2005年03月18日 第162回 通常国会 財務金融委員会 【290】 - 質問
「途上国の自主性を尊重した貧困克服戦略への転換を」IDA増資法案質疑で佐々木議員
2005年3月18日財務金融委員会で、佐々木憲昭議員は、世界銀行グループの一員である国際開発協会(IDA)の増資に応ずる法案について質問しました。
昨年末のスマトラ沖地震・津波で20万人以上が犠牲となり、150万人が家や仕事を失ったと言われ、特に被災各国の最貧困層が大きな被害をこうむりました。
これまで、世界各国からの緊急支援活動が続けられてきましたが、今後は、これを復興のための取り組みへと移行させるため、IDAは、6億6000万ドルを拠出することになっています。
佐々木議員は、「世界銀行は、復興活動を進めるにあたって、どのような指針をもっているのか」と質問。
これ対し、財務省の井戸清人国際局長は、(1)復興のプロセスを「被災国が自主性をもって進める」こと、(2)復旧プログラムの立案に地域社会を参画させること、(3)復旧の目標を被災前の貧困レベルの再現とはしないこと、と答えました。
次に、佐々木議員は、IDAが国連の貧困克服の方針に沿って、発展途上国の自主的計画を尊重する方向に変わってきたことは、注目に値すると指摘しました。
しかし最近、アメリカが、2005年5月に退任するウォルフェンソン世銀総裁の後任に、ウォルフォウィッツ米国防副長官を擁立し、日本政府は早々と支持する立場を明らかにしています。
ウォルフォウィッツ米国防副長官は、新保守主義派(ネオコン)の代表格でイラク戦争を主導したといわれています。
この人物については、ヨーロッパや途上国から強い反発を招くおそれがあります。
佐々木議員は、総裁が交代しても「画一的な政策を押しつける構造調整融資からの脱却の流れを止めてはいけない」「返済困難な貧困国へのグラント(無償資金)供与は重要だ」と指摘。
これに対し、谷垣財務大臣は、「途上国の自主性を重んじ、長期の発展を支援する」と答えました。
議事録
○佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭です。
提案されておりますIDA増資法案についてお聞きをしたいと思います。その特徴とIDAの最近の変化、これを確認したいと思います。
まず目的でありますが、昨年末のスマトラ沖地震・津波、これで20万人以上が犠牲になりまして、150万人が家や仕事を失いました。特に被災各国の最貧困層が大変大きな打撃を受けたというふうに聞いております。これまで世界の緊急支援活動というのが続けられてきたわけですけれども、今後、これを復興するための取り組みに移行するということであります。その際、IDAは幾ら拠出することになるのか、その復興活動を進めるに当たって世銀はどのような指針を持っているのか、この点について確認をしたいと思います。
○井戸政府参考人(財務省国際局長) 世界銀行から、津波被災支援につきましては、6億6千万ドルが支援のために用意されることとなっております。内訳を申し上げますと、インドネシアに対しまして2億4600万ドル、モルディブに対しまして1400万ドル、スリランカに対しまして4億ドル。以上、計6億6千万ドルでございます。
○佐々木(憲)委員 この復興活動を進めるに当たって、具体的にどういう指針を持って行うのかという点について答弁がなかったのですが、お願いします。
○井戸政府参考人(財務省国際局長) 失礼いたしました。
世界銀行といたしましては、この支援を進める上で特に三つの点を重視いたしております。一つは、復興のプロセスを被災国が自主性を持って進めるいわゆるオーナーシップ。それから、復旧プログラムの立案に地域社会を参画させること。それから、復旧の目標を被災前の貧困レベルの再現とはしない、より以上、よりよい状態に持っていくという、この三点が世界銀行の指針とされております。
○佐々木(憲)委員 2000年に国連が採択したミレニアム開発目標というのがありますが、ことしの九月にその進捗状況について中間レビューが行われるということです。今回のIDAの第14次増資というのは、それとの関連でどのような方向づけが行われようとしているのか、それを示していただきたい。
