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財政(予算・公共事業) (予算案)

2001年02月27日 第151回 通常国会 予算委員会≪公聴会≫ 【124】 - 質問

公聴会で鈴木全労連副議長、野村総研植草氏に質問

議事録

【公述人後述部分と佐々木議員の質疑部分】
○野呂田委員長 これより会議を開きます。
 平成13年度一般会計予算、平成13年度特別会計予算、平成13年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。
 この際、公述人の皆様方に一言ごあいさつを申し上げます。
 公述人各位におかれましては、本日御多忙のところを御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。平成13年度の総予算について皆さんの御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと思います。どうぞ忌憚のない御意見をお聞かせいただきますよう心からお願い申し上げます。本日はありがとうございました。
 御意見を承る順序といたしましては、まずクー公述人、次に植草公述人、次に宮本公述人、次に鈴木公述人の順序で、お一人20分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 それでは、クー公述人にお願いいたします。
○クー公述人(野村総合研究所主席研究員) リチャード・クーと申します。本日は、一エコノミストとしてこのような機会をいただいたことを大変光栄に思います。
 現在の日本経済の置かれている状況ですけれども、私は、実体経済の苦境もさることながら、国民の心理的、精神的な不安、これも非常に大きなものがあるんではないかという気がします。自分たちがこれまでやってきたことに対して自信が持てない、また将来に対しても自信がないという漠然な不安が、今の日本経済の大きなマイナス要因になっているんではないかという気がします。
 これらの問題をひもとくには、まず、日本経済がどのような病気にかかっているのかということを先に押さえないと、病名もわからないのに処方せんを書くわけにはいかないわけで、そういう観点から見ますと、昨今のマスコミにはいろいろな意見があります。これは構造問題ではないかとか政府の政策が間違っていたんではないかとか、いろいろなことが言われているわけですけれども、私は、今の状況は、バランスシート不況という何十年に一回起きるか起きないかという極めてまれな不況に陥っているんではないかという気がします。
 なぜこのような状況に陥ったかということですけれども、それにはまず、日本の経済の基本的な構造、高度成長が40数年続いたその基本的な構造を押さえておく必要があると思います。戦後からそれこそ1980年代の最後の1日まで、日本経済というのは二つの大きな車輪で回っていたような気がします。それは、高貯蓄と高投資という二つの車輪であります。
 日本の家計の皆さんは一生懸命貯金をして、それを企業が一生懸命借りて投資へ回していた。日本の貯蓄率が高いことは世界的にも知られているわけですけれども、これは同時に投資率も非常に高かったということであります。こうして潤沢な資金を家計が企業に調達した結果、急速に生産能力が拡大し、これが資本ストックの拡充を介して、日本はわずか数十年の間にまた世界のナンバーツーの経済にのし上がったわけであります。
 ところが、1990年のそれこそ最初の1日から、株価の暴落に始まる資産価格の暴落という事態が発生しました。資産価格はどんどん下がっていったわけですけれども、80年代のそれこそ最後の1日まで積み上げたあの負債、借金、それがそのまま残ったままで資産価格が下がっていったわけであります。そうすると、負債は残っているのに資産価格がどんどん下がっていくということは、企業も、そして多くの個人も、大半の金融機関も大変な事態に置かれてしまったわけで、多くの場合は債務超過というような状況に置かれてしまったわけであります。
 個人の場合ですと、所得があって住宅ローンを払えればそれで何とか生活は維持できるわけですけれども、企業の場合は、外部の人からあなたの企業は債務超過じゃないかと指摘されたらこれで一巻の終わりですから、外に発表している数字はともかくとして、中にいる人たちは、必死に債務超過の状況から脱却しようという形で借金返済に回っているわけであります。どうやって借金返済をするかというと、当然消費を抑えて投資を抑えて、その余ったキャッシュフローを借金返済に回すという行動をとるわけですが、これをみんなが同時にやったらどうなるか、ここからバランスシート不況という事態が始まるわけであります。
 つまり、皆さんは決して間違ったことをやってきたわけではない。正しいこと、バランスシートが傷んでいる企業が一生懸命バランスシートを直そうということは正しい行動なんですが、これをみんながやりますと、当然消費は落ち、投資は落ちることになります。消費が落ちて投資が落ちると、景気はますます悪くなる。景気がますます悪くなりますと、資産価格はもっと下がる。資産価格がもっと下がると、日本の皆さんはまじめですから、もっと頑張らなくちゃいけないとやるわけですが、もっと頑張ると、ますます消費は落ちて、投資は落ちて、景気は悪くなる。このような悪循環、これがバランスシート不況ということではなかったかという気がします。
 これがどのくらい深刻な事態なのかということですけれども、お配りしました資料の一ページ目の下に、資産価格がどのくらい下がったかというグラフが載せてありますが、東証株価指数で見ますとピーク時からマイナス56%、日経平均で見るともっと下がっておりますが。商業用不動産はマイナス82%、ゴルフ会員権におきましては91%と、大変な富が失われたわけであります。
 森総理がダボス会議で千兆円の富が失われたと言われたわけですけれども、この資産価格がまさにその富の損失を生んだわけで、これが今、日本経済を大変苦しめている基本にあるんではないかという気がします。
 1千兆円といいますとGDP2年分であります。2年分ということは、例えば自動車の生産でいきますと、年間の生産台数が1千万台ということは、2千万台の自動車が吹っ飛んで、住宅着工が年間例えば140万戸あるとすれば、その2年分が吹っ飛んだ、300万戸近くが吹っ飛んだということになるわけですが、ただ、これは見えないんですね。表面的には見えない。例えば、神戸の震災で10万戸が全壊したわけですけれども、これは見えるわけであります。テレビの映像で見て、これは大変だ、何かしなくちゃいけないということが見えるわけですが、バランスシート不況は見えない。
 ただ、これは見えないからといって、ないわけではなくて、実際は企業行動に大変大きな調整を強いているわけで、このような状況は1930年代のアメリカに最後に起きたということであります。あのときもアメリカ大恐慌ということになってしまったわけですが、あのときのアメリカの株価、これも十分の一になってしまった。
 ここで企業の行動がどういうふうに変わっていったかということですけれども、一ページ目の上のグラフをごらんになっていただきますと、これは過去10年間の日本経済の動きを、物の動きからではなくてお金の動きの方から見たものであります。このグラフはゼロのところに線が引いてありますが、ゼロより上が資金を供給している側、ゼロより下が資金を借りて使っている側ということになります。これをごらんになっていただきますと、一番上に家計というのがありますが、ここは、景気の非常によかった1990年から景気の非常に悪くなった昨今まで、全く行動は変わっていない。GDP比で7、8%、ずっと貯金しているわけであります。この貯金好きというのは遺伝子かなと言われるくらい、景気の振れにかかわらず貯金がずっと続いてきているわけですけれども。
 その下が一般政府。1990年のときにはまだ景気は非常によかったわけですから、一般政府財政はまだ黒字であったわけであります。黒字ということは、資金を資本市場に提供しているというふうに考えられるわけです。その下が海外。海外は、日本がずっと大きな経常黒字を出しておりますから、海外から見ると、それを受け入れている方で、資本を輸入しているわけですから、彼らは赤字となります。一番下に非金融法人企業。これはまさに一般企業ですけれども、当時の一般企業は、GDP比10%のお金を借りて、いろいろなものに投資していたわけであります。
