2000年11月14日 第150回 臨時国会 本会議 【118】 - 質問
財政演説に対して森総理に質問
議事録
○佐々木憲昭君 私は、日本共産党を代表し、財政演説について質問いたします。
森総理は、経済の現状について、景気はまだ楽観できず、今は景気回復の軌道に乗せるための大事な正念場だと述べておられます。問題は、経済の症状と体力に見合った処方せんを描き、的確な治療を施すことであります。ところが、今回森内閣の提出した補正予算案は、内容の上でも規模の上でも、重大な問題を含んでおります。かえって日本経済の容体を悪化させる危険性さえ持っていると言わなければなりません。
その第一の理由は、GDP、国民総生産の6割に相当する個人消費の長期的低迷に対し、何ら有効な対策が打ち出されていないことであります。
政府の月例経済報告でも、個人消費は足踏みあるいは横ばいといった判断が続いております。大蔵大臣の財政演説でも、企業部門中心に回復の動きはあるが、「依然として雇用情勢は厳しく、個人消費もおおむね横ばいの状態が続いております」と指摘しております。政府が先週発表した月例経済報告でも、家計部門の改善がおくれているとして、経済見通しを2年二カ月ぶりに事実上下方修正したのであります。
そうであるなら、個人消費をどのようにして温めるか、これが景気回復にとって決定的な課題だと言わなければなりません。総理が、景気回復の正念場だ、もう一押しと言うなら、改善が決定的におくれている家計部門を温めるために全力を傾注すべきではありませんか。答弁を求めます。(拍手)
ところが、提案された補正予算案に盛り込まれた内容を見ると、個人消費にかかわるものは、災害対策や住宅対策などごく一部にすぎません。それも、国民の期待とはほど遠い内容であります。
今災害対策で緊急に求められているのは、有珠山、三宅島の噴火、東海地域の豪雨、鳥取西部地震などで深刻な打撃を受けている方々に対して、生活、住宅支援、就労機会の確保、中小企業の経営支援など、個人補償にもしっかり踏み込んだ実効ある施策を進めることであります。厳しい冬場を控え、国民の生きる希望を支援するため、これら関連予算を抜本的に引き上げるのが政治の務めではありませんか。総理の決断を求めるものであります。
個人消費の拡大にとって重要なのは、高齢化社会に向けて国民の不安を解消することであります。多くの国民は、介護、医療、年金など、この面での不安を抱えております。マスコミの世論調査でも、老後の不安を感じているという人は74・8%にも上っております。これが、貯蓄率を高め、消費性向を引き下げ、景気を冷やす大きな原因になっているのであります。
ところが、提案された補正予算案には、介護、医療、年金の改善が全く盛り込まれておりません。これは致命的な欠陥であります。そればかりではありません。政府は、今国会で強行した高齢者医療の改悪によって、来年1月から新たに年に約3千億円も国民負担をふやそうとしているのであります。しかも、この10月から、65歳以上のお年寄りからも介護保険料の徴収を始めました。1年後には、さらにこれを倍に引き上げようとしているのであります。さらに、介護利用料の負担増があります。合わせると、来年度は介護だけで実に1兆2千億円の負担増となるのであります。その上、さらに年金の改悪で、支給額が約1兆円も削減されるのであります。
これら介護、医療、年金の改悪で、合わせて来年度に約2兆5千億円もの新たな犠牲を国民に求めることになるではありませんか。これでは、消費をますます冷え込ませ、景気回復の足を引っ張るだけであります。今こそ、介護、医療における負担の軽減、サービスの改善に直ちに踏み出すべきではありませんか。総理の明確な答弁を求めます。
第二の問題は、依然として従来型の公共事業政策に固執しているだけでなく、新たなばらまきを行おうとしていることであります。
経企庁長官は、経済対策を発表した日の記者会見で、ITや環境などの重点四分野が社会資本整備の三分の二程度に達することを挙げて、従来型のばらまき批判は今回に限り当たらないと述べました。
しかし、その中身を見ると、幹線道路、拠点空港、港湾を初めとする公共事業費は2兆3800億円で、経済対策全体の61・8%と過半を占めているのであります。相変わらず従来型の公共事業が主役を占めていることに変わりないではありませんか。そうでないというなら、明確な根拠を示していただきたい。
しかも、IT化を重点にし、知恵の社会への飛躍と位置づけたとしていますが、その多くは従来型公共事業にITの看板をつけただけではありませんか。