○井戸政府参考人(財務省国際局長) 今回の第十四次増資に当たりましては、各国のパフォーマンス、政策の実施状況でございますが、これに応じてその支援の半分をアフリカに向けること、それで、その結果として、アフリカが直面する類を見ない開発の難題に対処することに特別の重点を置いております。そういった点から、IDAは、いわゆるミレニアム開発目標をめぐる先進国と途上国との間のパートナーシップの主要な支援者という役割を果たしていきたいというふうに位置づけられております。
○佐々木(憲)委員 そこで大臣にお伺いしますけれども、それぞれ支援をする場合、各国の自発的な計画づくりというのが非常に大事だと思うのです。先進国が自分で考えた政策を無理やり押しつけるというのは、これはよろしくないと思いますね。
今、すべてのIDA融資対象国81カ国に対して、貧困削減戦略ペーパー、PRSPというものの作成が要請されているそうです。これは、これまでのコンディショナリティーによって特定の政策へ誘導したり枠をはめるというやり方を見直そうということだそうでありますが、私はその方向というのは大切なことだと思っております。
日本としてこのPRSPを援助するのは大変大事だと思うのですけれども、自分たちで自発的につくれるようにやっていくというのはなかなか難しい面もあるわけです。自発的にそういう条件をどう整えていくか、そこに日本がどう支援するかというのが大切だと思いますが、日本政府としての基本的な考え方を示していただきたい。
○谷垣財務大臣 基本的に、今佐々木委員のおっしゃったような考え方で臨むべきでないかと私も考えております。やはり途上国の自主性を尊重しながらやっていく。これは世銀の方針でもあると思っております。そのために、今おっしゃった貧困削減戦略、PRSPと言っておりますが、それを途上国がそれぞれ自主性を持ってつくってくれということで、その実行を支援するために世銀が融資とか技術支援を供与する、こういう形で今やっているわけです。
ただ、一番の問題点は、そういうものがなるほどぴしっとしたものができる国ばかりであればいいんですが、必ずしもそういった戦略を自分でつくって管理をしていくという能力が十分できていないところもあるわけでございますので、途上国自身のそういう能力をどうやったらバックアップして育てていくことができるかというような観点からの支援も考えていくという点がポイントの一つになるんじゃないか、私もそう思っております。
○佐々木(憲)委員 昨年8月に、世銀は、今までやってきた調整融資という考え方をやめまして、開発政策融資へ変更するということを決めたというふうにお聞きをしますが、なぜそのような決定を行ったのか、その理由はどこにあるのか、これをお聞かせいただきたいと思います。
○田野瀬財務副大臣 委員おっしゃるように、昨年の8月に開発政策融資という新たな手法が導入されたんですが、この理由は、途上国の自主的な改革実行のペースに合わせて支援を行うということが非常に大事であるということから、借入国が一定の政策を実行する都度組成される開発政策融資ということになってきておるところでございます。
○佐々木(憲)委員 これまでよく言われてきたように、構造調整融資ということで外側から画一的な政策を押しつけるということは、これは評判が悪いし、またなかなかうまくいかないということだったわけであります。これは大きく転換をするということが私は必要だと思うんです。
ことしの5月にウォルフェンソン世銀総裁が退任をされるということで、先ほども議論がありましたが、ウォルフォウィッツ米国防副長官を擁立して、先ほど大臣は日本はそれを支持するんだというお話がありました。このウォルフォウィッツ米国防副長官というのは、新保守主義派、いわゆるネオコンというグループの代表格で、イラク戦争を主導したと言われているわけです。この人物については、ヨーロッパあるいは途上国からも非常に強い反発を招くおそれがあるわけです。
今大臣が確認をされました、画一的な調整融資の政策を各国の自主的なあるいは各国の計画に基づく方向に大きく転換する、しかもその内容を貧困削減という方向へということが大きな流れになっているわけでありますが、仮に新しいウォルフォウィッツ世銀総裁が誕生するなどということになりますと、その流れがまた逆流するのではないかという懸念を抱くわけです。
この点について、今、構造調整融資から開発政策融資ということに大きく転換するという答弁がありました。その流れというのは今後とも変わらないのか、あるいは総裁がかわったことによって何らかの変化がまた生まれるのか、その点についてどうお考えか、お聞かせいただきたいと思います。
