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金融(銀行・保険・証券), 景気回復 (量的緩和政策、超低金利政策)

2013年03月26日 第183回 通常国会 財務金融委員会≪日銀報告質疑≫ 【718】 - 質問

日銀新総裁を追及「物価だけ上げる金融緩和をやることは大変危険」

 2013年3月26日、佐々木憲昭議員は、財務金融委員会で、就任後初めて国会に出席した日銀の黒田東彦総裁に対して、無制限の金融緩和を進めてもデフレ不況から脱することができないとただしました。

 佐々木議員は、デフレの原因は「GDP(国内総生産)の6割を占める家計所得の低下で内需が落ち込んでいることがベースにある」と指摘。働く人の所得の減少や非正規雇用の増大、社会保障改悪による負担増と給付減をあげ、痛めつけられた家計を温めることこそデフレ不況打開のカギだと強調しました。
 黒田新総裁はデフレの原因について「いろんな要素がある」などとしか答えられず、金融緩和を進めて物価を上昇させることがデフレ脱却につながるとのべました。
 また、佐々木議員は、賃金が上がらず消費税増税などで負担が増えるなかで物価だけが上がれば重大な事態を引き起こすと指摘。日銀のアンケートでも物価が上がると困るという人が増えていることを示し、「インフレ期待」が高まるとうまくいくというが、そうはならないと強調しました。今後、手取り収入が減ると、需要が低下してデフレ不況からも抜け出せなくなるとのべました。
 黒田新総裁は「物価と賃金はほとんど同時に押し上がる」と根拠もなくのべ、「ご懸念がないようにしていく」としか答えられませんでした。
 佐々木議員は「国民の暮らしを無視して物価だけ上げる金融緩和をやることは大変危険だ」と批判しました。