 ところが、その後の状況を見ますと、家計は先ほども申しましたように大きな変化はなし、海外も大きな変化はないわけですけれども、企業行動がマイナスの10%から1999年にはプラスの5%弱というところまで、大変な変化を見せたわけであります。
 つまり、今までお金を借りていた人たちが借りるのをやめて、最近ではもう返す方に回ってしまっている。そうすると、二つあった大きな車輪の一つが全く機能しなくなったわけで、家計は一生懸命貯金しているのに、企業は全くお金を借りようとしない。そうなりますと、これはGDP比で14%の変化というふうに指摘させていただいたわけですけれども、実際に14%、70兆円ぐらいの今まであった需要がなくなってしまったわけであります。私は、これが、日本経済をここまで低迷させてしまった最大の原因ではないか。家計の行動、海外の行動、大きな変化はない、しかし企業の行動には大変大きな変化が発生したわけで、このくらい大きな変化があれば、本来であれば大恐慌になっても不思議はなかったわけで、先ほど申しましたように、1930年代のアメリカ、こういう全く同じような状況になって、大恐慌に陥ってしまったわけであります。
 ところが、日本の場合は、この間、民間がお金を使えなくなっている中で政府が使ってくれたということで、当初財政黒字を出していた政府が、景気が悪くなる、そうすると景気対策を打つという形でこの穴埋めをしてきた、それが今まで日本経済を支えてきたのではないかという気がします。
 そういう意味では、政府の支出がぎりぎりのところで、10年間で75兆円分のギャップ、これが表面化してデフレスパイラルに陥るのを防いできたのではないかという気がします。そういう意味では、財政はきいていなかったのではなくて、大変大きな役割を担っていたという気がします。
 このことを理解するには、もう一つ、政策の手段であります金融政策についても一言言及しなければならないわけですが、この間、1990年から直近まで、金利は、1時8%あったものがゼロまで下落したわけであります。ところが、それだけ金利が下がったにもかかわらず、なかなか反応が見られなかった。全く見られなかったと言ってもいいくらい金融政策が無力化されてしまったわけですけれども、これにはそれなりの理由があります。
 といいますのは、バランスシート不況になりますと、企業は、これまでのように利益の拡大化、最大化という行動から借金の最小化という方向へ行動様式を変えているわけで、そうなりますと、幾ら金利を下げても、皆さん借金を返したくてしようがない。返したくてしようがないというか、返さなくてはいけないわけで、そういう方々は、金利が下がっても、じゃお金を借りて使おうという発想にならないわけですね。また、なってもらっても困る。特に、バランスシートの壊れている、下手すると債務超過のような企業が、金利が下がったというだけでお金を借りて使ってしまうというのも困るわけであります。さらにお金を借りるということは、さらに負債がふえてしまうということですから、バランスシートの改善にはつながらない。そういうことから、今のような状況ではなかなか金融政策がきかないということであります。
 ただ、そうはいっても、一時随分貸し渋りというのが言われたではないかと。貸し渋りは、これは供給要因ですから、そういうときに金融政策として何かできなかったのかという指摘は当然出てくるわけですけれども、お配りしました資料の次のページをごらんになっていただきますと、資金需要、資金調達の金額と短期金利を上のグラフに示してあります。これは、先ほどごらんになっていただいた企業の指標をもう少し細かく見たものですけれども、ごらんのように、金利が、1時8%あったものがゼロまでいくにもかかわらず、資金需要は全く回復しない。
 この間、じゃ、金融機関の行動はどうなっていたのかということは下のグラフをごらんになっていただきたいのですが、これは借り手側から見た金融機関の貸し出し態度であります。銀行というのは、聞きに行くと、いや、我々は一生懸命金を貸そうとしております、頭取の下に委員会を設けて金を貸そうとしています、有望な借り手を探していますと必ず言うのですが、借り手側から見ますと、随分銀行というのは好き勝手に貸出基準を変えているわけであります。また最近は、監督庁に言われて変えているというケースもあるわけですが。
 借り手側から見た金融機関の貸し出し態度、これは、ゼロよりも上になりますと、積極的に貸そうとしているということを借り手側が認めているわけで、ゼロより下になりますと厳しいということですが、ごらんのように、厳しい時期が90年、91年、金利が非常に高かった時期と、それから97年、98年の貸し渋り期というのはあるわけですが、それ以外の時期はかなり、借り手企業は、銀行は積極的にお金を貸そうとしていたと認めているわけであります。
 例えば、95年、96年、ほとんどバブル期と同じぐらい銀行は積極的に金を貸そうとしていた。にもかかわらず、上のグラフをごらんになっていただきますと、彼らは借りていなかったということは、これは需要側の要因であって、供給側の要因ではなかった。こういうときには、私は金融政策に期待してもしようがないのではないかという気がします。
 強いて言いますと、借り手の皆さんは正しい行動をとっておられる。バランスシートが壊れている企業が早くそれを修復しようとするのは正しいわけで、そこに無理やり、金を借りろ、インフレになるから金を借りろと言っても、彼らからしてみれば、まず第一にバランスシートをきれいにして、それから行動を起こすということはあっても、まだインフレにもなっていないのにインフレにかけてお金を借りて何かやろうという行動は、責任のある経営者の行動ではないという気がします。
 こういう状況になりますと、通常の不況にはない、絶対的に需要が不足するという事態が発生します。これはどういうことかと申しますと、通常の世界ですと、これは通常の不況も含めてですが、例えば私に千円の所得があれば、自分で例えば800円使って、残りの200円は金融機関に貯金をする。金融機関はその200円をまただれかに貸して、借りた人はまたそれを何かに使って、そこにまた200円の支出が発生するわけであります。そうすると、800円プラス200円、千円で、また経済が回っていく。千円の所得に対して千円の消費。
 もしも金融機関が200円分貸せなかったら、そこで金利を下げればいいわけであります。全国的な問題だったら、日本銀行が下げて、そうすると必ずだれかが、この金利なら何かやってみようということでお金を借りて使う。それでまたお金が使われて経済が回っていくということなんですが、バランスシート不況に陥りますと、ちょっと違う状況になります。
 例えば、千円の所得があった人たちは、まず700円しか使わない、800円使っていた人たちが700円しか使わない。それでまず消費が落ちてしまうわけですが、残りの300円をどうするか。これはみんな借金返済に回すわけであります。
 ところが、みんなが同時にこれをやっているわけですから、金融機関は、これを全部返してもらっても、貸す相手がいない。貸す相手がいなくなりますと、それでも一生懸命、国債を買ったり、消費者金融にお金を流したり、いろいろやりながら、例えば200円何とか貸したとしても百円分残ってしまったとします。そうすると、次の局面では、700円プラス200円、つまり900円しか需要が発生しないわけですから、九掛けになっちゃうわけですね。そうすると、その次はさらに九掛けになる。810円、730円、660円、こういう形でどんどん経済がシュリンクしていってしまうという危険性があるわけです。これは、その足りない部分、これがゼロ金利でも埋まらなかったというところから発生する問題で、1930年代、アメリカが大恐慌に陥ったときは、まさにそういうプロセスで大恐慌に陥ってしまったわけであります。
 そういう観点から見ますと、一部の資産価格が十分の一になるほど大きなダメージを受けたこの日本経済が10年間ゼロ成長を維持してきたということは大変な成果でありまして、これはまさに皆さんが財政という形でデフレスパイラルが始まるぎりぎりのところをまず百円で埋めてくれた。そこを百円で埋めますと、また千円の支出になりますから経済が回っていく、また次の局面で900円になったときにまた政府が百円出してくれて、ぎりぎりのところでデフレスパイラルが始まるのを抑えてきたということではなかったかという気がします。そういう意味では、財政の担ってきた役割というのは大変大きかったという気がします。