○谷垣財務大臣 まだウォルフォウィッツさんの就任が正式に決まったわけでもありませんので、何ともこれは申し上げにくいんですが、過去、世銀の総裁を長くおやりになった、あのウォルフェンソンさんも10年おやりになったんですかね、それから長い方ではマクナマラなんという方も十数年おやりになって、世銀の歴史を振り返ってみますと、それだけおやりになりますと、なるほど、それぞれの色合いというものが出てきますよね。ですから、今それがどういうふうに出てくるかは予断ができませんけれども、当然、新しい総裁のリーダーシップのもとで何らかの方向づけというのはなされるんだろうとは思いますけれども、世銀という機関から見て、それぞれの機関の自主性を重んずるということがなくなってしまいますと、なかなかそれはかゆいところに手の届く援助にはならないんじゃないか。
これは、実は日本も非常にその点では、ODAの世界といいますか援助の世界では、それぞれの国の自主性、それぞれの国が長期に発展できる体制をどうやってとっていくかということは、かなり日本としても意を用いてきたところでありますので、今後とも、世銀としてはそういうようなことを基本的に頭の中に置いて行動していただくことを私は期待しております。
○佐々木(憲)委員 第11次増資以後、グラント供与、無償資金供与が認められる。これは、融資ばかりですとなかなか返済が難しいということで、そういう供与も認められるようになったというふうに聞いておりますけれども、やはり途上国、特に貧困問題を抱えている国々というのは経済的にも非常に深刻な状況にありますので、それを自主的な、自発的な内容を尊重しながらやっていくということは大変大事なことなんで、これはだれが総裁になろうと、この流れというのは大いに促進するということが大事だというふうに私は思っております。
そこで、最後に、日本政府の従来の支援の内容というのは、どうも経済的インフラといいますか、例えば道路ですとか、あるいは橋ですとか港湾ですとか、鉄道、空港、発電所、送配電設備、ガスパイプライン、電気通信施設等々、これは非常に大きな大型のプロジェクトを中心とした投資というものにどうしても力点があったのではないかと言われております。この方向というのは、国連のミレニアム開発目標、つまり貧困削減という目標と比較しますと、かなりアプローチが違うわけであります。そこで、貧困削減という世界の流れを日本としてもさらに加速するということが大事だと思いますので、先ほどもちょっと議論があったようですけれども、無用の長物をつくって環境を破壊して後は知りませんよというのじゃ困るわけです。そういうことのないように、世界の批判を浴びないように、そういう意味でも現地の実情、現地の住民の要望をきちっと踏まえて対応するということが今後とも大事だと思いますけれども、大臣の決意をお聞かせいただきたいと思います。
○谷垣財務大臣 今の御議論は、借款みたいなものを多用するのかグラントを多用するのかというような、ODAのあり方、開発援助のあり方の手法にも関連してくると思うんですね。
それで、今佐々木委員がおっしゃいましたように、長期の借款、極めて低利な長期の借款をやって経済的インフラを整備するというようなことを、こういうマルチの機関は別として、バイでやっている国は、代表的な国が日本でございまして、余りほかではそう多くないんですね。これはしかし、私は、アジアや何かを底上げしてくるときには相当有効に働いた面もあるんだと思っております。したがって、すべてがグラントでいけるとも思っていないんですが、今度のIDAの増資の対象は非常に貧困な国も多いものでございますから、そういうところも長期に見てどうしていくかという視点ももちろん大事でございますが、他方、グラントみたいなものも適切にやっていくことが必要なんだろうと思います。そこはやはり柔軟に見てやっていかなきゃいけないんではないかと思っております。
○佐々木(憲)委員 やはり貧困克服というような方向を重視すると。余り大規模開発、大型開発というところに目が行くようなことではなくて、その住民に支持され、世界の平和と貧困克服の方向に沿う方向で大きく政策も転換していただくということを要望しまして、終わりたいと思います。
ありがとうございました。