政府の補正予算等の説明でも、「道路、河川、下水道等における施設管理用光ファイバー網及びその収容空間の整備」とされており、地域によっては、光ファイバーの敷設の見通しもなしに、穴だけ掘っていると言われているのであります。財界の中からも、光ファイバー網をめぐらせばそれで事足りるという議論になっていると厳しい批判が出ております。
その上、学校や公民館など全国1万数千カ所に十数万台のパソコンを配るだけでは、余りにも場当たり的と言わなければなりません。これでは、ITを看板にした新たなばらまきではありませんか。
ITをまともに推進するというなら、新しい技術の成果を国民全体のものにすべきであります。安価で使いやすい通信ネットワークの整備やそれを活用できる人員の適切な配置、人材育成などの本格的な取り組みが必要であります。
IBMの名誉会長は、公共事業中心の予算を改革すること、そして第一に政府がやるべきことは、教育、医療、福祉など公共部門での情報化プロジェクトの推進だと述べております。
今何よりも急がなければならないのは、パソコンをばらまくだけでなく、しっかりした人員の配置、人材の育成を行い、ITを国民にとって真に役立つものにすることであります。その方向に沿って経常的予算をふやすことが今こそ求められているのではありませんか。総理の答弁を求めます。
第三は、補正予算の規模と財源問題についてであります。
補正予算の規模は4兆7800億円、総事業費は11兆円に上ります。その財源として、新たに2兆円もの建設国債を発行し、本来、半分以上を借金返済に充てなければならない前年度剰余金を全額注ぎ込み、来年7月末に主計簿を締め切って初めて確定できる今年度歳入の増額見込み分まで繰り入れるなどとしているのであります。
総理、一体、今の日本財政のどこにこのような野方図を許す条件があるというのでしょうか。国と地方の長期債務残高は、当初予算の段階で、今年度末645兆円と予想されていたのであります。本来なら、この巨額の債務を減らさなければならないのであります。にもかかわらず、補正予算でさらに借金をふやすことは、国債の暴落、長期金利急上昇の危険を一層大きくするものと言わなければなりません。
アメリカの格付会社ムーディーズは、9月8日、債務残高が先進国中で最も高い水準となったことを挙げて、日本国債の格付を引き下げました。
巨額の借金を重ねる補正予算の編成は、日本経済と国民生活に新たな混乱を引き起こす火種をつくるものであります。総理は、そのような危機感を全く持たないのでしょうか、答弁を求めます。
今必要なのは、剰余金1兆402億円の半分を、財政法六条に従って国債償還に充て、残りの半分を国民生活の緊急支援に充てることであります。無謀な公共事業を根本的に見直し、介護、医療、災害、雇用、中小企業など、国民生活防衛の緊急対策に集中すれば、5200億円であっても極めて大きな効果を確実に上げることができるのであります。
日本経済の症状と体力に見合ったまともな処方せんを描くことのできない森内閣は、もはや日本経済の再建にとって最大の障害物であります。直ちに退陣するよう求めて、質問を終わります。(拍手)
○内閣総理大臣(森喜朗君) 景気回復のためには個人消費回復が重要との御指摘がありました。
個人消費は、GDPの約6割と大きなウエートを占める重要なものと認識をいたしておりまして、政府としては、12年度予算におきましても、公共事業や中小企業対策、雇用対策に最大限配慮するとともに、11年からの恒久的減税を継続するなど、人々の生活基盤の安定化につながる施策を積極的に講じているところであります。
また、今回の日本新生のための新発展政策におきましては、IT革命の推進、環境対応、高齢化対応、都市基盤整備の四分野に重点を置くとともに、生活基盤、防災のための施策や中小企業等金融対策、住宅金融対策等、国民生活に直結した分野を盛り込み、全体として事業規模11兆円程度の事業を早急に実施することといたしております。
これらの諸施策によりまして、有効需要が創出され、国民の購買力の向上につながるものと考えております。
災害に対する取り組みについてお尋ねがございました。
本年は、有珠山噴火を初めとして、伊豆諸島の地震、噴火、東海地方の豪雨、そして鳥取県西部地震など、災害が相次いで発生いたしました。
これらの災害により、不安で不自由な生活を余儀なくされている方々に、心からお見舞いを申し上げます。
災害から国民の生命財産を守ることは政府の最も重要な責務の一つであると認識しており、政府一体となって災害対策に全力で取り組んでおります。
まず、復旧復興や観測監視体制の強化のため、平成12年度におきましてこれまで400億円を超える予備費を使用したほか、今回の補正予算におきましては、速やかな復旧復興に向けた経費や被災者生活再建支援金の支給に要する経費など、災害対策にも十分配慮した編成を行っております。