 結局、今の財政が担っているということは、これで景気をよくするということではなくて、とにかく人々の所得を維持して、維持された所得の中から人々は一生懸命借金返済をやっているというふうに理解すべきではないか。財政をやったからすぐ景気がよくなる、みんなそう思って、私も一時そう思ったことはありますけれども、実際の財政の役割はそうではなかった。財政の役割は、とにかく人々の所得を維持してきた、千円に対して千円の支出が発生するようにしてきた。それがあれば、人々は所得がありますから借金返済を続ける。それで少しずつ今バランスシートはきれいになっていて、今かなりきれいになってきております。ただ、まだ問題が残っているわけで。ところが、ここで所得を切ってしまいますと、借金返済の原資もなくなるわけで、そうなると連鎖的に先ほどお話ししましたような事態が発生してしまう。
 そういう観点から見ますと、今回の予算、私はもう少し上乗せしていただきたいという気がします。5兆円から10兆円ぐらい真水部分で上乗せしないと、今アメリカ経済の急速な減速、それにIT関連が勢いを失っているという、半年前だれも想定していなかったような事態が発生しているわけですから、ここはそれなりの対応が必要ではないかという気がします。
 確かに財政赤字は非常に大きいわけですけれども、一方で財政のコスト、国民的コストであります金利、これは人類史上最低であります。きのうの国債金利の利回りは1・4%、大恐慌のとき、アメリカの失業率が20何%になったときの一番低いときの金利が1・85%ですから、今の日本の金利がいかに低いかということは御理解いただけると思います。
 確かに多くの方は財政赤字の大きさを大変懸念されておりますが、実際の国民の行動、これが市場にあらわれている行動だとすれば、今の国民の行動は、財政をもっと出して景気を下支えすべきだという行動が逆にあらわれているんではないか、これが1・4%の金利にあらわれているんではないかという気がします。
 今の日本の最大の問題は借り手がいないということで、唯一の借り手が今政府ということになっておりますから、それを活用して、低い金利で資金調達ができるときに、まだ日本に残っている必要な社会資本、将来必要になるであろう社会資本を充実していく最大の機会ではないかという気がします。
 以上です。(拍手)
○野呂田委員長 ありがとうございました。
 次に、植草公述人にお願いいたします。
○植草公述人(野村総合研究所上席エコノミスト) おはようございます。野村総合研究所の植草でございます。よろしくお願いいたします。
 初めに、大変恐縮でございますが、立場上の問題もありますので、きょうは政治的に中立な立場でお話しさせていただくということを御了解いただければというふうに思います。
 お手元に「参考資料」という横長の資料を用意させていただいておりますので、こちらを御参照いただきながらお話をさせていただきたいと思います。一ページ目に一から七番まで項目を書いてございますけれども、七点お話を申し上げさせていただきたいと思います。
 きょうは予算案についての意見陳述ということでございますけれども、予算そのものが経済政策の集大成ということでありますので、きょうは経済政策全般についての私なりの意見ということでお話をさせていただきたいと思います。
 1990年代を通じまして、日本の不況が長期化しております。これを失われた10年とか失われた90年代、こういう表現も使われているわけで、まず、経済政策に課せられました課題としては、この長期不況をいかに克服するかということではないかというふうに思います。
 お手元の資料二ページ目をごらんいただきますと、1992年以降の日経平均株価の推移がございます。ごらんのとおり、9年間の推移でありますけれども、株価は1万3千円から2万3千円という、極めて狭いレンジの中で一進一退を繰り返して現在に至っております。
 このグラフの中に、丸数字で番号を一番から十番までつけておりますけれども、その偶数の番号、二番、四番、六番、八番そして十番と、92年以降株価が暴落した局面が今回含めまして五回ございます。この五回の株価急落局面は日本経済の危機というふうに表現された局面であります。
 この五回の局面にいかに対応してこの危機を乗り切ってきたかということでありますが、92年はここにございますように10・7兆円の景気対策が決定されております。これは当時でいいますと史上最大の景気対策でありました。
 そして四番でありますが、94年の2月、15兆2500億円の景気対策、これも史上最大の景気対策であります。
 95年でありますけれども、六番でありますが、14兆2200億円の景気対策、そして7月と9月に日本銀行が短期金利を引き下げまして、公定歩合を0・5%に引き下げた局面であります。つまり、財政、金融両面から政策を総動員したということであります。
 そして98年でございますけれども、98年10月に金融問題の処理のために総額にしまして60兆円の公的資金を確保、11月には23兆9千億の景気対策を決定、さらに年が明けまして99年2月にゼロ金利政策の決定、こういうことで対応しておりまして、過去四回の株価急落局面はいずれも、財政を中心としまして財政金融政策、マクロの政策で対応しております。
 景気対策の累計が140兆円に及び、依然として日本経済の低迷が続いているということから、景気対策は効果がない、財政赤字を累増させるという弊害が強調されておりますけれども、実際に過去の動きを細かく検証いたしますと、景気対策そのものは極めて有効に効果を発揮しているということが観測されるわけです。
 93年でありますが、株価は2万1千円に反発し、政府からは景気回復宣言の発表までありました。94年も2万1500円まで株価は反発し、猛暑という支えもありまして、景気回復にはずみがついていった局面であります。96年は株価が2万2千円台まで上昇しまして、日本経済が3・5%の成長を回復した年であります。つまり、96年に一たん日本は景気回復から拡大に転じる、そこまで事態の改善を得ております。昨年でございますけれども、株価はやはり2万円を突破しまして、景気は緩やかながら着実に改善を遂げてきたということでありまして、過去、この四度の対応を見ますと、マクロの政策対応はいずれも極めて有効に効果を発揮している、こういうふうに表現することができるわけであります。
 それでは問題はどこにあったかということでありますけれども、このグラフで申しますと1、3、5、7、9と奇数の番号のところに問題が存在しております。細かい点、御説明する時間がございませんので省略させていただきますけれども。
 三番の冷夏という天候要因を除きますと、特に五番と七番に典型的に示されておりますのは、日本経済の改善が始まり、株価が上昇し、景気回復が七合目から九合目まで差しかかる、そういうところに至った時点で、時期尚早に景気を悪化させる政策対応がとられている。これが日本経済長期低迷の本当の原因になっているということであります。
 五番の事例におきましては、金融政策が時期尚早に金融引き締めに動き始めたということであります。七番でありますけれども、日本経済がやっと軌道に乗ったところで非常に大規模な増税が策定されまして、これが実施されていくわけであります。私は97年2月の公聴会に出席いたしまして、この増税を実施すると大変なことになるということをこの席で申し上げたことがございますが、97年以降、ごらんのとおりの状況になっているわけであります。
 昨年春以降の展開でありますけれども、森政権発足後、ごらんのとおり株価が大幅に下落をしておりますけれども、今回もやはり過去の事例と同じように、マクロの政策が緊縮方向に大きく方向を転換したということが事態の悪化を招いている、こういうふうに考えております。
 先ほどの項目でいいますと二点目の項目になりますけれども、その第一は、金融政策の方向転換ということがございます。
 二ページ目のグラフの一番右側にゼロ金利解除ということを記してございますが、去年の8月に日本銀行がゼロ金利解除の決定をいたしました。これはゼロ金利という非常に特殊な状況を解除したものだという説明でありましたが、市場としましては、金利引き下げ政策が金利引き上げ政策に転じた、こういう金融政策の方向転換と受けとめた向きが非常に強かった、このように思います。
