2007年03月28日 第166回 通常国会 外務委員会 【386】 - 質問
重大犯罪を処罰し根絶をめざすICCローマ規程について外務大臣に質問
2007年3月28日、佐々木憲昭議員は、外務委員会で「ローマ規程」について外務大臣に質問しました。
提案されているICCローマ規程(国際刑事裁判所に関するローマ規程)の締結は、国際社会において武力紛争が絶えず、戦争犯罪や人道上看過できない惨害がくりかえし引き起こされてきた状況下で、重大犯罪を処罰しその根絶をめざすものであり、重要な制度です。
日本は、憲法にある国際平和の実現をめざす立場からも、ICCに加入し積極的に役割を果たすべきです。
日本は規程を採択した1998年のローマ会議の最終合意文書に署名し、その際、「国際社会の長年の悲願であったICC設立を全面的に支持する」といっていました。
また、そのローマ会議のなかで、日本代表(小和田大使)は、「ICCは国際機関として形成すべき。それには、関係国すべての協力がなければならない」「普遍的な参加を基礎として設立されるべき」「裁判所が効果的に機能するかは、国際的な協力と各国の司法協力にかかっている」と言っています。
佐々木議員は、外務大臣に「日本のこの立場は、いまも変わらないか」と、質問。麻生大臣は、「変わりません」と答えました。
ところが、今年、閣議決定によって加入を決めるまで、じつに9年近くもかかっています。その間に署名開放期間が過ぎ、規程は5年前に発効してしまいました。
佐々木議員は、今になって、ようやく「加入」するわけですが、初期の立場からすれば、率先して署名し、開放期間のときに批准に努力し、規程の発効をすすめる立場に立つべきだったのではないか。それは、当初表明した立場に反するのではないかと指摘。
外務大臣は、ひとつは、規程の内容や各国における法整備の状況を精査し、国内法令との整合性について必要な検討をおこなってきたこと、ふたつは、予算がともなう(平年度30億程度)こと――この2点をあげました。
佐々木議員は、「そんなことに、8年も9年もかかるというのは信じがたい」と批判。「その背後にアメリカとの関係があるのではないか」と指摘しました。
それは、アメリカ政府が、このローマ規程にきわめて不熱心だからです。ICC規程について、クリントン前大統領は規程に署名しながら、「規程には著しい欠陥がある」として批准しようとしませんでした。
その理由は、ICCができれば、自国の兵士等が「戦争犯罪」などで訴追されかねないというものでした。ブッシュ大統領もICCに反対し、署名の撤回を表明しました。米兵が裁かれるのは都合が悪いから撤回するというのは、あまりに不誠実な態度です。多国間協定において、署名が撤回された前例はきわめてまれです。
それだけでなく、アメリカがとっている行動もまったく理解できないものです。2002年に、ローマ規程が発効の段階を迎えると、米国は多くの国と二国間協定を締結しはじめています。それによって、各国によるICCへの米兵の引渡しをさせないしくみを広げてきました。昨年8月の米議会調査局の資料によると、既に100本にのぼっています。米国はICC締約国かどうかに関わらず今後も協定を広げる方針だといいます。
佐々木議員は、「ICCの訴追逃れの仕組みをアメリカ自身が広げる、この動きは真っ当なものではない」と批判しました。
これに対し、麻生大臣は、「アメリカもこれに入った方がアメリカの国益にも沿うのではないかという点が一番大事なところ」と答えました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
ICCローマ規程は、国際社会において武力紛争が絶えず、戦争犯罪や人道上看過できない惨害が引き起こされてきた、こういう状況のもとで、重大犯罪を処罰し、その根絶を目指すものであって、大変重要な制度だというふうに思います。
日本は憲法にある国際平和の実現を目指す立場からも、ICCに加入し、積極的に役割を果たすべきだと考えております。
以下、幾つかお尋ねをいたします。
まず、外務大臣の基本的姿勢をお聞きしますが、日本は、この規程を採択した98年のローマ会議の最終合意文書に署名をしたわけですが、そのときにこう言っていたわけです。国際社会の長年の悲願であったICC設立を全面的に支持すると。それから、そのローマ会議の中で、日本代表はこう言っております。ICCは国際機関として形成すべきである、それには関係国すべての協力がなければならない、普遍的な参加を基礎として設立されるべきである、裁判所が効果的に機能するかは国際的な協力と各国の司法協力にかかっている、こう述べていたわけです。
これは大変前向きな姿勢だと思うんですね。日本のこの立場というのは現在も変わらないのか、この点確認したい。外務大臣。
○麻生外務大臣 基本的に変わっておりません。
○佐々木(憲)委員 ところが、本年閣議決定によって加入を決めるまで、実に9年近くもかかっているわけですね。先ほども少し議論がありました。その間に署名開放期間が過ぎ、規程は5年前に発効してしまっているわけです。