議事録

○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 先ほど黒田総裁は、報告の中で、「デフレ脱却に向け、やれることは何でもやる」、こういうふうにおっしゃいました。
 まず、デフレの定義でありますが、日銀政府は、持続的な物価下落と定義をしております。問題は、なぜ連続して物価が下がるのか。その理由をどのように捉えておられますか。
○黒田参考人(日本銀行総裁) デフレの定義は、国際的にも、持続的な物価の下落ということであると思います。ですから、不況か好況かとか、その他と別にして、物価が持続的にいずれにせよ下落していればデフレというふうに言われているわけでございます。
 2008年の一次産品の国際的な高騰の局面では物価は上がっていましたけれども、それを除けば15年にわたって物価が持続的に下落している。これはデフレ以外の何物でもないわけですが、それぞれの局面で物価に影響した要素はたくさんあるわけでございまして、御承知のように、金融機関の不良債権問題とかデレバレッジングとか、いろいろなことが2000年代の初めまでありまして、その後、特に新興国からの安い物資が入ってくるとか、円高が進んだとか、あるいは、先ほど申し上げたように、企業、家計の両面で低価格志向というものが起こったとか、いろいろなことがあったと思います。
 その中で、日本銀行の政策の間違いというのもあったかもしれません。特に、2000年の量的緩和からの時期尚早の脱却とか、いろいろあったと思いますが、基本的にはいろいろなファクターで物価の下落が起こっているわけですが、二つの意味で問題だと思うのは、一つは、そういうことが起こる中で、デフレマインドというか物価下落期待、デフレ期待が根強く浸透してしまって、それがさらなるデフレを呼ぶという悪循環に陥っているという面が一つと、それから、金融政策を担当する日本銀行が、そういうデフレのいろいろなファクターに対抗してその都度十分な金融緩和をスムーズにやってこれなかったという二つの面があって、結局、結果的に15年続きのデフレになってしまっているということだと思います。
○佐々木(憲)委員 先日、私、本会議でこの点をただしますと、政府の答弁は、「我が国経済は、長期にわたり、需要が弱い中で、企業などによる、日本経済の将来に対する成長期待の低下やデフレ予想の固定化もあって、デフレが継続してきた」、そういうふうに答えております。
 この答弁にもありますが、デフレの最大の原因は、基本的には、供給に比べて需要の方が弱い、需給バランスが崩れるということだと思うんですが。どちらかというと、実体経済の不況の面が進行して、それが原因になって需給バランスが崩れてデフレが発生する。だから、デフレ不況というような言い方もされるわけですね。
 そこで、基本にあるのは、やはり内需の中のGDPの6割を占めております家計消費だと私は思っておりまして、この可処分所得の低下というのが非常に大きかった。その点の認識はいかがでしょうか。
○黒田参考人 おっしゃるとおり可処分所得も低下したわけでございます。賃金も低下したわけですが、物価も低下したと。ですから、ある意味でいうと、その名目値、賃金、物価、所得あるいは名目GDPも含めて、全てのものがずっと低下してきたわけで、その中で一番重要な名目値というのは消費者物価指数でございますが、それがまさに15年低下してきたと。ただ、それは、今申し上げたように、あるいは委員もう御指摘のとおり、いろいろな経済要素が絡まってなっているわけでございまして、何か一つだけで説明するというのは難しいと思います。
 一つ重要な点といえば、先ほど申し上げたように、そういうことでデフレ期待というものが非常に深く浸透してしまったために、企業も消費者も非常に消極的になったということはあろうと思います。
○佐々木(憲)委員 いろいろなものが絡まったということなんですけれども、やはりベースにあるのは内需の中の家計だと私は思うんですね。
 例えば雇用者所得、賃金ですけれども、この10年間で約22兆円減少しております。
 これはなぜかということですけれども、例えば、労働法制の規制緩和をやりました、非正規雇用がふえた、低賃金労働者が非常に数が多くなった、全体として雇用が不安定になった、そういうことが一つあったと思いますね。それから、この間、海外、特にアジアに対して非常に進出が激しく行われて、国内の投資がやはり低迷したということ。
 それから、二つ目に、可処分所得という点からいいますと、国民の負担がふえていると思います。
 それは、小泉、安倍内閣を振り返りますと、我々、一覧表を出しました。計算をしてみますと、12・7兆円もこの負担がふえているんです。これは政府の家計調査報告の中にもその一覧表は載っていますけれども。これだけさまざまな負担がふえますと、やはり消費に非常に大きな影響が出てくるということですね。
 それから、もう一つ大事だと思うのは、金利が低下していますから、家計に入るべき利子所得が減っているわけです。
 7年ほど前、私、この委員会で日銀の福井総裁に質問をいたしました。そのときの答弁は、1991年における受取利子額がその後2004年まで同じ額で継続するというふうに仮定した場合と現実の金利所得との比較で逸失金額を計算いたしますと、累計で304兆円。304兆円、本来、家計に入るべきものが入らなかった。その分、企業の方に行ったんでしょうか。そういう問題もあります。
 長期にわたり需要が弱い状況ができたのは、やはりそういうものだというふうに私は思います。
 その上、これからどうなるのか。三党合意というのがありまして、これから消費税が増税になります。これで13・5兆円。さらに、年金、介護、医療、こういう分野でも負担がふえる、あるいは給付が減る、こういう事態が生まれますから、2015年までに大体20兆円の負担がふえるわけですよ。
 ですから、内需の中の家計消費というものが非常に痛めつけられている。この問題がベースにあるということです。そのことをはっきりさせないと、幾ら金融緩和といったって、これはなかなか、それだけでどうこうなるようなものではない。そういう意味では、先ほど、構造的なというのがありましたが、やはり、日本経済の中の内需の低迷というものの原因がどこにあるのか、それに対してどうするのかということがないと、金融だけで物事は解決しないというふうに思います。
 そこで、次にお聞きしたいのは、インフレの定義でございます。これは私は二つあると思っていまして、一つは、需要が伸びることによって物価が上昇するという点。それからもう一つの面は、通貨が流通必要量を超えて供給されることによって通貨価値の下落が起こって、名目的に物価上昇が発生する、インフレーションであります。この二つがあると思うんですね。
 先日、中曽副総裁にお聞きしたところ、そういう認識は持っておりますというふうにお答えになりました。黒田総裁はどのようにお考えでしょうか。