 株価がピークをつけておりますのは4月12日でございますが、この日は速水日銀総裁がゼロ金利解除について公式の場で初めて言及した日でございまして、この日を境に株価が下落に転じております。8月に実際に金利引き上げを行いまして、そこから株価の下落が本格化している。さらにもう一点申しますと、99年2月にゼロ金利政策の実施を決定しておりますが、この時点から株価が急反発している。こうした状況を踏まえますと、金融政策の方向転換の意味が極めて大きかった、こういうことを申し上げられるのではないかと思います。
 それからもう一つの問題は、ちょっと先に四ページをごらんいただきたいと思いますけれども、財政政策の運営でありますが、財政政策の中身についての批判がいろいろ強まっております。公共事業が十分有効に活用されていないのではないかとか、こうした資金配分の問題について批判が高まっているということは事実であります。
 これは、財政政策の機能ということに照らして申しますと、いわゆる財政政策の資源配分機能、財政資金をいかなる分野に配分するか、こういう問題で、この点には大きな問題が存在しているかと思います。もう一点、財政政策の機能としまして、景気安定化、マクロの面で財政がいかに景気を支えていくか、こういう視点が資源配分とは別の視点として必要であります。
 四ページに概念図ということで図解しておりますのは、財政政策の規模の推移を記したものであります。
 下にありますのが時間の経過で、99年、2000年、2001年。年度の当初予算、年度は4月から3月の対応でございますので少しずらしてございますが、おおむね、特に一般歳出ベースで見ましても横ばいの推移であります。毎年恒例のように10月、11月ごろに景気対策が策定され、それに伴いまして補正予算が編成されておりますが、この補正予算に伴う資金の支出が行われるのは翌年の1月から12月にかけて、こういう解釈でこの概念図をつくっております。
 98年11月の23・9兆円の対策、99年11月の18兆円の対策、そして昨年秋の総額事業規模にして11兆円の対策。その真水ということをここに私なりの区分けで表示してございますけれども、トータルの財政規模は、ごらんのとおり、昨年からことしにかけて約5兆円の減少になるのではないかということで、財政政策がかなり踏み込んだ緊縮の姿になっております。
 日本経済が景気回復の七合目に差しかかって、これからいよいよ景気回復軌道に乗るかという時点におきまして量の面でこのような圧縮策をとりますと、過去繰り返してきたような事態の悪化が生じてしまう、こういうことが懸念されてきたわけでございますけれども、先ほど二ページ目でごらんいただきました株価のグラフでございますが、昨年4月以降の株価の下落は、先ほど申しました金融政策の方向転換、そして財政面からの緊縮政策の決定、これを映した動きになっているということで、日本経済をしっかりと回復軌道に乗せるためには、景気回復が七合目に差しかかった時点で時期尚早の引き締め策をとることは適切ではないのではないか、私はこのように考えているところであります。
 三ページをごらんいただきたいと思いますが、三ページにございますのは、株価と景気がどのような関係を示しているかということを図解しております。
 上段に日経平均株価の推移がございます。下段には鉱工業生産指数の推移を記してございます。景気の短期的な動きを追うために、まず各種の経済統計を活用するわけでありますが、経済の動きを最も忠実に反映していると考えられますのが鉱工業生産指数の動きであります。これは、実は時間軸を六カ月ずらして両者を比較しておりますが、六カ月ずらしますと極めて類似した動きを示しております。
 上段が株価でありますが、96年6月、これは消費税の増税を閣議決定したタイミングでございます。ここで株価がピークをつけ、ちょうど半年後の97年1月に景気がピークをつけております。株価がボトムをつけましたのが98年秋でございますけれども、これは小渕政権が大がかりな政策対応を決定したタイミングであります。景気が底をつけましたのが、ちょうど半年後の99年4月でございまして、この後景気は緩やかな改善を続けてまいりました。
 そういう中で、昨年春以降、先ほど申しましたような財政、金融両面から緊縮策がとられまして、その結果株価が下落しているわけでございますけれども、その結果、私は、昨年後半、秋以降、再び景気が悪化する懸念が強い、この株式市場が発している警告メッセージに耳を傾けて、景気が悪化しないための政策対応をとる必要がある、そういうことも主張してまいりましたけれども、残念ながらそのような政策対応にはなりませんで、現時点としましては、この後景気が再び下方圧力を受けていく、そういう懸念が強いのではないか、このように考えております。
 一ページ目に戻らせていただきますけれども、一ページ目の四番でございますが、そういう中で、この日本経済の長期低迷にいかに対応していくかということでありますが、よく言われておりますのは、金融問題の解決が先である、こういう見解がしばしば聞かれるわけでありますが、私は、この見解は誤りだというふうに考えております。
 といいますのは、先ほどもクー公述人が意見陳述の中で述べておられましたけれども、日本で最大の問題は現在、金融の問題であります。資産価格の下落が進行し、特に債務を抱えた主体が苦難に陥っている状況にあります。この状況から抜け出すためには、一言で言いますと、資産価格の全般的な下落に歯どめをかける、これが最も重要な点であります。
 いかにしてこの資産価格の下落傾向に歯どめをかけるかということでありますが、資産といいますのは、現在から将来、その物が持つ、生み出す効用の現在価値で、細かい説明は省きますけれども、資産価格の下落に歯どめをかける最も有効な施策は、経済そのものを改善軌道に誘導するということであります。経済を改善軌道に誘導することによりまして、株価、不動産価格の下落に明確に歯どめがかかる。資産価格の下落に明確に歯どめがかかった時点で初めて金融問題の解決は可能になってくるわけであります。現在のように、景気の悪化、それに伴います資産価格の下落傾向に歯どめをかけない中で金融問題を処理しようとしましても、それは事実上不可能ではないか、このように考えるわけであります。
 したがいまして、五番に書いておりますように、正しい処方せんは、まずフローベースの経済活動を改善の軌道に誘導する、2%なり3%なりの経済成長軌道をまず確実に確保する、これを優先すべきであるというふうに思います。景気回復軌道の確保によりまして、株価の方向に大きな変化が生じてまいります。恐らく1年程度のタイムラグを伴いまして、不動産価格の下落にも歯どめがかかる。こうした形で景気の改善をまず誘導し、その上で資産市場の方向に明確に方向転換を実現させれば、その上で金融問題の解決も可能になってくる。金融問題の処理が先ではなく、景気を回復軌道に誘導することがまず求められているというふうに思います。
 その点に関連いたしまして、資料の五ページでございますけれども、日米の比較ということで一つ申し上げておきたいと思います。
 上段にアメリカの株価がございます。90年から92年にかけましての米国は、やはり不動産、金融不況が極めて深刻な局面でありました。米国は、92年、ここを転換点として90年代の長期上昇というところに向かってまいります。92年の最大のポイントは、景気回復が七合目に差しかかった時点で、FRBが7月と9月に二度利下げをしております。最も重要な点は、政策当局が景気回復を実現することをまず最優先の課題として位置づけたということであります。この景気回復優先の政策姿勢によりまして、まず株価が上昇し、その後の景気回復が実現し、その後、税収の回復により財政収支の改善、また資産価格の底入れによりまして金融問題の解消と、まさに順風満帆の動きになったわけでございます。
 下段の日本でありますけれども、92年から94年にかけて、90年から92年のアメリカと非常に似た動きをたどりましたけれども、その後、94年は金融政策が時期尚早に引き締め方向に動く、96年は財政が強度の緊縮策を採用する、そして昨年の春以降、再び財政金融政策が緊縮方向に転じるということで、日本経済浮上のチャンスをふいにしている、こういうことでございます。
 もう一度一ページに戻らせていただきますけれども、そういう中で、私は、まず景気を2%なり3%の日本経済の供給力に見合う形に、景気回復軌道に誘導するということが重要だと思いますが、その際、現在のもう一つの大きな問題であります財政の問題でありますけれども、財政の問題については三段階の対応が必要だと思います。