今になってようやく加入するというわけですけれども、この初期の立場からすれば、署名開放期間のときに、そのときから積極的に推進、批准に努力をして規程の発効を進める、こういう立場に立つべきではなかったのか。日本は、各国による協力の必要性を強調しておきながら、なぜ率先して批准せず、規程が発効しICCが機能し始めるまで加入しなかったのか。これは先ほど確認した当初の立場からいっても反するのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○麻生外務大臣 これは、先ほど平岡先生だかの御質問にも一部答弁をさせていただきましたので、重複しているところもあろうかと思いますが、ローマ規程の締結に当たりましては、御存じのように、対象の犯罪になります対象犯罪というものの内容が、いろいろ国内法との関係で未整理ということになるということで、いわゆる人道に対する犯罪等々が、集団殺害犯罪とか未遂とかいろいろありましたので、そういったところが、新たな国内法の整備等々やらなければならないというので、ICCの運営を害する罪なんというのは、これは処罰などを決める新たな国内法が必要だろうというのが一点。
それから、御存じのように、各国の実行状況というのがございます。
それから、もう一つは、やはり分担金の話でありまして、今、我々としては、ここに年間で約30億ぐらいになるであろうと思われます支出が新たに発生することになります。初年度だけで割りますと、約7億2000万ぐらいの新たな分担金が急遽発生をすることになりますので、そういった意味では、財政再建の折から、この種の、新たに30億というのは大きいなというのが正直な実感でもあったと存じております。
また、少なくともこういったのをいろいろやらせていただいて、ことしある程度税収が伸びたこともありますでしょうけれども、いろいろな他国の中にあって、先ほど山口先生の御質問にもありましたように、このICCというのは非常に大きな話で、これまでの我々が習った国際法とはもう全然あれが違った概念に立っておりますので、こういったものが出てくる時代というのに対応していくためには、我々としては、少なくとも積極的にやる値打ちがあるのではないかということが大きな背景になって、スタートのときはそういった意識だったんですけれども、国内法等の整備と支出の問題、二つあったのがやはり大きかったかなというのが率直な実感です。
○佐々木(憲)委員 今2つの理由を挙げられましたけれども、そういうことに8年も9年もかかるというのは信じがたいわけであります。その理由はもっと別にあるんじゃないか。
例えばアメリカとの関係、そういうふうに思わざるを得ないわけですが、例えば、このICC規程に関して、アメリカの対応というのが非常に問題になっております。クリントン前大統領は規程に署名をしました。しかし、規程には著しい欠陥があるということで、全く批准しようとしなかったんですね。理由は、ICCができれば自国の兵士が戦争犯罪で訴追されかねないということを言っている。ブッシュ大統領もICCに反対なんですね。署名の撤回を表明しているわけです。
これは私は理解しがたい豹変ぶりだと思うんですね。米兵が裁かれるのは都合が悪いから撤回せよ、これは余りに不誠実だと思うんですね。
これまでの多国間協定において、これは外務省に聞きますが、署名が撤回された前例はあるのかどうか、あるいはアメリカの署名撤回は国連によって受理されたのかどうか。この点お聞きしたいと思うんです。
○松島外務大臣政務官 お答えいたします。
御指摘の、署名の撤回という表現をされましたが、その表現が適切かどうかは別として、一般論としまして、ある条約の署名国が、署名した条約を締結しなければならない法的義務を負うというわけではございません。署名した条約の当事国とはならない意図を署名後に明らかにすることは、ウィーン条約第18条の規定によっても認められていることであります。
そのような事例として、例えば次のようなものがございます。
一つに、このICCローマ規程につきましては、2002年、署名国である、今おっしゃいましたアメリカ合衆国及びイスラエルが、ICCローマ規程の当事国となる意図はないこと、したがって署名から生ずる法的義務を負わないこと等について、国連事務総長あてに通知しております。
また、アメリカ合衆国は、このほかにも、1977年に作成されましたジュネーブ第一追加議定書の署名国でありますが、87年に同追加議定書を締結しない方針を決定し、その旨を寄託国でありますスイス政府に通知したというように説明しております。
こういった事案がございます。
○佐々木(憲)委員 今回の米国の署名撤回は国連によって受理されたのかという点は。
○松島外務大臣政務官 米国の署名撤回は、米国が国連事務総長に通知いたしまして、国連事務総長が国連のホームページにおいて公表しているリストにおきましては、ICC規程の署名国リストに米国の名前が記されていますが、その脚注におきまして、米国の通知、つまり、一たん署名したけれども法的義務を負わないというアメリカ合衆国の通知、これについてもホームページに明記されております。
○佐々木(憲)委員 今までの事例というのは極めてまれな事例でありまして、アメリカが現実にとっている行動というのは、非常に私は問題が大きいと思います。
