2009年06月16日 第171回 通常国会 議院運営委員会 【528】 - 発言
「臓器移植法案を本会議の議題とする動議」に反対意見を表明
2009年6月16日、議員有志が提出している臓器移植法改定案4案について、本会議で各案に賛同する議員の討論が行われました。
本会議に先立つ議院運営委員会で、佐々木憲昭議員は、厚生労働委員会で4案の審議が尽くされていないのに、委員会審議を打ち切り、本会議の議題とすることに反対する意見表明を行いました。社民党も反対表明しました。
佐々木議員は、わずか8時間の厚生労働委員会の審議で4案への問題点や矛盾点が噴出したことをあげ、「このような状態で、いずれかの選択を全議員に迫ることは適切ではなく、やるべきではない。どうしても採決するというのであれば日本共産党は4案すべてに棄権する態度をとるしかない」と表明しました。
佐々木議員は、採決することだけに固執することは、「臓器を必要とする患者の願いと、臓器を提供してもいいとするドナーの善意の双方にとって、合意と納得が得られないまま、お互いに歩み寄れなくなる懸念さえある」と指摘。臓器移植は「人の命にかかわる医療、生命倫理が根本的に問われるものであり、国民の納得と合意形成がどうしても必要だ。いますべきことは、専門家や関係者の参加を求め、正確な医学的知見をもとに議論を重ね、国民の理解を深めることだ」と強調しました。
この日の議院運営員会では、自民、公明、民主などの多数で4案の採決を18日に行うことを決めました。
本会議の討論では、4議員が各案への賛同意見を表明。その中でも、厚生労働委員会での審議がわずか8時間だったことに「不安を禁じえない」との意見が出されたほか、「いろいろ悩んだあげく登壇することになった。早急に再び『脳死臨調』を設置し、広く国民世論を喚起しながら、何ができ、何ができないかを議論すべきだ」との声があがりました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党を代表して、臓器移植法改正4法案を本会議の議題とする動議に反対の意見を述べます。
6月9日の衆議院本会議で、臓器移植法改正法案の中間報告が行われました。その際、私は、厚生労働委員会で審議が尽くされていないのに、審議を打ち切って中間報告を行い、本会議での採決に持ち込もうとするやり方に反対しました。
厚生労働委員会での審議は、わずか8時間にすぎません。関係者からは、A案の早期成立を求める声が上がる一方で、反対の声や慎重審議を求める声も少なからず寄せられています。医療の専門家や学会の中でもさまざまな議論があり、日本小児科学会では意見の一致を見ておりません。日弁連は、A案やD案などで子供の臓器移植を進めることに反対する会長声明を出しています。
この間の法案審議では、A案については、一律に脳死を人の死とするもとで、本人の意思がわからない場合に臓器提供を強いられるのではないかという問題、またD案では、15歳未満の子供には家族の意思で臓器提供できるとしてよいのかという問題が議論の中心になりました。現在、こうした問題点や矛盾点が噴出したままとなっているのであります。マスコミも、「移植審議 混迷深め幕」などと論評し、十分な議論の深まりがないことを伝えております。
このような状況で、4法案のいずれかの選択を全議員に迫ることは適切ではなく、やるべきではありません。どうしても採決するというのであれば、日本共産党は、4案すべてに棄権する態度をとるしかありません。
そもそも、脳死臓器移植は、臓器提供者の死を前提とする特異な先端医療です。臓器の提供を受けることでしか治療の方法がない場合に、臓器提供の意思を踏まえ、納得と合意のもとで慎重に道を開くというのが今日の到達点です。
国会がやるべきことは、情報を公開し、論議を尽くし、合意を形成する努力を行うことではないでしょうか。この役割を果たさず、採決だけを優先すれば、臓器を必要とする患者の願いと、臓器を提供してもいいとするドナーの善意の双方にとって、合意と納得が得られないまま、お互いに歩み寄れなくなる懸念さえあります。
子供の脳死移植に道を開こうとするならば、臓器を提供する子供やその家族への十分な配慮が必要であります。そして、子供の脳死やその判定基準の厳格さ、子供の意思の扱い、親の関与をどうするかなど、十分に検討されるべきでございます。議論の中心問題である子供の脳死判定の問題についても、混乱したままでございます。
6月9日の本会議で、脳死は人の死を前提とするA案の提案者が、著名な脳神経外科医の意見として、脳死をめぐる議論が混乱しているのは脳死という言葉の意味するところが発言者によって異なっているところに原因がある、脳死状態は臨床現場での説明のためにあいまいな表現として使われている、定義がなく使う医師次第だとして、混乱の原因を指摘する書簡を紹介しました。これは、既に十数年前の脳死臨調で議論されてきたはずの脳死判定の問題が、いまだに国民の中で理解が得られていないことを示しております。
また、厚生労働委員会や小委員会での参考人意見聴取と質疑では、我が党も指摘したように、最優先されるべき子供の救命救急システムの整備が極めて不十分なこと、心のケアも含めた移植に必要なチーム医療の体制が十分でないこと、ドナー家族への支援体制がないこと、子供の脳死の診断症例が少なく症例の蓄積が必要なこと、脳死判定後、30日以上も心臓が動いている長期脳死について十分な理解がなされていないこと、法的脳死判定の前提である無呼吸テストの扱いについての合意が不十分なこと、子供の虐待死を監視するシステムが不備なことなど、さまざまな重要問題が提起されました。
臓器移植は、人の命にかかわる医療、生命倫理が根本的に問われるものであり、国民の納得と合意形成がどうしても必要です。今なすべきことは、医療を初め専門家や関係者の参加を求め、正確な医学的知見をもとに議論を重ねて、国民の理解を深めることであります。国会は、そうした国民の納得と合意を形成する努力を尽くすべきであります。
以上で、意見表明を終わります。