 まず第一には、景気回復を優先し、税収の回復を図る。景気回復に安心感が持てた時点で、5年程度の時間をかけて歳出全般の根本的な見直しを行う。これには、一般財政あるいは社会保障財政あるいは公共事業、さまざまなテーマがあると思います。これらをやり終えた段階で、最終的には私は増税ということも必要になるというふうに思いますが、まず景気回復を優先し、その上で歳出構造の見直しに抜本的に取り組む、これが、米国の事例を見ましても、財政健全化をもたらす最も重要な点であると思います。
 最後に、「デフレスパイラルを回避するための方策」ということを書いておりますけれども、現在、金融政策の追加的な措置についての論議が生じております。私は、結論としまして、余地は非常に限られておりますが、短期金利の引き下げ、あるいはいわゆる量的な金融緩和ということを検討すべきだというふうに思います。
 しかしながら、現在のように非常に経済が停滞している状況におきましては金融政策の有効性というのは非常に限定的でございますので、この金融政策の措置とあわせて、財政面から景気を支援する政策を併用する。これによりまして、世の中に資金需要が生まれ、資金需要が生まれる中で金融緩和が維持されますと、マネーサプライの増大が生じていく。その結果、現在のこの深刻なデフレスパイラルに陥りかねない状況が是正されるというように思いますので、金融政策の対応と並び、内容の吟味は当然必要でございますけれども、財政面での対応、景気を支援する方向での対応ということが緊急の検討課題ではないかというふうに考えております。
 以上でございます。(拍手)
○野呂田委員長 ありがとうございました。
 次に、宮本公述人にお願いいたします。
○宮本公述人(大阪府立大学経済学部教授・経済学部長) 大阪府立大学の宮本でございます。平成13年度の予算に関しまして、私の考えを述べさせていただくのを大変光栄に思っております。
 景気の回復と財政再建という同時に達成することが非常に困難である、そういう目的を抱えた中での予算案の作成は大変難しいことであろうというふうに考えております。日本経済全般につきましては、ただいまリチャード・クー先生、それから植草先生が御専門で、また非常に立派な御意見を述べられましたので、大阪から参りました私は、地方経済、地方分権の側面から平成13年度の予算について私見を述べさせていただきたいというふうに考えております。
 まず最初に、基本的な日本経済に関する展望といいますか、そういうものについて若干触れさせていただきます。
 私は、日本というのは、個人とか組織が発展するためには、日本人の性格を考えますと、短期的には悲観でいい、しかし長期的には楽観でいかないといけないのではないかというふうに考えております。アメリカ経済が非常に成長いたしました90年代は、アメリカ人というのは大体、短期楽観、長期も楽観だったんじゃないか。日本は今は、短期でも悲観で長期でも悲観だ、そういうマスコミあたりの論調が感じられるわけでございます。
 日本の経済発展のこれまでのパターンといいますのを考えてみますと、戦後、先進諸国に追いつけ追い越せというふうなことでやってきまして、このパターンが一応は成功した。例えば自動車であるとか家電産業とか、そういうふうな生産物というのは大体そういうパターンでうまくやってきたのではないか。現在、景気が停滞しておりまして、IT産業、情報関係でアメリカに非常に差をつけられたということは、ある意味では、日本型の追いつけ追い越せのチャンスの到来であるというふうにとらえた方がいいのではないか、余り悲観的になる必要はないのではないかというふうに考えております。
 しかし、何もしないで手をこまねいていたのではなかなかこの不況を脱出することはできませんので、やはり目先の問題というのを少しずつ解決していかなければいけない、しかし長期的には楽観的な考えというものが必要、大切ではないかというふうに考えております。目先の問題を解決するには、例えば税制改革であるとか、それから、先ほどクー先生、植草先生も言われましたように、財政政策というのはある程度効果があった。私もそういうふうに思っておりますけれども、しかし、歳出の項目の見直しとか金融の量的な緩和、それから国民の厚生増大や社会の活性化を阻害しておりますような規制の撤廃とか緩和、社会のニーズが高い、また効率性の高い産業、そういうものの育成というものが必要であろうかと思います。
 続きまして、私がきょうお話をさせていただきたい地方財政について少しお話をさせていただきます。
 平成13年度の予算についての財務大臣の提案理由説明要旨にも述べられております一般会計項目の一つ、地方財政についてでございます。
 横長の数字の書いてあります資料をちょっとごらんいただきたいと思います。これは、各都道府県の税金、それから地方交付税などの一人当たりの金額を書いてございます。これは、そこにございますように平成10年度の国税庁のデータから出したものでございます。
 一番最初の縦の列でございますけれども、これは国税三税、つまり各都道府県が一人当たり、法人税、個人所得税、消費税をどれだけ国に納めたか。これは全部一人当たり、人口で割ってございます。二番目が地方税です。これは全部一人当たり、その当時の人口で割ってございます。これは地方に残るものでございます。三番目が一人当たりの地方譲与税、四番目が一人当たりの地方交付税交付金、五番目が一人当たりの国庫支出金ということになっております。六番目の欄は、地方譲与税、地方交付税交付金、国庫支出金を合計いたしまして、各都道府県、これは市町村も全部含んでおりますけれども、都道府県に一人当たりどれだけ国からのサポートがあったかという金額でございます。七番目の縦の列でございますけれども、これは地方税、つまり地方に残っておるお金と国から与えられたお金、それが一人当たり幾らになっておるかという合計金額でございます。一番最後は、国に対して地方自治体が出したお金と国からもらったお金の差額を書いてございます。
 これをごらんいただきますと、まず、県民一人当たり納める税金、国に納める国税の額というのは、多い方から見ますと、当然東京都、大阪府、愛知県、京都府、神奈川県の順でございます。次いで、私が問題にしたいのは実は七番目の欄ですけれども、一応六番目を見ていただきますと、国から与えられる一人当たりの地方譲与税、地方交付税交付金、国庫支出金の総額というのは、上からいきますと島根県、高知県、鳥取県、沖縄県、鹿児島県の順で国から一人当たりたくさんの補助金といいますか、それをもらっておるということでございます。
 そして、問題にしたいのは実は第七番目の列でございまして、地方税と国からもらう、サポートされる資金でございますけれども、この合計が一人当たり幾らになるかということが問題でございます。この列の数字でございますけれども、これは県民一人当たりが享受する国及び地方自治体から与えられる公共サービスの金額ということになります。この順位は、上から島根県、高知県、鳥取県、福井県、徳島県というふうになってございます。そして、国と地方自治体から与えられますトータルの公共サービスを一人当たり受け取る金額が最も少ないのが、下から埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、静岡県、大阪府、こういう順番になってございます。
 国税の納税額がベストファイブであります都道府県のうち、東京都を除きまして、大阪府、愛知県、京都府、神奈川県というのは、県民一人当たり受け取る公共サービスの額が全国平均にも届いていない、そういう実態がございます。多くの国税を納めた県民が全国平均にも満たない公共サービスしか受け取っていないというのはいかがなものかというふうな気がいたします。もし、個人所得に関しましてこのような結果が発生いたしますと、これはゆゆしきことになるのではないかというふうに考えております。少なくとも高額納税の県民は、一人一人全国平均程度の公共サービスを受け取る権利があるのではないかというふうに考えております。
 戦後の復興期からしばらくの間は、社会資本の充実などを図るために、豊かでない地方とかそういうところに手厚く税の再分配を行う必要はあったかと思います。しかし、現在、右肩上がりの経済が終わりました今日、高額納税都道府県の財政悪化が非常に著しい、そういう実態を直視いたしますと、税の再分配のシステムの再考、税制そのものを考え直すべきときではないかというふうに考えております。
 続きまして、地方の活性化につきまして若干述べさせていただきます。
