窓口係員だけでの、代筆とは異なる。
 入出金の記録がないために、銀行の窓口で内容を代読してもらうという方法をとらなければならない方もいる。
 代筆・代読に係る内規の整備状況はどうなっているか。金融機関における代筆の内部規定の整備状況は、07年調査と12年9月 調査を比較すると、預金取引については約47%であったものが約99%に、融資取引については約9%であったものが約86%に増加している。
 また、同様に代読に関する内部規定の整備状況を見ると、10年調査で約23%であったものが、12年9月調査では約94%となっている。

 内部規定があるが、それが周知徹底されていないという問題がある。
 今年の2月、メガバンクの一つ(三菱東京UFJ銀行)の本店に、視覚障害者団体の方々がその銀行の障害者対応について要請にいったそうだ。本店で障害者対応の要請を受ける方なのだから、当然、代筆・代読のことは知っていると思ったら、内規があることも知らなかったという。
 代筆・代読がされないと、どういう問題があるか。例えば、あんまの治療院の開設とか、融資が受けられないということになる。視覚障害者の方々は、融資の書類の内容を読めない、自書・サインできないということで、話のスタートの所ではじかれてしまう。自書・サインできないことと、返済能力があるかどうかは別の問題だ。障害があるからということで、経済活動ができないと排除されるのは、差別的な扱いであり、許されない。
 社会生活を送る上で金融機関を使わないで生活することはできない。障害者や高齢者、弱者にやさしい金融機関にしていかなければいけない。

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