2002年にローマ規程が発効の段階を迎えると、先ほどもちょっと議論がありましたが、二国間協定を結んで、米兵の引き渡しをさせないという仕組みをどんどん広げてきているわけですね。ある意味では規程の骨抜きであります。
例えば、アメリカは、このICC設立条約を批准したケニアなどアフリカ諸国に対して援助を凍結するという措置をとる、アメリカの言うことを聞く国には援助をふやす、こういう形で、援助をてこに自国の論理を通そうというわけで、これは余りにも横暴だというので、国際的にも批判が強まっているわけです。
それで、外務省にお聞きしますが、米兵の犯罪に免責を与えるこのような協定は、アメリカは二国間協定として何本結んでいるんでしょうか。
○松島外務大臣政務官 アメリカ合衆国によりますと、約100カ国と二国間合意を締結しています。
しかしながら、このICCローマ規程の加盟国はこの100のうちの40でございます。そしてまた、主要な加盟国、EUの諸国すべて及びカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国などもこのような二国間合意は締結しておりませんし、我が国としても締結することは考えておりません。
○佐々木(憲)委員 昨年8月の米議会調査局の資料では、100本だということなんですね。
しかし、これは、アメリカの方針としては、加盟国、加盟国外にかかわらずどんどんやっていくんだ、こういう方針だというわけですね。
そうなりますと、一方でこのICC加盟国が広がって網の目が細かくなっていく。同時に、アメリカ自身が網の目をどんどん広げている。骨抜きが進んでいるというとんでもない話であります。
これは外務大臣にお聞きしますが、まさに今日本が加入しようとしているこのICCの訴追逃れの仕組みをアメリカ自身が広げる、この動きは真っ当なものではないと私は思うんですが、大臣どうお考えですか。
○麻生外務大臣 基本的には、我々としては、このICCという新たなものがきちんと施行というか作動するように、入った以上はやらなければいかぬというのは当然のことであります。
また、その他の中において、それぞれの国によっていろいろな動きがあるというのはある程度やむを得ないところだとは思っていますが、先ほど山口先生にもお答えいたしましたように、基本的にこういったものがきちんと作動するようにするためには、アメリカもこれに入った方がアメリカの国益にも沿うのではないかという点が一番大事なところなんだと思っております。国益に沿わないことはやりませんから、みんな。だから、そういった意味では、入った方が国益に沿うんだという実態をきちんと証明していくということの方が大きな効果があると存じます。
○佐々木(憲)委員 骨抜きの動きが強まっているわけでありまして、それに対しても何か物を言わなきゃいけないと思いますよ、抽象的なことではなくて。
日本の役割というのは、そういう意味でも非常に大きいと思うんですが、例えば、アジアの点について聞きますと、外務省の説明によるとアジアの署名国というのはまだ少ないということでございますが、大洋州を除いてアジアに限定いたしますと、署名をしている国はどこでありますか。
○松島外務大臣政務官 アジアの中で署名している国は、カンボジア、モンゴル、韓国そしてタジキスタン、東ティモールでございます。
○佐々木(憲)委員 アジア全体としては、比較的出おくれているわけであります。
外務省は、アジアの重要な一員である我が国による締結はICCをより普遍的なものにするために重要である、こういう説明をされています。この立場に立つなら、やはり日本はもっと早く批准すべきだったし、規程をアジアに広げる努力をすべきだったと思うんですが、おくればせながら加入するわけですけれども、アジア諸国の中で、積極的にこのICCの加盟を促進する、そういう外交的な姿勢を見せている国はありますか。
○松島外務大臣政務官 自国について、今入っていないけれども、熱心にやろうとして、これから取り組もうとしているのはインドネシアがございますけれども、対外的に向けて責任を持って加入を進めていっているというのはまだ余り承知しておりませんで、日本が入ってから、日本がとにかくリーダーシップをとって頑張っていきたいと思います。
○佐々木(憲)委員 そういう意味で、日本が、おくればせながらこれに加入をして、積極的な推進の立場に立っていくということは大変重要だと思うので、最後に、外務大臣のアジア外交における面での決意をお聞きしたいと思います。
○麻生外務大臣 今アジア大洋州入れて60カ国ぐらいだと思いますが、ちょっと大洋州の方は正確にあれがないんですけれども、アジア大洋州で60カ国中12カ国が加盟しておると思っております。ほかの地域に比べて、ヨーロッパなんかに比べて圧倒的にそこらのところは少ないというのは、現状確かだと思います。
そういった意味では、これは、日本が入ることによりまして、日本も入ったのかという形になって、分担金もかなりのものになりますし、いろいろな意味で、先ほど山口先生から人も出せというお話が出ていましたけれども、人も出す、裁判官も出します、何も出しますという形で、いろいろな形でこの部分で貢献をしていくところは大きい、私どももそう思います。
○佐々木(憲)委員 以上で終わります。