 政府は、地方の活性化を図るために、昨年の4月に地方分権一括法というものを成立させました。21世紀は地方の時代であるというふうに言われておりますけれども、現状ではその実現というのはなかなか容易ではないというふうに考えております。地方の活性化には、一層の中央政府の地方への権限の移譲とか、税制の改革などが必要ではないかというふうに考えております。
 一つ例を挙げさせていただきます。現在、銀行を中心といたしまして、金融機関の再編成が進展しております。この金融再編が進みますと、いわゆる地方都市のメーンストリートがどういうふうになるかということをちょっとお考えいただきたい。
 東京におられますと日本橋とか、私は大阪から参りましたから、大阪では御堂筋というところがメーンストリートでございまして、そこには銀行とか保険会社が軒を連ねております。しかし、今進展しておりますところの金融再編成が進みますと、参考の資料にも書いてございますように、日本の主要金融機関というのは四つのグループに再編成されるであろうというふうに考えられております。みずほグループ、三井・住友グループ、三菱グループ、UFJグループでございます。
 もし、都市のメーンストリートの一角に、例えば角のコーナーのところでございますけれども、そこに日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行が軒を並べておりましたら、これらの銀行はすべてみずほグループでございますので、合理化とか経費節減を目指すということであれば、一行のみ残る、それで十分であるというふうに考えられますと、残りの二行の店舗は閉店されるというおそれがございます。住友銀行とさくら銀行が近くにあれば、また、住友海上火災と三井海上火災が近くにあっても同じこと、どちらか一店は閉鎖されるというふうなことが起こってくる可能性がございます。三菱グループ、UFJグループについても同じことが起こるのではないか。こう考えますと、金融再編成が進みますと、都市のメーンストリートの大きな金融機関のかなりの数が閉店に追い込まれるというおそれがございます。
 東京では、空き店舗になったその銀行の跡に他の企業とか店舗が入る、また、そういう入っていただくものを見つけるのは比較的簡単であろうかとは思いますけれども、地方では、そういう大きな空き店舗、銀行跡に入っていただくような店を見つけるということは非常に大変なことでございます。それでなくても、現在、地方では、百貨店、スーパーの閉店、消費の停滞などによりまして、都市の活性化、地方都市の経済の活性化が失われております。金融機関の再編成が進展いたしますと、一層地方都市の空洞化というものが進むおそれがございます。
 空洞化を阻止するためには、地方の商工会議所とか商店街が協力して、その空き店舗になりました銀行とか保険会社の代替の企業、代替の店舗を見つける必要がございますけれども、地元の地方自治体も、この空洞化を阻止する何らかの対策を立てなければならないのではないかというふうに考えております。
 しかし、地方自治体が行えることは非常に限られているというふうに考えられます。例えば、メーンストリートを活性化しようとして補助金を出したり、また固定資産税を下げるというふうなことは非常に困難でございます。
 また、たとえ固定資産税を仮に例えば3年だけ軽減しますよというふうなことをやりました場合に、おたくは標準税率よりも低い固定資産税でやっていけるのであればということで、地方交付税が減額されるというふうなことが起こるかもしれません。そうしますと、地方自治体は、税収は入ってこない、地方交付税は削減されるということがあれば、そういうふうな政策はとても打ち出せないというふうなことになる。したがいまして、このままほっておきますと、地方都市、地方経済というものはどんどんと空洞化する、衰退するというおそれがございます。
 私のお願いしたいことは、21世紀に日本経済が活性化するためには、東京を中心とした地域の活性化、これも非常に大事ではございますけれども、地方においてもそれぞれの独自性を持って地方経済が活性化する必要があろうかと思っておる次第でございます。そのためには、予算面とか税制面などで地方がもう少し自主性を持てるようなシステムを構築していただきたいというふうに考えておる次第でございます。
 以上で私の発言を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
○野呂田委員長 ありがとうございました。
 次に、鈴木公述人にお願いいたします。
○鈴木公述人(全国労働組合総連合副議長) 大変御苦労さまです。
 私、全労連に所属をしております鈴木と申します。このような形で発言の場を与えていただき、大変感謝をしております。
 私たち労働者、国民は、20世紀末の10年間、財界、大企業が行ってきた激しいリストラ、合理化という問題、これに対する政府と行政による後押しという問題、こういう戦後かつてなかったような状況のもとで、大変な辛酸をなめてきたという思いがしております。そういう意味で、残念ながら、私は、政治的にも経済的にも中立の立場で発言というわけにはなかなかいかないかと思いますけれども、お許しいただきたいと思います。
 21世紀最初の2001年度予算、ぜひともこれまでの状況を正して、人と企業と行政がお互いに信頼をし合って、共同して新世紀に臨むものになるように、ぜひともお願いをしたいというふうに思います。
 一つ目、財界、大企業が行ってきたことについて触れたいと思うわけですが、バブル崩壊を契機にしまして、それまでの労使間の慣行だとか、あるいは労働法規を踏みにじってしまうレベルの勢いで、リストラと人減らしと働くルールの破壊ということを推し進めました。それは、職場と地域にいわば失業地獄というふうに言わなければならない実態を招いています。
 総務省の労働力調査による完全失業者、1999年に317万人となっております。10年前の142万人から毎年18万人ずつふえて、2・2倍にふえた勘定になります。この317万の失業者の中の非自発的離職者は10年前の三倍の102万人、30歳未満の青年の完全失業者は123万人、これらがリストラ、人減らし、あるいは新規採用凍結ということのすさまじさを物語っていると思います。
 東京の春闘共闘が都内17カ所の職安前などで実施したアンケートには、65%の人々が解雇などによって失業した、あるいは雇用保険給付が終わってもまだ27%が1年以上仕事を探している、78%が40歳以上という高齢層なのに高年齢ほど仕事がない、仕事を探しながら貧しくなっていく、生活できない、保険が切れたら自殺せざるを得ない、こういう深刻な実態と、就職口を何としても確保してほしい、雇用保険給付を延長してほしい、失業中の税金は免除してほしいなどの切実な要求が寄せられております。
 こうした失業地獄は、雇用そのものを不安定にしているという問題があると思います。99年までの10年間で、パート労働者は602万人から1134万人に、毎年53万人ずつふえて二倍になりました。労働者全体が63万人ずつふえたうちの84%はパート労働者の増加だったわけであります。
 また、同じこの失業地獄は、職場を無法地帯にしているという問題も生み出しています。お手元に全労連の「働くみんなの要求アンケート」というものの集約結果をお配りさせていただいておりますが、収入が減った人45%、疲労を訴える人が87%、7割近い労働者が生活難を訴えている。さらに重大なことでありますけれども、半分以上の労働者が法律違反のサービス残業、ただ働きをしているということがここに物語られています。逆らえば失業だ、こういう状況を背景にして職場が無法地帯になっているという状況であるわけです。
 二つ目の問題として、これらに対して公正であるべき政府はどういう態度をとってきたかという問題をお話ししたいと思います。
 財界、大企業の雇用破壊と、申し上げましたような働くルールの破壊を、政府は取り締まったとは言えない。それだけではなくて、以下のような四つほどの内容でそれをむしろ後押ししたのではないか。
 第一点は、労働基準法を初め労働法制の規制緩和と改悪を繰り返しました。金融再生法、産業再生法、民事再生法、会社分割法、こういうものを次から次に制定して、財界、大企業のリストラ、合理化を積極的に支援したと言わざるを得ません。それが労働者にもたらした雇用破壊、賃金破壊、労働条件破壊の実態は、今お話ししたとおりであります。
 第二に、政府は、社会保障充実のためというふうに、結果的には偽ったことになりましたが、導入をしました消費税と、膨大な国債発行、これらによって、ゼネコン奉仕型の公共事業や不況対策あるいは銀行への税金投入、こういうものに力を入れてこられました。