○黒田参考人 インフレの原因の分類方式は、委員御指摘のような方式もございますし、かつて非常にはやっていました分類は、コストプッシュインフレと需要超過インフレというようなことで議論がなされておりました。
 委員御指摘の点は、恐らく、いわゆる実需が、実需と申しますのは供給力に対して総需要が上回っていてインフレになるということだと思いますけれども、通貨価値の下落というのも、恐らく、金融が非常に緩和されて、需要が増加して超過需要になって、通貨価値が下落というか、インフレ、物価の上昇ということであるとすれば、同様なものだということになりますし、また、そうでなくて、通貨価値の下落というのが、何か一種の期待を通じて、実需がそれほど伸びていない、つまり超過需要になっていないのにインフレが起こるということをお示しになっておるとすれば、あるいはそういうこともあるかもしれません。
 しかし、インフレーションの原因というのはいろいろなことが言われていまして、期待の要素もあるし、それから実需の要素もあるし、またコストプッシュといった要素もあると思いますので、それぞれにそれぞれの対応が必要になってくるとは思いますけれども、中長期的に見ますと、金融政策によって物価を安定させるという責務、義務は依然としてやはり中央銀行にあるんだろう。ただ、それが容易に達成されるような状況かどうかというのは、それがコストプッシュなのか、あるいは超過需要なのか、あるいは委員の言われるような期待を含めた通貨価値の下落によるのか、あるいは財政が破綻して云々、そういう懸念といったことから起こる面もあるかもしれません。
○佐々木(憲)委員 総裁、ちょっと時間がないものですから、簡潔にポイントをお答えいただきたいと思います。
 家計消費が伸び、あるいは企業の設備投資もふえ、それで物価が上がっていくというならまだわかるんです。ただ、通貨が必要量を超えて供給された結果、通貨価値が下がってインフレになるというのは、これは非常に重大な問題を起こすわけですね。
 過去の歴史で、通貨膨張でインフレが起こった例を挙げていただけますか。
○黒田参考人 それは、日本でも世界でもいろいろなケースがあると思いますが、御指摘の点は、恐らく、通貨膨張がやはり超過需要を生んで、通貨価値が結果として下落したということをおっしゃっているんじゃないかという気もするんですが、そうではなくて、超過需要ではなくて、純粋に一種の期待で通貨量が膨張して物価が上がっていく、インフレになるという可能性も否定はできないと思うんですけれども、そういう、純粋の通貨価値の下落というか、実需は全然ふえていないのにそうなったという例は、多分、例えば第一次大戦後のドイツとか、そういうのに近いような気はしますね。
○佐々木(憲)委員 日本の場合は、第二次大戦のさなかに、政府が日銀を事実上支配下に置いて、軍備調達の資金を無制限に供給させたという深刻な前例があります。非常に激しいインフレが戦後起こったことは、御承知のとおりであります。その結果、国民生活は非常に悲惨な目に遭ったわけですけれども、憲法と財政法で、二度とそういうことを繰り返さないということで、日銀に国債をどんどん引き受けさせるようなやり方はやめる、そういう規制が行われたわけであります。
 それからもう一つは、インフレ期待というようなことを盛んに、先ほどから期待、期待とおっしゃいますが、日銀が一定期間でやっております、生活意識に関するアンケート調査というのがありますね。その調査では、インフレとデフレ、つまり物価が上がることと物価が下がることについて、国民の意識はどちらに支持があると思いますか。
○黒田参考人 アンケート調査のとり方にもよると思いますが、賃金とか所得については一定で、物価が下がるということであれば、もちろん、実質所得は上がるわけですし、実質的な消費もふえますので、歓迎するという結果が出る可能性はあると思いますが、何回も申し上げたように、賃金が下がったり、物価が下がったり、所得が下がるというのはほとんど同時に起こっているわけでして、物価だけ下がってほかの状況が変わらないということは、まずないと思います。
○佐々木(憲)委員 国民が恐れておりますのは、賃金が上がらないのに物価だけが上がるというのを恐れているわけです。
 具体的にそのアンケート調査の結果を御紹介しますと、10年前の平成14年、2002年の3月の調査ですけれども、物価が下がるということについて、「どちらかといえば好ましいことだと思う」という回答が4割強でありました。「どちらかといえば困ったことだと思う」という回答は2割弱で、物価が下がる方がよろしいという人が、困ったことだと思う人の倍ぐらいあるということなんですよね。
 それから、つい昨年の12月の調査によりますと、物価が上がったというふうに感じた人の8割台半ばの人が、「どちらかと言えば、困ったことだ」と回答しております。1年前に比べて物価が下がったと答えた人にその感想を聞くと、3割台半ばの人が「どちらかと言えば、好ましいことだ」で、2割台後半の人が「どちらかと言えば、困ったことだ」というふうに答えている。
 つまり、国民は、インフレ、つまり物価が上昇することを余り期待していないんですよ、実際上。むしろ、物価が上がると困るな、こういう気分の方が非常に強いわけです。
 そうなってきますと、インフレをこれから、あおっていくというとちょっと言い過ぎかもしれませんが、そういう道をたどっていくと、これは生活防衛に走りますね。そうすると、需要の方がずっと低下していくわけですよ。先ほど申し上げましたように、消費税は上がる、社会保障の負担がふえ、供給が減る。そういうような状況がこれから続く上に、さらに物価も上がるのか。賃金もそんなに上がる保証はない。こういう状況の中でインフレターゲットというふうに言われても、これは、最初は何か目新しい感じはするけれども、結果的に、国民の生活からいうと、まずいことになるのではないかな、こういう意識が強いと思うんですが、総裁はどのように思いますか。
○金田委員長 黒田日銀総裁。
 なお、時間が参りましたので、簡潔にお願いします。
○黒田参考人 物価が上がる局面というのは、賃金も上がる、所得も上がるというのが通常でして、物価だけ上がって賃金が上がらないとか、あるいは逆に、賃金はそのままで物価だけ下がるというようなことは余り起こらないわけでございます。
 具体的に申し上げれば、いろいろな政策を政府、日銀で協力してやることによって、スムーズに物価あるいは賃金、雇用などが改善していくということが、今、日本銀行も含めて目標としているところでございまして、御懸念は理解できますけれども、そういうことのないように、適切な物価目標の達成に邁進してまいりたいと思っております。
○佐々木(憲)委員 もう終わりますけれども、我々は、現在の状況の中で物価だけを上げようなどという、金融緩和だけでやろうという発想は非常に危険だと思っておりますので、最後にそのことだけは指摘しておきたいと思います。

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