また、避難されている方々を含め、被災者の方々に対しまして、災害救助法の適用による生活必需品の無償給与、応急仮設住宅の建設、生活の再建支援のための被災者生活再建支援金の支給、避難されている方々への雇用労働に関する相談窓口の設置、被災中小企業に対する災害復旧貸付の適用や信用保証の別枠化など、被災者の方々の要望を踏まえ、関係公共団体等と連絡をとりながら全力で取り組んでおります。
今後とも、被災者の方々の御苦労や御負担が少しでも軽減されますよう、被災地の早期の復旧復興を含めまして、政府として最大限の支援を行ってまいりたいと考えております。
医療、介護における国民負担の軽減、サービスの改善に踏み出すべきとのお尋ねがありました。
先般御可決いただきました健康保険法等の改正は、医療保険制度を持続可能な安定的な制度とするための抜本改革の第一歩として行うものであります。
高齢者の定率1割負担制の導入に当たりましても、高齢者の負担に上限を設けるなど、現行制度とほぼ同水準の負担といたしております。
また、介護保険制度は、介護の必要な高齢者を支援するとともに、家族の負担を軽減するため、良質な介護サービスの提供を目指すものであり、その保険料負担についても、低所得者の方の負担が過大にならないよう十分配慮しているところであります。
さらに、年金制度の改革も、制度を将来にわたり安定的なものとするため行ったものであります。
いずれにせよ、これらの制度においては、国民の負担に支えられつつ、国民が安心して質のよい医療、介護といったサービスや必要な給付が受けられることが重要であることを御理解いただきたいと存じます。
今回の経済対策が従来型のばらまき批判は当たらないことの根拠を明確にするよう御指摘がありました。
今回の日本新生のための新発展政策は、規制改革などの法制度の整備、21世紀の新たな発展基盤の整備など、時代を先取りした経済構造改革を推進する包括的な政策であります。
予算面では、IT革命の推進、環境対応、高齢化対応、都市基盤整備の重要四分野に社会資本整備の三分の二以上を集中させるとともに、IT基礎技能講習、災害対策、中小企業等金融対策、住宅金融、雇用対策等、国民生活に直結するような措置を盛り込んだところであり、ばらまき批判は当たらないと考えております。
ITに関する人員配置、人材育成に関するお尋ねでありましたが、今般の補正予算においては、ハードウエア面の整備のみならず、人材育成等のIT利用技能の向上策にも重点を置き、学校の情報関連施設、公共施設、公衆インターネット拠点等を積極的に活用したIT普及国民運動の展開を図ることとし、必要な経費を計上いたしております。
具体的には、約550万人程度の者が受講できるような、地方公共団体が実施するIT基礎技能講習への支援、IT化に対応した職業能力開発や、中小企業者、農業従事者等によるIT活用促進のためのセミナー、研修の拡充に加え、消費者向けIT利用講習会の実施等により、総計約150万人に対するIT技能習得の機会の提供などの施策を行うことといたしております。
IT革命の飛躍的推進のために、私は、基本戦略として、ハードウエアである施設、ソフトウエアであります技能、中身たるコンテンツの三本柱を、同時並行的に、かつ飛躍的に拡大発展させることが重要であると考えており、今後とも、この考え方に基づき施策を推進してまいる所存であります。
補正予算の編成が日本経済等に新たな混乱を引き起こすとの御意見がございました。
これまでの政府・与党の迅速にして大胆な経済政策によって、我が国経済は緩やかながらも改善しております。しかしながら、雇用情勢はいまだ厳しく、消費は一進一退の状況にあるなど、まさに正念場であって、もう一押し必要な状況にあると考えており、こうした観点から補正予算を編成することとしたところであります。
このような認識のもと、12年度補正予算においては、IT革命の推進を初めとする日本新生プランの重要四分野を中心に盛り込み、これらの施策により、21世紀における我が国経済の新たな発展基盤の確立を目指すとともに、民需中心の自律的回復に向けた動きをより確かなものとしていくことといたしております。
同時に、歳出歳入の見直し、11年度決算の剰余金の活用などにより、国債の追加発行を極力抑制いたしております。
また、御指摘のような我が国の厳しい財政事情を考えれば、財政構造改革は必ずなし遂げなければならない課題でありますが、21世紀の我が国経済社会のあり方と切り離しては論じられない課題でありまして、まずは、財政の透明性の確保を図り、効率化と質的改善を進めながら、我が国の景気回復をより確かなものとした上で、税制のあり方、社会保障のあり方、さらに、中央と地方の関係まで幅広く視野に入れて取り組んでまいります。(拍手)