 導入初年度に5兆円だった消費税は、10年後の99年には三倍近い13兆円に膨張しましたが、逆に、当時42%だった法人税率は、99年までに四回、12%にわたって減税をされて、今30%。法人税納入の主役である大企業は、90年当時19兆円であった法人税を、99年には半分の10兆円に節約することができるようになっています。金融産業の場合は、超低金利で、毎年5兆円近い利子所得を結果的には手に入れた、その上で70兆円もの税金投入を受けていこうというふうにしています。
 こうして、結果的に、資本金10億円以上の大企業、6千社ほどありますけれども、この6千社だけでその内部留保を88年の74兆円から99年の154兆円に、ほぼ倍増をさせております。
 第三でありますが、政府は、この施策の財源を調達するためにも、88年に社会保障財源の24%を負担していた国庫負担を、今19%まで削ってまいりました。89年に労使35兆円であった社会保険料の負担額を、逆に1・6倍の55兆円に拡大をしてきました。
 職場での賃金・雇用破壊で苦しむ勤労者世帯の可処分所得は、これらの結果、89年の月42万円から48万円に、10年間かかってわずか14%の伸びに抑えられております。
 さらに、今、高齢者の介護保険料、医療費負担、年金の賃金スライドの停止、雇用保険料の引き上げ、合計3兆円もの新しい負担が家計にのしかかろうとしています。とりわけ、受け取り予定の年金を一方的に数百万円から1千万円以上削減した昨年の年金改悪は、国に対する労働者、国民の信頼を足元から揺るがす状態を生み出しているというふうに思います。
 第四でありますけれども、政府は、労働者、国民の批判に耳をかさないで、これらの施策を盛り込んだ予算をこれまでも成立をさせてこられました。今も与党の皆さんは、財政の使い方をめぐる疑惑が深まっている真っただ中で、それを解明しないままに従来型の公共事業による大企業後押しの予算の審議を最優先するということを主張しておられます。
 しかし、文字どおり急浮上いたしました米原子力潜水艦事故は、国民の命に危害が加えられてもなお政府はアメリカの大統領に抗議さえしない、森首相は、脱税疑惑のゴルフ場に閉じこもってしまってかけゴルフに興じていたなどという無責任な疑惑を国民の中にさらしているわけであります。それは、KSDの疑惑、機密費の疑惑と相まって、この政府に本当に予算を任せていいんだろうか、国民の命と国の政治を預けておけるんだろうかという疑惑をあふれさせているわけであります。このような疑惑の究明、責任の追及ということは、予算審議の前提条件にさえなっているのではないかというふうに思うわけであります。
 以上の状況把握を申し上げました上で、三番目でありますが、これらの状況の上でのことを申し上げたいと思います。
 財界、大企業のリストラと政府による後押しということが進められましたけれども、それらは、結局、大企業の利益は増加をさせましたけれども、その経営あるいは物づくりというものを破綻させ、GDPの6割を占める個人消費を低下させ、結局は戦後最悪、最長の深刻な不況のもとで日本経済そのものを行き詰まりに追い込んでいるというふうに言わざるを得ないと思います。
 この局面を打開するには、財界、大企業の強行してきた今までのやり方を社会的に規制するとともに、政府による四つの後押しを根本から改める、そして国民と政府、行政との信頼関係を取り戻す、これが必要だと思います。そのためには、暮らしと営業の破壊の中で懸命に生きてきた労働者、国民の切実な要求をよく聞いていただきたい。そして、十分に審議を重ねて生活と福祉を優先する予算に組み替えていただく必要があると思います。
 最後でありますけれども、私は、労働者の立場からの要求を中心にして、具体的かつ最低限の予算組み替えの要求について申し上げたいと思います。
 一つは、働くルールを回復させ確立するという方向を促進する予算を組んでいただきたい。雇用を拡大していただきたい。
 全労連と国民春闘共闘委員会は、この春から、賃金の底上げあるいは解雇の規制、サービス残業の一掃という三つの課題を掲げて署名運動に取り組んでおります。署名用紙をお手元にお配りいたしましたけれども、これをごらんいただくとお気づきになると思いますけれども、一方的な賃金引き下げや差別待遇をしないでほしい、一方的な解雇を規制してほしい、ただ働きやサービス残業をやめてほしい、これらはすべて既に法律が禁じているものばかりであります。
 実は、この三つの課題はいずれも、この間、財界と大企業が結果的に踏みにじり、そして政府、行政もこれに力を貸して破壊をしてきた働くルールをぎりぎり最低限のレベルで回復させたいというものであって、ぜひともここにおられる皆さんの御署名もいただきたいところであります。
 これらの課題を財界、大企業への社会的規制の基礎に据えて、緊急地域雇用特別交付金制度の拡充、解雇規制、労働時間短縮、サービス残業根絶そして雇用拡大、改悪雇用保険法の4月実施の中止まで含めた適切な改善と、新卒失業者への失業手当の給付などなどの措置を具体化していただきたいというふうに思います。
 これらは、日本経済の行き詰まりを打開する上でも大きな効果を発揮するものだと思います。例えば、完全失業者の三分の二に当たる200万人に仮に年収500万円の雇用を確保できれば、年10兆円の賃金所得が生まれます。これは直接200万人の暮らしを支えるし、税金や社会保険料の収入も拡大するし、消費購買力も拡大をいたします。下手な不況対策よりはよほど効果があるわけであります。
 二つ目に、浪費型の公共事業の削減と消費税減税、社会保障の拡充をぜひとも行っていただきたい。
 2001年度政府予算案は、巨額の国債を発行し、ゼネコン奉仕型の巨額の公共事業費を浪費するという従来型の域を出ていない。そのために、長引く不況の基礎にある個人消費の拡大への対策がほとんどない、不況を一層深刻にする予算案である、こういうふうに言わざるを得ないと思います。
 押しても押してもだめなときには引くものであります。財政再建に向かって借金と公共事業を大幅に抑えることを基本に、食料品非課税など消費税の減税、老人医療改悪や年金改悪を中止する、基礎年金の国庫負担割合二分の一を即時実施する、無年金障害者を直ちに救済する、国庫負担の拡大による介護保険制度の緊急改善を行う、確定拠出型年金の導入をやめるなどなどを予算化していただきたいというふうに思います。社会保障の拡充に本腰を入れることも、下手な税金投入よりも効果的な不況対策であります。政府、行政が暮らしと営業を守る姿勢を明らかにして、政府に対する信頼をかちとること、このときこそ、労働者、国民は自己防衛のかたい殻を破ってその消費購買力を真っすぐに発揮することができるのではないでしょうか。
 三番目であります。内閣官房機密費、防衛費などの大幅な削減をお願いしたいと思います。
 KSD、機密費疑惑の徹底究明の世論を予算審議をおくらせるものだというふうにねじ曲げて予算審議最優先というのは、やはり誤りではないかというふうに思います。どんな予算を組んでみても、それが政府の無責任、無能力というふうなことで運用されたり、党利党略、私利私欲のために使われてしまったのでは、労働者、国民は到底これを納得するわけにはいかないからであります。納得でき信頼できる予算をつくる、そのためにも、予算の使い方にかかわる自民党、連立与党の皆さんの金権腐敗の疑惑をあくまでも解明していただきたいというふうに思います。
 与党の皆さんが唱える予算審議最優先論は、森首相の首のすげかえなどを視野に入れて事態収拾を図るために、その前に大急ぎで予算を成立させてしまうのだという疑いを私たちに抱かせてしまいます。しかし、今国民が疑惑の究明を求め、退陣を迫っているのは、ひとり森首相ではなくて、自公保連立内閣そのものなのでありますから、与党の皆さんはこの疑惑を解明しないままここを素通りするというわけには決していかないんだというふうに思います。
 それらのことも解明をしながら、国民と合意形成のできる、暮らしと福祉を優先する予算をぜひとも確立していただく、そのために審議を尽くしていただきたいということを申し上げて、私の発言といたします。どうもありがとうございました。(拍手)



○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。公述人の皆さん、大変お忙しい中公聴会に御出席をくださいまして、本当にありがとうございます。時間が十分しかありませんので、植草公述人と鈴木公述人のお二人にお尋ねをしたいと思います。
 まず植草さんでありますが、先ほどのお話で、景気回復の軌道に乗れば、資産価格の下落に歯どめをかけ、金融問題もよくなる、こういう筋のお話をされました。後段の議論はちょっと別といたしまして、問題は、前段のどうすれば景気回復軌道に乗せることができるかという点でありまして、この点で大事だと思いますのは、やはり実体経済が基本だと思います。
 示された株価のグラフを拝見いたしますと、97年の消費税2%引き上げがその後の下落の引き金になっているというのは事実でございますが、その年は、さらにそのほかの負担も合わせまして9兆円負担増ということでありました。それが消費の低迷ということで大変なショックを与えたわけでございます。これが実体経済全体の後退を招くということでありました。最近の状況ですと、設備投資あるいは大手の企業利益は回復しつつある、しかし一番問題なのは家計消費がなかなか伸びないということでございます。
 そこで、景気刺激という場合に、財政のあり方を、これは量的な問題はあるとして、質的な問題として、ネックになっている家計消費をどう支援するか、それをどう引き上げていくかという方向に内容上転換する、これが私は大事だと思っておりますけれども、この点で植草さんの御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○植草公述人(野村総合研究所上席エコノミスト) 最近の景気悪化の大きな要因が消費の減少であります。消費の減少は、昨年の後半でいいますと、所得が若干ではありますけれども増加に転じる中で消費が減少している、これが景気再悪化の最大の要因になっているわけであります。
 この消費を改善させるためにいかなる政策が必要か、こういう御質問というふうに承っておりますが、私は、端的に言いますと、先行きに対する不安が非常に強い、これが大きな要因だと思います。この先行き不安は二つの不安がありまして、一つは、目先、改善傾向にある景気が本当に回復軌道に乗るのだろうか、こういう短期の不安。それからもう一つは、年金財政、あるいは財政全般についてでありますが、将来どういうことになるんだろうかと。この二つの不安が消費を減退させている。
 そういうことからしますと、一つはやはり、これは先ほどの繰り返しになりますけれども、改善基調にある景気をしっかりと回復軌道にまで誘導するためのマクロの政策が必要だと。これが今回また緊縮に転じておりますので悪化に転じている、これを是正することが必要だと思います。
 それからもう一つは、長期の不安に対しまして、やはり長期的な日本の財政の健全性回復についての道筋を示す。これは、先ほど申しました十カ年の計画ということが必要だと思いますが、これをやる。
 財政の中身につきましては、公共事業ではなしに、例えば失業者に対する保障を拡充する、離職者支援制度を創設するためにある程度まとまった資金を投入する。こういうような施策を検討することも重要ではないかなというふうに考えております。
○佐々木(憲)委員 それでは、鈴木公述人にお聞きをいたしたいと思います。
 消費を拡大するという上で、雇用労働条件の改善、これはやはり決定的に重要だと思いますけれども、一人当たりの労働時間というのは、短縮がこの不況の中でなかなか進まない。ますます過密労働、長時間労働ということも言われているわけであります。その実態がどうなっているのかということ。
 それからもう一つは、サービス残業、これは違法でありますが、これは当然規制すべきですけれども、サービス残業を規制することによって新たな雇用を生み出すということも可能だと思いますが、その点がどうかという点。
 それから最後に、国の雇用政策、対策で、予算との関連でどういうことを緊急にやってほしいというふうに思われるのか。
 この点、まとめてお話をお伺いしたいと思います。
○鈴木公述人(全国労働組合総連合副議長) 佐々木先生おっしゃいますように、この間の労働時間の短縮、1800時間を目指すというふうなことを言われて久しいわけですけれども、なかなか進んでおりません。
 1999年度現在、1848時間というのが発表されている数字でありますけれども、これには実はサービス残業が含まれておりません。それを全く抜きにした形でも短縮が進まないというふうな状況。私は実はサービス業に関係をしておるわけですけれども、サービス業の分野、商業の分野などでは、3千時間以上働く労働者はざらにいるというふうな状態があります。
 それから、国の職員である国家公務員がすごい実態にあるというふうなことが、霞が関の国家公務員の皆さんの国公共闘のアンケートで明らかにされましたけれども、3万人の方が霞が関一帯で働いていらっしゃるのですが、その人たちの平均的な月の残業時間は48時間であるというのですね。しかも、その48時間に対してどのぐらいの残業手当が支払われたのか。半分の皆さんが、半分も支払われていないというふうに答えていらっしゃる。こういう実態であるわけです。
 国の職員がこういう状況ですから、推して知るべしというふうなことが状況だというふうに思います。
 それに対して、サービス残業というのは一体どのぐらいあるのだろうということを鈴木英雄さんという研究者の方が試算をして発表されている数字があるのですけれども、それによりますと、1848時間の99年度の労働に対して、374時間の不払い残業というものがあるというふうに計算をされています。これは私たちの実感に非常に近いものがあります。先ほどお話ししました霞が関の状況にも非常に近いものがあるというふうに思います。
 そういうふうな状況の中で、私たちは、やはりサービス残業をなくすということが、法律違反でもありますし、欠かせない課題だと思っているわけです。先ほどもちょっと触れましたけれども、そういうことを克服していくことが、つまりサービス残業を減らしていくことが、国の経済のいわば活性化に大きくつながる。それは、具体的には、300万人を超えている失業者に仕事の機会を与えるというふうなことになるところが一番大きいのではないかと思います。
 さっきの先生の試算によれば、サービス残業をなくすことによって607万人分の雇用を拡大できる。もちろん全面的な安定雇用という形ではないでしょうけれども、雇用を拡大することができる。そうすれば15兆円ほどのいわば賃金所得が獲得できる。こういうふうなことを試算をされておられます。
 政府の施策で予算をつぎ込むという問題もさることながら、このような施策を徹底することによって大きな経済効果をもたらすことができるというところにぜひとも御着目をいただきたいというふうに思います。
 フランスでは、昨年2月に35時間労働制をしいて、この35時間労働制に262万人が移行したそうです。その結果、2万2千の企業で移行が行われたそうですけれども、18万人の雇用がふえたというふうな報告がされています。こういうことにも学びながら施策をしたいなというふうに思います。
 そして、それに関連して、今予算を確立するに当たってぜひともやっていただきたいという問題に一つ触れさせていただきたいと思います。
 一昨年になりますけれども、99年度の補正予算で緊急雇用対策ということが組まれて、その一環として、99年8月から2年間で2千億円という措置が行われました。各都道府県に交付をされたわけですけれども、緊急地域雇用特別交付金であります。
 この交付金、全国で歓迎をされまして、そして、いろいろ問題点はありますけれども、既に1500億程度がこの1年半の間に使い果たされているというふうに聞いております。残り500億しかないという状況で、先ほども申し上げましたように失業状況は改善に向かっていませんから、そういう意味では一層の充実が必要だというふうに思います。
 そういう意味で、この緊急地域雇用特別交付金を大幅に追加する、そして同時に、2002年度以降も大幅に増額をして継続するという方向を検討していただきたいということ、いろいろ問題があると言いましたのは、例えば、もちろん総額の金額は大きくしないと300万の失業者に対応できないわけですが、その問題と、それから、就労期間六カ月で打ち切りというふうなことではなくて、これに対する延長措置というのがどうしても必要だと思いますし、これにかかわる対象事業を拡充するということなども重要だというふうに思います。
 それらの改善を含めてぜひとも御検討いただきたい、そういうふうに思っております。
○佐々木(憲)委員 どうもありがとうございました。

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